ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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 申し訳ありません。夢見たメイドの前に一話入るのをすっかり忘れていました……。

 にじファン方付き合ってくださっている方はお分かりでしょうが、ライナが壁直さなければならなくなった原因の事件です。


最強? 最狂? とにかくすごいぜ槍使い!!

  夜のトリステイン魔法学院にて、一人の男が首飾りを手にぶら下げながらぐったりとした様子であるいていた。時刻は深夜。普段は教室や食堂へ行き来する生徒たちであふれているこの廊下も、今は誰もおらず静まり返っている。

 

「うぁ……しまった。集中しすぎた……」

 

 そんな静かな廊下を歩きながら、男――ライナ・リュートは己が信念を曲げてしまったことに悪態をつきながら、自分の部屋へと向かうのだった。

 

 一日、72時間……眠れますか? が標語の彼がなぜこんなところにいるかというと……それは昼間に、フェリスが呟いたある言葉が原因だったりする。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 あれから順調にメイジ魔法に関しての造詣を深めていったライナ。あの魔法陣のおかげで魔力に関しては足りなくなったら空気中の精霊を変換させて補充すればいい彼のメイジ魔法には打ち止めというものがなく、好きな時に好きなだけ魔法が使える。

 

 そのため、魔法の使用を躊躇しなくてもいい彼はバンバン魔法を使い、魔法の習得を速めていった。

 

 そんなある日のことだった。いつものようにロングビル監修の元、魔方陣を使って風のトライアングル級の魔力を身に宿し『この状態で空を飛んだらどうなる?』というちょっとした興味本位の実験を行おうとしていたライナに、その様子をダンゴをほおばりながら眺めていたフェリスが呟いた。

 

「ああ……そういえばライナ」

 

「んぁ? なんだフェリス? 今制御に集中しているから手短にな」

 

「エルザのやつな……」

 

「うん」

 

「勇者の遺物らしきものを持っているぞ?」

 

 驚きのあまり制御に失敗したライナがお星さまになったのは言うまでもない……。

 

 数時間後……なんとか落下による人間ミンチになることは免れたのか、ずぶぬれになったライナがちょっとした木の棒を杖代わりにつきつつ戻ってきた。どうやら池に落ちたらしい。

 

 そして、彼が開口一番に告げた言葉は、

 

「え……?」

 

 

 ……どうやらまだ現実が認識できていないようだった。

 

「だから、エルザが遺物らしきものを持っているといっている」

 

「いや……それってあの黒ずくめが持っていた黒叡の指輪的な?」

 

「お前がアルビオン帰りに言っていた四つの指輪のことか? あいにくながら違う……だが、かなり不吉で危険な道具だ」

 

 無表情のフェリスの顔にほんの少しだけ険が宿る。どうやらライナが知らないところでその遺物に厄介な目にあわされたらしい。

 

 長年の付き合いでそのことを悟ったライナも、ほんの少しだけ緊張を浮かべた表情を見せ、

 

「うぇ~。マジメンドクセェ……てことは他にも遺物があるかもってことだろ? つまりここでも遺物探ししてできることならレポート書いてローランドに送る必要があるってことだろう?」

 

「あぁ……。遺憾なことにその通りだ……。ここに奴の目は届かないから、言わなければ大丈夫だが、万が一にもばれてしまった時のリスクが計り知れない。もしばれてしまったら……」

 

「ばれてしまったら……」

 

 俺(わたし)の大切なもの……ダンゴ&睡眠時間がまた削られる!! 元いた世界でライナたちの帰りを虎視眈々と待ち『あはっ? 勝手にいなくなるなんて、ライナちゃんたちはまったくも~ホントにしょうがないな♡ これはもう帰ってきたときに帰還おめでとうの意味を込めて6ヶ月ぶっ続けのお仕事マラソンを開催してやらないと♡』と笑っている銀髪金眼の悪魔の顔が瞬時に過り、二人の顔が引きつった(フェリスは本当にちょっとしか動かしていないが)。

 

 彼らは別に遺物が危険だからどうとかではなく、純粋に彼らの上司(シオン)の逆鱗に触れてしまうことを恐れたのだった。

 

「なんだい? その遺物って? 金目のもんかい?」

 

 二人の尋常ならない怯えようにやや引きながら、ロングビルは本能に忠実な質問をぶつけてくる。

 

「お前は本当に盗賊癖が抜けないよな……」

 

「うっ……。仕方ないじゃないか。半生をこれで生きてきたんだから……」

 

「ほう、なるほど。さすが三流美人は生き方からして三流だな……。まさかこの変態色情狂(したぎどろぼう)のご同類だったとは」

 

「……死ぬ覚悟はできてるんだろうね?」

 

 びりびりと肌を震わせるような強烈な殺気を放ちながら杖を構えるロングビル、

 

「いいだろう。この勧善懲悪美少女天使フェリスちゃんがきさまを浄化してやろう」

 

「いや……もういいけど、ここに置いてある魔術論文とかは傷つけんなよ?」

 

 もう日課となりつつある二人の喧嘩に、ライナはため息をつきながら数冊の本を安全圏へと移動。ライナの世界の魔法の試し打ちを兼ねた模擬戦を行っているエルザとサイトに向かって歩き出した。

 

「あ、やった……やっとできた!! 我契約文を捧げ……」

 

「遅いっ!!」

 

「なっ!? う、うぅうううううううううう!!」

 

 エルザは、何やらサイトに苦戦している様子だった。もとより精霊が見えていた彼女は魔法を覚えるのに一番時間がかかる精霊の視認というステップはすぐにクリアできたのだが、問題なのは精霊の配列が絶望的に遅いことだった。慣れていないからなのだろうが、一つの魔法を完成させるのに一分近くかかっている。これでは戦闘には使えない。

 

 当然のことながらフェリスに鍛えられて、ガンダールヴの力も合わさり高速戦闘を戦闘スタイルにしはじめたサイトが相手では、その程度の構築速度で対抗しようなど片腹痛いわけで……。

 

「ふははははは!! 吸血鬼、おそるるに足らず!!」

 

 サイトは調子に乗っていた。エルザは先住魔法を封じ、ライナの世界の魔法しか使っていないからサイトに勝てないだけであって、本気を出して部分反射まで使いだすと今のサイトでは勝てないことを彼は知らない。

 

 だがしかし、エルザは強かだった。今の状態でも勝てる方法を彼女は知っている。

 

「ルイズおねぇちゃぁあああああああああん!! サイトがいじめるぅうううウウウウウウ!!」

 

「ちょ、おまっ!?」

 

「小さい子苛めてんじゃないわよ!!」

 

 エルザがぺたんと尻餅をつき突如号泣。その泣き声の合間にルイズの名前を挟むことによって、ライナの奮闘により、すっかりエルザを気に入ったルイズがバーサーカーとして召喚された。

 

 ルイズが言うには『うちは姉ばっかりだったから……こういう妹がほしかったのよね~』とのこと。どういうわけかそれを盗み聞きしていたエルザは、しっかりとルイズの前では猫をかぶり順調に好感度を上げていたのだ。

 

 結果……サイトはルイズの今日のパンツの観賞を代償に、その顔面に美しいドロップキックを喰らい宙を飛んだ。

 

 いつものフェリスに殴られた自分のように錐もみ状に回転し吹き飛ぶサイト。その姿を見たライナは思わず顔を引きつらせるが、今ようがあるのは彼ではないので放置することにした。

 

「ごめんねエルザちゃん!! いたくなかった? サイトにはあとできつく言っておくからね!!」

 

 地面に倒れ伏して動かないサイト。どうやら意識が刈り取られてしまったらしい。地面にあふれる真っ赤な液体はきっと血液ではないと思いたい。

 

 いやいや……あれ以上何を言い聞かせる気だよ? と、ライナは内心でツッコミを入れる。

 

 そんなライナの感想も知らずに、ルイズは泣き続けるエルザを抱きしめた。

 

「うわ~ん。怖かったよルイズおねぇちゃ~ん。サイトが……サイトが、一生懸命作ったエルザの魔法を壊しちゃった~」

 

「なんですって!? ホント酷いことするわねあいつは!! これはもう言葉じゃ足りないわ! 折檻よ!!」

 

 お前らの折檻風景って若干倒錯的だから、エルザの前でいうのはどうかと……。サイトを犬扱いしながら鞭でたたきまわすルイズの姿を思い出しライナはさらにげんなりする。しかも、ふらふらと立ち上がったサイトに向かって、ルイズには見えないように舌を出すエルザがの顔が見えて、さらにげんなり。

