希望と絶望を司る   作:虹好き

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どうも虹好きです。

ちょっと展開早かったかもしれません。

次で2巻終了の予定です。

では、本編どうぞ。


崩月の戦鬼

 ーーいつもの地獄のような修行の後、突然法泉は小さな少年にこう語った。

 

「知ってっかイッセー。荒事ってのは案外、力でなんとかなったりすんだよ。どんなに正論吐こうが、そこに力が無けりゃあただ吠えてるだけの犬ころと同じだ」

 

 ーー不思議そうに見上げる少年に優しく笑みを浮かべ言葉を続ける。

 

「逆にな、いくら暴論を叩きつけようと、力があれば正論にできちまう。滅茶苦茶だろ?でもよ、それが通用すんのが俗に言う裏社会だ」

 

 ーー力こそ正義。それが裏の世界。その時の少年には大きすぎる壁だった。

 

「おめぇはその圧力に負けねぇ程度には力つけねぇとよ。おめぇが守りてぇって言ってるものは大きいんだぜ?」

 

 ーー強く頷く少年の頭を、法泉は暫くの間撫でていた。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 ゆっくりと瞼を開く。見知った天井、見知ったベット、見知った空気、見知った部屋。紛れもなくイッセーの自室だ。今の時間帯は夜のようで、倦怠感が抜けない身体を起こして周りを見る。

 

『起きたか、相棒』

 

 イッセーの内に響くドライグの声。何故か少し懐かしい感じがするのは恐らく、イッセーが決して短くは無い間眠りについていたからだ。

 

「……何日眠ってたんだ?」

『3日だ』

「長いな。ゲームの方は俺たちの負け?」

『相棒が倒れた後、リアス・グレモリーが『投了』してな』

「そっか……」

 

 そこまで話し、記憶が蘇り出す。あの時、イッセーは4度分の倍加を施し、『神速の天龍』で屋上へ跳んだ。そこには今にも火球に呑まれそうなリアスがおり、無我夢中でリアスと火球の間に割って入り、リアスを守ったのだ。4倍の防御をしていながらも、体力の限界がきていたらしく、何かをリアスに言ったまでは覚えているが、何を言ったかまでは覚えていない。リアスに抱きしめられたと同時に意識がブラックアウトしたらここにいた、というところだ。

 

 勝ちを捧げると約束しながら、ライザーに勝てない自分自身に恥を感じ、静かに俯く。

 

『自分を責めるな。相棒は最善を尽くした』

「でも、勝てなかった」

 

 ドライグのフォローも、イッセーはまともに受け取れない。結果が変わらないからだ。悔いしか残らない戦いだった。

 

 そこでふと、イッセーの部屋の扉が開き、そこからアーシアと夕乃が現れた。アーシアは、イッセーが起きてるのを見た途端に抱きついてきて、夕乃も安堵の表情を浮かべて近づいてくる。

 

「良かったです……ずっと眼を覚まさなかったので」

「迷惑をかけたね。身体の方は大丈夫だよ」

 

 涙目のアーシアを撫でながら、イッセーは夕乃に声をかけた。

 

「ご迷惑をおかけしました」

「いいえ、あの戦闘は仕方が無いでしょう。フェニックスの殿方の実力は確かに強大、疲弊していたとはいえ、イッセーさんがたった一度の攻撃で気絶したのですから」

「……部長はどうなりましたか?」

「今、フェニックスの殿方と婚約披露宴の最中とのことです」

 

 イッセーの腕が微かに動いた。命を救われておきながら、守ることすらできなかった自分に恥じて。それを見た夕乃は、イッセーの心情を察してか、いつもより柔和な笑みを浮かべてイッセーの頭を優しく抱きしめる。

 

「悔しいでしょう?これがもし死闘ならば、リアスさんの命はありませんでした」

「……えぇ」

「失敗は誰にでもあります。ですが、決して失敗してはいけない(・・・・・・・・・)時というものもまた、誰にでもあるんです」

 

 優しく、しかしながら厳しくイッセーを叱る夕乃。アーシアも顔を上げ、夕乃を見ていた。イッセーは、夕乃の言わんとしていることを理解し、一つ頷く。

 

「あなたに覚悟はありますか?」

「はい」

「あなたに強く想う心はありますか?」

「はい」

「なら、次はありません。イッセーさんの答えを見つけてきてください」

 

