ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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ようやく戻る日常

 カトレアは珍しく体調がいいので少し機嫌がよさそうに鼻歌を歌いながら、ラ・ヴァリエール公爵家の館(城?)の中を歩いていた。

 

 両親たちの話を聞いた彼女のペット(本人にとってはお友達)の小鳥に聞いたのだが、どうも今日は女王陛下がこの領を訪れるそうなのだ。

 

――女王陛下がこられるってことはもちろんあの方も来られるのですよね。

 

 そんな考えと同時に浮かぶのは、よく両親に内緒で自分の部屋に忍び込んでくる一人宰相。

 

 ずいぶんと前に両親とケンカして堂々とこの領を訪れなくなっていた彼だったが、今回の訪問理由は女王陛下の婚前旅行兼有力貴族への結婚報告。

 

 国事も国事。大国事だ。きっとあの両親も彼の訪問を無碍にはできないはず。

 

 そんな風に久しぶりに彼の顔を正面から見れるのをほんの少しだけ嬉しく思いながら、カトレアが窓の外へと視線を移す。

 

「あら?」

 

 そこから見える風景の一角で、なぜか轟音と土煙が上がっていた……。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「カッタートルネード!!」

 

「ウォーターブレイド!!」

 

「ふははは! 届きませんよっ!! ランダムスパーク!!」

 

「元気いいなお前ら……」

 

 真空の刃が織り込まれた竜巻が、

 

 レーザーがごとき水流が、

 

 すべてを爆発させる閃光が、

 

 触れたものを切り刻む鋼の糸が、

 

 その一角で入り乱れ、作られた大地の障壁を粉微塵に、木端微塵に、粉砕玉砕大喝采していく。

 

 その光景を見たサイトとルイズ、そして巻き込まれたウェールズとアンリエッタは思わずこんな悲鳴を上げた、

 

「「「「どこの怪獣大戦争だぁああああああああああああああああああああ!!」」」」

 

 それぐらいその光景は陰惨かつはた迷惑だった。

 

 実力者が四人も激突すればこうなるのか……。と、四人は思わず戦慄しながら巻き込まれないよう遠くの丘に護衛の兵士たちを連れて逃げ、肩を寄せ合う。

 

「なに!? 何があって私の両親あんなに怒っているんですか姫殿下!?」

 

「ルイズ落ち着きなさい。今の私は女王陛下です……」

 

「アンリエッタこそ落ち着いていい加減現実を見てくれ!! 今そんなことを言っている場合じゃないだろっ!!」

 

「と、とにかく原因の究明を……なんか瓦礫が飛んできたぁああああ!?」

 

 慌ててルイズ・アンリエッタ・ウェールズの三人が杖をふるう。

 

 爆発が、水流が、暴風が何とかその瓦礫を払いのけたが危機的状況であることには変わらない。

 

「お父様とお母様……きっと私もあの中に入るのを望んでいたんでしょうね」

 

「無理無理無理無理無理!? あんな戦いの中に首突っ込めるか!? 粉微塵どころか骨すらのこんねぇよ!!」

 

 巻き起こる爆風。交差する人影。ちょっともう視認することができない変態槍使い。

 

 あんな化け物同士の戦いに直接介入できる自信なんて、サイトは到底持てなかった。

 

『ふははははははははは! その程度かサンドリヨン、カリン!! その程度では我に傷一つつけることすらかなわんぞ!!』

 

「なんかバーシェンさんもテンション振り切ってるし!? いつにないわざとらしい笑い声とか上げてるし!!」

 

『くっ……負けるかぁああああああああ!!』

 

『あの子のために……この勝利、この一勝!! 必ずもぎ取って見せる!!』

 

「お父様とお母様もなんか壊れてる……」

 

「どこの少年漫画だよっ!!」

 

『我がシルウェルト家の槍は世界一ィイイイイイイイイイイイイイ!!』

 

「お前のは槍じゃねェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 サイトのツッコミのオンパレードである。ライナ二世を彼が継ぐことになる日も近いかもしれない。

 

「やっぱりこうなりましたわね……」

 

 そんな若干テンションが壊れている四人の激突に、サイトたちにもアッパーテンションが入りかけていた時だった。

 

 冷静沈着かつ呆れきったような声が四人の背後から聞こえてきた。

 

