何時もより少し長めです。
勢いで書いてたら途中から自分でも何書いてるか分からなくなりまして…。
これまたオリジナル要素てんこ盛り状態になっております。
それでは本編お楽しみください。
誰もが寝静まった深夜、切彦は1人で外に出歩いていた。手にはどこから持ってきたのか両刃ノコギリを持ち、いつもの眠そうな表情ではなくヤンチャな少年を思わせる鋭いツリ目。
暗く、風が吹く音しか聞こえない夜道を、何か探すような仕草をしながら歩く。
何故こんな時間に外出しているか。それは単純なことで、結菜が心配なのと、また良からぬことに手を貸しているであろうフリードがいないか探すためである。
結菜がいつ行動しているかは読めないが、フリードに関しては静雄からの情報でまだこの町に潜伏していることだけは分かっていた。何でも、まだ神父狩りは続いているらしく、この町に現れた神父の殆どが謎の失踪を図っているらしい。結菜が一度その現場でフリードに出会っていることから、これに関してはほぼ確実当たっているといえる。
(次会ったらこの前の借りを返さねぇとな)
切彦は一度、レイナーレに雇われたフリードと戦ったことがある。その時は実力の半分も出さずにフリードは逃げを選択した。その件に対し、切彦は異常なまでの苛立ちを感じていた。3発ぐらい本気で切り裂かなければ気が済まない。
(それに、お兄さんの負担を少しでも減らすことができれば万々歳だ)
ノコギリの柄で肩を叩き、綺麗な夜空を眺めながらそんな事を考える。初めての感情を教えてくれた、優しく強い、それでいて脆く弱い大切な人。外面では強さを見せながら、内面ではよく泣いている人を。
(よく突っ走るからな、オレが支えてやんねぇと……す、好きな訳だし)
人知れず赤面する顔に、マフラーを上げて口元を隠すことで羞恥心を和らげようと試みる。"殺し屋"として生きていた頃、恋愛など知らなかった切彦を変えたイッセー。本人は無自覚かもしれないが、あの時の出来事は今も鮮明に記憶していた。だからこそイッセーが一度死んだ時、我を失うほど激昂したことを覚えている。
そこで、突然切彦は表情を引き締めた。一般人とは思えない、明らかに異常な気配を纏った存在を感知したからだ。
(フリードじゃない……結菜でもない。だがこの感じ、オレは知っている)
切彦が隠しもせずに放つ殺気に気が付いたのか、相手も切彦に向かって歩いて来た。距離が近くなり、切彦は露骨に嫌な顔を、相手は微かに上げた口角と対照的な表情で向かい合う。
「久しぶりだな"ギロチン"」
最初に口を開いたのは相手の方だ。"殺し屋"としての通り名で切彦を呼ぶ。"殺し屋"同士、相手の名を知る機会というものは少ない。"ギロチン"のように、殺しの特徴を捉えた二つ名や通り名で呼び合いをするからだ。だから、顔は知っていても名前は知らないというのが殺し屋の中では一般的なものだったりする。今もまさにそのままのもので、相手は切彦の通り名を知るだけで『斬島切彦』という本名は知らない。そして、それは切彦にも言えることで、目の前の相手を二つ名で呼ぶ。
「なんでテメェがここにいんだよ"レッドキャップ"」
切彦としては出来る限り会いたくなかった同業者だ。
「釣れないこと言うなよ、仕事さ。お前こそこんな時間にお出かけとは、獲物の首を狩りに行くのか?」
「色々あんだよ。今はテメェに割いてる時間なんてねぇし、理由を教える必要もねぇだろ」
そう言って横を通ろうとする。これも"殺し屋"の中でのルールのようなものだが、同業者と鉢合わせたとしても仕事内容を軽々しく聞いたり、口にしたりしてはいけない。腕に自信があろうが、戦場では何が起こるか分からないため、極力情報が相手に伝わらないようにするためのものだ。
故に、切彦は"レッドキャップ"との会話を早々に切り上げようとしたのだが、そこで新たな気配に気づき、意識をそちらへと向ける。そこにいたのは少々物騒な装備をした神父で、憎々しげに"レッドキャップ"を睥睨していた。
