ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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閑話・ハルケギニア入浴事情補完計画

「ふ~」

 

 したるお湯。

 

「きもち~」

 

 上気し桃色の変色したほほ。

 

「生き返る~」

 

 湯気に包まれた裸体を心地よさそうに伸ばし、陶然とした吐息を漏らす人物は、何の囲いもない無防備なお風呂に浸かった、

 

「やっぱ日本人にはこういう風呂だよな~。サウナじみた湯気風呂なんて邪道だぜ」

 

 サイトだった……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「なんでだがねぇええええええええええええええええ!?」

 

「ぬぉ!?」

 

 そんな光景を見て、血涙を流しながら近くの茂みから飛び出してきたギーシュとマリコルヌに、サイトは思わず飛び上がった。

 

「な、なんだ突然お前ら!? つーかおれのふろを覗いて……ま、まさか、お前らそっち系の!?」

 

「んなわけあるかぁああああああああああああ!!」

 

 そんな二人の姿を見て恐れおののくサイトを置き去りに、ギーシュはサイトが使っている風呂(・・)を指さす。

 

 ライナが宝物庫修復の際に余らせた煉瓦を使ったかまどの上に置かれた、巨大な鍋を……。

 

「ここ最近、平民のメイドたちが『貴族気分が味わえる風呂!!』といって、ここを多用していると聞いてのぞきに来てみれば、なんで最初に来た入浴者が君なんだねぇええええええええ!?」

 

「返してよ! 僕らの夢と希望を返して!!」

 

「ってか、お前らそんなこと企んでたのかぁあああああああああ!?」

 

 謝れ! 必至こいて懐かしい故郷を再現した俺に謝れ!! と、サイトが思わず絶叫を上げるのを聞き、ギーシュとマリコルヌはやれやれといった様子で肩をすくめる。

 

「だがサイト……君も男ならわかるはずだ。入浴をする女子の姿というのは、数多の法を無視してでも鑑賞する価値があるものだと!!」

 

「っ!? そ、それは……」

 

「だから許してほしい……僕たちという罪深い存在ぉおおおおおおおお!!」

 

「――くっ。そ、その気持ちはわかる。でもっ!!」

 

 そんな変態二人のあふれ出る若いパトスに共感したサイトは、その主張に小さく同意しつつも、

 

「でも、だったらお前ら貴族の女子風呂覗けばいいだろ? ルイズに聞いたけど、ここより設備が整っていて、きれいだから女子たちも油断してるって聞いたぜ?」

 

「ばかっ! その整った施設が問題なんじゃないか!?」

 

 どういうことだ? と、首をかしげるサイトに、

 

「もちろん、こんなことをする前に僕たちだって女子風呂を覗くことは考えたさ! それこそ、ほかの女子たちが完全に油断している入学初日の日にね!!」

 

「おい、貴族」

 

 それでいいのかお前ら……。と、半眼になるサイトをしり目に、ギーシュは主張を続ける。

 

「だがしかし、魔法学園の女子風呂は難攻不落! 唯一中を覗ける五メートル上にある天窓には曇り掛けの魔法がかかっており、外からは見えず内側からは覗いている人物はきっちり見えるという鬼畜っぷり。さらには壁にかかっている固定化は宝物庫以上の強度を誇っているし、入り口には女子以外が2メートル以内に近づくと問答無用で襲い掛かってくる、赤土先生謹製のゴーレムが二体配置されている!」

 

「なかなか警戒厳重だな……」

 

 昔にもお前らみたいなバカがいたんだろうな……。と、とんでもない警戒態勢にあきれつつも、サイトは思わず頷いた。

 

「確かに……そいつはのぞけねぇ」

 

「「だろ?」」

 

 彼もそのバカの一人だったからだ……。

 

「だから僕たちはこの風呂で我慢するしかない……。我慢するしかないんだよ!!」

 

「僕たちだって本当はもっと女の子が来るお風呂を覗きたい……。でも仕方がないんだ……。貴族風呂という道が閉ざされた今、僕たちにはもう……こうするしかっ!!」

 

 何やら悲痛な覚悟で仲間を見捨てる部隊長みたいな声音で、唇をかみしめるギーシュとマリコルヌだったが、言っている内容は変態そのものだった。

 

 だが、そんな二人に救いの手が差し伸べられる。

 

「何をあきらめているんだお前ら……」

 

「っ!?」

 

 いったいなにを!? と、サイトが告げたその言葉に、ギーシュとマリコルヌは目を見開く。

 

 その時……二人は天啓を得たのだった!!

