希望と絶望を司る   作:虹好き

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どうも虹好きです。

次ぐらいまで投稿が遅くなるかと思いますが、気長にお付き合いください。


十分な土台造り

 イッセーと夕乃による激しい破砕音は、キンジと子猫の耳にも届いていた。

 

(道場ではこんな激しくやり合うことはなかった。イッセーの奴生きてるといいが……)

 

 子猫の打撃を流しながらイッセーの心配をするキンジ。一瞬の思考が仇となり、子猫の小柄な身体が懐に浸入するのを許してしまう。

 

(ーーっ、しまったな)

 

 抉りこむように打たれる拳打。距離をとろうとするが、子猫はそれを許さず、小さいが故に脅威となる拳が鳩尾に打ち込まれた。小柄とはいえ『戦車』の駒は伊達じゃなく、キンジの身体は塵のように吹き飛び、大木に全身を打ち付けられてしまう。

 

 全身がズキズキ痛むが、キンジはなんとか立ち上がり、子猫に向き直った。そこに、子猫から不満そうな声がかかる。

 

「……キンジ先輩、なんでちゃんと修行に付き合ってくれないんですか?」

「……」

 

 子猫の言葉通り、キンジは子猫との模擬戦で、一度も攻めに転じることができていなかった。子猫の言葉に返すのは沈黙。キンジの実力上、子猫相手なら圧勝できるはずなのだが、そうできない理由があった。

 

 ここまで制服を呪うことになろうとは、キンジ自身が思いもしなかった。というよりも、何故修行にまで制服なのかと突っ込みを入れたい。スカートで修行なんかするなと。もし不慮の事故など起こした時には、『ヒステリアモード』になって暴走してしまうというのに。

 

(そんなこと言えるわけないだろ……ヒスりたくないからとか)

 

 子猫はその沈黙を舐めているととり、眉を吊り上げた。

 

「……そんなに真面目にやりたくないなら、徹底的に痛めつけます」

 

 そう言って、再び突進。キンジは一つ嘆息し、どこから攻撃されてもいいように、防御重視で構える。子猫は助走をつけ、ーージャンプをしながら回し蹴りを仕掛けてきた。

 

(マジかよッ!?)

 

 目標はキンジの側頭部。小柄故に考えついたことだろうが、ジャンプの時の反動でスカートが捲り上がった。白い単色の下着。慌てて眼を背けようとしたが、そんなものは無意味で、バッチリと見えてしまっている。

 

 これはキンジ自身無自覚なことであるが、キンジは、とある理由から小柄な女性でのヒス化がなりやすくなっており、尚且つ、女性に対しての免疫が限りなく低いことから、単純なことで『ヒステリアモード』なってしまう。普段から女性を避けているのはその所為でもあるのだが、今回は完全に失敗した。

 

 子猫は小柄であり、何度も拳を重ねたり、躱すために身体に触れてしまうこともあった。女性特有の柔らかい身体っていうことも理解している。女性経験の全くないキンジ。

 

 簡単に言えば、なってしまった(・・・・・・・)

 

 子猫の渾身の蹴りを片手で受け止める。そればかりか、その足を引き、子猫の軽い身体を上に放り投げ、優しく抱きとめた。

 

 所謂、お姫様抱っこである。雰囲気も普段のキンジとは変わっており、微笑を浮かべていた。

 

 いきなりの変化に戸惑う子猫に、キンジは優しく声をかける。

 

「ちゃんと相手できなくて悪かったね。でも大丈夫。これからはしっかりと相手しよう」

 

 そう言って子猫を下に下ろす。そして、キンジは無手で構えた。子猫もキンジの並ならぬ気配に警戒し、一度距離をとる。

 

 互いの距離は3メートルほど。キンジと子猫なら一歩で自分の攻撃範囲に持ち込める距離。警戒し、動くべきタイミングを待つ子猫に、微笑を浮かべて佇むキンジ。その顔に緊張感は一切なく、されど、隙は一切見当たらない。

 

(……別人格、ですか?)

 

 そう考えていいほどキンジの変化は大きかった。いつもなら少し暗い雰囲気を出すのだが、今のキンジからそういう雰囲気は全くしない。表情も穏やかだ。

 

 漸く修行らしくなってきたと、子猫は姿勢を低くし、地面を踏み込んだ。

 

(……行きます!)