 そう言って差し出されたのは、1枚の転移陣が記された布。何故夕乃がこれを持っているのかは不明だが、師匠代理の姉的存在の夕乃のことは信じている。イッセーは無言で受け取ると、静かに頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

「婚約披露宴の会場に直接赴くことができるようです。頑張ってくださいね」

「はい」

「イッセーさん、本当に行くんですか?」

 

 アーシアに眼を向ける。瞳を潤ませ、今にも泣き出しそうな表情だ。イッセーの身体は確かに全快ではなく、無茶をすれば、再び倒れる可能性も否定出来ない。それでも、イッセーは首を縦に振った。

 

「俺は、あの人に命を救われた。だから、俺もあの人のため、命をかけてあの人を救うよ」

 

 イッセーの揺るぎない覚悟。もう止めることは不可能と悟ったのか、アーシアはゆっくりと離れていく。夕乃に頭を撫でられ、夕乃も立ち上がった。

 

「イッセーさん、一つだけ約束してください」

「なんだい?」

「絶対に、生きて帰って来てください」

「あぁ、必ず帰って来る。俺の居場所はここだ」

 

 イッセーの返答に微笑み、アーシアは夕乃と共に部屋から出て行った。入れ替わるように入って来たのはキンジと切彦。既に準備は万全でいつでも行ける。

 

「夕乃さんから貰ったな?殴り込みに行こうぜ、兄弟(ブラザー)

「グレイフィアから俺らも行けるよう許可は貰った。取り戻すんだろ?部長さんを」

「そうだな。……ところで、悪魔のパーティーはどこで開かれてんだろ?」

「はぁ、聞いてないのかよ。なかなか面白い場所だ。この世の地獄、所謂"冥界"らしい。本来なら人間は入れないみたいだが、潜在能力の高い人間ならそこの環境にも耐えられるみたいだ」

「……ん?なんかナチュラルに話されてるけど、内容的には相当アレな気が」

「気にしちゃダメだぜお兄さん」

 

 

 

 ライザーは婚約披露宴での正装姿で、1人思案顔をしていた。イッセーが倒れ、リアスが『投了』をしたゲーム。グレモリー眷属は、自分の眷属に深い情愛を持つと有名だが、ライザーもそれに負けないほど眷属を大切にしていた。

 

 そのため、自分以外の眷属全員が戦闘不能となった時、ライザーは一瞬だけ我を忘れ、リアスの眷属を一撃で追い詰める炎を放ってしまったのだ。

 

 そもそも、今回の『レーティングゲーム』での作戦を考えたのは『女王』であるユーベルーナ。ライザーは『犠牲』を伴う作戦はあまり好まないのだが、眷属たちの鬼気迫る表情に負け、その通りに実行することにした。正直、大健闘だったと思う。実の妹であるレイヴェル・フェニックスも今回の戦いのみとライザーの眷属に入り、朱乃たち相手に眷属たちの指揮をとっていたほどだ。

 

(我ながら、良い妹を持ったよ。だが、あいつの『王』はあいつが見つけなければな)

 

 それでも進行を止められなかったのは、リアスの眷属たち個人個人のスペックが恐ろしく高く、ここでという場面で会心の一撃を決めることが出来たからだろう。それと、イッセーを足止め出来る存在がユーベルーナしかいなかったため、ライザーの最大戦力を割けなかったことも理由の一つだ。

 

(結局はこちらは勝ったが、やっぱあんな勝ちでは俺は満足できないな。サーゼクス様も快く了承してくれたことだし、何よりも、リアスのあの表情はあまり見たくない)

 

 ライザーが1人で考え込んでいる理由。それの最大の問題は、リアス自身だった。ゲーム終了後、イッセーが眼を覚まさないことを聞かされてから、ずっと表情の変化が乏しくなっているのだ。いつもの気丈な彼女らしくない。時折、瞳から涙を流している姿も見かける。今宵の婚約披露宴では、イッセー以外のグレモリー眷属が出席することとなっており、今のリアスを見たらどうなるかライザーは心配だった。

 

 だが、リアスはリアスなりの覚悟を決めているようで、ライザーに対し、今までよりも柔らかく接するようになり、結婚の件も承諾した。まるで、心に空いた穴をその覚悟で無理矢理埋めるように。リアスは変わった。

 

「ライザー・フェニックス様、準備が整いました」

「分かった。すまないね」

「いえ、これも仕事ですので」

 

 婚約披露宴の準備を終えたメイドの1人がライザーを呼びに来た。メイドの案内に従い、一呼吸してからライザーは会場へと足を進めた。

 

 

 

 リアスの姿は豪華なウェディングドレス。今、会場ではライザーが他の上級悪魔や貴族、魔王でありリアスの実の兄でもあるサーゼクス・ルシファーなどに挨拶をしている途中で、リアスもそろそろライザーに呼ばれるところだ。

 

(イッセー、眼を覚ましたのかしら?)