「え、エレオノール姉さま!」

 

「いたんすか? 影薄いから気づきませんでした」

 

 そっけないサイトの疑問に、彼らの背後に現れたブロンドの気の強そうな美女――エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールの額からピキリと嫌な音が鳴る。

 

 数分後。

 

「お父様と一緒の馬車でやってきたのよ? 何かただならぬご様子でしたし」

 

「そそそそそそそ、そうですか……」

 

 ガタガタ震えるルイズをアンリエッタが必死に支え、エレオノールの背後でぼろ雑巾になっているサイトを「大丈夫かサイト君!? 気をしっかり持つんだ!?」ウェールズが介抱している。

 

 そんなカオスはともかくとして、

 

「あの、エレオノール様。ラ・ヴァリエール公爵様たちはどうしてバーシェン卿にあんな真似を」

 

「陛下。あなたはもうトリステインの王となられたのですから、私のことはエレオノールとお呼びください。王が貴族に対しへりくだった口調を使うなど、あってはならないことですよ」

 

「あぅ……。す、すいません」

 

 幼いころの癖の口調でつい話しかけてしまったアンリエッタを叱責しながら、エレオノールはため息をついた。

 

「まぁ、理由は至ってシンプルに……カトレアの治療を断られたからなんですけどね」

 

「え!?」

 

「あの人、姉さまを治せるの!?」

 

 ここ数日でラ・ヴァリエール家の良心と言われてもおかしくない次女カトレアとソコソコ仲良くなっていたサイトは、その言葉に驚き、

 

 信愛する姉の病を直さないと言い切った人物がいると聞いたルイズは、驚きながらも怒りに燃える瞳でバーシェンを睨みつける。

 

 だがよく考えれば二人もその可能性に気付いたはずなのだ。何せアルビオンで致命傷を負ったサイトを異形の炎で治したのは、何を隠そうあの宰相なのだから。

 

 カトレアが焼かれるというのは縁起でもない話だが、確かにあの炎なら理屈など一切合財無視してカトレアの病を治すことができるハズ。

 

 だが、唯一冷静にその事実を受け止めていたエレオノールはルイズの頭をポンポンと叩き、

 

「まぁ、今のあなたみたいに当然両親はあの人に対して怒り狂ったわ。でもカトレア本人があの人の言葉に納得しちゃっていてね……。『高々小娘一人のために国の行く末すら左右できる俺の魔法を使うとでも思っているのか? 一国の命運と小娘の命。天秤にかけるまでもなくどちらが重いかは語るまでもないだろう?』だったかしら? 私も昔はあの人に杖を向けたことがあるけど、本人が『その通りですわ』って笑ってバーシェン卿のことを許したのに、外野がとやかく言ってもしょうがないでしょう?」

 

 珍しく冷静なエレオノールの言葉に、ルイズとサイトは目を見開く。

 

――この人、ただヒステリックでおっかないだけじゃなかったんだ!? と。

 

 瞬間、エレオノールからゴルゴンもびっくりな恐ろしい眼光が飛んだため二人は慌てて目をそらしたが。

 

 そんな二人の態度にふんと鼻を鳴らしつつ、エレオノールはある言葉をアンリエッタに告げる。

 

「では陛下。申し訳ありませんがしばしお待ちを。もう少しすれば到着するはずですわ」

 

「な、何がですか?」

 

「このバカ騒ぎを止められる存在がです」

 

 そんなエレオノールの言葉にアンリエッタは息をのみ、いまだに爆風荒れ狂う戦場を眺め、

 

 一言。

 

「そ、それは……新種、いえ。神種の魔獣か何か?」

 

「違います」

 

 バカ言わないでください。と言わんばかりのエレオノールのそっけない否定にちょっとだけアンリエッタは凹んだ。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ふむ……」

 

 自分に向かって飛来してくる巨大な氷塊の大槌。

 

 バーシェンはそれを眺めながら一つ鼻を鳴らした後、

 

「下らん」

 

 シレッとそう吐き捨て公爵との近接戦で弾き飛ばされてしまい、自分の傍らに戻ってきたシルに手で指示を出す。

 

「潰せ」

 

「了解ですっ!!」

 