 

 怒りに震えるサイト。喜色満面といった顔でそれをあざ笑うエルザ。フェリスとライナの弟子であるこの二人はどうやら犬猿の仲になったようだった。

 

「お~い。ルイズ~ちょっとエルザ借りていい?」

 

 まぁそんなことはいまのライナには関係ないので、流すことにする。今重要なのはエルザが預かっているという遺物らしき首飾りだ。

 

「っ!? あんなあぶねーもんいったい何する気……ですか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間エルザの瞳が鋭くなり語調も荒くなるが、ルイズが不思議そうに首をかしげるのを察知した彼女は慌てて猫をかぶりなおした。

 

 ……案外ルイズがこいつの本性を知るのは早いかもな。内心でそんな予想をしながら、ライナは事情を話しエルザから首飾りを譲ってもらうのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 とまぁ、そんなわけで元の世界に帰った際にシオンに出すレポートを作成していたライナは、久しぶりの『勇者の遺物』解析につい夢中になってしまいこんな時間まで図書室にこもってしまったのだ。

 

 学園を囲む森からフクロウの鳴き声が聞こえる。ホーホーという声に『お前らこんな夜中に起きててよく平気だな。俺なんて夜のもうこんな時間まで起きちゃってたこと自体が奇跡なんだぜ? いや、奇跡っていうか異常事態なんだぜ? もうお前ら明日には世界が亡んじゃうくらいの事態なんだぜ?』とラチもないことを呟きながら、自分の桃源郷(しんしつ)へと急ぐ。

 

 そこでは愛しい愛しい(まくら)愛人(フトン)が彼の帰りを待ってくれているのだ。これ以上時間をかけるわけにはいかない!!

 

 そんな風に珍しくやる気に萌えた彼の内心を反映するかのように、日本の足はゆっくりと……しかし着実に彼を部屋へと運んでいく。

 

 そして、

 

「あ゛~。マジで眠い……ヤバイ死ぬかも」

 

 寝室に到着した彼は、感極まったかのように扉を開け部屋に入ってすぐのところに広がるベッドへとその身を投げ出した!!

 

 フッかフッかの羽毛布団。ライナがかけた体重をゆっくりと吸収する低反発枕(魔法にて制作)。そのすべてが疲れ切ったライナの身を癒すために彼の体を包み込んでくれる。

 

 あぁ……。お前らはやっぱり最高だよ。ほんと、この優しさをあの暴力無表情悪魔チックダンゴ娘にも見習ってほしいな……。

 

「と俺は思うわけなんだけどどう思うフェリス?」

 

 そんな風に布団に寝転んだライナは、そのまま顔を横に向け首都のバザーにて二束三文で買い取ったクローゼットへと視線を向けた。

 

 そこから……気配を感じたから。

 

 極限まで薄められ素人ならまず気づかないほどの薄い気配。しかし、暗殺者として……殺戮兵器として育てられたライナにとって、その隠行はあまりに稚拙だった。

 

 だが、この世界では、これほど気配を薄くできる人間はいないとライナは知っている。かろうじて以前軍人だと見抜いたコルベールあたりができそうだが、今は昼行燈の教師となっている彼がここまで気配を消してライナの部屋に侵入するとは考えにくい。

 

 だからライナは、この気配を……あえてわずかに気配を漏らした相棒(フェリス)が何らかのいたずらを仕掛けるために放っているのだと判断した。

 

「あのさぁ……俺久しぶりに仕事して疲れてんだぜ? 朝早くからマチルダやエルザが起こしに来るから寝坊もできないしさ……。もうほんとこのまま爆睡して52時間ほどぶっ続けで寝ときたいわけだよ昼寝王国総理大臣としては」

 

 いつの間にか称号が変わっているがライナにとってはそんなもの関係ない。睡眠マスターのライナにとって、いま何よりも優先するべきなのは睡眠をとること、それ以外のことなど些事なのだ。

 

 だから、

 

「お~い。あんまりしつこいと俺このまま寝ちゃうぞ? 早く出て来いって~」

 

 ライナは寝ころんだまましつこくクローゼットに隠れ続ける相棒に呼びかけた。近づいてしまってはアウトだ。間違いなくあのフェリスの意味不明フェリスワールド的罠に引っかかってしまう可能性が高い。

 

 だがしかし……。

 

「…………………」

 

 ライナがいくら待ってみても、クローゼットからは物音一つしなかった。

 

 どうする? と、ライナはうめき声を上げる。このまま無視して寝るのは簡単だ。だがそんなことをすれば、イタズラに引っかからなかったライナに対してフェリスがどんな仕打ちをするかわかったものではない。おまけにライナは睡眠中。何をされたって気づけないのだ……。

 

 そんな危機的状態で安眠などできるか? 否……否である。そんなことをしたら、翌朝の学園のごみ集積場でライナの生首が見つかってしまう可能性のほうが高い!!

 

 だったらどうする? 眠気で働かない頭を必死に動かし、ライナはとりあえずエスタブールのリミッター解除の魔法と、フライを最小限にかけることによって体重を極限まで軽くし移動速度を上げる。

 

 こうすることによって、もし罠にかかってしまっても全力で回避できる状態を作り出す。

 

 成功した。魔法の制作の間、邪魔ははいらなかった。それほど今回の罠に自身があるのか……。緊張のあまり息をのむライナ。しかし、安眠のため……彼はもう止まることはできない!

 

 スルリと……音を立てずクローゼットへと接近するライナ。暗殺者時代の全力の気配隠蔽を行い、自分がクローゼットに近づいていることをフェリスに気づかせないようにする。

 

 今回の敵はあのフェリス。ほんの少しの油断が命取りだ……。だからこそライナは油断しない。ゆっくりと、着実に……ライナはクローゼットとの距離を詰める。

 

 そして、クローゼットの前にたどり着いた彼は、

 

「いい加減にしろ、フェリス!!」

 

 勢い良くクローゼットを開けて、

 

 

 

 

 

 この世の地獄を目撃した………………。

 

 

 

 

 

 

 中には確かに人がいた。しかし、それはライナが予想していた相棒ではなかった。

 

 ライナと同じ黒髪でありながら、キレイに整えられた美しい髪。まさしく好青年を絵に描いたような美形面。その眼は、いまは閉じられており規則正しい呼吸音が聞こえる。どうやら眠っているらしい。

 

 そして彼の手には、

 

「むむっ!! ようやく帰ってきたか!! (マスター)、魔術師めが帰ってきましたぞ!!」

 

 眠っている主人の頬をたたき、必死に起こそうとしている頭にナイフとフォークがついた豚の縫いグル……。

 

「っ!」

 

 そこまで認識した瞬間、ライナは勢い良くクローゼットのドアを閉めた。そして即座に魔方陣を展開。

 

「求めるは魔力>>>四力印(しりょくいん)!!」

 

 そしてライナにまとわれる圧倒的な量の魔力。スクウェアどころか、一人では到達できないとされるヘキサゴンほどの量はあるのではないだろうか?

 

 ライナはその魔力のすべてを、

 

「ロック!!」

 

 コモンマジックである《ロック》につかった。本来ならこの魔法は、鍵を閉めるだけの簡単なコモンマジックであるはずだが、ライナが使ったこの魔法にはライナの世界の封印概念すら追加されている。

 

 すなわち、鍵がない扉でも強固な封印を施し、開かなくすることができるのだ。

 

 このコモンマジックを見つけた時のライナの歓喜は、まさしく狂喜乱舞といっていいものだったが(部屋の入り口にこれをかけてさえおけば、フェリス達に邪魔されず昼寝が可能だから)、内側からも外側からもあかなくなるという致命的な欠点を見つけてしまい、今では禁呪指定をかけ使わなくなった呪われた魔法だ。

 

 すなわち、このクローゼットは永遠に扉を開けることができない開かずのクローゼットと化したわけだが……。

 

『あ、ぶーちゃん。おはよう。なに? ライナさんが帰ってきた!? それは大変だ、早く話を聞いてもらわないと!! って、あれ? ドアが開かない?』

 

 クローゼットの中から聞こえてくる声の主を封印できたことを考えると、必要な犠牲だとライナは頷いた。

 

「いや~。それにしてもおれよっぽど疲れてんのかな? だってこの世界にあいつがいるわけないじゃな~ん……。まったく、夜更かししたから昼寝神様が怒っていらっしゃるんだな? すいませ~ん昼寝神様。俺が悪かったです!! もう二度と仕事に明け暮れて夜更かししたりしません!! これからは常に睡眠をとり、隙あらば昼寝を行うことをここに誓います!!」

 

 それはもう、まごうことなくダメ人間宣言だったが、この場にライナにツッコミを入れてくれる人間はいない。

 

『あれ!? あれ!? 何であかないんだ!? ぶーちゃん!!』

 

『あいわかった(マスター)!!』

 

 ライナの不安をかきたててくる人間(?)ならいるが……。

 

「ははっは……。これはまいったな~。とうとう幻聴まで聞こえてきたよ……。はははっ……やっぱり夜更かしは俺の天敵だな~」

 

 あくまで現実逃避を続けるライナ。だがしかし、神……この世界でいうならブリミルだろうが、彼であってもこんな理不尽な相手を呼び込んでしまったことに関するもんくを言われても困りそうなので、この場合はライナの世界の神様……は非情だった。

 

『スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!』

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

「えぇ……。もう勘弁してよ……」

 

 ちょっとだけ涙声が混じったライナの懇願は聞き届けられず、クローゼットの中からあふれだした光がロックの魔力を無理やり粉砕し、クローゼットの扉を吹き飛ばした!!

