ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

17 / 56
タルブ戦乱
夢見たメイド


 目を開くと……そこは薄暗いある部屋の中だった。装飾品から見てかなり裕福な人間がすんでいると予想されるが、現在は深夜だ。夜中の明かりについては平民と大して変わらないのか、部屋のほとんどが闇に包まれることによって隠されてしまい、豪華な雰囲気はみじんも感じられない。

 

 今回は誰のものでしょう?

 

 そんなところに紛れ込んでしまったのは一人の少女。少女は自分が平民であることも知っているし、このような部屋にいていい存在でないことも知っている。

 

 だからこそ、少女はこの光景が現実のものではないと瞬く間に看破した。

 

 私早く寝たいんですけど……。

 

 そんな素朴な願いが聞き入れられるわけもなく、わけのわからない(無駄に)豪華な世界は勝手に動き始めてしまう。

 

「ルイズ……ルイズゥ……」

 

 はぁはぁ……。荒い息をしながら部屋の中でうごめく不審人物。どうやらかなり興奮しているようだ。戦闘でも行うのだろうか? いいや違う。と少女は長年の経験からそのことをあっさりと見抜く。

 

 これは性的に興奮している時の鼻息だ。

 

 あまり良い結果を生みそうにない展開に、少女は眉をしかめながら仕方なくふらりと歩みを進めた。

 

 都合よく月明かりが窓から差し込み、ベッドに寝ていたこの部屋の主を照らし出した。桃色のブロンドに、本当に自分と近い年頃なのかと疑ってしまうほどの小さな体(むろん、身長のことだ。体の一部もそうだが、ばれたら間違いなく大激怒されるので考えないようにする)。

 

 ルイズ・ラ・アリエールだったか? 本当はもっとくそ長い名前だった気がするし、何か間違っている気もするが、少女が思い出せるのはここまでだ。

 

 もとより貴族の中でも最高位の爵位を持つ公爵家の令嬢と、平民である自分に接点があるわけでもなし……名前がうろ覚えなのは勘弁してほしい、と少女は自己完結し、その華奢な令嬢に向かってうごめく人影の方へ視線を向けた。

 

 鼻の穴を大きく膨らませ、顔を真っ赤にし、いまにも鼻血が噴き出すんじゃないかと思ってしまうほど興奮した顔をしている黒目黒髪の少年。

 

 コック長が「我らの剣!!」と呼んではばからないとある剣士の少年が、わりと残念な顔をしながらそこに立っていた。

 

 少女は自分の気持ちに正直になり、こちらに向かってふらふらと歩いてくるその人物からできるだけ距離を取るために壁側へといそいそ移動する。

 

 明らかにルイズの貞操が危険そうではあったが、所詮現実ではないのだしと自己完結。シエスタは黙って壁のほうを向き、耳をふさぐ。

 

 自分の背後ではさぞえげつない夜の光景が広がっているのでしょう……。と、ほんのちょっとだけ耳年増な自分を呪いながら、思わずその光景を思い浮かべてしまい真っ赤になる少女。

 

 そのときだった、

 

 少女の背後から何かが飛来し、少女の背中にぶつかり……通り抜けた。

 

「あら?」

 

 少女は自分の体をすり抜けるようにして飛来し、とんでもない勢いで壁に叩き付けられた少年の顔を見て少し驚きの色を浮かべた。

 

 その人物は驚いたことに、先ほどまでハァハァ言っていた我らが剣殿だった。

 

 この世界で失敗するなんて、ありえない……。だってここは……サイトさんの夢の中なのに。

 

 少女は目の前で起こった異常事態に少しだけ目を見開いた。そう。ここはサイトの夢の中。サイトのためのサイトによるサイトだけの世界。この世界で起こるすべてはサイトの都合のいいようになり、サイトにできないことは何もない。そんな世界のはずだったのに……。

 

 少女は慌てて後ろを振り向き、サイトを吹き飛ばした何かの姿を確認しようとして……。

 

「………………」

 

 思わず顔をひきつらせた。なぜならそこには、まるで物語に出てくる怪物『メデューサ』のように髪をうねらせ、悪鬼のような表情をしたルイズが鞭を片手に素振りをしていたからだ。

 

「ここここここ……このイヌっ!! 性懲りもなく、またぁああああああああああああああああ!!」

 

「ゆ、許してルイズ!? 俺が悪かったぁあああああああああああああああああ!!」

 

 鞭を片手にこちらに迫ってくるルイズに、サイトは泣きながら許しを請う。当然そんなもので空を飛行するアルビオンよりも高い公爵令嬢のプライドが許しを与えるわけもなく、ルイズは凄まじい速さでサイトに向かって鞭を振りおろし!!

