ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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終わる戦争

 ライナは暗殺者が消えた闇を茫然とした様子で見つめていた。

 

 なんで、どうして!? そんな言葉が彼の内心を埋め尽くす。

 

「なんで――ビオがこんなところで!?」

 

 なぜならその暗殺者の顔は、以前自分の目の前で殺された……いや、自分の魔眼《複写眼(アルファ・スティグマ)》を暴走させるために殺された、自分を愛してると言ってくれた暗殺者――ビオ・メンテの顔とまったく同じだったから。

 

 いったい何が起こっている? 俺、幽霊でも見たのか? と、信じられない事態に珍しく混乱するライナ。だが、状況はそんなライナを待ってはくれなかった。

 

「おい、何をしているメイジ! 追撃はもう無理だ。だったら私たちも早くこの本陣から脱出したほうがいい」

 

「あ、あぁ……」

 

 茫然と立ちすくむライナを現実へと引きもどしたのは、苛立ちまじりに腕を引っ張ってきたアニエスの怒声だった。

 

 そうだ。今はまだ戦場にいるんだ……立ちすくんでいたら死ぬ。アニエスの忠告にようやく暗殺者の素顔を知ったショックから立ち直ったライナは、

 

「ワリィ。すぐ行く……」

 

 そう言って、せめて何か証拠を……。と思い、暗殺者が落とした仮面を拾いその場から離れた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 アニエスはようやく立ち直りともに走りだしたライナに安堵の息をもらしながら、周囲の状況を観察する。

 

 あれからかなり時間もたった……。やはり混乱も落ち着き始めているな。と、アニエスがそう評した先には、中隊単位で固まり大隊長たちに指示を仰ぐ兵士の集団があった。

 

「怖気づくな! たとえ大将閣下がやられたのだとしても、まだ負けたわけではない。数の上ではまだまだ我々のほうが有利。それに我らには空に座す最強のアルビオン艦隊がついて居る! トリステインなどおそるるに足りぬ!!」

 

 声高に各所で号令を下す大隊長の大声に、アニエスは小さく舌打ちをもらした。

 

 まずいな……。混乱に乗じて捕虜とともに私たちも逃げるつもりだったが、これではすぐに!!

 

「おい……貴様ら見たことない顔だな? 所属と上官の名前を言え」

 

「「っ!?」」

 

 アニエスの不安は現実となった。疾走していた二人を呼び止めたのは、本陣各所を走り回り軍の統制を取り戻すための伝令兵。その数約20名。蹴散らすのはたやすいが、

 

「どうする?」

 

「どうするって……ここで暴れたら間違いなくほかの兵隊たちも気づくって。そうしたら間違いなく今よりめんどくせぇことに……」

 

「だな」

 

 伝令兵を蹴散らしなんてしようものなら、自分たちが的だと大声で叫んでいるようなものだ。下手しなくとも周りにいる軍人全員が敵になる……。

 

 だが、ごまかすこともできない。急場の依頼だったため、敵の実情や部隊名、上官名などの情報は全く持ち合わせていない。下手に名前を告げたところで、すぐに嘘だと見破られてしまう。

 

 どうする!? どうする!?

 

 アニエスが内心で脂汗を流しながら、何とかこの状況を打開するすべはないかと必死に頭を巡らせているとき、

 

「おい……なんだあれ?」

 

「あ?」

 

 突如、一人の兵士が上空を指さし騒ぎ出した。

 

 それにつられてアニエスたちの尋問をしていた伝令兵たちも、空を見上げ、

 

「「「えっ?」」」

 

 突如、天空に出現した太陽が、彼らの守護神である最強――アルビオン空軍を飲み干すのを目撃した。

 

「なっ……!?」

 

「おいおい、何だあの魔法!? どんな威力してるんだ!?」

 

 そんな異常な光景に当然アニエスも驚き、魔法を複写眼(アルファスティグマ)で見ていたライナも度肝を抜かれた。

 

 なぜならその魔法は、圧倒的な広範囲に爆風と爆炎をまき散らす魔法であるにもかかわらず、その破壊対象を選別――決してその魔法では船に乗る人員までは傷つけないように例外として設定し、そのすべてを無傷のまま、空の艦隊のすべてを沈めたのだ。

 

 そんな、魔法というにしても異常すぎるその光景にライナはしばらく茫然としていたが、

 

「か、艦隊が……」

 

