ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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大魔王はすぐそばに……

 ヴァリエール公爵に向かって突撃したサイトをまず襲ったのは、閃光のような信じられない速度の刺突だった。

 

 当然フェリスの剣速よりかは遅かったため何とか対応することができたサイト。攻撃力が一点に収束する、一点突破の神速攻撃を何とかデルフの刀身で受け止めた。

 

――大剣の面目躍如って、ところか? と、自分の腕が震えるほどの攻撃を受け止めても、まだなお健在な自分の剣に感心しつつ、サイトはその刺突をはなったヴァリエール公爵の姿を見る。

 

「フェンシング……か? この世界でその呼び方があっているかはわからないけど」

 

 伸び上がるような体勢で、刺突を放ちそれを受け止めたデルフと拮抗する公爵の姿は、まさしくサイトの世界で最も有名な刺突剣技のそれだった。だが、

 

「威力も、対応力も……競技用とはけた違いだ!」

 

 サイトがそういった瞬間にはもう、サイトの眼前から公爵の杖は消えていた。

 

――つばぜり合いをするような剣技ではない。攻撃が失敗しても、何度でも攻撃できる連続剣技!

 

 にわかとはいえ、ほんの少し前に武術にはまっていたサイトは、それを悟っていた。

 

――今は悪しき黒歴史だけど、こんな世界に来たら本気で役立つな!

 

 いわゆるチュウニビョウ……。大体の人間が黒歴史として封印するその時の記憶を、サイトは無理やり引き出し、次いで来るだろう攻撃に備える。

 

 瞬間、サイトの読み通り第二撃の刺突が、デルフを力強く打ち据えた!

 

「くっ!」

 

「まだまだぁあああああああああああああああああああああ!」

 

 再びそれを受け止めるサイトだったが、そんなことは知らんと言わんばかりの公爵は連撃を開始する。

 

 受け止められようがどうしようが関係ない。受け止められたなら、受け止められなくなるまで攻撃を叩き込むだけだ!

 

 そういわんばかりの神速の刺突の嵐に、サイトは歯を食いしばり必死に耐える。

 時にはサイトの防御を抜け、その肩や頬に小さな裂傷を走らせる攻撃もあったが、それすらサイトは無視した。

 

 なぜなら、サイトは教えられていた。

 

 高速連続攻撃の致命的な弱点……それは、

 

「息切れが早いことだ!」

 

 フェリスから教えられたその言葉通り、数秒後、公爵の連撃がわずかに緩む。

 

 ガンダールヴ状態になったサイトなら見ることができる、決定的な(チャンス)が訪れた!

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「なっ!?」

 

 刺突の濁流の中にできたほんのわずかな間隙。サイトはその中に体を滑り込ませながら、跳ね上げるようにデルフを一閃! 圧倒的な破壊力を持つ、大剣の一撃を持って、公爵の体を切り裂こうと迫る。

 

 だが、

 

「ウォーターロード!」

 

「なっ!?」

 

 いつの間に詠唱を済ませていたのか、公爵の口から漏れ出る呪文。

 

 それが発せられた瞬間、サイトの足元に違和感が走った。

 

 足場が命の格闘者としてその違和感は致命的。ほんのわずかにぶれた剣線は、公爵の体をかすめるにとどめ、その攻撃を外してしまう。

 

「なんだ!?」

 

――いったい何が起こった!? と、驚くサイトがあわてて下を見て、

 

「っ!」

 

 息をのむ。なぜなら彼が立っていたその足場は、突如として巨大な鏡となっていたからだ。

 

――いや、違う。これは、鏡は鏡でも水鏡……!

