ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

21 / 56
お前の好意はたぶん……

 サイトたちが村にたどり着いた日の夕方。

 

 サイトはやさしい風は吹きぬける、夕日に染まったタルブの平原をじっと眺めていた。

 

 あれからサイトは《竜の羽衣》――ゼロ戦が自分たちの世界のものであること。シエスタの曾お爺さんはおそらく自分と同じ世界の出身であることを告げた。そののち、『これを少し貸してほしいんですけど』と、懇願してくるサイトに村人たちとシエスタは協議の結果遠慮なくゼロ戦を譲ることにした。

 

 もともと何の役にも立たないオブジェと化していた代物。シエスタの曾お爺さんが残してくれていた『墓石の文字を読めたものに遺品の一切を譲る』という遺言も功を奏し、ゼロ戦は順当にサイトのものとなった。

 

「……これで」

 

 帰れる足がかりはつかんだ。そう漏らしたサイトに対し、

 

「まだ決まったわけじゃないけどな」

 

 草原に心地よさ気に寝転んでいたライナが慎重な意見を述べた。

 

「えぇ。でも足ができたのはありがたい」

 

「そんなにすごいのか?」

 

「えぇ。きちんとした整備と燃料さえあれば、あれ一機で小さな海程度なら渡れます」

 

 へぇ。と、イエットに入る際、船旅を経験しいろいろと苦労を知っているライナはその言葉を聞き感嘆の息を漏らした。サイトの言葉が本当だとするなら、このゼロ戦とやらかなりの高性能な機械のようだ。

 

「俺の複写眼(アルファ・スティグマ)で解析できないところをみると魔法のアイテムでもないんだろ?」

 

 ギーシュたちに、何かの高価な魔法のアイテムではないか調べて! とすがられ、めんどくさがりながらもライナが複写眼で解析した結果、複写眼が写したのはあくまで飛行機にかけられた固定化の魔法のみ。ゼロ戦の本体そのものはなんの魔法の痕跡も見受けられないただの鉄やら何やらの塊だと判明してしまっている。

 

 だからこそライナは信じられなかった。ライナ世界の魔法では絶対に無理とされた飛行を、魔法に頼らずいともやすやすとかなえてしまったそのゼロ戦とやらが。

 

「ほんとに飛ぶのかよこれ……」

 

「飛びますよ。俺の世界ではこれと同じ形をしたこれよりでかい機械が飛んでる」

 

 サイトが自信を持って答えたその事実に、ライナは思わず首をかしげたが、

 

「まぁいいや。飛ぶって言うなら飛ぶんだろ? ふぁ~あ。というわけで俺はもう眠いから寝るわ……。お前らたからさがしで俺をこき使うからおれもうボロボロだよ」

 

「こき使うって……ライナさん旅の間よっぽどのことがない限り馬車で昼まで寝ていましたよね?」

 

「zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz」

 

 呆れきった声で真実を告げるサイトだったが、そんなこと知らないと言わんばかりにライナは目を閉じた瞬間に夢の世界へと旅立っていた。

 

 そんなライナに若干の呆れを含んだ苦笑をサイトが浮かべた時だった、

 

「どこか遠いところを見ている顔ですね? 足元に気をつけないと転びますよ」

 

「シエスタ」

 

 今度はいつの間にかサイトに歩み寄ってきていたシエスタが声を掛けてきた。

 

「父さんが、夕食ができたからサイトさんを呼んで来いと。あと、私を助けてくれてありがとうと……」

 

「ギーシュとのもめごとのことか?」

 

 むしろ世話になりっぱなしで礼を言われるようなことをした覚えがなかったサイトは、小さく首をかしげながらとりあえず思い当ったことを挙げてみるが、

 

「いえ、それは私の中では、あなたの食糧事情の改善を行うことでチャラになっているので言っていません。それに、主犯が目の前にいるとなると相手が貴族さまであってもうちの父は我慢しないでしょうから……」

 

 昔から短気で、喧嘩っ早くて困っています。と、言いつつも親しみを込めた苦笑を浮かべるシエスタに、サイトはとても深い家族の情を感じた。

 

 そしてこうも思った。俺の母さんは、突然いなくなった俺のことを探しているんだろうな、と。

 

「帰るんですか?」

 

「っ!?」

 

 そんなサイトに突然わいた望郷の念を鋭く感じ取ったのか、シエスタは世間話でもせんばかりの軽い口調でサイトにそう尋ねた。

 

 もとより人の深層心理である夢を渡る能力を持っているシエスタだ。軽い心理予想程度ならお手の物だろう。

 

「帰れたらいいな……とおもっている」

 

「弱気な発言をするあなたは普段の三倍カッコ悪いですよ、サイトさん。私を助けてくれるためにギーシュさんに啖呵きったあなたのほうがまだましです」

 

 それって結局おれが総括的にかっこ悪いって言っているんじゃ……。と、わずかに含まれた言葉の毒にサイトが顔をひきつらせた時だった、

 