 

 こんな時でも考えてしまうのは己の勇敢なる『兵士』。せめて、もう一度だけ会いたいと考える。最後まで身体を張り、リアスを守り抜いた優しい『兵士』。

 

 覚悟は決めた。リアスはこれからの人生を家のために使うと。

 

 ライザーからの呼び声が聞こえ、リアスはゆっくりと会場へ足を踏み入れる。

 

 しかしながらその背は、年相応の少女の背であった。

 

 

 

 転移陣で着いた場所は、紫色の空をした世界。少し先に見える大きな建物が婚約披露宴の会場のようだ。イッセーたちは今物陰に潜んでおり、その建物を確認していた。

 

「警備が少し多いな」

「でも派手にやるんだろ?」

「今回の件はどうやっても大事になんだから穏便には済ませないと思うな」

「ていうか、2人とも本当に何ともないの?ここの空気吸って」

 

 イッセーは自然体でいるキンジと切彦に聞くが、2人はどちらも軽く首を傾げて応える。

 

「何か違和感感じるが、それだけだ」

「オレも同じだな。戦闘に支障が出るほどでもねぇし、何とかなんだろ」

「……ならいいけど」

 

 本来、地獄の別名でもある冥界に人間が来ると、あまりの環境の違いに最悪死に至るのだが、それすらも凌駕するのが施設の人間。潜在能力が既に人間という個体の中に収まりきらないのだ。率直に言ってしまえば、人間をやめている。それは悪魔になる前のイッセーにも言えることだが、本人は全く自覚していない。

 

 警備を警戒しながら、イッセーは使い終わった転移陣をポケットにしまった。

 

 キンジと切彦から転移陣のことを聞いた際に、これはライザーからの果し状だと教えられた時は驚いた。何でも、ライザー自身が『レーティングゲーム』での勝利を納得せず、サーゼクスを通じて最大戦力であろうイッセーに勝負を申し込んできたのだとか。サーゼクスもこれを快く了承。というか、逆に眼を輝かせたという。魔王がそれでいいのか疑問に思うが、イッセーからすれば、それはとても魅力的な申し出だった。

 

(主の日常を取り戻したければ、それ相応の力を掲示しろって感じか?師匠に言われたな、荒事ってのは大抵力でなんとか出来るって)

 

 軽く拳を握り、キンジと切彦と息を整え、ーーーー3人揃って正面の門を目指して走り出す。警備の悪魔たちが気づいたようだが、銃を構えたキンジとバターナイフを手に持つ切彦が率先して足止めをし、イッセーのための道を作ってくれた。事を大きくしすぎないため、決して殺してはいない。

 

「速攻で終わらせて追いつくから、お前の本気を見せてみろ兄弟(ブラザー)!」

「楽しみにしてるぜ!」

「それが目的か?まぁ、やるからにはしっかりとやるさ!」

 

 単純にイッセーの本気が見たいがためについて来たような激励を背に、イッセーは力一杯に会場の扉を蹴り開けた。

 

 

 

 

 ライザーの口からリアスの紹介がされている中、ライザーは会場の外が騒がしくなっているのを感じた。思わず口角が上がり、口を閉じてしまう。周囲の上級悪魔や貴族も異変に気づき始め、外へと警戒し始める中、リアスの眷属として婚約披露宴に参加していた朱乃、結菜、子猫は頭の中に1人の仲間の姿を思い浮かべ、リアスに至っては、眼を見開いて扉を見つめていた。

 

 やがて、外の喧騒は会場に近づき、扉の前まで辿り着いたらしく、会場内にも外の状況がよく分かる程度まで配置した警備の怒号が聞こえた。その怒号すら流水の如く流し、勢い良く扉を蹴り開ける1人の人物。

 

「駒王学園オカルト研究部兼リアス・グレモリー眷属『兵士』、兵藤一誠。主を迎えに上がりました」

 

 静かに、されどその声は会場内に響き渡り、リアスの耳にハッキリと届いた。溢れる涙。朱乃たちも驚きの表情と共に笑みを浮かべる。

 