 

 

 

 

 

 

 そこで目が覚めた。

 

 目の前に広がる見慣れた天井をしばらく呆然と見上げた少女は、ゆっくりと体を起こしいまだにしょぼつく目をごしごしとこする。

 

 そして、少しはましになった寝起きのぼんやり感の余韻を感じつつ、少女――シエスタは、先ほど見た夢の感想を述べる。

 

「夢の中でも折檻って……どんだけ調教行き届いているんですかサイトさん……」

 

 その両眼には、真紅の輝きを放つ二つの点が刻まれていた。……夢置眼(エブラ・クリプト)。この世界にあってはならない異端の力。その力が再び見せたはた迷惑な光景を思い出し、シエスタは小さくため息を漏らすのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「その顔……あんたまた誰かの夢覗いたわね?」

 

 使用人用の食事をとるために食堂裏に一時的に設置される簡易食堂へとやってきたシエスタを見て、にやりとした笑みを浮かべたのは赤い髪に赤い瞳をもったシエスタと同い年くらいの少女――同僚であるアリスだ。シエスタと同じ時期にこの学院にやってきた彼女は何かとシエスタにちょっかいを掛けてくるおせっかいメイドとして有名だった。

 

 まぁ、そのおかげで魔眼のせいで若干人間不信になりかけていたシエスタも、彼女のおかげで随分とまともになり、通常の生活を送ることも友人を作ることもできた。感謝してもしきれないほどの恩人だったりするのだが……。

 

「で!? 今回はだれの夢なの? 夢の内容は? やっぱりピ―――――(規制されました)やバキュ――――ン(抹殺されました)な内容だったの!?」

 

 自分が事故で覗いてしまった夢のことを、根掘り葉掘り聞いてくるところだけはかなり迷惑だったが……。

 

「大した夢じゃないわよ。またサイトさんのところ」

 

「またぁ? あんた実はあの人のこと気になってんじゃないの?」

 

「否定はしないけど……恋愛感情とは違うわよ」

 

 というか、夢の中であんな変態チックなことをする人間を好きになったりしないわよ……。内心でそう呟きながら、マルトーさんが出してくれた薄味のスープ(平民はこのくらいに押さえておかないと、後で貴族の馬鹿ガキどもが何を言ってくるかわからないため)を口に運びながら、シエスタはそう漏らした。

 

 彼女が初めて人の夢を覗いたのは5歳の時だった。あまり覚えていないが彼女の故郷である村の誰かの夢だったと思う。その夢では別に問題はなかった。その人は夢の中でおなかいっぱいの高級料理を食べており、見ているシエスタもその幸福感をほんの少しおすそわけしてもらえた気さえした。

 

 だが問題だったのは意図的に夢が覗けるようになってからだった。初めてみた夢で味をしめたシエスタは片っ端から他人の夢を覗き始めた。とりあえず顔を知っている人は顔を思い浮かべれば間違いなく夢を覗けることがわかったので、魔眼を使うことに苦労はなかった。

 

 そこでシエスタは様々な夢を見ることになる。農具で貴族を打倒し英雄になる夢。イーヴェルディになりきり悪竜退治に出かける夢。空飛ぶ巨大な戦艦の将校になる夢(ちなみにシエスタの弟の夢)……いろんな夢をめぐりちょっとした観光気分を味わうのが当時のシエスタのマイブームだった。

 

 そんな時……シエスタは生まれて初めて恋をした。

 

 相手は、当時彼女の村を含む領地を治めていた領主さま。年若く、平民にすら慈悲深かった彼はよくさまざまな村々を訪れては領民たちとの交流を行っていた。

 