 

 さっきと同じくキンジの懐に潜り込み、重い打撃を与えようと拳を握り込む。しかし、それが叶うことはなかった。

 

「同じ手は悪手だよ。これが実戦だったら危なかったね」

 

 そう言いながらキンジが行ったのは、懐に入ってきた子猫の股下に片足をつき、その場から子猫側に傾くこと。それにより、攻撃のスペースを阻害された子猫は、攻撃の動作に急激なバックギアをかけてしまい、踏み止まってしまう。重心もやや後ろ気味になり、そこを狙ったキンジが子猫の頭を軽く押すだけでバランスを崩してしまった。

 

 自分の身に何が起きたのか理解できず、仰向けに倒れそうになる子猫の背に手を伸ばして支える。

 

「驚いたかい?普通の相手ならこんな技術は使ってこないだろうけど、どんな強敵が出てくるか分からないからね」

 

 子猫を立たせ、また距離をとるキンジ。子猫の頬に一筋の汗が流れる。キンジが言った通り、これが実戦だったらと思うと、その次の相手からの一手で子猫は命を落としていたかもしれないからだ。

 

 同時に、俄然としてやる気が出てきた。

 

「さぁ、もう一度やろうか」

「……はい!」

 

 

 

 

 甲高い音が鳴り響き、もはや何十本目か分からない魔剣が刀身を切断された。周辺の地形は歪にその姿を変えていた。その中心で片膝をつき、服もボロボロ、身体も傷だらけなのは結菜。呼吸が乱れ、満身創痍にも見える。その正面で安物の包丁を肩に乗せ、結菜を見下ろすのは切彦。服装には一切の乱れもなく、呼吸も正常で疲れている様子は一切ない。

 

「もう終わりか?魔剣使いさんよ」

「くッ……まだまだッ!『魔剣創造』!」

 

 新たな魔剣を創り出し、『騎士』の特性であるスピードを駆使して切彦の真横から一閃。姿が霞むほどの速度でありながら、切彦は余裕の表情で包丁を振るい、結菜の魔剣と切り結ぶ。剣圧による衝撃波が大地を奔る。綺麗な重心移動からの両手での一閃だ。結菜の渾身の一撃である。それに対し、切彦はただ腕を振っただけ。視線すら向けていない。

 

 それだけでも力の差は歴然。強張った顔の結菜と涼しい顔の切彦。そのまま鍔迫り合いが続くと思いきや、切彦が結菜に顔を向け、

 

「躱せよ」

 

 その言葉に悪寒を感じた結菜は咄嗟に剣を手放し、バックステップで距離を稼ごうとしたが、それよりも圧倒的に疾い斬撃が結菜の剣を真っ二つにし、その剣圧で結菜は後方に吹き飛ばされた。

 

 剣を掴んでいた両手が痺れ、まともに受け身もとれず、地面に叩きつけられる結菜。何度も咳き込み、それでも立ち上がるが、目の前まで近づいてきた切彦が結菜の首に包丁を突きつけた。

 

「チェックメイト。まだまだ甘いな」

「……切彦ちゃん強すぎないかな?」

「まぁな。一応、家を継いだ身だからよ」

「なるほど。遠いね」

 

 包丁を遠ざけ、軽く伸びをする切彦。

 

「さ、どっからでもかかってこいよ。まだまだやれんだろ?」

「勿論」

 

 新たな魔剣を創り、構える。切彦は包丁を持った右手をぶら下げ、一切力の入っていないリラックス状態をつくり、左手をポケットに入れて仁王立ち。

 

 一瞬の間の後、2人の姿は同時に掻き消えた。

 

 結菜が切彦正面から剣を振るうが、それを遥かに超える速度で結菜の斜め後ろまで踏み込んだ切彦が振り向きざまに包丁を凪いだ。

 

 もう一本の魔剣を創り出し、防御に使うが、拮抗することなく一瞬で砕け散る。その剣圧で1メートルほど後退るが、それを機に手を地面に翳した。

 

「『魔剣創造』!!」

 

 直後、地面から無数の魔剣が突き出し、切彦に襲いかかった。しかし、切彦は慌てることなくバックステップで範囲外に逃れる。その間に両手に新たな魔剣を創り出す結菜。

 

 それを見た切彦が、一度の跳躍で魔剣の群を飛び越え、結菜に切り掛かるが、両手の魔剣で迎えうつ。

 

 切彦の素人感丸出しの雑な剣戟。しかしながら、一撃一撃が必殺な上、動きが疾すぎる。まだまだ手加減しているのだろう。防御に徹することでなんとか捌くことができるが、攻めなければ戦いには勝てない。

 

 切彦が一際大きく踏み込み、その凶刃を放った。両手の魔剣が両方真っ二つにされ、返す刃が襲ってくる瞬間に、結菜は速度を重視した創造を行い、地面から1本の魔剣を切彦に向けて突き出す。本来は無数なのに対し、1本。紛れもなく結菜の中で最速を誇る一手。

 

(ちったぁ考えたじゃねぇか!)

