イロイロ無茶苦茶なキャラですが、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。
姫殿下来訪
世界は睡眠でできている。
あらゆる快楽は睡眠におとり、森羅万象は枕と布団に姿を変える。
朝の微睡はどれほどの金よりも代え難く、二度寝はこの世の至宝である。
つまり、何が言いたいのかというと…………………。
「修行とか勉強とかマジでめんどくさいから、このまま夜まで二度寝を決め込もうか……とか馬鹿なことを考えようとしていたんですけど、もちろんダメですよねフェリス様!! 重々承知していますから寝ている俺に向かって剣を振りかぶるのをやめろぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ライナの日常は悲鳴から始まる。
本当に久しぶりで懐かしい起こされ方をしたため、ライナの目からは感動の涙があふれていた。
「ち、畜生。お、おれの安眠快適ライフ……短かったなぁ……」
「さぁライナ。さっさとこの国の魔法を覚えてもらうぞ。団子の危機は救えたとはいえやはりウィニット団子店の味が恋しいのだ」
「俺の安眠は?」
「団子に比べれば髪の毛ほどの需要さもない、とるに足らないものだな」
「あれぇ、さすがにちょっとカチンと来ちゃったぞ? おいこらフェリス今回ばかりはさすがにちょっと許しちゃうから剣は抜くな……おぼふぅ!!」
野球のバットばりにフルスイングされたフェリスの剣がライナの頭をジャストミートし、窓から飛び出したライナがホームラン級の飛距離をだした。このことはしばらくの間学園の七不思議として語られることになるのだが、ライナはそのことを知らなかった。
まぁ、とにかく、ライナにフェリスのいる日常が帰ってきた。
…†…†…………†…†…
「どうしたんだいそのたんこぶ?」
「いろいろあってな……」
衰弱しきった顔で中庭にやってきたライナにロングビルは驚きの声を上げた。
今日は授業が始まる前にここで魔法を教えてもらう予定だったのだ。まぁフェリスがいなかったらすっぽかしていただろうが……。
「じゃ、魔法を発動するよ。あんたは見ただけで魔法が使えるようになるんだったね」
「ああ。まぁ、よろしく頼むよ」
「じゃぁ」
杖をふるい、ロングビルは詠唱を開始する。
文字、言語の種類はルーン。この世界に伝わる古代語だ。
体の奥からあふれてくる魔力を呪文によって統制し杖に一点集中させておく。
「メイク・ゴーレム!!」
そして、杖が振り切られた瞬間、鋼鉄でコーティングされた等身大ゴーレムが作成された。
本当なら、土くれの巨大ゴーレムのほうが彼女としては性に合っているのだが、まさか犯行に使っていたゴーレムをこんなところで出すわけにもいかず、大きさを削る代わりに素材を向上させることによりトライアングル級の魔力を消費したのだ。
「はぁ!?」
「どうだい? 使えるようになったかい」
「い、いや……すまん」
「?」
ライナは魔法を見終わった後だらだらと冷や汗をかきながら、青い顔でこう言った。
「どうもこの魔法……俺には使えないっぽい」
「はぁあああああああああああああ!?」
ロングビルの驚きの声が、中庭で響き渡ったのは言うまでもないだろう。
…†…†…………†…†…
ライナの
その遺伝子を持つ者はエルフたちが言う精霊を見る目を失う代わりに、体の奥から湧き上がる魔力という特別な力に目覚めるらしい。
その力はライナが魔法を使う時にいつも操作している光の粒というやつに似てはいるのだが、やはり微妙に違っており、ライナの手によって再現することは難しいそうだった。
「ということは何か? つまりお前はナメクジほどの役に立たない屑だと?」
「あ、そういうこと言うか!! だったら魔法も使えないお前はなんなんだよ!!」
「なにを言っている、ライナ。私は……美人だ!!」
現在。食堂にやってきたライナとフェリスは貴族のために作られたやたらと豪華な料理に舌鼓を打っていた。
昨日のパーティに突如乱入してきた挙句、男子寮の管理人を殴り飛ばしてしまったフェリスであったがこの学園の人々の受けはかなり良かった。
それは、彼女が女子寮に住ませてくれといったときに多数決で許可が出されたことで顕著に現れているといっていいだろう。
むろん賛成したのはこの学園の男性教員たちである。
剣を腰に佩き、明らかにこの世界の貴族には見えないフェリスではあったが、その美貌によって男性教員たちがほだされてしまったのだ。
もちろん、そんな男性たちを数少ない女性教員たちは白い目で見ていたのだが、それに気づかないほどに男たちはフェリスに見とれてしまっていた。
そんなこんなで学園に居座ることに成功したフェリスは客室剣士というわけのわからない役職とともに学園に受け入れられた。ふつうならこの食堂で食事をとることすらいい顔をされない彼女が平然とやってきているのはこのあたりが原因だったりする。
「それで、一体どうするのだ? この世界の魔法に関しては望みがついえたのだろう?」
「いや、まだだ」
ライナはそういうと、一枚の紙を取り出した。
「なんだこれは?」
「俺がつけているこの指輪。勇者の遺物でな。あの真黒な奴がもっていたのと同じタイプのもののようなんだ」
「!! あの悪魔を呼び出した…………。勇者の末裔だったか?」
「ああ。そのあいつの先祖のハルフォード・ミランの書き残しを見つけてな。そいつが言うにはどうもこの世界の魔法を体得することができたらしい」
「だが、さっきお前はできないといっていたではないか?」