 

 それだけでは飽き足らず、ライナの部屋を横切った閃光は――どうやらそこから侵入したと思われる――開き切ったライナの部屋の窓から飛び出した。そして、最近修理が終わり新しくなった宝物庫へとつきたちその壁を爆散させた!!

 

 フーケの侵入があったため、あの壁の厚みは以前の三倍。かけられた固定化の魔法はスクウェア300人分の魔力を注ぎ込んで強化されたといわれたのだが、その話がまるで嘘か何かのように、宝物庫の壁はボロボロに粉砕されていた。

 

「どうですかライナさん、貴方たちがいなくなってから再び会いまみえて再戦をすると誓い、日々改良を重ねた最強の槍……ぶーちゃんマークⅢδ(デルタ)の威力は!! はははははは! 驚きのあまり声も出ませんか!!」

 

 宝物庫が爆撃されたと気付いた宿直の教師が悲鳴を上げて騒ぎ出す。それを聞きつけた学園教員や生徒たちが集まり、宝物庫の前には見る見るうちに野次馬が形成されていった。

 

 その光景をしばらく呆然と見つめていたライナは、ギリギリという音が聞こえてきそうなゆっくりとした速度でその光景を生み出し人物(ばけもの)のほうをふり返り、

 

「てかもうそれ……槍じゃねェえだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 いつものようにツッコミを入れた。

 

 だからこそライナは気づかなかった。ぶすぶすと煙を上げ、もう使い物にならないだろうなぁと思われるクローゼットの中から一枚の紙がひらひらと落ちてくるのを……。

 

 そこには、宰相の印鑑と直筆のサインとともに、ほとほと困りきったような印象を受ける文面が描かれていて……。

 

『お前の国の王との契約は成立した。だがこんなやつを送り込まれても困る……お前たちで何とかしろ』と……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 時は数時間前にさかのぼり……トリステイン王都・王宮内にて。

 

「変な旅人に助けられた?」

 

「はい……」

 

 何とも言えない顔でアルビオンの偵察から帰ってきたマンティコア隊隊長の報告を、謁見室で聞いていたアンリエッタは不思議そうに首をかしげる。

 

 近々アルビオンを包囲して兵糧攻めを行うトリステインは大々的に空軍の増強と、それに伴う兵力の増強を行っていた。

 

 バーシェンが言う「メイジ殺し」という戦士たちを徴用したり、戦で功績をあげれば『シュバリエ』の授与を行う用意もあると市制に発布したり、明らかにスケスケな戦力増強を行っていたのだ。

 

 表向きは『大々的な軍事改変が目的であり、決してどこかに戦争を仕掛けるわけではない』と発表しているが、そんなもの信じる国はどこにもない。そして、むしろそれが狙いだとバーシェンは凶悪に笑いながら言っていた。

 

 ちなみにその理由はアンリエッタには教えられていない。最近すっかりラブラブになったウェールズは大まかな理由の見当はついているらしいが、こちらも教えてくれなかった。「君は(お前は)王になるんだから、これくらいはわかるようになってもらわないと……」というのが二人の言。ちなみに、真っ先に頼ったマザリーニからは「このくらいもわからないとは嘆かわしい!!」と小言を喰らい、事が起こる前にこの政策の狙いと、それによって発生するであろう他国の動きを予想したレポートを書くようにと怒鳴られてしまった。

 

 どうやら彼らは本気で自分を王にするつもりらしい。以前とは違う、明らかに期待がかけられている態度を嬉しく思いながらも、もうちょっと初心者の自分に優しくしてくれてもいいんじゃないか……と、最近めっきり厳しくなった家臣たちの態度が、最近のアンリエッタの悩みだった。

 

 それはともかく、

 

「でしたら、ぜひ王宮に呼んでください。貴女を助けてくれたお礼と褒賞も渡さなくてはなりません。なにより、今はメイジだろうが平民だろうが、身元がしっかりしていなかろうが、実力がある人ならぜひともトリステインに力を貸してほしい状況です。引き込めそうならこちらに引き込みたい……」

 

 バーシェン卿ならこういうでしょう、と内心であたりをつけながらほんのちょっと威厳を含ませた声で指示を出すアンリエッタ。

 

「急造だからこそ頭が少し足りんのは仕方がない。だったらまずは形からだ」と辛らつに言ってくれたバーシェンの手によってこの一週間でみっちりと叩き込まれた『王らしい態度』の勉強による成果が地味に出ていた。

 

 まぁ、女王ということもあって厳しさよりも優しさがあったほうがいろいろと効果的というマザリーニの意見も取り入れられたためか、それ以上の厳しい態度を求められなかったのが僥倖といえば僥倖なのだろうが……。

 

「それが……そのもの、少し不思議なことを言っておりまして。なんでも、『ローランド帝国』という国からやってきた使者だと申して居るのです」

 

「はい?」

 

 ローランド帝国? 聞いたこともない国の名前にアンリエッタは思わず態度を崩し、彼女らしい無垢な声でそう漏らしてしまう。

 

 それと同時に、今日の分の書類仕事を終え決済を求めにやってきたバーシェンが謁見室に遠慮なく入ってきて、その返答を見事に聞いてくれた。

 

 しまった! とアンリエッタが思う。いや、まだ聞かれていなかったかも!? と、きわどいタイミングで入ってきたことに関しての一縷の望みを託すアンリエッタだったが、その望みは怒気まじりの笑顔を浮かべて「後でお説教な?」と口パクいってくるバーシェンによって木端微塵に打ち砕かれた。

 

 突然絶望にうなだれるアンリエッタを見て、驚くマンティコア隊隊長。そんな彼に背後から歩み寄ってきたバーシェンが言葉をぶつけ、話を進めた。

 

「構わん。連れてこい」

 

「え? あ、バーシェン卿!? も、申し訳ありません!!」

 

 自分が入ってきたことに気づかなかったことを謝っているのだろう。マンティコア隊隊長の突然の謝罪の理由にあたりをつけながら、バーシェンは下らんことを気にするなといわんばかりに手をひらひら振る。

 

「どんなミョウチキリンなことを言っていようとその者に借りができたことに相違ない。他国の密偵だろうがなんだろうが、一度は恩義を返す格好を取らねばならんのだ。会わんという選択肢は我々にはない。だから連れてこい。時間は掛けるな。いまのトリステインは多忙だ……この程度の些事は早めに済ませておくに限る」

 

「は、はっ!!」

 

 自分の恩人の紹介を些事と言い切られたことに若干頬をひきつらせながら、泡を食って謁見室を出ていくマンティコア隊隊長。

 

 そして、その場に残されたアンリエッタは、自身に振り返ったバーシェンが一体どんな小言をいってくるのかとビクビクしながら待っていた。しかし、そんなアンリエッタの危惧とは裏腹にバーシェンは無言のまま、決済申請書類の束を置いた後、さっと身をひるがえし謁見の間の出口へと向かう。

 

「マザリーニとウェールズを呼んでくる。そいつが本当に他国からの使者なら少し面倒なことになりそうだからな」

 

 あれ? 小言は無しですか? ほっと安堵の息をつきながら、珍しく甘いバーシェンの判断に首をかしげるアンリエッタ。しかし、その安堵は、

 

「ただこれもいいイレギュラー経験だ。対応はお前が取れアンリエッタ。ただし、失敗したらどうなるか……言わなくてもわかっているよな?」

 

 後ろを向いているため全く表情が見えないバーシェンだったが、その声に含まれたナニかをしっかりと聞き取ってしまったアンリエッタは、ガクガクと壊れたからくり人形のように首を振り、冷や汗を流すのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そしてアンリエッタはいま困っていた。

 

 これに対していったいどういう対応を取ればよろしいのでしょうか?

