ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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この残酷な世界に

 上空遥か高くにあるアルビオンのとある岸辺。

 

 そこに一隻の大きな船が難破していた。

 

 いや、難破というのも生易しいだろう。船は真ん中からボッキリと折れ、マストは全滅。乗組員は全員海の藻屑になったものと思われ誰も見つからず、積んでいた荷物すら存在しない。

 

 実はこの船、現在物価が高騰しつつあるアルビオンで一稼ぎしようとした、バカな闇商人たちが出した密輸船なのだ。どんな時代、どんな世界にも、ギャンブルをしようとする人間は後を絶たないものだ。

 

 とはいえ、往々にしてそういった無謀な賭けは失敗する。

 

 この密輸船も結局アルビオンにつく前にトリステイン艦隊の手によって補足。サーチ&デストロイの精神で粉砕玉砕大喝采された。

 

 だが、そんな船から一人……這いずり出てきた少女がいた。

 

「し、死ぬ……死ぬかと思った」

 

 青いゆるふわウェーブの髪に、勤勉そうな眼鏡とそばかすだらけの野暮ったい顔。

 

 この時代なら薄幸そうなメイドしていそうな顔立ちをした少女は、グッタリとした様子で船から抜け出した後、ばたりと地面に倒れ伏した。

 

「こ、こんな方法しかなかったとはいえ……もうちょっと手段を選ぶべきだったわ……。船代は格安だったけど、わけあり云々以前の問題じゃない」

 

 少女の名前はアンジェリカ――ということになっている。海に投げ出された乗員名簿を調べれば少なくともそう記載されているはずだ。

 

 とはいえ、こういった犯罪者が操る船の乗組員など大抵は偽名上等な奴らだ。彼女もその例に倣って偽名を使いこの船に乗り込んでいた。

 

 では、彼女の本当の名前は?

 

「はぁ……。でもまぁ何とかたどり着けたわけだし、さっさとあの眠そうな男と、化物剣士探し出して、誘拐なりなんなりしてジョゼフ様のもとに連れて行かないと……」

 

 彼女の名前はビオ・メンテ。

 

 ハルケギニア最高の暗殺者として知られる、ガリア北花壇騎士団(シュヴァリエ・ド・ノールパルテル)二号。

 

 いつもは赤毛のメイドとして変装している彼女だったが、流石に戦時中のアルビオンに彼女の姿のままいるのはまずいと、急遽別人の変装を施しこのアルビオンに乗り込んできたのだが……。

 

「さて、じゃぁ行きますか」

 

 彼女は知らない。こののち、彼女がアルビオンにやってきたことを盛大に後悔する羽目になる事件に出会うことを……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「オト・コ・ノコ村? なんだ、その珍妙な村の名前は」

 

「へぇ、なんでも最近噂になっている魔物が住む村だそうで……」

 

 空中大陸アルビオンの商業都市――サウスゴータ。

 

 トリステイン艦隊の兵糧攻め作戦で目に見えて物価が上がり始め、だんだんと市民から不満の声が上がり始めた不穏な空気のこの町の一角に、その喫茶店はあった。

 

 外に机といすを出す、これといった特徴はない一般的な喫茶店。

 

 そこに座って話をしているのは3人の人間。

 

 この国で諜報活動を行っているトリステイン軍の助っ人、ライナ・リュート、フェリス・エリス、マチルダ・ロングビルの三人だった。

 

「じゃぁ、問題ってなんだい?」

 

 そんな三人はあいも変わらず、とてつもない暴力によって、フェリスの奴隷に落とされたチンピラ三人がもってきた、アルビオン全域における食料の値段高騰の状況と、その状況を打開しそうな事件の報告を聞いている真っ最中だった。

 

「なんでもそこに凄腕の錬金術師がいるらしくて……。驚くべきことに、土から無数の《肉》を錬成することに成功したらしいんですよ」

 

「む」

 

「へ~。そりゃすげ~」

 

「ちょ、できないわけでもないけど……食糧錬成なんて、今まで誰も挑戦したことがない未知の領域だよ!?」

 

 チンピラからの報告を聞き、フェリスとライナは別に驚いた様子ではない驚愕の声を上げ、ロングビルだけが真剣に驚いたような声を出した。

 

「でもさ、相手はたった一人の錬金術師だろ? ドンだけ頑張ってもこの食糧難を打開できる量の食糧の錬成は無理だと思うんだけど」

 

 そう尋ねたライナの指摘は事実だった。どれだけ優秀なメイジであっても所詮は個人。自身の魔力を使うこの世界の魔法では、錬成できる肉の量に限界がある。

 

「いや、それがですね、その村には出るんですよ……これが」

 

「これ?」

 

 両手をだらりとたらし何やら珍妙な仕草をするチンピラに、ライナとフェリスは首をかしげ、ロングビルは眉をしかめる。

 

「これって……モンスターかい?」

 

 ロングビルがさすモンスターとは、ハルケギニアでは一般的に知られるいわゆるドラゴンや、サラマンダーといった存在が確認されている魔法生物とは違った、一種の未確認生物のことだ。

