ゼロの使い魔と伝説の勇者   作:過労死志願

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閑話・残された二人

「わ♪わ♪私は正義の魔法つかーい!! 悪い奴らをやっつける―♪♪」

 

 ここは犯罪者によって作られたといわれるイエット共和国。

 

 日々強盗や恐喝が行われ、犯罪が起こらない日がないとまで言われるこの国は凄まじく治安が悪い。

 

 そのため、子供たちは常に親の目が届く範囲で遊ぶように言われており、本人たちも親の近くを離れるの危険と分かっているのか、この約束が破るような子供はまずいない。

 

 そんな中。たった一人で、危険な裏路地を歩く一人の少女の姿があった。

 

 亜麻色の髪に、クルクルとまかれたポニーテール。クリクリお目目に丸い童顔。

 

 背格好からして、年は十六から十七といったところのはずだが……どことなく子供っぽい雰囲気がぬぐい切れていない少女だった。

 

 ミルク・カラード。

 

 こんなんでもローランド帝国において、若干十六歳で『忌破り追撃部隊』の隊長となったエリートと呼ばれる少女である。

 

「今日こそライナを捕まえてやるんだから!! あんな美人なだけの女には負けないんだから!!」

 

 ちなみに、彼女の仕事は忌破りとして出奔したライナの捕縛。それが不可能ならば抹殺である。

 

 この仕事がおろそかにされると自分が所属する国が、どこかの国と戦争をしなければならない、かもしれないという非常に重要度の高い任務だ。

 

 だが……。

 

「私にかかればライナなんて一ころのコロコロなのよ!! そして、私と結婚の約束をしたことをちゃんと思い出してもらうんだからぁああああああああああ!!」

 

 ……彼女はそのことをきちんと理解しているのだろうか?

 

 まぁ、そんなこんなで裏路地をずんずん突き進む少女。

 

 しかし、ここは治安が究極に悪いイエット共和国である。こんな絶好の獲物を悪党たちが見逃すわけがなかった。

 

「へへへへ……お嬢ちゃん。ちょっといいかな?」

 

「ん? なに?」

 

 声をかけられ素直に振りむいてしまうミルク。振り返った先にはスキンヘッドに入れ墨を入れた男が一人……。

 

 手には鋭く輝くナイフが握られており、顔には下卑た笑みが浮かんでいる。

 

「ちょっとおじさんと一緒に来てくれないかな? おとなしくいうこと聞かないとちょっと痛い目に会ってもらうことになるよ」

 

 あからさま過ぎる誘拐だ。

 

 普通ならここで警察がやってくるか、近所の人たちが何らかの対策をとり、ミルクを助けてくれるものなのだが、ここイエット共和国ではそんなことは絶対に起きない。

 

 自分の身は自分で守れ!! それができないやつは不幸になれ!!

 

 それが、この国の基本的思想である。助けなんてものはやってこない。

 

 そう、この時一人の人間の命が危機にさらされていた!!

 

 

 

 

 

 

 だが勘違いされては困る。

 

 この場合、不幸になるのは、不用意にミルクをタゲってしまった誘拐犯だ。

 

「あぁあああああああ!! おじさん悪い人だね!! ミルク知ってるんだよ!! 悪い人には近づいちゃいけないってルークに言われてるもん!!」

 

 とても現役軍人のミルクが言うことではないが、この容姿ならそれも許されてしまうと思ってしまうのはなぜだろうか?

 

「ごちゃごちゃぬかしてんじゃねぇ!! ついてこないってなら力づくだ!!」

 

 男はそう言って、ナイフを構えて襲いかかってきた。

 

 なかなか手なれた動作。おそらく誘拐を生業として生計を立てているプロなのだろう。

 

 しかし、

 

「もう!! 悪いことしちゃダメでしょ!! ミルクが成敗するんだから!!」

 

 そんなことをかわいらしく言ってから、ミルクは信じられない速さで走り、即座にその懐に飛び込んだ!!

 

「え、ちょ! アブフぁ!!」

 

 そして、情け容赦ない掌底で男の顎を打ち抜き、男の脳を直接揺らす。

 

 一瞬で行動不能に陥りかけた男だったが、何とか踏みとどまり震える体で何とか逃走をはかろうとした。

 

 お、おれが声をかけたのは可愛い女の子なんかじゃない……悪魔だ!! 