「おじいちゃんは東から竜の羽衣に乗ってやってきたそうです。本人からの証言なので間違いないかと」

 

「……そうか」

 

 そっけなくシエスタが教えてくれた帰郷のためのヒントに、サイトはしばらく絶句した後、なんだかんだいってシエスタは自分を心配してくれているんだと理解しちょっとだけ微笑みを浮かべる。

 

「東にはメイジよりも強力な魔法を使うらしいエルフがいますから気を付けてください。人間に対してかなり排他的な種族だと東方の商人からよく聞きますし」

 

「わかった」

 

「おじいちゃんの遺品で使えそうなものは竜の羽衣に積んでおきましたから、よかったら使ってください」

 

「何から何までありがとう」

 

「……」

 

 そして、そこまで一気に言い終えたシエスタが突然何かを言い淀むような表情で口を閉ざした後、

 

「サイトさん、今のあなたにこんなことを言うのは間違っているのかもしれません。ですがやっぱりいわないと後悔しそうだから言わせてもらいます」

 

「?」

 

 今までとは雰囲気が違うシエスタの真剣な表情を見て、サイトは思わず姿勢をただした。

 

「なんだ?」

 

「先ほど父が言ったお礼についてですが、あれはあなたが私をこの瞳の力の呪縛から解き放ってくれたことについてでした」

 

「なっ!?」

 

 シエスタがそう言ってさらした、深紅の二つの点が刻まれた瞳。シエスタからの話ではその瞳については家族には話していないとのことだったのだが、

 

「ひいおばあちゃんから言い含められてどうやら知っていたみたいですね。ひいおばあちゃん、私と同じ眼をもっていたみたいですし、私が突然誰にも会わないって駄々をこね始めた時から何となくは気付いていたそうです」

 

「そう……か」

 

 それを知っていて尚シエスタを嫌わなかった彼女の父親に、サイトは思わず小さな笑みを漏らす。

 

「私もそのことに関しては少なからず感謝しています。あなたは私の人生を変えてくれた」

 

「大げさだな。大したことはしてないぞ?」

 

「ええ、そうですね」

 

 みとめんのかよっ!? と、サイトの謙遜にさっくりと同意を示したシエスタにサイトは固まってしまう。

 

 そんなサイトを見て「してやったり」と言わんばかりの悪戯っぽい笑みを浮かべながら、シエスタは話を続けた。

 

「でも、私はその大したことにすら気づけずに、人を避けてずっと過ごしてきていました」

 

「……」

 

「村に帰ってきて、幼馴染たちと普通に話せたのは、ひとえにあなたのおかげですよサイトさん。本当に感謝しています」

 

 シエスタの率直だからこそよく伝わってくる感謝の言葉に、サイトは思わず顔を赤らめ恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「そしてだからこそ、私はあなたに親愛の情を感じています」

 

「……は?」

 

 だが、その次に続いてきた言葉を聞きサイトは思わず氷結する。

 

「これが恋なのかどうなのかは人付き合いの経験が少ない私は何とも言えません。ですが、私はこの好意は普通の好意とはまた違ったものだとは理解しています。だから私はあえてここではこういわせてもらいます」

 

 シエスタはそこで言葉を切ると、大きく深呼吸し、

 

「あなたが好きです。サイトさん……」

 

「………………………………………」

 

 突然の告白に、思わず絶句することしかできないサイト。正直こんなかわいい子に告白されて、彼女いない歴=年齢の彼の内心は有頂天に達している。だが、

 

「だから、このままずっとここにいてください。遠くになんて、行かないで」

 

「っ………………………………」

 

 シエスタが最後に告げた懇願を聞き、その感情は一気に冷えた。

 

 そしてサイトは申し訳ない気持ちと、こんなかわいい子を悲しませないといけない罪悪感に押しつぶされそうになりながら、必死に言葉を絞り出した。

 

「ごめん、シエスタ。俺には、待ってくれている母さんも父さんもいる。そのお願いは……きけない」

 

「そうですか」

 

 シエスタはサイトの返答を聞き、いつも通りのそっけない口調に戻ると、

 

「ライナさんを起こしていきますから、サッサと食事を食べに行ってください。早く行かないとうちの弟が全部食べてしまいますよ?」

 

「え、で、でも……シエスタ」

 

 まるで先ほどの告白なんてなかったかのようにいつもどおりに戻ったシエスタを見て、さっきのは夢か幻だったのかと慌てふためくサイトに、シエスタはちょっとだけ声音を強くして、

 

「いいから、さっさと行ってくださいっ!」

 

「は、はい!?」

 

 突然のシエスタの怒鳴り声に、転がるようにシエスタの家へと戻っていくサイト。

 

 シエスタはそれを見送った後、草原に寝転び寝息を立てるライナを一瞥して一言、

 

「寝ていませんよね?」

 

「……いいやねている。これは寝言」

 

 目を閉じ、冷汗をだらだら流しながら片言で言い訳するライナに嘆息しつつ、シエスタは「では本格的に起きてもらうとしましょう」と、いってライナの頭を蹴り飛ばさんと言わんばかりに黄金の右(みぎあし)を振り上げる。

