ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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妖精が住む森・ウエストウッド

「ライナとフェリスがどこにいるかですって? 平民のメイドが何でそんなこと気にするのよ?」

 

「い、いいえ、ちょっと頼みたいこととかもろもあったり……タルブでシエスタ助けてもらったお礼がしたかったりぃ~?」

 

 ライナとフェリスがアルビオンへ向かった翌日、シエスタを通してルイズにつなぎを取ってもらったアリスことビオ・メンテは、にこやかな偽りの仮面をかぶりながらライナとフェリスの情報収取へ移ろうとした。

 

 だが、学園中探してもライナとフェリスは見つからない始末。どうやら学園の掃除に熱中している間に、どこかへ行ってしまったらしいとビオが気付いたのはついさっきのことだった……。

 

――まずいわ。最近メイド生活が長すぎて暗殺者としての勘が鈍ってる。

 

 と、いまさらながらそのことを自覚したビオ。とはいえ、そんなことを今気づいてのあとの祭り以外の何物でもないので、とにかく今のライナとフェリスの居場所を聞き出すために、彼らの友人であるラ・ヴァリエールのご令嬢につなぎを取ったわけだが、

 

「あの……なんかお忙しそうですね」

 

「戦争が始まっちゃったから実家から招集がかかったのよ。いっぺん顔を見せに来いって!」

 

 心配性なんだから。と、やや膨れながらも一応自分を心配してくれていた家族の言葉に、すこし顔がにやけるのを抑えきれないルイズ。

 

 非常にかわいらしい態度だったが、その背後で大荷物を抱えたサイトが業者に紛れてこき使われているのが非常にシュールだった。しかもそのサイトは、

 

「うぉおおおおおおおおおおお! 見ろ、デルフ!! 俺今ものすごくしんどい。つまり俺今すごく鍛えられている!? このままいったらおれの筋肉インフレ起こさね!?」

 

『相棒、相棒!! テンション高いのはいいけどこのまま変な道に走っちまいそうで俺すっごい心配なんだが!?』

 

 そのうち『筋肉ぅうううううううう!!』と叫びだすか、上腕二頭筋と話し出すかしかねない勢いで修行バカになりつつあり、やや危ない空気を醸し出していて、

 

「むむ!! さすがはフェリスさんのお弟子さん!! 自らを鍛えることに余念がないとは……僕も負けてはいられません!! ぶーちゃん!! とりあえずトリステイン国境マラソン10周を百セット!! 今日中に終わらせるよ!」

 

「心得た、わが主!! 以前のように『国境侵犯者め!!』とか言って襲ってきた妙なやつらは根こそぎ私が吹き飛ばしてやろう!! だから主はマラソンによって己が身を鍛えることに集中してくれ!!」

 

「さすがはぶーちゃん!! 僕が作った最高の槍だ!! 頼もしい限りだよ!!」

 

 何やら言語を介する豚のぬいぐるみと笑顔で会話を交わすさわやか青年が、ルイズに王宮からの書簡を渡したかと思うと、残像を残しかねない勢いで学園から出ていく。

 

――いつからこの学園はこんなカオスになったんだろう……。と、いまさらながら自分がいる場所に危機感を覚え、潜入する場所を間違えたかと気づくビオ。

 

 とはいえ、あとの祭り以外の何物でもないし、友人となったシエスタと会えなくなるのはいささかさびしくあったので、黙ってその光景を黙殺し見なかったことにする。

 

 そして彼女はルイズの返答を待ち、

 

「う~ん。でもあいつら今アルビオンに行っているらしいから、はっきり言って会うのはかなり難しいと思うわよ?」

 

「アルビオン!? 包囲網に加わっているんですか!?」

 

 そうなると情報収集はかなり厄介になるんだけど……。と、思わず苦虫をかみつぶしたような顔になるビオに、ルイズは黙って首を振った。

 

「いいえ。どうも違うみたい? なんだったかしら……アルビオンを征服した時のために、前もってあの大陸に潜入して地質調査をやるんだとか言っていたわ?」

 

「……」

 

 地質調査というのは、トリステイン軍が昔から使うとある任務の暗喩だ。その任務とはぶっちゃけると『諜報任務』。地質と揶揄された敵内情を探る、暗い闇の任務だ。

 

