希望と絶望を司る   作:虹好き

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初めまして、虹好きです。

作者のちょっとした妄想から始まった物語。

どうぞよろしくお願いします。


強さを求める少年

 ーー俺はただ、強くなりたかった。

 

 ーーあんな悲劇を起こさせないためにも、せめて、この両手が届く範囲の人たちを助けられる力が欲しかった。

 

 ーーだから俺は、誰かを護れる強さを手に入れるために、この門を叩いたんだーー

 

 

 〜〜〜

 

 

 道場の床に滴る夥しい量の血。これでもかというほどの血を流しながら、しかし、口からは新たな血が吐き出され、床を赤く汚していく。

 

 身体は動くような状態ではなく、既に満身創痍。眼からはとめどなく涙が溢れ、骨も何本折れたか分からない。ただ分かることは、

 

(……まだだ……まだ、足りない。この程度で根を上げてちゃ、この先生きていけない……)

 

 自分の無力さだった。

 

 床で動くことのできない少年に対し、少年をこうなるまで徹底的に壊した存在。相対していた男性は、ゆっくりと少年に近づき、優しく抱き上げた。

 

「やるようになったじゃねぇか。これならそろそろ、"崩月流"の真骨頂である"角"の力に耐えられるんじゃないか?」

 

 もはや虫の息と言っても過言ではない少年に普通に話しかける男性。しかし、少年は瀕死状態とは思えないほどしっかりとした口調で、笑みすら浮かべて返事をした。

 

「まだまだですよ。まだ一撃も与えられてませんし。それにしても、相変わらず修行の時もバーテン服っておかしくないですか?静雄さん」

 

 静雄と呼ばれた男性は、少年の言う通り、バーテン服を着ており、青いサングラスをかけた、明らかに場違いの格好をしていた。

 

「"角"に耐えられるだけの身体造りっつぅ名の肉体改造で夕乃に頼まれたから、万屋の俺にとっちゃあ一種の仕事と変わらねぇよ。ついでに、バーテン服は俺の正装だ。この服装に文句を言うようなら更にしばくぞ」

「これ以上はちょっと……」

 

 割と本気でこれ以上は危ないため、顔を青くしながら乾いた笑みを浮かべる少年。

 

 それにしても、と静雄が言葉を紡ぎ、

 

「もうある程度回復したのか?いくら何でも、まだ12歳のガキの癖してここまで身体ができてるなんてな。その回復力も異常だし、さらに言えば、お前は"神器"まで宿してる。そんでもって最後は"角"って、お前は人間やめる気か?」

 

 半ば呆れ混じりの静雄の言葉に、少年は苦笑いしかできない。

 

 静雄の言う通り、少年は、生まれながらにして神器という物を身体の中に宿していたらしい。分かったのは最近であり、出し方も分からないのでどうもできないのだが。

 

「本当に化物じみた強さを持つ"平和島"の静雄さんが言わないでくださいよ。それに、"俺たち"はみんな、普通じゃないから(・・・・・・・・)家族になれたんじゃないですか」

 

 血塗れになりながらも、しっかりとした温かさを持つ少年に、静雄は軽く笑い、煙草を口に咥えた。少年に煙が直接あたらぬよう、注意を払いながら紫煙を吐き、

 

「そうだな。ったく、夕乃の奴は速く帰らねぇとうるせぇからさっさと帰るぞ、一誠」

「はい」

 

 

 

 道場から静雄に抱きかかえられ、家ーーというには大きすぎる施設に帰ってきた一誠。玄関を開け、最初に出てきたのは、ーーエプロンを身に纏い、おたまとフライパンを両手に装備した少女。一誠にとっての姉的存在、崩月夕乃だった。

 

「おかえりなさい。イッセーさんに静雄さん。今日もボロボロですね。静雄さんちゃんと手加減してます?」

「俺が本気出したらこいつの胴体千切れるぞ」

「静雄さんと夕乃さんが言うと心臓に悪いのでやめてもらいたいんですけど……」

 

 帰ってくるなり、物騒な会話に思わずゲンナリとしてしまう一誠。そんな一誠に夕乃は太陽のような笑みをつくり、

 

「今日もお疲れ様でした。晩御飯はまだなので先にお風呂済ませて来てくださいね」

 