 

 ちなみに、ハルケギニアでは存在が証明されていない幽霊(ゴースト)もこの中に分類されているため、良くそう言った生物を指し際の代表例としてそういったジェスチャーがとられる場合がある。

 

 だが、そういったものは大半、眉唾物の噂として語られるものの為、ロングビルはチンピラの情報がうさん臭くて仕方がないのだ。

 

「その村から命からがら逃げかえってきたやつが相当ヤバいって話しているそうですよ。おまけにその村ではそのモンスターを飼っているようでして……魔力も膨大。そいつを使って錬成肉の大量生産を行っているらしいんすよ」

 

「なっ!?」

 

 だが、さすがにその報告はライナであっても驚いた。

 

 人体改造に、平民のメイジ化。正直言ってトリステインの包囲網どころの騒ぎではない。噂が事実だとするならば、世界がひっくり返るとんでもない事態だ。

 

「どうするフェリス」

 

「ふむ。そこまでの情報が入っているなら行くしかあるまい。無視したとなれば割とシャレにならないランクでバーシェンが怒り狂いそうだしな」

 

「だね。あぁ、ティファニアにしばらく帰れないって連絡しておかないと……」

 

 と、ライナ達三人はそれぞれ今後の予定を立てつつカフェテラスから立ち上がる。

 

 そして、フェリスは最後にチンピラたちの方を振り返り、

 

「というわけだ。ご苦労だった。今週の情報収集はそのくらいで許してやろう。だが来週ロクな情報が持ってこれないようならば……貴様の家族がどうなるか、わかっているな」

 

「は、はいっ!! 誠心誠意フェリス様のために働かさせていただきます!!」

 

 そういって青い顔をして頭を下げてくるチンピラの姿に、ライナは何とも言えない顔をしながらこう思った。

 

――どっちが悪党かわかったもんじゃねぇな。

 

 ……彼がその片棒を担いでいるという事実に気付くのは、いったいいつのことになるのだろうか?

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「と、いうわけで……そのオト・コ・ノコ村についたわけなんだが」

 

 それから数週間後。アルビオンのはずれにある小さな町を訪れたライナ達は、その村の前にたたずみ眉をしかめる。

 

 いちおう害獣を警戒してか村の周囲に張り巡らされた木製の壁は……まぁいい。害獣避けは割と死活問題だ。下手に何の対策もせず放置していると作物を荒らされ村自体が危機に陥ることもある。何も珍しいことではない。

 

 問題なのはその壁に設置されている門に書かれたとある文字。

 

『資格あるもの以外の入村を禁ずる』

 

 村の名前が書かれた看板にでかでかと書かれた注意書きだった。

 

「資格ってなんだよ……」

 

「少なくとも私らが持ってないことだけは確かだね……」

 

 ロングビルの率直な意見に大きくため息をつきながら、ライナはあたりを見回してみて、状況を打破できるようなものは何もないことを確認したのち、

 

「よし、資格がないんじゃ仕方がないな……。帰るか」

 

 いつものめんどくさい精神を発揮した瞬間、彼の後頭部に凄まじい速さで大剣が叩きつけられ、ライナはそのままばたりと倒れる。

 

「あれ死んだんじゃないのかい?」

 

「安心しろ。峰うちだ」

 

「いや、だから峰うちでも死んだんじゃないのかいって言ってるんだけど……」

 

 ロングビルが呆れるように見つめる撲殺現場を作り出した美女――フェリス・エリスは、そんなロングビルのツッコミなどモノともせずに、倒れ伏したライナを足蹴にする。

 

「わからないならばライナ、お前があの村に侵入してどういった人間が住んでいるのか調べてこい」

 

「えぇ~。マジで? めんどくさいんだけど。いいジャンもうあきらめたら。よくよく考えてたらそうとうヤバイモンスターを手懐けて、肉を作らせているとか絶対ガセネタ臭いって。そうとうヤバイモンスターなんだから、そうとうヤバい感じに人間の言うことなんて聞くわけないだろ?」

 

 といいながらも、やっぱりというべきかなんというべきか平然と倒れ伏したまま口を開くライナに、ため息をつくロングビル。

 

 ライナはフェリスに必死に言い訳をしているから、彼女のそのため息の理由に気付かない。

 

「ライナ……そんな平然としていたりするから、フェリスの暴力がエスカレートするんだよ」

 

 いじめっ子は元気な奴ほど苛めたがる。ある意味この世の真理的なロングビルのつぶやきは、風に流され消えていき、代わりにライナの耳に入ってきたのは、フェリスによる、

 

「もうライナったら! あんまり駄々をこねないの……殺すぞ」

 

 いつもなら似合わない女口調ののちに放たれた絶対零度の殺意の言葉だった。

 

 哀れライナはガタガタ震えながらフェリスの命令を了承し、するすると木の壁を登り誰にも気づかれないまま村への侵入を果たすのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「とはいったものの……どうしたもんかね」

 

 村の中に入ったライナは、建物の陰にこそこそと隠れながら村の様子をうかがう。

 

