プロジェクトX 団子補完計画とたまたま吸血鬼
金色の美しい髪をもつ女神のような美貌を持った絶世の美女、フェリス・エリスは土に塗れながら畑を耕していた。
すべては彼女の神のため、至高の存在のために、彼女はその美しい美貌を土で汚してしまっていた。
「あねさん! ソロソロ休んで下さい!! このままじゃ姐さんの体が持ちませんよ!」
「そうですよ、姐さん! 畑は俺達に任せて姐さんは休んでください!」
フェリスをそういって休ませようとしているのは、トリステインで山賊をしていたあの男達。彼らが心配するのも当然の事だった。現在フェリスは三日間ほど不眠不休で働いており、その目元には大きな隈ができている悲惨な状況になっていたのだ。
「だ、黙れ! 私は団子神様復活のために一刻も早くこの畑を耕さなければならないのだ!!」
もとより団子はこの世界には無いものなので復活もクソもないのだが、フェリスにとってはどうでもいい事だったりする。
それほどにまで、彼女は追い詰められていた。
…†…†…………†…†…
フェリスはトリステインを出た後、数人の
団子の苗を買うのにすこしでも足しになるかと思い、殴り飛ばした山賊たちから財宝を奪い取りながらフェリスはガリアに到達することができた。
本来なら、ルーナのように貴族を襲って一気に金をためたかったのだが、ライナから厳重注意を受けていたためそれは自重している。
ライナ曰く『ここの世界では、いける国はトリステイン・ガリア・ゲルマニア・アルビオン・ロマリアの五国しかない。ルーナみたいに通り過ぎるだけならまだしも、この地域に恒久的に滞在する以上ほんの少しでも厄介ごとは減らせたほうが良い。』とのこと。
フェリスとしても、国同士のつながりが元の世界より強いこの国で貴族を襲えばろくなことにはならないということは判っていたので、いつもは聞かないライナの忠告を素直に聞いていた。
おまけに、この世界の山賊どもはやたらと金を溜め込んでいたためフェリスは金銭面においてはそこまで困窮していなかったのだ。
閑話休題。
ガリア首都に到着したフェリス一行。幸いなことに東方からの商人はまだ帰っておらず、フェリスはなんの問題もなく団子の苗を入手。そのときは歓喜のあまり信者とともに朝まで飲み明かしてしまうという失態を演じてしまったのだが、このことはライナには内緒である。
ただ、不思議なことに朝起きてみたら信者達は何者かにボッコボコにのされており、事情を聞いたときには涙ながらに二度と酒は飲まないでくれと頼まれてしまったのだが、フェリスは彼らの身に何があったのは気になって仕方がなかったりする。
さて、とにかく苗の購入をスムーズに終えたフェリス一行はガリアの片田舎に小さな家と広大な土地を購入。そこで団子の苗の栽培に移ろうとしたのだが……。
「広すぎやしたね……………お頭」
「今は団子教信者二号だ七号。だがまあ、確かに広すぎる。これじゃとてもじゃないが耕しきれない……」
そう、購入した土地が広すぎたのだ。
もちろん彼らは何度となくフェリスに適当な広さを耕したらそこに苗を植えて育てていこうと進言したのだが、団子禁断症状が出ていたフェリスには聴く耳を持ってもらえず、今に至るわけだ。
しかし、それでもフェリスは褒められるべきだろう。本来なら開発に半年は掛かるだろう広大な土地をわずか三日で半分以上も耕したのだから。
そのとき、一人の信者が何かに気づき、ポツリと漏らした。
「ていうか……それ、東方から来たんですよね?」
「そうだが?」
「だったら、ここの気候で育つんでしょうか? 環境の違いで枯れてしまうのでは?」
瞬間、信者達は見事に氷結した。たまたま彼らのそばに来ていたフェリスもだ。
「あ、姐さん」
「な、なんだ?」
「とりあえず一つ苗を植えてみましょうぜ? 畑を耕すのはそれからでも遅くはないでさ」
「そ、そうだな」
無表情のまま冷や汗をだらだらと流すフェリスの許可を取り男達は苗の栽培にようやく着手することができた。
結果、
「「「「「「「…………………………………………」」」」」」」
苗は見事に枯れてしまっていた。
フェリスを休ませることはできた。一歩前進もした。しかし、その代わりに、彼女らは絶望的なほど分厚い壁にぶつかってしまったのだ。
…†…†…………†…†…
さて、フェリスたちが団子の苗を枯らしてしまってから一週間が経った。あれから目立った発展は無く、彼らの《団子補完計画》は完全に行き詰ってしまっていた。
「貴族様の援助でももらえたな…………」
一人の信者がそんなことを呟いたのは、そのときだ。
「貴族の援助? そんなものを貰ってどうするのだ?」
ライナから貰った自称栄養剤もそこをついたため、再び絶食生活に戻ったフェリスは、呟いた盗賊に血走った目を向けてそう尋ねた。もはや藁にもすがる思いなのだろう。
