優雅な音楽がホールに響き渡り、技術の粋が尽くされた料理が、食卓を彩る。
そして、そんな空間で豪勢な食事をしながらも……ルイズは全身から流れ出る冷や汗が止められなかった。
どうやら自分の傍らに座る使い魔や、賓客として上座に座っているアンリエッタやウェールズも同じ気持ちのようで、心なしか食器を持つ手が震えていた。
なぜか? その理由は簡単。
「…………………」
「……………………………………………」
「あらあら」
「チッ」
「フン」
カトレアの隣にのんびりと座りながら、あんなことがあったにもかかわらずふてぶてしく料理を食べるバーシェンに、対面するように座った両親の殺気が突き刺さっているからだ。
正直に言うと、その殺気が空間に満ち溢れて、ルイズたちにとてつもない重圧となってのしかかってくる。
唯一止めてくれそうな姉二人も、カトレアは困ったように苦笑いするだけ。エレオノールはどちらかというと両親寄りの感情をバーシェンに抱いているため、それを見ていい気味だと言いたげに鼻を鳴らす。
まるで湖でおぼれたかのような気分に陥りながら、ルイズは必死に出された食事を嚥下しつつ、
「こんだけ逃げ出したいと思った食事は初めてだわ……」
「俺も俺も……」
サイトと視線を合わせた後、殺気を放つ当事者たちに聞こえないよう、小さくため息をつくのだった。
…†…†…………†…†…
「どうにかしないといけませんわね。主に私たちの精神衛生上のために……」
「といっても、チィ姉さまの病気の件でもめているなら、かなり根が深いですよ?」
その夜、久々に幼馴染とお話がしたい――という名目で姫の部屋に召喚されたルイズとサイトは、ため息をつきながら姫の提案に首を振った。
ほぼ部外者といっていいサイトも、ここ最近ラ・ヴァリエール領で過ごしていたため、ヴァリエール夫妻二人の苛烈さは分かっていた。
そして、そんな二人が病弱な娘をどれだけ案じているのかも……。
「でもルイズ……食事のたびにあんな状態になるんじゃ、正直本気で俺たちの身が持たないって」
「といってもねぇ……本気で怒った二人を止められる人なんて、この屋敷にはいないし」
「まぁ、噂に名高きラ・ヴァリエール家だからね」
泣き言をいうサイトに、苦笑いをしながら、初めて見たトリステインの猛将といわれた二人の怒りを思い出し、ウェールズは肩をすくめる。
結果話は堂々巡り。どうあがいてもこの状況を打破できる手段など、この場にいる面子には思い浮かばなかった。
部屋の中に、辛気臭い空気が充満する……。
「あぁ、もう! やめましょう姫様っ!! せっかくあの殺気から解放されたのに、私室でもこんな空気になる必要はありませんわ。換気のために窓を開けますよ?」
「え、えぇ……。そうね。気分転換に奏してください、ルイズ」
心得ましたわ。と、アンリエッタの言葉にルイズは一つうなづきながら、アンリエッタの部屋の窓を開け、吹き込んでくるすがすがしい夜の風をしばらく堪能する。
そして、
「あら?」
対面に見える一室の窓から、光が漏れているのを見て首をかしげた。
その部屋は確かカトレアの私室の窓。
だが、こんな時間にその部屋に明かりがついているのはおかしかった。
カトレアは、自身の病弱さをだれよりもよく理解しているがゆえに、基本的に健康的な生活を心がけている。
早寝早起きも当然と言わんばかりに実践する、生活だけなら健康優良児なのだ。
なのに、そんな姉の部屋にこんな時間でも明かりがついているということは、
「誰か来ているのかしら?」
「どうしたルイズ?」
へんねぇ? と、首をかしげいつまでたっても窓から離れないルイズを心配したのか、サイトもルイズに近づき頭越しに窓の外をのぞきこんだ。
「あれ? あれカトレアさんの部屋だよな?」
「そうよ。でも誰か来ているみたい」
「誰かって誰だよ? この家にいるのって、俺たちと姫様たち。あとはヴァリエール家の人たちだけだろ?」
そのメンツから考えるに、わざわざカトレアのところを訪ねる人間がいるとは思えない。と、サイトが首をひねる中、ルイズは一つ頷き、
「行ってみましょう。もしかしたら泥棒が入ったのかもしれないし」
「こんな要塞みたいな屋敷に侵入する命知らずなんて、ル○ン三世くらいだろ?」
「だれよ、それ?」
俺の世界でかなり有名な大泥棒。と、サイトが漏らすのに「あんた泥棒の知り合いなんていたの?」と、首をかしげながら、ルイズは姫とウェールズにどうするか尋ねに行くのだった。