希望と絶望を司る   作:虹好き

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大変お久しぶりです、虹好きです。

すみません、間を空け過ぎました。

少々設定の見直し、それによる描写方法の変更を行いました。

久しぶりすぎてしっかり書けてるか不安ですが、本編をお楽しみください。


盤上の駒は動き始める

「Unknown to Death. 」

 

 ーーおもむろに手を伸ばす。それは、助けを求めるものではなかった。

 

「Nor known to Life. 」

 

 ーーその背中が語る己の生き方とは何かを知りたくなった。その人生にはどんな意味が込められているのかを。

 

 ーーやがて、その背中はゆっくりと少年に振り向いた。

 

 

 

 ○

 

 

 

「で?何故俺はこんなところに呼ばれたんだ?」

「聖剣エクスカリバーを破壊するに至って、生徒会書記殿の意見を頂こうかと」

「うん兵藤、お前の言葉は俺には難しいようだ」

「お前は猿か」

「……現実逃避はダメです」

「遠山、お前って俺にかなり辛辣だよな。切彦ちゃんも逃してはくれないとーーそもそも子猫ちゃんに捕まえられてるから逃げれないんだけどよぉ!?」

「……逃がしません」

 

 イッセーたちは駅前に匙を呼び出していた。先日のイリナたちの訪問の際に牽制をし、半ば脅しのような形にはなったが自由に行動することが可能になったので、結菜のために少しでも行動を起こそうというわけだ。何故匙を呼んだのかは、単に『兵士』の駒を4個使って転生した者の"神器"の力を知りたいとキンジが強引に呼んだ。

 

「待て!お前らは良いかもしれんが、俺はこのことが会長にバレたら殺される!聖剣の特性知ってんだろ!?」

「駒4つを消費したとか自慢気に話してたくせに、聖剣相手となると随分と萎縮すんのな」

「掠っただけでも俺たち悪魔には致命傷になるかもしれねぇんだぞ!?しかもかの有名な聖剣エクスカリバーだ!むしろ何でお前らはそんなやる気になってんだよ!?」

「俺は聖なる力なんて効かないからな」

「ツッコミどころが多すぎて捌き切れねぇ!?」

「安心しろよ。お前は俺たちの護衛として雇うだけだから。戦うだけで良いんだ、楽だろう?」

「全然安心できねぇよ!?」

「ったくうるせねぇ奴だな。こんな公共の場でそんなに喚いて恥ずかしくないのか?」

「お前らのせいだかんな!?」

 

 キンジに怒鳴る匙。当の本人は涼しい顔で流している。イッセーは微妙な表情をしているが止めはしなかった。1人で行動を続ける結菜のために、少しでも人数が欲しいのだ。リアスたちも各々のやり方で探りをいれている。

 

 必死に逃げようともがくが、子猫が匙をしっかりホールドして離さず、引きずられるようにして連れて行かれる匙。

 

「子猫ちゃぁんっ!?こんな時に『戦車』の特性を存分に引き出さなくても良いんだよ!?っていうか離してくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「……ダメです」

 

 匙の味方はこの場に1人として存在していなかった。

 

 

 ○

 

 

 近くの公園まで匙を引きずりながら来たイッセーたち。匙は既に抵抗を止めており、大人しくされるがままになっていた。抵抗の無意味さを知ったのかもしれない。

 

「さて、匙は何か聞きたいことあるか?」

 

 公園の周囲に人がいない事を確認してから聞くイッセー。聖剣のことしか匙には伝えていないため、幾つかの疑問が湧くことは分かりきっていた。協力してもらうには、それ相応の対価を支払おうとイッセーたちなりのケジメである。

 

「結局強引なのな」

 

 軽く不貞腐れた表情の匙。しかし、もう半分ほどヤケクソになっているのか、先ほどのように喚いたりはしない。

 

「聖剣や堕天使については、この前学園に来た2人の聖剣使いから聞いた話をリアス先輩経由で俺たちの耳にも届いてる。でも、何でお前らがそんな血眼になってその聖剣をぶっ壊そうとしているのは知らない。協力を仰ぐんならそれぐらい教えてくれてもいいだろ?」

 

 もっともな言葉。そして、イッセーの予想通りの内容だった。イッセーは一つ頷き、言葉を返す。

 

「勿論、教えるつもりだ」

 

