ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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始まる戦争・来訪するメイジ殺し

 ライナが必死こいて働いている宰相執務室。そこには恐怖の権化が存在していた。

 

「あ、ありえないって……四日間連続で徹夜仕事とか、人間の所業じゃねェ」

 

 ブルブル震えながら必死にペンを動かすライナ。だが、ライナが帰ってきてからすでに4日の時間が過ぎている。

 

 その間の彼の睡眠時間=プライスレス。

 

 もうだめだ……俺死ぬ。このままだと確実に死ぬ……割とシャレにならないことをライナが考えていた時だった。

 

「ら、ライナさん……追加の、書類です」

 

 ライナと同じように不眠不休で働いていたウェールズがげっそりとした様子で巨大な書類の山を運んできて、ライナの机へと置いた瞬間……

 

「ぐはっ……。ごめん……アンリエッタ。私は、どうやら、ここまでの……よう、だ」

 

 と割とシャレにならない声音で呟きを漏らしそのままばたりと倒れ、ピクリとも動かなくなってしまった。

 

 その光景を見てライナはさらに冷や汗を流す。そして、

 

「あぁ……やべ。おれもそろそろ」

 

とうとう彼にも限界が訪れ、

 

 《知らない書類》

 

 《瞬間、心おられて》

 

 《ドリームダイバー》     次回も、サービスサービスゥ♡

 

 のコンボが炸裂しライナを速やかに夢の世界へと送り込んだ。

 

 当然そうなるとライナの体勢は崩れ、ぐらりと机に向かって大きくかしぎ、その瞬間彼の首に巻きつけられたワイヤーが引っ張られ、

 

「っ!? 起きてる!! 起きてるからっ!!」

 

 その感触にもう本能的に目を覚ますスイッチを取り付けられてしまったライナはあわてて脳を覚醒させ、背後に向かって悲鳴を上げながら姿勢を正す。

 

 その瞬間、ライナの首筋にひやりとしたなにかが薄皮一枚というところまで押しつけられ!

 

「っ!!」

 

 ライナが悲鳴を上げる前に、ゆるゆると元の場所へと戻っていった。

 

 それを確認したライナは冷や汗を流しながら、後ろを振り返る。そしてそこには、先ほどライナの首を刎ね飛ばしかけた恐怖の権化が鎮座していた。

 

 大きな、人形だった。金色の髪が付けられ、それはどこかで見たことあるようなセットを施してあり(というか明らかにライナの相棒の髪型だった)、妙にニコニコ笑っている羽ペンで書かれただけの顔がやたらと威圧感を振りまいた。

 

そしてその人形の腕にはライナの首から延びたピアノ線が連動しており、ライナの首が大幅に動くとどういう仕組みになっているのか手に持った大剣をライナの首に向かって一直線に、

 

「ってぇええ!? 起きてる起きてる起きてるからぁああああ!!」

 

 ライナがあわてて姿勢を正すと同時に人形は元の体制に戻り、

 

『さっさと仕事をしろムシケラが』

 

 音声まで流れるハイクオリティぶりだった……。

 

 そしてその胸には一枚の張り紙がなされており、

 

『バーシェン・フェリス共同作品! すーぱーフェリスちゃん人形、略してスパフェリちゃん!! すーぱーと首をスパッとはねるをかけているの。可愛がってあげてね♡』

 

「可愛がれねぇよっ!!」

 

 ライナ・リュート魂の叫びだった……。

 

「いや、というかライナさん……よく生きていますね。バーシェンさんがほかの仕事しない貴族達にも送りつけたんですけど、全員三日もちませんでしたよ? ……命が」

 

「回収騒ぎが起きるランクの商品だよなこれ!?」

 

 フラフラと復活を果たしたウェールズの言葉を信じるなら結構な人数の死人が出ているらしいこの人形に、ライナはさらに戦慄を覚え再び振り返った。

 

 ……なんだかこの人形が血塗られた人形に見えてきた。

 

