ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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ゼロの帰省と虚無の調査

――……どうしてこうなった?

 

 サイトはとある大きな馬車のなかに座りながら、内心でそんなことを考える。

 

 自分の隣には、ほんの少し機嫌がよさそうに見えるシエスタ。

 

 サイトの腕を抱きしめるようにつかみながら隣に座った彼女。その彼女が持つ二つの山脈が、サイトの腕を挟み込んでいる。

 

 だが、サイトはそれによって頭を茹らせることはできなかった……。なぜなら、彼が乗っている馬車の前方にはさらに大きな馬車が走っており、中からどす黒い殺気をこちらに向かって飛ばしてきているからだ。

 

 むろん、いうまでもなくルイズが乗っている馬車である。

 

――やばい。俺このままだと殺される……。と、本能的に察知したサイトはひきつった声でシエスタに忠告を飛ばす。

 

「し、シエスタ……い、今すぐ俺から離れるんだ。命が惜しいなら」

 

「あら? 女の胸はお嫌いですか?」

 

「お好きです!!」

 

「ならいいじゃないですか」

 

「そうだね!! はっ!?」

 

――お、俺のバカ!? またシエスタに乗せられちゃって……シエスタ、恐ろしい子!!

 

 と、サイトが現実逃避気味に独り芝居をしているとき、

 

 馬車の眼前で凄まじい爆発が起きた!!

 

「うぎゃぁあああああああああああああ!?」

 

「あらあら……」

 

 驚く馬と御者に、もう泣きながら飛び上がるサイト。

 

 平然と笑い流すシエスタ。

 

「安心してくださいサイトさん。ルイズさんはあれ以上できませんし」

 

「なんで!? なんでそんなに余裕なのシエスタ!? というか、出かける前にルイズに何言ったの!?」

 

「さ~て、なんでしょうね~」

 

 と心底楽しそうに笑う、余裕あふれるシエスタの横顔に、サイトはさらなる戦慄を覚えた。

 

 ほんと、どうしてこうなった……と。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 時は少しさかのぼり、

 

「ふぉぉおおおおおおおおおおおおおお!! 筋肉ぅ!! 強靭★無敵☆最強!! 粉砕☆玉砕★大喝采!!」

 

「脳筋は嫌いよ、サイト。あんまりその性格続けるようなら使い魔解約するから」

 

「……」

 

 ちょっと訓練のし過ぎで頭がハイになっていたサイトが、ルイズの冷水のような一言で正気に戻った時だった。

 

「最近変だったんだけどほんとにあんたの一言で治ったわねシエスタ……。あんた本気でいったい何者よ?」

 

「いいえ。ただのメイドですよ」

 

 一気に頭を冷やして普通の状態に戻ったサイトが、あわてて言い訳しようとルイズに視線を向けると、ルイズの隣にニコリと笑ったシエスタが立っていて、

 

「って、あれシエスタ? どうしてここに? メイド服も着てないし」

 

「話聞いて……ませんでしたよね。サイトさんですし」

 

「いや待ってくれ。それだと俺の存在そのものが全否定されそうな予感がするんだけど!?」

 

「所詮サイトさんですし」

 

「余計に悪くなった!?」

 

――俺シエスタに何かした!? と驚くサイトをクスクス笑いながら見つめた後、シエスタはいつものメイド服ではなく、平民らしい若草色のワンピースの裾を持ち上げくるりと回った。

 

「いえ、ちょっとアリエールさんが『実家に帰るのにメイドの一人もひきつれていないと激怒しそうな姉さまがいるの……』と、おっしゃられていたので、ちょっと弱みを握っていたオールドオスマンを脅し……交渉して、ついていくことにしたんです。サイトさんもアリエールさんも目を離すと厄介ごとにかかわりそうな性格していますし」

 

――今ものすごい不穏な言葉が隠されたような……。と、にこやかな笑顔で笑うシエスタに、冷たい汗を背中に流すサイト。

 

 そんな彼をしり目に、ルイズは小さく肩をすくめつつ追加の説明を入れた。

 