 そのまま結菜のことを匙に話すイッセー。匙も最後まで静かに聞き、途中から肩を震わせていた。

 

「ーーーとまぁ、こんなところだ」

「そんなことが……あいつ、いつも笑顔でいたのにそんな過去を持っていたなんて……」

 

 話が終わると、子猫が手を離しても匙は喚いたりせず、腕を組んでそう呟く。キンジはその様子を見て軽く感心していた。単なるバカではなく、こうやって考えることも出来たのかと。

 

 ……最初の顔合わせがあれじゃあ人間、いや悪魔か?分からないモンだな。

 

 そんなキンジの思考に誰も気づくはずもなく、匙は決意したかのように胸を叩いた。

 

「よし、俺も協力しよう。会長にバレようがなんだってんだ。木場の奴がそんな過去背負っていながら生きてきたなんて酷すぎる」

「感謝するよ」

 

 そう言いながら移動を開始するイッセーたち。かと言って、これといった情報がほぼ皆無に等しいため、もう一度イリナとゼノヴィアに接触する必要がある。そのためにはあの白いローブという変質的な格好をしている人を探すわけだが、そう簡単に見つかるとは考えていない。いずれも教会の選ばれし者なら人の眼に付くような大胆な動きはあまり見せないはずだ。

 

 虱潰しに探すしかないということで、人が最も通るであろう町中に足を踏み込んだのだがーー

 

「えー、迷える子羊にお恵みを〜」

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちに御慈悲をー」

 

 ーーまさかこんなに簡単に見つかるとは思いもしなかった。

 

 あまりにも哀れなその姿、教会の人間は軍資金すら彼女らに渡していなかったのか。それとも何か宗教的な偶像崇拝の道具に惑わされ、金が吹き飛んだのか。

 

 匙は指を指しながらイッセーの方へと顔を向ける。その顔はとても微妙なもの。それに対するイッセーたちの反応もやはり同じく微妙な表情で頷くだった。

 

 どのような形であれ、接触するべき対象には出会えたのでこの後どう交渉するかをイッセーは考える。接触する主な理由は聖剣に関する情報。教会側もその程度の情報までは掴んでいるだろうと考え、どうにかしてコカビエルが雇った聖剣を使える者の情報が欲しかった。

 

 切彦がこの前顔を合わせたという"レッドキャップ"と呼ばれる殺し屋。切彦と同じく異名がつけられているのはそれだけの実力者を示していることを昔、切彦自身から教えてもらった。切彦の予想では、"レッドキャップ"はほぼ確実にコカビエルに関わっているとのことだ。去り際に意味深な言葉を残していったらしい。

 

 ……聖剣が使える猛者……どんな条件の下聖剣が使えるようになるのかは分からないけど、あいつなら確実に使えるんだろうなぁ……。

 

 イッセーたちと同じく施設の家族であるフリード・セルゼン。過去に最年少天才エクソシストの称号を与えられながらアッサリと教会を裏切ったはぐれ神父。金さえ貰えばどんな仕事でも引き受ける、静雄の"万屋"と似たようなものだが、フリードは基本的に高額な仕事しか受けない。そして高額な仕事となると、自ずと命を張る必要がある内容のものが増えていく。

 

 そのため、フリードは"万屋"というよりは"傭兵"の方がしっくりとくる感じだ。

 

 かつて、天才エクソシストと言わしめたその腕は今も尚磨きがかかり、イッセーとて本気を出して勝率は五分に持ち込めばマシといったところ。切彦から逃げ延びる実力の持ち主だ。しかも、その真髄は未だ隠しているため、本当の実力は計り知れない。

 

 ……考えていても仕方がない。今は情報を手に入れるのが先決だな。

 

 イッセーは思考を断ち切り、口論を始めた哀れな2人の信仰者に救いの手を差し伸べに行った。

 

 

 

 ○

 

 

 

 某ファストフード店では、店内に似つかわしく無いフリードと"レッドキャップ"がいた。フリードは疲れが溜まっているかのように背もたれに身体を預け、"レッドキャップ"はその正面でポテトを摘んでいる。怠いオーラを隠しもせず、世の神父を侮辱した態度のままコーラに手を付け一口飲んだ。

 

「おいフリード、本当に女で合っているのか?今までの神父で1人も女はいないが……」

 

 その様子を見ながら、同じようにコーラを飲みながら聞く"レッドキャップ"。フリードは半眼になりながらソッポを向いた。

 