 

「起きた、今起きたっ!?」

 

 当然蹴られてはたまらないとあわてて身を起こすライナ。シエスタはそんな彼に鼻を一つ鳴らすと、

 

「盗み聞きなんて趣味が悪いですよ?」

 

「……わりぃ」

 

 今度は素直に謝るライナを見て、どうやら意図的にやったのではないと理解したシエスタはとりあえずその謝罪で矛を収めることにした。

 

「さて、サッサとご飯に行きましょうか。さっきも言いましたけど、早く行かないと弟が夕食全部食べちゃいますから」

 

「いや……お前はまだ行かないほうがいいだろう?」

 

「え? 何でですか?」

 

 突然のライナの制止の声に、サイトと同じように自分の家へと帰ろう体の向きを変えていたシエスタは、思わずライナのほうを振り向く。

 

「お前、泣いてるぞ?」

 

「え?」

 

 ライナの指摘があったと同時に、シエスタの頬を暖かい何かが通り過ぎた。

 

 それが涙だと彼女が気付いた瞬間、その液体は次から次へとシエスタの瞳からあふれ出し止まらなくなる。

 

「あれ? え?」

 

 なんで泣いているのか分からない。自分は先ほどサイトに断られても、仕方ないと割り切れたはずだ。

 

 自分の内心は自分がだれよりも知っている。人の深層心理を知るが故にそう思い込んでいたシエスタは、本気で自分がなぜ泣いているのかも分からずただただ困惑の声をもらし続ける。

 

「どうして?」

 

「そりゃお前……サイトが遠くに行くのがさびしいからだろ?」

 

「さび……しい?」

 

 そんなわけない。自分は確かにあのとき仕方ないと思えたはずだと、サイトさんを待っている人がいるなら当然そこに帰るべきだと、自分はそれを応援できる人間のはずだと、シエスタは内心で必死に叫ぶが、

 

「うぅ」

 

 流れ出る涙は止まってくれない。それどころか先ほど以上にあふれ出しており嗚咽すら漏れはじめた。

 

「わた、しは……ちゃんと、サイトさんが、帰れるように……祈って」

 

 必死に涙の言い訳をしようとするシエスタに、ライナは何も言葉をかけてやれない。化け物の自分には、そういった経験がないから。誰かを好きになる前に諦めたから、誰かが好きになってくれても遠ざけたから、

 

 ずっとそばにいてほしいなんて、本気で思うことすらおこがましいおぞましい化け物だから、そういった感情をあきらめていたライナはシエスタにかけられる言葉が見つからない。

 

 ただ、

 

「俺さ、お前と同じように告白する女の子を見たことあるんだけど」

 

 内心で牢屋の格子越しに告白してくれた赤毛の同級生に謝罪を告げつつ、ライナは、

 

「お前、あいつとおんなじ顔しているよ」

 

「……っ」

 

「サイトのこと、好きなんだよな?」

 

 たぶん、お前の好意は恋なんだよ。と、自信なさげにそう告げた。

 

 最後にそれを聞いたシエスタは、その言葉がすとんと自分の心の足りないところにはまるのを感じ、

 

「う……あぁ……あぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 我慢できずにライナに飛びついて泣きじゃくった。

 

 どうして彼は自分の世界の人ではなかったのかと。どうして、自分はそんな人間を好きになってしまったのかと。どうして彼は私と一緒にいてくれないのかと。どうしてあちらの世界より自分を選んでくれなかったのかと。どうして、どうして……!

 

 そういった汚い感情を涙と一緒に吐き出す。そうしないと、次にサイトの顔をまともに見れない気がした。

 

 そうしないと、サイトと今までのように話せない気がした。

 

 だから申し訳ないと思いつつも、シエスタはライナを悲しみのはけ口にした。

 

 だが、ライナはそのことに文句ひとつ言わず、黙って自分の胸を貸してくれた。その優しさに心の底から感謝しつつ、シエスタは自分の心から汚いものがいなくなるまでいつまでも泣き続けた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その翌日の学園に、一つの巨大な鉄の塊が降り立った。

 

「こ、これは!?」

 

 突然の珍妙なオブジェの飛来にあぜんとする生徒や教師たち。

 

 そんな中、ただ一人だけ……ジャン・コルベールだけが目を輝かせてその鉄の塊を見つめていた。

 

 そして、

 

「コルベール先生!!」

 

 その鉄の塊から降りてきた少年が、

 

「手伝ってほしいことがあるんですけど!」

 

 お時間開いてますか? と、訪ねてきたとき彼は間髪いれずに、

 

「ぜひとも協力させてくれたまえ! 時間? そんなものなくても無理やり作ろう!!」

 

 話もきかずに協力を約束してしまい、周りや少年にひかれてしまったのは仕方のないことだっただろう。

 




 あれ……おかしい!?

 最低でも、サイトとルイズの仲直り……ベストはタルブ村襲撃まで行く予定だったのに!?

 進んでいない……だとっ!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。