「まぁ、実家に帰るだけでそんな事件なんて起きないでしょうけど、確かについてきてくれるっていうのならありがたかったし、一緒に連れて行くことにしたの。帰るまでの雑事とかは全部任せるつもりだから、サイトも手が空いたら手伝ってあげなさい」

 

「あいあい、ご主人様」

 

――最近この二人仲がいいよな……。と、わずかばかりにルイズのシエスタに対する態度が柔らかいことに驚きながら、別に不満のある指示でもなかったのでサイトは黙ってルイズの指示にうなづいておく。

 

 だが、問題はここからだった。

 

「じゃ、行くわよ」

 

 といって、ルイズが目の前の大きな馬車に乗り込もうとした時だった。

 

 なんでもその馬車は実家から送られてきたルイズを迎えに来るためだけの馬車だそうで、やたら豪華なしつらえがしてあった。

 

――そんな馬車を見て『さすがは貴族』と、サイトが驚きながら同じように乗り込もうとした瞬間!

 

「ちょっと待ちなさい。サイトさんはこっちです」

 

「ぐえ!?」

 

 突如シエスタに襟首を掴まれ、サイトはつぶれたカエルのような悲鳴を上げる。

 

「ちょ、なにしてんのよ!?」

 

「し、シエスタ……突然引っ張るのはさすがにやめて」

 

「いえ。だって仕方ないじゃないですかサイトさん。従者が貴族の馬車に乗れるわけないでしょう? 私たちはあっちの馬車です」

 

「え?」

 

 そういってシエスタが指し示したところには、ルイズが乗った大きな馬車に追従するそこそこの大きさの馬車があって……。

 

「あれ?」

 

「あれです」

 

「いや、べつにこっちに乗ったって大丈夫だろ? まだまだ乗れるぜ?」

 

「そ、そうよ!! それにサイトは私の使い魔なんだから、別に一緒の馬車に乗ったって問題ない……」

 

「大ありです、アリエール様」

 

「ヴァリエールよ!?」

 

 しつこいわよあんた!? と、キレる十代(ルイズ)を無視し、シエスタはサイトに向かって無言で地面を指をさす。

 

――あ、これあれだな。お説教だな。と本能的に悟ったサイトは黙って地べたに足をつき、砂利だらけの地面で正座を敢行。割と痛くはあったが鍛えているので、我慢できないでもない痛さにさいなまれながら、サイトは黙ってシエスタの言葉を聞く。

 

「いいですかサイトさん? いくら貴族の使い魔になったからって、私たちは平民。ルイズさんは貴族様です。守らなければならない分別というものが存在します」

 

「で、でも……ルイズもいいって言っているし」

 

「これからルイズさんは実家に帰られるんでしょう? それも音に聞こえた厳格と有名なラ・ヴァリエール領に。帰った時に平民としか見えない男性と一緒に馬車に乗っているルイズさんを見て実家の方々は何と思うでしょう。平然と乗っているサイトさんを見て実家の方々は何と思うでしょう? 次の三択の中から選びなさい。

 

A:超死刑

B:超説教

C:超幽閉

 

さてどれ?」

 

「いやいやACとかありえんだろう? せいぜいBだって」

 

「ぶっぶー!! ふせいか~い。さてルイズさん答え!!」

 

――なんでこんなノリノリなんだ!? と、サイトが驚いている中、シエスタに突然話題を振られたルイズは、さっきよりも若干顔を青くしながら、

 

「え……た、たぶんC」

 

――まって!? 今はじめになんて言おうとしたの!? エー!? Aっていおうとしたの!? と、盛大に目をそらしながら、冷や汗交じりの答えを告げてくるルイズ。そんな彼女を見て彼女に実家に対して恐怖を覚えたサイトは、おとなしく使用人用の小さな馬車へ歩みを進めた。

 

 その背後では、

 

「あ……」

 

「なんですか? とっても残念そうですねルイズさん?」

 

「べ、別に残念とかそういうことは思ってないわよ!?」

 

「ですよね~。高貴で尊い貴族であるルイズ様が、まさか平民の使い魔と一緒に馬車に乗れなかったくらいでそんな落ち込んだり、私と使い魔が一緒の馬車に乗ったくらいで嫉妬したりしませんよね~」