「ふむ……第一の犠牲者はオルバルトという男でな。突然執務室から悲鳴が上がるのを聞き使用人が様子を見に行けばそれは見事に首をスパフェリちゃんにお散歩させられているあの男の姿があったらしいぞ?」

 

「普通に猟奇殺人だろそれ!? ていうか来てるなら手伝えよ!!」

 

『チャンス!!』

 

「そんな音声まで入ってんのかぁあああああああ!?」

 

 三日前に「では私は寝てくる。流石に一日徹夜は疲れた……」なんてふざけたことをぬかしてどこかへ行ってしまっていたバーシェンがようやく執務室に帰ってきたのを見て、ライナは怒鳴り声を上げながら立ち上がろうとしたが、当然スパフェリちゃんがそれを許すわけもなくワイヤーによってギミックが発動した彼女は遠慮なくライナの首をなぐように剣をふるった。

 

 当然そんなものを食らえばライナの命はないので、ライナはあわてて椅子へと座り姿勢を正す。そしてライナの頭上を凄まじい勢いで通り過ぎた剣の風切り音に、つかれた顔をさらにひきつらせた。

 

「ふむふむ、スパフェリちゃんはちゃんと働いているようだな。流石は私とフェリスの最高傑作。こいつのおかげで「こいつ明らかにレコンキスタのスパイだろ?」と思った奴を、何人屠ることができたか」

 

「俺スパイじゃないから外せよ!?」

 

「なにをいう? それが本来の使い方なんだぞ? 暗殺はあくまで応用法だ」

 

「応用で暗殺に使えるような人形を後ろに立たせてんじゃねぇえええええええええええええええええ!?」

 

 なんかもう好き放題言ってくるバーシェンに血涙を流しながらツッコミを入れるライナ。もうあきらめればいいのに……と達観しきった顔でそんな賑やかな光景を見ながら、ウェールズはとりあえずバーシェンがこの執務室に帰ってきた事情を聴く。

 

「で? どうしたんですかバーシェン卿? 間諜の大掃除が終わったとはいえ、その後始末と後釜の人事移動でまだ忙しいでしょうに」

 

「え? こいつさぼってたわけじゃないの?」

 

「ハハハハ、ライナ・リュート。あんな戯言を信じるとはお前もまだまだだな」

 

 声だけ笑い完全に表情を動かさないイラつくバーシェンの笑みにライナは思わず握りしめていた羽ペンをへし折り、ウェールズは必死に聖書の文章を思い出すことによって精神攻撃をかわす。

 

「ふむ、少々面倒なことになってな。今から会議だ。ウェールズ、ついてこい」

 

「会議?」

 

「えぇ? なんか急だな? どうしたの?」

 

 三日間不眠不休で仕事をしていたためかライナはこの城の政治活動のスケジュールを大体把握していた。定期会議はあと5日ほど先で、それまでウェールズやバーシェンが招集される大きな会議はなかったはずだが?

 

「ふむ、なんでも……」

 

 バーシェンはそこで言葉を切り、

 

「タルブ村をレコンキスタの連中が侵略してきたらしい。宣戦布告もなしの不意打ちだそうだ」

 

「「なっ!?」」

 

 ウェールズが思わず息を飲み、ライナが聞き覚えのある地名に思わず立ち上がる。そして、

 

『首のお散歩たぁいむ♡』

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああ!?」

 

 存在を忘れられたスパフェリちゃんが、かまってと言わんばかりにライナに向かって剣をふるった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それから数時間ほど前の出来事だった。

 

 アルビオンとの国境に面する領空を哨戒飛行していた数隻の軍艦があった。

 

「にしても、いくらアルビオンが仮想敵国になったからといってちょっと気合い入れすぎじゃありませんかね?」

 

「ふん、バーシェン卿も英雄といっても所詮は昔の御方だ。いまだに大戦時代の物騒な考えが抜けておられないんだろうよ」

 