 

「さっきのどしゃ降りでたまった水を、魔法で水鏡にしたのか!?」

 

「ほう、いい観察眼だ!」

 

――でも、それに何の意味が!? と、驚くサイトをしり目に、公爵は飛びずさるようにサイトから距離を開け再びフェンシングの構えをとる。

 

「水とは通常時でさえ足を取る物質だ。それを私の魔法である程度の活動を停止させた。流れず、ふるえず、ただ凪の状態を保つ水。我々のような剣士にとっては、その水の活動阻害は致命的と言っていいだろう。だがしかし、水は我々水メイジの友人だ。それゆえに、水が私の活動を阻害することは決してない」

 

 そうつぶやいた公爵は、水鏡の上(・・・・)にたたずんでいた。

 

「っ!? 行動阻害魔法!? 貴族のくせにやることが汚いじゃないですか!!」

 

「馬鹿を言え。互いに対等と認めた以上、どのような手段を講じて勝とうとしても汚いと汚名を被る道理はないな」

 

 さらにいうと、君は一つ勘違いしている。ヴァリエール公爵はそうつぶやくと、

 

「この魔法がただの行動阻害魔法だと……いったい誰が言った」

 

「なん……だと!?」

 

 サイトがちょっと緊迫した空気を和らげるためにネタに走った瞬間だった、

 

「っ!? やべぇ、相棒! 構えろ!」

 

「なっ!?」

 

 先ほどとは比べ物にならない速度で、ヴァリエール公爵がサイトに刺突を叩き込んできたのは!

 

 デルフの助言とフェリスの訓練のおかげで何とか反応することができたが、

 

「やばい……今の速度、少なくともシルさん級だ!?」

 

 変な豚のぬいぐるみを《槍★》と言い張る変態だが、実力は確かなさわやか詐欺槍使いの顔を思い出しながらサイトは顔を引きつらせる。

 

 つまりそれは、サイトの現在の動体視力では反応が難しいほどの相手ということだ。

 

「凪いだ水の接地摩擦力はほぼゼロと言っていい。むろん先ほどのような力強い踏込はできないが、代わりの推進力は足場である水が計上を変形することによって、私に提供してくれる。そして、その水面を滑るように動けば……私は爆発的加速をそのまま君にたたきつけることができる」

 

「っ!?」

 

「さて使い魔君……これだけ不利な状況になってもなお、君はルイズを守ることができるかな?」

 

 瞬間、ヴァリエール公爵の姿がサイトの眼前から消える。

 

「しまっ!?」

 

「相棒、右だ!」

 

 遅い! そんな叱責がサイトの耳朶をたたいた瞬間、サイトの体に衝撃が走り、彼の体は勢いよく吹き飛ばされた!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

――打点を外した。あの速度の攻撃に対応したというのか!? 

 

 ヴァリエール公爵は、まるで氷上を滑るかのように、なめらかな滑走を続ける自分の体を制御しながら、先ほど吹き飛んだ使い魔の周りを周回した。

 

 水鏡にする魔法によって、波紋が立たない水面。そんな動きにくい水面にたたきつけられたサイトは、ゲホゲホとむせながら先ほどの公爵の刺突が叩き込まれた右肩を抑えた。その姿から見るに、おそらく骨にひびが入っている。かなりのダメージが与えられた証。だが、

 

「肉をえぐるつもりで叩き込んだはずだ」

 

 当然だ。たとえ実力を認めたとしても、娘の隣に勝手に立って、ファーストキスまで奪った男に加減してやる理由がヴァリエール公爵には存在しない。

 

 だがしかし、実際の被害は骨にひび程度。

 

 その原因はおそらく、

 

「攻撃が叩き込まれる瞬間に、自ら攻撃が走る方向へと飛び、衝撃を逃がしたのか!?」

 

 その事実に行き着いたヴァリエール公爵は、

 

「ははっ!」

 

 今度こそ本当に笑みを浮かべた。

 

 その脳裏に浮かんでいるのは若かりし頃の血の気が多かった時代。

 

 貴族平民問わず、強力な敵と戦い続けた戦場の記憶!

