ゴウッ!! と、正直水が出していい音ではない音を出しながら、自分の頬を掠める水流に、サイトは顔をひきつらせながら、必死にデルフをさやから引き抜き、ガンダールヴの状態へと移行する。
「おいおい、相棒。俺ャ悲しいよ……だって相棒こんな時にしか俺抜いてくれないんだもん……」
「お前は剣だろうが!? 抜かれないほうが本当は平和でいいんだよ!!」
「そりゃそうだ。で、今回俺が抜かれた理由はかなりめんどくさそうだな」
デルフがそういうと同時に、再びサイトに向かって襲い掛かってくる濁流。
今度はサイトの体を飲み干しかねない、巨大な水の竜巻!!
「
「もう魔法の選択が確実に殺しに来てるだろこれっ!?」
――ルイズ早く助けてっ!? と、内心で悲鳴を上げながら、その濁流を必死にデルフで受けるサイト。
それにより、敵が放った濁流はデルフの力によって見る見るうちに吸い取られ、その力をすべてデルフに食らいつくされる。
「む……どうやら面倒な剣を持っているようだな」
その光景を見て舌打ちした敵の名前はラ・ヴァリエール公爵……ルイズの厳しいお父様だ。
「ま、待ってくださいお父さん!? 話を聞いてください……あれは不可抗力というかノーカンというか……とにかく違うんで……」
「だだだだだ、だれがお義父さんだと!? 貴様にお義父さんなどと呼ばれる筋合いはないわ!! それとも、もうルイズとはそういう関係だと、暗に示しているつもりか貴様ぁ!!」
「だめだこの人!? 絶対話聞くきねぇよ!?」
「相棒……もう出会った瞬間からそれはわかりきっていただろ?」
あきらめな……。と、言外に告げてくる愛刀に抗議の声を上げながら、サイトはあわてて怒り狂った公爵が放つ水の濁流を交わす。
「くぅ……ちょこまかと猪口才な!! ならばこれならどうだっ!!」
「っ!?」
そんなサイトの姿に、怒り狂いはしていても戦士としての冷静な判断力は残していたのか、怒声を上げながら公爵は呪文の詠唱の内容を変える。
――いったい何が来る!? サイトがそう身構えたとき!
「っ!? やべぇ相棒!! 伏せろ!」
「っ!?」
デルフの警告と同時に、フェリスとの訓練時はしょっちゅう感じていた、命の危険を示す悪寒が背中に走るのを感じ、サイトは本能的にデルフの指示に従い、素早く地面にスライディング。その体を低く保つ。
そんなサイトの頭上を、瞬時に薙ぎ払う濁流が一つ。
だが、ただの濁流ではない。
先ほどのような大きさはない、まるでレーザーのように収束された流水。
だが、その流動速度は先ほどまでの濁流と比べ物にならず、サイトが気付いた時のはその頭上を通り過ぎ、薙ぎ払うように振るわれ、
「……え!?」
サイトの背後にあった、庭に彩りを添えるために設置されたと思われる森の木々を、サイトの首の高さあたりですべて両断する!
「ウォーターカッターだ! スクウェアクラスになると鉄すら切り裂く威力を得ると聞いていたが、まさかここまでなんてな! 相棒……あの魔法は受けるな! 俺が吸収する前に刀身をざっくり切られちまう!」
「どんなめちゃくちゃな魔法だぁああああああああああ!?」
――あと、やっぱり俺殺されるよね!? と、背中に戦慄を走らせながら、サイトはデルフを正眼に構える。
「む」
そのサイトのたたずまいに何か先ほどまでとは違うものを感じたのか、詠唱をやめ思わず警戒の体勢に移る公爵に、サイトはほっと安堵の息をつきながら、フェリスとの訓練生活に感謝した。
――死ぬかもしれないと思ったけど、殺される!? とも思ったけど、あの訓練は確かな血肉となり、俺に力を与えてくれているっ!! それを自覚したサイトはさらに闘志を研ぎ澄ませ、不恰好ながらも、殺気に準じる濃密な気を放ち始める。
――話は聞いてくれそうにないし、もうやるしかない。とりあえず死なない程度のダメージを与えて落ち着かせる! と、サイトは主人の父親に剣をふるう覚悟を決め、腹をくくった。
「戦いの基本は気組みで始まる……飲まれたほうが負ける」
フェリスが教えてくれた訓戒を呟き、
「ゆえに、意思をしっかり持て。その段階で相手に負けるようでは、どのような戦いでも勝利はおぼつかない……!!」
勢いよく踏切り、疾走を開始した!
…†…†…………†…†…
――速いっ!?
まるで突風のように自分に向かって疾走するサイトの姿に、ラ・ヴァリエール公爵は思わず目を見開いた。
「平民が出せる速度ではない……いったいどんなトリックを使っている!」
そんなことを呟きながらも、先ほどまでの怒りに濁った思考を捨て、戦士としての冷徹な思考を正しく展開する公爵。
それほどまでに今のサイトは、油断のならない殺気を放っていた。
――良い師がついていたのか、我流で才能があったのか……どちらにしろ、先ほどまでのように怒りにまかせて魔法を放ちまくっていい相手ではないか!