 シエスタはそんな彼が村を訪れたときに、優しく微笑まれ頭をなでられたことに好意を抱き、幼い恋心を抱いてしまったのだった。

 

 彼女が彼の夢を垣間見てしまったことは必然といってもよかっただろう。そしてその夢の内容は……。

 

 

 

 

 メイドハーレムだった……。メイド服を着た美女たちを大量にはべらせ、鼻の下を伸ばしている彼の映像がまざまざと、幼いながらもかなりの夢を覗き見たせいで結構精神年齢が高かったシエスタの視界に広がった。

 

 普通にひきましたよ……。当時のシエスタはそう語る。しかも夢の内容は夜の生活にまでおよび、結構生々しい夢を見てしまっていた。

 

 子供が見るものではありませんでしたね……。現代のシエスタは顔を真っ赤にしながらアリスにそう語った。

 

 そんなこんなで幼い恋心を見事粉砕されてしまったシエスタはもう恋なんてしない……と、割と切実に誓ったのだったが。

 

 彼女の苦難はさらに続く。あれ以来反省して他人の夢をむやみやたらにのぞくのはやめたのだが、ときどき魔眼が暴走して、誰かの夢を本人の意思も関係なく提供してしまう事態が多発してしまったのだ。幼い頃はなかった力の暴走。成長したことにより力がもてあまし気味になってしまった結果だったのだが、当時のシエスタはそんなことは知らないし、知る必要もない。問題だったのは、彼女の知人たちが思春期に入ってしまっていたことだった。

 

 少女の夢だったらまだしも、男子の夢は最悪と言っていいものだった。内容は大体察してもらいたい……。ときには夢の中に自分が出てきて鳥肌を立ててしまったことは今も記憶に新しい。

 

 まずい……このままじゃいろいろまずい。

 

 胸が人より膨らんできたこともあり、男子の夢の中ではシエスタの出演率が8割を超えたあたりでシエスタは真剣にノイローゼになりかけていた。おまけに現実のほうでは男子たちは、普段と変わらない顔でシエスタに接してくるので、なおのこと不信感が募る。

 

 このままでは狂う……。そう思いながら、シエスタが再び自分が出演した夢を見て、必死に涙をこらえていた時だった。

 

 シエスタにはじめてアレな夢を見せた領主さまからお触れがあったのは。

 

 人間不信になりかけ、あまり外に出なくなったシエスタでもさすがに貴族のお触れを無視するわけにはいかず、外に出てそのお触れの掲示を見に行った。

 

 そして彼女は希望を見つけた。

 

《求む、魔法学院で働く下働き人員を》

 

 新たな職場に行くことによる、この環境からの脱却の希望を。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「とはいえいまだに男性不信が治ったわけでもなく……」

 

「お~いシエスタ~!!」

 

 食事を終えアリスと別れた後、朝の洗濯をしていたシエスタは、こちらに向かって走ってくる黒目黒髪の我らが剣殿を視認し、あわてて笑顔を取り繕った。

 

 しばらく前に洋服洗いを免除された彼は、すっかりここには来なくなっていたので油断していた。もう二度と会うことはないと思っていたのに……。

 

 内心で舌打ちをしながら表面上はにこやかにサイトに接するシエスタ。当たり前だ、メイドとは下働き以前に接客業。どんな相手であろうと、不快感を与える対応を取ってはならない。トリステイン魔法学院に入って真っ先に教えられた基礎中の基礎のことがらだった。

 

「どうされたんですかサイトさ……ん?」

 

 だが、近づいてきたサイトの姿を見てシエスタはついうっかりと、その教えを破ってしまった。

 

「ん? どうしたのシエスタ」

 

 それはこっちのセリフなのですが……。と、シエスタはどういうわけか包帯まみれで松葉づえをついているサイトに、ほほを引きつらせる。

 

「え、えっと……お元気でしたか? 最近来られませんでしたけど……」

 

「ん? あぁ、元気元気!! 最近剣術の修行してたから来れなかったんだ。んで、今日はちょっとやれそうにないから御休み」

 

