ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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OTOKONOKO村~略してTKNK

――そして、数時間後の村の出入り口にある小さな門の前に、三人の女性が立ち並んだ。

 

 一人は絶世の美女。流れる絹のような美しい金髪に、陶磁のような白いきめ細やかな肌。完成されたプロポーションに、髪が造形したといわれても頷ける美貌。腰に下げた大剣が、またアクセントを効かせる雪崩爆発大地創成美少女天使。

 

 もう一人は、まぁソコソコ美人名緑髪の眼鏡女。

 

「おい、明らかにアンタと私とでは差がつきすぎていないかい?」

 

 とうるさいソコソコ女。

 

 最後の一人は言わずもがな、美少女天使が慈悲を授けた一人の少女。

 

 女性とは思えない上背に、やたらとゴツイ肩幅。もう見られたらちょっと外歩けないくらいひどい化粧をした顔。

 

「おい……」

 

 分厚く塗られた口紅は、唇をまるでたらこか何かのように錯覚させてしまい、これでもかと塗りたくられたアイシャドーは、皮膚すら見せず、もはや完全に鏡のよう。

 

「おい」

 

 そう、それは少女というより、真夏のとある日に現れたら暑さなんて忘れてしまう存在……。

 

「おぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 

「ん? なんだうるさいぞ、ライナ? せっかく人がきれいにしてやったお前を紹介してやっているというのに」

 

「綺麗っていうか解説がすでに不穏だろうがぁああああああああ!? なに、俺の顔今どうなってんのォオオオオオオオオオ!?」

 

 何やらわざとらしくカンペを広げて、誰に向けてでもない自己紹介を続けるフェリスに、強制的にまったく似合わない女装をさせられ、涙を流しているライナは思わずそう怒鳴った。

 

「ぷふっ……。あ、あんしんしなよ、ら、らいな……。い、いうほど、悪くないよ?」

 

「そういうのは俺の顔見て言えぇええええええええええ!?」

 

 ブルブル震えながら必死に笑いをこらえるロングビルに、ライナは思わず涙を流した。

 

――もうやだ。俺もう嫁にいけない。

 

 と、ショックのあまり内心の口調が変になっているが、そんなこと気にしてられないくらい今のライナは疲れ切っていた。

 

「もう、死にたい」

 

「ま、まぁ落ち着きなって。確かに化粧には無理あるし、どう頑張っても女には見えないけどさ。そのおかげで、多分入村の審査段階でアンタは跳ねられると思うし、そうなるとさっき言ってたみたいに仕事さぼり放題だよ?」

 

 と、一応フォローを入れてくれるロングビルだったが、そんなことでライナの心の傷はいえなかった。

 

――もう俺いっそのことひきこもりになろうかな? と、割と真剣にサイトが言っていた社会も代の一つに憧れるライナ。だが残念。彼の近くにいるのは、息子が心配だから近づけない気の弱い親ではなく、部屋に引きこもろうものなら、部屋の扉を両断し強制侵入。ひきこもるライナの首を剣で刎ねようとする天使の顔をした悪魔である。

 

「何を言っている? 審査段階でライナが跳ねられるようならその時はこの関所を粉みじんにして、村人たちをとっ捕まえて拷問――もとい、お話を聞くに決まっているだろう」

 

「……」

 

 元アルビオンの人間として、この女を真剣に捕まえるべきかどうか悩むロングビルをしり目に、フェリスは一向に意に介した様子を見せず、村の門を高らかに叩いた。

 

「たのもー」

 

「お前はどこに入るつもりだ」

 

――いや、腰の剣からして間違ってないのかもだけど。と、ライナはツッコミを入れつつ、村に剣術道場なんてなかったから、やっぱり不自然か……。と、自己完結。

 

 そんな風に彼が現実逃避をしている間にも、村の門は徐々に開き。

 

「は~い。あら? 旅人の方たちかしら?」

 

 気さくな笑みを浮かべて、明るい雰囲気をした、金髪ショートヘアの女性騎士が、門の隙間からひょっこり顔を出した。

 

「いいえ、実はわたくしたちこちらで食肉の生産を行っていると聞きまして訪れたものでして。ほら、今アルビオンは何かと食糧不足ですので」

 

 と、フェリスの代わりに会話の対応にあたるのはロングビルだ。

 

 当然これは、こういった交渉事をフェリスに任せるわけにはいかない!! と、嫌というほど思い知ったロングビルの独断ではあったが、ライナとフェリスは特に文句を言うことなくその行動を流した。

