ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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夢から覚めて

 ライナの観察記録・朝の部

 

「はぁ~……なんで俺がこんなこと」

 

 サイトとシエスタが物陰からじっとライナを見つめる中、ライナは地面を錬金し次々とレンガを生成。それ一つ一つにスクウェアクラスの固定化をかけ、片手間に作って置いた小型のゴーレムたちに運ばせる。

 

 本職の土魔法使いが見れば卒倒しかねないほどの魔法の大盤振る舞い。普通なら瞬く間に魔力が枯渇し意識を失っている。だが、精霊の魔力変換という反則技によって魔力が無限と言っていいほど使えるライナには、大した負担にはならない。

 

 というわけで、突貫作業で見る見るうちに修復されていく宝物庫の壁たち。それを傍らで見ていたバーシェンは感心したように言葉を漏らす、

 

「ふむ……思った以上にいい拾い物をしたな」

 

「そう思うなら、休ませてよ~。もう何時間働いたと思ってんだよ~」

 

「……まだ二時間もたっていないぞ馬鹿者」

 

 そう言い合う二人の背中を見つめながらシエスタとサイトは目を見合わせる。

 

「今見張っても進展なさそうですね……」

 

「なんか忙しそうだしな……」

 

 今見張ってもそんなに意味はないだろうな~と判断した二人は、

 

「ちょ、ライナさんの仕事終わったらまた呼んでくれ。俺向こうで素振りしてくるし」

 

「お付き合いしますよ?」

 

「え? いいの?」

 

「えぇ、ちょうど護身術とか習いたいな~と思っていましたし。渡りに船です」

 

 結局朝はライナの監視をあきらめて違う用事を片づけに行った。

 

 

 

ライナ観察記録。昼の部。

 

 

 

 宝物庫の壁修理を、直った壁全体ににヘキサゴンクラス級の固定化を掛けることによって終えたライナは、ようやくバーシェンから一時休憩の許可をもらい、自室へ向かって歩みを進めていた。

 

「さぁ! 今度こそ監視開始です!」

 

「なぁ……もうやめね? あの人今にも倒れそうだぞ?」

 

 久しぶりの強制労働に精神的に参ってしまっているのか、ライナの歩みはどことなく頼りなくふらふらと揺らいでしまっている。

 

「何をいってるんですか! 一刻も早くあの人が危険かどうなのか確認しないと、私たちが安心して学園生活を送れないじゃないですか!!」

 

 シエスタが鋭くサイトをいさめた時だった。

 

「な、なんじゃこりゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 自室を除いたライナがそんな悲鳴を上げたのは。

 

「な、なんです!?」

 

「え? え? ライナさん撃たれたの!?」

 

 あわてて二人は隠れていた物陰から顔を出し、そして、

 

「うぁ……ひどい。だれがあんなこと……」

 

「…………………………」

 

 シエスタは思わず息をのみ、サイトは冷や汗を流しながら目をそらした。

 

 なぜならいつもライナが寝ていた部屋は、みるも無残に黒焦げになっており、ベッドやら何やらは跡形もなく消し飛んでいたからだ。

 

 無論言うまでもなくシルとサイトたちが戦ったときの流れ弾がライナの部屋を粉砕してしまったせいだ。

 

 しかし、当然そんな事情を知らないシエスタとライナは茫然自失といった様子でボロボロになった部屋を見つめており、事情を知っているサイトだけは「いやいやしらないよ~。俺は何も知らない。て言うか俺は何も悪くないし……」と必死に内心で言い訳していた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 というわけで自分の部屋での就寝を諦めざるえなくなったライナは、トリスタニアの行きつけの宿へ向かうため、寝不足(一日五十時間寝られないときはライナにとっては寝不足)で重い体を引きずり、首都へと足を運んでいた。

 

「うあ……くそ。シルを放置したのが裏目に出た……。こんなんだったらサイトたちに押し付けるんじゃなくてフェリスだけに押し付けるんだった……」

 