「見つけたぞ。最近我々の同士たちの多くが謎の失踪を遂げている中、貴様の存在が現場の付近に必ず確認されていることが分かった。何故ここにいるのかは知らんが、それを含め貴様には色々と問いただしたいことがある。共に来てもらうぞ"レッドキャップ"」
いきなり現れ物騒な物言いをする神父だが、言動から察するに"レッドキャップ"が聖剣関係の問題に関与しているようだ。切彦は思わず溜息を吐いてしまった。
(大体、こいつ程の実力者が此処にいる時点で怪しいもんな)
しかし、溜息は"レッドキャップ"に対してのものではない。命知らずの神父に対してだ。どうやら教会の裏の人間は、世界の闇に蔓延る"殺し屋"の恐ろしさというものを知らないらしい。口頭で喧嘩を売れば、賭けるのは己の命。"殺し屋"の沸点は基本的に低い。要するに喧嘩っ早い輩が多いわけだが、"レッドキャップ"はその中でも片手で数えられるほどトップクラスの短気さを持つ男だ。
いつも無表情ながらその実、殺しに関しての拘りは強く、狙った獲物は動かなくなるまで徹底的に
「ん?俺に何の用だ神父さん。今彼女と話していたんだけど、それよりも神父さんの用は俺にとって大切なことになるのか?」
今も、多少面倒そうな表情をするものの、そこに殺意などは片鱗一つ無く、髪の色などが特殊でなければそこら辺によくいる一般人と見分けがつかない。神父は沈黙をするだけで返事をせず、"レッドキャップ"は切彦に少し待っていろとジェスチャーを送る。
(別に待たなくても良いが、無視したら無視したで後が面倒か)
切彦はポケットに手を突っ込み、事の行方を見守ることにした。既に哀れな神父に対しての合掌も心の中で済ませた。
"レッドキャップ"が切彦から離れ神父に近づくと、それを待っていたように神父は口を開く。
「下手な動きはしないことだ。教会の神父はまだまだいるのでな、貴様が暴れたところで「煩いな、サッサと黙れよ」ーー」
言葉は最後まで続かなかった。"レッドキャップ"問答無用で首をヘシ折ったからだ。神父には何が起こったのか理解できなかっただろう。この殺し方に慣れているのか、矢鱈と自然な形から一瞬で死を見せた。膝から倒れ沈む神父に眼もくれず、切彦のもとに戻ってくる"レッドキャップ"。
「……今日は随分と綺麗な殺し方するじゃねぇか」
「まぁそう言うな。懐かしい顔に出会えたのに殺しに長いこと時間をかけるのも悪い」
「何が懐かしいだ。昔殺し合っただけだろ」
「そうだな。俺が唯一殺せなかったのがお前だ、"ギロチン"」
「そうかよ」
切彦はソッポを向き、その場を去ろうとするが、"レッドキャップ"から更なる声がかかった。
「仕事のことに関しては何も言う気が無いが、一つ耳寄りな情報をやろう。まぁ、半ば予想みたいなものなんだが、ーー近いうちに俺はお前と戦うことになる。いや、もし仲間がいるとなるとお前たち、か」
「……」
一瞬歩みを止めてしまったが、何も返さずに歩き去る切彦。しかし、内心は大きく舌打ちをしており、表情には出さないものの苦虫を100匹ほど噛み潰したかのような想いだ。
(あいつは只の"殺し屋"じゃねぇ。あいつがフリードと同じとこに雇われてるとすると、相当厄介だ)
帰路につき、このことを一刻も早く静雄たちに伝えようと切彦は決断する。今回の戦いは、今まで以上に激戦になることを予想しながら。
〜〜〜
翌日、眠そうな切彦からの話を受けたイッセーたち。一部を除く施設内の全員が難しい顔をしていた。切彦が評価する"殺し屋"が敵にまわる可能性、それもその相手直々に宣言されてはかなり高確率なのだろう。
リアスとアーシアはよく分からないと言った表情をしているが、それも仕方がない。方や元教会のシスター、方や悪魔の貴族、人間界の裏事情など知ろうと思わなければ深く探らないものだ。
"レッドキャップ"という男だが、その名前に反応したのは"万屋"を営む静雄。煙草を吸ったまま動きを止め、何やら考え込んでしまった。イッセーとキンジは知らない名だが、切彦の実力を知っているため、その切彦が警戒するほどの相手なら強敵というイメージを頭に湧かせている。夕乃は男の特徴を聞いてから、思うことがあるのか、静雄同様何かを考え込んでいた。