「ああ。だがそれをした人間がいるっていうことは、何らかの方法で使えるようにできるんだ。俺はそれを調べようと思っている」
「ふむ…………長い道のりになりそうだな」
「ああ。そうだな。とりあえずお前が言っていた先住魔法ってやつも知りたいから、今度お前の団子屋に連れて行ってくれよ。そこにいる吸血鬼と話がしたい」
「ふむ。いいだろう。ついでに部下たちが新開発したニガヨモギ団子も試してもらおうか」
「うまいのか……それ」
昨日のパーティーで誤ってニガヨモギを食べてしまったライナの顔がひきつっていたかいないかは、定かではない。
「ところでライナ。お前はそこそこの給料をもらっていると聞いたのだが……」
「ああ、それなら魔法の先生に授業料代わりに渡すことになってるぞ。ここは金がなくても生きていけるからなぁ……」
「それはあの野菜みたいな緑色の髪をしたメガネの女のことか?」
「お前、もうちょっと言い方ってものがあるだろう……」
「ほほう。つまりおまえは私の団子様を差し置いて、そこら辺の男にやさしくされただけですり寄るような、三流美人に金を貢いでいると……」
「え、あ、あれ? ふぇ、フェリス、どうしたんだ!? やけに機嫌が悪そうだけど……」
「ふふふふ。いやいや、別になんでもない。ただ団子様の重要性を再び貴様の体に刻みつけてやろうと思ってな……」
「ちょ、ふぇ、フェリスゥウウウウウウ!! 刃はシャレにならない!! シャレにならないからぁあああああああ!!」
…†…†…………†…†…
二人がそんな感じの会話を終え、食事に専念しだした時だ。
食堂の入り口がにわかに騒がしくなり始める。
「は? ふぁんふぁ?」
「フェリス……団子食ってからしゃべれ」
団子を口に入れながらそちらを向くフェリスにライナはあきれを含んだ声を上げる。
「ラ・ヴァリエール嬢が何かしているみたいよ」
「おお、なんだ、遅かったな」
そういいながらどんとライナの左隣に座ったのは若干機嫌が悪そうなロングビルである。昨日いろいろとフェリスに邪魔をされてしまった彼女はフェリスとの折り合いがかなり悪かった。
今も横目で超然とした顔で団子をむさぼるフェリスを睨みつけている。
「学園長の仕事の手伝いをしていたんだよ。まったくあのセクハラ爺が……」
「ふむ。だが貴様のように誰にでも尻尾を振るような女なら、どこぞの干からびた老人でも満足だろう?」
ビキィ!!
すさまじい音を立ててロングビルの額に青筋が浮かぶ。背中に暗いオーラを背負いながら顔には笑顔を浮かべ、ロングビルが舌戦の口火をきった。
「ここは貴族しか食事をとってはいけない神聖な食堂なんですが、どうして剣を持った平民風情がここにいらっしゃるのかしら? 平民は外で食事をお取りください」
「ふむ。学園長の許可はもらっているぞ? そしてなにより、美人は何をしても許される」
「そんな馬鹿な……」
「ふむ。ところでお前はこの色情狂にずいぶんと肩入れしているようだが、やめておいたほうがいいぞ」
「どういうことですか? ライナさんはあなたの物とでも言うつもりですか?」
「私はお前のためを思って言っているのだがな」
「おい、お前まさか……」
フェリスが何を言おうとしているのか察知したライナは若干の呆れとともに、フェリスを三白眼で見つめる。しかし、フェリスはそんなことを一切気にした様子もなく、団子を掲げながらいつものごとく言葉を吐き出した。
「こいつはあらゆる食堂に出没して目についた女を連れ帰り拷問部屋に監禁した挙句にあんなことやこんなことを…………な、なにぃ!! そんなことまで!?」
なんとこを言いつつ、無表情のまま顔を赤らめるという高等技術を披露しながらひとしきり盛り上がり、
「ま、まぁ、とにかく、信じられないような不埒な真似をした挙句殺してしまうという凶悪犯罪者なのだ!!」
「また、お前そんなあることないこと吹き込みやがって……。大体そんなでたらめこいつが信じるわけ……」
「そ、そんな!! 一見眠そうな顔をしておきながら、あんたがそんな恐ろしいことをしてるだなんて!!」
「あ、あれ、し、信じちゃうの……。まぁ、いいけど、いつものことだし……」
若干ショックを受けたような顔をしつつ、ふて寝を始めようとするライナに、
「「まぁ、そんな冗談はさておいてだ」」
そんな二人の声が聞こえた。
「お前ら絶対に仲いいよな!!」
「ふむ。ところであのピンク色の頭をしたいかにも、あれな感じの少女はいったい何者だ?」
「あれっておまえ……もうちょい言い方ってもんが……」
「あれはこの国の有力者の公爵の令嬢ですよ」
「ほう。あれがこの国の公爵令嬢か?」
フェリスの脳裏に浮かぶのはやたらと腹黒い策略を張り巡らせた挙句、エリス家を吸収しようとしてルシルにボコボコにされた、ステアリードくらいなのだが、彼女からはそういった雰囲気は感じられなかった。
「この国の貴族はローランドの貴族とは違うようだな」
「ああ。俺があった貴族はそうだな。まぁ中には屑もいるんだろうけど、ローランドほどひどくはない」
「そうでしょうか……」
「?」
「貴族なんてみんな屑の集まりですよ」
なにか嫌なことでもあったのか、苦々しくそう吐き捨てるロングビルを、ライナは冷めた目で見つめた。
まぁ、昔のローランドと変わらない奴もいるよな……。
フェリスは――そんなことに反応することはなかったが、ライナが何を感じているのかはわかるのか、無言で剣を引き抜いた。
「え、ちょ、フェリス!! なんでいきなり剣を抜いてんの!?」
「黙れ色情狂。貴様は今その女を観察してどうやって犯そうか考えていたのだろう!!」
わ、わかっているのだろうか?
