サイトは戦闘機内にかかる苛烈な荷重に身をさらしながら、必死に操縦桿を操作していた。
「くっそぉおおおおおおお!!」
「相棒……やめとけって。あれ無理……」
「ふざけんな! こっちでひきつけとかないとあの砲撃が下に行くんだぞ!!」
先ほどからサイトは、だんだんと統制を取り戻し始めていたアルビオン艦隊につっこみ、もはや数がかなり厳しい弾薬を消費しながら艦隊たちを牽制していた。
その飛行技術はガンダールヴの加護があるため、どのような無茶なアクロバット飛行でも可能だ。そのおかげでいまだに艦隊からの被弾は0という奇跡的戦果を挙げていた。だが、
「っ!? 相棒! 急上昇しろ!!」
「言われなくてもぉおおおおおおお!」
サイトが背後におかれたデルフリンガーの言葉にそう返し、操縦桿を一気に引き上げる。それと同時に竜ですらあり得ない急上昇を行ったゼロ戦の下に、
「くるぞ!」
「っ!?」
無数の小さな鉄球が、弾丸のような速度で通り過ぎた!
「散弾だ! あいつら、小さな鉄球を大砲に詰め込んでぶちかましてきやがった!」
「くそっ!」
このハルケギニアの空中格闘戦では無類の戦闘能力を誇るゼロ戦だが、これは所詮敗北した国の兵器。
敗北したのは敗北したなりの理由がある。その一つが、
「大体この飛行機ってやつ? 装甲薄すぎんじゃねーの? 相棒の世界の奴らよくこんなものにのって空飛ぼうと思ったね?」
「生身晒して竜にのるよりかましだろうがっ!!」
それは先ほどデルフリンガーが告げた、極端な装甲の薄さだ。
ゼロ戦はより高速の空中格闘を実現するために、その機体を極限まで軽くする努力がなされた。
資源が失われた太平洋戦争後半では木材だけを材料にしたゼロ戦を空に飛ばそうとする研究までされていたと、まことしやかにうわさが流れるほどの紙装甲。それがゼロ戦が当時の戦場で空中格闘最強の称号を得られた理由だった。
そんな装甲であったとしても、竜までなら簡単だった。
どれだけ固い鱗を持っているといっても所詮相手は生物。鉄板を複数枚ぶち抜ける銃撃を遠距離からくらわせてやれば即死して大地へ帰っていく。
だがしかし、もとより砲撃を受けてもある程度の飛行を可能とし、またそういう相手に対して有効的な砲撃を可能とする巨大艦が相手では、
「くそっ……手も足も出ねーじゃねェか!!」
これで機銃の弾数が残っていれば話は違ったのだろうが、先ほどのやたらと動きのいい竜騎士のせいで現在弾丸は在庫切れだ。もはやサイトの乗るゼロ戦に遠距離攻撃の手段は戦艦相手ではかなり心もとない、小口径の7.7mmの機銃と、その弾丸数発しか残されていない。連射などすれば0,1秒で消費しきってしまうものだ。
正直、サイトとしてはもう囮ぐらいしかできることがない歯がゆい状況だった。
だというのに……。
「ちょっと、もっと丁寧な運転できないの!?」
「「無茶いうな!!」」
後ろにいるこの女はいったいなんなんだ!? とサイトは泣きたくなりながらデルフと一緒にツッコミを入れる。
「大体なんで乗ってんだよお前!? なんで搭乗しちゃってるの!? あんなに戦場でるの嫌がってただろ!?」
「それは、あんたが出るのが嫌だったの!! あんたこんなところに出ようとするのが嫌だったの!!」
「なんでだよっ!! 使い魔は戦うのが仕事だろ! 特に俺は、それくらいしかできることがないんだから!」
「だからよっ!!」
うまくいかない初めての戦場。以前のアルビオンとはわけが違う、確実に命をとられる可能性があるこの場に来てしまったサイトは、ほんの少しではあるが錯乱状態に陥っていたのかもしれない。
思わず怒鳴りつけるようにルイズをなじった彼に対し、初めての戦場で若干テンパっていたルイズも思わず自分の本音を告げる。
「あんたアルビオンから帰ってきてから、どんな態度で剣振るってたかわかってんの!?」
「え?」
「フェリスやライナがいた時はまだよかったけど、いなくなってからはもうダメだった! 一心不乱に剣振るって、これじゃ足りないって言いたそうに遅くなるまで体鍛えて……」
「……客観的に聞くといいことじゃないか?」
ルイズにとっても損はないと思うんだけど? と、何もわかっていないサイトはそう聞くが、ルイスはその返答として即座に首を振る。
「アルビオンに行く前のあんたはそうじゃなかった! 死にたくないって……戦場なんか出たくないって、女王陛下に頼まれて喜んでいた私を止めようと必死だった」
「それは……」