 

 自分の左右に立っているバーシェンやマザリーニ、そして最愛のウェールズに質問の視線を投げかけるが、だれもかれもが勢いよく目をそらし返事を返そうとはしてくれない。

 

 自分を鍛えてくれるためと思いたいのですが、明らかに厄介ごと押しつけていますよね!? と、珍しく怒気がこもった視線をバーシェンにぶつけるアンリエッタ。しかし、相手は百戦錬磨の宰相だ。シレッとした顔でその視線を受け流すのを見て、アンリエッタは盛大なため息を漏らした。

 

 そして彼女は向き直る。自分の頼もしい宰相にすらどう反応するのか考えあぐねさせる、とても厄介な他国に使者に。

 

(おもて)を上げなさい」

 

 その声とともに、自分の前に片膝をついて礼の姿勢を取っていた青年が顔を上げる。整えられていた黒髪に、好青年を絵にかいたようなさわやかな甘いマスク。その顔にはこれまた完璧なさわやかな笑みがうかべられており、ウェールズとラブラブでなかったらアンリエッタは思わず見とれてしまっていたことだろう。

 

 彼の手に持たれている物体がなければの話だが……。

 

「私の大切な兵を救っていただいたそうですね。改めて感謝を申し上げます」

 

「もったいないお言葉でございます女王陛下」

 

 礼儀も言葉遣いも完璧だった。おそらくかなりの上流階級で育てられたことがうかがわれる。これで、他国の使者という彼の言葉が真実である可能性が増した。

 

 彼の手に持たれている物体がなければの話だが……。

 

「こ、こちらとしてはあなたに対する恩義に報いるために、褒賞を渡す用意がありますが……何か入用なものはありますか?」

 

「いえ。わたくしめは人として当然のことをしたまでです女王陛下。強いてあげるなら、あなたと謁見したいことでしたが、それはいま叶っておりますので……」

 

 そうやら本気でそう思っているらしい。一点の曇りもない眼できっぱりとそう言い切られてしまい、アンリエッタは少し驚き、バーシェンは感嘆の吐息を漏らした(もっとも、表情は相変わらず動いていないが……)。

 

 彼の手に持たれている物体がなければの話だが!!

 

「あ、あの……」

 

 もう我慢できなかった。おい……といわんばかりの視線を飛ばしてくるバーシェンを『貴方だって気になるでしょう!!』と睨みつけた後、アンリエッタはひきつった笑顔を浮かべながら彼が持っていたある物体を指差した。

 

「それは……なんですか?」

 

「これですか?」

 

 心底不思議そうな顔で「わかりませんか?」という感情を込めた声音で彼は答える。……その手にもった、ナイフとフォークが頭部に接合された豚のぬいぐるみを持ち上げながら。

 

「これは私が開発した史上最強の武器にして、至高の……槍です」

 

「うむ。まったく失礼な奴らだなマスター。私のどこをどう見たら槍以外のものに見えるというのだ?」

 

「まったくだねぶーちゃん」

 

「「「「……」」」」

 

 突然しゃべりだしながらトチ狂ったことを吐き散らす豚のぬいぐるみを見て、その場にいた全員の『槍』という概念がゲシュタルト崩壊を起こしたことは言うまでもないだろう……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そして時は戻り、騒然となる深夜のトリステイン魔法学院。シル主観の王宮に召喚されるまでの武勇伝を聞き流しつつ、ようやく発見したバーシェンからの手紙を読み終えたライナは思わず額を抑え崩れ落ちる。

 

 その手紙にはシルが王宮へと持ち込んだ親書の内容と、それに対するトリステインの対応が描かれていた。

 

『異世界……というものがあることは、私だけではあるがある程度の理解を示した。アンリエッタもマザリーニもかなり半信半疑だったが、とりあえず説得することは成功した。それで、本題のお前たちの王からの親書の内容だが……お前たちがこの世界に来た事情と(なんでも、魔術実験の失敗に巻き込まれたそうだな)お前たちの保護を頼んできた。どうやらその王はお前たちのことをかなり心配していたらしい。保護をしていただけるなら万難を排しても貴国に礼を尽くさせてもらうと親書には書かれていた。よほど大切にされていたようだな……。まぁ、うちとしてもとりあえずその要求を呑むのはやぶさかではない。ウェールズの一件もあるし、アンリエッタもその恩に報いることは大いに賛成した』

 

 ライナはその文章を読んで少し驚きの表情を見せた。ライナたちが旅をしている間は、隠密行動が必須条件だったため、シオン自らが親書をかくということはなかった。だが、さすがに行ったのが異世界とあってはシオンも動揺を隠しきれなかったようだ。どうやらいつものような隠密任務ではなく、国としてライナたちが飛ばされたはずの場所を収める組織へと助けを求めたらしい。もっとも、遺物については伏せたようだが……。

 

 バーシェンらしい几帳面なくらいの整った文字によって告げられたその事実に、ライナは『一応心配はしてくれたんだな~』とちょっとだけ感心しつつ、視線を走らせる。

 

『だが……あちらとしてはお前たちがそんな功績を立てている事情は知らないだろう。だから、あちらの王様は保護をしてくれるならあることをしていいと条件を付けてきてくれた』

 

 そして、最後に記されていたその文にたどり着いてしまったライナは、シオンが悪だくみをしているのを察知した時のような悪寒を感じ、思わず体を震わせた。

 

『ローランド国王の親書の最後はこう締められていた。『こちらが無理な要望をしていることは百も承知。ならば、それに対する対価を払わさせていただきたい。そちらで保護されている間はライナ・リュートとフェリス・エリスを最低限の賃金でこき使っていただて結構だ』と記されていた。まぁ、さすがに本格的な戦争の参戦は禁じられたが、包囲戦による兵糧攻めや、盗賊の殲滅戦程度なら十分許容範囲だろう。むろん……うちでの書類仕事の手伝いも禁じられていない』

 

 よかったなライナ・リュート。仕事が増えるぞ? 最後にそう括られたバーシェンからの手紙を読み終ったライナは、

 

「やべぇ。あいつ俺たちのこと骨までしゃぶりつくす気だ……」

 

 ガタガタガタと……熱病にでも侵されているのではないかと思ってしまうほど体を震わせていた。というか、親書の本文を読んでいないから何とも言えないが、シオンも確実に勝手に消えた自分たちについて激怒している。だからこそのあの条件であり、嫌がらせだろう。

 

 おまけにその嫌がらせはまだ終わっていないと来ている……。

 

「さて、ライナさんっ!!」

 

 キタっ!! 自分の武勇伝を一通り話し終えたシルは爛々と輝く瞳をライナに向けた。

 

 シルとももう結構な付き合いだ。この後コイツが言うセリフなんてライナはすでに予想済み……。

 

「ここであったが百年目!! 今日こそ僕はあなたを打ち倒し、槍こそが世界最強の武器であることを教えて差し上げましょう!!」

 

「お前ここまで来てそれやるとはマジでありえねェだろぉおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 魂の悲鳴を上げ、脱兎のごとく窓から逃げ出すライナ。

 

 もうなんなの? ただでさえ寝不足なのに、何で俺こんなバカに睡眠時間削られないといけないの!? 異世界で自分の帰りを待っているであろう自分の親友の怨嗟の怒声をぶつけながら、瞬く間にエスタブールの身体強化を行いめざましい速さで逃げだすライナ。

 

 しかし、シルはそれを見逃すほど甘い戦士ではない!!