「この、変態色情狂がぁああああああああ!!」
そんなことを叫びながら、いつものように振るわれる剣に、ライナはあきらめきった表情でため息をついた。
「いや、まぁわかっていたけどさ……。さよなら、俺の平和な日々……」
そして、ゴンという轟音と共に剣の腹の直撃を食らったライナは錐もみ状に回転しながら砲弾のように食堂を飛んでいく。そして、頭から食堂の入り口付近に芸術的着地を決めたライナは、そのままバタッと倒れ、動かなくなった。
「って、ライナさん!? 大丈夫ですか!!」
「ちょっとあんた!! どこから飛んできたのよ!?」
さすがにこれは見逃すことができなかったのか、聞きなれた声とともに二人の人物がライナに駆け寄ってくる。
「……返事がない。ただの屍のようだ」
「なんであんたが知ってんだ!!」
「ちょ、いきなりわけのわからないこと言ってないで起こすの手伝いなさいよ、サイト!!」
そして、ライナは自分の体を起こそうとする力を感じ、いや、もうこのまま寝かせてくれよ……。若干恩をあだで返すような気持を抱きつつ、目を開ける。
「いやいや、俺はもう死んだから、できれば起こさないで……」
そして、目を開けたライナはそこで、
鞭を持っているルイズと、
ぼろ布で作られた耳と箒で作られた尻尾をつけたサイトを目撃してしまい……。
「むしろお前たちのほうが大丈夫なのか!?」
思わずそうツッコミをいれてしまった。
…†…†…………†…†…
「ふむ……だんだ美味くなっていっているな。さすがはわが部下たち。一流の団子職人になるのもそう先の話ではないな」
トリスタニアから毎朝おくられてくる団子を食べながら、フェリスは部下から届いた手紙を読んでいた。
ライナは書庫にこもり伝承の調査。
なんでも、始祖ブリミルと同じように武神と信仰されている『四獣の聖騎士』について調べるようだ。それがどうにも彼女たちの世界で、敵対していた漆黒の獣を操る男の先祖らしい。
「世の中は意外と狭いものだな……」
まぁ、そんなことはどうでもいい。今重要なのは……。
「暇だ…………………」
ほんとうならライナをからかいにいって暇をつぶすところなのだが、今回ばかりは調査がはかどってもらわないと彼女としても困るので、自重していた。
「まぁ、目を離すとすぐに寝るからなあの色情狂は……私がいなくてもしっかり働くように私の代わりを何かおいておく必要があるな」
さっそく面白いことを思いついてしまった、と自分のことを内心ほめたたえるフェリス。
ワイヤーを使った自動人形でも作ろう。名付けてスーパーフェリスちゃん人形。
その時ライナの背筋にえも言われない悪寒が走ったとか走っていないとか……。
彼女が無表情の中にライナだけがわかる微妙な変化をさせていた時だ。
フェリスがもたれかかって座っていた壁の向こうがにわかに騒がしくなる。
「なんだ?」
さすがに気になってしまい、彼女が中を覗き込むと、そこには……!!
『いだい!! やめっ! やめてっ! やーめーてッ!!』
『いたい? 『わん』でしょ! 『わん』でしょ-がッ! 犬は『わん』でしょうッ!』
桃色の髪を振り乱した少女が、黒い髪にぼろ布の耳・箒のしっぽを付けた少年を痛めつけているシーンだった。
「……こ、この世界の子供たちは意外と進んだ……を受けているみたいだな。た、多少問題はあると思うが、今は春だしああいった輩も湧くだろう」
変な知識を持っているくせに、意外とうぶなフェリスであった。
と、そんな風にフェリスが顔を赤らめてその光景から目をそらそうとした時だ。彼女はその壁の向こうがいつの間にか静かになっていることに気づいた。
「?」
フェリスが不思議に思い、中に再び目を向けてみると中の人々は、窓から中を覗き込んでいたフェリスに気づいておりその美貌に氷結していた。
ハルケギニアの貴族の令嬢でもフェリス程の美貌の持ち主はまずいない。そのため、女性に対してはかなり目が肥えた貴族の子息、令嬢であってもフェリスの顔を間近に見てしまえば固まりもするし見とれもするだろう。
「うわぁ、すげぇ……ルイズなんか足元にも及ばないような美人だ」
ちなみに、思わずそう口を滑らせてしまったサイトは般若のように顔をゆがめたルイズに教室に叩き出されることになるのだが、彼はまだそのことについて知らない。
そして、窓から教室の外に叩き出されたサイトを見て、
「ふむ。ちょうどいい暇つぶしができたな」
フェリスがそう思うことも……。
…†…†…………†…†…
「ふむ。お前が私たちと同じように異世界からやってきた人間だったか。フェリス・エリスだ。あの色情狂の飼い主をしている」
「し、しきじょう!? 誰のことっすか!!」
「うむ? ライナのことに決まっているだろう。そんな顔をしていただろう?」
「い、いやそれはどうかなぁ?」
若干冷や汗をかきながらサイトはそう答えた。
や、やばい!! この人なんかやばい!! 具体的に言うと不用意に口を開けばいつの間にか自分が色情狂としてトリスタニアの全住民に認知させられそうなくらいやばい。
具体的にして決して間違っていない危機感ではあるが、彼は十分に色情狂ではあるのでライナのように嘆き悲しむのはおこがましいと思う……。
まぁ、ともかく、こうしてサイトとフェリスは出会ったのだった。
「ふむ。ところでお前は剣士なのか? 剣を持っているようだが」
「ええ、一応は。ただ俺今まで剣なんて握ったことなかったんですけど……剣を持ったら急に体が軽くなって、使えるようになったんですよ」
「なに?」
「武器を持ったら体の中にその武器の情報が流れ込んでくるっていうか……」
「ふむ?」
その時、フェリスは彼の左手に刻まれた文字のようなものを発見した。
ローランドの人体実験で魔方陣を刺青にして体に刻みこむというものがあったが……あれと同じものか?