「でも、今のあんたは違う。知り合いのために平然と命を懸けてこんなところに来ている。それが悪いことだって私は言わない。サイト、あなたがやっていることはとっても尊いものだと貴族の私は知っている!」
「だったら」
なんで俺を責めるんだ! と、サイトが怒鳴ろうとしたとき、ルイズはそれよりも大きな声で、
「でも、あんたこのままじゃ……人を守るためだって言いながら死にそうだった!」
「っ!!」
「死ぬ戦いだってわかっていても、平然と一人でつっこんでいきそうな――そんな気がしたの!」
そしてそれは、ゼロ戦出撃前に行った言い争いで如実に表れていた。
ルイズは何度も言ったのだ。アルビオン空軍がいかに精強で、いかに恐ろしいかを。以前のサイトならそれを聞いたなら多少の尻込みを見せただろう。
それを責めることは本来できない。当たり前だ、貴族の子弟だって――近代兵器を与えられるといっても――世界最強の空軍に単騎突撃したがるわけがない。
アルビオン以前のサイトなら、少しは尻込みしただろう。シエスタの為だといっても、ほんの少しぐらいは怯える様子を見せてくれたはずだ。
だが、今のサイトは違った。シエスタを救うためだ、下にいるトリステイン軍を助けるためだと、怯えの色一つ見せずに軍艦へと突撃して見せた。
「そんな、そんな……いつ死んでもいいなんて思っているような、嫌な戦い方しないで。もっと自分の命を大切にしてよ、サイト。あなたは、私のたった一人の使い魔なのよっ!」
「っ!!」
ルイズの涙交じりの懇願に、サイトは頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
そして、それによって、サイトは初めて自分が焦っていたことを自覚した。
アルビオンでルイズを守れなかったことが、結局ライナ達のお荷物になってしまったことが、思った以上に自分の責め苦になっていたことを自覚した。
そして同時にあることに気付いた。
それは自分の右腕がもぎ取られたときのルイズの気持ち。自分を失ってしまうんじゃないかと思ってしまった時の、彼女の気持ちだった。
もしもサイトがルイズを同じように失いかけたなら、
「サイト……あんたが知り合いを――大切な人を見捨てられないのは知ってる。まだで会ったばかりの私を助けるためにフーケのゴーレムと戦ってくれたアンタだもん。いろいろお世話になってるあのメイドを助けるななんて、私には言えない。でもね」
サイトがそこまで考えたとき、ルイズは瞳に涙をためたまま必死に言葉を紡ぎながら、サイトに懇願した。
「死なないで……サイト。必ず生きて帰れるような、そんな戦いをして」
本当ならもう、戦いの場に出てほしくない。あの右腕をもがれたときのような怪我を再びサイトがするかもと考えているルイズとしては、本当はそう言いたいのだろう。
だが、彼女は身を引き裂かれるような思いでサイトの意志を理解してくれた。その上で、戦場に出ることを許してくれる。
「代わりに私も戦うから……何もできない私だけど、私はあんたのご主人様だから。だから、あんたが戦うときは、そばにいるから!」
「ルイズ……」
ルイズの言葉に、サイトは思わず操縦桿を殴りつけてやりたくなった。
主人であるルイズにここまで言わせてしまったことが――こんな風に泣かせてしまった自分が許せなかった。
サイトの瞳からは自然と悔し涙があふれ始めていた。だが、泣いていいのは自分ではないとサイトは理解している。だから、
「……ごめん。ルイズ」
サイトは自分が泣いていることを必死に押し隠し、ルイズに謝罪の言葉を継げた。
「サイト?」
「ごめん……勝手なことばかりして」
「……それはお互いさまよ」
私たちはまだまだなご主人様と使い魔なんだから、これからもっとよくなっていきましょう? と、ルイズはサイトの声が涙声になっていることに気付かないふりをして、サイトに笑いかけてくれた。
この時、二人は本当の意味で強い絆を作ることに成功したのだった。
…†…†…………†…†…
そんないい話で終わればよかったのだが、
「あぁ、お二人さん。いい感じなところになってるところ悪いんだけどさ、散弾くるぞ?」
「「!?」」
デルフの申し訳なさそうな声でようやく状況思い出した二人は、とたんに顔を真っ赤にしそれぞれの作業に戻る。
ルイズは始祖の祈祷書で、紅くなった顔を仰ぐようにして冷まし、
サイトはフットバーをけりつけ、飛行機を急速旋回させる!
