お昼寝罪と団子特別課税
そして、平穏な時は終わりをつげ、時は再び動乱の時代へと動き出す。
「とうとう完成したか」
「はい」
青い髪とひげをもつ狂王は、カーテンを下し真っ暗になった居室にて、使い魔が魔法具を使い生み出した、空中に浮かぶアルビオン周辺の映像を見て笑い声を漏らす。
「レコンキスタ包囲艦隊。なるほど、最新の装備を施した艦隊であることも相まっているが、さすがはトリステインにその男ありと言われたバーシェン監修の布陣だ。この布陣は余であっても破るのはいささか難儀なことになりそうだ。特に、アルビオンに向かう船は……アルビオン到着は絶望的と思ってもいいだろう」
『どうなされますか? ジョゼフ様』
そういうって水晶玉越しにこちらの様子をうかがってくる使い魔に、ジョゼフは不敵な笑みを浮かべる。
「くくくっ……。クロムウェルはどうしている?」
『周囲の将軍にたきつけられて何度か軍を派遣したようですが……ことごとくトリステイン艦隊の集中砲火を受け敗北。ただでさえ内乱で減っていたハルケギニア最高の艦隊は、今やその数を三分の一に減らしてしまっています』
「当然だ。あの宰相が生半な陣を敷くはずがない。奴が行動を起こすときは、奴の考えが完璧に実現できるという自信と根拠がある時だけだ。陣を敷き、宣戦布告が発布された時点で、もうアルビオンの敗北は決定している」
『では、切り捨てますか?』
何のためらいもなく、アルビオンの王とまでなった男を見捨てる提案をしてくる使い魔。そんな、自分の考えを理解している彼女に「さすがは余の使い魔!」と、ジョゼフは手をたたき笑った。だが、
「それはまだいささか惜しい。見捨てて滅びの道を歩ませるとしても、その滅びは劇的でなければ詰まらん」
『確かに……』
これは彼の娯楽なのだから……これは彼の暇つぶしなのだから。何万人の人間が死ぬ戦争を作り出したというのに、狂った王とその使い魔は全く良心の呵責を覚えることなくそのことを笑い、どうすればもっとひどいことになるのか話し合う。
「そうだ。レコンキスタに雇われている凄腕の傭兵たちにトリステインの魔法学園を襲わせよう。入る船は規制していても、出る船は規制しないようだしな。避難民が乗る船に見せかけて抜ければ、簡単に出ることができるだろう。できれば学生の死人が出ればなお面白い。トリステインも包囲戦などと生ぬるいことは言っていられなくなる」
余は誠によいことを思いついた! と、狂気の笑みを浮かべながらジョゼフは水晶玉越しに、使い魔へと指令を下す。
世界をより陰惨に、凄惨に作り替えるために……。
…†…†…………†…†…
そのこと、トリステインの王宮にて。
「あぁ? アルビオンに潜入」
「そうだ」
金髪の女剣士と、黒髪の怠惰魔術師――フェリスとライナが招集されていた。
場所は宰相執務室。紅蓮の宰相直々の招集だった。
「うちの国がとうとう本格的にレコンキスタ攻略のために兵糧攻めに移ったことは知っているな?」
「あぁ。まぁ……」
「最近空が騒がしいからな」
そういって彼らは王宮の空を見上げるように、執務室の天井へとわずかに視線を動かす。その向こう側からは風を引き裂きながら、戦場へと向かう無数の艦隊が飛ぶ音が聞こえてきていて……。
「あぁ。戦術自体は全く問題ない。数回ほど包囲網布陣に際して、敵の妨害攻撃があったが危なげなく退けることができたしな。陣が完成した以上、あとは黙って船をローテーションさせながら包囲網を維持していけば――試算では一ヵ月で片が付く計算となっている」
「じゃぁ、わざわざアルビオンに行く必要はなくねーか?」
「マジでめんどくせ~し」と、大あくびをしながらさっさと帰ろうとするライナと、「ふむ。私も団子フェスタの準備で忙しくてな」と言いながらそれに追従しようとするフェリス。
そんな二人にため息をつき、
「まぁ、聞け」
「ぐぇっ!?」
「むっ」
バーシェンは、その気になれば鉄すら引き裂く鋼の糸をライナとフェリスの首に巻き付け、その動きを封じた。
「って、シャレにならない、シャレにならないぃいいいいいいいい!?」
ちょっとだけ糸から血がにじんできたライナは、思わず悲鳴を上げてあわてて立ち止まる。そんなライナを見て、フェリスもこれはまずいと思ったのか小さく舌打ちをしながらも歩みを止めた。
こいつら……俺がこの国の宰相だということを忘れていないか? と、明らかに無礼千万な二人の態度にわずかに眉をしかめるバーシェン。だが、そんなこと今更だと理解しているがゆえに、彼は鉄面皮のままため息を一つつくという行為を二人への抗議へと代え、
話を続ける。
「兵糧攻めで一番苦労するのはなんだと思う?」
「あぁ? そりゃ、敵に補給を与えないための布陣設営じゃないのか?」
「それは下準備だ。そして、そのちゃんとした用意さえしてやれば、この戦いは補給路と断つという簡単な作業の一点に集約される。現場に監督がいなくとも、敵がよっぽどの奇策を取らない限り回る戦闘だ。ぶっちゃけ始まってしまえばこれほど楽な戦いはない」
「では、いったい何に苦労するというんだ?」
フェリスのもっともな質問に、バーシェンは一つ頷きながら、一枚の書類を取り出す。
「さじ加減だ」
「さじ加減?」
「そうだ。この兵糧攻めというものは、どこまでやってどこでやめるかを決めるのが、一番面倒な作業なんだよ」