だとしたらこの少年は自分たちと同じように漆黒の闇を抱えていることになるのだが、彼の様子からはそんなところは見受けられない。体つきもどう見ても素人のそれだし、どうなっているのだ?
剣士たるフェリスはライナよりも正確にサイトの実力を見抜くことができる。実際戦ってみるまでは正確なことは言えないが、それでもフェリスの目はサイトが彼の言うとおり完全な素人であることを見抜いていた。
ガスタークの使者のこともあるので、そこまで完全に見分けることができるわけでもないが……。
ふむ。おそらくは何らかの魔法で強化を施されているのか?
そう考えもしたのだが、あいにくなことにフェリスは魔法に関してはずぶの素人だ。相棒のように正確なことはわからない。
まぁ、そっちのほうはライナに任せるとして、自分も少し試してみるか。
「よし。サイトとか言ったな。剣を抜いて打ち込んでこい。少し確かめたいことがある」
「って! なに言ってんですか!! 俺はメイジを倒したこともあるんですよ!! そんなことをしたら危ないじゃないですか!!」
サイトが何かを言っていたが、フェリスとしてはそんなことはどうでもいい。さっさと抜けと言わんばかりに剣を引き抜き、サイトから少し離れたところで構える。
「どうした。早く抜け」
「どうなってもしりませんよ……」
サイトはそういいながらデルフリンガーに手をかける。フーケとの戦いでは獅子奮迅の戦いを見せた(それでもかなり手加減していた)ライナの相棒とはいっても所詮は女……。ちょっとは手加減してやらないとなぁ。
サイトはそんな身の程知らずなことを考えながら、デルフリンがーを引き抜く。
『相棒…………悪いことはいわねぇ。あの娘っこと戦うなら今すぐ降参しな』
残念なことに、デルフの開口一番の忠告はどうやって手加減するかで頭がいっぱいなサイトには届かず、サイトはそのままフェリスに向かって駆け出してしまった。
…†…†…………†…†…
はやいな……。
サイトの動きを始めてみたフェリスの評価はそれだった。大体リミッターを外したライナと同じ速度。なるほど、これならこの世界のメイジごときでは手も足も出ないだろう。
だが、
「それだけだな………………」
戦う体になっていない彼は、確かに何らかの力に覆われて素早くはなっているが剣を効率的に動かせていない。実戦経験が足りていないのはもちろんだが、なにより剣に振り回されすぎている。ところどころに熟練した動きは見受けられるが、それ以外は脳の指令に体が追い付いていない感じだ。
当然、フェリスと打ち合えるほどの実力には到底達しておらず……。
「ふん!」
「ぶぎゃぁああああああああああああああああああ!!」
カウンター気味に決められた剣の腹の一撃があっさりとサイトの意識を刈り取り、しばらくの間浮上させることはなかった。
…†…†…………†…†…
とある馬車の中での出来事。
「これで十三回目ですぞ、殿下」
「なにがですの?」
「ため息のことでございます」
「下らんことを気にするなマザリーニ。こいつが誰も見ていないところでため息をつこうが、何ら問題はない。人が見ているところできちんと笑えさえすれば問題はないだろう」
真紅のローブにメガネをかけた青年が白いドレスを着た少女と、特徴的な帽子をかぶった老人にそう吐き捨てた。その手にはゲルマニアとの婚約についての書類が持たれており、その内容を読んではアンリエッタに渡していく。そして、受理しないものに関しては握りつぶした上に手から発生する漆黒の炎で焼却押して行った。
ドレスの少女は、先代国王の忘れ形見アンリエッタ姫。特徴的な帽子をかぶった老人は、マザリーニ枢機卿。そして、真紅のローブを着た少年はこの国の宰相バーシェン・フォービン。
東方から来たといわれるこの宰相は、行き倒れているところを遠征に来ていたこの国の国王に拾われ忠誠を誓った人間だった。
しかし、彼が死にアンリエッタが代わりに国のかじ取りをしなければならなくなったと聞いた時に一時期姿を消してしまっていたのだ。最近になってマザリーニによって見つけ出された彼はようやく政務に復帰。マザリーニとともに国を何とか安定させるために尽力している。
嫌いなものは無能な王族。アンリエッタは残念なことに彼に無能の烙印を押されてしまっている……。
「バース………その言い方はもう少し何とかならんのか?」
「見えるところではキチンと敬ってやっているだろう。感謝しろ」
「おまえは……」
「いえ。いいのです。マザリーニ枢機卿この方にいまだ認められていないわたくしが悪いのですから」
悔しそうに唇をかんだ後、見事な笑顔を披露してマザリーニを止めるアンリエッタ。そんな彼女を見ても、バーシェンは鼻を鳴らすだけだった。
「それにしてもなぜ突然魔法学園なんかに? いろいろと忙しいといったはずだ」
「いいではありませんか。未来のトリステインを担う人材を見るのもわたくしの役目ですわ」
「このままではゲルマニアに吸収合併だがな。まぁ、それも仕方あるまい。伝統ばかりにこだわり血を薄めているからこういうことになるのだ。まぁ、今はそんなことはどうでもいい。俺たちはいかにしてゲルマニアに好条件で受け入れてもらうかを考えるだけなのだから」
「バース!!」
「これだけは否定はさせんぞ、マザリーニ。わかっているはずだ。今のトリステインでは空の軍勢に勝てる要素はない。アルビオンが落ちれば次に襲われるのは間違いなくここトリステインだ。それによる民の死を一人でも減らすために私たちはこうして働いているのだ」
