「ほう! 魔法を使わずに飛ぶ機械? 仕組み的には以前授業で見せた愉快な蛇君と同じか! 興味深い……実に興味深いぞサイト君!!」
「え、あ、はぁ……喜んでもらえて何よりです」
興奮冷めやらぬといった様子でゼロ戦をぺたぺたと触り口早に考察をまくしたてるコルベールに若干ひきつつ、サイトはとりあえず当面の目的である、
「サイト……そろそろ」
「わかってる。あの……先生?」
「ん? 何だね?」
「あの……ゼロ戦運ぶのに竜籠使ったからその代金がほしいんですけど」
意外と下世話な金の話から入った……。
そんなサイトたちの交渉を離れた場所から、寝ころびつつ眺めていたライナは、気前良く払うといったはいいが意外と高かった竜籠の代金に「もうちょっと負けてもらえんかね……」と涙ぐましい努力の値切りを行うコルベールの姿に涙を流す。
「うん……まぁ、金がないと大変だよな~」
「割と切実に聞こえるのがシャレにならないわね……」
「貧乏貴族?」
「好きでなったわけじゃねーよ」
そして竜籠とほぼ同時に帰ってきたシルフィードをライナの近くへと軟着陸させ歩み寄ってきたタバサ、キュルケ(ちなみにシエスタはない。まだ休暇が残っていたので、もうちょっとだけ故郷に残り人間関係の修復に努めるらしい)の言葉に若干へこみつつライナは一応の抵抗を試みた。
「それにしても、帰ってきちゃったな……」
「サイトあれ見つけてから忘れているみたいだけど、ここにはあの子がいるのよね?」
「……嵐の前の静けさ」
「ちなみにサイトの致死率幾つぐらいだと思う?」
ライナはキュルケにそう問われ、しばらく考えるかのようにあごに手をあてるが、
「ルイズオンリーなら結構低いんじゃね? なんやかんやいってサイトのこと大切にしているみたいだし?」
「そのほかに誰かサイトを殺しそうな人がいるの?」
驚いた顔をするキュルケに、ライナは一つ頷いた後、
「ああ、とびっきりに悪魔が一人……」
瞬間、ルイズの寝室と思われる窓から一人の女性が飛び出してきて、
「ふんっ!!」
「ぐべっ!?」
地面に寝ころんでいたライナの腹部にドロップキックを決めるように着地! 普段はめったに動かない無表情な顔を、目をほんの少し細める程度に動かしながら、交渉を終えたコルベールとともにゼロ戦を動かす燃料の相談をしているサイトを確認し、
「この変態色情狂がぁああああああああああああああああああああああ!!」
「って、ふぇ、フェリスさん!?」
意味不明な怒声を上げながら一直線にサイトへと向かって突撃を開始した!
「貴様、ルイズから聞いたぞ! しばらく前にメイドと乳繰り合った挙句『ウェッヘヘヘヘヘ。金がなくなったテメェになんかもう用はねぇよバーカバーカ!! もう新しいカモ見つけた以上てめぇに用はねぇぜ。今まで俺に貢いでくれてありがとよ、馬鹿な侯爵家三女様!!』とルイズをののしって、メイドの元へ
「誰ですかそんないい加減なこと教えたの!?」
根も葉もないうわさどころか、がっつり根を生やし葉っぱどころか花すら咲かせているとんでもなく誇張された自分とルイズの喧嘩内容にサイトは思わず怒声を上げる。
だが相手はそんなことを気にするような相手ではない。自称勧善懲悪美少女天使(ライナ流に言うならフェリスワールド全開迷惑悪魔)だ。人の話は、もはや通じない……。
「問☆答★無☆用♡」
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああ!?」
サイトが抗議の声をあげている隙に彼のもとへと急接近したフェリスは、今まで見たことがないくらい綺麗な笑みを浮かべつつ剣を一閃。
ふるわれた剣の腹は、見事にサイトの頭をジャストミートし、ちょっと人類の頭部が立ててはいけない危ない音を響かせながらサイトを天高く打ち上げる。
そして、天高く打ち上げられたサイトの体は先ほどフェリスが飛び出してきたルイズの部屋の窓へと飛び込んでいき、
『きゃぁあああああああああ!? な、なに!? なに!? って、サイトぉおおおおおおおおおおおおおお!? どうしたの、血まみれよあんたぁあああああああああああ!?』
と割とシャレにならないルイズの悲鳴を辺り一帯に響かせた……。
「ふん、悪は滅んだ」
「「「「うわぁ……」」」」
そんな悲鳴を聞きながらなぜか満足げに剣を下し頷くフェリスの姿に、その光景を見ていたキュルケ、タバサ、ギーシュ、コルベールは思わず青い顔になりながらそんな声を上げる。
