“お゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛”
怨念まみれる怨嗟の声が、夜のとばりが下りたある風呂に響き渡っていた。
“なぜじゃぁ”
“なぜ覗けなんだ……”
“恨めしや……恨めしやぁああああ”
不気味な声を響かせながらあたりを浮遊する形を持たぬ者たち。
その者達があふれる風呂の姿はまさしく人外魔境というにふさわしい。
そんな風呂に、
「ふむ。確かにいい感じにゆがんだ奴らがたまっているようだな」
“っ――――――――――――!!”
一人の男が侵入してきた!
“恨めしやぁあああああ!!”
“とりつけぇ!! 再び実体を得て我らは桃源郷に!!”
一斉に体を持つ男に襲い掛かる姿を持たない者たち。彼らの妄執はもはや、生きている人間を害してでも、目的を成し遂げようとする狂気へと変わっていた。だが、
「邪魔だ雑霊共。
“!?”
襲撃されたのは実は男のほうではなく、彼らのほうだった!
言葉とともに男は一枚の札を投げつけ、
「
そっけなく告げ、
“ぎゃぁああああああああああああああああ!?”
“無念ンンンンンンンンンン――!!”
形を持たぬ者たちは続々とその炎にまかれて消滅――殲滅された。
それを満足げに見た男は、
「さて者ども、風呂掃除が終わったぞ。第一回王宮組慰安用入浴雑談会の始まりだ」
「「「う~っす」」」
その言葉とともに、ライナとウェールズとサイトが入ってくるのを見て、男――バーシェンは満足げに頷くのだった。
…†…†…………†…†…
「というかサイト……。お前どうやったらできて一日もたっていない風呂を、生霊渦巻く人外魔境の作り変えることができるんだ。だいぶ荒んでいたぞ、あの魔法学院の男子生徒たち」
「す、すいませんでし……た」
「も、もうやめてやれ!?」
「サイト君のライフはもうゼロですよ、バーシェン卿!?」
自分に貴重な魔法を使わせたということで、数分頭を踏みつけられ風呂の中に沈められるという罰則をバーシェンに食らったサイトは、今や虫の息で風呂の外に転がっている。
まんま殺人事件じゃねーか!? と、ライナとウェールズがとめなかったら間違いなくサイトの命はなかっただろう……。
「それにしても生霊ごときどうにもできんとは……伝説の使い魔が聞いてあきれる」
「無茶言わないで下さいよ……。こっちの魔法的力はこれぐらいなんですよ?」
「伝説なら伝説らしく、約束されちゃう勝利を導く剣的な何かで一掃せんか」
「俺とデルフに対する希望が天元突破しすぎてる件……」
といいつつも、何とか復帰を果たし、ライナたちがつかる風呂へと舞い戻ったサイトは、苦笑いを浮かべながら自分の手にあるルーンを掲げた。
それを見たライナは小さく首をかしげながら、
「にしてもそれ変わった方式の魔法だよな……」
「そういえばライナ。お前前頼んでおいたガンダールヴルーンの解析はどうなっているのだ? あまり遅いと給金カットするぞ」
「今までそんなことする暇ないくらい仕事させまくってたやつが何言ってんだよ……」
「ま、まぁまぁ! 今は楽しい慰安旅行なわけですし、仕事の話は一遍忘れましょう!! ね!? ねっ!?」
殺意が混じる視線を怒気のこもった声とともに送り届けるライナと、それを平然と受け止め絶対零度の瞳で見下すバーシェンの間に、ウェールズはあわてて滑り込みなんとかその場を収めた。
ウェールズ元皇太子。何気にこの国に来て苦労性の気が出始めている……。最近は髪の生え際が後退しないか戦々恐々としているとのこと。
「ふん。だがまぁ、すべての武器を扱うとなると結構な強化が見込めるのも確かだろう? 魔法武器に関しては果たしてどうか知らんが……」
「あぁ、そういやそうだな……。でも、デルフは一応魔法武器だけど、魔法関係の能力に関しては能力で読み取れないんだよな?」
「はい。デルフが機能を教えてようやく気付くくらいですしね」
「その点もだいぶあてにならないみたいだけどね~。君の剣、かなり物忘れ激しいみたいだし」
「言わないでくださいよ……。こっちもどうにかならないかと苦心してるんですから」