「くそっ!」
「きゃっ!?」
それでも回避は間に合わなかったのか、わずかな衝撃がゼロ戦を襲った。
サイトはあわてて風防の中から気体の状態を視認する。幸いなことに被弾は尾翼それも小さな穴が複数開いただけだった。
だが、だからといって安心できない。ゼロ戦が損傷を受けたのは事実だし、次直撃を受ければまずいことも事実。そして、このまま戦い続けても埒があかないことは、ルイズと和解し冷静になったサイトにはわかっていた。
このままではよけ続けることはできても削り殺される。燃料も無限ではないし、事実弾丸はもう削り切られているに等しい状態だ。
「いったん距離をとりたいけど……下の方はどうなっているかな?」
「ちょ、ちょっと待っていま見るわ!」
戦闘中のサイトによそ見をさせるわけにはいかないと思ったのか、後部座席に座っていたルイズが率先して下を覗いてくれた。
正直一緒に戦ってくれるという言葉を信じてはいたのだが、こうして目に見える形で手伝ってくれると、その言葉が本当なのだと実感でき、それだけでサイトが勇気が湧いてくる気がした。
我ながら安い男だとは思うが……。
「にしても相棒は軽い奴だね……。俺だって今の相棒どうかな~って思っていたけど、剣だし? 持ち主に意見するのはなんか違うだろう? と思って黙っていたのに、結局女に説得されてデレデレじゃねーか」
「わかってたらな注意しろよ!?」
先ほどの会話をガッツリ聞かれていたのだと知りまっかになるサイト。それをからかうようにカタカタ振るえるデルフに、サイトはさらにブルブルと体を震わせる。
こいつ……ほんとにやな剣だ!! と、久しぶりに最低評価を相棒に下したサイト。そんな風にもめる二人の主従をしり目に、
「下は……だ、ダイジョウブというか、なんというか……」
「どうしたルイズ!?」
若干言いよどみながらこちらに視線を戻してきたルイズに、サイトは問いかけ、
「バーシェン宰相がいらっしゃるわ……」
「………………」
なんか、心配するのもおこがましかったんだな……。と、ちょっとだけ切なくなりつつも、
「ならほんの少しだけここから離れる」
「相棒、上いきな。そこに大砲の死角がある」
「了解!!」
仲間たちの助けを得て、神の左手は天空へと登る。
その時だった、
「っ!?」
「なに!?」
「なんだぁ?」
突然ルイズの始祖の祈祷書が輝きだし、三人を驚かせ、
「やぁ、ガンダールヴ。どこへ行くんだ?」
「「「っ!?」」」
続いて天空から響いてきた声に、ルイズとサイトの思考が固まった。
二人があわてて声が聞こえてきた方――ゼロ戦が向かっている上空へと視線を向けると、そこには一頭の風竜を駆った、
「以前は邪魔が入ったからな。今度こそ正式な決着をつけるとしよう」
鎧と、魔法で強化されたマントという戦場の装備をしたワルドが、月を背後に従え待ち構えていた!