 

 心の中でそんな悲鳴を上げ泣いている男の耳に、かわいらしいミルクの声が追い打ちをかけた。

 

「悪いことしちゃダメぇえええええええええええええ!!」

 

 振り向いた男の顔面に容赦ないドロップキックがヒットし男の意識を刈り取った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 最終的に持ち前のかわいさと、一生懸命さを武器に男を骨抜きに…………もとい、改心させたミルクは、男に買ったもらったアメちゃんをなめながらホクホク笑顔で彼女の部下たちが待っている、宿に帰った。

 

「おや、お帰りミルクちゃん。そのアメちゃんどうしたんだい?」

 

「あ、おばさん!! えへへへ。やさしいおじさんがくれたんだぁ!!」

 

「そう。それは良かったね」

 

「おお、ミルクちゃんおかえり!! どうだい、ミルクちゃんが追っているヒョウロク玉を見つかったかい?」

 

「おじちゃんこんにちは!! それがね、ライナったらどこ探してもいないの!! きっとまた、あの美人なだけの女と楽しいことしてるんだよ!!」

 

「そうかい、残念だったね……。まったくミルクちゃんみたいなかわいい子ほったらかしにしてほかの女と旅行なんて、とんでもない男だなそいつは!! どうだい、そんな男はほっといておじちゃんと結婚しないか? って、ぎゃぁあああああああああああ!!」

 

「まったくあんたはなにいってんの!! ごめんねミルクちゃん。この馬鹿の言ったことは気にしなくてもいいから!! 彼氏見つかるといいね」

 

「うん。ありがとうお姉さん!!」

 

「これより異端審問を開始する!! 罪人の罪状を述べよ」

 

「はっ!! 被告人クスラ・リリーオルはミルク・カラード親衛隊のおきてを破り抜け駆けを働こうとしました!!」

 

「うむ。よくわかった。さて諸君。この馬鹿は一体どうするべきだろうか?」

 

「「「「「「「「「「即刻処刑!!」」」」」」」」」」

 

「よし、十字架と油を用意しろ!!」

 

「御意」

 

「いや、そんなことされたら死んじまうだろうがぁああああああああ!!」

 

「貴様の魂にYESロリータNOタッチ! の言葉を刻みつけてやる!!!」

 

「ぎゃぁあああああああ!!」

 

 

 宿でも大人気なミルクだった……。

 

 

 まぁ、いろいろあったがミルクは部下たちが泊っている部屋に帰ってきた。

 

「ただいま! ルー……………」

 

 そしていつものように元気なあいさつとともに部屋に入ろうとしたその時!!

 

「ライナ・リュートとフェリス・エリスが消えただと!!」

 

「え……………………………」

 

「ルーク先輩!!」

 

「あ!!」

 

「た、隊長……………!!」

 

 信じられない言葉が、ミルクのもとに届いた。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「情報だとこの洞窟に入った後彼らの足取りが途絶えました。おそらくこの鏡が何らかの関係があるのだと思います」

 

「………………………そ、そんな」

 

 無表情の中につらそうな表情をにじませながら、ミルクの部下の一人であるリーレはそう報告した。

 

 場所はライナたちが鏡に吸い込まれた洞窟奥地。そこにあった、輝きを失いながらもいまだに浮遊している鏡の前にミルクたちは立っていた。

 

 

「うそ、そんな………………ライナぁ!!」

 

 泣きそうな顔をしながら鏡に近づいていくミルクの腕を、兄弟で忌破りをしているラッハとムーが掴み止めた。

 

「ミルク隊長!! だめですよ、不用意に近づいちゃ!!」

 

「そ、そうだよ!! ミルク隊長!! 危ないよ!!!!」

 

「で、でも………………ライナが!!」

 

 その時、ルークがあくまで前に行こうとするミルクの前に立ち彼女の両肩をつかんだ。

 

「落ち着いてください、ミルク隊長!! ここで正常な判断を下さないと危険です!!」

 

「で、でも、ライナが、ライナが消えちゃったんだよ!! 落ち着いてなんていられないよ!!」

 

「ここで隊長まで消えってしまったら、いったい誰があの忌破りたちを助けるんですか!!」

 

「!!」

 

「彼らはおそらくまだ死んでいません!! 現地調査をしたところ、この鏡は使用した人物をメノリス大陸とは違う、異なる大陸に送るものだと考えられています!! 周りに張ってある方陣も殺傷性のあるものではなく鏡が発動している間に、中に入った人物を中央に引き寄せるという単純なものでした。つまり、あの忌破りたちはどこかで生きている可能性が高いです!!」

 

「ほ、本当!?」

 

「ええ。ですから、ミルク隊長。落ち着いてください!! 今彼らを助けられるのはミルク隊長しかいないんですよ!!」

 

 ルークの言葉に、ミルクはしばらく躊躇っていた。

 

 彼女にとってライナは何物にも代えられないほど大切な存在だ。しかし、彼女自身は彼らの隊長でもある。

 

 自分には彼らの身の安全を守る義務があるし、何より彼らのこともライナと同じくらい大切だと思っている。

 

 ライナは死んだわけではない。二度と会えないと決まったわけではない!!

 

 何とか自分自身の心に整理をつけることができたミルクは、固い決意を秘めた表情になり部下たちを見つめた。

 

「わかりました。いったん本国に戻りミラー少佐の指示を仰ぎます!! 話にあった銀色の光が収まっていることからこの鏡はおそらく稼動していません。厳重に梱包して本国に持ち帰ります。ラッハ、リーレ、ムー。運搬お願い」

 

「「「了解しました。隊長!!」」」

 

 ミルクの指示を受けて、きびきびと働きだす三人を見つめながら、ミルクはルークに頭を下げた。

 

「ありがとうルーク。そして、ごめんなさい。私、隊長なのにとりみだしちゃって……」

 

「いいんですよ、隊長。よく我慢してくれました」

 

 ルークはそう言って。頭をなでてくれた。

 

 待っててね。ライナ。私が必ず…………助けてあげるから!!