「おれたちの命綱が……」

 

 絶望したように伝令兵がつぶやきを漏らすのを聞き、我に返る。

 

「おい、アニエス! 今のうちに逃げよう」

 

「あ、あぁ!? そ、そうだな!!」

 

 そうして二人は、再び敵本陣を襲った大混乱に乗じその本陣からの脱出を成功させた。

 

 それとは逆方向からトリステイン王軍が、艦隊を失い、指揮官を失い――四肢をもがれたも同然のアルビオン軍を蹂躙するために、静やかに進軍を開始していることなど知らずに。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「勝ったな、アンリエッタ」

 

「えぇ……。ですがあまり気持ちのいい勝利ではありませんね」

 

 結局われわれは、自らの力で勝ったのではありませんもの……。と、どこかやるせない表情をしたアンリエッタはそう漏らしつつも、この戦争の落とし所についてバーシェンと話し合うことにする。

 

「ところでバーシェン卿。本当によろしいのですか? 生き残った敵兵は貴族以外殺さず放逐するなど……」

 

「構わん。本来ならあの戦略を世に出さないために、皆殺しにするべきなのだろうが……」

 

 そんなアンリエッタの質問に、バーシェンは鋭い瞳を上空へ向け、燃え盛りながら地上に落下するアルビオン艦隊のなれの果てを見つめた。

 

「最後に起こったあの太陽によって、大体の活躍は持っていかれてしまったからな。いまさら、おれが行った小手先の小細工を気にする人間などいないだろう」

 

「ですが……」

 

「それにだ」

 

 虐殺をしなくていいのは良かったが、そんな理由でさっきまで出していた指示を取り下げるなど、理論的なバーシェンらしくない。と思ったアンリエッタの抗弁に、バーじぇんは返事を返した。

 

「あの光はむしろチャンスだ。トリステインには最強の艦隊を一撃で沈める魔法があることが知れ渡れば、アルビオンはおろか、ガリアやロマリア……ゲルマニアであってもトリステインには容易に手出しができなくなる。それを実現するためには、生存者を一人でも多くして、噂の伝播に努めるのが政治的には正しい」

 

「あぁ、やっぱりそういう目的もあったんですね」

 

「ここ、テストに出るからな?」

 

「テストあるんですか!?」

 

「何を言っている? 三日前に作った王族規則のテキストがあっただろう? あれを覚えて実践できるかどうかのテストを来週やるといっただろう? 無論合格点が取れなければウェールズとの結婚は無しだ」

 

「そんな!? 聞いていません!」

 

「今言ったからな」

 

 シレッとそう返すバーシェンに絶望の表情を浮かべるアンリエッタ。そんな二人の王国最高権力者たちの会話に、苦笑を浮かべながらトリステイン国軍は進み続ける。

 

 この戦争の勝者として――その背中には、確かな自信が根付いていた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 タルブ地方から避難することに成功したシエスタは、火竜に追われた森の外に広がる平原でじっとライナの帰りを待っていた。

 

「戦争は終わったそうだ。トリステイン軍が勝ったそうだぞ? だからもう、心配するな」

 

「……そうですか」

 

 そんなシエスタに話しかけてきたのは、平原にゴザを引き優雅に団子セットをかっ食らっているフェリスだった。

 

 この人はいつでもぶれませんね……。と、そんな泰然とした態度のフェリスにちょっとだけ感動を覚えつつ、シエスタはそれでも待ち続ける。

 

「でも、まだライナさん達が帰ってきていませんから」

 

「……そうか」

 

 そう言って、団子を食すのに戻ったフェリスだったが、彼女もやっぱりこの場から動こうとはしなかった。

 

 なんやかんや言って、彼女もライナを待っているのだろう。そんな彼女の態度が意外とかわいらしく見えて、シエスタは思わず笑ってしまう。

 

「な、なんだ?」

 

「いいえ。ライナさんが心配なんですね……フェリスさんも」

 

「なっ!? ちちちちち、違う!!」

 

 無表情のままそれでも顔を真っ赤にして否定の言葉を告げるフェリスに、シエスタは小さく笑い声をあげて、少しだけ不安を薄めることに成功した。

 

そして、

 

「きっと、帰ってきますよね?」

 

と、安心しろと言ってくれたライナの背中を思い出しながら、シエスタがそうつぶやいた瞬間。

 

「シエスタっ!!」

 

「え?」

 