…†…†…………†…†…
「ぐぁっ!?」
「はい、わりぃね」
混乱のさなか、不安そうな表情をしながら捕虜収容所の入り口にたたずんでいた歳若い監視兵を、背後から急襲し音もなく締め落としたライナはため息を漏らしながらあたりを見廻した。
この場にいた監視兵は締め落とした彼以外は誰もいない。正直言って不用心だと思うのだが、
「他の監視兵は、この混乱の理由を聞きに慌てて上に上がったとみるべきか……」
中の人たちがこいつ一人で抑えられるくらい弱っているかのどっちかだな……。と、ローランド暗部時代の癖で最悪の可能性が頭をよぎる。
何せ戦時中のローランドでは捕虜なんてものは貴族の
多少普通の生活をさせてもらっていた奴らもいたが、そいつらは裏でローランドに家族や大切な人を人質に取られ、無理やりいうことを聞かされている多角スパイでしかない。もう家族が殺されているとも知らず誰かを裏切りながら過ごす、哀れな人々……。
それを考えるとまだこの世界の倫理観は捨てたものではないと信じたいんだが……。と、ライナはため息をつきながら考え、
「んじゃ、開けますか」
覚悟を決めて、扉を開けようと手をかけ、
「っ!?」
中から発せられた殺気に気付き、慌てて後ろへと飛びずさる!
瞬間、中の殺気の主はライナの行動に気付いたのか、「ちっ」と小さく舌打ちを漏らしながら、
「はぁっ!」
「っ!? おいおいウソだろ!?」
無数の斬撃によって扉を瞬時に解体し、肩をぶつけるようにした
「よっと!」
「なっ!?」
しかし、ライナとしてもその程度の攻撃は簡単に喰らうわけにはいかない。何せ普段からこれよりも数十倍は早いフェリスの剣をいなしたりしているのだ。重装甲とはいかないまでも全身を鎧で固めた相手の突撃など遅すぎて、話にならない。
ライナにあっさりとよけられたその騎士――短い金髪で帯剣した白い鎧の女性騎士は、さらに舌打ちを重ね腰の剣を引き抜きながら、
「私はこいつをここで食い止める! すまないが皆は自力で敵本陣から脱出してくれ!」
「いや、ここまでしてくれただけでもありがてぇ! 感謝する!!」
「え?」
捕虜収容施設から次々と出てくるタルブ村やその近辺の村に住んでいた住人たちに呼びかけ、逃げるように指示を出す。
「えぇ!? おいおいおいおい、ちょ、ちょっと!?」
どうやらライナが監視兵の一人だと勘違いされていると理解したライナは、慌てて手を振り「俺もその人たち解放に来たんだけど……」と誤解を解こうとするが、
「動くなっ! メイジッ!!」
「ぬおわっ!?」
目も覚めるような速さで左腰のホルスターから抜かれた拳銃が火を噴き、ライナの眉間に向かって弾丸を放つ。
長いハルケギニア生活で銃の存在を知っていたライナはかろうじてそれに反応しよけることに成功するが、
「あっぶね!?」
弾丸の速度はフェリスの剣打(ライナおちょくりversion)に匹敵する速さを持っていたため、割と真剣に命の危機を感じたライナは、顔をひきつらせながらに三度バクテンしつつ後方へとのがれ女騎士との距離をとる。
しかし、相手は対魔法使いの戦闘に慣れているのかすぐにライナとの距離を詰めようと、疾走を開始しており、
「あぁ、もう……めんどくさいな」
これはいっぺん倒さないと話聞いてくれない……と、思ったライナは、詠唱に時間がかかるメイジ魔法ではなく、
「求めるは雷鳴>>」
「!?」
使い慣れたローランドの魔法を行使する。
「
瞬時に作成された魔法陣から飛び出す雷。女性騎士は一瞬だけ驚いた顔でそれを見るが、
「っ!!」
メイジ相手に足を止めることの愚かさを知る彼女は、鎧についたマントを引っ張り前へと突き出す。
そのマントは実は彼女の特注品で、とある理由で貴族をやめたある魔法具屋に売ってもらった彼女の切り札。そのマントには固定化の魔法がかかっておりある程度魔法を遮断してくれる働きがあるのだが、
「くっ!?」
熟練の魔導師であるライナの電撃を完全に防ぎきることはできなかったのか、ほんの少しだけ彼女の体にバリバリとした痛みが走る。