 この艦隊の旗艦の上に二人の人物が立っていた。甲板に立って海兵(?)たちの働きぶりを査察していた艦長と副艦長だ。この二人は数週間前、アルビオンが完全に陥落した際にトリステインに対する侵略が行われないかどうか哨戒にあたるようにバーシェンに命令されここにやってきた。

 

 だがしかし、彼らは同時にそれなりの爵位を持つ生粋の貴族。それも、こんなところで哨戒に当たらずども王都でふんぞり返っているだけで一生暮らしているけるような爵位を持つ貴族だった。

 

 当然、そんな自分たちをこんなところに飛ばしたバーシェンに不満もたまっている。

 

「まったく、バーシェン卿にも困ったものだ。元軍属とはいえ、政治屋は政治屋らしく大人しく王宮で杖をふるっていればいいものを」

 

「はは、まったくですな~」

 

 出るわ出るわバーシェンに対する不満、不満。最近好き勝手やっている宰相に、ねっとりとした嫌味をぶつけていた。

 

 だが、彼らは無能ではなかった。当然だ……開戦の際真っ先に矢面に立たされる哨戒船の艦長たちにバーシェンが無能な人間を当てるわけがなかった。

 

「敵影らしき船影を確認! 距離、300!!」

 

「「何っ!?」」

 

 マストの上からするすると降りてきた小柄な海兵が青い顔をして、そう報告してくるのを聞き二人は度肝を抜かれた。

 

 あわてて艦長が部下に望遠鏡をとってこさせ、海兵が告げた方角へとそれを向ける。

 

「む……確かに軍艦のようだな」

 

「えぇ、ですが白旗を掲げていますぞ?」

 

「……大方こちらに対して何らかの軍事的要求をしにきた軍使殿のだろう。警戒態勢を解け。あちらの要望がなんであれ今戦闘をするわけではない」

 

「一応王宮の方の知らせを出しておきましょうか?」

 

「あぁ、そうだな。鳩を一羽トリスタニアに。『軍使殿来る。何らかの軍事的要求を求めている可能性高し。内容は追って知らせる』と」

 

「サーイエッサー!!」

 

 きびきびと答え、船に乗せられている鳩たちのもとへと走っていく海兵を確認し艦長は双眼鏡から視線を外した。

 

「さて……要求はなんだ? 開戦か? 和睦か?」

 

「ふん。おそらくは我々トリステインの軍艦を見て恐れをなしたのでしょう!」

 

「だといいが……」

 

 いくらバーシェンに不満があるとはいえ歴戦の軍人である艦長は手を抜かない。長年の経験から、嫁の浮気と命の危機に関しては非常に鼻が利く彼の第六感が、嫌な予感を彼に感じさせて仕方なかった。そして、その勘は見事に的中することとなる!

 

「て、敵船! 突然回頭を始めました!!」

 

「なにっ!?」

 

 マストに残っていたもう一人の海兵の報告に、艦長は目をむきあわてて双眼鏡をとり敵船を見た。だがその時にはもう遅く、大砲の射程範囲にすでにもぐりこんでいた敵船はすでに回頭を終え、船の横から大量の硝煙と発砲音を生み出し、

 

「っ!?」

 

 哨戒する軍艦たちに食いつく、凶悪な砲弾を発射した。

 

「敵襲! 敵襲だ!! 総員戦闘配置!!」

 

 船を襲った衝撃からして、船自体のダメージは低いと即座に看破した艦長は、地震でも起こったかと錯覚してしまうほどゆれる甲板の上に立ちながらも、気丈に仁王立ちしたまま海兵たちに指示を出す。

 

「まさか宣戦布告もなしに攻撃してくるとは!? 敵は礼儀がなっておりませんな艦長!!」

 

「ふん、もとより卑怯な不意打ちと戦略でアルビオンを打倒した薄汚れた軍隊だ。貴族の誇りなど、いまさら求めるのが間違っていたか!」

 

 おそらくバーシェン卿はこれを警戒していたのだろうと、艦長は盛大に舌打ちを漏らし砲撃部隊に指示を出す。

 