 

 心の中でそう決意し、ミルクはこぶしを握り締めるのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

「ライナとフェリスが消えただと!!」

 

「ええ。ルークからの報告なのでおそらくは間違いないかと。今彼らはその原因と思われる遺物を持ってこちらに向かっています」

 

「……わかった。報告ありがとう。ミラー」

 

「いえ……。では私はこれで」

 

 そう言って、しかめっ面の中年男が謁見室から出て行ったあと、銀髪金眼の美青年は玉座に座りなおし、額を抑えた。

 

 シオン・アスタール。

 

 英雄王。

 

 長きにわたり続いていた隣国・エスタブールとの戦争をたった一人で終わらせた英雄にして、腐った王権と貴族を粛清した天才帝王。

 

 そして世界を裏から操る神話の化け物の力をその身に宿し、その呪われた運命に逆らう《堕ちた黒い勇者》である。

 

「彼のことが心配かな? シオン」

 

「ルシルか……」

 

 そして、彼の目の前に現れた優しげな笑みを浮かべて青年に、シオンは鋭い瞳を向けた。

 

 人間離れした美貌に、笑みを浮かべているのに体からあふれでる異常なまでの殺気混じりの存在感。

 

 ルシル・エリス。フェリス・エリスの兄にして剣の一族の現頭首。

 

 昔から代々王の護衛を務めてきた彼の身にもまた、シオンと同じ異質な力、《すべての式を編むもの》が刻み込まれている。

 

 神をも殺す力を持つ彼は時々こうしてシオンの前に現れて彼を試していく。

 

 この国の物語を動かす歯車として、きちんと機能しているかどうかをみるために……。

 

「こんな時まで俺を試すのかルシル……。お前だって、フェリスがいなくなって心配だろうが!! おまえはフェリスを助けるために、人間をやめたのだから!!」

 

「いや。だからこそ、彼女は帰ってくるべきではないと思っている……。その理由は、言わなくてもわかるだろう。シオン」

 

「………………………」

 

 ルシルの言葉に沈黙を余儀なくされるシオン。そんなシオンを見ても、ルシルは変わることのない笑顔を浮かべながら、シオンの顔を覗き込んだ。

 

「君はどうなのかな? シオン。君としては素晴らしい解決案だろ? 親友を殺さずに、世界の仕組みをゆがめることができる。彼に救いを与えることができる……」

 

「……そんなに都合のいいことが起きるわけがないだろう」

 

 悔しそうな声を出しながら、シオンはそう答えた。

 

 その悔しさはルシルに言い返すことができない自分のふがいなさから来たものか、それとも、女神たちにいまだに反抗できない自分の脆弱さを怨むことから来たものか……。

 

「ライナたちは必ず帰ってくる。世界も女神も……そんなに甘い存在じゃない」

 

「正解だよ、シオン。だからこそ僕たちは今まで通り準備を進める必要がある。彼が帰ってきたとき少しでも女神たちに反抗できるように……」

 

 君はまだ殺さなくてもいいようだね……。

 

 ルシルはそう言って、姿を消した。

 

 部屋の中から完璧に消えた圧倒的な威圧感から解放され、シオンはため息をついた。

 

 そして、玉座から立ち上がった彼は窓へと歩み寄り、自分が作り上げた平和な王都を見つめた。

 

 一見平和な王都だが、一皮むけば彼が許可を下し行われている人体実験が……その他有象無象のローランドの闇がうごめいている。

 

 すべては、神話に描かれた最悪の結果を変えるために。

 

 すべてが滅ぶことを回避するために……。

 

 しかし、

 

「そこにお前の平和はないんだったな………ライナ」

 

 彼はいずれ、覚めることのない無限の苦しみを味わうことになる。シオンが目指すものを実現するために、シオンが彼にその責め苦を与えてしまう。

 

「おまえはこのままそっちにいたほうがいいのかもしれない。そうすれば、この腐った世界の決まりから外れて、平和に暮らせるんだろう」

 

 だが、それでも彼はこう願わずにはいられなかった。

 

「帰ってきてほしいよ……ライナ。俺は弱いから……俺は泣き虫だから……少しでも近くにいてほしい」

 

 たとえその先には、最悪な結果しか待っていなくとも……。

 

「ライナ……おまえはこんな俺でも親友と呼んでくれるか?」

 

 その答えは返ってくることはなく、ローランドに立ち込めた暗雲が雨を吐き出してくる。

 

 水滴で見えづらくなってしまった王都。しかし、シオンはその目をそらすことなく、いつまでもいつまでも窓の外を見つめ続けた……。

 

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