 他の上級悪魔と貴族は突然の事態に混乱を生じ得ないが、それを分りきっていたかのように1人のリアスによく似た男性が手で制し、声を張り上げた。

 

「みなさまこれは何もイレギュラーな事態ではないのでご安心を。彼はライザー君が正式に招待した者です。先ほど名乗り上げたように、我が妹であるリアスの眷属の1人」

 

 イッセーはその男性に眼を向ける。リアスの兄。座っている場所は婚約披露宴のため親族の席ではあるが、その身に纏う魔力の大きさは尋常じゃない。和かに話しているが、別に外用の顔と言うより、単純に裏表が無いようにも見えた。それでも、相当の手練れと見てまず間違いないだろう。

 

 そして、そこで漸く『レーティングゲーム』の時にグレイフィアがリアスの兄は魔王と言っていたのを思い出した。

 

(え?あれが魔王様?いや、あれって失礼だな。でも、あんなフランクな感じでいいの魔王って。でも、俺とライザーの決闘を眼を輝かせて了承って相当だよな)

 

 イッセーは何とも微妙な表情しかできない。今も上級悪魔の1人が何か物申しているが、何とも朗らかにイッセーとライザーを決闘させ、勝った方の願いを一つ叶えるというところまで話が進んでしまった。

 

(いや話なんか拡大してんだけど)

 

 なんだかんだ話はひと段落つき、ライザーが会場のステージから降りてイッセーへと近づいて来る。その顔は相変わらず憎めないほど爽やかで、触れたら火傷しそうな熱を持っていた。

 

「話は聞いているだろう?」

「要するに本気の俺と戦いたいって受け取ったよ。全ての眷属を倒した上で改めて部長にプロポーズでもするのか?」

「なに、単純に俺なりのケジメってやつさ。あのゲームはハッキリ優劣が別れていたし。俺から誘わなくてもイッセーなら殴り込みに来たんじゃないか?」

「まぁ、命を救ってもらったわけだし、主が望まないことは眷属も望まないっていうかなんというか」

 

 イマイチ言葉が纏まらないが、要するにイッセーが言いたいことは簡単なことだ。

 

「まぁあれだ。命を救われた以上、その人のために俺は命をかける」

「……大きく出たな」

「あぁ、覚悟は決めてきた。この前のゲームみたいにはならないから、お前も本気で来いよライザー」

 

 イッセーの大胆発言。ステージのリアスはその言葉に頬を染め、眷属のみんなはイッセーの覚悟に驚愕し、サーゼクスはイッセーに俄然興味が湧いた。

 

 即席で造られた戦闘空間の中にイッセーとライザーは転移させられ、荒廃した戦闘闘技場のような場所に降り立った。

 

 即席の割にはイッセーたちの会話も拾える高い技術の空間。両者対峙する中、ライザーはスーツを着崩し、いつものワイルドな格好に戻す。その瞳には燃えるような熱を潜ませ、その背からはフェニックスの象徴たる炎の翼が現れた。

 

「俺がどうしてイッセーと決着をつけたかったか、その本当の理由には辿り着いたかな?」

「さっきので合ってないのか?」

 

 イッセーの返答にライザーは苦笑する。

 

「やっぱり気づいてないか。いや、なら良いんだ。ただ、リアスの心は俺に向いていない。それだけさ」

「……お前って部長が好きなんだな」

「まぁ、他の邪な思惑を考える競争者を蹴り落とすくらいにはね。だが、それでも俺は俺のやり方で、リアスを幸せにしたいと思っている。そのためにはまず、前回のゲームを俺とリアスが納得のいく形で終わらせたい」

「なるほど。つまりこれはゲームでまともに相対しなかった俺を倒し、本当の意味での勝ちを手に入れたいと」

 

 今度はイッセーが苦笑した。やはり、ライザーは良い奴だ、と。しかし、ライザーの言う通り、リアスは形こそライザーの物だが、その心まではそう簡単に手に入れることはできない。そして何よりも、イッセーはリアスのいない日常を望んでいない。

 

「やっぱお前とは良い関係を築けそうだよ。でも、今回の件に関してだけは本気だ。"リアスを取り戻したいなら殴り込んで来なさい"。今回の招待は言わばそういうこと。それを魔王様を通じて俺に伝えてきた。つまりだ、これは魔王公認。この戦いに勝てば、御家同士のいざこざなんて無視して堂々と部長を連れて帰ることができる」