岡部とジョーカーに関しては、一切知らない名のようで、頭をただ捻らせている。これといって危機感などを感じている訳でもないらしい。
当分は警戒しながら過ごすという風に話が纏まったところで、リアスから話があると声がかかった。
「今日、教会から2人の聖剣使いが派遣されて来るわ。この土地を管理している私に直接会いに来るようだから先に言っておくけど、この前言った通り聖剣は悪魔にとって最悪の相性となる類の武器よ。神に誓って私たちに対して攻撃は行わないらしいけれど、彼女たちの信仰がどれほどのものか分からないから、間違っても対立することはないようお願いね。さっきの切彦からの話から嫌な予感がするし」
まさかこのタイミングで接触してくるとは思わなかった。イッセー的には結菜がとても心配で仕方がない。キンジも聖剣の単語で頭痛を覚えるように片手で頭を抱えている。
リアス自身予想外の訪問らしいため、結菜が暴走しないよう止める役をイッセーはキンジと共に買って出ることにした。静雄と夕乃は終始思案顔だったが、夕乃の顔つきはどこか哀しげであった。
〜〜〜
翌日の放課後、イッセーたちが部室に向かうと最初に眼に入ったのは白いローブのようなものに身を包んだ見知らぬ女性2人。1人の傍に布に包まれた巨大な物体が置かれていた。恐らく聖剣だろう。もう片方からも聖なる力を多々感じるため、何処かに帯刀している筈だ。そして、視線を横に向けてみれば、案の定怨恨の眼差しでその物体を睨む結菜の姿があった。
リアスに目配せすると、眼を瞑って首を横に振っている。
(どうしようもないってところか。見た感じ、一応部長から止められているようだし)
イッセーは再度教会の聖剣使い2人に眼を向けた。1人は青髪に緑色のメッシュを入れた短髪の女性で、もう1人は栗毛のツインテール。そこで、栗毛の女性がイッセーの顔を凝視していることに気付いた。
「えぇと、俺の顔に何か?」
自分の顔に何か付いているのかと不安になったが、どうやらそうではないらしい。栗毛の女性は残念そうに、それでも嬉しそうに椅子から立ち上がってイッセーの元へと歩いてきた。キンジたちは女性の突然の行動に、頭の中に大量の疑問符が湧いていた。
「運命って残酷ね、イッセー君」
「ーーえ?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。しかし、確実に名を呼ばれたことは分かる。名も名乗っていない初対面の筈なのだが、やけに親しげな対応だ。イッセーの反応は予想通りだったらしく、栗毛の女性は軽く苦笑いをしている。
「流石に分からないか。昔よく一緒に遊んだでしょ?紫藤イリナよ、昔は男の子っぽい格好ばっかりだったから」
「……あ、あぁ。思い出したよ、随分と変わっていたから分からなかった」
「うん、お互い色々と変わっちゃったみたいだね」
「……そうだな」
今度は思い出した。この栗毛の女性ーーイリナはあの事件が起こる前、イッセーの家族がまだ健全だった頃、近所で良く遊んだ友達だ。クリスチャンということは知っていたが、聖剣使いになっていたとは思いもせず、しかもイリナ自身が言った通り、昔は男の子と勘違いするような格好ばかりだったため、女性らしくなった彼女に気付けなかったのは仕方ないといえる。
イリナからの言葉に込められたものを読み取ったイッセーは、口数少なめに返すことしかできない。彼女は教会の聖剣使いとなり、イッセーは対をなす悪魔の身だ。立場上、昔のような関係にはなれないということだろう。
イリナはそれだけ言うと席に戻っていった。今の会話であの事件のことを思い出してしまったイッセーは、いつもはキンジのポジションである窓際に寄り掛かって冷静を保つ為に腕を組んで眼を瞑る。イッセーの内心を察したキンジたちは何も言わずにイリナともう1人の女性の話を聞くことにした。
