メタすぎたので修正してやる!!
ラ・ヴァリエール公爵の内心修正。
羅・刃離得々流公爵から
普通の親ばかへとジョブチェンジできたはず……。
「…………………」
「……あなた」
「なんだいカリーヌ?」
「あなたがせわしなく動いたところでルイズは早く帰ってきませんよ」
「なにを……私はせわしなく動いたりしていない」
完全に揺らがない威厳のある顔でそんなことをいう夫の姿に、カリーヌは小さくため息を漏らす。
ルイズが帰ってくる日になってからかれこれ6時間ほど。彼女の夫は、誰よりも早く屋敷の玄関にやってきて、先ほどからずっと玄関前に広がるホールをうろうろ歩いているのだ。
どう考えても落ち着いていない。というか、ぶっちゃけ、事情を知っているものが見れば誰もが娘を待ちきれずに浮かれきっている父親の姿だとわかるだろう光景だ。
――まぁ、もっとも、長年鍛え上げた鉄面皮のおかげで、そういったこの人の親ばかを読み取れる人間は数少ないですが。
と、その数少ない読み取れる人側に属している公爵夫人カリーヌは、小さくかぶりを振った後、
「あなた……」
「っ!?」
いつもより一オクターブほど、声の調子を下げて話しかける。
――長年連れ添った夫だ。それで自分が一体どういう気分になっているのかわかってくれるだろう。と、カリーヌは信頼していた。
つまり、彼女がものすごーく機嫌悪いことを……。
……長年連れ添ったからではなく、長年の調教のたまものとか言ってはいけない。そんな事実は断じてないのだ。たとえ事実だったとしても、そんな事実は口にした瞬間どうなるかは自明の理だ。
「ルイズは私が迎えます。あなたは執務室でお待ちください」
「だ、だが……」
「聞こえなかったのですか?」
「……はい」
と、鉄の無表情の中に滝のような冷や汗を流したヴァリエール侯爵は、若干肩を落としながらホールから執務室にある二階へとつながる長い段を上ろうとして、
「ルイズ様、お帰りです!!」
「!?」
「ちっ……」
扉の開け閉めを担当していた召使の言葉を聞き、公爵は威厳あふれる表情の中であるにもかかわらずまるで子供のように目を輝かせ、結局父親の威厳を守れそうにない夫に、カリーヌは舌打ちする。
――わが娘ながらなんてタイミングの悪い。
と、小さく内心で洩らしながらも、
「まぁ、いいでしょう。今回は見逃しますが……後でお話がありますからね?」
「っ!?」
簡潔な死刑宣言を告げた後、優雅に夫の隣へと移動するカリーヌ。そんな彼女の姿に瞳だけを絶望に染めながらも、鉄面皮を貫く公爵。
夫婦の上下関係が分かりやすい図だった……。
さて、そんなわけで公爵側の迎えの準備が整い、扉というより門といったほうがしっくりくる巨大な扉が、ゆっくりと音を立てて開きだす。
かわいい愛娘の帰還を祝って。
…†…†…………†…†…
――カリーヌがマジで鬼畜な件。私この後何されんの!?
と、戦慄する私の名はラ・ヴァリエール公爵。広大なラ・ヴァリエール領を統治する、王家の血を引く由緒正しき公爵家の当主である。
今は愛娘のルイズが久しぶりに学園から帰ってくるので首を長くして待っているわけだ。
本来は厳格で他人に厳しく自分に厳しいと評される(私としてはそれ相応にやさしいつもりではあるのだが……)私であっても、この時ばかりは浮足立つ。
自分に威厳を求める妻の怒りを買う程度には……。
べ、別に尻に敷かれているわけではないのだぞ!? 私はただ単に妻を立てる素晴らしい夫というだけであって、決して妻の眼光が怖いとか、年取ってさらに迫力ましたなとか、アァ昔の可愛くてチビッコイカリーヌはどこにとかは、一切考えていない……って、カリーヌ!? やめて!? 人の心勝手に読んで無言の制裁はやめて!? ごめんなさい謝ります! 土下座でも何でもしますから、後ろ手で杖突きつけるのはやめてぇええええええええええ!?
ご、ゴホン。と、とにかく私は浮足立っていたのだ。
なぜならそれほどわが末子のルイズはかわいい!!
(親バカ注意・精神汚染危険性有)
あのふわふわした桃色ブロンドの髪に、抱きしめれば私の胸の中にすっぽり入ってしまう小柄な体。
釣り目気味の瞳は小柄で頼りなさげな彼女に凛々しさを与えると同時に、それが緩んだ時に見せるあの優しげな表情とのギャップを楽しませてくれる。
貴族としての品格を見せる立ち居振る舞いは幼いころから私たちが徹底的に叩き込んだおかげでほとんど芸術の域だし、それでなくともあのカモシカのような足や白魚のような手が動くだけでわれわれの目を楽しませてくれる!!