そういってバーシェンが差し出してきたのは、アルビオンの食料自給率がある程度示された書類だった。
「島国のうえ空中に浮くアルビオンは、はっきり言って作物が育ちにくい土地だ。土地が狭いうえに、上空にあるため常にある程度寒冷な気候だからな。だからこそこの国は、他国からの食料輸入によってその生計を立ててきた。そのおかげで、今回の国単位での兵糧攻めが効くわけなのだが……。ここで一つ問題が出てくる。あんまり兵糧攻めをやりすぎると、人民が飢えて続々死んでいってしまい、戦後にそっくりそのまま手に入るはずのアルビオンの土地を、運用できる人間がいない……なんてことにことになりかねないということだ」
つまり、働き手が飢えて死んでしまえば、現在のアルビオンが持つ収益のほとんどが0に返り、また一からあの浮遊島を作り直さなければならないということで……。
「そんなことをすればせっかく国一つ手に入れたところで大赤字だ。国単位で一から開拓事業を始めることがいったいどれほど金がかかると思っている」
「ええっと……つまり俺たちにしてほしいのは?」
「民が飢えて死なない、しかしレコンキスタ幹部たちが切実に困っているラインをアルビオン内で見極めつつ、俺に教えろ。お前たちの報告を見極めて、俺が降伏勧告を出す」
そういって、わりかし面倒どころか……数百人単位のスパイたちが行うはずの命令を下してくるバーシェンに、ライナとフェリスはお互いに目を見合わせて、
「あぁ……それってシオンが言っていた協力可能な仕事よりも明らかに外れているよな」
「ふむ。つまり、われわれはこれを断ったところでだれも文句を言えないということだ」
「む」
ライナとフェリスの同時攻撃に、バーシェンは思わず黙り込み、舌打ちを漏らしかねない雰囲気をにじませながら首を縦に振った。
「あぁ。まぁ、たしかに……それは否定しない」
「じゃぁ、俺らはちょっと遠慮させてもらうわ。俺一日72時間寝るというお昼寝教信徒の崇高な修行があって忙しいんだ」
「うむ。私も団子教信徒としてよりこの世界に団子を広めねばならないという崇高な使命が……」
二人がそう言ってバーシェンの執務室を出ようとしたとき、
「おっと……手が滑った」
そんなわざとらしい言葉を、バーシェンが棒読みで告げながら二枚の書類をライナとフェリスの前に落とす。
「「!?」」
その書類の内容を見て、ライナとフェリスは固まった。なぜならそこにっ!!
『お昼寝罪制定についての意見書』と『団子特別課税制法案』という、信じられない文面が踊っていて……。
「おっと、済まないライナ、フェリス。
な~んて、バーシェンが棒読みで言いながらライナたちに向かって絶対零度の視線を向けてきたりしていて……。
「お、お前っ!?」
「こ、この悪魔め!?」
「ん? どうしたライナ、フェリス? 顔色がとっても悪いが?」
わざとらしく、微塵も表情を動かさないままこちらの心配をしてくるバーシェンに、ライナとフェリスは思わず歯ぎしりをした。
だが、そんなことをされてしまった以上、二人に選択肢はない。
「で、ライナとフェリス。お前たちはこの仕事をけるのだったか? 非常に残念なことに……」
「「喜んで引き受けさせていただきます!!」」
数日後、すっごい不満げな顔でアルビオン域の軍艦に乗った剣士と魔法使いの姿が見られることとになった……。
…†…†…………†…†…
「これが最後のチャンス……」
その頃、トリステインの魔法学校で、赤毛の少女がそんなことをつぶやいた。
「とはいえ、包囲網が敷かれた時点で、もうウェールズ暗殺に意味はない。たとえ今ウェールズが死んだとしても、包囲網は維持されアルビオンはトリステインの手に落ちる……」
まったく、あの宰相が、優秀すぎたのが誤算だった。まさかこれほど早くに艦隊の編成を終わらせるとは……。と、憎々しげに王宮のある方向を見つめながら、少女は床をふくモップに力を込める。
「だとするなら、ウェールズ暗殺はもうやめて、代わりにあの二人の情報でも集めたほうが主に対するご機嫌取りとしてはましか?」
少女は自分の命をつなぐために、自身のターゲットを完全に変えることにする。そのターゲットは、
「異形の魔法を操る男……ライナ・リュート。魔法使いの天敵……フェリス・エリス」
ジョゼフ様が好きそうな輩だ。と、彼女は小さく鼻を鳴らしながら、
「アリス~。そっちの掃除終わった?」
「ん~? あとちょっと!!」
同僚のシエスタに微笑みかけながら、暗殺者――ビオ・メンテは今日も偽りの仮面をかぶり、学園のメイドとして働く。
…†…†…………†…†…
アルビオン辺境。ウエストウッド村。
その周辺にある森で、キノコや木の実を集めていたフードを目深にかぶった少女。彼女は突如空を駆け抜けた巨大な軍艦に驚き、あわてて空を見上げる。
「……こわいですよ。戦争なんて」
はやく、終わってくれたらいいのに。そう思いながら彼女は、たくさんの食料が詰まったバスケットをつかみ直し、急ぎ家路についた。
閑話終了!
原作4巻に入るんだけど……
「あれれ~? おじさん、原作が影も形も見えないよ~?」
「何言ってんだ小僧! 二次創作ではよくあることだろうが!」
「でもおかしいよ! だったらなんでゼロの使い魔原作で小説書いているの?」
と、某見た目は子供頭脳は大人的な少年探偵に言われかねない事態に……。