 自分は絶対シルの相手をしたくないことは変わらないらしい……。その言葉を物陰で聞いていたサイトは、先ほどの申し訳なさなどどこへやら。昨夜自分をひどい目にあわせた元凶を思い出し、ぶるぶると怒りに震えていた。

 

「あ、あの人には反省って言葉がないのか……」

 

「人のこと言えないと思いますけど……」

 

 だが、その隣でサイトの視線を追っていたシエスタは、サイトの視線がしっかりとライナの右後方へと流れ、ライナとすれ違った胸がエクスプロージョンしている女性にしっかりとターゲットされていることを確認した。

 

 ほんと男ってバカばっかり……。と、内心で吐き捨てながらシエスタは当初の目的を忘れずライナをじっと観察する。今のところ怪しい仕草は見つかっていないが、ほんの少し視線を外すことが命取りになるかもしれない……。そう思いながらライナを監視していると、

 

「っ!」

 

 シエスタはある張り紙を発見してしまった。それを見たシエスタはぶるぶると震えながら、その貼り紙をはがし、バンバンとサイトの背中をたたく。

 

「ちょ、いたいいたいいたい!? 何シエスタ? 今あの人切れた靴紐直そうと前かがみになっているすごいところで……おぉ、お、た、谷間が」

 

「いつまで見てるんですかド変態!! それよりサイトさん、これ見てください!!」

 

 シエスタがどなりながら差し出してきた張り紙に、名残惜しそうに女性から視線を外したサイトはじっと見て。

 

「あぅ……」

 

 ひくりとほほを引きつらせる。なぜならその貼り紙は指名手配所で、そこには若干人相が悪くなってはいるがライナらしき黒目黒髪の男の似顔絵が描いてあったからだ。

 

「で、生死問わず(デッドオアアライブ)って、書いてありますよ!? ほら、あの人やっぱり凶悪犯だったんですよ!!」

 

 そう言って慌てふためくシエスタの肩をサイトはぽんぽんと叩き、

 

「あぁ……シエスタ……俺、字が読めないから何とも言えないけど、それもしかして《変態色情狂》とかそれに準じる罪状が書かれていない?」

 

「え? えぇ……。連続婦女暴行犯だって……ひ、ひどい。そんなことする人だったなんて……」

 

 やはり私の夢は本当のことだったのね!? と、慄然とするシエスタをしり目にサイトはぶるぶる震えながら、首を横に振った。

 

「いや……どっちかっていうとそれ完全に冤罪というか……」

 

「はぁ? なんでそんなこと言いきれるんですか?」

 

 やけにはっきりと否定するサイトに、シエスタが首をかしげた瞬間!

 

「おぉ、ライナ! こんなところにいたのか?」

 

「「っ!?」」

 

 そんな澄んだきれいな声が聞こえた瞬間、離れているはずのライナとサイトの体が

同時にピクリと震える。

 

「ふぇ、フェリス……」

 

 ライナが声の聞こえたほうへと向くのと合わせるように、視線を動かしたシエスタはその声の主を確認し思わず絶句した。

 

 そこには女神が立っていた。

 

 流れる長い金髪に、均衡の取れたスタイル。神が自ら腕を振って完成させたかのような究極の美がそこにはあった。

 

「あ、あのひと……最近私たちの間でうわさになっている、美人女剣士さん」

 

「しっているの?」

 

「有名人ですよ! 剣士なのにその強さを認められて学園で暮らすことを許されたんですよね? 平民のあこがれです!!」

 

 力強くそう説明してくれたシエスタに、サイトは思わずうつろな笑い声をもらした。まさか、彼女が美人だったから、男性教員全員が結託して許可を取ったなど彼女には言わないほうがいいだろう……。

 

 だが、どちらにしろシエスタの憧憬の念はこの時壊されることになった。

 