 

「ぐ、ぐぐぐ……し、シエスタあんたまさか初めからこれが狙いで!?」

 

「あら? 何のことでしょうか? 私はただサイトさんに一般常識お教えただけですよ?」

 

「は、図ったわねぇえええええええええ!?」

 

「あは♪ ではルイズさん、我々使用人一同……あなたの旅が快適であるよう尽力しますので、どうぞあなたは馬車でごゆるりとお過ごしください?」

 

 なんてやり取りがあったなんて知らずに……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 というわけで、いろいろ波乱を孕んだルイズの帰省だったが、その旅ももう終わりへと近づいていた。

 

 ルイズたちが乗った馬車はすでにラ・ヴァリエールの領地へと入っており、城が見えるまですぐそこといった位置にあったのだ。

 

「にしてもちょっとからかいすぎましたね~。まさか最後の最後であんな爆発ぶつけてくるなんて」

 

「し、シエスタ。本気で勘弁してくれ。俺自分の命削ってまでルイズからかうなんてしたくないんだ……。というか、ルイズからかうために俺の心をもてあそぶのもやめて」

 

 そんなこんなで疲労がたまりすぎてげっそりとしながら、若干膨れるという高等技能を披露するサイトの言葉に、シエスタは思わず苦笑を浮かべて、そのほほに指を突き立てる。

 

「ぶっ!?」

 

「あら? 別に私はルイズさんをからかうためだけに、あなたに好意的な態度を示しているわけではないですよ? まぁ、たしかにルイズさんの不器用な感情表現は見ていてかわいく思いますが。それ以上に……前に言った言葉を、私はまだ忘れていませんから」

 

「え?」

 

「あなたが好きです。サイトさん……」

 

「………………」

 

 突如告げられた告白の言葉にサイトは思わず氷結し、

 

「っ!?」

 

 タルブ村での告白騒動を思い出し、思わず顔を真っ赤にし。頭を茹らせる。それくらいシエスタの言葉をサイトの脳髄に直撃した。

 

「たとえいつか居なくなるのだとしても、たとえあなたが私を選ばなくても、私のこの気持ちは変わりません。だから……」

 

――私決めたんです。あなたを決して諦めないって。と、シエスタニコリと笑いつつ、目下のところの恋敵が乗る馬車へと視線を移す。

 

 心配そうにどころか、まるで嫉妬に狂った化け物のような形相でこちらの馬車を覗こうと必死に目を凝らしているルイズを。

 

――まったく、そんなに不安があるならあの時私の理詰めなんかに従わずに、貴族特権の力技で奪えばいいものを。と、いささか子供じみた感情表現しかできないルイズをかわいらしく思いながら、シエスタは小さく笑う。

 

 そして、

 

「まぁ、今のところ本格的にあなたを落とすつもりはないのでそこのところはご安心を」

 

「ほ、本格的に落とされるってなったらどうなるの?」

 

「そうですね……。この旅で既成事実の一つか二つは作れたかと?」

 

「ぶっ!?」

 

 突如出された下世話な話に吹き出すサイトを笑いながら、シエスタは向こうの馬車にいるルイズにも笑いかける。

 

――今はこういった関係も、悪くないと思っていますしね。と、普通の娘らしい恋の経験などしたことがなかったシエスタは、嫉妬し嫉妬され、一人の男の子を奪い合いながらも、仲良く情報交換をする。そんな楽しい恋愛模様を楽しみ、この関係を崩すことを惜しく感じ、

 

「でも、今はこれでいいんです。今はこれで私の精一杯。そこから先は、もう少し大人になってからでいいですよね?」

 

「え、ちょ、なにをいって……」

 

 ルイズに見せつけるように、サイトの額に唇を落とした。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そのころのルイズは?

 

「キィ――――――――――――――――――っ!! し、シエスタ……あんなことまで!? 私の使い魔にあんなことまでっ!! く、くぅ……ここが実家じゃなかったら言ってやったのに!! 私の使い魔にちょっかい出すなって言ってやったのにぃ!!!」

 

――というかあの子、楽しんでるわよね!? 私おちょくって楽しんでるわよね!? ほんとなんなのよあの子!? 一番の強敵であるけど勝てる気がまったく……って、強敵って何よ!? べ、別に私はサイトのことなんて好きでもなんでもないんだくぁwせdrtgyふじこlp!?