若いころ何度か戦ったメイジ殺しの武芸家たちと同じ気配を放つ少年に、公爵は油断なく杖を構えバックステップ。
ほんのわずかにサイトとの距離を稼ぎながら、
「ウォーターカッター!」
先ほどまでの高速水流による斬撃を放つ!
だが、先ほどと同じようにサイトは当然と言わんばかりに、その攻撃をかわした。
水流が貫く点を紙一重で見切ってかわし、薙ぎ払われる水流からは跳躍して逃れる。
だが、
「ばかめっ! 血迷ったか!!」
――遠隔攻撃手段を持つメイジ相手に、身動きが取れない空中への跳躍は愚の骨頂。
「ハチの巣にしてくれる!」
そう告げ、ルーンを詠唱し空中に莫大な水を出現させた公爵は、その水を数ミリリットルの水滴へと分割し、その水滴をすべて凶悪な針へと変貌させる。
ウォーターニードル・ファランクス。水のスクウェアスキルで、大人数に対する圧倒的制圧魔法。
高速で飛来するそれらの貫通力はウォーターカッターすら上回り、鉄の壁すらやすやす貫く。
だが、
「っ!?」
公爵がそれを射出するためのルーン詠唱を締めくくる前に、空中で身をひねったサイトの袖口から、何かが煌めき飛来した!
それは二本の短剣。
サイトが宝探しの際に見つけた、ダマスカスナイフと黒塗りのサバイバルナイフ!
サイトのガンダールヴのスキルと、フェリスとの訓練によって鍛えられた筋力よって、正確無比な狙いと、人の体程度ならやすやす貫く貫通力を持ったその二本は、見事に水の針たちの隙間を縫うように公爵のもとへ飛来し、彼の右肩と左ひざを打ち抜きかける!
「なっ!?」
当然それを許すような公爵ではない。慌てて杖をふるい水の障壁を生み出すことによって、なんとかそのナイフを受ける公爵。
だがしかし、さしもの歴戦のメイジであっても、スクウェアクラスの魔法とほかの魔法の同時展開は辛かったのか、空中に展開された無数の針は水滴へともどり、まるで
庭の空間がすべて水滴に代わり、公爵の視界を奪う。
「ちぃ!!」
貴族らしからぬ優雅ではない舌打ち。思わずそれを漏らす公爵にむかって、
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
土砂降りのカーテンを切り裂き、大剣を刺突の体制で構えたサイトが、公爵の首を狙い容赦なくその刺突を打ち放つ!
「っ!!」
視界を奪われてしまっていたため一瞬対応が遅れる公爵。
先ほどまでの貴族らしい圧倒的火力の制圧は不可能。だから彼は、
「ブレイド!」
「なっ!?」
若かりし頃は、そんじょそこらの大規模魔法よりも愛用し――絶対的強みとして使っていた得意魔法を瞬時に展開、その刺突を受け止めた。
目を見開くサイトの顔には勝負を決められなかったことに対する悔しさが浮かんでいる。
だが、それ以上に公爵は自分自身にこの魔法を使わせたサイトに瞠目していた。
「まさか……ここまでやるとは!」
――態度を改める必要があるか。そう判断した公爵は、杖によって大剣を弾き返し先ほどのような荒れ狂う動作ではなく、貴族らしい優雅な歩調で一二歩下がり、
「先ほどの無礼……詫びよう剣士殿」
「え?」
貴族としてさすがに頭は下げなかったが、謝罪の言葉を口にした。
今までとは違う彼の態度に驚いているのか、油断なく剣を構えながらもぽかんと口を開くサイト。
そんな彼に向かって、公爵は再び杖を構える。
「だがしかし、私も娘のことの関しては引くつもりはありませんでな……。あなたほどの実力者が使い魔となったのであれば、娘の身の安全に関しては安心できるということは理解しておりますが、あの子は公爵家の娘。人間の使い魔といった異端な使い魔、いったいどれほどの嘲笑にさらされるか分かったものではありません」
――なので。と公爵はつぶやきながら、再び杖にブレイドをまとわせる。
「今度は本気で、実力……試させていただいてよろしいだろうか? あなたを使い魔にすることで、娘に降りかかるであろう数々の困難を、あなたが斬り払えるかどうか?」
それは、懇願でありながらも確かな命令だった。
対峙するサイトはそれを敏感に感じ取ったのか、断ることはできないと悟り、小さく鋭く呼気をもらし、
「平賀サイト……行きます!!」
ガンダールヴの力を使い、弾丸のように飛び出す!
知ってるか……これまだ続くんだぜ?
今回のアルビオン包囲戦編で唯一のサイトの戦闘シーン。
飛行機によるドッグファイト?
七万の軍勢への突撃?
え? ないけど?