「これで全員揃った、ということで良いかな?リアス・グレモリー」
「ええ」
「では、まず軽く自己紹介をしよう。君たちの名は知っているが、さっき自分から言ったイリナはともかく、私の名前も知らないまま話を進めるというのは少し気まずい。私の名はゼノヴィア、教会の聖剣使いに選ばれた1人だ」
最初に口を開いたのはメッシュの女性ーーゼノヴィアだった。今の所、敵意らしきものは感じないが、キンジと夕乃はいつでも動けるように間合いを測っている。
ゼノヴィアの自己紹介が終わると、イリナが今回の話の核となる部分についての話を始めた。
「本題に入らせてもらいますが、先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
そこでキンジたちは疑問を覚える。聖剣などに詳しくはないとは言え、エクスカリバーの名は有名だ。それがどれほど強力かも知っている。だが、今の話を聞く限り、聖剣エクスカリバーが複数存在している様な話し方をしているため、疑問を覚えたのだ。そんなに量産出来るほど聖剣というのは低コストな武器なのかと。
「勘違いしてると思うから言うわね。聖剣エクスカリバーそのものは現存していないわ」
口にこそ出さなかったが、リアスは知識として教えていなかったことを思い出し、イリナたちに聖剣エクスカリバーについての説明込みで教えてもらえるように頼んでくれた。
「エクスカリバーは、大昔の戦争で折れたの」
「今はこのような姿さ」
そう言いながらゼノヴィアが傍の布を取り、中身を持ち上げる。まさか聖剣使いがかの有名な聖剣エクスカリバー使いだとは思いもせず、キンジたちは暫くその刀身を見つめていた。
「大昔の戦争で四散したエクスカリバー。折れた刃の破片を拾い集め、錬金術によって新たな姿となったのさ。その時7本作られてね、その一つがこれだ」
7本の内の1本と言われながらも、そこから放たれる聖なる力の質量は凄まじいものだった。
「私の持っているエクスカリバーは『破壊の聖剣』。カトリックが管理しているものだよ」
ゼノヴィアは抜き身の刀身に再び布を被せる。強すぎる力を抑えるための拘束具的な要素を含む布のようだ。普段はそうやって封印して持ち運んでいるらしい。
イリナは懐から長い紐を取り出した。すると、その紐が命が芽吹いたかの如く動き、日本刀の形へと変化する。
「私の方は『擬態の聖剣』。さっきみたいに形を自由自在に変えれるから持ち運びは楽なの。これはプロテスタント側が管理しているわ」
ご丁寧に能力のことまで説明してくれるイリナ。キンジからすれば、名前で大体の能力が分かるため不要であったが、わざわざ説明してくれるのならありがたく記憶しておくことにする。
ゼノヴィアは能力を教えてしまったイリナに呆れ顔しながら嘆息していた。
「イリナ……能力まで教える必要なんてないだろう?」
「今回はこちらが頼む側なんだから下手に行くのは当たり前でしょ?いくら悪魔とはいえ、信頼関係を築かなきゃ。それに、ーーー能力が知られても私たちがここの悪魔の方々に遅れをとることは無いわ」
イリナの言葉には、絶対的な自信が感じられた。悪魔に限定していることから、本能的に夕乃とキンジ、切彦は只者じゃないことを理解した上で話しているのだろう。……悪魔の巣窟に入り浸っている人間に警戒するなという方が可笑しいかもしれないが。
イッセーに対しての警戒が無いことから、イッセーの実力は測れていないようだ。
(ま、こいつら程度に感知されるような柔な修行はしていないからな。俺たちはただ単に人間ってだけで警戒されてるみたいだし)
キンジはイリナとゼノヴィアの様子を観察し、そこまで脅威じゃないことを悟っていた。最小限の警戒はしているが、本気を出すまでもないと考えている。しかし、一つだけ懸念していることがあった。
(だが、結菜は少し危険だな。眼の色が変わっている)
ゼノヴィアとイリナのエクスカリバーを見た時から、結菜から放たれる殺気は誤魔化しきれないレベルで部室を支配している。いざとなったら止めなければいけないため、ゼノヴィアたちよりも結菜に対しての警戒を強めるキンジ。