 

「すでにある風呂がのぞけないなら……覗きやすい風呂を作ればいいんだ!!」

 

「お、おぉ」

 

「サイト……君が僕らの神だったのかい?」

 

 バカ三人による、ばかばかしい壮大な計画が幕を開けた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その数日後、トリステイン王宮の宰相執務室にて、紅蓮の宰相がライナからの書類を受け取っていた。

 

「まったく新しい風呂?」

 

「あぁ……なんかサイトから提案書来てるんだけど」

 

「あぁ。一応あいつ覚えていたんだな……」

 

 以前サイトに『今トリステインは資金不足でな。異世界人なら、何かこちらの世界にない金儲けになりそうな斬新なアイディアはないか? あったら、書類にしてライナにわたせ』と、サイトに行っていたことを思い出したバーシェンは、五徹明けの休日から帰ってきたライナが持つ一枚の書類を受け取り、目を通す。

 

「『日本風露天風呂の可能性について』……か。ふむ、興味深くはあるな」

 

「お前のところにもあったのか?」

 

「あぁ。私がいた国の隣国の民が作った風呂でな。あの民特有の感覚である、《侘び》と《寂び》を感じさせる癒しの空間を体現した風呂だな」

 

「侘び寂びね」

 

 ライナはバーシェンが目を通している書類に書かれた絵を思い出しながら、少し首をかしげた。

 

 自然にあるままの巨岩を風呂の壁として起き、その中に湯を泉のように満たした風呂。正直ライナの世界にもないわけではなかったが、

 

「あんな変わったつくり、この世界で受けるのか?」

 

「ふむ。まぁ、このハルケギニアにはない概念だからな……。何が受けるのかは正直試してみんと分らんとしか言えんが」

 

 だが、ためさんよりかはいいだろう。と、バーシェンは内心でそう思う。彼は確かに、政治は得意だが、民の余暇についての嗜好はさすがに読み切れていない。異国の文化から来た人間なのだ。長くこの土地にいるといってもそれは仕方がないことだろう。

 

「それに、実験段階で作る風呂もきちんと利用するみたいだしな。学園の平民労働者たちにも、疲れをいやす場として開放するという意見はなかなかいいものだと俺は思うが?」

 

「あぁ。なるほど……確かにビジュアル受けはしなくても、風呂はそれだけで需要ありそうだしな」

 

 と、ライナは平民たちが風呂と呼んで愛用しているサウナを思い出しながら頷いた。

 

「じゃぁライナ。この案件は貴様に任せる。以前のように錬金でチャチャッと作って建設してこい。あぁ、その際にサイトの意見をちゃんと聞いておくのだぞ」

 

「え? 俺ぇ……」

 

 だが、自分がそれを作るとなると話は別だ。建設仕事の肉体労働方面はほとんどゴーレムに任せるといっても、魔法を使うのは体力を消耗する。正直ライナとしては書類仕事のほうがありがたいのだが、

 

「仕方がないだろう。私もアンリエッタもウェールズも多忙の身だ。優秀な土メイジたちも、今はアルビオン包囲軍の武装を作るためにフル稼働している状態だ。風呂づくりに人員を割く余裕はない」

 

「でもさぁ……」

 

 だったら別にこの案件はあとまわしでも……。と、ライナが言いかけた時だった。

 

「ば、ばーしぇんさん。書類上がりました」

 

「ご苦労だった。では次にこの書類を頼む」

 

「……」

 

 疲れ果て、ミイラのようになってしまっているウェールズが、一メートル近い書類の束を提出すると同時に、バーシェンから倍近い高さになっている書類の山を突き出されるのを見て、絶望したように黙り込むというとんでもない光景に、思わず顔を引きつらせる。

 

「あぁ。それからそれはまだ今週中に終わらせる書類の6分の1も行っていないぞ? もっと処理のペースを上げろ」

 

「む、無理言わないで下さいよ……。僕もアンリエッタも、もう7日寝てないんですよ? アンリエッタなんて昨日布団が空を飛んでいるって幻覚見てるんですよ?」

 

「なんだ、まだその程度が。文字が書けなくなるまでは大丈夫だ。安心しろ。先日倒れたマザリーニの姿を思い出せ。あのくらいまでならまだ大丈夫だ。蘇生処理できちんと生き返っただろう?」

 

「ほとんど死体みたいな状態だったように思うんですが……」

 

「だから、それくらいになるまでがんばれと言っている」

 

「…………………」

 

 もうかわいそうなぐらいガタガタ震えるウェールズに、ライナは滝のような冷や汗を流す。

 

 そして、おぼつかない足取りで処理を抱え出て行ったウェールズを見送った後、

 

「まぁ、確かに貴様が言うとおり、今の段階で金儲けのことを考えても仕方ないしな。仕方がない、できるだけ早くに着手したほうが後々有利なのだが、この際お前にも書類仕事にまわって……」

 

 とか、バーシェンが言い出したので、

 

「お、おれ風呂づくり超頑張ってきまぁああああああああああす!!」

 

 ライナは逃げ出した……。

 

 やべぇ……。あの宰相、おれたちのことを骨までしゃぶりつくすきだ!? と、戦慄を覚えながら……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 というわけで、ライナはトリステイン学園の近くにある湖畔に、サイトが提唱した露天風呂を作りに来たわけだが……。