温泉につかり、たれウェールズとなっている皇太子に「本当にこの人王子様かよ……」と役職と現実のギャップに苦しみつつ、サイトは反撃とばかりに、
「俺ばっかりじゃなくてライナさんはどうなんすか? 見ただけで魔法覚えられるんなら異世界行ったらかなり強化見込めません?」
「あぁ? 俺はもう魔法学園で習える魔法は全部覚えたかな? というか思ったんだけどさ、ファイヤーボールのルーン詠唱ってちょっと無駄多すぎね? 俺だったら後、二三詠唱文字削れるけど」
「後でレポートにして提出しろ。うちのアカデミアに回して研究させる」
藪蛇だったぁあああああああ!? と、突如増えた仕事の話にライナは風呂でひっくり返った。そんなライナの様子に苦笑を浮かべつつ、
「俺の世界の魔法も再現できるかも!? マヒャドとか、マカホンタとか……。カッコいい系で言うなら
「――
「知ってるんですか!? バーシェンさん!!」
「日本のサブカルはバカにできんよな~。よく調べられていると思うぞ?」
レンマギの詠唱なんてどこで調べたんだあれ……。と、某影が薄すぎる仙人のことを思い出しつつ、バーシェンはライナのほうを見る。
「さっきの詠唱で魔法が組めたりしないか?」
「詠唱だけが魔法の術式じゃないってあんたも知ってるだろう? 発動する事象と、それに至る経過の状態。それが宗教系の魔法なら、その宗教が敬う逸話や神話を一言一句たがえずに教えてもらわない解けないし、周囲の魔的礼装まで上げてもらわないとできないって……」
「できるなサイト?」
「無茶ブリキタ――!?」
「うちの王宮は言い出しっぺの法則というものがあってね」
やはり、男性というものは自身の強さにあこがれるものなのか、サイトの世界で花開いていた強力な創作魔法についての談義が勃発した。
「でもイノケンめちゃくちゃかっこよくないですか!? カッコいいですよね!!」
「炎の中型ゴーレムか……。できないわけでもないんだろうけど……」
「操作がかなり面倒ではあるな。単純な殺傷目的なら、適当に炎をぶちまけたほうが早いぞ」
「それより俺が聞きたいのは、穂先に映した物の名前を割断して、その物体を切るってやつだな。いったいどんな原理なんだそれ?」
「日本には名前というものはその人物の体を表すという志向があってだな」
「あぁ、名前に影響があったらその人物にもそれ相応の影響があるって考えなのか……」
「僕としては同じ風の使い手として、風遁螺旋手裏剣やってみたいよね」
「いや、あれ魔法じゃなくて忍術ですから!!」
「何が違う?」
「これだから素人は! 忍術と魔法は別物って、あっつぅうううううううううう!?」
「誰が素人だ? 焼くぞクソガキ」
「焼いてから言わないで下さいよ!?」
ギャーギャーわめきあいながらも、割と仲好さそうな雰囲気で会話は進んでいく。仕事が絡まなければ、これくらい和気あいあいと話が進むのだといういい例だった。
「それにしてもサイト。お前昨日もフェリスに負けたらしいな? ダメだろ。男は強くないといかん」
「無茶言わないで下さいよ……あれもうきっとエイジャ付きの石仮面かぶった新手の完全な生物か何かですって」
「でも実際油断が多いの確かですよね。せっかくガンダールヴがあるんだし、武器を常時付けていたらどうです?」
「いや……。どうやらガンダールヴになるにしても魔力が必要みたいで、それしちゃうといざという時に出力不足に」
「そうなのか? というかこいつに魔力があるのか?」
「ん? あるぞ?」
「「「……」」」
瞬間、ライナが告げた温泉一帯に沈黙が下りた。そして、
「ちょ!? あるんですか!?」
「どういうことだ、ライナ!?」
「つまりサイト君は正真正銘の魔法騎士!?」
騒然とする男三人に、だるそうな顔でライナは告げる。
「でも、魔力の容量少ないわ、異世界人だからかこっちの世界の人間みたいに外に出す手段がないわで、あんまり役には立ちそうにないな。こっちの世界の魔法も使えなさそうだし」
「どういうこと?」
つまりだな……。と言いながら、だるそうにしながらもなぜかやる気に見えるという矛盾した姿をさらしながら、ライナは解説に入る。