 

「久しぶりに、たぎってきたぞ……剣士殿!!」

 

 瞬間、ヴァリエール公爵の足元の水面が変形、まるでロケットのようにヴァリエール公爵の体を打ち出す!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「相棒! 大丈夫か!?」

 

「これが大丈夫に見えんのかよ、クソっ!!」

 

 激痛が走る肩を抑えながら、思わず舌打ちを漏らすサイト。

 

 だが、舌打ちを漏らしたところで事態は好転しない。

 

 敵が滑るように水面を移動しているということは、その速度はどんどん加算されていくということだ。

 

 なにせ、最も加速を邪魔する力の一つである接地摩擦の力が相手には働かない。空気摩擦はその分強くなるだろうが、それにしたって音速を超えない限りメイジにとっては許容範囲。魔法でいくらでも融通が利くはずだ。

 

――速度じゃ完全に押される。

 

 今までガンダールヴ任せの加速で相手を叩きのめしてきたサイトであったが、今回の敵はその速度を軽々と凌駕してきた。同じ手は通用しない。

 

「どうする、相棒?」

 

「……………………」

 

 そんな事実に不安げな声を出すデルフ。だが、

 

「はっ……デルフ。なに不安がっているんだよ」

 

 サイトにとってこんな窮地、日常茶飯事の何物でもなかった。

 

――水のせいで足の動きが遅い? それがどうした。脳天ガチで揺らされて小鹿状態で戦わされるよりかはましだ。

 

――おれより早い? だからなんだ。今まで俺以上の速度で動く人たちと何度模擬戦をしてきたと思っている。

 

 サイトの脳裏に浮かぶのは、自分を鍛え上げた金髪の悪魔。

 

『あ……あの、フェリスさん。今回の訓練やめません……もうちょっと、脳震盪で吐きそう』

 

『何をぬかすか! 色情狂一日一殺が私のノルマ! お前はまだ死んでないだろう!!』

 

『……』

 

 本当に、

 

『うぉおおおおおおおお! 命の危機+理不尽への怒り=心の力30倍!! 目を見開けフェリスさん! 35倍の加速を得た俺の怒りの一撃ぃいいいいいい!!』

 

『ふん』

 

『って、あ、あれ……う、うそだ、今のおれより早いなんて、そげぶ!?』

 

 殺しに来ているとした思えない訓練風景を……。

 

「お、おれよく今まで生き延びたよな……」

 

「相棒、相棒!! 涙涙! 滝みたいな涙流してる!?」

 

――デルフ……僕もう疲れたよ。と言わんばかりの顔でぐったりするサイトに、デルフからの忠告が飛ぶ。

 

 だが、そんな悪ふざけをしている間にも敵は待ってはくれない。

 

 ぱしゃり。と、水面が変形する音が聞こえる。

 

 おそらくヴァリエール公爵が更なる加速に入った音。

 

 それを、サイトは聞き逃さなかった!

 

「たとえどれだけ早くても、音速を超えることはないんだ」

 

 だからこそ、目で見えないなら耳で、サイトは敵の位置を把握するすべを覚えた。

 

「まぁ、これでもフェリスさんはとらえられないんだけど……」

 

――あの人もしかして生身で音速超えているんじゃ……。と、ちょっと物理的におっかないことになりそうな推論を、サイトは今だけは棚上げすることにして、

 

「はっ!!」

 

 デルフの鞘を、水面をぶち抜き地面に突き立て、そこの足をかけ跳躍!

 

「なっ!?」

 

 水面の行動阻害から逃れることによって、信じられない高さまで上り詰めたサイトの眼下では、突如として水面から消えたサイトに目を見開く、ヴァリエール公爵が出現していた!

 

「どうしたよ、メイジ? まさかあんたの力が絶対だなんて愉快な戯言信じていたわけじゃないだろ?」

 

「っ!? 上か!!」

 

 そう叫び、杖を振り、水面から無数の濁流を呼び起こし、サイトを攻撃するヴァリエール公爵。

 

 だが、そんなものはあの槍★が放つ閃光に比べれば、ハエが止まるような速度でしかない!