「……それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」
リアスは態度を崩さず、凛としたまま話を進める。
「カトリック教会の本部に残っているのは私のを含めて2本だった。プロテスタントのものも2本。正教会にも2本。残る1本は神、悪魔、堕天使の三つ巴戦争の折に行方不明。そのうち、各陣営にあるエクスカリバーが1本ずつ奪われた。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだって話なのさ」
その内容にリアスは額に手を当てて息を吐いていた。少なからず予想はしていたみたいだ。
「私の縄張りは出来事が豊富ね。それで、エクスカリバーを奪ったのは?」
リアスの問いに、ゼノヴィアは眼を細める。
「奪ったのは、『神の子を見張る者』だよ」
その答えに、リアスは眼を見開いた。
「堕天使の組織に奪われたの?失態どころじゃないわね。でも、それぐらいしか考えられないか。悪魔の上層部は聖剣に興味を持たないから」
「奪った主な連中は把握している。『神の子を見張る者』の幹部、"コカビエル"だ」
そこで、今まで眼を瞑って話を聞いていたイッセーが眼を大きく開き、寄っ掛かっていた壁から立ち上がる。突然の行動にゼノヴィアたちは唖然としたが、イッセーはそんなことはどうでもいいとばかりに聞きたいことだけを質問した。
「そのコカビエルがこの町にいるんだな?」
「あ、あぁそうだ」
「そうか、分かった」
それだけを確認すると、イッセーは元の体勢に戻り眼も瞑ってしまう。イッセーの迫力に気圧されたゼノヴィアはイッセーの様子に疑問を感じるが、話を続けることにした。リアスに顔を向けると、こちらも苦笑している。
「コカビエル……古の戦いから生き残りである堕天使の幹部。聖書にも記された者の名前が出るとはね」
「あぁ。先日からこの町に神父ーーエクソシストを秘密裏に潜り込ませていたんだが、尽く始末されている。しかも、"殺し屋"である"レッドキャップ"を雇っているとも聞いた」
切彦が眉を顰める。名前を聞くだけでも苦手な分類だと分かるくらいの反応だ。
ここまで聞く限り、相手の戦力はかなり過剰なものといえる。夕乃ですら厄介だと思う程度には戦力が整っていた。
「私たちの依頼ーーいや、注文とは私たちと堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに、この町に巣食う悪魔が一切介入しないこと。ついでに、そこにいる『普通』の人間たちもだ。ーーつまり、そちらに今回の事件に関わるなと言いに来た」
その言葉の意味をキンジは一瞬で読み取り、リアスの顔色を伺う。要するに、リアスたちが堕天使と繋がっている可能性があるかもしれないから手を出すな。さっき信頼関係云々などほざいておきながら、信頼の欠片も持っていないゼノヴィアたちにキンジは気付かれないよう溜め息を吐く。
(もっと言葉選べよな。わざわざ喧嘩を吹っかけるとかバカだろ)
リアスは貴族の出だ。余りそういう雰囲気は出さないタイプだが、やはりプライドというものはある。こうも分かりやすくお前たちは信用出来ないと言われれば頭にクるのは当たり前だ。しかも、ここはリアスの領土。自分の領土で勝手な行動は許さないと言われたのだ。沸点の低い者ならこの場でテーブル版卓袱台返しでもしているのではなかろうか。
「随分な物言いね。それは牽制かしら?」
「仕方がないことだ。本部がそう判断しているのだから」
怒りに肩を震わせながらも、冷静さを欠かさないよう努めるリアス。
「上は悪魔と堕天使を信用していない。聖剣を神側から取り払うことが出来れば、悪魔としての脅威が一つ減る。万々歳じゃないか?堕天使共と同様利益がある。それ故手を組む可能性が否定できない。だから、先に牽制球を放つ。ーー堕天使コカビエルと手を組めば、我々はあなたたちを完全に消滅させる。たとえ、そちらが魔王の妹でもだよ。ーーと、私たちの上司より」