 

「逃がさんっ!! ぶーちゃん!!」

 

「わかったマスター。魔術師たちがいない間に鍛え上げた……コンビネーションを見せる時だな!!」

 

「というか、槍が持ち主とコンビネーションするとか、ありえないことにいい加減気づい……ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 律儀にツッコミを入れようとしたライナに向かって、先ほど宝物庫を吹き飛ばした閃光が飛来する。

 

 紙一重でよけるライナ! 爆風に乗るように跳躍するライナ! さらに距離を稼いだライナ! 目の前に現れた人物を見て、絶望するライナ……。

 

「ふぇ、フェリス……」

 

「ふむ……何やら騒がしいから来てみたら」

 

 それはいつもライナをイジメまくる自称勧善懲悪天使。どういうわけか彼女は美しい金髪を夜風にたなびかせながら、鞘から引き抜いた抜身の剣をライナに向けていて……。

 

「やはり貴様が……夜の野獣となってルイズたち清純な婦女子に襲い掛かったのだな!!」

 

「ちょ、まってフェリスぅううううううう!! 今俺ちょっとお前の悪ふざけに付き合ってる余裕はナブッ!?」

 

 そんな悲鳴を上げてもやっぱり一発はなぐられるライナ。もうヤダこんな生活……とわりと切実な涙を流し吹っ飛んだあと、地面にばたりと倒れた彼に、何やら満足した様子で頷いたフェリスは、

 

「ふむ。それで、いったい何が起こったのだ?」

 

「お前わかってるなら、初めからそう聞けよ……」

 

 ぐったりと地面に倒れ伏したまま不満を漏らすライナに「一日一ライナ殺しが私の目標だからな!!」となぜか胸を張って言ってのけるフェリス。

 

 そんな彼らのもとに、

 

「見つけましたよぉおおおおおおおおおおおおおおおおライナさん! おや、フェリスさんもいるじゃないですか? これは好都合です……喰らえ、ランダムスパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!」

 

 迷槍師が接触し、事態はさらに混迷してきた!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「まったく……なんで俺がお前なんかの面倒見ないといけないんだよ」

 

「こっちのセリフだっての。この変態ヤローが。久しぶりに結構上等なベッドで寝れると思ったら……」

 

 ライナとフェリスが、自分の世界からやってきた馬鹿と激闘を繰り広げ始めてから数分後。サイトとエルザはブツブツ互いをののしりながら、中庭を歩いていた。

 

 宝物庫が何者かの襲撃を受けたため、学園は今や非常事態宣言が発令されており生徒ですら総動員して宝物庫襲撃の犯人を捜索しているのだ。

 

 当然その捜索に生真面目なルイズが関わらないわけもなく、誰よりもいち早くローブ姿に着替えた彼女は杖を片手に勇ましく学園長室へと駆けて行った。しかし、彼女はいろいろあって今夜だけエルザを部屋に泊めていた。

 

 いくら吸血鬼とはいえこんな小さな子を宝物庫襲撃があった学院に一人にさせるのは忍びなかったルイズは、自分の使い魔の命令を下した。すなわち、この娘を守って……と。

 

「それにしてもフーケが侵入してから警戒厳重になった宝物庫に襲撃しかけるなんて、そいつよっぽどのバカなんじゃない? まともな手を使って侵入なんてできるわけないでしょうに」

 

「なんか、宝物庫がスクウェアの砲撃数千発食らったみたいに溶けてたらしいぜ?」

 

「……それ、学院でどうにかなるような相手なの?」

 

 少なくとも先住でそれだけの火力をだそうと思ったらエルフの手助けが必要なので、エルザはサイトの報告を聞き思わず顔を引きつらせる。

 

 その時だった!

 

「スパァアアアアアアアアアアアアアアク!!」

 

「あう……。もうやだ……」

 

「ん」

 

 とんでもない掛け声とともに、後者の影からライナとフェリスが飛び出してきて、

 

「あれ? ライナさんフェリスさん?」

 

「こんな夜中になに騒いでんのよ、お姉さまに色情きょ……」

 

 その二人を貫くようにすさまじい光量の閃光がほとばしった!

 

「「…………………」」

 

 信じられないその光景に唖然とするサイトとエルザ。しかし、この程度の攻撃日常茶飯事だといわんばかりに、

 

「クソッ……シオンのやつ……絶対ぶっころぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおす!?」

 

「ふむ、それに関しては同感だ。面倒な奴を送ってきたな……」

 

 ライナは軽やかにその攻撃をよけ、フェリスに至っては剣で打ち返す。

 

 光打ち返すとかあの剣もう魔剣の類かなんかだと思うんだけど……。自分の世界のゲームやらファンタジー小説に出てきた数々の魔剣を思い出しながらその光景を呆然と見つめるサイト。だが、ライナが言うにはあの剣にはなんの魔法もかかっていないというのだ。それなのにあんなことができるなんて理不尽なことこの上ないとサイトは思う。

 

 そのときだった。

 

 フェリスが打ち返した閃光が、校舎の影で爆発する轟音を呆然と聞いていたサイトとエルザを見つけたライナとフェリスは、お互いに素早く目配せをし、

 

「これはこれは! 俺とフェリスの一番弟子のエルザとサイトじゃないか!!」

 

「うむ。なんだ……免許皆伝を待ちきれなかったのか? 明日まで待てといっただろ?」

 

「「え?」」

 

 突然の修行終了フラグにわけもわからないまま、首を傾げる二人。しかし、フェリスとライナはわざとらしいほど大きな声でとんでもないことをのたまっていく。

 

「もうお前たちは俺たちを超えちまったからな……。そりゃ待ちきれないのも無理はない!! もうこいつら倒したら、俺ら倒すよりもすごいことになるからな!!」

 

「ああ。まったく……お前たちの才能には嫉妬すら覚える。お前たちと比べたら私達なんて塵芥も同然だ」

 

「あ、あの……ライナさん? フェリスさん? 突然何を……」

 

「お姉さま……腐った団子でも食べた?」

 

 何やら不自然なくらい自分たちを褒めちぎるライナとフェリスに言い知れない悪寒を感じた二人は、必死に事情の説明を要求するが、

 

「なるほど……」

 

悪魔(シル)はそんなもの……待ってはくれなかった。

 

「つまり……その子たちを倒せば、槍に世界最強の称号が授与されるわけですね!!」

 

「あぁ! そうだぜ! 何せこいつら俺とフェリスが二人がかりで挑んでも平然とあしらうしな!」

 

「あぁ。この前の模擬戦なんか『ふはははは! 団子神官風情が私に逆らうなど片腹痛いわ。もはや私の階梯は団子神。そう、私は神になったのだ!!』と、言いながら私とライナをダンゴに変えるという荒業を……」

 

「いや誰だよそれっ!? っと、そ、そうだったな! いや~あの時は手も足も出なかったぜ!!」

 

 ダメ押しとばかりにそれだけ言うと、ライナとフェリスはエルザとサイトのもとへと疾走し、

 

「ンじゃ、あと任せた。俺ちょっと昼寝神様が呼んでるから参拝してくるわ。夢の中で」

 

「うむ。私も明日は団子屋の仕込みを手伝う予定だからな。早く寝なければならないのだ」

 

 二人はそれだけ言うと、夜の闇の中へと消え去り……豚のぬいぐるみを持った好青年と、呆然と二人を見送ることしかできなかったサイトとエルザだけが取り残された。

 

「……え?」

 

「……えっと……」

 

 そして、サイトとエルザが振り返ると……。

 

「あの二人を片手であしらえるなんて……。さすが異世界。まだ僕が知らない強者がたくさんいるのですね……ですが、負けるわけにはいきません」

 

 なにやら感動した様子で打ち震えていた青年が、自分の手に持った豚のぬいぐるみを掲げ、

 

「僕が最強と信じ続ける……槍のためにも!!」

 

 槍? あれが? と同時に首をかしげたサイトとエルザ。しかし、二人がそんな風に余裕があったのはこの瞬間が最後だった。

 

 ギュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!

 

 不吉な音を立て、異様な力がチャージされる豚のぬいぐるみの瞳。そして、その力が臨界に達した瞬間!!

 

「スパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!」

 

 シルの掛け声とともに、白銀の閃光が二人に向かって飛来した!!

 

「「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!?」」

 

 喰らったらやばいということぐらいは本能的に察することができたのか、悲鳴を上げその場を飛び退くエルザとサイト。

 

 エルザは先住を、サイトはガンダールヴを全力で使い何とかその閃光の回避に成功した!!

 

 そして、よけられたその閃光は、

 

 ヒュゴッ!!!!!! という轟音と共に地面に突き立ち、すさまじい激震を大地に走らせる爆発を引き起こした!!

 

「「………………………………」」

 

 もう唖然としてその光景を見つめるしかないサイトとエルザ。そんな二人の姿に、自分の槍に恐れをなしたと思ったのか、意気揚々とシルが決め言葉をぶつける!!