 

 それでも切彦の刃は正確にその魔剣を破壊する。それを予想していた結菜は、間髪を容れずに魔剣を創造し、両手で全力の一振りをした。

 

 無論、切彦は防御したが、その軽い身体を遠ざけるには十分過ぎる威力だった。地面を浅く削りながら後退する切彦。

 

「ハァ…ハァ…結構いける気がしたんだけどね」

「否定はしねぇよ。こっちも予想外だったしな」

 

 呼吸を整えながら、されど如何なる動きにも対応できるよう全神経を集中させて。

 

「あんなことができるなんてな。『神器』ってのは意外と万能型らしい。でもよ、まだ実りきってないよな?俺が本気でやり合いたいのは『禁手』に至った奴なんだよ。イッセーのことを見ていると、さぞかし強いんだろうなって思うし」

「そこまで知ってるなんてね。ボクも早く『禁手』に至りたいよ。そうすれば、君の本気を見られるかもしれないからね」

「そう簡単に追いつかせはしねぇよ。ま、せめてもっと上質な刃物をオレに使わせるぐらいにならないと話にならないな」

「うっ……切彦ちゃんってビシビシ痛いところついてくるよね」

 

 容赦の無い言葉に結菜は軽く頬を膨らます。しかし、切彦の言葉は正論のため、返す言葉もないが。

 

「休憩はこんなもんでいいか。さっさと構えろ。漸く乗ってきたところだからよ」

「え?乗ってきたって?どういうこと?」

「準備運動にはもってこいだったぜ?次から本格的に行くぞ」

 

 みるみる結菜の顔色が青くなっていく。それもそうだ、本気の結菜の攻撃を難なくいなし、何度も負かしながら、今までのが準備運動だというのだ。つまり、陸上で例えるなら軽いジョグ。剣道で例えるなら素振り。その程度だったということだ。

 

「どうした?さっさとしろよ。っていうか、何で顔色悪くしてんだ?」

 

 何も答えない結菜に片眉を上げて切彦が問いかけるが、結菜は何も返さない。小首を傾げながら、まぁいいやと包丁を軽く振り、

 

「よし、始めるか」

 

 そこから暫く、結菜の悲鳴が途絶えることはなかった。

 

 

 

 

 アーシアが修行の大半を終え、朱乃とともに夕食を作っている頃、見事ボロボロになったイッセーたちが帰ってきた。

 

 イッセーは全身打撲のような跡が絶えず、結菜は切り傷が絶えず、キンジは羞恥心が絶えないようだ。イッセーと結菜は見るからに疲労困憊状態。キンジにいたっては、壊れたように独り言を呟いている。後ろでは夕乃と切彦はやりすぎたと反省しているようだ。子猫だけはキンジの様子に小首を傾げているが。

 

 痛々しいイッセーたちに困ったように笑う朱乃。アーシアは料理を中断し、イッセーと結菜の回復に専念することにした。心の痛みまでは癒すことができないため、キンジには何もできない。

 

(何故、ヒスッた俺はあんな感じになっちまうんだ……)

 

 己自身に絶望を感じるキンジは夕食まで自室で休むことになり、力無い背中を見送ったイッセーたちは、その背に同情の視線を向けることしかできなかった。

 

「傷はだいぶ無くなったと思うんですが……」

「あぁ、ありがとうアーシア」

「ごめんね、アーシアさんも修行で疲れてるのに……」

「そんな気にしなくても大丈夫ですよ。みなさんほどハードな修行ではなかったので」

 

 その言葉に、朱乃は確かにと独り頷いた。何とも分かりやすく夕乃と切彦は顔を背けている。傷が完治したイッセーと結菜は身体の調子を軽く確かめるが、どこにも異常はない。

 

 もう一度アーシアに礼を言い、イッセーと結菜はキンジと同じく夕食まで部屋で休みに行く。出て行く際に、入れ違いのようにリアスが入ってきた。

 

 朱乃とアーシアは料理を再開し、夕乃と切彦は椅子に腰掛ける。

 

「初日から随分と追い込んだわね。これから夜の修行だというのに……」

 

 少々呆れのはいったリアスの言葉に、眼を泳がせる夕乃と切彦。朱乃とアーシアは苦笑いを浮かべる。

 