「そう……ですか。ありがとうございます」

 

「あ、ちょうど話し終わった? アリス」

 

 ビオがそのことに少しだけ目つきを鋭くしながらルイズに謝礼を告げた瞬間、先ほどまで洗濯をしていたシエスタがちょうど通りかかりビオを拾ってくれる。

 

「じゃぁ、一緒に洗濯干すのを手伝って。男子生徒の皆さんが戦争だって浮き足立ってて……服がものすごく汚れてるの」

 

「はいはい。まったくシエスタは私がいないと何にも出来ないんだから」

 

「……その発言はものすごく不本意なんですけど」

 

 じゃぁ、ラ・アリエールさん。アリスのお話聞いてくれてありがとうございます。別にいいけど、私の名前はヴァリエールよ!! と、軽口を交わしあう貴族と友人の姿に驚きながら、ビオは今後の予定を考える。

 

――とりあえず、アルビオンに潜り込むにはどうしたらいいかしら? と。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その頃、空に浮かぶ大陸……アルビオン王国のとある町にて。

 

「なんだこいつ、怪しいやつめ!?」

 

「これほどまでやる気がない男は見たことがない!?」

 

「だがこやつ……我々がこれほど近くに近づいたというのに全く起きないぞ!? 本当にスパイなのか?」

 

「怪しい奴はすべてひっとらえよとのお達しだ。聖帝どのも大分焦ってきているようだな」

 

 四人の騎士に囲まれた、とあるカフェテリアの屋外テーブルに突っ伏し爆睡する一人の男の姿があった!!

 

 ……というかライナだった。

 

 この男は潜入任務など知らぬといわんばかりの態度で、コーヒー一杯頼んだだけでそのカフェテリアに居座り、こうして惰眠をむさぼっている。

 

 はっきり言ってかなり迷惑な客。怪しい奴と、店主が意趣返し交じりに通報しても何ら不思議はない感じの悪行を彼は働いていた。

 

 とはいえ、やってきたはいいがはっきり言って、ライナの姿をみた瞬間かなりやる気がそがれる騎士。

 

 これだけやる気がない男がスパイなんてはっきり言ってありえないのだが、空路はすべて封鎖され、アルビオンはジリ貧になるしかない現状。それを打開する一手への糸口が少しでもほしいのか、現在のアルビオンの支配者はとりあえず片っ端から怪しそうなやつを捕まえて、トリステインのスパイだったらその情報を得ようと躍起になっている。

 

 男を見逃すわけにもいかなかった。

 

「あぁ、おい貴様。起きろ!!」

 

 というわけで、とりあえずライナに声をかける一人の騎士。恫喝じみた言葉だったのは、一応この仕事の内容が捕縛だからだろう。

 

 対するライナの返答は、

 

「え? なんだよキファ……今日日曜日だぜ? もうちょっと寝かしてくれよ……。えぇ、手作り弁当? いいってそんなの……俺今日72時間寝る予定だから」

 

「誰、キファって!?」

 

「というか手作り弁当だと!? しかも明らかに女と思える名前の人物から!?」

 

「こやつ、なんてうらやま……いいやけしからん!?」

 

「これは我々貴族の註罰が必要だな!!」

 

 アルビオン騎士団の特徴――女日照り。そんなありがたくもなければうれしくもない伝統の被害者である騎士たち四人は、ライナのその言葉を聞いて激怒する。

 

 フルフェイスの兜をかぶっていなければ、彼らが血涙を流しているところもはっきりと見えただろう。

 

 そういうわけで一気に怒りの沸点へと到達した騎士たちは、次々と剣型の杖を抜刀。一斉にライナに向かって襲いかかるが、

 

「アースハンド」

 

「「「「!?」」」」

 

 突如地面から生えだした土の腕に足を引っ張られ、大きく姿勢を崩す騎士たち。

 

 それに伴い彼らの眼前に出現したのは、その華奢な体では到底操れないように思える長大な剣を構えた金髪の女神。

 

「ん」

 

 その女神は完全な無表情をたもったまま、その手に持った長大な剣を一閃させ、

 

「え、ちょちょちょ……ぎゃぁああああああああああ!?」

「ちょっと待とう、か……ぐやぁあああああああああああ!?」

「あれ!? なんか悲鳴に乗ってどこかの姫の名前がぁあああああああ!?」

「お、おまえらぶっ!?」

 