だがそれだけだ。彼女の疾走を止めるには至らない、
「お、おぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
そして、マントに視界を隠されたまま突撃を続けた彼女は、記憶の中から何とかライナがいたであろう位置を割り出し、マントを振り払いながら剣を翻すが、
「なっ!?」
そこにはすでにライナの姿はなく、
「はい、ちょっとごめんな?」
「しまっ!?」
跳躍し、壁をけり、天井の出っ張りを掴んで瞬時に失速した後、女性騎士の背後に着地したライナがそう声をかけると同時に、女性騎士はあわてて振り返ろうとする。が、すでにその手はライナにとられている。
「ほ~い」
「ぐぁっ!?」
そうなってしまえばライナの独壇場だ。とった手の関節をきめ、足を払い体を回転させた後、あっさり彼女を投げ飛ばしたライナは、地面にたたきつけられたことにより絶息を起こしている彼女をうつぶせにして、逃げたり暴れられたりしないよう関節を決め直し、
「動くな……って、はぁ……俺ってばこんなに運動してもう明日死ぬんじゃない?」
「くっ……殺すなら殺せ!!」
ナイフを女性騎士の首筋に突きつけあっさり無力化した。
「はぁ……。なんでこんなめんどくさいことになってるかな。とりあえずあんた、誰に頼まれて、こんなことしたの?」
「誰が話すかっ!!」
まぁ、敵だと思われていたらその返答が返ってくるのは当たり前だよなぁ……。と、ライナは内心で埒もないことを考えつつ、このめんどうな状況を打開する説明を――自分でするのもメンドくせぇえええええええええええええ!! と、内心で嘆きながら、
「あぁ、もういいや……。シエスタのお願い終わったし。もう俺不眠不休で働いてたから眠くして仕方ないんだわ。俺もう……ゴールしちゃっていいよね?」
「え? え? ちょ、ちょまて!? どこへ行く気だお前!? ゴールってどこだ!?」
「zzzzzzzzzzzzzzz」
「か、関節きめながら寝るなァアアアアアアアア!?」
結局最後は病気が再発してしまい、秘儀《いやいやこれ寝てるんじゃないよフェリス? 実は恒久的に関節を締めたまま寝たふりをすることによって相手に精神的苦痛を与えているんだ。だから剣を抜くなフェリス!?》を発動、
「うぅ……なんでだ? 涙が止まらねぇよ」
「今度は泣きだした!?」
もうなんなんだこいつは!? といわんばかりに錯乱する女性騎士に、ライナはとりあえず事情を説明することにした。
いや、ほんとにメンドくせぇえええええええ。と思いながら。
…†…†…………†…†…
「くそっ……しつけぇぞ、ひげ男爵ならぬひげ子爵!! いつまでフラれた女のケツ追ってる気だ!!」
「ふむ? 何やらその竜が出す爆音がうるさくてよく聞こえないが、とりあえずバカにされたことは分かったよ、使い魔君!」
そのころのタルブ上空では、高速で飛翔する鉄の竜と、暴風をまき散らすメイジを乗せた風竜が激闘を繰り広げていた。
しつこく後ろから風魔法を放ってくるワルドの攻撃を、現代知識とガンダールヴの加護によって行える巧みな操縦によって何とか紙一重で交わすサイト。
もとよりゼロ戦はその性質上パイロットの腕がそのまま空戦能力に直結する機体だ。ガンダールヴによって十全に機体を操ることができるサイトにとって、人間のメイジが放つ攻撃程度なら何とかかわすことができる。
だからサイトは、いったん視線をワルドからはなし、
「おい、ルイズ! さっきその本光っていたけど大丈夫か!?」
「う、うん……大丈夫というかなんというか」
先ほどから、後部座席の方で、光り輝いた《始祖の祈祷書》とやらを読んでいたルイズに声をかけた。
「なんか……わたし、とんでもないものに目覚めちゃったかも」
「あぁ? なに!? とんでもないものってっ!!」
何やら打ち震えてるルイズにそう返しながら、操縦桿を殴りつけるように押し倒し急降下。ワルドのエア・スピアーを辛くもよけたサイトは、今度はきちんと振り返りルイズの顔を見る。