淡々とした口調で話を進めるゼノヴィア。今度こそ、キンジは盛大に嘆息してしまった。
(教会の奴等ってそんなに頭悪いのかよ)
半ばキレていたリアスも、キンジのワザとらしい嘆息に話すタイミングを持って行かれ、キンジに眼を向ける。夕乃は笑いを堪えるかのようにソッポを向き、イッセーはキンジに同意する様頷いていた。切彦は相変わらず眠そうだが。他のオカルト研究部のメンバーは、結菜を除いて不思議そうにキンジを見やる。
明らさまにバカにしたような態度にゼノヴィアとイリナは苛立ちを覚えているようだが、散々此方をバカにしているのだから容赦する気は無い。
「まず、教会の上の奴等に対してだが、神様神様と毎日崇めまくって頭のネジが取れたんじゃないか?考え方がバカらしすぎて反吐がでる」
「何だと?」
キンジの安い挑発に簡単に引っかかるゼノヴィア。眉を吊り上げ露骨に苛立ちを表しているが、キンジは鼻で笑うばかり。イリナも眉を顰めてキンジを睨んでいる。
「何が信頼関係を築きましょうだ。ハナから信用していないのは見え見え、たかがその程度の腕で自信過剰、おまけにこちらのことを事前に調査できていないとみた。俺たちは最近、『神を見張る者』の一部を叩きのめしたばっか。そんなつい最近まで殺しあっていた奴等が、今更たかだか聖剣のために団結するかっての。そもそも、堕天使は兎も角、悪魔は触れるだけでも危険とされる聖剣相手にそんなリスクを侵してまでただの学生である俺たちが出しゃ張る訳ないだろ」
一息、
「普通、確実に神側に大打撃を与えたいなら、悪魔側も堕天使側ももっと手練れを寄越すはずだ。部長はまだ学生の身でしかも魔王様の妹。そんな後々の悪魔社会を支えるであろう貴重な人材をこんな最前線に投下するか?まだ学生の身だぞ?堕天使の方も幹部が1人で、しかも"殺し屋"まで雇っているとなると組織として動いているというより、そのコカビエルって奴が単独行動していると考えた方がしっくりくる。ま、バックアップが無いと言えるわけじゃないがな。そんなことも考えずに人の領地を汚して、更にはその領地を統治している領主に勝手な行動はするな。何様だよお前ら。むしろ、勝手に領地を荒らされる部長の身にもなってみろ。お前らは傍迷惑の塊だ」
キンジ自身、予想以上に苛立っていたようだ。挑発するように口からドンドン言葉が出てきてゼノヴィアとイリナに放つ。少なくともイリナは理性的なのか、それとも痛いところを突かれたのか、ぐぅの音も出ないといった様子だが、ゼノヴィアは完全にキレていた。
(流石に言い過ぎですよキンジさん)
夕乃もキンジの発言に思わず苦笑い。キンジはまだ言い足りないようだが、ゼノヴィアたちの出方を窺っている。
「……貴様の言い分は理解した。確かに、こちらの情報収集不足だ。しかし、私たちが自信過剰だと?」
キンジの言いたい事は大方伝わっているようだが、それでも侮辱された苛立ちはそう簡単に拭えないようだ。聖剣エクスカリバーの担い手として選ばれた身であるためか、それとも、自身の腕を信じていたのかは分からない。ただ、ゼノヴィアは己の力を見せてもいないのに"その程度"と決めつけられたことに強烈な怒りを感じていた。
そんなことは関係ないとばかりに、キンジは話を続ける。
「じゃあ聞くが、さっきこの町のエクソシストの尽くが始末されていると話されたが、お前たちの他に教会側の戦力はいないのか?正教会からの派遣は?」
「……奴等は今回この話を保留にした。仮に私とイリナが奪還に失敗した場合を想定して、最後に残った1本を死守するつもりなんだろうさ」
「つまり、お前たちのみってことだ。さて、お前たち2人だけで"殺し屋"をも雇っている堕天使の幹部相手に果たして勝つことが出来るか?答えは否だ。昔、聞いたことがあるが、今の信仰者っていうのは常軌を逸していると聞いている。死ぬ気で来てるんじゃないか?」
