たまにですが更新していくことになるかと……。
なんやかんやあったが、まぁライナ達の屋台の滑り出しは順調と言っていいだろう。
なにせ、ほかの店が食事に使えるような、料理を出しているのに対し、フェリスたちが提供しているのは米を使った甘味――デザートだ。
ほかの、主食系料理とは系統が違うためほかの店との客の取り合いが起きず、米を使ったデザートなど他では作られていないため、食後のデザートとしての立場を完全に確立できていた。
食後のデザートを食べたいなら絶対ここ。という評価をこの祭りに来ている人々に、与えることができたのだ。
何気に戦略勝ちだと言えよう。もっとも、
「フェリスはそんなこと考えてないだろうけど……」
「だね」
ライナとロングビルが裏で団子粉をこねながらそんなことを呟いていると、店の方からは相変わらず淡々と無愛想な対応をしているフェリスの声が聞こえた。
「ふむ。三食団子3本にみたらし団子3本。会計は60スウだ。そちらはお茶と三食団子3本だったな? なに? おいしかった。当然だ、私を誰だと思っている!」
「いや、作っているの俺達だしな……」
お前はなんもしてないだろ。と、厨房代わりの天幕で呟きながら、ライナはそっと嘆息を漏らす。
どうじに、その天幕の隙間から覗けるティファニアの方を見てみるが、
「は、はい! 草団子三本に、緑茶一杯ですね。少々お待ちを……って、ひゃっ!?」
「へへ、ねーちゃん良い乳してまんな。ちょっとお客さんにサービス……ふぇぶっ!?」
なにやらセクハラおやじにつかまりかけていたが、そのセクハラおやじは会計カウンターから飛来した団子の串が眉間にぶっ刺さり、白目をむいて気絶する。
そんな光景をライナがダラダラ冷や汗を流しながら眺めている中、天幕の後ろからは、
「ん? 今手がかすんだように見えた? 気のせいではないか」
と、あっけらかんとしたフェリスの声が聞こえてきていて……。
「やべぇ……この店いろんな意味でやべぇ」
「そうかい? 私としてはとっても安心だけど」
そりゃお前にとってはそうだろうよ。と、ライナは内心呟きつつ「お、お客さぁああああああん!?」と、悲鳴を上げて気絶した客を介抱しようとしているティファニアの救援に向かう。
かれこれセクハラ客が死にかけること10数回。すっかり対応に慣れきってしまったライナだった……。
「なんで俺こんなことしてんだろう……」
その疑問に答えをくれるものは、今この場にはいない……。
…†…†…………†…†…
「ぐぬぬぬ……。おのれあの団子娘め。何故わらわの店より、あの三流美人の店の方がもうかっておるっ!?」
一方こちらはフェリスの店の反対側で《幸運のチャーハン》という明らかに胡散臭い商品を売り飛ばしているエステラ・フューレル。
一応彼女が作っているものもそこそこおいしいのだが、ただのチャーハンのくせに割高な値段と、団子に魂をかけているフェリスと比べて味が一段堕ちることが、今の売れ行き不調の理由となっていた。
それでも言葉巧みに人々をだまし、割高なチャーハンを売り飛ばすエステラの腕はさすがといったところなのだが……。
「くっ、こうなっては仕方ない!」
いつものように、策を弄して妨害工作をっ!! と、エステラが考え、カウンターの陰に隠れてあくどい笑みを浮かべたときだった。
「エステラさんっ! 三番テーブルのお客さんに注文の幸運チャーハンと、御通し持って行ってくださいっ!!」
「えっ!? い、いやちょっと妾用事があって……」
「何を言っているんですかっ! こんなところで休んでいては、フェリスさんたちには勝てませんよっ!」
キリッとした顔をしたシルワーウェスト・シルウェルトが、アツアツの湯気を上げるチャーハンと水を乗せたトレーを厨房から持ってきた。
実はこのシル、ライナとフェリスにバーシェンからの脅迫状を届けに来たところをエステラにつかまり、その口車に乗ってこうしてエステラに雇われているのだ。
ライナがその姿を見れば思いっきり顔をひきつらせていただろう……。
エステラとしては、どうもライナ達はこの男を恐れているような(正確には彼の届けるバーシェンからの脅迫状を恐れているのだが……)気配があったので、ライナ達に対して何らかの牽制になると思いシルを雇ったのだが……どうにも話が通じず、御しきれていない感じが否めない。