「ちょうどよかったライナ。私もあの鬼畜宰相に回された今日の分の仕事が終わったところでな、後は私のライフワークをするだけといったところ……」

 

 フェリスがそう言いながら、どういうわけか満面の笑みでライナに近づいてくる。ライナはそれに得体のしれない威圧感でも感じたのか、顔を真っ青にして踵を返し、

 

「我・契約文を捧げ・大地に眠る悪意の精獣を……」

 

「遅い」

 

「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 とっさにリミッター解除の魔法を使って逃げようとしたのだが、やはりフェリスはその数倍素早く、その魔法は剣によって真っ二つに切り裂かれてしまった。

 

「だ、だが俺にはまだフライがあるぅうううううううううううううううう!!」

 

 しかし、ライナもやられてばかりではいなかったようで城壁修理で若干使ったのが残っていた風の魔力を使用し、宙へと飛ぶ。

 

 自分の手の届かない空へと逃げたライナを見て、フェリスは若干不満げな顔をして、

 

「む……」

 

「ふはははははははははは!! ずっとお前にいじめられているわけじゃねーンだよ!! バーカバーカ! ざまぁみろ!!」

 

 フェリスがこちらを追撃してこないとわかったとたん、空中ではしゃぎ勝ち誇るライナをみて、一気に機嫌を悪くした。

 

「ふん!」

 

「のぁ!?」

 

 腰に差していた長剣をとんでもない速度でブン投げるフェリス。その狙いはとてつもなく正確で、空を飛び油断していたライナのほほをかすめ空へと消えていった。

 

「や、やばっ!?」

 

 ライナはそれを見てあわてて逃げの体制をとるが、もう遅い。悪魔フェリスの仕込みは数日前にすでに終わっているのだから……。

 

「きゃぁあああああああああああああああああ!! 見つけたわ! 女の敵の連続婦女暴行犯よぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「なっ!?」

 

 フェリスが突然女らしい悲鳴を上げ、ライナを驚かせた瞬間、

 

「とうとう見つかったのかい!」

 

「みんな武器を持ちな!!」

 

「今日こそとっ捕まえて山に埋めてやる!!」

 

 そこらの民家や商店から、出るわ出るわ箒やら麺棒やら包丁やらで武装した女性の方々。どういうわけかその瞳には戦意が満ち溢れており、

 

「あいつか!?」

 

「空を飛んでるよ!? メイジかっ」

 

「かまうこたぁない!! 簀巻きにしてやりな!」

 

「ちょちょちょちょ……貴族に対する忌避感とかは!? てめぇフェリス何しやがった!!」

 

「ふむ。最近トリスタニアで見た貴族があまりに横暴が過ぎたのでな、私が指導し女性の自警団を作ったのだ。その名も《変態色情狂をぼっこぼこにしたあと、ハルケギニア全土にその悪名を広めて、人生根こそぎだめにしてやった後、何食わぬ顔で助けてやって襤褸ぞうきんになるまで働かせてそのすべてを絞り取ってやろう》の会だ。ちなみに記念すべきターゲット第一号は、《無限の魔力があるのをいいことに好き勝手女を襲っては荒野を駆け巡る変態魔法使い》ライナ・リュートだな」

 

「お前またないことないこと広めて俺が外を歩けなくしやがったなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 なぜか号泣しながら空を飛び逃げようとするライナ。しかし、さすがフェリスに鍛えられたというべきか、外に出てきた女性たちは精密な狙いで空を飛ぶライナに向かって各々の武器を投げてきて、

 

「ちょ、あわ!? あいたっ!? って、包丁はやばいってぇえええええええええええええええええ!?」

 

 次々と飛んでくる武器たちをかわせるほどフライに慣れていなかったライナは、体のあちこちに走る衝撃と鈍痛にあっさりと撃墜。怒り狂う女性の波にのまれて消えた……。

 