 元気って意味わかって答えてますか? と、内心で激しくツッコミを入れつつ、シエスタは震える指で包帯が巻かれた部分指さした。

 

「えっと……その傷、どうされたんですか?」

 

「ん……あぁ……昨日の晩いろいろあって」

 

 気まずそうに眼をそらしたサイトの視線の先には、現在一人の教師が修復中の宝物庫の壁があった。

 

 そういえばアリスが言っていましたね、昨日かなりの大騒動があったって……。

 

 能力つかわれるときの睡眠はかなり深い深度で脳が一時的に休息をとることが多い。その休息時に騒ぎが起こったようで、シエスタは昨日のバカ騒ぎの詳細をいまいち知らないままだった。

 

 ただ、その宝物庫を直している黒目黒髪の先生が見覚えのない紅の髪を持つ王宮の偉そうな人に、

 

「きびきび働け。安心しろ、うちは火葬施設完備しいてるから」

 

「やべぇ……俺過労死するまで働かされるんだ……」

 

 と、いった感じにこき使われているのが印象的だった。たぶんあの先生が昨日の騒ぎの主犯なのだと思われた。

 

「それより何か手伝うことある? ちょっと暇で暇で仕方なかった……」

 

「そんな状態で働こうとか頭おかしいんですか!?」

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。今はこの意味がわからないバカを何とかしなければ!! と、シエスタはあわてて手伝いを申し出てくるサイトを怒鳴りつけた。

 

「どう考えても骨折してますよねそれ!? 松葉づえどころか寝たきりになってないとおかしいランクの傷ですよねそれ!?」

 

「いや、見た目確かに重症っぽいけど、案外無事なんだぞ? 全身の骨にひびが入ってるから絶対安静って怪我見てもらった先生には言われたけど……」

 

「絶対安静の意味わかってるんですか!?」

 

 シエスタの的確なツッコミに、サイトは松葉づえをついていない左手でガッとシエスタの肩をつかみ、どことなく鬼気迫った顔で、

 

「い、いいから手伝わせてくれよシエスタ……俺まだ、空腹で死にかけた時に君に助けてもらったお礼してないし……」

 

「い、いや、目の前で人が倒れたら助けるのは当然のことですし……お礼なんて、そんな」

 

 な、なに!? 何がこの人をここまで労働に駆り立てるの!? シエスタがあまりに異常に仕事に執着するサイトの姿に恐怖を感じた時だった。

 

 本当の地獄がこの場に訪れたのは、

 

「サイト! こんなところにいたの!?」

 

「「!?」」

 

 聞きなれない声が聞こえ、シエスタが視線を向けると同時にサイトもバッと声が聞こえた方向を振り向き、だらだら冷や汗を流し始めた。

 

「る、ルイズ……」

 

「もう、あのシルウェルトとかいう奴に殺されかけたんでしょ? 安静にしてなきゃだめじゃない!! ほら、あんたが言っていたお粥ってのもライナに教えてもらった通りに作ってきたから、さっさと食べなさい」

 

 そう言って、昨日シエスタの夢に出てきた桃色髪の少女が、白い容器に入った何かをサイトに向かって突き出してきた。

 

 シエスタはその中にある物体を見て思わずウッ……とうめき声を上げる。

 

 なんかそれは……黒かった。いや、いっそのことグロかったと言ったほうが的を射ている。真っ黒な液体の中を、ドロドロになった何かが滞留しておりときどき何かの目玉のようなものが浮いたり沈んだりしている。

 

 お粥という料理は知らないが、少なくともこんなゲテモノ系の食べ物ではないとシエスタは確信した。

 

「そうだよサイトお兄ちゃん! エルザを守ってあんなことになったんだから、安静にしてもらわないと困るよ!!」

 

 精神を守るためか、サイトがそのお粥から必死に視線をそらしながら「あー……えっと」と必死にそのお粥(?)を食べなくてよくなるような理由をひねり出そうとしているところに、さらなる追い打ちを金髪の美少女がかけてくる。彼女はにこやかな笑顔を浮かべながらあるものをサイトに差し出してきた。

 

「そのあとには、エルザ特製の薬草団子をあげるよ!! 大丈夫!! すぐに痛みなんてなくなっちゃうから!!」

 

 一瞬その笑顔が「永遠にな……」と言わんばかりに凶悪にゆがんだ気がしたが、シエスタは自分の精神衛生上あまりよろしくないその事実を全力で無視することに決める。その手に握られている紫色の串団子の中からのぞく草が、平民の間では猛毒と知られるとある植物だった気がしたが、気のせいだと信じ込む!!

