「というわけで、第一回! チキチキ・ヴァリエール公爵家とバーシェン卿を仲直りさせよう会議ィイイイイイイイイイイイ!!」
「無謀な挑戦だな……」
「私たちは明日の朝日を拝めるのでしょうか……」
「はい、サイトと姫様っ!! せっかく私が目をそらしていた現実を、わざわざ抉り出さないでくださいっ!」
というわけで、カトレアの部屋から退室したルイズたちは、そのままルイズの部屋へと直行し、膝を突き合わせながら、何とかあの険悪すぎるバーシェンとヴァリエール公爵家の関係改善ができないかと、こうして相談を始めたのだった。
「やってみないと分からないじゃないですかっ! バーシェン卿と言っても人間……あの鉄面皮の裏にも、人間らしい感情があると分かったんですから、何か解決の糸口くらいあるかもしれませんっ!」
「あ、問題はバーシェン卿にあるのは確定なんだ……」
「それ以外何があるの?」
――いや、確かに、ここまでこじれたのはバーシェン卿の口の悪さだろうけどさ。と、微塵も自分の両親に疑いをかけず、寧ろキョトンとした様子で首をかしげるルイズに、サイトは思わず顔をひきつらせた。
「ルイズもルイズでバーシェンさんの子とかなり嫌いだよな……」
「あたりまえでしょっ!? 好きになる要素がどこにあるのっ!!」
「まぁまぁ、人間的には破たんしていますけど、あぁ見えて優秀な人なんですよ?」
力強くバーシェンに対する不満を言ってのける幼馴染に、アンリエッタは苦笑いを浮かべながら、一応上司としてのフォローを入れておく。
そんな彼女のとりなしによって、ひとまず落ち着いたルイズは咳払いをし、会話の軌道を修正。
「えぇ、ではまず、仲直りをする手段について、みんなで話し合っていきたいと思います! みんなって仲直りするときってどうするの?」
まずは仲直りさせるための糸口をつかもうと、この場にいる全員の仲直りの方法を聞きだすことにしたらしい。
最初に手を挙げたのは、意外なことにシルだった。
「あらシルが一番手?」
どことなく不安そうな顔をするルイズ。サイトもその感情にはすごく賛成だった。
――この型破りな好青年の殻をかぶった悪魔のことだ……。いったいどんな的外れなことを言い出すか。
が、そんな二人の杞憂をしり目に、シルが言い出したのは普通のことだった。
「無論、仲たがいをしたなら決闘で決着をつけるのがいいかとっ!!」
「決闘?」
だがそれは、
「はい! 武人同士であるならば、大概の意見が食い違ったのなら、やはり決闘が一番あとくされないっ! 飛び散る汗と火花。交差する刃。そして、勝っても負けてもお互いの間に残るのは、熱い友情と、互いの信念を全力でぶつけ合った充足感! これこそ「雨降って地固まる」ならぬ「汗降って地固まる」!!」
「はい却下」
「………………………なぜです」
心底不思議そうな顔をするシルに、ルイズは頭を抱えながら、
「それはもう街道でやったじゃない! もう一回やったらうちの領が焦土と化すわっ!!」
「ん? おや、あれはそういう戦いだったのですか?」
――そういばこいつ、細かい理由は聞かずに、あの二人が襲ってきたから迎撃に来ただけだったな……。と、サイトは驚いたように目を丸くするシルに、ため息をついた。
やはり彼は話し合いでは役に立たないらしい。
「まぁ、決闘はともかく、何かで決着をつけるというのは有効かもしれませんわね……」
だが、意外なところからシルの意見に助け舟が出されたのはその直後だった。
発信者は、
「アンリエッタ様?」
「いや、武術とか魔法とかそういった物騒な手段ではないわよ、ルイズ」
いまさら何を言っているんですか。と言いたげなるいずに一言断わった後、アンリエッタは自分の案を告げる。
「さすがにもう一度、物理的威力を伴った決闘をさせるのはさすがの私も承服しかねます。これ以上トリステインの国土が荒れるのは、王族としてもありがたくないですしね。ですが、真剣勝負になるのは何も戦闘だけではないでしょう。たとえば……ゲームとか?」
「ゲームですか……」
サイトの脳裏には真っ先に、テレビとハードが浮かんだが、この国にそれはないことを思い出し、ついで浮かんだのがチェスと言ったボードゲームだ。
――まぁ、確かにあれなら安全にできるかな。と、サイトは一人頷き、
「そこで私監修の元、お二人にはこのボードゲーム……《
「まてぇい!!」
仲直りでそれは絶対選んじゃいけないゲームっ!? と、サイトはどこから取り出したのかもわからない、人生ゲームのボードのようなものを広げる姫に待ったをかけた。
というか、
「それもしかしてバーシェンさんが作った奴ですかっ!?」
「あら、よくわかりましたね。バーシェンが開発したゲーム《SUGOROKU》を改良したものなのですが、幻惑の魔法によって普通のSUGOROKUにはない様々な効果を発生させることができる、中々エキサイティングなゲームなのですよっ!! 徳のこの貧乏神というキャラクターが可愛らしくてですね」