そんな中、先ほどフェリスに踏みつけられ地面に頭をめり込ませていたライナがようやく地面から頭を引き抜き、
「てんめぇ、フェリス!? いきなり何しやがんだ!!」
と、久しぶりに会ったせいかやたらとフェリスに反抗的な態度をとりつつ仁王立ちする彼女に食ってかかろうとしたときだった、
「やぁやぁ、ライナ・リュート。随分と長い無断欠勤だったが、帰ってきてくれて何よりだよ」
「……………………」
突如背後から聞こえてきた、一番聞きたくない人物の声を聞いたライナは、ギギギギギという音が響き渡りそうなくらいゆっくりと後方へと振り向き、
「さて、貴様が無断欠勤しているときにたまった仕事がたくさんあるのだ。是非ともすぐに城に来てくれ!! もちろん、断ったらどうなるか、わかっているよな?」
背後にどす黒い怒りの炎を顕現させたバーシェンがそこに立っているのをはっきりと確認し、思わず絶望の吐息を洩らす。
「は、ははははは……お、俺意外とモンスターとか倒してトリステインのために貢献したりしたんだけど……」
「そうか、それは素晴らしい。まぁそんな些事は置いておいて、最近私とフェリスエリスが共同開発した画期的な人形がちまたで大流行していてな」
「そっちのほうが些事じゃね!?」
「その名もスーパーフェリスちゃん人形というのだが、どんな怠け者にでも仕事をさせられる優れものなのだ」
「うむ。あれはなかなかの出来だぞライナ。お前もぜひ試してみるといい」
「まてまてまてまてまて!? お前らの共同開発って時点でかなり危ない感じがするんだけど!?」
そんな戯言を言いながらだんだん距離を詰めてくるバーシェンとフェリスに身の危険を感じたライナは、あわてて指をふるいエスタブール流の文字を書く魔法を発動させようとする。
「失礼なことを言うな、ほんのちょっとしたギミックを仕込んだだけだ。な~フェリス?」
「うむ。簡単なワイヤーを使ったギミックでな。相手が姿勢正しく仕事をしている時はいいが、疲れて居眠りをしそうになり姿勢を崩した瞬間に背後に立ったスーパーフェリスちゃん――略して、スパフェリちゃんが手に持った剣を一閃させて相手の首を自動的に散歩させ心機一転させてくれるという優れもので……」
「心機どころか相手の魂すら一転されるだろうがぁあああああああああああああああああああああ!?」
と、やたらと仲がよさそうな様子で人形の説明をしてくる二人に、ライナが悲鳴をあげて「やばい……ここで捕まったらおれ殺される!?」と割と正当な判断を下し、エスタブールの身体強化魔法を使いとんずらここうとしたその時、
「逃がさん」
「なっ!?」
いつの間にかバーシェンが装備していた手袋から伸びた数十近いワイヤーがライナをとらえ、動きを阻害し、
「フェリス・エリス!」
「ん」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
その間に距離を詰めたフェリスの剣の一撃によってライナはあっさりと撃沈。バーシェンが操るワイヤーによって二重三重と縛りあげられあっさりと捕縛される。
「さて、では王宮に帰るか……せっかくうちにもライナ用にスパフェリちゃんを配備したんだ。是非とも使ってみないとな」
「私もそろそろ団子屋昼の部の仕込みの時間だからな。ライナのことはそちらに任せるぞ」
「あぁ、散々苛め抜いておくからいつでもみにこい」
と、本当に仲良さそうに会話をする二人が魔法学院の門から出て行くのを見て、
「「「「…………………………」」」」
唖然としてその急展開を見守っていた広場の四人は、無言のまま手を合わせ二人の冥福を祈った……。
…†…†…………†…†…
「まったくもう……。帰ってきて早々にご主人様びっくりさせるとか何考えてんのよあんた。ビックリ箱だってもうちょっと自重するわよ」
「す、すきであんな状態になったわけじゃないんだけど……」
「だまってなさい。まったくもう、うちの女子寮中巻きこんじゃったじゃないの」
若干顔を赤らめながらベッドに寝かせたサイトに文句を言いつつも、いまだにフェリスに殴られた衝撃が抜けないサイトを看病していた。
血まみれのサイトが部屋に飛び込んできたのであわてたルイズは、取りあえず女子寮に残っていた水の使い手の生徒たちに片っ端から頭を下げサイトの怪我の具合を見てもらったのだが、フェリスもフェリスで加減をしてくれていたらしく、サイトの傷は額についた切り傷たった一つ。もともと血が勢いよく出やすい場所なので負った怪我以上の出血をしてしまっていたらしい。