「敵は所詮一隻だ! 我等は哨戒船とはいえ、数に勝る! 恐れることはない、単独で我等にケンカを売ったことをあの世で後悔させてやれ!」

 

「「「「サーイエッサー!!」」」」

 

 甲板中から轟きわたる威勢のいい海兵たちの返答。艦長はそれを聞き、勝利を確信し、

 

「て、敵影! 上空より接近! 数、じゅ、十数隻!!」

 

 マストの上から悲鳴のように聞こえた海兵の声に、艦長は今度こそ度肝を抜かれ、上を見上げた瞬間、

 

「っ!?」

 

 巨大なアルビオン軍ロイヤル・ソヴリン級巨大艦『レキシントン』号が率いる数十隻の軍艦が今まで隠れていた雲からその威容を現し、下にいる自分たち哨戒船にむかって一斉砲撃を食らわせる光景が目に映った。

 

 それが、彼が見た生涯最後の光景だったという……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「哨戒船は全滅か……。軍使来たるから報告が遅いと思っていたら」

 

「敵はそののち南東へと進軍を開始。タルブ村にて侵略行動に移りました!」

 

 トリステインの重鎮たちが集められた会議で、哨戒船から命からがら逃げのびた竜騎士の一人がボロボロの体を無理に押して報告をしてくれていた。

 

 おかげでアルビオンの唐突な侵略行動を知ることができこうして対策をとることができた。

 

「報告感謝する。今はゆっくり休め」

 

「はっ……」

 

 バーシェンのそっけない、しかし最大限の感謝の念が込められた賛辞に竜騎士はほんの少しだけ微笑み、気を失った。崩れ落ちそうになる竜騎士の体を会議室のわきで控えていた騎士たちがあわてて抱き起し、会議室から医務室へと連れて行く。

 

 そんなやり取りをしり目に、バーシェンは厳しい瞳を会議場の上座に座るアンリエッタへと向けた。

 

「さて、どうなされますか国王陛下?」

 

「そんなもの聞かれるまでもない!!」

 

 しかし、答えたのはアンリエッタではなく元帥杖を腰に差した壮年の貴族だった。グラモン元帥家と肩を並べる古参の元帥家、アストラーゼ家の当主だ。

 

「敵は恥知らずにも宣戦布告もなしに侵略行動を開始したのですぞ! これを見逃せば我らトリステインの威信は地に落ちる! 撃滅! 撃滅です!! あの愚か者どもに、トリステインの威光をしらしめてやらねば!!」

 

「相変わらず脳筋なのは変わっておらんなアストラーゼ」

 

「なんだとっ!?」

 

 怒りに打ち震えるアストラーゼの発言を遮ったのは、トリステイン内政に携わる文官長の一人だった。

 

「今のトリステインはまとまりが取れておらん! 多くの貴族たちが――国の主要人物たちがレコンキスタの間者とわかり間引かれたところじゃ! 艦隊の整備もいまだ途中の段階で、動かせる兵力すらそれ程そろっておらんのじゃぞ!?」

 

「そんなもの、我が精強なトリステイン軍ならば物の数ではない!」

 

「戦は数だよ、アストラーゼ卿。君がいかに精神論で物を語ろうが、その事実は変わらん」

 

 憤るアストラーゼが怒鳴り散らすのを、バーシェンが止めた。

 

「では、なんとされるバーシェン卿! まさかこのまま奴らの侵略行動を見逃せというのかっ!!」

 

「そうだ」

 

「「「「!?」」」」

 

 そして、バーシェンが返したそっけない答えに会議に出席していた貴族やアンリエッタ達は等しく驚愕の嵐へと叩きこまれた。

 

「い、いまなんと……」

 

 信じられないといわんばかりの顔でアンリエッタが問いかける。そのアンリエッタの問いかけに、バーシェンはよどみない答えで返答を返した。

 