 そんなライナを見て高笑いするフェリス。彼女の背中を物陰から見ていたシエスタとサイトは……。

 

「しゅ……首都って怖い」

 

「いや、むしろこわいのはフェリスさんだろ……」

 

 といって、本来の目的も忘れライナが生きていることを切に願うのだった。

 

 

 

ライナ監視記録・夕方の部。

 

 

 

「や、やっとたどり着いた……」

 

 ライナが命からがら女の波から抜け出してから数時間後。ライナはようやくぼろぼろといった体で宿屋にたどり着いていた。

 

 その間、フェリスとフェリスが作ったと言っていた組織の連中のしつこい追撃を食らい、それはそれは見ごたえのある――魔法や剣術すら飛び交う――知恵が絞られた追いかけっこを披露してくれたのだが、脳内が「早く寝たい」一色のライナが片方の陣営になっている以上、見ている者にとってはフェリス陣営がボロボロの相手をいたぶっているようにしか見えず(実際その通りなのだが)、ただひたすら涙を誘った。

 

 だから、ライナを監視していた二人は、

 

「よ、よかった……」

 

「ようやく、ようやくここまでたどり着いたんですねライナさん……」

 

 物陰からライナを見守りながら滂沱の涙を流していた。もう気分は初めてのお使い終盤。いろいろと心配だった末っ子が艱難辛苦を乗り越えお使いを終えようとしているところだ。

 

「やっと、やっとだ……やっと寝られる」

 

 ライナ自身ももう涙を流さんばかりに感動し、フラフラと、しかし着実に一歩一歩宿屋に向かって歩みを進めていた。

 

 しかし……運命は非情に、残酷なものであった。

 

「あぁ! こんなところにいたんですかライナさん!!」

 

「「「え?」」」

 

 ライナがあと一歩足を踏み出せば宿屋に入るというところで突然かけられた声。どこかで聞き覚えがある……どころか、条件反射的に逃げてしまいそうになるあの声を聴き、サイトは全力全開で逃げようとしてシスタに捕まり、ライナはまるで油の刺されていないさびたブリキ人形のようにギギギギギと声が聞こえた方にゆっくりと顔をむける。

 

「もう、探しましたよライナさん! バーシェン卿の遣いで参りました。休憩時間は終わりだそうです。今度は王宮に出仕して馬車馬のように働けと」

 

「もういやだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 今度は正真正銘泣きながら、シルから逃げようとするライナ。そんなライナを見て、シルはさわやかな笑顔を浮かべつつ一言、

 

「あと、バーシェン卿からの伝言ですが『べつに逃げても構わんが、その場合こちらで預かっている貴様の最高級羽毛布団と最高級ブランドのベッドは今度こそ灰燼と帰すが、かまわんな?』と」

 

「ぐはっ!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間血反吐をまき散らしぶっ倒れるライナ。もう涙が止まらないシエスタとサイト。

 

 こうしてライナの一日はまだまだ続く……労働という悪魔との戦いは……。

 

 

 

「ところでライナさん? あなたの後ろを着けてきていた二人ですが、いったい何していたんですか?」

 

「もう疲れて死にそうだからほっといたんだ。だからしらね……」

 

 シルとライナがそんな会話をしていたことなど、サイトとシエスタは知らない……。

 

 

 

ライナ観察記録・まとめ

 

 

 

「で、ライナさんが凶悪なシリアルキラーだ!! って、証拠は見つかったのかよ?」

 

「……見つかりませんでしたけど」

 

 サイトに問いかけられたシエスタは眉を情けなくゆがめながら、殺人者どころか死にかけている今日一日見続けたライナの姿を思い出していた。

 

「でも……私は夢で確かに」

 

「はぁ~。あのなぁシエスタ」

 

 しかし、あくまで自分の持論を曲げようとしないシエスタの姿にサイトは大きくため息を漏らし、呆れたような口調で話しながら頭をかいた。

 