「くっ、まさかこの世界に妾の口八丁が通じぬ輩がいるとはっ!!」
「さぁ! 此処から頑張って巻き返していきましょうっ! 大丈夫です、エステラさん美人ですから、お客さんはきっと来てくれますっ!! フェリスさんたちにもきっと負けません!!」
「そ、そうかのう? まぁ、シル殿がそう言うのであれば、そうなのだろうが!」
まぁ、制御云々はともかくシルの飾らない素直な称賛に、エステラもどうやらまんざらでもないようだった……。
だが、エステラは一つだけ汁に対して不満があった。それは、
「うむ。では主人、私もスパークの劫火にてチャーハンのコメをよりぱらぱらにして見せようっ!」
「頼りにしているよ、ぶーちゃん!」
「いや、屋台が燃えそうだからさすがにそれはやめてくれ……。というか、なぜ豚のぬいぐるみの瞳から熱線が……」
自称槍の豚のぬいぐるみが、始終彼から離れないことだった……。
…†…†…………†…†…
「ふむ。どうやらうまくいっているようだな」
「コメの利用案も結構いいものがそろっていますしね。この祭りのレシピと同時に米を放出すれば、食糧問題はしばらくのあいだ鎮静化するかと」
祭の屋台をめぐりながらそんな会話をするのは、先ほど祭りの開催宣言をした最高議長と、その側近である副議長だ。
彼らの手にはポン菓子と名付けられた穀物の菓子が詰まった袋が持たれている。
横目に見た屋台では川魚や山菜と共に調理をした『パエリア』や、パスタの代わりに米を引いた『ラザニア』なる商品が売られており、かれらの目を楽しませる。
「すべては太守様のおかげですな」
「この事態を見越していたとは思えんが……まぁ、否定はせん」
いや、もしかしたら見越していたかもしれんな。どこまでも食えない人だったし……。と、議長は独りごちながら、久々に見る活気があるサウスゴータのように頬を緩ませた。
「これであと二か月……我々は戦える」
「はい。始祖様の身元で太守様も喜ばれておられることでしょう」
そうだな。と、最高議長は返事をしながら、一つだけ残った心のしこりにため息をつく。
これで、マチルダ様もいてくだされば……と。
そんなときだった。
「む、議長。ここが暫定一位の売り上げを誇っている屋台ですな」
「ふむ。そうか。では一つ我等もこの屋台の料理を味見するとしよう」
《フェリスとゆかいな仲間たち団子屋》という、少々変わった名前をした屋台の暖簾を、二人はくぐった。
そして、
「お客さん!? 大丈夫ですか!? しっかりしてくださいっ!?」
最高議長たちは目撃する。
額から串を生やし気絶する男を介抱する、妖精のような美しさを持った爆乳少女と、
「ちょっとティファニア、大丈夫かい!? その男じゃなくてあんたの方が! そっちの男は生ごみ入れにでも捨てておきなっ!」
「ちょ、姐さんなんてこと言うのっ!」
見覚えがある顔立ちをした眼鏡をかけた美女の姿を。
というか、
「ま、マチルダお嬢様っ!?」
「んぁ? 誰だいいきなり人の名前を……って、げっ!? バルバレド!?」
突然の再会を果たした二人は、思わぬ人物の登場に眼を剥いた。
…†…†…………†…†…
時を同じくして、
「サウスゴータが珍妙な行事を開いておるらしいな?」
「なんでもこのご時世に祭だとか……」
「ふん、あの能天気どもめ。我等が血と汗を流しながら働いておるというのに、何をしておるのか……」
一台の馬車に乗った男が一人、サウスゴータへの街道を進んでいた。
その体はでっぷりと太っており、食糧難だというのに、その手には豪奢な菓子がわしづかみにされている。
そんな光景を見ていた彼の秘書は「働いているって……だれが?」と言いたげな視線を一瞬だけ男に向けたが、その表情はすぐにかき消される。
秘書もまだ命は惜しい。この男に妙な不興をかわれては、自身の命が危ないことくらい心得ていた。
「まぁよいわ。所詮サウスゴータは、我等が血を流し手に入れた革命での勝利に貢献しなかった外様。何かと理由をつけて幾らでも搾り取れる便利な相手だ。我が到着した暁には、あの町にあるすべての食糧を治めさせようぞ」
「はっ、偉大なるフェリペ公爵の仰せのままに」
こうして、人々を救うために行われた起死回生の祭りに、波乱が訪れようとしていた。