「まぁいいわ。ちょっと意見を聞きたいのだけど、イッセーはレーティングゲームで力を発揮できそうかしら?」

「そうですね。生身での実力は相当ついてきてます。初めて一撃を入れられたので。『赤龍帝の籠手』の方は分かりませんが」

「一撃ってことは、あれだけ轟音を響かせ、そのほとんどがあなたの攻撃だったと。イッセーもよく死ななかったわね」

「……反省はしています」

 

 さて、と切彦に眼を向けるリアス。切彦は眼を泳がせて逃げようとするが、逃げ切れないことぐらいは分かっているため、大人しく白状する。

 

「……しーいずうぃーく。まだまだ甘さがありました」

「そう、あの結菜が一回も触れられないくらいだし、あなたの実力は私でも未知数だわ。でも、あまりやりすぎてはダメよ?」

「……すいません」

「よろしい」

 

 そこへ、アーシアから声がかかった。

 

「部長さんは今日何の修行をしていたんですか?」

 

 料理を作る手を休めず、リアスに問うアーシア。

 

「修行っていうほどでもないけど、ずっとこれをやってたわ」

 

 そう言って持っていたノートを掲げるリアス。表紙には何も書いていないため、それだけでは分からないが、所々に細かく付箋などが貼ってあり、分厚く膨らんで1つの研究日誌のようになっていた。

 

「今更悪足搔きも良いところだけど、せめて、ライザーの隙をつける戦術を1つくらいは考えなきゃね」

 

 リアスはリアスなりにこのレーティングゲームを勝つための準備を進めていた。今日の約半日を戦術を考えるために使い、そのために必要な力を、この期間でイッセーたちに身につけて欲しいのだ。

 

「ライザーとの戦いは、堕天使レイナーレの時とは別次元の戦いとなるわ。今回の修行で、みんなにはまた1つ成長してもらいたいの」

 

 リアスの言葉は、自分のことのみならず、眷族全員のことを考慮した言葉だった。グレモリー家は情の深い悪魔の家系と再び理解させられる。

 

「あらあら。これはアーシアちゃんもみんなに負けずに頑張らなければいけませんわね」

「はい!」

 

 朱乃が微笑みを浮かべながらアーシアの頭を撫でる。アーシアが笑顔を浮かべて大きく返事するのを、リアスたちは微笑ましそうに見ていた。

 

 

 

 修行は順調すぎるほど効率良く進み、最終日の前日までで、イッセーは倍加せずに夕乃と1分程度なら対峙出来るようになり、朱乃の監督のもと、まだ少しだけだが魔力を扱っての攻撃も使えるようになった。

 

 子猫は近接戦でのカウンター技が上達し、まだ甘いがキンジからライザー戦では活躍できるとお墨付きだ。尚、キンジは毎晩枕に顔を埋め、羞恥心で悶え苦しんでいた。

 

 結菜は切彦との模擬戦で、さらなる速度を手に入れた。また、『魔剣創造』の速度も上昇し、そこから流れるような動作で相手を切り伏せることが可能となった。

 

 アーシアはイッセーとともに魔力を扱う修行で、イッセーよりも長けた魔力の扱いができ、自衛程度だが攻撃魔法や防御魔法を覚え、『聖母の微笑』の回復速度の上昇、また、『聖母の微笑』の光をある程度の距離まで飛ばすことが可能となった。

 

 限られた期間の中で、最高ラインの成長だろう。これ以上は流石に時間が足りない。それでも、リアスは予想を遥かに凌駕する成長ぶりに満足していた。

 

 

 

 そして、修行最終日前日の夜。リアスは1人、リビングで戦術を纏めていた。考えをする時は眼鏡をかけた方が頭が回転する気がするため、眼鏡をかけながら戦術ノートを確認している。

 

 そこに、1つの足音。水を飲みに来たらしいイッセーがリアスを見つけた。

 

「部長の起きていたんですか」

「えぇ。丁度良いわ。少しお話しましょうイッセー」

「それはいいですけど、部長って眼が悪いんですか?」

「これは気分的なものよ。眼鏡をかけていると頭がよく回る気がするの。フフッ、人間界での生活が長い証拠ね」

 

 イッセーはリアスの隣に座り、リアスの戦術ノートに眼を走らせる。そこには数々のフォーメーションが纏められ、1つ1つの作戦について事細かく書き記されていた。どれもよく考えられた内容だ。しかし、イッセーは難しい顔をし、リアスの顔に視線を移すと、リアスは軽く肩を竦める。

 

「分かっているのよ。この戦術がなんの気休めにもならないことはね」

「フェニックスで大体の予想はついています。……不死身、なんですよね。ライザーは」

 