「幸いなことの今回のあいつらの狙いはわかりやすい。我々が戦力を整えられていないのと同じように、あちらもおそらく戦力が整えられていないのだろう。トリステインの空中警備は私が事前に配置しておいた哨戒船たちを抜けばほとんどザルだ。にもかかわらず奴らは首都トリスタニアを目指さず、侵略とタルブ村で行った。つまり、まだウチと全面戦争をするほどの余力が敵にもないのだ。だからこそ、我々トリステインの土地をタルブ村から西にわたって切り取ることによりそこから兵力を整える資材を得るつもりなんだろう」

 

 本格的なトリステイン侵略はそのあとに始まる。バーシェンが告げた予想にほころびは見つからず会議室に居並ぶ面々は苦々しげな顔で同意を示した。

 

「だが、兵力の補てんや軍備の増強はこちらの方が早く行っていた。そのため、軍の調整はあと一週間すれば完了する。対する向うは島国だ。地続きの我々とは違い兵力の補てんには空輸という面倒な手段が必須となる。そこを嫌がらせがてらにたたいておけば奴らの兵力補てんは大幅に遅れ、我々は悠々と奴らを蹂躙できる兵を手に入れることができる」

 

 奴らが今回とったのは下策だ。と、バーシェンは凶悪な色を声に宿し、アルビオンの軍略を鼻で笑った。実際バーシェンに言われてその通りだと思ったのか、会議室の面々たちの顔には少しだけ余裕が戻り、落ち着いた雰囲気が会議室に満ちてくる。

 

 だが、

 

「今侵略が行われている……タルブや、その後侵略が行われるトリステイン西部の民たちはどうなされるのですか?」

 

「………………」

 

 アンリエッタがはじめて告げたそのことに、会議室の空気は凍りつき、

 

「そ、それは……」

 

 全員が、気まずそうな顔をして目をそらした。対してバーシェンはたった一人冷たい瞳をアンリエッタに向け一言、

 

「捨てろ。大を助けるために小を切り捨てる器量を持っておくのも王の務めだ、アンリエッタ」

 

「っ!!」

 

 その冷たい氷の一言に、アンリエッタの目が大きく見開かれた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 一方そのころ、王宮内を悠々と歩く絶世の美女が一人。

 

 フェリス・エリスだ。彼女は今朝がた彼女の部下たちからもらった新作団子を片手にホクホク笑顔で(ライナ以外にはわからないが)ライナが働く執務室を目指していた。

 

 この団子を、最近ご飯を食べる間もなく働いていたライナの目の前で食べて、彼をおちょくる算段のようだ……。

 

 そんなときだった、

 

「ん?」

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああ!?」

 

 聞き覚えのある悲鳴を上げながら、一人の男が全力疾走しながらこちらへ向かってくる。その後ろにはガッシャンガッシャンと明らかに人形が立ててはいけない足音を響かせながら、金髪を振り乱し何度も何度も男の首を狙い、剣をふるう騒がしい人形がついてきていて……。

 

「む、サボリ犯は着実に撃滅されつつあるようだな。流石はスパフェリちゃんだ」

 

「言ってる場合かぁああああああああああああああ!? ていうかこの人形どういうギミックで動いているんだぁああああああああ!?」

 

『さようなら~』

 

「ぎゃぁあああああああああああああ!?」

 

 というかライナだった……。どうやら執務室から抜け出したはいいものの『スパフェリちゃんバーサークモード』を発動させてしまったらしい。

 

「説明しよう! スパフェリちゃんバーサークモードとは、席を立った人間の首がいつまでたっても刎ねられなかった時に発動する究極粛清モードだ! 体は赤く変色し、剣速は通常の三倍。相手にワイヤーがつながっている限り地の果てまで追いかけてくるぞ!」

 

「ざけんなぁああああああああああああああああ!? いいから助けろぉおおおおおおおおおおおおおお!! やばい、割とマジで死んじゃうからぁあああああああ!!」

 

『認めたくないものだな……若さゆえの過ちというものは!』

 

「ぎゃぁあああああああああああ!?」

 