 

「どうですか……この僕が長年の研究と研鑽を重ね、ついに作り上げた史上最強の槍……ぶーちゃんマークⅢδの威力は!!」

 

 自慢げに豚のぬいぐるみを掲げるシルのほうをギギギギという音が聞こえてきそうなほどゆっくりと振り返ったサイトたちは、

 

「「てかもうそれ……槍じゃねェえだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

 ライナがいつも叫んでいるツッコミを、シルに向かって叫ぶのだった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ちょちょちょちょちょ……!? なにあれ!? あれも魔法具か何かなのか!?」

 

「んなわけないでしょうエロガッパ!! あんなでたらめな武器見たことないわよ!!」

 

「誰がエロガッパだ!」

 

 そんな悲鳴を上げながら、夜の魔法学院を駆け抜ける二つの人影。

 

 《伝説》神の左手(ガンダールヴ)・平賀才人と《妖魔》吸血鬼(ヴァンパイア)・エルザだ。

 

 言い合いながらもどこか息の合った逃走姿を見せる二人。何らかの力の補正でも受けているのか、その動きはさながら疾風がごとき速さを見せ、一般人ならその姿を見ることすら困難だろう。

 

 だが、彼らにとっては残念なことに、彼らを追いかけている怪物は一般人ではなかった。

 

「スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!」

 

「「ぎゃぁああああああああああああああああああ!?」」

 

 見事にシンクロした悲鳴を上げ、慌ててその場を飛び退くサイトとエルザ。そこにつき立つのは光。さながらどこかの海軍大将の攻撃が如くでたらめな破壊力を持ったその一撃は、サイトとエルザが数秒前までたっていた場所をかすめ地面に直撃。

 

 すさまじい轟音を響かせながら、着弾地点から数十メートルにわたる爆発を発生させた!!

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!? あれ人に向けていい攻撃じゃねェだろぉおおおおおおおおおおお!?」

 

「これをよけますか!! さすがライナさんたちの弟子にして彼らを超えたお方たちですね」

 

 サイト切羽詰まった悲鳴を見事に聞き流しながら、魔法による強化の形跡もないのに軽々とサイトたちに追走してくるさわやか笑顔の好青年(ただし右手に殺人光線を放つブタのぬいぐるみを所持)――シルワーウェスト・シルウェルト。彼らが全力疾走で逃げている……おそらくライナたちの知人の……怪物だ。

 

「全力で勘違いです! エルザみたいな可愛い女の子がそんなことできるわけないよ! ほとんどサイトおにいたんの力で勝ったようなもので……」

 

「エルザ!!」

 

「あぁ? なに? いまさら何見捨てようとしてんだ! とか言わないわよ……」

 

「もう一度サイトおにいたんっていって! 俺頑張れる気がする!!」

 

「しねっ!! 全力疾走で死んでくれ!!」

 

「……なるほど、詭道も戦闘のうちですか! 危うくだまされてしまうところでした。さすがライナさんのお弟子さん!」

 

「しまったぁあああああああああああああ!! 逃げ損ねたぁあああああああああああああ!!」

 

 テメェのせいだぞコラっ!! ふはははは! 一人だけで逃げようなんてそうはいくか。地獄の底まで付き合えや!! などと、仲睦まじく言い争いをしながらサイトとエルザは逃走を続ける。

 

 目指すはライナが住んでいるはずの男子寮管理人室。そう、二人は自分たちにこの化け物を押し付けてきた、あの睡眠馬鹿にこの怪物を押し付け返す気なのだ。

 

 そして二人の目標の達成は目前だった。

 

「見えたぞエロガッパ!」

 

「でかした合法ロリ!!」

 

 お互いの呼び名を聞き仲良く(殺気だった)視線を交わす二人。後で殺す……という気持ちを存分に込めながら、二人はようやく見えたゴールに近づく。すなわち男子生徒寮へ!!

 

 二人は一階に設置された管理人室の窓へと飛び込み(どういうわけか開いていた)、ゴロゴロと受け身を取った後(美しくシンクロした受け身だった……)その部屋で寝ているはずの男に向かって絶叫を上げる。

 

「ライナ!」

 

「ライナさん!!」

 

「「後は任せた!!」」

 

 とりあえず有無を言わさず押し付けることに二人は決めたらしい。キメ顔でそんなことを言ってくる二人に対し、ベッドで寝ていた、

 

『おう。任されたからお前らに任し返すわ』

 

 枕で作られたダミー人形の頭部に張られた小さなメモが、二人をあざ笑うかのようにパタパタとはためいた。

 

「……そうだよね。あの人がこんなところで手を抜くわけないもんね」

 

「クソッ……。神は死んだ」

 

 絶望した顔で虚ろに笑うサイトと、吸血鬼らしくない言葉を吐きガクッとうなだれるエルザ。

 

 しかし、敵はそんな二人の様子をおもんぱかってくれるような生易しい相手ではなかった。

 

「ここが戦場ですね!! 決着は始まりの場所とは……なかなかいいセンスをしています! さすがお二人を打ち負かしたお方だ」

 

 なんだか姿を見るのも億劫といわんばかりに顔を上げ部屋の外を見た二人の視界に、もうトラウマになりつつある爽やかスマイルを浮かべた青年が立っていて、

 

「しかぁし!! この僕が極め、日々研究を重ねた槍の前にはたとえどのような存在であろうとも無力!! さぁ、出てきてください二人とも!! 僕はここであなたたちを打ち倒し、槍こそが世界最強の武器であると世界に知らしめるのです!!」

 

 な~んて……手に持った豚のぬいぐるみをさながらご神体のように掲げながらそう叫んできていて。

 

 『いや、もう……あれのどこが槍なんだよ?』とか、『世界最強とか知らんし……私たちお姉さまや色情狂に一度も勝ったことないし……』とか、二人の脳裏にはそんな言葉が一瞬過るが、

 

「「は……はははははははははははは!!」」

 

 最後には若干壊れた雰囲気を感じる、二人の狂った笑い声が部屋の中から響いてきた。

 

 そして二人は最後に窓から身を乗り出すと、

 

「「やったらぁああああああああああ!!」」

 

 なんかもう自暴自棄といった感じでそう叫んだ。別に彼らはシルに勝てるなんて微塵も考えていない。先ほどの鬼ごっこである程度の実力差ぐらいは把握している。

 

 だからこそ、彼らはもう戦いを挑むしかなかった。戦って意外と強くないことがわかればシルもライナたちに騙されたことに気づくだろうと二人は考えたのだ。

 

 そうなればシルは怒り狂ってライナたちの方に行くはずだ。その過程で多少痛い目に合ってしまうのはいただけないが……少なくともこんなわけのわからん相手からずっと逃げ回るよりかは数倍ましだ。と、若干追いつめられつつある二人はそう判断を下した。

 

「あんた前衛!! 私後衛!! 時間できるだけ稼ぎなさい。デカいので一撃のウチに仕留めるわよ!!」

 

「サーイエッサー!!」

 

 しかし、やるからには全力だ。相手はライナやフェリス級の実力者。(といっても口ぶりから考えるにライナたちに勝ったことはないらしい……。その一番の理由は彼がバカだからだろうが)手を抜けばすぐにばれる。そんなことになったら「なるほど……僕程度には全力をだせないと? いいでしょう……ならばあなた方が全力を出すまで、僕は何度でも戦い続けます!!」とかいいかねない。

 

 それだけは何としても避けたかった。だからこそ二人は初めから全力でシルに挑む。

 

「さぁ……殺し合いをはじめましょうか?」

 

 殺気だった……なおかつ追いつめられた小動物のような切羽詰まった雰囲気を視線に乗せたエルザの宣言を聞き、デルフリンガーを構えガンダールヴの力を全開にしたサイト。彼は床を踏み砕くような力強い震脚とともに、弾丸のごとく部屋から飛び出す。そして一直線にシルに向かって襲いかかった!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 早い。自身に向かって突撃してくる黒髪に変わった服を着た少年を見て、シルは初めの評価を下す。

 

 どうやらフェリスのことを師事していたというのは本当のようで、まるで一流の剣士が如く整った構えで少年――サイトはこちらに向かって襲い掛かってきた。

 

 だが、

 

「フェリスさんとは比べるべくもありませんね!!」

 

 彼女は鍛え上げられた自分の目にすら映らないほどの速度で攻撃を仕掛けてくる。自分がしっかりと攻撃の軌道が読めている時点で速さに至っては論外だ。到底フェリス達に勝つような実力者には思えない。

 

 ではフェリスさんに勝っているのは力か? そう思った彼は、勢いよく槍☆を跳ね上げサイトの顎に向かって綺麗なカウンターを決めようとした。

 

 その時だった、

 

「相棒! 下だ!!」

 

「っ!!」

 

 どこからともなく聞こえてきた声が、突然シルの耳朶をたたく。それと同時に単純な突撃を行っていたサイトが、まるで今までとは別人のように体を動かし、剣の軌道を変質。その槍の一撃を受け止めた!