取りあえず水のメイジたちに傷をふさいでもらい、サイトの顔中に付着した血をぬれた布で何とかぬぐい取り一心地着いた後、ルイズは一つため息をつき、
「で?」
「で、でって?」
「……あんた、ここ数日ご主人様ほったらかしにしてどこ行っていたのよ?」
底冷えするようなルイズの詰問に、ただでさえキリキリと痛い頭痛がさらにひどくなるのを感じた。
必死に何かいい言い訳はないかと「あ~、う~」と、痛みにもだえるふりをしながら脳味噌を高速回転するサイト。そんなサイトをしばらくの間冷ややかに見た後、
「は~。もう……心配したんだからね」
ルイズは今までの攻めるような雰囲気をかき消し、純粋に心配の念が込められた声でサイトの頭をやさしくなでた。
「え?」
サイトはそのしぐさにあぜんとした後、
「お前……何か悪いもんでも食ったのか?」
ルイズの遠慮のない空手チョップが先ほど傷が治ったサイトの額に叩きつけられた。
「っ~~~~~~!?」
再び走る激痛に悶絶するサイトに向かって、顔を真っ赤にしたルイズが食って掛かる。
「べ、別にあんたのことが気になったとかそういうことじゃないのよ!? あくまで使い魔として心配したの!! 使い魔のあんたが変なことしたらその主人である私の名誉に傷がつくんだからね! わかってんの!?」
「いだっ!? いだっ!? わかった、わかったからルイズ、追撃すんのやめろ!? 俺のライフはもう0よ!?」
バッコンズッコンと、いつの間にかとり出していた予備の枕で自分を袋叩きにするルイズに、サイトは必死になって抗議の声を上げる。
「もう、もう……ほんとに、もうっ!!」
ルイズとしてはサイトに対する怒りはもうきれいになくなってしまっていた。ご主人さまをほったらかしにしてほかの
そうなってくると、今度は今までサイトがいなかったときに感じていた寂しさだけがぽっかりと残ってしまうわけで、
「も、もう帰ってこないかと思ったんだから……」
「え? る、ルイズ?」
「い、いつもいたテントにはいなかったし……。本気か冗談かわかないけど、あんたに惚れてるいって言ってるキュルケや、あんたとデートに行ったメイドと一緒にどっかいったって聞いて、さ、サイト……もう、帰ってこないんじゃないかって」
「……」
だんだん声がかすれてくるルイズの言葉に、サイトは唖然としたあと、
「そ、その……ごめん」
「バカっ……。バカバカバカバカバカっ!! 嫌い、私をこんな気持ちにさせたあんたが嫌い! 私にこんな心配させたあんたが嫌いっ! 私にやさしくしてくれないあんたが嫌いっ!! 大っ嫌い!!」
おろおろと謝るサイトにルイズは涙を流しながら喚き散らす。そして最後にはサイトの胸にすがりつき、
「でも、でも……遠くに行っちゃヤダ……近くにいてくれないとやだあっ!!」
女の最強兵器《女の涙》を使われてしまったサイトは、困り果てた顔で身を起こし、
「わかった、わるかった……しばらくは近くにいるよ。だから泣くなよ、ルイズ」
と、不器用に泣き続けるルイズを慰めた。
ちなみに、
「ちっ……なによ、もう仲直り? ドロドロの波乱がもうひとつぐらい起こるものと思っていたのに」
「雨降って地固まる……」
「というか、サイト追い出したのルイズじゃなかったかい?」
「だからあんたは女に逃げられんのよギーシュ。とりあえず女の子が泣き出したら男は全面降伏するしかないの」
なんだか納得行かないんだが……。と、一緒に出歯亀していたキュルケの言に首をかしげるギーシュだったが、部屋の中で必死にルイズを慰めているサイトを見て「なるほど、確かに真理かもね」と一応の納得を見せる。
そして、
「まあ、宝は見つからなかったけど一番宝を必要としていたやつが元の鞘に戻ったみたいだし、まるっきり無駄というわけでもなかったんだろうね」
と、納得してイイハナシダナーと言わんばかりに、ハンカチを取り出し流れてもいない涙をぬぐうふりをしてこの話を締めた。
だが彼らは知らなかった、
「それはよろしいのですが、今まで散々さぼりまくったツケはきっちり支払ってもらいますよ? ミス・ミスタ」
「「「げぇっ!? ミス・シュヴルーズ!?」」」
いままで好き放題授業をさぼった不良生徒たちに制裁を加えるべく集まった教師につかまり、一週間の清掃活動の罰を科されることなど……。
ようやくルイズと仲直り……。
そして次回、とうとうあの凶器の人形が登場!!
ふるわれる剣閃! おののくライナ!! はたして彼の命運は、首のお散歩? 永遠の眠り? どっちだ!!
あ! アルビオンの艦隊も出るよ? たぶん……