 サイトがいたら割と本気でツッコミを入れていたであろうセリフ(もちろんバーシェン編纂)を叫びながらスパフェリが剣をなぎ、ライナがそれをかがんでよける。瞬間、スパフェリの剣が城の壁に盛大にめり込み、スパフェリは剣をふるえなくなった。

 

「ちっ……外したか」

 

「外したかじゃねぇえええええええええええええ!?」

 

 なんかもう泣きそうな絶叫を上げながら、ライナはブレイドの魔法を発動しスパフェリのワイヤーを切断する。そうやってようやく自由を手に入れたライナは、もうちょっと疲れ切った顔をしながら指輪の付いた指をふるった。

 

「ん? どこかへ行くのか? ライナ?」

 

 そしてその指輪から風の竜を顕現させたライナに、フェリスは一瞬「貴様、良い年した大人が人形遊びで遊んだ後どこへ行く気だ! ま、まさか、また女を……やはり貴様を生かしておくわけにはいかない!!」とかいって嫌がらせを発動しようとしたのだが、

 

「あぁ、ちょっと……」

 

 珍しいライナの真剣な顔を見て、ちょっとだけ考え直した。

 

「知り合いが戦争に巻き込まれたそうだから、助けてくる」

 

 そしてライナが告げた言葉に、

 

「ん、そうか」

 

 フェリスはごくごく自然といった様子でライナが作り出した竜に乗り込んだ。

 

「ではさっさと行け色情狂」

 

「え~お前ついてくんの?」

 

「当たり前だ。貴様のことだ、どうせ助けに行くのは女なのだろう? ならば、その女助けたどさくさに紛れて『大丈夫ダイジョウブ、おれきみをたすけたじゃ~ん。だからちょっとだけ、ちょっとだけ? ね?』とかいってその女を犯す気の貴様を野放しにするわけにはいかない!!」

 

「あのさぁ、俺もちょっと徹夜がひどくてお前の御ふざけに付き合ってやれる余裕ないよ?」

 

「むぅ……」

 

 そんないつものやり取りを交わす二人を乗せた竜は、優雅に羽を一度振るい、

 

「キュイキュイ!!」

 

 その所作からは考えられないほどの速度で、天へ向かって飛翔を始めた!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そのころの、トリステイン王宮前の門にて、

 

「はいは~い、トリステイン王軍参加者受付はここだよ~。ならんでならんで~、ならんで、ならべ、ならべっつんてんだろうがこらぁああああああああああああああ!?」

 

 トリステインがはじめた平民の王軍参加の呼びかけに応じたものたちが集まりつつあった。理由は様々だろう。武功を立てて出世したい、国のために働きたい、兵隊になりたい、安定した収入がほしかった……などなど。

 

 当然そういったやつらは腕に覚えのあるやつが多く、同時に荒くれどもも多かった。当然並ぶなんて行儀のいいマネをする連中は少なく、先ほどからこの列を管理している魔法衛士が何度もブチギレて怒声を上げている。

 

「ふん」

 

 そんな光景を眺めるすでに受付を終えた傭兵たちの中に彼女の姿はあった。

 

 金色の短い髪に、まるで聖騎士が着込むような長いマントが合わさった白の鎧。デザインからしてかなり古い鎧に思われたが、その鎧には傷一つなくまるで新品のような輝きを放っていた。顔だちは少し鋭い目つきをしている以外は非常に整っており、美女……といっても差し支えない容姿をしている。

 

 当然そんな彼女の姿を荒くれどもが見逃すわけもなく、

 

「おいおい、おねーちゃん。こんなところで何してるんだい?」

 

「まさか王軍に参加したくて来たのかい?」

 

「かはははは、だったらおじちゃんたちが手取り足取りいろいろ教えてあげようか~? 無論お礼は体で払ってくれてもいいんだぜ?」

 

 ヒヒヒヒヒヒと、下卑た笑みを浮かべながら二人の男たちが彼女に突っかかっていた。彼女は男たちを一瞥した後、

 

「けっこうだ、失礼だが私はあなた方よりも腕が立つのでな」

 

「な、てめぇ!!」

 