鼻筋はきれいに中央を通り均整の取れた顔を作り上げ、顔のパーツの位置はすべて黄金比。不敬だとは分かっているが、おそらくこの国の女王アンリエッタ殿下であろうともルイズの前にはその美しさをかすませる。
その彼女がようやく、ようやく私のもとへと帰ってくる。
あのかわいらしい口で私を『お父様!』と呼んでくれる!
あの美しい顔で私に微笑みかけてくれる。
あの天使のような声音で、私の耳をいやしてくれる。
あぁ、おそらく彼女こそが女神が遣わした私たちの可愛い
だが、私にはそんな彼女に一つの懸案事項があった。
風のうわさで婚約者にしておいたワルドが裏切ったと聞いたのだ。あわてて裏を取らせてみたら、どうやらそれは本当にようで、ワルドは今アルビオンにテレコンキスタに参加していると聞くし……。
まったく、私の可愛いルイズを傷つけるなんて何を考えているんだあのひげ男爵。よほど命がいらないと見える。
とりあえず今度会ったらどうしようか。王宮に行ったときはワルドをとらえたらぜひ我々のところにといったのに、いまだに色よい返事がもらえないし……。
女王陛下もあの程度の要望ごときで顔を引きつらせるとはまだまだ、王としての経験がなっていませんな。あのぼんくら宰相に頼りきりだからそういったことになる……。
ほんのちょっと、ワルドを一角獣の角にて、尻から脳天にかけて串刺しにして、ハルケギニア中でさらした後、全身をミンチになるまで私の魔法で引き裂いて、火竜山脈の火山に投げ入れるといっただけなのに、なんであんなにおびえておられたのだろうな、女王陛下は。まったく解せない……。
とにかく、ルイズはきっと今傷ついているだろう。それこそ、男なんてもう見たくないといわんばかりに。
おまけに、アルビオンとの戦争はつい最近始まったばかり。いくら裏切られたとはいえ元婚約者のワルドのことを、心優しい(この時、近くまで来ていたルイズの使い魔は、盛大に首をかしげなければならないような衝動に駆られたらしい)彼女はきっとまだ心配しているはず。
きっと夜も眠れない日々を過ごしているだろう……あぁ、かわいそうなわたしのルイズ!!
これは私が父親として、慰めてやらねば……。カリーヌもエレオノーレもそういった方面では一切合財役に立たんしな。うん。これは家長である私の務め……け、決して愛娘と少しでも一緒にいたいとかそういったことは考えてないんだからね!?
って、あ、ごめんカリーヌ。別にふざけてるわけじゃないんだ……ちょっと娘へのあふれる愛が止められなくて。だってほら、最近エレオノーレがあんな感じになったし……また娘が傷つくのは嫌じゃないか。
まったくだからあの婚約はやめておけといったんだ。あんな軟弱な男が、君にそっくりなエレオノーレのあの性格に耐えられるわけがないって。いやほんとに、あの青年にはかわいそうなことをした……トラウマになってないといいけど。
って!? ち、違うよ!? 別に君の性格がきついとか怖いとか、正直私の抜け毛が速いのは全部君の性格のせいとかそんなこと全然思ってないよ!? ほんとだよ!?
え、ちょ、杖抜かないで!? 許して!! え、許さない? 修正する? ちょ、まっ!? さ、さすがに娘迎えた後すぐに夫婦喧嘩は威厳が!?
っとぉ!! ほらカリーヌルイズが帰ってきたぞ!! ちゃんと顔、顔作らないと! かっこいい母の顔が台無しだ!!
って、ん?
あれ?
あれれ~。
ルイズちゃ~ん。
そのいけ好かない、黄色いサルは一体全体ドコノダレカナ?