その顔には、嬉しさと戸惑いが混ざったような複雑な表情が浮かんでいた。
「あ、あのね……この祈祷書にはある失われた属性の使い方が記してあって、ど、どうにもそれ私が使えるみたいなんだけど」
「攻撃魔法か!?」
「た、多分? で、でも、初歩の初歩って言っているしそんなに威力高くないかも」
「いや、それでもありがたい!! よくやったルイズ!! 愛してるぜご主人様!!」
「な、なによ!? あ、あんたに褒められたからって全然うれしくなんかないんだからね!!」
「いや……お二人さん、お取込み中悪いんだけど、上」
「「っ!?」」
デルフの忠告を聞いたサイトは、操縦桿を平行飛行状態に戻した後足元のペダルをたたく様に踏みつける。
それによって落下を無理やり止められたゼロ戦内部に凄まじい荷重がかかるが、サイトとルイズは必死にそれに耐えながら、ゼロ戦の急旋回を乗り切る。
それと同時にゼロ戦が今まで飛んでいたところを貫く不可視の槍。
それを放った敵は、こちらも鮮やかに竜を操りぴったりとゼロ戦の後ろへと付ける。
「くそっ……。あいつ、こいつ相手の空戦の仕方を心得てやがる!!」
「この飛行機の攻撃は前にしかできねーって気づかれたんだな、きっと」
まぁ、あれだけ大立ち回りしてりゃ弱点見つけることぐらいわけないわな。と、デルフが漏らすのを聞きながら、サイトは思わず舌打ちを漏らした。
ゼロ戦の武装は主翼につけられた二挺の機関銃と、機種につけられた7.7mm機関銃二挺。
しかし、そのどちらもが旋回機能など持ち合わせておらず、ただ前の敵を打倒すためだけに取り付けられた武装だ。
ひとたび当たれば強力な近代武装。しかし、それが当てられない背後に回られるとゼロ戦は一気に敵を狩る鷹から、鴉に追われる雀へと成り下がる。
だからサイトは、再び晒してしまった己のふがいなさに歯を食いしばりながら、
「ルイズ、頼みたいことがある」
「わかってるわ、サイト。約束したもんね……一緒に戦うって」
そんなサイトに、ルイズは笑って答えを返してくれる。そして、彼女は目覚めた始祖の祈祷書をめくり、そこから魔法を得ようとして、
「な、なによこれ!?」
そこに記されたあまりの呪文の長さに悲鳴を上げた。
これではサイトを守れない。そう言いかけたルイズに、今度はデルフリンガーが答える。
「あぁ……貴族の娘っこ。ソリャ仕方ないわ。だって虚無だもん」
「どういうことよ!?」
「虚無ってのはそれを受け継ぐ血筋もさることながら、一番の問題とされたのはその膨大な力を操るだけの制御技術なんだよ。デカイ力を使うなら、それ相応の時間と手間が必要だ。だから、そいつの呪文はそんなに長い」
「で、でも……これじゃ戦えないじゃない! こんな長い呪文――戦っている間に唱えられないわよ!!」
「でも使っちまえばすごいんだぜ? 確か嬢ちゃん生まれたときからまともに魔法使ったことないんだったよな?」
「それがどうかしたの!?」
「そうだな~。それだけの間にため込んだ魔力を使えば……」
デルフはそこで言葉を切り、かちゃかチャト自分の身を鳴らしながら、ゼロ戦の視界に巨大な艦隊がよぎるを見て告げる、
「あの艦隊程度なら一発で沈められるね。その初歩の初歩で」
「「はぁ!?」」
そのあまりにでたらめな威力に、ルイズとサイトは思わず息を飲み、
「そして、それだけの魔法を打つためには時間が必要だ。だから、呪文詠唱の間に主人を守る使い魔――ガンダールヴが作られたんだよ」
「「……」」
デルフから告げられた真実に、サイトは覚悟を決めた顔をし、ルイズは驚きの表情のまま固まる。
そして、
「ルイズ……」
「さい……と?」
「お前の魔法はあの船たちを沈めるために使ってくれ」
「っ!?」
使い魔は決断を下した。
「で、でも……そんなことしたらここで、この竜の羽衣をワルドに落とされちゃう! そしたらあんたは」