「気に入ったのは分かりましたし、それの面白さについては否定しませんが、この状況でそのチョイスはやめてください姫様っ!!」
サイトの脳裏では、白熱しすぎて、リアルファイトに移行する二人が幻視された。妨害、蹴落としなんでもありのこのゲームは、面白い分下手に熱中すると、現実世界での仲に亀裂を入れることでも有名なのだから。
――というかバーシェンさん……もうちょっとソフトなゲームがあっただろう。とサイトは、サラッとすごろくからこのゲームを作ったバーシェンのチョイスに、若干の悪意が見えるような気がしてならなかった。
「ふむ。まぁ、サイトがそんなに言うならモモテツはなしにしても、ゲームというのは悪くない手かもしれないわね」
ルイズはそう言いながら、手元のメモ帳にゲームという文字を記載する。
「で、そういうサイトは何かいい案があるの?」
「いい案も何も、大人しく話し合わせるしかないじゃないか。古今東西、被害が出ない争いの調停なんてそれくらいしかないんだから。バーシェンさんが、カトレアさんに対して悪いと思っていると素直に言えば、公爵だってわかってくれるよ」
「それを言わせるのが難しいんじゃないの」
「その難しいことをするしかないだろう?」
「むぅ……最終手段として候補に入れておくわ」
バーシェンに素直に悪かったといわせる難しさは、この場にいるだれもがわかっているため、ルイズは渋々といった様子で《最後の手段:話し合い》とメモに記載する。
「ウェールズさまは……」
「う~ん。皇太子という身分上あまり喧嘩をしたことがないからね。万一喧嘩なんて事態になると、それはもう政争だし……」
――まぁ、そういわれると確かに。と、サイトは思わず頷いた。いずれ王になるためにいろいろ教育を施されていたであろうウェールズの周りは、彼の将来性に期待していた貴族しかいないだろうし、その貴族たちが皇太子に喧嘩を売るとも思えない。
喧嘩の経験はあまりないといった彼の言葉は、大げさではないだろうとサイトも内心で納得した。
その時だった。
「あ、でもアンリエッタとは喧嘩したことがあってね」
「え? そうなんですか」
「うん。アンリエッタがあまりにもしつこくキングを押し付けてきてね……」
「モモテツやってんじゃねぇよ!?」
――そしてやっぱり破壊されているじゃん!? 何がとは言わないけどっ! と言うツッコミを入れかけた、サイトだがルイズが真面目に参考にしようとしているのに気づき、ため息をついて口を閉ざした。
邪魔をしたとなると、後で何を言われるかわからないからだ。
「その時は、どうやって仲直りしたかな……。あぁ、そういえばお茶会を開いて、うちの宮殿の庭を案内したんだっけ」
「えぇ。あの時のウェールズ様ったら、必死に私の機嫌を取ろうとなされて。ちょっと可愛らしかったですわ」
「おいおい、こっちはまたキミに笑ってほしくて必死だったのに、内心でそんなことを考えていたのかい?」
――あの、桃色空間の展開はいいんで、早いこと本題に入ってもらえませんか? と、突然微笑みあうカップルに、一瞬サイトはキレかけるが相手は王族ということで鋼の自制心を発揮する。
「結局決め手は、夜に開かれたお祭りですわ」
「お祭り?」
「えぇ、ちょうどその時はアルビオン先代国王陛下の誕生日でしたので、大々的にお祭りがおこなわれていましたの。紙と木で作った街頭で町を照らしていて……それはそれはきれいな物でした。ウェールズさまはそれがすごくきれいに見えるところに案内してくれて。もう喧嘩していた時の怒りなんてそれで忘れてしまったんです」
「ほう……それはまたロマンチックな」
そんなことを言いながら、サイトはこの案はあまり参考にならないなと思った。
そんなシュチュエーションはあくまで甘ったるい恋人がやるからこそ有効なのであって、ずいぶんと長い間険悪になっている、バーシェンとヴァリエール家の関係修復には、いささか威力不足だろうと。
そう思いルイズの方を見てみると、
「お祭り……と」
「……………………………………………………」
「ん? どうしたのよサイト?」
「いや、べつに? ルイズがそれでいいならいいんだけど……」
――むさい男二人と鉄面皮のお母さんが、アンリエッタ達と同じような状態になるって……娘としてそれオッケーなの? と、サイトはよほど言いたかったのだが、ルイズは全く疑問を持っている様子もなさそうだったので、愚問になるだろうと口を慎む。
とにかく、
「案は出そろった感じね」
「いや、まぁ、そうだろうけど……。これっていう決め手がないよな。これなら絶対に仲直りできるぜっていう計画があればよかったのに」
「まぁ、ないものねだりしても仕方がないわ」
実行に移すのは不安だと語るサイトに、ルイズは小さく肩をすくめながら、
「で、どれにするんだ?」
というサイトの問いに、
「どれって……決め手がないんだから」
あっけらかんと言い切った。
「全部やるに決まっているじゃない?」
まさかの数うちゃあたる方式に、本当に明日大丈夫なんだろうかと、サイトは頭痛を覚えながら言い知れない不安を感じていた。