 母のような優しさで接する。夕乃と一誠は1歳しか変わらないのだが、夕乃は年不相応なぐらいに大人びているため、まるで頭が上がらない。

 

(ははっ、敵わないな、夕乃さんには)

 

 夕乃はそのままリビングの厨房に戻り、まだ1人では余り動けない一誠を抱き抱え、静雄はそのまま風呂場へと向かった。一誠も最初の頃は羞恥心があり、抵抗しようとしたが、手を貸されなければ重傷で動けないため、無駄なプライドは捨てて大人しく運ばれている。

 

 脱衣所へと入ると、そこには先客が2人いた。

 

「んん?おんやぁ?イッセー君とシズちゃんじゃないっすかぁ!いつものことだけど、イッセー君大丈夫?絶対大丈夫じゃなくね?なんでそんな状態で普通の表情してんのか、俺っちには不思議で不思議でしょうがないわけなんですけどぉ」

「次シズちゃんっつったら殺すぞ」

 

 変わった喋り方をする白髪の少年が、タオルで髪を拭きながら話し掛けてくる。静雄に殺気をあてられ冷や汗を浮かべ、顔を青くしている少年の横にいた、黒髪の少し暗い表情をした少年は、白髪の少年の発言に溜め息をつき、

 

「フリード、それだけ過酷な修行をしているんだ。というか、お前もイッセーぐらいボロボロになって帰ってくるときあるし、表情もいつも通りだろ」

「いやいや、イッセー君には負けるっての。俺っちも頑張ってるつもりだけど、イッセー君は毎日コレなんだぜ?キンジ君」

 

 フリード・セルゼンと遠山キンジは、どちらもイッセーと同い年の12歳であり、イッセーとは別部門の修行に身を置いている身だ。どちらもイッセーにとってのかけがえのない存在であり、親友である。

 

「フリードやキンジも俺に劣らず頑張ってると思うよ。俺なんて、ようやく回復力が上がってきたかってぐらいだからね」

 

 イッセーの謙遜の言葉に、いやいやいや、とフリードとキンジは手を振り、

 

「俺っちにキンジ君も回復力が人とは思えないくらい異常って言われてんのに、その軽く5倍上を行くイッセー君にようやくもクソもないっての!」

「そうだぞ。しかもイッセー、お前この間岡部さんから"神器"のこと話されてたろ。人間やめる気か?」

 

 後ろで静雄もフリードとキンジの言葉に頷きながら、

 

「だから俺もさっき言ったろ?人間やめるのか?って」

「俺ってそこまで人間離れしてる?」

「「「いや、自分で気づけよ」」」

 

 

 

 フリードとキンジ、ついでに静雄から盛大に突っ込まれたイッセーは、首を傾げながら静雄に連れられ風呂場へと入った。脱衣所に1人分の着替えがあったため、気付いてはいたが、風呂場にも先客がいた。

 

「ん?おぉ、静雄にイッセーではないか。ふむ、イッセー改造計画はだいぶ完成へとその足を進めているようだな。これも全て、俺の計画通り、フゥハッハッハッハッハ!!」

 

 少々痩せ細った不健康そうな顔つきをした男性がイッセーと静雄の姿を見るなり芝居掛かった口調で喋り、そして笑い始めた。

 

 イッセーは静雄に抱かれながら、

 

「どうも、倫太郎さん。研究の進み具合はどうですか?」

 

 岡部倫太郎はワザとらしく顎に手をあて、含み笑いをしながら応える。

 

「あぁ、俺の研究もだいぶ進んできた。イッセーの中にある"神器"についてもある程度分かってきたしなッ!夕飯の時にでも詳しく聞かせよう。まずは、今日の疲れを湯船でとるのだ」

「分かりました」

 

 イッセーの身体の様子を観察し、脱衣所へと向かっていく岡部。芝居がかった口調がなければ普通に良い人のはずーー

 

「それと、イッセーよ」

「なんでしょう?」

「俺の名は岡部倫太郎ではない……《鳳凰院凶真》だ!!」

 

 訂正、これさえなければ相当マシのはずだ。

 

 決まったとばかりにドヤ顔をしながら脱衣所に入っていく岡部。静雄は溜め息をつきながら、

 