 彼の視線の先にあるには、村人が何人か居座りながら選択をしていた井戸端だ。

 

「って、あれ?」

 

 そこの様子を見てライナはある異常に気付いた。

 

――いやいや、待て待て。もしかしたら勘違いかもしれないし……。と、ライナはその結論を一時的に保留にし、続いて村の端にある畑へと向かってみる。

 

 そこでも、先ほどライナが確認した異常がみられて、

 

「こりゃ……」

 

――どういうことだ? 小さく首をかしげながら、ライナは次々と村の各所を網羅していく。

 

 とある一軒家の中。水を汲みに来ると思われる小さな小川。食料を貯蓄している倉庫etc...。

 

 そのありとあらゆるところで、ライナが確認した異常が見られて。

 

「こりゃ俺がここに長くいるのはまずいな……」

 

 そう言ってライナは慌て敵の壁をよじ登り、村から撤退を余儀なくされた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ん? もう帰ってきたのかい?」

 

「なにぃ!?」

 

「いやいや、さぼってない! さぼってないからフェリス……お願いだから剣抜くのやめて!!」

 

 と、いうわけで、ライナが帰ってくるまで一応村人に警戒されないよう、近くの林で身を隠していたロングビルとフェリス。

 

わずか数分で帰ってきたライナの姿を確認し、ロングビルは思わず呆れたようなつぶやきをもらし、フェリスはどういうわけか嬉々とした表情で剣の柄に手をかける。

 

それをライナが青い顔をしてそれを必死に押しとどめながら、村の状態を話し出した。

 

「あの村……くまなく調べてみたんだけど、女しかいないみたいなんだよ」

 

「なんだって? 確かに今アルビオンは戦時中だから、若い男は兵力として徴兵されているかもだけど……」

 

「ふむ。老人すらいないのか?」

 

「あぁ。きっちり調べてきたからそれは間違いない」

 

 珍しく本気を出したのか、自信あふれる声でそんな太鼓判を押してくるライナにロングビルは思わず首をかしげた。

 

――徴兵されたにしては、老人の男性すらいないっていうのはいくらなんでも不自然だね。それに、話を聞く限りでは農業やその他の産業も他の村と同じような状態。それをやろうとするならどうしたって男手は必要になってくる。そうじゃないと村の運営が成り立たない。

 

 元領主家の娘としての常識に当てはめて考えるに、ありえない村。そんな村の様子にロングビルが首をかしげている間に、

 

「ふむ、ではやることは決まったな」

 

「え?」

 

「なんだって?」

 

 平然とした様子でフェリスが告げた言葉に、二人は思わず首をかしげた。

 

「つまり、その村は女性しか入ってはいけない村なのだろう?」

 

「あぁ、なるほど」

 

「資格ってのはそういうことだったのかい……」

 

 フェリスの率直な意見と判断を聞き、思わず納得の声を上げるライナとロングビル。つまり、村に入る資格とは性別が女性であることだったのだろう。

 

「つまり、村には私とフェリスが入れば解決だね」

 

「おう。頼んだぜ二人とも。俺はここで村に不審な行動が起こってないか見守っておくから……」

 

「とか言いつつ早速横になって何してんだいアンタ……」

 

――絶対寝る気だね。と、どこから取り出したのかわからない高級枕を取出しその場で横になるライナに、ロングビルは呆れた視線を向けた後、

 

「そんなことしてたらまたフェリスに殴られる……よ」

 

 といいながら、早速剣を抜いているであろうフェリスの方へと視線を向けた瞬間、

 

 

 固まる。

 

 

「……フェリス、それなんだい?」

 

「ん? なにって……ドレスだが?」

 

「いや、それは見たらわかるんだけど……」

 

――明らかに、私とアンタ様にしてはデカくないかい? と、二メートル近い身長に合わせたような大きなドレスをどこからともなく取り出したフェリスに、ロングビルは盛大に顔を引きつらせる。

 

 そんなロングビルの問いかけを聞いたのか、早速横になってさぼろうとしていたライナも思わず目を見開き、震える声で質問を飛ばす。

 

「お、お前まさか……」

 

 以前ライナが体験したピッキーランドの悲劇。そのトラウマを刺激されたのか、ライナは思わずガタガタ震えながら、違ってくれという願いを込めてそう尋ねる。

 

 だがその日、ライナは思い出した……。

 

――そうだ……この世界は……残酷なんだ。

 

「さぁ、ライナちゃん。きれいっきれいしましょうね~♡」

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 悲鳴を上げ逃げるライナ。だがしかしフェリス・エリス(だいまおう)からは逃げられない。

 

 あっさりとライナに追いついたフェリスによって打撃されたライナは、そのまま意識を狩りとられ、ずるずると木陰に引きずり込まれていく。

 

 ロングビルは黙ってそんなライナの姿に黙とうをささげ、せめて彼の人間としての尊厳ができるだけ傷つかないようにだけ祈るのだった。

 




 二週間に一回更新ぐらいに下げます^^;
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