 

 当然だろう。理不尽な性格ではあるが、フェリスは自分にできないことは分かっていたし、ライナはもう、ちょっと再起不能なのでいろんなものからほっとかれたい気分だった。ロングビルが何をしようと気を使ってやれる状態ではない。

 

 だが、ロングビルの交渉は早速難関にぶつかってしまったようだった。

 

「食肉……ですか?」

 

「え?」

 

 ロングビルに尋ねられた質問に、女性騎士は『ちょっと何言ってるのかわからないです』と言わんばかりの態度で首を傾げた体。

 

「あの、申し訳ありませんけど何かの勘違いでは? うちは牧畜流行っていないので、肉の入手は行商人や猟師の方々に頼んでいるくらいで、売るほど手に入るような状態ではないのですが」

 

「いや、そんなはず?」

 

――まさかガセだったのか? と、ライナは一瞬考えるが、その疑問はすぐに否定される。

 

 さすがにヤンキーたちが集めた情報だけで動くのは面倒――もとい、危ないと思ったのか、そのあたりの情報固めはロングビルがきちんとやってくれているのだ。その彼女ですらこの噂は信憑性が高いといった。

 

 元盗賊の情報収集能力が是とだした結論だ。早々間違うことはない。

 

 だからこそ、交渉にあたっているロングビルも、大いに首をかしげているわけなのだが……。

 

「それに、申し訳ありませんが、うちの村は基本的に女性の立ち入りは禁止していまして……」

 

「「「え!?」」」

 

 これにはさすがの三人も驚いた。なぜなら、目の前で話している女性騎士は、どこからどう見ても女性……。

 

 今度は三人が「何言ってんだこいつ?」と、言わんばかりの視線を女性騎士に向けた瞬間だった。

 

「っ!?」

 

 女性騎士の視線が、ライナの姿をロックオンした。

 

「げっ。まずっ……」

 

「ふむ。きっと貴様のことを新手のモンスターと思ったに違いない。これから警備の騎士がわんさかと出てくるぞ? まったく、これだから変態色情狂は……」

 

「いつもなら諦めて流すけど、今日は全部お前のせいだろうがぁあああああああああああ!?」

 

――もうやだこいつ、誰かなんとかしてくれ。と、内心で泣きながら自分を罵ってくるフェリスに言い返すライナ。だが、そんなライナに対し、

 

「あ、あなた……」

 

 女性騎士は近づいてきて、

 

「ようこそうちの村に! 本当の目的はあなたの入村だったのね!? だったら早く言ってくれればいいのに!!」

 

「え?」

 

 ライナの腕をがっしりとつかみ、村の門の中へと引きずり込んだ。

 

「え、ちょっ!? まっ!?」

 

「そこの二人は護衛の人たちだったのね? わかる、わかるわ……。この世界は、私たちには住みにくい世界だもんね。でもその化粧なに? 自分でやったの? 最近目覚めた新規さん? だめよ! 素材は悪くないんだから、なる(・・)ならなる(・・)でちゃんと勉強しないと!」

 

「いやいや、なに!? 何言ってんのこいつ……ちょ、思ったより力つよっ!?」

 

 と、歴戦の戦士であるライナですら振りほどけない膂力によって掴まれた腕を見て、ライナは思わず愕然とする。

 

――身体強化の魔法でも使ってんのか!? そうでもなけりゃこの細腕でこんな力出せるわけ……!? と、ライナが内心で驚き、フェリスとロングビルが唖然とする中で、とうとうライナは村の中へと引きずり込まれ、

 

「では護衛の方々! 道中ありがとうございました。この子の面倒はこちらでしっかり見させていただきますので!!」

 

 といって、女性騎士は門を閉め、フェリスとロングビルの二人を締め出したのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 その数秒後、あっという間の誘拐劇を呆然と見ていたフェリスとロングビルは、

 

「「ど、どういうこと?」」

 

 思わず同時にそんな間の抜けた声を上げるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 ライナは混乱していた。

 

「もう! 何そのメイクは!? あなた素地は悪くないんだから、もっとそういったところで気を使わないとダメでしょう!」

 

「え、え!? ちょ、ちょっと何言ってるかわかんない……」

 

 そんな風に混乱するライナを置き去りにして、女騎士はすれ違う村人たちに元気よくあいさつしながら、ある一軒の家へと向かった。

 

 そして、その中は!