キンジの言葉は2人の核心をついているようだ。そして、ゼノヴィアとイリナはキンジの言う通り、死ぬ気で来ていたらしい。キンジに全てを見透かされていると悟ったのか、ゼノヴィアは降参したかのように怒りを鎮めた。
「あぁ、参った。君には大抵のことを勘ぐられたらしい。私たちは高確率で聖剣を取り戻すことは出来ないと踏んでいる。最悪、教会は堕天使の手から聖剣を失くせればそれで良しとしているのさ。つまり、破壊するってこと。そのためなら私たちは命を賭ける、死んでいいんだ。エクスカリバーに対抗できるのは、エクスカリバーだけだからね」
ゼノヴィアの言葉からは並々ならぬ覚悟が伝わり、キンジは何か秘策があるのか逡巡するが、何か手があろうとどうでもいいと思考を切った。
「お前たちはあまり俺たちを調べていないようだから一応言っておく。俺たちは俺たちで行動するが、もし、教会とやらが部長たちオカルト研究部のメンバーを消滅させようと襲撃をかけるなら、『施設』の仲間が総出でお前らを消す。それだけだ。この言葉に信憑性を感じないならいつでも来いよ。俺からの話はこれで終了」
キンジは一方的に話を切ったが、ゼノヴィアとイリナは"消す"という単語の部分で放たれた圧に冷や汗をかいていた。『施設』の仲間という意味深な単語と共に一瞬で見せつけられた格の違い。眼を凝らしてみれば、キンジの身体から普通の人間には見えないくらい微量の紅いオーラが出ていた。
教会に逆らうような真似はしたくないが、この男を敵に回すのは少々厄介と無意識に決めたゼノヴィアとイリナは、静かに頷くことしかできなかった。こればかりは無知の己を恥じるしかない。
突然のキンジ乱入であったが、話は少しだけリアスたちにとって良い形で途絶し、これ以上聞くこともなくなった。
「こちらが話す前に内容は理解されてしまったが、伝えたいことは伝えたつもりだ。まぁ、君たちの言葉が怖いから、私たちは君たちの行動に眼を瞑ることにするよ。上には心苦しいが嘘を吐くしかあるまい」
「それでいいの?ゼノヴィア」
「あぁ、彼の言葉の真意を掴めない今、下手なことをすれば本当に教会全体の問題となってしまう恐れがある。そうなるのはあまり宜しくないだろう?」
「それもそうね。事を大きくしてパニックを呼ぶわけにもいかないし」
「そういうことだ。それじゃあそろそろお暇させてもらおうかな」
そう言ってゼノヴィアとイリナが立ち上がる。イッセーは一瞬結菜に眼を向けたが、ちゃんと喰い止まっているようで安心した。
去ろうとした直後、2人の視線がイッセーの近くにいたアーシアに集まる。だが、何かを言われる前にイッセーが2人を制した。
「アーシアも『施設』の仲間の1人になっている。余計なことを言うと、堕天使の前に寿命を縮めることになると思うけど?」
「……そのようだ。長い間邪魔して済まなかったね」
「じゃあね、イッセー君」
そう言って帰っていく2人。
アーシアは何が何だか分からないといった感じだが、教会関連でアーシアを知っている者というと、アーシア=魔女と認識されている可能性が高い。そう指摘されれば、アーシアが悲しむ。それを見越しての制しだ。イッセーは大量の疑問符を頭上に浮かべるアーシアの頭を撫で、何でもないと伝える。
リアスも過保護染みたイッセーに苦笑いを送っていた。
「さてと、ちょっと大変なことになったわね」
リアスが先程の話の事を考えながら思案顔を作る。これからの部活動を暫くの間変更するかどうか迷っているのだ。折角キンジが半ギレ状態で脅しを入れ、リアスたちが自由に行動できるようになったのだから、こちらはこちらで調査していくべきだろう。
少なくとも、イッセーは単独でも調査する気でいた。レイナーレとの約束を守るために。それとは別だが、結菜も調査することだろう。その瞳は激しい炎のように揺らめいていた。
やりすぎた感がありますね…。
施設の人たちってどれくらい強いんだろう?
ご感想、誤字脱字等のご指摘お待ちしております。
では、また次回でお会いしましょう。