「この世界の人間にはサイトにはない二つの器官が存在する。まず脳にある《体内魔力を知覚する感覚器官》これがないと魔法の制御はできないからまぁ当然だな。次にあるのは、《体内魔力を外に放出する器官》だ。こちらは主に杖手――つまり、利き腕に集中していることが多い。この器官から出した魔力を杖で統制制御して魔法を使ってるわけな?」
風呂から上がり、洗い場にある湯気で曇った鏡を使って図を描き説明するライナに、三人はふんふんとうなづきつつ、
《なぁウェールズ。この知識一体他国にいくらで売れると思う?》
《いや、それよりもうちのアカデミーで解析研究したほうがいいのでは?》
《それもいいかもしれんが、死体であろうと人の体を開くのはこの世界では禁忌だ。間違いなくロマリアの生臭どもが黙っていないからな……。下手に異端認定されてもことだ。あちらとの交渉をしつつ、金で知識を他国に売りとばしたほうが、収益が出る。借りも作れることだしな》
と、黒い会話を続けるウェールズとバーシェンから、サイトは必死に目をそむけた。
「ところがサイトにはこの器官が両方ともない」
「え? そうなんですか!?」
「ガンダールヴになってる時の体内魔力を見る限りはな。というわけで、サイトにメイジ風の魔法は使えないってことになるわけだ」
そんなライナの言葉にがっかりと肩を落とすサイト。だが、
「だがライナ。だったらお前の世界の魔法や私の仙術……は、なしにするにしても、精霊魔法などはどうだ? あれなら《
希望の光がさした。が、
「それも無理っぽいんだよな……」
という、ライナのすげない否定でさらにへこまされた。
「ガンダールヴ状態のサイトは、俺の
ライナたちは体内にルイズたちのような魔力を持たない。というか、持っていてもそれを制御する《体内魔力を感知する器官》がない。そのため、精霊を見るためには脳の眠った機能の一部をたたき起こして、視覚可能領域を広げる必要がある。
対してこちらの世界の住人は違う。貴族や精霊魔法を操る連中に限るが、彼らは体内に豊富な魔力を保持している。その魔力を使い、目を強化すれば、割と簡単にライナたちが大変苦労してようやく到達できる、視覚可能領域の拡大を平然とやってのける……のだが。
「それなのにサイトには精霊が見えない。一瞬貴族みたいに精霊を見る目を失っているのかなって思ったけど、そうでもないみたいだし……たぶんサイトは」
「お、おれは……」
ごくりと息をのみライナの次の言葉をかたずをのんで聞くサイト。そんなサイトにライナは申し訳なさそうに頭をかきながら、
「ものすっごい……精霊を見る才能がないんだと思う」
サイトが盛大に風呂の中で四肢を付き落ち込んだことは、言うまでもないだろう……。
…†…†…………†…†…
「でも実際、使用魔力の加減ができるんだったら、常時武器をつけておくっていうのも悪くなくねぇか? 手甲とか暗器とか、こっちにもいろいろあるだろ?」
「サイトが
「いやいや無理ですって!? どう考えてもあの人たちの服四次元につながってますよ!?」
「だが、むしろ俺としては、腕一本丸々武器にするのがお勧めだな」
「義手……ですか」
「俺の腕がなくなりますよねそれ!?」
「しまった……アルビオンでなぜこいつを助けたのだ!! そうすればロマン武装である
「もっていかれたぁあああああああ!? じゃなくて、もっていかれるぅうううううううううううううう!?」
「うちの世界にも《紅指》っていう武装義手があるけど……」
「ちなみにどんな効果だ?」
「義手に魔方陣を組み込んで、ノータイムで魔法を発動させることができるようにしたんだ。ちなみに紅指の能力は、腕の周囲に真空刃を展開することだな」
「ちなみに触れた相手は?」
「死ぬ」
「よしサイト! 両腕おいていけ! 右手をオートメイルに、左手を紅指にするぞ!!」
さいと は にげだした!!
この後も、ショーもないガンダールヴ強化をテーマにした与太話を話していました。
本当はもっとネタ多くしたかったのに、解説で随分と時間を取られてしまった……なぜだ!?