 

「まさかお前らまで手伝いに来るなんてな……。授業どうしたんだよ?」

 

「いいえ! 普段世話になっているメイドさんたちをねぎらうために、身を粉に働くのは当然のことですよ!!」

 

「授業なんて何ぼのもんじゃいですよ!!」

 

「そ、そうか……」

 

 なんだかとってもやる気に満ち満ちているギーシュとマリコルヌの姿にややひきつつ、ライナは自分の隣で図面を広げているサイトに話しかけた。

 

「で、どのあたりにつくんの?」

 

「それよりライナさん。お湯ってどこから引くんですか?」

 

「あぁ? あぁ、それは湖の水魔法で浄化して温めるから心配いらんそうだぞ?」

 

「魔法って本当に便利ですね……」

 

 温泉探す段階から始めないとダメかなって思っていたんですけど……。と、少しだけ感心したような声音を漏らしつつも、サイトは湖を見渡した。

 

「そうですね……。露天風呂というからにはロケーションにこだわりたいですし」

 

「でもサイト。あんまり学園から遠いと足を運ぶのが大変だよ?」

 

「それもそうか。この近くで湖が極力きれいに見える場所に作りましょう」

 

「りょうか~い」

 

 ギーシュの忠告を素直に受け入れるサイトの姿に、いい風呂を作ろうとするサイトの熱意を感じたライナは、黙ってその指示に従うことにした。

 

 まぁ、元からこいつの意見でもあるしな……。やる気があるなら考えるのは任せるか。と、やる気が全く感じられない理由も存在したが……それはライナだけが胸に秘めておいたほうがいい秘密だろう。

 

 というわけで、風呂の設置場所はサクサク決まり、いざ建設という段階に移った。

 

 とはいっても、形や風景を実際作り出す建築資材はすべてライナの錬金によって賄える。そのうえ、風呂づくりに必要な自動湯沸しの魔法技術もすでにバーシェンから教えてもらい習得済みだ。

 

 ブッチャケあとはライナが作り出したゴーレム任せの流れ作業となるわけなのだが、

 

「何してんだお前ら?」

 

「え? べ、べつに!? 俺たちも何か手伝おうかなって!!」

 

「そ、そうですよライナさん!! ちょうど男湯と女湯のしきりにちょうどいいものを見つけたのでもってきたのですよ!!」

 

「はい、はい!!」

 

「いや……でもそれ」

 

 明らかに隙間だらけじゃね? と、ライナが呆れきった顔をしながら見つめているのは、サイトとギーシュが担いでいた、細い竹のような植物をまとめた御簾。それを男女風呂の間に立てかけようとするサイトたちの姿に、さすがにライナはものもうした。

 

 なぜなら、

 

「そんな壁、どこからどう見てもスケスケだろう?」

 

 さすがに治安上それはよろしくないと思うが……。と、いうライナのツ鋭いツッコミ。だが、

 

「何を言っているんですかライナさんっ!!」

 

「うおっ!?」

 

 凄まじい剣幕でライナに食って掛かってきたサイトの姿に、そのツッコミは勢いを失った。

 

「せっかくハルケギニアにはない文化をということで、俺の世界の露天風呂を再現しようとしているんですよ!? その俺の世界では男女風呂のしきりには、こういった解放感と涼やかなイメージがある御簾がベスト! ここで手を抜いてしまっては、せっかくの今までの苦労が水の泡なんですよ!!」

 

「いや、でもさ……」

 

「それに安心してくださいライナさん――わが日本の風呂建築技術は世界一ィイイイイイイイ!!」

 

 そう言ってサイトがミスをよく見るようにライナを促す。

 

 そんなサイトの気迫に逆らえなかったライナは、渋々といった様子でその御簾に顔を近づけ、

 

「って、あれ? 見えない?」

 

「そう! 実はこの御簾は二重構造になっていまして、隙間はあるけどけっして中を覗けないよう、中に詰め物がしてあるんですよ!!」

 

「これなら、このミスとやらが仕切りをしても安心ですよライナさん!」

 

「今ならお値段無料ですよライナさん!!」

 

 何やら胡散臭い通信販売的な発言をしてくるギーシュとマリコルヌは置いておくとして、一応ちゃんと対策されているならライナとしても文句はない。

 

「あぁ……じゃぁ、まぁ、好きにすれば?」

 

「「「アザ――――――――ッス!!」」」

 

 ライナの許可を頂き嬉々として御簾設置へと移るサイトたちに苦笑をうかべつつ、ライナは再びゴーレムに指示を出す作業に戻るのだった。

 

 

 

 のちに、ライナはこの御簾がとんでもない事件を引き起こすことなど……まだ知らなかった。

 




 しってるか? これ……続いちゃうんだぜ……。
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