せっかく手に入れた帰る手段を、なくすことに……。と、ルイズが告げようとするのを聞き、サイトはワルドの攻撃を受けているにもかかわらず、やせ我慢の笑みを浮かべながら、ルイズを振り返った。
「安心しろ……。今度は絶対負けないから。俺は――
「……」
サイトのその笑顔を見て、ルイズは思わず息を飲む。そして、
「わかったわ……。がんばって」
「あぁ!!」
使い魔の信頼に答えるために彼女は目を閉じ、
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ――!!」
詠唱を開始する。
…†…†…………†…†…
ゼロ戦を追いかけ、いたぶるように魔法を放っていたワルドは、そのゼロ戦から急激な魔力の高まりを感知した。
「まさか……ルイズかっ!?」
使い魔の少年に魔法が使えないのは以前の戦いで知っている。だからもしも魔力を操ったというのなら、それは使い魔の少年の後ろに座っているのが見えたあの桃色髪の元婚約者しかありえない。と、ワルドは戦闘の合間のわずかな時間に即座に答えをはじき出す。
「はははは……やはり君は特別だったか!!」
そして、トライアングルどころか――スクウェアすら越えながら膨大なまでに威圧感を増していくその魔力の高まりに、ワルドは思わず哄笑を上げた。
やはり、自分の目に狂いはなかったと。やはり彼女は特別だったのだ、と。だが、
「おしい……実に惜しいよルイズ。そんな君を、僕自身の手で殺さないといけないなんて……」
これも運命かな? と、不気味な笑みを浮かべながら呪文詠唱に入りかけたワルド。その時、
「っ!?」
突如ゼロ戦が身をくねるように機体を旋回させ、ワルドの視界から姿を消す!
「なんだとっ!?」
高速戦闘を得意とする《閃光》の二つ名を持つ彼であっても、思わず見失ってしまうほどの速度で行われたその軌道は、The Immelmanと呼ばれる曲芸飛行とほぼ同じ。
それによって行われた高速の方向転換によって、はるか上空へと登ったゼロ戦はワルドを置き去りにして反対方向へと逃走を開始する。
「はっ!! やってくれる!!」
いったいどうやった? 竜にできる機動ではない? あれは本当に竜なのか? そもそも生き物なのか? などなど、以前はグリフォン、現在は風竜と様々な幻獣に騎乗し空を制してきたワルドですら知らない飛行に、ワルドの血は熱くたぎった。
だから彼は、
「面白いじゃないか……ガンダールヴぅううううううううう!!」
騎乗する相棒の腹をけりつけ、自らが持つ最高の飛行技術でゼロ戦の後を追いかける!
…†…†…………†…†…
かかった! と、コックピットに置かれていたミラーを使い背後にワルドがおってきているのを確認したサイトは、何度も深呼吸をしながらシートベルトを外す。
チャンスは一度。ここで撃ち落とせなかったら、もう攻撃手段を失いつつあるサイトに勝ち目はない。
失敗は許されない。
サイトは内心でそんな風に自分にプレッシャーをかけかけて、
「あぁ、バカか俺は! こんなところで緊張してどうする!!」
もっと自信をもて。もっと気楽にいけ! 俺ならできる、できるんだよっ!! と、サイトは何度も自分に言い聞かせようとする。
そんな彼を見かねたのか、彼の左手に握られたデルフリンガーがカチャカチャと音を立てながら声をかけてきた。
「なぁ、相棒。結構無茶するんだな」
「無茶じゃねぇ! 俺ならきっとできる!!」
「あぁ、そうだな。だって相棒、今までずっとフェリスの姉さんに鍛えられてたんだから、むしろできなきゃおかしいだろ?」
そう言ってくれたデルフに、サイトはぽかんと口を開け、
「はは……あぁ、そうだな。あの地獄の特訓受けといて負けましたなんてフェリスさんにばれたら殺される」
緊張した色を顔からけし、ようやくリラックスした笑みを浮かべた彼は、
「じゃぁ、ちょっと行ってくる!」
呪文詠唱によって瞑想状態にはったのか、微動だにしないルイズに笑いかけながら、
「おらっ!!」
デルフリンガーの柄につけられている革ひもを、操縦桿やフットバーを固定するように巻きつける!!