 

 会場でその言葉を聞いたリアスが息を呑んだ。ライザーも眼を軽く見開き、驚きを露わにしている。サーゼクスも感嘆の吐息を漏らした。

 

「ーー流石、頭の回転が早いな。フェニックスの涙を使用し、尚且つ『犠牲』まで使ったユーベルーナを倒しただけのことはある。なら、そろそろ始めようか」

「あぁ」

 

 ライザーは両手に炎を宿し、イッセーを睨む。イッセーはそれを一瞥し、右足を引いて半身になり、姿勢を低く構えた。その状態から、会場のリアスに語りかけるように紡ぐ言葉。

 

「ーー修行最終日の前日の夜、俺は言いましたよね。あなたのいない日常は嫌だと、俺がここにいられるのはあなたのお陰だと。そして、あなたの、リアス・グレモリーの『兵士』として、勝利を捧げると言いましたよね」

 

 心の中に施された、厳重な封印を解く。

 

『やるのか、相棒』

 

(あぁーーー今本気にならず、いつなるんだ)

 

 イッセーの中にある"人でありながら人ならざる者の証"。それを解放する。

 

「ーーだから俺は、死ぬ気であなたを救います」

 

 骨が裂けるような激痛。それに続いて、右肘の皮膚を内側から何かが突き破った。血を滴らせたそれは、ほのかに輝く水晶にも見える、鋭角な物質。そこから熱風の如きエネルギーが全身に流れ込んでいく。身体中の血液が入れ替わるような興奮。身体中の細胞が生まれ変わるような歓喜。込み上げる破壊衝動。暴れ狂おうとする手足を統率し、イッセーは己の行動を定める。

 

 倒すは1人、救うも1人、ーーーー果たす力は我にあり。

 

 ライザーは頬に一筋の汗が流れるのを感じた。変化なんて生易しいものじゃない。まるで、目の前の標的が生まれ変わったかのような感覚。オーラの量がゲームの時の何倍にも膨らみ、今まさに爆発しそうなぐらいまで溢れていた。外側が静の気とすれば、さしずめ内側は荒れ狂う動の気だろう。

 

 リアスは、会場でイッセーの言葉に涙した。朱乃たちが近寄りみんなでイッセーを見守る。イッセーのオーラは別空間だけに留まらず、会場全体をも震わせており、サーゼクスも驚きのあまり席から立ち上がるほど。

 

 ライザーは正面からイッセーを見定め、両手の炎を更に一回り大きくした上で、イッセーに問いかけた。

 

「命をかけるって言ったな。なら、それ相応の対応をしなければな。俺も命をかけさせてもらうよ」

「不死のくせにか?」

「小さいことは気にしない。さて、始めるか」

 

 滾る炎と闘気。まさに一触即発。二つの力で空気すら震える空間。

 

「純血上級悪魔フェニックス、ライザー・フェニックス」

「崩月流甲一種第二級戦鬼、兵藤一誠」

 

 イッセーにとって初めての名乗り。死んでも退かない意志表示。

 

(良いよな、師匠に夕乃さん。あの人を救うことは、命をかけるだけの価値がある)

 

 互いの前進から戦いは始まった。両手に炎を宿しながら走るライザーの懐に、ほぼ一歩で踏み込んだイッセー。死ぬ気な以上、手を抜くことはせず、力一杯に拳を突き出す。それに驚愕したのはライザー。一瞬、イッセーの姿が霞んだかと思えばいつの間にか懐で拳を振り抜く寸前まで動作を終了させているのだから。

 

 しかし、そこは上級悪魔の意地を見せ、あえて躱そうとせず、拳を受ける寸前に両手の炎を爆発させようとした。ゲームの時とは二つとも2倍以上の大きさを誇っており、一発喰らえば復帰したてのイッセーだと多大なダメージを負うことになる。そこを狙って挟み込むように両手をイッセーに振ろうとしたがーーーー考えが甘かった。

 

 ライザーの視界が一瞬真っ黒に染まり、再び光が宿った時にはイッセーとの距離は数十メートル空いていた。不死でありながら身体全体が軽く麻痺している。後ろを見れば闘技場の壁がライザーを中心に蜘蛛の巣状の亀裂を走らせ、あと一撃加えれば砕け散るであろう有様。

 