「確かにシエスタが見た夢は本当なのかもしれない……。ライナさんが見た夢は、確かにひどいものだったのかもしれない。でもさぁ……ひどい夢をその人が見たからって、その人のことを最初から悪人だって決めつけるのは間違ってないか?」

 

 サイトが言ったその言葉に、シエスタは自信なく伏せていた視線をゆっくりと上げた。その瞳には「なにいってんだこいつ?」と明らかに、バカにしきった色を宿した光が見えたが、

 

「夢は確かに人の願望を表すものだけど、それ以上にみたい夢が見れているわけでもないだろう?」

 

 サイトがそっけなく言った言葉が、シエスタの胸に響き渡った。

 

「え?」

 

 今までシエスタが考えもしなかったことを指摘され、シエスタは思わず目を見開きサイトの顔をジッと見つめた。

 

「シエスタだって悪夢を見ることがあるだろ? 見たくない夢を見て、必死になって否定しようとしているのに、いつまでたっても悪夢は消えない。悪夢っていうのはそういうものだろ?」

 

 そういわれてシエスタの脳裏に浮かぶのは、悪夢を見て飛び起きた自分。その夢はサイトが言うように確かに望んでみたものではなかった。

 

「必死に夢を否定して、それでもやっぱり見ちゃって……何度も何度も何度も、見ないように努力してもやっぱり見てしまう。そんな人たちの夢を覗いて「お前は悪い奴だ!」って、言い張るのは……なんか、違うだろ?」

 

 サイトが客観的に見た自分の姿の評価をきき、シエスタは思わず目を閉じてその姿を思い浮かべる。

 

 思った以上に醜悪な姿だった。思った以上に最低な行いだった。そんな自分の姿がまざまざと思い浮かび、シエスタは思わず声を震わせる。

 

「そう……ですね」

 

 誤解をしていたのは自分の方なのかもしれない、とシエスタは思った。

 

 自分だって恋をしたとき思わず貴族様の夢を覗いてしまった。幼い自分から成長し、力を持て余すあまり爆発したあまりに激しい思慕の念は、時として思いがけない暴走を生み出す。思春期というものはそういうものだ。

 

 現実ではもっときれいな恋をしたかったのかもしれない。夢で出てきた――大好きな人物を自分の妄想で汚してしまったことを、必死に否定して、泣きながら押さえつけて、それを仮面の下に隠しながら苦しんでいた人もいたかもしれない。

 

 夢で酷いことをしたからといって、シエスタはその人物を見ることをやめていた。もしかしたら、シエスタに申し訳なくて罪悪感に押しつぶされそうになっていた人もいたかもしれないのに。

 

 あんな夢を見てしまって、死にたいほど後悔をしていた人がいたかもしれないのに……。

 

 そんな人がいたかもしれないのに、シエスタは夢の内容だけでその人々を評価し、毛嫌いした。

 

「あぁ……」

 

 今ならシエスタにもわかった。あんな夢を見たにもかかわらず、普通の人として働き、普通の人として知り合いに接していたライナを見たからこそ分かる。

 

 自分の力が万能ではないと。人の願望というものは、決してその人の人格には直結しないのだと。

 

「夢ってのは綺麗なものばかりじゃない。人間なんだ。いろいろ間違えることだってあるし、魔がさすこともきっとある。でも、だからって……その夢が間違っていたからって、現実の人柄への評価に直結させていいことには、絶対にならないと思うんだ」

 

 サイトが拙いながらに主張した、ライナをかばう言葉は、シエスタの心にきちんと届いた。

 

「えぇ……。そう、ですよね」

 

 シエスタはサイトの言葉を聞き、思わず自嘲の笑みを浮かべる。それを見たサイトは少し驚いた顔をしたが、次の瞬間、

 

「ありがとうございます、サイトさん。こんなバカな私の戯言に付き合ってくれて……目が覚めた(・・・・・)気分です」

 