 空から爆音とともに声が降り注ぎ、シエスタから少し離れた平地に、鉄の塊が降り立った。

 

「竜の……羽衣?」

 

 なんでこんなところに!? と驚くシエスタをしり目に、ゼロ戦の風防が開き中から、

 

「無事だったか!?」

 

「サイトさん!」

 

 見たことがある黒髪の少年が飛び出してきた。

 

 そんな彼の姿を見て、シエスタの瞳からは思わずといった様子で涙があふれ出した。

 

「サイトさん、サイトさんっ!!」

 

 そして、彼女は走り出し、こちらにむかって駆け寄ってきてくれたサイトに勢いよく飛び着いた。

 

「うわっ!? ちょ、シエスタ……おもっ」

 

「ライナさんが、ライナさんが私のお父さんを助けに行ってくれて……でも、まだ帰ってこなくて!!」

 

 私のせいで、ライナさんが死んじゃったんじゃないかって……。サイトが何か余計なことを言う前に、サイトの胸で泣くシエスタの声に、サイトは少しだけ驚いた顔をし、

 

「え? ライナさん? それなら、今森の中歩いていたのが上から見えたけど?」

 

「……え?」

 

 そのサイトの報告に思わずシエスタが涙を引っ込めてしまったとき、

 

「お~い! シエスタぁああああ! みんなぁああああ!!」

 

「っ!? あなたっ!!」

 

 森から出てきたシエスタの父親の姿を見て、草原で王国の支持があるまで待機していたシエスタの母親が、勢いよく立ちあがり彼に向って駆けていく。

 

 それを皮切りに続々と森の中からあらわれる捕虜となった村人たちに、彼らの帰りを待っていた人々は歓声を上げながら駆けよっていった。

 

 そして、森の中から出てきた人の中に、

 

「あぁ……もう無理。三徹の上あんな激しい戦闘とかマジで無理だから……。あっ……おれもう寝ちゃう。あと三秒で寝るわ……1――グーッzzzzzzzzzzzz」

 

「2と3は!?」

 

 と、馬鹿なことを言いながら歩きながら寝るという高等技能を披露するライナと、そんな馬鹿すぎる技能を持つライナに愕然とする白い鎧を着た女騎士様がいて。

 

「よかった……本当によかった」

 

 そんないつも通りの彼の姿に、シエスタは再び泣き出し、サイトから離れぺたんと座りこんだ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そんなシエスタに、サイトは笑いかけながらもう一人ライナを心配していたであろう女のほうへと視線を移し、

 

「ライナぁああああああああああああ!!」

 

 剣を振り上げ勢いよくライナに向かって駆けていくフェリスを見つけた……。

 

「あの人こんな時でもそんなノリなの!?」

 

 と、愕然とするサイトをしり目に、フェリスはとんでもない速さで、寝ながら歩くライナに到達し、

 

「え? なに、なになになになになになになになになになにっ!? 何なのフェリス!? なんでそんなに嬉しげに剣をふりかぶってんの!?」

 

「言ったはずだ。遅ければ首を切り落とすと……」

 

「えぇ!? あれ、あんまりに遅かったら助けに来てくれるってことじゃ、ぎゃぁあああああああああああああああ!?」

 

 結局勢いよく空を飛ぶライナの姿に、サイトは冷や汗交じりの作り笑いを浮かべ、ゼロ戦から下りてくるルイズへと視線を戻した。

 

 ……あっちはなんかすごい怒ってるな。と、若干機嫌が悪そうな顔で、こちらに向かって走ってくるご主人の姿に、サイトは今夜の折檻を覚悟しながらも、

 

「終わったんだな……」

 

 と、ようやくいつも通りの日常になった光景を見て笑い、

 

「って、これが日常って俺どうなの?」

 

 と、思わず涙を流した……。

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「くくっ……ビオは失敗したか」

 

『申し訳ありませんジョゼフ様。次こそは必ず』

 

「よい。劇はゆっくりと見るものだ。ここで終わってもつまらんだろう」

 

 使い魔からの定期報告がなされた水晶玉の機能を切り、ガリア王国国王ジョゼフは不気味に笑う。

 

「さて……次はどのような演目を見せてくれる? 異世界の魔術師」

 

 そいう言って笑うジョゼフの胸には、赤い宝玉がはめ込まれた首飾りが、不気味な光を放っていた。

 




ようやく、三巻終了!!
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