 瞬間、彼の手に持った豚のぬいぐるみからギュンギュン珍妙な音が響き渡り、その口から信じられない速度でナイフとフォークが射出され、氷の大槌を遠慮なく粉砕する。

 

 爆音。散開。霰のように小さな氷の塊となって大地に落下する氷塊たち。

 

 それによってバーシェン達の視界が一瞬だけ劣化する。

 

 その隙を見逃す公爵たちではない。

 

「きたか?」

 

 まず現れたのはバーシェンが立っていた地盤の中から突き出される流水の槍だった。

 

 光速で旋回する水を纏ったその槍はまるでドリルか何かのように槌を掘削し、術の使用者の地中での活動を可能にしたもの。

 

 当然、こんな器用なまねができる人物をバーシェンは一人しか知らない。

 

「歳を考えたらどうだ公爵」

 

「なぁに。まだまだ現役だ」

 

 バーシェンを貫く軌道で放たれた土中からの水の槍の一撃。それを跳躍しながら鮮やかにかわしたバーシェンの揶揄の言葉を公爵は平然と切り捨てながら、

 

「ウォーターミストっ!!」

 

 辺り一帯に深い霧を発生させた。

 

 乳白色一色に視界が埋め尽くされる中、バーシェンは着地しながら次の敵の動きを予想するため思考を巡らす。

 

――現役時代のカリンとの連携の必勝パターンだ。俺はともかくあの槍使いはまずいか?

 

 バーシェンがそう判断した瞬間それは訪れる。

 

氷雪せよ(ユル・イーサ・イース)!!」

 

 鮮烈にして冷徹な声音と共に発せられた呪文に、霧は瞬く間に氷結し薄い六角形の巨大な雪の結晶となった。

 

 極薄の巨大結晶たちはそれだけで鋭利な刃物となる。

 

 触れれば切れるその刃物たちは、

 

暴風をここにっ(エイ・フライ・ローズ・リスメ)!!」

 

 ルーンの詠唱によって派生した暴風にからめ捕られ、信じられない速度で渦を巻きながらバーシェンに襲い掛かった。

 

「スノー・ブレード・テンペスタっ!!」

 

 氷雪の輪舞。最も美しい大量殺戮魔法として先王時代で名を馳せたカリンと公爵の連携魔法。

 

 王家の六属性魔法(ヘキサゴンスペル)とはまた違った、トライアングル魔法同士の合体攻撃。

 

 当然、とある事情で魔法が使えないバーシェンに対して使えば、確実に彼が粉微塵になると分かりきっている魔法だ。

 

 だが、それでもバーシェンは慌てない。

 

「先王時代に言ったはずだぞ? おれに《宴会芸》は通じない」

 

 バーシェンはそういった瞬間ワイヤーが伸びる手袋をつけた手を複雑に動かし、先ほどわずかに持ち上げ隆起させた地盤を、今度は完全に空中に引き抜く。

 

 バーシェンの眼前に設置された巨大な地盤が、無数の氷雪の刃を受け止め完全に封殺する。

 

 驚くべきことにこの術。魔力が使われていない。

 

 いや、実際は使われているのだろうが、それはバーシェンが糸を強化するために流した微々たる量。このくらいの量ならまだ自分の体の精霊化は抑えられると判断された、絶妙な量の魔力放出。

 

 圧倒的な才覚と神仙に至るまでに高められた経験によって最大限の効率で、魔力を運用する彼にとっては糸を強化するだけでもこのくらいのことは平然と実現できた。

 

 だがそれでも、

 

「なめるなっ!!」

 

「カリン……押し切るぞっ!!」

 

 敵対している公爵らも、バーシェンと轡を並べ戦場をかけた勇者だ。ただの土ごときで彼らの魔法が止められるわけがなかった。

 

 次々と氷雪の刃がぶつかり端からボロボロと崩れていく土の盾に、バーシェンは二人に聞こえぬよう小さくため息を漏らした。

 

――やはり魔力封印状態でこの二人の相手はきつい。そのためのあの槍使いを連れてきたのだが、この魔法の前ではあちらも自営が精一杯だろう。

 

 どうすればいい? バーシェンはこの状況を打開するための策を必死に頭の中で考える。

 

 そして、考えついたのは、

 

「む……」

 

 とある少女を利用しこの戦いを止めるという物。

 