 シエスタがそう言って晴れやかに笑うのを見て、サイトは安心したといわんばかりに笑った。

 

 いい笑顔だな。お互いの笑顔を見て、二人は同時にそう思い、それが何となく伝わったのか、どちらからともなくクスクスと笑い声を上げる。

 

「わたし……今度里帰りしたときに、幼馴染たちと一杯話そうと思います。今度は夢じゃなくて現実で、あの人たちを見ていきたいです」

 

「あぁ、それがいいよ」

 

 そして、新しい決意を胸に秘めたシエスタの言葉に、サイトは大きく頷いた後再び笑った。

 

 こうして、長い間悪夢を見ていた一人の少女は目を覚まし、本当の現実を知ることとなる。その道は長く険しいものだったが、それでも少女は晴れやかに笑い続けた。

 

 

 

「でも、サイトさんがエロいことには変わりありませんけどね~。なんか夢で発散できない分ずいぶんと溜まっていらっしゃるようですし?」

 

「なっ!? 俺の夢まで覗いてたの!?」

 

「いや~。なかなか調教が行き届いていらっしゃるようで?」

 

「どの夢だ!? いや言わなくていい!! いいから忘れてくれぇええええええええええええええ!!」

 

 必死に叫びサイトをからかいながら、シエスタは彼に追いつかれないように学園への道をひた走る。

 

 自分の新しい生活の、第一歩を踏み出すために。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 後日談。

 

 ルイズの部屋にて、

 

「こんな遅くになるまでどこに行っていたのかしら?」

 

「そ、それは……」

 

「あぁ、言い訳はいいのよ? あんたが一人のメイドと一緒に首都にデートに行った情報はしっかりとつかんでいるから?」

 

「…………………………」

 

「ははははは。まったくこの犬っ……。ご主人様が、最近頑張っていたからちょっと報いてあげたらすぐ調子にのって……。あっちへフラフラ、こっちへフラフラ……尻尾を振ってぇええええええええええええええええ!!」

 

「る、る、る……ルイズ……こ、こ、これには深い事情が……」

 

「い、い、いいわ。どうやら躾が甘かったみたいね……さぁ、犬っ! 選びなさい!」

 

 1ルイズに土下座してから折檻を受ける。 2ルイズに折檻を受けてから土下座する。

 

 ルイズ……ルイズ。選択肢がない気がするんだ……。

 

 サイトは、何やらわけのわからない怒りを自分に向けてくるご主人に「わけがわからないよ(◕ω◕)」状態になっていたが、ただ一つだけ確信することがあった。

 

 それは、

 

「あぁ、今夜は眠れないな」

 

 もちろん暴力的な意味でですよ? と、サイトが内心でシエスタに言い訳した瞬間、鞭がしなる音が聞こえた。

 

 

 

 そのころのシエスタはというと、

 

 

 

 彼女は再び真紅の世界にいた。

 

 だが、その世界にいた男は以前見た夢と違いすぎる姿をしていた。

 

「っ……ひどい、誰がこんなこと」

 

 男……ライナは鎖に繋がれ、まるで罪人のように拘束されていた。その体には無数の拷問の跡と思われる傷が刻まれており、なぜ生きているのか不思議なくらいぼろぼろだ。

 

「い、いま助け……」

 

 シエスタがあわてて駆け寄ろうとしたとき、突然世界に声が響き渡った。

 

 化物め。

 

 災厄をまき散らす化物め。

 

 飼ってやっているだけ有難いと思えよ……。

 

 いうことも聞かぬじゃじゃ馬が。《暴走》から戻れる個体でさえなければ……。

 

 さっさと死ねばいいものを。

 

 お前は生きているだけで害悪だ……。

 

 蔑み、嘲笑(わら)い、見下した声達。そのあまりの醜さに、シエスタは思わず耳を塞ぎうずくまる。

 

「やめて……やめて……やめてぇええええええええええ」

 