「王族の心情はどうなる!! 姫様とて人間なのだぞ!」
「違う。王族は人間じゃない。人形だ。そうでなければならんのだ!」
くだらないこと言うなとばかりに、書類をたたきながらそう叫ぶバーシェンにアンリエッタは悲しそうな瞳を向けた。
「先代のようにきちんとした志を持ち、それを実現させる力があるならそれもいいだろう。人権などいくらでも認めてやるし、好きにやればいい。俺が全力でサポートしてやる。だがこいつはどうしようもなく無力で無能だ!! こんな王族は国にとっては害悪でしかない!!」
「……………」
笑顔のままその表情を崩さないアンリエッタを、マザリーニは心配そうな視線を送る。しかし、バーシェンは止まらない。彼自身やめるつもりは毛頭なかった。
「初めに言っておいてやる。国に必ず必要なのは王ではなく国民だ!! きさまの人権など、国民の命と比べれば塵にも等しい重要性しかない。それが嫌だとでもいうなら、今すぐにでも王族をやめろ!! 救うべき一人の国民として俺が救ってやる、無能な姫殿下殿!」
「バース!! 言いすぎだぞ!!」
マザリーニの怒声に、バーシェンはようやく口を閉じ書類に視線を戻す。
「アンリエッタ。お前は果てしなく無能な存在だ。だったらせめて国民のためにお前の女としての幸せぐらい切って捨てるぐらいの器量を見せろ」
「はい……………」
そういって笑顔で答えるアンリエッタに、バーシェンは舌打ちをした後、馬車のドアを開ける。
「どこへいく」
「殿下も私がいたら息苦しいでしょう。わたくし目は自分の幻獣に乗っていきます」
そういったとたん、彼の右腕から真紅の鳥が飛び出しバーシェンを背に乗せとんでもない速度で上昇して行った。
「…………枢機卿」
「なんでしょうか殿下」
「わたくしはどこで間違えたのでしょうか?」
「姫様は何も悪いことをされていません。バースもそのことは重々に承知しております」
「ではなぜ、彼は私にこれほどまでつらく当たるのでしょうか……」
「彼が苛立ちを覚えているのは、姫殿下にではないのでしょう。ああは言っていても優しい男です」
「では……」
「彼は時代に苛立っているのでございましょう。国とあなたを……犠牲にしなければ国民を守れない。そんな時代に……」
マザリーニの言葉に、アンリエッタは唇をかみしめた。
…†…†…………†…†…
「何をしているのだ、色情狂?」
「今回は俺が来たかったわけじゃねぇぞ。寮を夜中に抜け出したバカがいたから、追いかけてきたんだ」
フェリスがサイトをブッ飛ばした日の夜。女子寮にいたライナを発見してしまったフェリスは、ライナが泣きながら許しを請うまで殴りつけたあと、ぐったりと倒れ伏しているライナの背中に乗り事情を聴いているところだった。
「ふむ。お前の弟子が侵入してきたと。それは一大事だな。お前程とはいかなくてもお前の弟子だ。吐く息で女をはらませることはないだろうが、会話をすることで女を妊娠させることぐらいはできるはずだ。乙女の純情を守るため私が動かなければならないだろう」
「はいはい。もうそれでいいよ」
そういって、服についたほこりをパンパンと払いながらライナは立ち上がった。
「それにしても今日はなんか外が騒がしかったな。なんかあったのか?」
「ああ、この国の王族が訪問してきたらしい」
「王族が? へぇそりゃ珍しい。この国の王族はシオンと違ってめったに外には出ないって聞いたんだけどなぁ。おまけに今生きている王族は王女と先代国王皇妃だけだって話だけど」
「それを聞いたお前は『うへへへへへ。トリステインの花と敬われる王女様か……だが俺にとっちゃどんな女であろうとも関係ないぜ。いつか必ずさらって……』」
「監禁したり、犯したり、荒野を駆け抜けたりはしないから安心しろ」
「むぅ……」
事前にフェリスワールドの展開を阻止されてしまい、若干不満そうな顔をするフェリス。ライナは本当に疲れ切った表情でそれを見ている。
まぁそんな感じに無駄話をしながら二人が歩いていると、金髪の優男がドアに耳をつけて何かを聞き取ろうとしているのを発見した。
「何やってんだあいつ」
「ふむ。あいつがお前の弟子か?」
「弟子じゃねぇけど……もうそれでいいや。はいはい、弟子ですよ」
いいかげん諦めきった表情をしつつ、そういうライナ。そして、彼は耳をつけていた男子生徒の首根っこをつかみ連行を開始しようとした。
「はいはい。ギーシュ。夜の女子寮への侵入はご法度だぞ。昨日遊びに来た時に言ってやっただろう」
「な、ら、ライナさん!!」
彼の名前はギーシュ・ド・グラモン。ライナが寮監に就任した時真っ先に遊びに来た男子生徒である。
本当はライナにおべっかを使い、夜の女子寮への侵入を黙認してもらおうと思っていた彼だったが、なぜかライナと気が合ってしまい、ライナにそういう汚いことをしようとはしなくなった。
ライナ自身も変なプライドを持っておらず気さくに話しかけてくるこの元帥家の四男坊には意外と好意を持っており、たまに遊びに来る彼にフェリスやシオンについての愚痴をきかせていたりする。
まぁ、それはともかくだ。寮監として彼の行為を見逃すわけにはいかないライナはめんどくさそうに頭をかきながらギーシュを引きずっていく。
「さっさと帰るぞ。お前が女子寮に忍び込もうが何しようがどうでもいいけど、怒られんのは俺なんだからな」
「ああ、待ってください!! ライナさん!! これにはわけがあるんです!!」
「わけ?」
「ええ。さきほど僕がモンモランシーに送るための詩を書き綴っていたのですが……」