 正直言ってバーシェンとしては気が進まない。彼女は例の得意な病状の推移を見守る検体だ。こんなくだらない戦いに巻き込んで体調が悪化したりなどしたら、バーシェンが今まで予定に無理に穴をあけてまで薬を運んでやった意味がない。

 

――却下だ。

 

 即座のその選択肢を切り捨て別の方策を練るバーシェン。

 

 だが、そんな彼が切り捨てた策はくしくもすぐに実現することとなってしまった。

 

「お父様っ! お母様っ!! 何をなさっているんですかっ!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 突如響き渡った聞き覚えのある女性の声に、戦いを続けていた四人のうち三人が思わず氷結し、ついうっかり魔法を解いてしまう。

 

 戦場に再びの静寂が訪れた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 静まり返った戦場。荒れ果てた街道。復旧には少なく見積もって数カ月の時間を要しそうなその惨状に、戦場に現れた人物は普段めったに起こらないであろう穏やかな作りの眦を、怒ったように少しだけ吊り上げ固まっている自分の両親のもとへと歩を進める。

 

「お父様っ! お母様っ!! 仮にも国事でやってきてくださったバーシェン卿になんて仕打ちを……っ!!」

 

「い、いや。だがカトレア……」

 

 女性――カトレアにあくまで言い訳をしようと口を開く公爵。だが、その口はすぐさま鉄仮面をかぶったカリンのよって閉じられ、封殺された。

 

「そうですねカトレア。私たちが間違っていました。すいません……」

 

 即座に自らの過ちを認めたカリンの姿に、普段家出の姿を知っているルイズやサイト、そしてさきほどまでの苛烈な戦闘を見ていたアンリエッタとウェールズは、あんぐりと口を開け、その姿を呆然と見つめる。

 

だがエレオノールは特に何も言うことなく、その四人から離れカトレアのもとに歩いて行った。

 

その理由は言わずもがな。

 

「だいたい、ばーえしぇん様が私を助けられないのはちゃんとした理由があるっておっしゃって……っ!!」

 

 体の無理を押してやってきたであろう妹が発作を起こすことくらいわかりきっていたからだ。さきほどカリンが公爵の言い訳を封じたのもこれ以上カトレアに無理をさせないため。

 

 公爵家の館から外に出ることすら困難な彼女が、こんなところまでやってきてしまっているのだ。親としてこれ以上負担をかけるわけにはいかない。カリンはそう考え公爵の口を塞いだのだろう。

 

 突如胸を抑え荒い息を吐き苦しみだすカトレアの体を、何とか抱き留めることに成功するエレオノール。

 

 それを見てあわてる両親をしり目に、地盤を大地に降ろしたバーシェンが落ち着きを払った様子で二人に近づいてきた。

 

「すまなかったなカトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・ フォンティーヌ。不忠者たちを制止する手腕みごとであった」

 

 それが今苦しんでいるこの子に言うことか? そう言わんばかりの怒りがにじみ出たエレオノールの視線がバーシェンをうがつが、本人はいたって平然とした様子でその視線を弾き返す。

 

 そんな彼に向かって、カトレアは脂汗を流しながらも笑顔をうかべ、

 

「い、いえ……。こちらこそお見苦しいところお見せいたしました。私たちラ・ヴァリエールの一族はアンリエッタ女王陛下と宰相閣下のご来訪を、心より歓迎いたしますわ」

 

 貴族としてふさわしい優雅で貴い歓迎の言葉。

 

 それを機に、突如勃発した街道の戦闘は幕をおろし、ようやく物語が進み始める。

 




公爵家とバーシェンの戦いを見て考えた、戦闘面での強さ相関図。

一般人(シエスタ)<ルイズ<アンリエッタ<サイト<ウェールズ<バーシェン(魔法封印状態)・アニエス<シル<ライナ・フェリス≠公爵・烈風

といった感じ。

 実は現在作中最強の公爵家。ライナとフェリスが本気で殺す気でかかれば互角ぐらいだったり。

 もともと魔法使い職で体を動かすのが得意でないバーシェンさんは、魔法使わなかったら実はこの程度。魔法が仕えれば作中最恐(・・)になったりはしますが……。

 以上、ラ・ヴァリエール家がどんだけバーシェンさんが嫌いかが分かったお話でした。
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