 意外そうな顔をするリアス。それもそうだろう。リアスから言おうとしていたことを、イッセーが既に知っていたからだ。

 

(施設の誰かの入知恵もありそうね。フェニックスの名は有名だし、悪魔のフェニックスもほとんど能力の差異は無いからそんなに難しい内容でもないもの)

 

 夕乃辺りからも何か言われていそうだとリアスは自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「なら、今回の戦いが厳しい戦いになることも分かるわね?」

「はい。俺自身、勝率は良くても五分無いと思っています」

 

 とても現実的な数字だ。ここまで修行でレベルを上げても、同じ土俵に立つことすらできていない。しかも、それの大部分を占めているのが不死の存在。今更勝負を受けたことに後悔はないが、こうも現実を突きつけられると、いくらリアスでも顔が僅かに曇る。

 

 そこに、でも、とイッセーが言葉を紡いだ。

 

「たとえ不死だろうと、俺は主人である部長の『兵士』として、勝利を掴み取ります。俺の日常から部長が消えるのは断固として嫌です。俺がここに居られるのは、リアス部長のおかげですから」

 

 瞳の奥の揺るぎない意思。真っ直ぐな視線でリアスを見つめる。不意に心臓が大きく脈打ち、頬が赤くなるのをリアスは感じた。初めて芽生えた感情に、鼓動が早くなる。さっきまでの不安が一瞬で吹き飛ばす何かが、その言葉の中にあった。

 

(これって……もしかして……)

 

 どんな男性にも感じなかった感情を上手く表現できないリアス。ただ、それがとても心地いい。

 

「部長、顔が赤いですけど大丈夫ですか?もしかして調子が悪いとか?」

「あ、だ、大丈夫よ。どこも悪くないわ。むしろ、良くなったかも」

 

 珍しく取り乱すリアスに、訝しげな表情をするイッセー。それでも、本人が大丈夫と言うのだから大丈夫なのだろうと割り切る。

 

「それで、1つ聞きたいこと、それの内容によっては頼みたいことがあるんです」

「何かしら?遠慮せずに言っていいわよ」

「俺の勘違いであったならば謝ります。では……部長は俺の力を封印とかしていませんか?前まで使えた『禁手化』ができなくなってまして」

 

 直後、リアスの眼が細くなった。纏う雰囲気も、先ほどとは真逆になり、難しそうな顔になる。

 

「……だとしたらどうする?」

「できれば、それを解いてほしいです」

 

 即答する。当たり前だ。リアスも分かっているようで、困ったように嘆息しながら片手で額を抑える。

 

「確かに、私はイッセーの身体に封印をしたわ。イッセー自身の力が強すぎてね」

「というと?」

「簡単に言えば、『悪魔の駒』が身体に馴染んでいない時から強すぎる力を持つと、駒がその力に耐えきれなくなって肉体諸共消滅してしまう可能性があるのよ。追々話そうとは思っていたけれど、やっぱり気づいてたのね」

 

 頭痛に悩むように額を揉み解しながら、リアスは言葉を続けた。

 

「本来なら、数日程度で馴染むのだけど、流石は赤龍帝のみならず、複数の力を持つ人材だわ。まだ時間がかかりそうなのよ。封印自体も多重にかけて漸く抑えることに成功したし。いくつかは解けても、全ては解けないわね」

「つまり、次のゲームまでに『禁手化』を取り戻すことは不可能ということですか」

「そういうことよ。黙っててごめんなさい」

 

 リアスは素直に頭を下げる。イッセーとしては、何か理由があるものだと理解していたし、悪気があってしているわけではないと分かっていたので、即座に頭を上げさせた。

 

「封印した理由は理解しました。早めに馴染むよう、俺も努力します。そろそろ明日に備えて寝ることにしますね。お疲れ様でした」

 

 そう言って椅子から立ち上がる。その様子を見ていたリアスは、口から溢れるように言葉を発した。

 

「……本当にあなたって優しいのね」

「……俺はただの弱い存在ですよ。優しくもなんともない、自分のために力を求める弱者です」

 

 返ってきたのは自虐。そのままリアスの返事を待たず、背を向けて部屋に向かうイッセー。その背中が見えなくなるまで見つめたリアスは、誰もいなくなったリビングで1人呟く。

 

「優しいわよ。だって、あなたは私を『グレモリー』ではなく、『リアス』として接してくれるから」

 

 リアスの本心を聞く者は誰一人していない。

 

 決戦の日は、もうすぐそこまできている。




ご感想、誤字脱字等のご指摘どうぞよろしくお願いします。

いつも読んでくれる皆様に感謝を。

では、また次回でお会いしましょう。
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