 

「ぐっ!!」

 

 その見た目に反してあまりに重い槍☆の一撃。それを受け止めたため、サイトの体が一瞬浮く。

 

 そんな情けないサイトの姿を見ながらも、空中を漂うサイトに向かってシルは追撃を行おうとはしなかった。

 

 なぜなら、彼は自身の攻撃を見事に受け止めたサイトの不自然な動きに目を見開いていたからだ。

 

「まさか……今のは」

 

「わりぃデルフ! 助かった……ていうか、何であんなのの一撃がこんな重いんだよ!?」

 

「きをつけな相棒。こいつ、フェリスの嬢ちゃんよりかは弱いがかといって今まで戦ってきた奴と同じだと思っていい相手じゃねェ」

 

「十分承知しているよ!」

 

 カチャカチャと飾りを鳴らししゃべる(・・・・)剣に返事を返し、サイトは再びゆらりと剣を構えた。

 

「……まさかその剣。自分の意識を持っているのですか?」

 

 唖然とするシルに初めて意表をつけたかと、サイトは不敵に笑いながら愛剣の切っ先をシルに向けた。

 

「おう! 挨拶が遅れたうえに不意打ちしちまってすまねぇなにぃチャン。俺の名前はデルフリンガー。神の左手ガンダールヴの……」

 

 当然その反応に気をよくしたデルフも意気揚々と自己紹介を始めたのだが、彼らの認識は甘かった……。

 

 シルはいつでも一般人の予想の斜め上をゆく存在だ。ライナがこの場にいれば間違いなくそう告げて全力で逃走していただろう。

 

 しかし、もうその手段はとれない。サイトたちの逃走のタイミングはすでに消え去り、彼らは理不尽という混沌の中に足を踏み入れることしかなくなった。

 

 そして、

 

「なんとっ! 私以外に、気合で主のために喋る機能を得た武器があるとはっ! この世界の武器もなかなか気合が入っているではないか!」

 

「そのとおりだねぶーちゃん!」

 

 デルフの自己紹介をぶった切り、プルプル震えた豚のぬいぐるみが突然人間臭い動きをしながら口を開く。

 

 唖然とするサイトとデルフ、当然だ。自身がインテリジェンスという存在なのだからぬいぐるみが話すというのもあながち間違った事象ではないのだが、かといって……武器でもないタダのぬいぐるみに、実際に会話ができるまでの自意識までつけようと思うと、金も時間も技術もとんでもない水準で必要となる。だからこそ、ぬいぐるみにインテリジェンス機能を付けるなどというトチ狂ったまねをする奴は古代においてもいなかった。

 

 だが、目の前にそんな理不尽な魔法の体現が存在している。どう考えても無駄にしかなりえない機能を持った物体が……豚のぬいぐるみという信じられない形態をもって降臨してしまっている。

 

 だから、サイトとデルフは思わずこう絶叫した。

 

「「ぶ、ぶたのぬいぐるみが喋ってるぅウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!?」」

 

「むっ!? 何をぬかすか貴様ら! 私はブルジュワーノ・ジュリオールという名のついた立派な槍だぞ!」

 

「俺より立派な名前付いてるし!?」

 

「ていうかどこが槍だぁあああアアアアアアアアアアアア!?」

 

 あんまりのもあんまりすぎるぶーちゃんの爆弾発言に、戦いも忘れて思わず魂のツッコミを入れてしまう一人と一本。

 

 そんな時だった。このカオスに幕を引く一撃が……

 

爆震地(アース・シェイカ)ァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 エルザによって放たれたのは!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 巻き上がる土砂。吹き飛ぶ景色。そんな光景をノンビリに眺めながらエルザはいい汗かいたといわんばかりに額を服の袖で拭った。汗なんて微塵もかいていないくせに。

 

「やぁ、わざわざ必要以上に時間をかけてここら辺一帯の土精霊全部と契約を結んでよかったわ。ちょっと自分でもびっくりするぐらいの範囲吹き飛んじゃったせいで、エロガッパも巻き込んじゃったけど仕方ないわよね。うん……私まだまだ未熟ものだもん♡」

 

 アースシェイカーはいわゆる倒地(ちがしら)の広域殲滅版の精霊魔法だ。半径数百メートルにわたる広範囲の地面を爆破しそれによって巻き上がる土砂で相手を天高く吹き飛ばす魔法で、直撃すれば少なくとも全身の骨を粉状に変質させてしまう程度の威力は持っている。

 

 要するに即死である。だが、それだけの威力を確保するためにはかなりの時間をかけて数万近い地の精霊と契約を結ぶ必要があるので、ほとんど陣地防衛用にしか使われないトラップ魔法だったりするのだが……。

 

「前衛いるだけで大分使い勝手がよくなるものよね~、巻き込むけど。今度もあのエロガッパと共闘してライナやお姉さまに挑むのも悪くないわね。巻き込むけど」

 

 まぁエロガッパならいいでしょう。あいつが言っていたギャグ補正とかが働きそうだし……。と自己完結した後、エルザはおそらくボロボロになっているであろうサイトを回収するために、アースシェイカーが発動していた場所へと足を延ばす。

 

 魔法の効果はとっくに切れており、今その場所は濛々とした土煙に覆われてはいるが穏やかな様相を見せてはいた。

 

「エロガッパー? 無事? だったらもう一発叩き込むけど?」

 

 鬼かお前は……。あぁ、吸血()だったな。誰かが聞いていれば間違いなくそう言うであろうセリフを平然と吐きながら、エルザは土煙の奥に向かって呼びかける。

 

「それにしても、魔法叩き込む直前あいつが持っていたぶたが喋っていたような……。いや、気のせいよエルザ。そんな精神衛生上不健康にしかならない現実からは目をそむけないとダメ」

 

 色々とダメすぎるセリフを吐きながら、エルザが首を振った時だった。

 

「ランダム……」

 

「え?」

 

 信じられない人物の声が聞こえてきた。エルザの体は見事に氷結し、土煙の奥で輝く光を見てイヤイヤと首を振る。どうやら現実のあまりに厳しさに言葉を発することもできないようだ。

 

 だが残念なことに、現実はそんなエルザの態度など知ったことではないといわんばかりに牙をむいてくる。

 

「スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!」

 

「……………」

 

 もう黙ってへたり込むしかなかったエルザだったが、今回はそれが功を奏した。

 

 エルザの頭上を過ぎ去り遥か彼方へと消えていく閃光。後ろにあった学生寮がすさまじい轟音を立てて爆発した気がしたが(ちなみに爆心地はライナの部屋)、今のエルザはたまたま命が拾えたことに感謝をすることしかできない。

 

 文字通りランダムに撃っているのだろう。というか、あの人形が空中で360度回転しているとしか思えないほどランダムな方向に打たれる閃光たちが、あたりを覆っていた土煙を吹き払い、中の様子を鮮明にした。

 

「なるほどっ! たった一人で大規模攻撃魔法を撃ってくるとはすばらしい腕だエルザさん! でも残念でしたね、僕の無敵の槍の前には先ほどの攻撃は児戯にも等しいものでしたよ!!」

 

 どこがだ……。土煙を切り裂き現れたシルの姿を見て、ようやく安堵できる材料を見つけたエルザは内心でそうツッコんだ。

 

 さすがのシルもあれを喰らって無事というわけにはいかなかったのか結構悲惨な格好をしている。体は土まみれになり、あちこちに擦り傷ができ、呼吸も少し荒く、四肢は若干震えている。まぁ、本当なら全身粉砕骨折級のダメージを与える魔法を喰らって、被害がその程度というのはかなり規格外な話ではあるが……。実際サイトだったナニカはちょっと……なんというか、言い表せないくらいの感じになってしまっているし。人間の進化行程に軟体動物ってあったかしら? と、内心で首をかしげながらエルザは一言、

 

「というか……あの攻撃から持ち主守る槍なんてもう槍じゃないと思うのは私だけ?」

 

「何をわけのわからないことを! 槍は槍ですよ!!」

 