 ライザー自身もフェニックス家自慢の自己再生を行っており、身体全体が修復されている感覚がする。イッセーへと視線を戻すと、拳を振り切ったままの状態でこちらを睨んでいた。

 

「ーーこれほどとは、ね」

 

 つい言葉に出てしまった素直な賞賛。これは易々と使えない剛力だ。一体あの"角"は何なのか。そんなことを考えそうになったが、軽く頭を振り、ライザーは思考を切り替える。甘く見ていたつもりは無い。だが、ライザーの五感を持ってしても反応すらできない速度、カウンターすら許さない圧倒的な剛力。これが、"崩月"の戦鬼。

 

 イッセーが再び姿勢を低くし、足に力を溜めているのが見えた。ライザーは炎の翼の放出力を高め、最大速度を出せる準備をし、同時に飛び込んだ。

 

 ライザーの速度が一気に上昇し、イッセーに翼から炎の塊を撃ち出しながらジグザグ状に闘技場を駆け巡る。イッセーはその全てを躱し、更にライザーの動きを読んで先回りまでしてみせた。ライザーは炎の槍を5本形成した上ですぐさま撃ち出すが、イッセーは軽く拳で粉砕し、ライザーへと肉薄する。

 

 しかし、それを待っていたとばかりにライザーは右腕を真上に掲げ、長大の炎の大剣を創り出した。

 

「『爆炎剣』!」

 

 絶妙なタイミングで振り下ろされる炎の大剣。爆発能力が付与されているため、相手に確実な衝撃を与えることが可能な魔術剣。しかも使われている炎はフェニックスの炎。そこらの炎より圧倒的火力の一撃がイッセーを襲う。

 

 それに対するイッセーの対応はとても簡単なものだった。殴り飛ばす、ただそれだけ。

 

「ーーー意外と軽いな、お前の一撃は」

「ーーーッ!?」

 

 拮抗もせずにライザーの『爆炎剣』はイッセーの拳から放たれる衝撃波に敗け、ライザーの右半身を根刮ぎ抉り取った。イッセーはそれだけで止まらず、殴った勢いを殺さず、二歩目を踏み込んでその場で回転。軸足となる右足に強い摩擦力を働かせる。更に踏み込み左足にその回転力を乗せて回転力を増加、竜巻のような砂埃を舞い散らせながら最後に、右足を正面で驚愕の表情を隠さないライザーの左斜め前に正確に踏み込んで、強烈な裏拳をライザーの右頬に放った。

 

 半身の回復が終わらないライザーはバランス感覚もまともに知覚出来ず、強烈な衝撃を受け、身体を捻らせるように回転させながら、先ほどのように闘技場の壁に激突した。まだイッセーは止まらない。

 

 強烈な衝撃を頭部に受け、不死と言えど脳の震えによって平衡感覚すらままならないライザーの目の前に一瞬で踏み込むイッセー。この好機を逃さず、これで決める。

 

 イッセーから放たれる剛力の連打。一つ一つが本気の殺意を込められており、ライザーに復活の隙を与えること無く全身を破壊する勢いでラッシュをする。

 

 イッセーの眼に慈悲は無い。ライザーの顎を蹴り上げ、空中に高く飛ばす。力無くされるがままのライザー。炎の翼も消え失せ、ボロボロだが、その眼はまだ闘志が宿っていた。何とか自己再生を間に合わせ、五体満足状態 に治した。

 

 そのライザーにトドメを刺そうとイッセーが空中へと跳ぶ。ライザーを楽々越え、右腕をライザーに向かって構える。ライザーも最後の悪足掻きとばかりに両手に炎を溜め込み始めた。

 

 イッセーに撃たれる二つの大火球。それを拳一振りで払い退けると、イッセーはライザーに向かって弓を張るように拳を引き、一気に解き放った。その一撃に穿たれる直前、イッセーはライザーが笑ったように見えた。

 

「これで、終わりだ」

 

 その拳は確実にライザーを撃ち抜き、その衝撃波は闘技場をほぼ全壊させた。ライザーはフェニックスでありながらイッセーからの傷が癒えず、気絶している。そこへ、イッセーを勝者と宣言するアナウンスが響き渡った。




読めば分かると思いますけど、崩月の戦鬼が強すぎるだけであって、ライザーが弱いわけでは決して無いんですよね。

予想外に爽やかなライザー、果たして次回はどうなることやら。

ご感想、誤字脱字等のご指摘、どうぞよろしくお願いします。

また次回でお会いしましょう。
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