 

「あぁ……おまえ、マジで俺を殺して証拠隠滅する気だな!?」

 

「ん~? 何のことかわからないよお兄ちゃん?」

 

 かわいらしい笑顔を浮かべてスットボケるエルザに、サイトは本気で戦慄したように愕然とした表情を浮かべていた。男性不信のシエスタから見ても、その表情はとても憐れみを誘うもので、死刑間際の囚人を彷彿とさせる顔だった。

 

「ま、待ってくれルイズ!! 俺はもう平気だから!! そ、それにほら……俺ちょっと恩人のお手伝いしないといけないし!!」

 

「お手伝い?」

 

 そんな中、必死に言い訳をひねり出したサイトはあわてて体を動かし後ろに待機していたシエスタをルイズたちの前に出す。

 

 な、何してくれてんですかこの人はぁああああああああああああああああ!? と、厄介事に巻き込まれたと本能的に悟ったシエスタがガクブルしているのを見て、ルイズは鋭く瞳を細めながら一言、

 

「あんた……本当にこんなけが人に手伝い頼んだの?」

 

「いいえ!! 微塵も頼んでいませんわ!! 貴族さまの使い魔さまにそんな……めっそうもない!!」

 

「ちょ!?」

 

 最後の命綱に裏切られ絶望の声を上げるサイト。そんな彼のことをしり目に、ルイズは大きく頷き、

 

「そう。ごめんなさい、このバカが仕事のじゃましちゃったみたいで」

 

「い、いえ……」

 

 最後に謝罪だけ残してサイトをドナドナしていった。その際サイトが「助けてっ!!」と言わんばかりの哀れな視線でシエスタを見つめてきたが、

 

「……………………」

 

 ごめんなさい。という気持ちをめいいっぱいこめて、シエスタは頭を下げた後そそくさと洗濯へと戻った。

 

 私はしがない平民なんです……。貴族さまには逆らえないんです……。と、内心でシエスタが必死に言い訳をしている間に、サイトのこの世のものとは思えない絶叫がルイズの部屋から響き渡った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そこは真っ赤な……真っ赤な世界だった。

 

 その中で数十人近い人が、まるで演劇をするかのようにうごめいていた。

 

真紅の鎧と大きな鎌が特徴的な武装をした、かなり強そうな騎士たち。しかし、その人々はたった一人の化物によって蹂躙されていた。

 

 その化物は、シエスタと同じような黒い髪に黒い瞳を持っている。しかし、その瞳の中央に輝く真紅の模様はシエスタの二つの点とは違う、禍々しい五芒星。

 

 その瞳から五芒星が飛び出し、ぺたりと武装をしていた人々のうちの一人にに張り付いたかと思うと、突然、

 

《逆らうな。お前は分子の砂になって消えろ》

 

 その通りになった。男はまるで夢か幻のように、小さな粒になって消滅した。

 

 その光景を見て思わず悲鳴を上げるシエスタ。しかし、そんな彼女を無視して惨劇は続く、

 

 慌てふためく鎧たち。その姿からはもう完全に戦意は見えない。しかし化物は攻撃をやめない。不気味な笑顔を追うかべながら、次々と兵士たちを虐殺していく。

 

《神。悪魔。邪神。勇者。化物。貴様らはなんて呼ぶ? 貴様らはなんて呼ぶ? はははははははははははははははは》

 

 化物の口は動いていないのに声が響く。不安を掻き立てるような不気味な声。

 

 もうやめて……。その声を聴き、シエスタは思わずつぶやく。

 

 もうやめてよっ!! 聞こえないと分かっていても、夢の中にいるのだと分かっていても、それでもシエスタは必死に叫んだ。だが、

 

 すべて終わった。シエスタの懇願むなしく、兵士たちは全滅した。

 