 

 と、大分テンパっていた……。が、

 

「ルイズ様。おかえりなさいませ」

 

「!?」

 

 突如馬車の窓が開き、そこから入ってきた一羽のフクロウを発見し、ルイズの顔に緊張が走った。

 

「旦那様も奥様も、エレオノーレ様もカトレア様も、ルイズ様の帰りを首を長くしてお待ちです」

 

「わかったわ。こっちは元気です……すぐにつきますと伝えなさい」

 

「かしこまりました」

 

 そういって再び窓から出ていくフクロウの後ろ姿に、ルイズは小さくため息をつく。

 

「今思ったんだけど……サイトのことどう説明しよう」

 

 そう……問題なのは自分の使い魔について。普通人間を使い魔にするなんてありえないし、聡い姉達のことだ。そんなことを話したら、もしかしたら自分の属性について気付くかもしれない。

 

――タルブ平原で使って以来、王宮からは何の音さたもないから厄介ごとを避けるように口をつぐんではいるんだけど、それもいつまでもつかわからないし……。

 

 と、ルイズは自分の得意系統……虚無の存在を扱いあぐねながら、小さくため息をつく。

 

 そしてそんな風に自分が悩んでいるというのに、

 

「……」

 

 窓から見えた後ろの馬車で、シエスタがサイトの額に口づけをしているのを見て、ルイズの目が死ぬ。

 

――うん。もういいわよね私。もうゴールしちゃっていいわよね? と、不吉な笑みを浮かべながらルイズは黙って杖をふるった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 そのころ、トリステイン王宮では。

 

「そういえば、タルブ平原での奇跡の炎についての捜索がまだできていなかったな」

 

「最近船団の編成でいろいろ余裕がありませんでしたからね……」

 

「もう……あんな、書類仕事はこりごりです」

 

「ふむ。だが、もはや我々の勝利が揺らがぬものになった以上、あちらに手を付けるのも悪いことではないですな」

 

 と、つい先日までの書類の山がなくなったバーシェンの執務室にて、慰安を兼ねたお茶会を開いているトリステイン上層部……女王・アンリエッタ、宰相・バーシェン、枢機卿・マザリーニ、宰相補・ウェールズは、いまさら思い出したといわんばかりにタルブ村で起こった大多数の戦艦を沈めた魔法の存在を思い出した。

 

「確か、珍妙な竜が空を飛んでいたところまでは分かったんでしたっけ?」

 

「あちらは目撃者が多かったですからな。鹵獲したアルビオン竜騎士からも詳細が聞けましたし」

 

「妥当に考えるなら、あの竜が何かしたと考えるのがいいんでしょうが……」

 

 そういって意見交換するアンリエッタ、マザリーニ、ウェールズの言葉を聞きながら、バーシェンは思考を巡らせる。

 

 そして、

 

「一人、心当たりがないでもない」

 

「本当ですか!?」

 

「バーシェン卿は何でも知っておられますね」

 

「なんでもは知らない。知っていることだけだ」

 

 と、どこかの完璧委員長のようなことを言いながら、バーシェンはアンリエッタとウェールズに視線をむける。

 

「ちょうどいい、貴様らの結婚報告がてら話をするとしよう。ちょうど実家に帰っているはずだし、行くぞ……ラ・ヴァリエール領に」

 

 そう告げてバーシェンは勢いよく立ち上がり、すぐさま王族の旅行予定をくみ上げるための書類作成へと移った。




今回のアルビオン攻略編は閑話色が強い話となると思います。

中心としてはアルビオンのとある町と、ラ・ヴァリエール領での夏休み……かな?

アルビオンではティファニア中心に話を進め、

ラ・ヴァリエール領では基本的にサイト中心に話を進めたいと思います。

おっと、忘れていた。魔法学園襲撃は……無論やりますよ?
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