「モンモ……誰だそれは」
「こいつのモトカノ。二股してたのがバレて振られたんだってさ」
「ふ、ふられてません!」
「流石はお前の弟子だな。きっとこいつもそのうち……………」
「吐く息で女を妊娠させたり、野獣に変身して荒野を駆け抜けたりしたりしないしな。あと俺の弟子じゃないし。ああ、もうとにかくしばらく黙ってくれフェリス!! 話が進まないだろうが!!」
最終的に若干切れてしまうライナを見て、フェリスは満足そうに頷き懐から団子を取り出した。
「うむ。私ももう満足だ」
「そうかよ……話を続けていいぞ、ギーシュ」
「あ、はい!! というかライナさん、そのきれいな人紹介して……」
「フェリースいつものよろしく」
「うむ」
「あ、あれ、ちょ………ぎゃぁあああああああああああああああああああ!!」
―しばらくお待ちください―
「と、というわけで、この女子寮に一人怪しいフードをかぶった人物が入っていったわけですよ」
「フードの人物ねぇ……。で、そいつが今この部屋にいると?」
「はい!!」
「どうするよ、フェリス」
「うむ。問題ないな。それを解決するのは我々ではなく女子寮の寮監だ」
「だよなぁ……俺も極力そんなめんどくさそうな奴に関わり合いになりたくないし。というわけでギーシュ。寮監にそのことを話したらさっさと帰るぞ」
「そ、そんなぁ!!」
二人がそんな結論をだし、さっと踵を返しギーシュが哀れな声を上げた時だ、
『姫殿下になにしてんのよ!! いいいいい、犬ぅううううううううううううううううう!!』
『わん…』
「何してんだ、あいつら……………」
ギーシュが先ほど盗み聞きしていた扉から聞こえてきた聞き覚えありまくりな怒声にライナは眉をしかめた。そして、
「ふむ。だが、いま姫殿下とか言っていたな……………」
「ま、まさか!!」
瞬間。ギーシュがとんでもない力でライナの拘束を振りほどき、その扉をけ破り中に突入した!!
「きさまーッ! 姫殿下にーッ!! 何をしておるかーッ!!」
そんなギーシュを見てライナはため息をついて中に突入する。正直関わり合いになりたくはなかったが、ギーシュはライナの友人である。見捨てるわけにもいかない。
「ふむ。流石は色情狂。姫と聞いたからには犯しに行くのだな」
「……もうヤダこんな生活」
ライナがちょっとだけ泣いたのは内緒である。
「決闘だ! ばかちんがぁああああああああああああああああ!!」
怒声を上げて、中でルイズに踏みつけられていたサイトにとびかかっていくギーシュ。サイトはそれに反応して瞬時に立ち上がりギーシュの顔面を殴りつけたあげく、しこたま蹴り飛ばし今までのストレスを発散していく。
「決闘だぁ? ボケガ! テメェが俺の腕を折ったの忘れてねぇぞ! こちとらぁ!!」
今までルイズにボコボコにされてしょげかえっていたサイトの豹変ぶりにライナは若干引きながら、とりあえずギーシュを助け、杖を奪う。
「はいはい、そこまで。何してんだお前ら……」
そして、ライナはそこで真っ白なドレスを着たこの国の姫を目撃するのだった。
…†…†…………†…†…
「ふむ。つまりお前は自分のしりぬぐいを親友(笑)のこのピンク頭にやらそうというのだな?」
「ちょ、あんた姫様になんてことを!! あと私のこともバカにしなかった!?」
「ああ、ルイズ。こいついっつもこんな感じだから気にしてたら体がもたないぞ……」
怒り狂うルイズをしり目に、もうちょっといろいろありすぎて疲れてしまったライナは、ルイズの布団にもぐりこんで寝てしまいかけている。
「って、あんたは何勝手に寝ようとしてんのよ!!」
「いいじゃん別に……うわ、この布団マジでフカフカだ。流石は貴族。お昼寝マスターたる俺には分かる。これは俺が使っているメーカーの最高級羽毛布団だな!!」
「当たってはいるけど、果てしない観察眼の無駄遣いね!!」
ちょっとしたカオスがルイズの部屋の中に降り立つ中、ひとりクスリと笑う純白の少女にライナはめんどくさそうな目を向ける。
アンリエッタ王女殿下。ここの国最後の正式な血統を持つ王族であり近々ゲルマニアに嫁ぐことが決まっている殿上人だ。
その女王様がなんと子供のルイズたちに戦場に行って特殊な任務をこなして来いと言っているのだ。
ローランドよりも狂っているな……。
ライナがこの世界に来て初めてそう思った瞬間だった。
「なぁ、姫様」
「姫殿下と呼びなさい!!」
「……ルイズちょっと黙って……」
「なんでしょうか? ライナさん」
ベッドからよっこいしょと起き上がったライナは今まで見せたこともないような鋭い視線をアンリエッタに向けた。
「あんたこいつらに何をさせようとしているのかわかっているのか? 何の訓練も受けていない人間を戦場に送り込むことがどれほど危険なことか理解しているのか?」
昔のローランドでも、さすがにそんなことはしなかった。まぁ、効率的ではないこと知っていたからなのだが……。
「で、でも、ルイズたちはあの土くれを撃退した勇者ではありませんか。きっとこの任務もきちんと成功させて帰ってきてくれます」
「戦場と泥棒を捕まえるのではわけが違うんだよ。それぐらいわかるだろ姫様……」
声はそれほど強くはない。しかし、そこにこもっているのは何よりも凄惨な戦争というものを知っている者の声である。
声の重みが違う。
ルイズやギーシュ。そしてふだんの眠たそうなライナしか知らないサイトでさえも、ライナの言葉に黙り込んでしまった。