 

「みなさ~ん! ご新規様ひとりご案内!!」

 

「っ!?」

 

 どういうわけか、無数の美女たちが何人かの店員に綺麗に化粧をしてもらっていた。

 

 当然この時代に化粧なんてものは贅沢品だ。ましてや、それを誰かにやってもらうなど貴族の人間ぐらいしかしていない。

 

 だが、この村人たちはそんな場所をあっさりと作り出していて、

 

「まぁ! 仲間が増えるのね!」

 

「まだまだ拙い化粧の腕ね……腕が鳴るわ!」

 

「すぐにきれいにしてあげるからね~」

 

 なんて言いながら、今まで化粧を施していた女性たちも、女性騎士と同じように目を輝かせながらこっちによってきた。

 

 その、目の輝き具合に流石に身の危険を感じたライナは、やや引きながらこの場から後ずさり、

 

「え、えっと……ちょ、ま、間に合ってます」

 

「「「いいから私たちに任せなさい!」」」

 

 

「ちょ、人の話をき……ぎゃぁああああああああああああああああああ!?」

 

 突如としてとびかかってくる化粧屋たちに悲鳴を上げながら、わけもわからず呑まれていった。

 

 

 そして、数分後。

 

 

「え?」

 

 鏡の前に立ったライナは愕然とした。

 

 フェリスのようにやたらと化粧品を塗りたくった下品な顔は瞬く間に直され、気づかないほど最低限に。

 

 ゆるく眠そうな瞳はアイラインによって力強い印象を持つように直され、チークやその他の化粧品によって顔は小さく印象付けられるように設定。

 

 ただし女性特有の丸みは完全再現されており、薄く刺された口紅が何とも言えない大人の女の色気を醸し出す。

 

 まったく似合っていないドレスは払しょくされ、今度は男が切るようなスーツ着用。ただし、それはもともと男性にしては細身だったライナも無理なく着られる、貴族御用達の男装用女性礼服。

 

 それに隠されるように履かされた、女性用のヒールによってライナの身長はさらに伸ばされ、ガタイの良さは縦の比重が伸びることにより何とか誤魔化された。

 

 そう、そこに立っていたのはどこからどう見ても、男装をした絶世の美女……。社交界とかで女性の憧れを一身に受けそうな、女性の貴公子。

 

「って、誰だこれぇええええええええええええええ!?」

 

 ライナがそんな絶叫を上げても仕方ないと思えるほど、いまのライナは女だった。

 

「やったわ、私たち。私たちはまた悩める同志を救ったのよ……」

 

「綺麗よ、ライナ。今のあなた輝いているわ」

 

「あぁ、私がオトコノコでなかったら、惚れてしまいそうなほどきれい……」

 

「いやいやいやいや、待ってくれよオィイイイイイイイイイイイ!?」

 

 口々にそんなことを言いながら頬を染める化粧士(メイクアップアーティスト)たち。そんな彼女たちに勢いよくツッコミを入れながら、ライナは思わず彼女たちに食って掛かる。

 

「いったいなんだ、これ!? お前らいったいなんなんだ!?」

 

「それはわたくしがご説明しましょう」

 

「っ!?」

 

 そんな風にライナが騒いでいた時、一台の馬車が店先に止まり化粧屋さん(メイクサロン)の中へと入ってくる。

 

 入ってきたのは、美しい金髪に緩やかなウェーブを当てた、ライナより身長が頭三つほど小さな、豪華なドレスに身を包んだ、胸だけは貧相な、華奢な美少女。

 

 どこからどう見ても、それはこの村を治めているのであろう高位の貴族のように思えて。

 

 その少女の姿を見て、ライナ以外の村の住人達は慌てて従者のように立膝になり、

 

「エリーナお姉さま!」

 

「あぁ、今日もお美しゅうございます」

 

「みなさん、宜しいのですよ。ここはわたくしたちの美の研鑽場にして最前線。楽にしていただいて結構ですわ」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

 その言葉を聞いた彼女たちは、一段と気合を入れた様子でメイクをしたり、メイクを受けたりといった仕事に戻る。

 

 そんな彼女たちに呆然とするライナに、馬車から降り立った貴族令嬢はニコリと笑い、

 

「ライナさん、同志たるあなたが驚くのも無理はありません。なにせ、あれ(・・)あれ(・・)にする技術に関してここまで高い水準をもっているのは、私たちだけでしょうから」

 

「あれを……あれに?」

 