 あるものは破裂し、あるものは潰れ、あるものは消え、あるものは弾け、あるものは砕けた。

 

α(はじまり)は破壊だ。我は何も生み出さない。恵まない。救わない。ただ消すだけ……真っ白に》

 

 真紅に染まった大地に、たった一人で立ち己が行った殺戮に酔いしれる化物。シエスタは恐怖に染まった視線で呆然とそれを見続け、そして、

 

《見つけたぞ……すべての式を解く者っ!!》

 

 突然、今まで殺戮を行っていた人の姿を破り捨て、姿を現した悪魔のような化物に、シエスタはっ!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「あだっ!?」

 

 机に伏すようにして寝ていたシエスタは、恐怖のあまり飛び起きた。そして、彼女の後頭部に鈍い衝撃。それと同時に上がった悲鳴の声は、シエスタの聞き覚えのある声だった。

 

「あ、え……アリス?」

 

「仕事中に居眠りなんて……いい度胸してんじゃないシエスタ」

 

 どうやらシエスタが飛び起きた際に頭をぶつけてしまったらしいあごの部分をさすりながら、顔を凶悪な笑顔へとゆがめるアリス。

 

 それを見てシエスタは確信する……。あ、これはめちゃくちゃ怒っている顔だ、と……。

 

「メイド長が来る前に起こしてあげようと思ったけど……気が変わったわ。ちょっと、今すぐ呼んでくる」

 

「ちょ、ま、まって!! お願い待って!! 後生だからそれだけは勘弁してぇえええええええええええええ!!」

 

 先ほど見た夢がいったい誰のものなのか考えながら、シエスタは全力全開で自分の居眠りをチクろうとする友人をなだめるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

翌日の早朝。

 

「あぁ、ひどい目にあった……」

 

 結局ルイズの部屋へと連行されたサイトは、そこで待っていた精神力が回復した水魔法の先生の手によって、何とか傷を完治させ、ルイズのゲテモノ粥とエルザの暗殺団子を食べなくてもよくなった。

 

 もっとも、急速に骨を治すためにずいぶんと無理をしたため、すさまじい激痛が走り思わず絶叫を上げてしまったが……。

 

何とも情けない姿を見せちゃったな~と、サイトは羞恥心で顔を赤らめながら小さく反省。

 

 とにもかくにも、本当の命の危機はなんとか脱することができたので現在の彼はすがすがしい表情で、デルフを片手にいつも朝練をしている広場へと向かっていた。

 

 ライナとフェリスは現在不眠不休で労働中らしい。一昨日自分たちにあんな化け物押し付けたんだ……いい気味だ!! と、内心で烈火のごとく怒りながらも、組手相手がいないことをほんの少しだけ寂しさを感じつつサイトは無事に広場へと到着する。

 

「じゃ、はじめるかデルフ」

 

「おうよ!! フェリスの姉さんがいないからとりあえず俺が指示する通りに俺を振ってみろ。基礎的な能力は大分付いてきたんだ、後は型やら何やら覚えて下地作っていくぜ相棒」

 

「了解!!」

 

 とりあえず今は素ぶりだ。気分を入れ替え心機一転! サイトが豪快に大剣のデルフを振ろうとしたその時っ!!

 

「サイトさん!!」

 

「ぶっ!?」

 

 何かが勢いよく背後からぶつかってきた!!

 

 完全な不意打ちだったため、思わず変な悲鳴を上げばたりと地面に倒れてしまうサイト。そのさい背骨がすごい音を立てた気がしたが、ルイズの折檻のほうが痛いので大した被害はないと思われる。

 

「ちょ、な、ななななななに!?」

 

 とはいえ背後からの不意打ちというものは、大なり小なり人の精神に被害を与える。鍛えていたとはいえまだまだ初心者気分が抜けきらないサイトは、みっともなく狼狽の声を上げあわてて背後を振り返った。

 

 そして、

 

「さ、サイトさん……恩が残ってるって言ってましたよね!!」

 

 泣きそうな顔をした、いつぞやに空腹でぶっ倒れていた自分を助けてくれたメイドの少女――シエスタがサイトの背中に、

 