「俺が元いた国はさ……年がら年中戦争をしている国でさ、俺もガキの頃から特殊な訓練を受けてろくでもない任務ばっかりさせられていたよ」
「そんな国が……」
「ら、ライナは東方から来たんです姫様!!」
「そう……あの方と同じ……」
ライナの話を聞いて不思議そうに首をかしげるアンリエッタに、ルイズは慌ててフォローをいれた。
「最終的に停戦まで入ったんだが、俺は孤児だったからさ、戦争が終わっても施設に入れられて学校に通わされた。その学校には孤児や犯罪者の子供が集められ、次おこる戦争のための訓練を積まされていた。そして、始まっちまった戦争で……俺の仲間たちはたった二人の友人を残して全員死んじまったよ。敵の最精鋭部隊に待ち伏せを受けちまって……」
ライナの言葉にアンリエッタは息をのみ、ルイズたち真っ青になった。
戦場とはそういった世界なのだ。使命感や忠誠心では生きていけない。力あるものしか生き残ること許されない。そういう世界……。
「ルイズの使命感、忠誠心は立派なもんだ。だがそれだけじゃ戦場はわたっていけない。任務なんて果たせずにどこかで骨をうずめるのがおちだ。だから姫様……こいつらを巻き込むのはやめてくれ」
「でも……それなら私はどうすればいいのですか!?」
ライナの話を聞き終えたアンリエッタは泣きながら床に座り込んでしまった。
「もう……王宮に頼れる人はいないの!! 私の味方はルイズしかいないの!!」
泣き崩れるアンリエッタをしり目に、ライナとフェリスは立ち上がり部屋の出口へと向かった。この程度でほだされてしまうほど、二人は軟な精神をしていない。ましてや今回の話は人死に関わることだ。賛成するつもりも協力してやるつもりもない。
「なぁ、姫さん。あんたは少し考えすぎだよ。別に頼るのはあんたの味方じゃなくてもいいだろ。今回の話は国益にかかわることだ。国のために死ねると思っている奴はあんたが思っているほど少なくはないはずだぞ。ルイズたちにではなくそういった奴らに頼れ。ガキに頼るのはお門違いだ……」
「うむ。そういうことだ。サイトとか言ったな?」
「……あ、はい」
「明日の朝広場にこい。少々暇だからな。剣の稽古をつけてやる」
「え、でも!?」
「返事は『はい』しか受け付けんぞ。遅刻をしたらライナの刑だ!!」
「なんで俺の名前が刑罰の中にはいてるんだよ!?」
「うむ。普段お前にしていることをそっくりそのままサイトにやる」
「サイトォ!! 絶対遅れんなよ!! 遅れたら死ぬからな!!」
最後はいつもと同じ軽い空気をまといながら退室する二人を、アンリエッタたちは茫然と見送ることしかできなかった。
…†…†…………†…†…
その日の夜中。ライナは窓の外に人が立つのを感じて、めんどくさそうに頭をかきながら、カーテンを動かし窓を開けた。
「なんだ……ルイズか」
「ライナ……ちょっと話があるんだけど」
「ああ、だったら明日にしてくんない? 俺超眠くて死にそうなの……」
「ダメ。このまま聞いて」
ルイズにそう言われて、ライナは心底めんどくさそうに眉をしかめながら窓枠にもたれかかる。
「ライナ……。あなたが私たちの心配をしてくれたのはうれしいわ。あなたの話を聞いてからよくよく考えてみたら、私だってそんなところに行くのは震えが止まらなくなるくらい怖い……」
「だったら……」
「でも、でもね……」
そこでルイズは言葉を切り決意を秘めた瞳でライナの顔を見つめた。
「私にとっては、初めて誰かに頼られたことなの……」
「…………………」
「ゼロの私が、できそこないの私が………落ちこぼれの私が初めて誰かに頼られた時だったの。私それが嬉しかったの!!」
「……………………………………くそ」
「だから私行くわ。アルビオンに」
ルイズの言葉を聞き、ライナは頭をかいた。まったく。あの王女はこうなると分かっていたのだろうか? だとしたらシオン以上の悪王だな……。
ライナがそんなことを考えるとは知らないルイズは、踵を返しライナに背を向けた。
「私はこれを言いに来ただけ。おやすみなさい、ライナ。心配してくれてありがとう」
そしてルイズの姿が女子寮に消えるのを見届けると、ライナは窓とカーテンを閉めベッドに寝転んだ。
「どうするつもりだ、ライナ?」
「フェリスか? どっから入った」
「私は基本的に床下からやってくる」
「今度から注意してみとくわ」
若干の冗談を交わした後、ライナはフェリスに謝った。
「悪かったな。お前がサイトを行かさないようにやりたくもない稽古の提案をしたのに……」
「実際暇だったしな。気にするな」
「さて……俺たちはどうしたらいいんだと思う」
「ほっておけ。私もあのくらいの年に戦場に出ていた。戦いに行くわけではないし死ぬ可能性は低いほうだろう」
「だがないわけじゃない……」
「…………………………」
ライナの言葉にフェリスは黙り込む。先ほどの言葉だって気休めにすぎない。戦場がそれほどまで甘い場所でないことは、彼女自身もよく知っている。誰であろうと死ぬときは死ぬのだ。
「まったく……お前は相変わらずだな」
「? なにがだよ」
「あんなちんちくりんな少女に欲情してしまう変態色情狂なところがだ」
「はいはい………そうですね」
いつもの空気に戻っているフェリスを見て、ライナもめんどくさそうに首を振りながら布団の中にもぐりこむ。話をしたところで無駄なのだ。
ライナの結論はもう出ている。
「ふむ。では私も寝るとするか。夜更かしは美容の大敵だからな」
フェリスはそういいながら、窓を開け窓枠に足をかける。彼らの辞書には出口入口という言葉がないのだろうか?