「まぁ、とぼけるのがお上手ですわね。男を……女にですわ」

 

――!? と、音もなく、脳内をそんな記号でいっぱいにして固まるライナを放置し貴族令嬢は話を続ける。

 

「私はこの村を統治するエリーナ・イェーガー・ド・コーンウォール。本名を、エレン・イェーガー・ド・コーンウォール。れっきとした男ですわ」

 

「…………………………………」

 

 そんなでたらめな追加情報にさらに固まったライナは、数秒間の沈黙ののち、

 

「えェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?」

 

 本日最大の絶叫を上げた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「エェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?」

 

 そんなライナの絶叫に、何とか村に潜入したロングビルの絶叫が重なったのは不幸中の幸いと言えるだろう。

 

「ふむ……」

 

 と、いつものように落ち着いた反応をしている、一緒に潜入したフェリスですら、若干その頬に冷や汗が流れているように見えた。

 

 なぜなら、彼女たちから見てもこの村に住む人々はどこからどう見ても女性。十人すべてが某公爵令嬢並みの胸なのが気にかかるくらいで、それ以外ではまったくと言っていいほど違和感がなかったのだから。

 

 声も高ければ、男性特有のごつさも感じられない。むしろ線の細い女性的な雰囲気ばかりが目立って、男性らしさなど全く見受けられない。

 

「どどどど、どういうことだい!?」

 

――ともすれば、自分の女性としての自信を木っ端みじんに打ち砕いてきそうな美人だっているのに、それが……男性!?

 

 あまりの事実にめまいを覚えるロングビルを置き去りに、領主エレンの説明は続いた。

 

「わたしは貴族社会ではいわゆる――男らしくない。線が細くてかわいい。むしろ人形としてお持ち帰りしたい。はぁはぁ、エレンタン萌え。と、貴族の令嬢方から言われるちょっと女の子の雰囲気が高めの《しょた》なる分類をされる男の子でした」

 

「いや、最後のホントに貴族令嬢かよ!?」

 

 と、こんな理解不能な事態に陥っているのに一応冴えわたっているライナのツッコミ。これもフェリスとの旅の成果だと思えば……なぜだろう? ロングビルの目から涙があふれて止まらなかった。

 

「そんな風に言われ続けているうちにそれを嫌がっていた私自身も、いい加減自分と向き合わなければならないと思いました。仕方がない。似合わない自分がいくら男らしくしても、意味はないんだ。無理をしても誰も受け入れてはくれないんだ。だったら自分らしく有れるように今度からは過ごそう。ありのままの自分を受け入れよう。そうだ、女の子になろう……私はそう決意したのです」

 

「途中まではよかったのに最後は明らかにおかしいからなっ!? 開いちゃいけない扉開いちゃったからな!?」

 

 いったいその間に何があったんだ!? とライナが盛大にツッコミを入れているが、それにはロングビルも激しく同意だった。

 

「そうして私は女として社交界デビューしみんなの人気者になりました。ですが、その時私は気づいたのです。男なのに女のようだとからかわれる同志たちが、他にもいっぱいいることを。これはいけない。みんな《性》という、生まれながらのどうしようもない問題に苦しんでいる。羞恥心。ただそれさえ捨て去ってしまえば解決する……そんな些細な問題なのに、多くの人たちが苦しんでいる。私はそれを嘆き悔みました。そして、この村を立ち上げる決意をしたのです!」

 

 そういって、彼女は両手を広げ、まるで慈悲があふれる聖女のような笑顔で一言、

 

 

 

「ここは、男の娘(・・・)による男の娘(・・・)のための楽園。性の垣根など飛び越え、自分らしくあるための世界……《男の娘村》なのですっ!!」

 

「「……………………………」」

 

 そんなとんでもない彼女の宣言に、ライナとロングビルの常識陣組は思わず絶句し、フェリスは器用に気の上で団子セットを広げ茶会をしている。

 

 そして数秒後、

 

「「わけわからんわぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?」」

 

 ロングビルとライナのほぼ同時と言っていいそのツッコミに、フェリスは一言、

 

「ふむ。要するにこの村はあの変態女装マニアと同類が集う村というわけなのだな」

 

 納得した。と、一人頷きながら茶を飲んでいた。

 

――女装させたのアンタじゃないかい。という、ロングビルの小さなツッコミはこの時フェリスには届かなかったという。

 




あれ? 二話で終わるはずだったんだけど……あれ?
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