…†…†…………†…†…
ワルドは追跡していたゼロ戦が突如視界から消えたのをみて、舌打ちをもらし、背後から聞こえてきた発砲音に、竜の体をけりつけ急上昇させる。
後ろか!! と、その発砲音を聞き、それによっておこった空気の震えから、ゼロ戦がどこへ向かっているのか理解したワルドは、瞬時に振り返り、自分の向かって凶悪な機首を向ける鋼の竜を目撃した。
だが、
「どうやら今度は失敗のようだね!」
ゼロ戦はワルドと同じ高度にとどまることに失敗し、ワルドのはるか下の空へと機体をおろし、そこでとどまってしまう。弾もうち切ってしまったのか、カチカチという耳障りな音しか響いていない。
最後の最後で凡ミスか……がっかりさせてくれる。と、ワルドはその光景にため息を漏らしたが、しかし彼は軍人だ。敵であるなら、たとえ好敵手であっても容赦はしない。
「さらばだ、使い魔君。主を守れないまま眠れ!!」
そして、ワルドは空を無様に飛ぶ鋼の竜に向け、エア・スピアーを放ちとどめを刺そうとした。
その時!
「どこ見てんだよ」
「っ!?」
上空から何かが降ってきた。
そしてそれは杖を突きだしたワルドの眼前を通過すると同時に、
「おぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ぐあぁあああああああああああ!?」
左手にもつ剣をひらめかせ、落下の力を利用しつつ、ゼロ戦を打ち抜くため、杖を構え突き出していたワルドの左腕のひじから先を見事に両断し、切り取る!
そして、ワルドの優れた動体視力は、自分の左手気を斬りおとした敵の正体を的確につかんだ!
…†…†…………†…†…
「貴様っ――使い魔ぁあああああ!!」
「俺は平賀サイトって名前があるんだ、覚えとけフラれ野郎!!」
自分の左腕を斬りおとした敵に怒りの絶叫を上げるワルド。それに負けないほどの絶叫を上げながら、サイトは落ちる。そして、
「うがっ!?」
「相棒……もうちょいかっこつけてもいいと俺は思うぜ?」
「無茶言うな!!」
初めてのスカイダイビングをパラシュートなしでやった恐怖に、心臓をバクバク鳴らしながらサイトは思わず情けない声を上げる。
そうサイトは空中で縦に一回転しようと頂点に達したゼロ戦から飛び降り、上空からワルドを急襲したのだ。
近代曲芸飛行技術を使って背後に回っての銃撃も、ゼロ戦の弱点を知り尽くしたあのクラスの騎士なら確実に対抗策を練っている。それに弾丸は直線にしか飛ばない。よほどうまくターゲットできたとしても発砲音と同時に急加速や急降下をされてしまえば弾丸では届かない可能性があった。
だからサイトは確実にワルドを倒すために、この方法をとった。なけなしの弾丸は囮に使い、ワルドに背後を向かせ自分の急襲に気付かせないようにし、上空から剣の一撃で敵が杖を持っている手を切り裂く。
そしてその攻撃は見事に功を奏し、サイトは無事、下に控えていたゼロ戦の座席への着地を成功させていた。
まぁ、着地の体制は尻から座るような形でだし、足を曲げそこなったせいで盛大にかかとをメーター各種に打ち付けてしまったがそれはご愛嬌ということで。
「ワルドは!」
「安心しろ。空戦では何よりも重要とされるのは、幻獣にのりながら自由に飛ぶために必要なバランス感覚だ。だが、あいつはバランスをとるための重要な器官である左手失ったんだ。たとえ死んでなくても今の戦場じゃもう戦えねえよ。杖もねえしな」
デルフが言った通り、サイトが上空を見上げるとそこにはひじから先がなくなった腕から、血の雨を降らせながら風竜の背中にうずくまるワルドの姿があった。あれでは確かに戦えないだろう。
「そう……か」
サイトはそれを見て安堵の息をつき、
「さぁ、最後の大仕事だ相棒!」
「あぁ、わかってるよ!!」
ゼロ戦の機首を艦隊に戻し、空を制した伝説は再び戦場へと馳せ参じた。
ようやくサイト大活躍ww
何気にこのお話ではワルドにようやく勝てたという……ねぇ。
おせぇよ主人公orz