「あ、そうだライナ」
「ん?」
「行くなら一人で行くなよ、相棒」
最後にそれだけ言って姿を消すフェリスに苦笑しながらライナは頷いた。
「了解……相棒」
そして、ライナは寝返りをうち、大好きな睡眠をうっちゃって思考の海に沈みこむ。今後の計画を立てるために。
「ああ……まじでめんどくせぇ」
そうつぶやきながら……。
…†…†…………†…†…
その頃王宮では……………。
「その話は本当か?」
「はい」
バーシェンとアンリエッタが向かい合っていた。その隣にはマザリーニ枢機卿が控えており、バーシェンから立ち上る殺気に肝を冷やしていた。
「何をしたのかわかっているのか小娘? 下手をすればこの国が亡ぶんだぞ? 王族がそんな軽々しいまねをしていいと思っていたのか!!」
「バース子供のやったことだ……それぐらいにしてくれないか?」
「くっ!!」
さすがにこれで怒るのは大人気ないと思ったのか、それ以上は何も言わずにバーシェンは椅子に座りなおす。
「それで、俺にいったいどうしてほしい?」
「手紙を取り戻していただきたい。そのためにあなたの部下の力をお貸しください」
「……いいのか? お前はいま、望まない結婚を蹴ることができる手札を手に入れているのだぞ。私が行うからには失敗はない。そうなればお前は晴れてゲルマニアのクソジジイの奥さんだ。それでいいのか」
確認を取るかのように尋ねるバーシェンに、アンリエッタは何の迷いもなく頷いた。
「すべては国民のため。私の幸せなど気にする必要はありません」
「……少しはましな顔になったじゃないか」
バーシェンはそういうと、紅いローブを脱ぎ捨て、前が開いている真紅のロングコートを手に取った。
「どうする気だ、バース」
「今回の任務、失敗は許されない」
そして、普段はつけていない指先に四枚の爪状の刃がついた手袋を両手に装着した。その際にあらわになった両腕には黒と赤の文字で術式が刻み込まれている。
まるで蛇のようにとぐろを巻いて彼の腕に絡みつくその術式を発光させながら、バーシェンは凶悪に笑った。
「俺が出る。しばらくここは任せるぞ。マザリーニ」
…†…†…………†…†…
早朝。
学園の門を二つの人影が通り過ぎようとした。
その影は騎乗しており、目深にフードをかぶった黒いローブ姿の人物だった。
「ほんとに行くのかよ。ライナさんも言っていたじゃないか。ほんとに死ぬかもしれないだぞ」
「それでも私は……姫様の親友なの。助けたいと思うのは当然じゃない」
そんな会話を繰り広げるその人物たちに、
「おーい。どこ行く気だ、お前ら」
「ふむ。勝手な外出は校則違反だぞ」
突然声がかけられる。
「「!?」」
二人が慌ててふりむくと、そこには頑丈そうな皮鎧を装備したフェリスと、ローランド魔法騎士団のローブ調の鎧を着こんだライナが立っていた。
「はぁめんどくせぇ。マジで帰って寝たい。って、ぎゃぁああああああああああああああ!!」
「うむ。お前たちには相棒がいろいろ世話になったようだしな。みすみす死なせるわけにはいかない」
「……なによ……止めに来たの?」
警戒心をあらわにしてフードを取るルイズ。サイトもデルフリンガーに手をかけ、構えを取る。
「いや、あんだけ話してもやめなかったんだ。どうせ言っても聞かないだろう」
「ならば私たちもついていくとしよう。お前たちを守ってやる」
「え……」
「な、なんで! 昨日はあんなに反対していたのに」
そして、馬を引いてくるライナは少しだけ真剣な声を出しながらこういった。
「俺はもう友達が死ぬのを見たくないんだ……」
その言葉に、絶句してしまうルイズとサイトをしり目に馬に乗ったライナとフェリスは二人を追い越した。
「さっさといくぞ。できるだけ俺たちの言うことは聞けよ」
「うむ。早くしろ。今週中に帰らなければうちの店が開く団子フェスタに間に合わないからな」
「え、もうフェスタなんて開くの?」
「あたりまえだ!! 団子をあらゆるに人に広めてこそ団子神の敬虔な信徒!! そのためにフェスタは必要不可欠ではないか!!」
「いや、まぁいいけどね……」
いつものような会話をする二人に、サイトとルイズは少しだけ苦笑を漏らし後に続く。
「ありがとうねライナ」
その言葉を、忘れずに言って……。