 シレッと男たちを見下した発言を漏らした彼女に、話しかけた男たちは瞬く間に逆上し彼女に襲い掛かる。

 

 だが、

 

「まったく」

 

 彼女はそれだけつぶやくと、左手で腰の剣を目にもとまらぬ速さで抜き放ち一人の男の首筋へと突きつけ、右手で懐に隠しておいた拳銃を引き抜き、撃鉄を上げた状態でもう一人の男の額へと突きつけた。

 

「続けるか? 悪いが手加減はできないたちでな。これ以上続けるようなら、死ぬか……最低でも四肢のどれかを一つ犠牲にしてもらう覚悟をしてもらうが?」

 

「「ひっ!?」」

 

 圧倒的に実力が違うことをそのことで思い知らされた男たちは、思わず腰を抜かし這いつくばる。

 

 彼女はそれを確認した後男たちにはもう目もくれず、その場を立ち去ろうとして、

 

「ん?」

 

 頭上を一つの影が通り過ぎたのを感じて、視線を上に挙げた。

 

 そこには龍にまたがる二人の人間。魔法使いと思われる男と、剣士と思われる絶世の美女が空を舞っていて、

 

「剣士? 先に採用されていた人間か?」

 

 それにしても、いったいどこへ行く気だ? と、彼女は首をかしげ、

 

「アニエス・ミランさん。質疑応答を行いますのでこちらまで来てください」

 

「はい」

 

 今は自分のことが先決か……と思い直し、王軍入隊に対しての試験を受けるために返答を返した。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 人がたくさん死んでいく。

 

 そんな地獄絵図のような場所を、シエスタは幼い妹弟たちの手を引き必死に森の中を逃げていた。

 

 タルブ村は真っ先に侵略軍の侵攻を受けていた。

 

 家は焼き払われ、逃げ遅れた人々は殺され、使えそうな若い人間はとらえられた。

 

 父はひいお爺さんからある程度戦う術を教わっていたらしく、村の戦える人々と共に女子供が逃げる時間を稼いでいる。

 

 ここら辺一帯を治めている領主様(あのメイド好きさんだ)はすぐさま領軍を率いて駆けつけてくれたが、何分今まで平和な土地を収めてきた軍隊だ。ハルケギニア最強と言われたアルビオンの火竜騎士団相手では分が悪く、父たちと同じように時間を稼ぐのが精いっぱいだった。

 

 領主様は、シエスタの目の前で殺された。

 

 弟の一人が転び逃げ遅れたのを、命がけで助け起こしてくれた彼は背後に忍び寄ってきていた竜のアギトによって絶命した。

 

 ごめんなさい……。シエスタは心の中で何度も謝る。

 

 たった一つの夢で彼に失望してしまった自分が恥ずかしかった。

 

 笑いながら弟を助け起こしてくれて「よかった」とほほ笑んでくれた彼を蔑んでいた自分が恥ずかしかった。

 

 だが、泣くわけにはいかない。彼女の両手には泣きながらも必死に自分についてくる弟や妹たちがいる。自分が泣いてしまったら、彼らの絶望はさらに加速しもう足を動かすことはできないだろう。

 

 だからシエスタは気丈に笑う。誰もが泣き叫び、誰もが絶望する戦場で……笑う。

 

「大丈夫……大丈夫よ! きっとお父さんは帰ってくるし、きっとお母さんも無事だから。もうすぐトリステインの軍隊も助けに来てくれるから……だから」

 

 もう少しだけ、がんばろうね。

 

 シエスタの言葉に、弟と妹たちは涙を流しながらガクガクと頷く。そうしてようやく森の中へと逃げ込めた彼女たちは、無数の木立の中に身を隠した。そこにはほかの村人たちもいて、突然の侵攻にガタガタと身を震わせている。

 

 それを見てシエスタは祈らずにはいられなかった……。

 

 どうか、誰でもいいから……なんでもいいから、私たちを、助けてください。と、

 




バーシェン卿超悪役だった……。
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