「とりあえず、さっさと風呂に入らなきゃ風邪引いちまうぞ」

「そ、そうですね」

 

 流石に自分の身体ぐらいは気合いで洗い、静雄と湯船で温まる頃には、イッセーの身体は万全とはいかずとも、ほぼ完治と言って良いほどまで回復していた。

 

 その様子を見ていた静雄は感嘆の一言。

 

「本当に俺みたいになってきたなお前。流石にその年でその回復力は脱帽もんだな」

「俺的には回復力よりも技量をあげたいんですけどね」

 

 身体の調子を確認するために軽い体操するイッセー。とても数時間前まで満身創痍だった同一人物とは思えない。

 

「そろそろ上がるか。晩飯できてるだろうしな」

「そうですね」

 

 湯船から自分の足でしっかりと床を踏み、何処にも支障が無いか確認しながら歩くイッセー。やがて、確認を終えると晩御飯の為にも、急ぎ足で脱衣所へと向かった。

 

 

 

 施設のリビングルームでは、夕乃が作った出来立ての料理の数々が湯気を立てていた。人数分の料理を夕乃が運び終えると、狙ったかのようなタイミングでフリードがリビングルームに入ってくる。

 

「おぉ!?今日も俺っちが1番乗りですかぁ!?んでもって、やっぱり夕乃ちゃんが作った料理は美味そうだこと!!」

 

 無邪気な笑顔で椅子に座るフリードに、夕乃は優しい笑顔で、

 

「そんなに褒めても料理しか出ませんよ?もう少しだけ待っててくださいね?みんな揃ってから食べるので」

「あーい」

 

 姉的存在の夕乃の言葉に、素直に返事をするフリード。まるで本当の姉弟のような絵だ。

 

 少し間を空け、ニット帽を深くまで被った金髪の長髪を持つ男性が入ってきた。目元が全く見えないため、胡散臭さMAXの男性は、料理を見るなり、

 

「これは、自分の好物のグラタンやないか!!」

「ハッハッハ!昨日も似たようなこと言ってたぞジョーカー。夕乃ちゃんが作った料理全部好物じゃないっすかぁ。俺っちもだけどねぇ」

 

 関西弁を喋るジョーカーと呼ばれた男は、笑みを絶やさず、

 

「いやいやバレてたかぁ!夕乃ちゃんのおかげで毎日の飯が楽しみで楽しみで楽しみで、もう結婚しようや夕乃ちゃん!!」

「お断りします♪」

「グハァッ!?即答やとッ!?」

 

 その場で撃沈した。ちなみに、告白してから断るまでの時間は0.2秒。無論、フリードは椅子の上で大爆笑。腹を抑えながら机をバンバン叩き、

 

「ハッハッハッハ!!夕乃ちゃんにそれはダメだぜジョーカー!イッセー君しか眼中に無いんだからッハッハッハッハッ!!腹いてぇ!!」

「賑わいすぎててうるさいぞ」

 

 続いてキンジが入ってきた。床で撃沈しているジョーカーを見て一言。

 

「大体の察しは付いているし、話し声も聞こえていたが、あえて聞こう。こいつはなんで撃沈してるんだ?」

「夕乃ちゃんに勢いで告って0.2秒で断られた男の末路がコレだぜ☆」

「0.2秒て……」

 

 ジョーカーを無視してキンジが席に座り、続いて岡部が資料を持ちながら入ってきた。その際にジョーカーに気付いたが、あえて無視した。

 

 それから数分後、今度は眠た気で大人しそうな少女が入ってきた。茶色の髪を結ぶ黒いリボン。ジョーカーもそうだが、室内でマフラーを巻いており、口元を覆っている。季節的にはそんな防寒具は必要無いのだが、上はスタジャン、下はホットパンツといった変わった服装の少女だ。スタジャンの背中には、大きなドクロマークと、『Fuck off!』という挑発的な文字。

 

「……ジョーカーさん、どうしたんですか?」

「一瞬で心を折られた者の末路や。気にせんでええよ、切彦ちゃん」

 

 切彦。男のような名前だが、れっきとした女の子だ。この施設の住民はみんな普通じゃない。それは、斬島切彦にも言えることなのである。

 

「……そ、そうですか」

 

 いそいそとジョーカーを避け、自分の席につく切彦。最後に、静雄とイッセーが入ってきた。

 