…†…†…………†…†…
――なんだろう。ルイズのお父さんからものすごい殺気を感じるんだけど……。と、屋敷への入り口をくぐった瞬間飛んできた、刺すような中年からの視線にサイトは思わずたじろいだ。
その豪奢な服装と威厳からして、おそらく彼こそがルイズの父親であるラ・ヴァリエール公爵なのだろう。
その隣では、おそらくルイズは将来こうなるんだろうなと思わせる、苛烈な人の上に立つ者の気配を放つ女性が一人。おそらく彼女がルイズの母親だ。
「よく帰った、ルイズ。父はうれしいぞ」
「学園からあなたが選んで連れてきたメイドもなかなか優秀なようですし。なかなかいい目をするようになったようですねルイズ。
「あ、ありがとうございます……お母様。お父様」
その二人から聞こえてくる声も、当然威厳あふれる逆らうことすら許されない威圧を持ったもの。はっきり言って慣れていないサイト、はその声と雰囲気だけで圧殺されそうだった。
――ルイズはよく、こんな家で暮らしていられるな。と、ちょっとだけご主人様を見直すサイト。だが、
「ところでルイズ。その隣に立っている猿……もとい平民は何かな?」
――俺人間扱いすらされてないのぉ!? と、突如公爵が吐いたとんでもない暴言に、サイトは思わず硬直する。
「こ、こいつは……」
さすがのルイズも返答に困ったらしく、しばらく何かをためらうかのような顔を見せたが、結局素直に話すこと話すことにしたのか、毅然とした表情で顔をあげ、
「か、彼は私の使い魔です」
はっきりとそういった。
その言葉を聞いた途端、ルイズの母親からはわずかな驚きが漏れるのを、サイトは感じ取った。
――それはそうだろう。人間の使い魔なんて今まで前例がないんだから。と、サイトは召喚された当初、ルイズに教えられたことを思い出しその反応には納得した。だが、
「人間が……使い魔? 馬鹿な……魔法が使えずとうとう気がふれたのですかルイズ」
それよりも意外だったのは、
「いや、カリーヌ。今はそれは重要なことではない」
「?」
今までだんまりを決め込んでいた公爵が、サイトに鋭い視線を向け、
「私が聞きたいのはたった一つだ、ルイズ。使い魔ということは……その男とコントラクト・サーヴァントをしたのかね?」
「え?」
そんな質問をしたうえ、
「え……えっと、はい!! その証にほら、こいつの左手には使い魔の刻印が!!」
ほら早く手をあげなさい!! と、うまく説得できると勘違いしたルイズの指示によって、あわてて左手を挙げたサイトに向かい、
「そうか」
平然と、泰然と、そして自然に、
「では死ね」
「え?」
何のためらいもなく大魔法をぶっ放したことだった!!
…†…†…………†…†…
そのころの公爵の内心は、
――ここここここ、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!!
その愉快な唇で誰の何に触れただと!? 許さん……断じて許さん!! 跡形もなく消し潰す!!
うちの大事な愛娘を……よくも傷物にぃいいいいいいいいいい!!
といった感じで、もうちょっと手が付けられそうになかったという……。
…†…†…………†…†…
突如父親の杖から放たれた濁流にのまれ、扉を突き破りながら外に叩き出されたサイトと、それを追って鬼のような形相で外に飛びだす父親の姿に、ルイズは思わず唖然とした。
――え? なに? 何が起こったの?
ちょっと事態の急展開具合についていけないルイズに、母親は珍しく鉄面皮を緩め小さくため息をつく。
「はぁ、まったく……これは予想外でしたね。あなたはいつも私たちの予想の斜め上を行く。困った娘です、ルイズ」
「え……あ、すいませんお母様」
「謝る必要はありません。娘に迷惑をかけられるのは親の役目です。そして間違っていたら謝っても許してやらないのもまた親の役目です」
「ひっ!?」
そんな母親の冷然とした言葉に戦慄を覚えるルイズ。
――そうだった。私のお母様は上っ面だけの謝罪を何よりも嫌う人だったと。
「私の教えはたった一つ。そうだったはずですねルイズ。では復唱してみなさい」
「ま、間違ったら謝る前にまず行動。間違えた時の損失を補てんして初めて人は謝罪を許される」
「では、自分ではどうしても、その損失を補てんできない場合は?」
「だ、黙って折檻を受ける」
「正解です、ルイズ。ですがまぁ、折檻のほうはあなたの使い魔が受けているようですし……今回のところは見送って差し上げましょう」
「あ、ありがとうございます……」
そんなカリーヌの慈悲の言葉に、ルイズは安堵の息を漏らしながら、思わず膝をついた。
信頼もしているし、尊敬もしているし、愛情も抱いているが、相変わらず苛烈すぎる自分の両親には勝てる気がしないとへこむルイズ。
だが、そんな彼女をしり目にカリーヌは小さくつぶやいた。
「それに、せっかく帰ってきた大事な愛娘をわざわざ傷つけたいわけではありませんしね……。その点、あの人は良くやってくれました」
と。
「ですが」とさらに彼女は言葉をつなげる。
「父親の威厳を守れなかったのは減点。事情も聞かずすぐにキレて襲いかかったのは減点。使い魔自身にも、ルイズ自身にも、おそらくやむにやまれぬ事情があったというのに無視したのは減点。屋敷の扉を破壊したのは減点……あらどうしましょう。評価がマイナスになってしまいました」
仕方がないですね。今夜は激しくなりそうです……。と、不気味な笑みを浮かべて杖をしならせる公爵夫人から、その場にいた人間は一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られたらしい。
屋敷の中がそんなこんなで別の意味で荒れ狂っているとき、屋敷の外でも嵐が巻き起こっていた。
伝説の使い魔と、とてつもない実力者である公爵が激闘を繰り広げていたからだ!