「いえね、土系のメイジが土地開発に協力してくれれば、魔法を使って立派な畑を作ってくれるんすよ。そうすれば団子の苗もきちんと育つのではないかと……」
「貴様それを先に言わんか!」
大声を上げて立ち上がったフェリスは、全身から覇気を放出しながら剣を引っつかみ、家を出ようとした。おおかた適当な貴族を襲撃して、無理矢理援助をさせようという魂胆なのだろう。
しかし、それは元山賊の頭目によって妨げられた。
「いや、待ってください姐さん! 土系メイジができるのは土地の開発であって、本来この土地に存在しない植物を成長させるなんて事はできませんよ!」
「むう。そうなのか」
再び落胆の表情になり、椅子に座りなおすフェリスを見て盗賊たちは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
なにげにフェリスの無表情の中にある表情を、ライナほどとは行かなくても読めるようになってきた彼らであった。
「と、とにかく! もう少し頑張ってみましょうぜ姐さん!! 何か良い案が浮かぶかもしれませんし!」
「あ、ああ。そうだな」
そして今日も何の進展もないままフェリス達の一日は終った。
…†…†…………†…†…
深夜。
空腹のあまり寝付けないでいたフェリスは、二階にある寝室から抜け出し、団子の苗の様子を見るために家のなかを徘徊していた。
「うう。こんなときにあいつがいれば憂さ晴らしができたのに」
無論あいつとはライナのことである。とんだ逆恨みであった。
「あれ、姐さん? どうしたんですかい、こんな時間に」
フェリスが一階に降りるとそこには、肥料の工夫を任されていた山賊の頭目がろうそくの明かりを頼りに肥料の成分表を書いているところだった。
「少し眠れなくてな」
「いいかげん飯食って下さいよ。このままアンタが倒れちまったら兄貴に申し訳がたたねえ」
苦笑交じりに食事をするように懇願されたフェリスはそれをにべもなく断り、それを予想していた頭目は溜息をついて成分表とのにらめっこを再開した。
「姐さん」
「なんだ」
「もう少し待っていてくださいね。俺達は兄貴みたいに姐さんの隣に立つことはできないけど、あんたを支えることぐらいはして見せますから」
「………………………そうか」
無表情の中にほんの少しだけ笑みを浮かべて、フェリスは自分の寝室に帰ろうとした。
その時!!
「!」
異様な気配を察知したフェリスは、剣を引き抜き頭目の後ろに立った!
「あ、あ姐さん? どうしたんで……」
「静かにしろ。この家に何かいる!!」
フェリスがそういった瞬間!
空気を引き裂き、見えない弾丸がフェリスに襲い掛かってきた。
「しっ!」
しかしフェリスは剣の一族。ローランド最強の武家の出身者である。雷すら叩ききる彼女の剣はその見えない弾丸にきちんと対応し一刀両断した!
「魔法!? 風系のメイジです姐さん!!」
盗賊の忠告を頭の端に入れ、フェリスは暗闇の中に隠れている襲撃者に気配を頼りに近付きその剛剣を振るう。
「ちっ!」
襲撃者は小さくしたうちをした後、剣を避けるために暗闇から飛び出し窓を突き破り逃げ出した。
「まて!」
フェリスは慌てて後を追おうとしたが、突如足から力が抜けてその場に座り込んでしまった。原因は言わずもがな、極度の空腹のためである。
「姐さん! 大丈夫ですか!?」
「ああ。外傷はない。ただ、力が入らなくてな」
「良かった。あいつ相手じゃ姐さんでも分が悪いですよ」
「? あいつが何者なのか知っているのか」
「…………………………………………ええ。すれ違いざまに牙が見えましたから、間違いありません」
頭目は冷や汗を流しながらその忌まわしい名前を口にする。
「人と同じ姿をしながら、その性は残忍にして狡猾。エルフと同じ《先住》魔法を行使する人食いの魔獣。吸血鬼ですよ、姐さん」
…†…†…………†…†…
翌朝。彼らの食卓には普通に朝食を食べるフェリスの姿があった。
「あ、姐さん!? ようやく食べる気になってくれたんですね!! でもいきなりどうして?」
他の山賊たちが驚き、慌てふためく中でフェリスは無表情のままこういった。
「なに。少し厄介ごとが持ち上がってしまってな。力をつけておく必要があるのだ」
フェリスのその言葉に、山賊たちは嵐の予感を感じ取っていた。
それから数日後、この村の少女が一人干からびて死んでいるのが発見された。
村の住人達は口をそろえてこの事件の犯人の名前をささやく。
それは王宮から派遣された騎士すら返り討ちにし、村人達を恐怖のどん底に突き落とした。
人狩り。夜を歩くもの。狡猾にして残忍な最も凶悪な魔獣。
吸血鬼。
そして
「ああ。あの金髪の美女! 彼女の血はとても美味しそうだったなあ!!」
狂ったような哄笑を上げながら、彼は再び闇へと消えた。