 一撃二激惨劇死撃と、ボッコボコのズッタズタにされた騎士たちは悲鳴を上げて吹っ飛び某犬神家風の体勢になりながら首から地面にたたきつけられて気絶する。

 

「ん。これで情報源ゲットだな」

 

「いや……本気でやるのかい? 騎士たち脅して軍の情報横流ししてもらうなんて……」

 

「当然だ!! この国にはまだ団子が布教されていないのだぞ!? だったらまずは上層部の情報を知り、可及的速やかに団子を広める方法を探るのが最初にやらなければならない任務だろう!!」

 

「あんたこの任務の内容覚えてるのかい? ついでに言うけど、今兵糧攻め中だからあんたが食べる以外の団子の輸入は禁止だよ?」

 

「なん……だと!?」

 

 愕然とする金髪の女神――フェリス・エリスに、先ほどまで物陰に隠れてアースハンドを操っていた緑色の髪を持つメガネをかけた美女、マチルダ・ロングビルはあきれ交じりのため息をつく。

 

「まったく、あんたたちがアルビオンで潜入任務するっていうからついてきてあげたのに……あんたたち本当に潜入任務する気があるのかい?」

 

「あるに決まっている……団子を広めればいいんだろ!!」

 

「あぁ、了解。とりあえずあんたが潜入任務を根本的にはき違えていることが分かった……」

 

 胸を張り自信満々といった様子で言い切るフェリスの姿にやや疲れたものを感じながら、ロングビルはそのまま爆睡を続けるライナへと視線を移し、

 

「ふん」

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああ!?」

 

 もう何も言うことなく、大型のアースハンドを生成。情け容赦なく、机もろとも、ライナをアースハンドのアッパーカットで吹き飛ばした。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「まったく、あんたたちはまったく!! 潜入する気が全然ないだろ!?」

 

「いやいや、潜入ならできてるし」

 

「うむ。入ってしまえばこっちのものだ。あとは野となる山となる」

 

「なるわけないだろ!?」

 

 ロングビルはそう怒声を上げながら二人を引きずり、先ほどフェリスが散々脅しつけ協力を約束させた騎士たちと別れた町を後にする。

 

 その顔には、潜入なめきっているライナとフェリスに、元盗賊として明らかな怒りが見えている。だが彼女は知らない……彼らが故郷であるローランドからいろいろ命令されて、様々な国に潜入した猛者であることを。

 

 そして、大概のことは本気で野となり山となり……とある教会のシンボル切り倒そうが、墓をあらそうが、貴族からやたら豪華な馬車ぬすみ出そうが、国の最高戦力である魔法騎士団から身ぐるみはごうが、彼らは何とかしてきた実績があることなど……彼女は知らない。

 

 ともかく、そんな二人をこのまま放っておくわけにはいかない!! と、責任感にかられた彼女は、とりあえずしばらく安全に過ごせる場所を提供しようと、とある森を訪れていた。

 

 ウエストウッド……《西の森》と呼ばれるこの森には、森の妖精が住むといわれ現地民たちからは、入ると妖精にいたずらされると恐れられている、立入り禁止の森だった。

 

 じっさい、この森に入った人物が森の中での記憶を失った状態で迷い出てきて、村で保護されるという事件が何度か起きているらしく、この話の信憑性を増すのに一役買っていた。

 

 だが、そんな予備知識がないライナとフェリスにとってはこの森はただの森だ。

 

「なんだ? 森なんかに来ても拠点になるような場所はないだろ?」

 

「……そうか。貴様とうとうライナ菌にかかってしまったのだな!? かわいそうに……」

 

「おい、まてフェリス。なんだその甚だ不愉快な名前をした菌は!?」

 

「ん? 知らないのか? ライナ菌……学名《ライナリュートハフェリスサマノドレイ》という名前の細菌で、感染すると変態色情狂ライナ・リュートの毒牙にかかり妊娠出産の後、クズい男につかまり馬車馬のようにこき使われ最後は骨と皮だけになって死ぬ病気で……」

 

「もう、突っ込みどころ満載でどこから突っ込んでいいのかわかんねぇよ!?」

 

「つ、つっこむだと!? 貴様なんて卑猥なことを!?」

 

「もうどうしろっつーんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

「うむ。もう満足した。貴様が困る顔が見れたからな」

 

「俺もう泣いていいかな!?」

 

 なんていつものやり取りを交わす平常運転名二人にため息をつきながら、ロングビルは黙って森の中へと入り、彼らを誘導した。

 

 この二人の会話に付き合うと疲れるというのはこの数か月間の付き合いでなんとなく悟っていたからだ。

 

 そして、

 

「んあ?」

 

「ん?」

 

「かわってないね……ここは」

 

 ロングビルがしばらく森の中を行くと、突如その森が開け小さな村が出現する。

 

「ここは……?」

 

「ウエストウッド村……ちょっとわけありの子たちが住んでいる村でね。私が金を送っている子が住んでいる村でもある」

 

「ここがか!?」

 

 驚くライナに微笑みかけながら、ロングビルはまっすぐその村にある一軒家へと進み、

 

「ティファニア。マチルダだよ。あけてくれ」

 

『マチルダ姉さん!?』

 

 コンコンとその扉をノックし、家の住人に来訪を告げる。

 

 ロングビルによっぽど懐いていたのか、その人物はとてもうれしそうな声をだし、扉をあけ、

 

「おかえり、マチルダねえ……さん」

 

 その隣に要るフェリスとライナを見て絶句する。

 

 普段かぶっているフードをつけていない。つまり彼女の顔がさらされている。そんな状態で彼女が初対面の人間に会う意味を、マチルダは何より理解していて、

 

「ね、姉さん……その人たち!?」

 

 顔を青くしてあとずさる姪っ子に、マチルダは自分の失態を知り思わず舌打ちを漏らしかける。

 

――しまった、もうちょっと気を使うんだった!! と。

 

 だが、その状況を打開する言葉がマチルダの背後からとぶ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

――みられた!?

 

 ウエストウッドの住人にして課長であるティファニアは、姉が連れてきた二人の人物に自分の顔が見られたことに驚き……おののく。

 

――みられた!?

 

 いや、正確には顔を見られたのが問題ではなくその顔の横についている耳を見られたのが問題だった。

 

 ほそく長く、尖った耳……人間とは違う、人間が恐れる『エルフ』の象徴!!

 

――この人たちも私を殺そうとする!? この耳を見られた以上、どれだけ優しくしてくれた人であっても、その顔を恐怖にゆがめ自分を化け物とののしることをティファニアは知っていた。だから、

 

「姉さん……その人たちは!?」

 

 必死に混乱した頭で、姉が彼らを連れてきた理由を考えながら、あまりよろしくない理由ばかり浮かぶ自分に泣きそうになり、彼女は隠し持っていた杖へと手を伸ばそうとして、

 

「あぁ、事情説明は後でいい……俺今それよりも結構長い距離歩いてきたせいで眠くってさ……できればお客様用のベッドとか寝室に案内してくれるとありがたいんだけど?」

 

「……え?」

 

 とつじょ、ロングビルの隣にいた男があげたあっけらかんとした声に、思わず呆然とし、

 

「む。ダメだぞ少女!? この男はそんなことを言って貴様をその寝室に引きずり込み……あんなことや、そんなことを……な、なにぃ!? そんなことまで……貴様、本当に人間かライナ!?」

 

「えぇ……なに? ここでもそのノリ貫くの?」

 

「うむ。ライナ一日一虐めが私の人生の標語だからな」

 

「やべぇ……割とマジで死にたいんだけど……」

 

「うむ。娘、ロープを用意しろ」

 

「え?」

 

「ふふ……きっと青くなるだろうな」

 

「え、えぇっと……ごめんなさいフェリス。冗談だから許して……」

 

 そんな間の抜けた会話を繰り返す二人の姿にティファニアは呆然とし、杖から手を話し、

 

「いや。事情説明なしで連れてきちゃってすまないねティファニア。でも、見てもらったらわかると思うけど……こいつらはエルフ云々(まずエルフという存在自体を知らないから)であんたをしいたげることをいうような奴らじゃないから、安心しな」

 

「……………」

 

 信頼する姉が彼らを連れてきたのは、ただ単に彼らを絶対的に信用しているからだと悟り、ようやく彼女は杖に伸ばしていた手を下すのだった。

 




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