 

「あんたの唯一の敗因は、自分の剣術に驕り高ぶり、俺のステージで戦おうとしたことだ! メイジが前線に出るなとは言わないけど、剣術で剣士に勝とうなんていささか虫が良すぎたぜ!」

 

 デルフをふるい、濁流を飲み干させるサイト。

 

 さらには自分に直撃しない、残った濁流を足場に下向きに跳躍し、サイトは落下速度に合わせた下方向の加速を行う!

 

「剣士なめるなよっ! 魔法使い!!」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 信じられない速度で落下してくるサイトの迎撃のためか、雨のような刺突の濁流を放つヴァリエール公爵。だがしかし、サイトはその攻撃を振りかぶったデルフによって、

 

「故郷流にいうならこうか? チェストォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 示現流――一撃必殺を主とした、斬り捨て御免の大剛剣。達人のそれは鉄すら引き裂くといわれる、力強い剣戟を再現したサイトの剣は、雨のような刺突を引き裂き、一刀のもとに、ヴァリエール公爵の杖を切り捨てた!!

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「お父様の杖が!?」

 

 その光景を屋敷の玄関から見ていたルイズは、大きく目を見開きぽかんと口を開けていた。

 

 メイジは杖がないと魔法が使えない。公爵の父のことだから予備の杖くらい持っているだろうが、そんなことは問題ではない。メイジが杖を砕かれるということは実質の敗北を意味しいているのだから。

 

「あいつ……いつの間にあんなに強く」

 

「及第ですね……いい使い魔を持ったようですね、ルイズ」

 

 母に次いで絶対強者として君臨していた父の敗北の姿に、呆然としていたルイズの隣から、まるで鉄でできたような硬質な声が聞こえた。

 

 ルイズの母親――カリーヌの声だった。

 

「とはいえ、対メイジ用の戦術がまるでなっていません。あの戦いはあくまであの人が剣術主体の戦いに切り替えたからこそ勝利できたようなもの。魔法と剣術を両方使う戦いをあの人が演じれば、あなたの使い魔では勝てなかったでしょう」

 

「ひっ!?」

 

 淡々とつぶやいているように聞こえるカリーヌの言葉。だがしかし、その声には確かな怒りがにじみ出ていることにルイズは気づいていた。

 

「あ、あの……お母様?」

 

「なんですルイズ?」

 

「も、もしかして……お父様が負けたこと怒っておられるのでは?」

 

「……」

 

 瞬間、自分に向けられたカリーヌの目を見て、ルイズは「余計なこと言っちゃった」と、自分の口を呪った。

 

 お、お母様。めちゃくちゃ怒っている……と。

 

「ルイズ……話を聞いていなかったようなので言っておきますが、あの人は負けてはいません。あくまで勝ちを譲っただけです」

 

「は、はい!」

 

「まぁですが、確かにはたから見れば負けと見えなくもない光景ですね。これは後であなたの使い魔を鍛える傍ら、あの人と久しぶりにOHANASHIする必要があるようです」

 

「………………………」

 

 カリーヌの顔に、めったに見せない笑顔が浮かんでいるのを見て、ルイズは内心似て自分の使い魔と父親に合掌する。

 

 目の前の二人は、いい戦いだったとなぜかさわやかな笑みを浮かべて握手を交わしていたが……。

 

「本当の戦いは……まだまだこれからよ、お父様、サイト」

 

 自分の傍らにたたずむ大魔王の気配に、ルイズはただただひたすら祈りを続けることしかできないのだった。

 




これにて、ラ・ヴァリエール到来はひとまず終了。

続いてアルビオンにいるライナたちに視点はうつります。

時々サイトたちの視点が来ると思いますが、まぁ、おそらく閑話的な話が続くと思いますのでしばらくお待ちを^^;
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