 ムニュッ……とした、少女の二つのやわらかいクッションの感触が背中から伝わる密着具合で自分の背中に抱きついてきていて。

 

「ふぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 なんだかそれだけでHP的な何かが回復する錯覚を覚えるサイト。とりあえず鼻の奥からこみ上げてくる何かをこらえるために、あわてて鼻を押さえる。

 

 シエスタはそんなサイトを涙でうるんでいるにもかかわらず、明らかに蔑みの色が見えてしまうほどの白い目で見つめた後、フルフルと首を振って思考を入れ替え本題に入った。

 

「手伝ってもらいたいことがあるんです!! 助けてくれませんか!!」

 

「え?」

 

 何とか鼻血を我慢しきることに成功したサイトは、シエスタの切羽詰まった嘆願に思わず首をかしげた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ライナさんがそんなことを? 信じられないな……」

 

「本当ですって!! 私は確かに見たん(・・・)ですって!!」

 

 物陰に隠れながら壁を直しているライナを監視しているシエスタは、護衛として引きずってきたサイトにすべて話した。自身の能力のこと、昨日見た夢のこと、そして今朝になってライナの顔を見て、その夢に出てきた騎士団を殺戮した人物の顔がライナにひどくそっくりだということに気付いたことを。

 

「でも……所詮夢の話だろ?」

 

 才とは正直、シエスタの特殊能力に関しては眉唾程度の認識しかしていなかったが、彼女のあまりの必死な様子に逆らうこともできず結局ここまで引きずってこられたのだが、やはりシエスタの言を信じることができなかった。

 

「サイトさん!! 夢を馬鹿にしてはいけません!! 夢とはすなわちその人の願望……つまり、ライナさんは……殺戮衝動のある超危険人物かもしれないんですよ!!」

 

「いや~……ないわ~」

 

 シエスタが一息に告げてくるライナ危険人物説を、サイトは半笑いで聞き流しながら否定する。

 

 あの万年昼寝したがり男が? フェリスさんにいつもフルぼっこにされている人が? バーシェンさんに強制労働を命じられて今も泣きながら城壁直している人が?

 

 なんの悪い冗談だ……と、サイトは苦笑を通り越して失笑を浮かべた。きっとシエスタが見た夢もライナにそっくりな誰かの夢だろう。サイトはそう当たりをつけて、ガタガタ震えるシエスタの肩をたたいた。

 

「まぁ、そんな心配なら俺が聞いてきてあげるよ。どうせ違うだろうけど」

 

 そういって、サイトはシエスタとともに隠れている物陰から立ち上がり、

 

「お~い、ライナさ……」

 

 と、呼びかけようとしたところでシエスタにすごい力で引っ張られ地面に引き倒された。

 

「いたたたた!? ちょ、なに!?」

 

「ほんと、なんでそんなに馬鹿なんですか!? あの人が危険人物だったらそんなこと聞いた瞬間首が体からはなれますよ!?」

 

「ライナさんはそんなことしないから!?」

 

 むしろしそうなのはその相棒のほうだよ!! と、サイトはいつも修行と称して自分の首を容赦なく刎ねに来る金色の髪をもった暴力の女神を思い出し顔を引きつらせる。

 

「だいたい、認めなかったとして、安全に帰ってきたとして……その人が本当のことを言っている保証なんてどこにもないじゃないですか!!」

 

「じゃぁ、どうしろって言うんだよ?」

 

 こっちの世界に来てからいろいろと助けてくれている恩人に対して、明らかな暴言を吐きまくるシエスタにほんの少しだけ機嫌を悪くしながら、サイトは根気強くシエスタの要望について尋ねてみた。

 

 なんやかんやで美人には弱いサイト。彼女に強く怒りを向けることはしなかった。

 

 だからシエスタは大きく頷いた後、

 

「今日一日あの人のことを監視します!!」

 

 こうして、サイトとシエスタの一日が始まった。

 




再投稿を終えてようやく新作^^

 週一更新……できたらいいなぁ……

っ「とある外道の少年探偵(http://syosetu.org/Novel/658/)」

 こっちもかいていますし……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。