「俺のために苦しむことはないよ」

 

「っ!?」

 

 その時だった。うずくまったシエスタに向かって、鎖に繋がれたライナが声をかけてきたのは。

 

「俺は確かに化物だ……」

 

「……」

 

「自分の力も抑えきれず、友人も知り合いも、まとめて殺してしまう化物だ……」

 

「……ちがう」

 

「だから俺みたいなやつのために泣くなんてやめろ」

 

「違う……」

 

「お前は人間で、俺は化物。蔑まれるのは慣れているさ……」

 

「ちがっ……」

 

 シエスタはライナの言葉を必死に否定しようとした。だって、あまりに彼があまりに自分をあきらめた目をしていたから。望むべく関係など望めず、生きていることすら許されず、そんな扱いを受けることを仕方ないと思ってしまっているから。

 

 どれだけ悲しい瞳をしていても、ライナは諦めきったような顔で笑っていた。

 

 だが、

 

「化物でもいいっ!!」

 

「っ!?」

 

 突然自分の背後から聞こえてきた声に、シエスタはあわてて後ろを振り返った。そして彼女は悟る。

 

 ライナは自分に話しかけていたわけではなく、後ろにいる一人の少女に話しかけていたのだと。

 

 その少女は亜麻色の長い髪を揺らした、可愛い……しかし、まるで奴隷のようなボロボロの服を着た少女。

 

「ライナは私を助けてくれた……誰も助けてくれなかった私を……。だったら、私はあなたが化物でも構わない!」

 

 泣きながら、縋るようにそう叫ぶ少女の隣に、今度はひとりの女性が現れた。

 

 赤い髪をした、瞳に涙をためた女の人。年は大体ライナと同じくらいだろうか?

 

「ライナは化物なんかじゃない。少なくとも、私は化物なんて思わないよ」

 

 次に現れたのはフェリスさんだった。ボロボロになった姿で、鎖に繋がれ地に膝をつけているライナを抱きしめながら、いつもは浮かべていない綺麗な笑みを浮かべていた、

 

「よく戻った、ライナ。流石は私の茶飲み友達だ」

 

「ふぇ、りす……」

 

 思わずそうつぶやいたライナに、一つの手が差し伸べられた。

 

「俺にはお前の力が必要だ」

 

 その手を差し出した人物は、シエスタが見たことないくらい美しい、銀髪と金の瞳を持つ魅力的な青年で、

 

「化物のおれの力が必要だって?」

 

「あぁ、そうだ。ライナ……俺はこの国を変える。だから、俺と一緒にこい!」

 

 自嘲する色を含んだライナの言葉に、青年は力強く言い切りライナの手を握った。

 

「「「「ライナ。こっちへこい」」」」

 

 その手はいつの間にか四人の物へと増えており、傷だらけのライナの体を癒しながら彼を縛り付けた鎖の拘束を振りほどいた。

 

「はは……お前ら……ほんとバカだな」

 

 でも、ありがとう。そういったライナはシエスタの隣を過ぎ去り、四人のもとへと歩き出す。

 

 その顔にはあの悲しげな笑みは浮かんでおらず、ただの友人ができたことを心底嬉しそうに笑いながら、涙を流していて……。

 

 

 

 そこで彼女は目を覚ました。

 

「……」

 

 無言のうちのムクリと起き上る彼女に、

 

「あれ、どうしたのシエスタ?」

 

「ふえ……?」

 

 同室のアリスが声をかけた。

 

「いい夢でも見た? 笑いながら泣いてるわよ?」

 

「あ……」

 

 そこでシエスタは自分が泣いていることに初めて気づき、

 

「うん……。久しぶりに、良い夢を見たわ」

 

 アリスが今まで見たことがないほどの、美しい笑みを浮かべた。

 




 サイトがシエスタにフラグを立てたかだって?

 それはもちろん……神のみぞ知る!!
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