「待たせちゃったか……何してるんですか?ジョーカーさん」

「ほっとけ。邪魔くせぇから蹴り飛ばすか」

 

 静雄が足を振り上げると、ジョーカーは跳び上がって自分の席まで避難する。

 

「静雄君、それ洒落になっとらんで!?君が暴れたらこの家も一瞬で瓦礫に早変わりや!!」

「なら俺が暴れないよう心掛けるんだな」

「ハハハッ」

 

 夕乃を除く全員が席に座ったのを見て、夕乃も席に座り、手を合わせる。

 

「それでは、頂きましょうか」

 

 その一言で、各々が手を合わせ、食事を始めた中、イッセーは岡部に研究のことを聞いていた。つい先週、イッセーは岡部に身体を調べられており、その時に"神器"の存在を知った。存在が分かっても、肝心の神器が何なのかが分からないため、岡部が調べていたのだ。

 

 岡部はうむ、と一呼吸おき、

 

「イッセーよ、お前の中に眠っている神器だが、俺の調べた限りだと、かなりのレア物、"神滅具"言われる最上級神器の一つである『赤龍帝の籠手』でほぼ間違いないだろう。詳しい事はまだ俺にも分からんが、俺の予想が正しければ、もうすぐ、お前の力で発現することが可能になるはずだ」

 

 一息、

 

「それに、崩月流の修行をしているイッセーならば、発現すればある程度の能力は使えるだろう。フッ、俺の『リーディングシュタイナー』を使ってまで調べたのだ。これはもはや確実、フゥハッハッハッハッ!!」

「『運命探知』を使ったのか。良かったなイッセー、信憑性の高いお言葉だぞ」

 

 熱弁する岡部を軽くスルーして、今言われた事を心の中で反芻する。

 

(『赤龍帝の籠手』か……神器は想いの強さに比例して力を与えるって岡部さん言ってたし……当分は神器の使い手として恥ずかしくない実力を身につけなくちゃな)

 

 岡部の言った『運命探知(リーディングシュタイナー)』とは、名前のままの能力を持ち、さらに、少し先の未来を見ることもできる岡部の"能力"だ。神器とは違う、岡部が生まれ持った超人的な能力なのである。

 

 岡部だけじゃなく、この施設にいる者たちは、1人1人違う能力を持っており、普通じゃない。世間一般では生きていけなくなった者たちが集まった場所なのだ。

 

 岡部の言葉にフリードが反応し、興味津々といった様子でイッセーに向かって話しかける。

 

「神滅具って言ったら、文字通り、神に通用する力って訳だよなぁ?それにイッセー君はシズちゃーー静雄さんとの修行で毎日肉体改造。俺っちも頑張らねぇとヤバいっすな!!と、とりあえず、その拳仕舞おうぜ、静雄さん!」

 

 フリードがシズちゃんと呼ぼうとしたため、振り上げられた拳にビビりながら、フリードは冷や汗混じりに喋り、ついでに静雄を宥める。

 

 神という単語に反応したジョーカーは、忙しなく動かしていた箸やスプーンを止め、

 

「神を滅する道具はちと大袈裟やと自分は思うけどなぁ。ま、でもおめでとさん。少しずつやけど、日々頑張ってるイッセー君には良い報せやないか」

 

 ニット帽の下を笑顔にしてイッセーに祝いの言葉を贈った。キンジもジョーカーに便乗し、

 

「俺も置いていかれないように頑張らないとな。イッセーも頑張れよ」

「あぁ、ありがとうキンジ」

「俺っちも負けねぇかんなイッセー!お互い頑張ろうぜ!」

「おめでとう、ございます。お兄さん」

 

 フリードに切彦からも激励の言葉を貰った。

 

「ありがとな。フリード、切彦ちゃん」

「そうですね。イッセーさんの身体もそこそこ出来てきましたし、次の段階に入っても良さそうですね」

 

 夕乃も手を止め、優しげな表情でイッセーに告げる。ただし、イッセーの顔色は凄まじい速さで青くなった。

 

「夕乃さん?次の段階っていうのは一体……」

 

 それに対する返答はとても優しく、そして、楽しげに言い渡された。

 

「修行の本格化です。まぁ、ざっとーーー今の修行の3倍程度ですかね?」

 