 豚のぬいぐるみが? よっぽどそういってやろうかと思ったが、いつの間にか赤いマントを着用して空を飛んでいたぶたのぬいぐるみが、プルプルと震えながらこちらを見つめいたので、なんか怖くなってやめた。下手なこと言ってあのレーザーが飛んできたら、前衛を失った今のエルザでは対処できないからだ。

 

「ま、参ったわ……降参よ」

 

 なのでおとなしくエルザは両手を上げた。もとより負ける予定だったので、この行動をするのにためらいはない。

 

 そんなエルザの殊勝な態度を見たシルは、目をきらりと輝かせて空中にいるぶーちゃんと決めポーズ。

 

「やはり槍こそが最強!! 剣などという前時代的な武器に負けるわけがないのです!」

 

 まぁ、正確には剣と魔法だけどね……。エルザはそう思いはしたが何やら越に浸っているシルに水を差して、再び喧嘩を吹っ掛けかれるのもあれなので黙って聞き流す。

 

 これでようやく平和が訪れるわ……。彼女が内心でそう思い安堵の息をついた時だった。

 

「ようやく見つけたわよ! 曲者!!」

 

 どこかで聞いたことがある、ツンデレ臭漂う声が聞こえてきてエルザは思わず氷結した。

 

「る、ルイズおねえチャン?」

 

 笑顔が引きつりそうになるのを何とかこらえながら、エルザギリギリと振り返る。

 

 そこには――いったい曲者を探している工程で何があったのかはわからないが――目が完全に逝っちゃっているルイズが、シルに杖を向けて笑っていた。

 

「こ~こにょ~トリステイン魔ヒョウ学ヒンニもぐりこんだにょがうんにょちゅき~」

 

「おえねちゃん本当にどうしたの!? 最後あたりもう何言ってるかわからないよ!?」

 

「ほう。新たな挑戦者ですか? いいでしょう。最強は挑戦者を拒みません!!」

 

 最高にハイになってしまっているシルはそんなことにも気づかずにルイズに向かって胸を張る。そんなシルに向かってルイズは問答無用といわんばかりに杖に魔力を込め始めた。詠唱内容はファイアー・ボールのもの。しかし残念なことにルイズの魔法はすべて爆発に変換される。

 

 しかもどういうわけかいまのルイズは理性のタガが外れてしまっており、本来必要ないほどの魔力をその魔法に注ぎ込んでしまっていて……。

 

「え、ちょ……お、おねえチャン? う、嘘だよね? そんな魔法撃ったらエルザも巻き込まれちゃうよ? ね、ねぇ……おねえチャン? お姉ちゃんてばぁああああああああああああ!?」

 

 しかし、今回のエルザはとことん不幸だった。目が逝っちゃっているルイズが彼女の懇願を聞いてくれるわけもなく、ルイズは遠慮なく魔力を解放。あたり一帯を爆発の嵐で包み込んだ!!

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!?」

 

 エルザの断末魔の声が、夜のトリステイン魔法学院に響き渡ったという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 トリステイン魔法学院の宝物庫前に、一台の豪華な馬車が止まっていた。

 

 そこに乗ってきたのはバーシェン・フォービンとウェールズ元皇太子改め、ウェールズ宰相補佐。さすがにあいつらの故郷の知り合いとはいえ、あれを丸投げするのはよくなかったかな~。と珍しくも反省したバーシェンが、ライナたちの様子を見に行くためにこんな夜遅くに馬車を走らせてトリステイン魔法学院にきたのだが……。

 

「おい、ウェールズ。俺の見間違いだったらいいのだが……これ、揮発してしまっているよな?」

 

「まぁ、これだけ大きな瓶の中身がなくなったところを見ると盗まれたことよりもそれを考えた方が妥当かと……」

 

 どういうわけか巨大な穴が開いてた宝物庫に入り込んだバーシェンが無表情のまま指差すのは、ちょっとしたタンクほどの大きさがある巨大なフラスコ。そのフラスコの中央にはまるでレーザーの直撃でも食らったのではないか? と、思ってしまうほどのフチが融解した巨大な穴が開いており、中にあった液体を空にしていた。

 

「これの中身……揮発しても効力があるものだったよな?」

 

「何せ始祖ブリミルの時代の初代ミョズニトニルンが作ったものですからね……。おそらくは揮発しても効果があるかと……」

 

 何とも言えない顔でそう告げたウェールズに、バーシェンは初めて顔をひきつらせて宝物庫の外の方へと視線をやる。

 

「あれの原因……これだと思うか?」

 

「むしろこれ以外に何があるんですか?」

 

 その視線の先では、どういうわけか目が逝っちゃっている教師や生徒たちが暴れまわっていた。

 

「ふははははは! われ最恐ゆえにわれあり!!」

 

「その程度ですかなコルベール先生……ならば次は吾輩の番ですなぁあ!?」

 

「アァアアアアアアアアアアアアアアアアサァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「お前に足りないものは、それは~!! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてェなによりもォ―――――――速さが足りない!!」

 

「吹き飛べ虫けらども!!」

 

「よろしい……ならば戦争だ!!」

 

 わけのわからない言葉を言いながらひたすら戦闘行動を続ける生徒や教師たち。錯乱どころか、この世界にいてはいけない存在までいた気がしたがきっと気のせいだとバーシェンは思う。

 

「とりあえず揮発した薬はもう完全に雲散霧消したようですが……どうします?」

 

 ウェールズにそう聞かれて、バーシェンは無言のまま数秒間考え。

 

「仕方がない。兵隊呼んでこの学院を封鎖させろ。鎮圧は俺が行う」

 

「お供しましょうか?」

 

「いらん。この程度なら一分もかからん。それよりもお前にはやってもらいたいことがある」

 

「はい? なんでしょう?」

 

 首を傾げるウェールズの両肩に、バーシェンは勢いよく手を振りおろし、

 

「ライナ・リュートとフェリス・エリス……そしてシルワーウェスト・シルウェルトを捕縛して来い。あと、今回の件で発生した被害の損害賠償金の算出をしておけ、奴らに請求する」

 

「……貴族が一生かけても稼げない金額になると思うんですが」

 

「ならばあれか? きさまが肩代わりしてくれるのか?」

 

「全身全霊で奴らを捕まえて御覧に入れます!!」

 

 逃げるように宝物庫を出て行ったウェールズに鼻を鳴らした後、バーシェンは再びフラスコのほうをふり返りそこに刻まれた薬の名前を読んだ。

 

「よりにもよって狂化薬とは……」

 

 これを飲んだ人間はすべてのステータスがワンランク上がる代わりに理性がなくなる……。まるでどこかの世界のサーヴァントみたいな効果だが、初代ミョズニトニルンは狙って作ったわけではないとバーシェンは信じたかった……。初代ミョズニトニルンがまるでどこかの世界のオタクらしい恰好をしながら「うはっ……バー〇ーカーとかキタコレ。これでカツル!!」とか言っていたと記載された古文書があったりもしたのだが、それはバーシェンの手によって完全に焼却されその存在は闇へと葬られたという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 後日談……というか、今回のオチ。

 

 結局トリステイン魔法学院の狂乱が静まったのは、朝になってからだった。狂化薬を飲んだ生徒や教師は一様に昨夜のことを覚えておらず、ただひたすら自身の頭を襲う頭痛にうめき声を上げることしかできなかった。無論ルイズもその一人だ。

 

 ちなみに主犯格であるシルは沈静化した学園の尖塔に黒こげになって逆さに吊るされているところが発見されたらしい。吊るされてもなお爽やかな笑顔のまま本人が語るには「あれほどの実力者がまだいたとは……。この世界もなかなか侮れませんね!!」とのこと。何があったのかは推して知るべきといったところか……。

 

 ちなみに、今回の件で見事に逃走を決め込んだライナとフェリスは王都のお団子屋で発見され丁重に王宮に招かれることになった。

 

 そこで二人は美しい顔を見事な笑顔へと変えたバーシェンと対面し、シュヴァリエの爵位と今回の一件によりでた被害総額の請求書を同時に授与された。

 

 のちの歴史書が記すには、絶望するような顔をする二人にむかって、バーシェンは情け容赦なくこう言ったらしい。

 

「保護とかもう一切関係ない。損失分の補てんが終わるまで、貴様らはただ働き確定だ。あぁ、逃げることは許さん。もし逃げたら、宰相権限を使い貴様らが嫌がることをとことんやるからな。覚悟するように」

 

 この時ライナとフェリスはこう語った。神は死んだ……と。

 

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