 その場が凍りついた。

 

 イッセーのみならず、夕乃と静雄を除く全員が顔を青くする程だ。それもそのはずで、現段階の修行ですら、イッセーの全身の骨を全て1度折っているのにも関わらず、その3倍。

 

「……イッセー君。俺っち神父として結構異端児扱い受けてるし、神とかジョーカーとか位しか信じてないから信仰心もクソも無いけどさ……素直に明日からの君の生還を祈らせてもらいますわ……アーメン」

「フリード!?洒落になってないから!?」

 

 割と本気で祈り始めるフリードを止めようとしたイッセーの肩に、キンジの腕が静かに置かれる。

 

「強く生きろ」

「それ半分諦めてんだろオイ!?」

 

 死ぬつもりなんて毛頭無い。イッセーには生きてやり遂げなければならないことがあるからだ。

 

「でもなイッセー君。君、今日も1人で歩けへんくらいボロボロやったやろ?……その3倍やで?」

 

 3倍の単語に再び凍りつく場。その中、夕乃から放たれるプレッシャーにイッセーはようやく気付いた。

 

「えと……夕乃、さん?」

「イッセーさん……明日から私も修行に加わって、イッセーさんを鍛えようと思ったんですが、私は必要無いですか?」

 

 冷や汗が止まらない。放たれるプレッシャーから察するに、ここでの返答を間違えると、イッセーの明日は無い。首を動かし、周りに助けを求めるが、ーーー全員が露骨の眼を合わせず、岡部なんかは電源の入ってない電話を耳にあて、1人で現実逃避をしている。

 

(ダメだ……味方がいない……)

 

 フリードの祈りが聞くことを祈りつつ、夕乃に向き直り、

 

「お、お願いします……」

 

 その一言で、花開くように笑顔を咲かせる夕乃。施設内の夕食は毎日のように騒がしく終わった。

 

 

 〜〜〜

 

 

 ーー誰かと手を繋いでいる。

 

 あぁ、これは夢だ。無意識の内に理解できてしまった。イッセーが顔を上げると、自分と手を繋いでいる女性の顔があった。恐らく、母親だろう。視線を移せば、父親らしき男性の姿も見えた。その横には姉もいる。

 

 みんな笑顔だ。周りは沢山の人でごった返すような賑わいを見せており、手を離すと、すぐに迷子になってしまいそうな人だかり。

 

 少し先を歩いていた父親と姉がこちらを向き、手招きをする。そこに母親と向かおうとした瞬間ーーー全てが弾け飛んだ。

 

 ーーー風景は全てガラクタに変わり、ところどころ炎が燃え盛り、周囲は阿鼻叫喚に包まれていた。

 

 アメリカにて起こされた、国際空港爆破テロ事件。未だに犯人グループは見つからず、犯行に使われた兵器すらも不明。世界を恐怖のドン底に落とした前代未聞の大事件。

 

 兵藤一誠は、その事件の生き残りだ。その場にたまたま居合わせた"万屋"の平和島静雄、ジョーカー、岡部倫太郎に救助され、今の施設に来た。

 

 ーーベットから勢いよく上半身を起こす。

 

 呼吸は乱れ、全身は汗だく、涙も流していたようだ。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 胸の辺りを抑え、ゆっくりと深呼吸する。ーー呼吸が安定し、精神も落ち着いてきた。

 

(大丈夫だ……もう失わない。あの悲劇を2度と起こさないためにも、そして、あの事件を起こした奴の息の根を止めるために、俺は生きている)

 

 もう1度ベットに横になろうとした時、扉がノックされた。

 

「お兄、さん……大丈夫ですか?」

 

 どうやら切彦のようだ。上体を勢いよく起こしたからか、音が響いていたのかもしれない。平静を保ち、

 

「大丈夫だよ。少しだけ寝つきが悪かっただけ。心配させてゴメンね」

「いえ、ならよかったです……おやすみ、なさい」

「あぁ、おやすみ。切彦ちゃん」

 

 扉から遠ざかる足音を聞き、再度イッセーは心に固く決意する。

 

(そうだ、俺は強くなる。明日からも頑張らないとな)

 

 ベットにゆっくりと横になる。切彦の声を聞いたからか、不思議と不安感は薄れていた。




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