「そういうこと言うのやめてちょ。自信が無くなって紙メンタルがビリビリになるから」

「そうは言ってもな、こうも連日同じような雑魚ばかりだと腕が鈍る感じがして嫌なんだが」

「決して弱いわけじゃないと思うんだけどなぁ?誰だって出会い際に視認すんのもしんどい速度で迫られちゃビックリして硬直しちゃうと思うわけですよ。その直後を狙って瞬殺されたら何も反応できないと思うんだよねぇ。俺っち何回殺さずに捕らえようって話したっけかなぁ。ついでに、その言葉に何回快い返事がもらえたことか……」

 

 止まらないフリードの小言に、分かりやすく耳を塞いで聞こえないふりを決め込む"レッドキャップ"。

 

「……」

「……ん?終わったか?それでだ、早く強者と戦いたいんだが?」

「こんなの俺っちのキャラじゃねぇっすわぁ……」

 

 テーブルにグッタリと蹲ってしまうフリード。己の在り方に疑問を覚えるほど精神的にやられているらしい。目的の聖剣使いに出会える気がしないが、払われた分はしっかり働こうと、相変わらず変に律儀なフリードであった。

 

「そういやぁ」

「どうした?」

 

 突然のフリードの切り出し。

 

「バルパーのおっさん、もう1人助っ人呼んだとか言ってた覚えがあるよーなないよーな」

「確かに言っていたな。詳細は何も聞かされなかったが、忠告だけはされたな。確か、"死を見る黒き怪談"だったか」

 

 あと、

 

味方であろうと殺す(・・・・・・・・・)とも言われたな」

 

 ○

 

 

 

「美味い!日本の料理は美味いぞ!」

「帰ってきたって感じがするわ!」

 

 ファミレスのテーブルに並べられた料理の品々を片っ端から胃袋に収めていくゼノヴィアとイリナ。その食べっぷりは度肝を抜くものであったが、ここはキンジが1人で会計をしてくれる。仕事で貯めに貯めた金を使うには良い機会だと、義兄弟ながらなかなか太っ腹だ。子猫もキンジの懐に甘えてパフェを飲み物のように平らげていた。

 

 イッセーはコーヒーを飲みながら瞬く間に消える料理の品々に苦笑いを隠せず、落ち着くまで結菜に連絡をしながら待つことにした。最近の科学は素晴らしい。メールじゃなくても気軽にメッセージを伝えることが出来るのだから。

 

「さて、私たちに接触した理由を聞かせてもらおうか」

 

 一息ついて切り出すゼノヴィア。見れば、見事にテーブル上全ての食事を平らげた2人。子猫は10杯目を越すパフェと格闘中だ。真面目な話なのだが、イッセーと切彦の心のオアシスのためそのまま食べさせておいた。

 

「単刀直入に言わせてもらうと、お前たちが持つ聖剣エクスカリバーについての情報を提供してもらいたい。先日、やむ得ない状況ならば聖剣を消滅させることも厭わないっていう話だったよな?」

「それはつまり、我々の手助けを買って出てくれる、というわけかな?」

「遠回しに言えばな」

 

 キンジの言葉に顎に手を当て、少しだけ考え込むゼノヴィア。

 

「正直に言うと、それ自体はとてもありがたい。私たちだけで全ての聖剣を堕天使側から取り戻すことは難しいと考えていた」

「ちょっとゼノヴィア、本当にいいの?イッセー君たちの実力は私たちの耳にも届いてはいるけど、その全てが真実である保証はないのよ?しかも……イッセー君は悪魔だし」

「そんなもの、ここで御馳走になった時から悪魔の囁きに唆されている様なものだから今更さ」

「おいコラ聞き捨てならねぇな。ここの会計すんのは俺だぞ」

 

 イリナとゼノヴィアの会話にキンジは青筋を立てるが、2人はガン無視を決め込む。しかし、話の雲行きは決して悪いものではなく、イッセーはコーヒーに口をつけながら結菜に連絡した。どうやら、結菜もここへ来るようだ。

 

 イッセーは外を歩く人々に目を向けつつ、コーヒーを啜る。ふと視界に入った1人の男。それは、余りにも黒く、長身で痩身、異様に腕が長かったーー。

 

 

 ○

 

 

 ゼノヴィアは赤龍帝達の出方を窺っていた。

 

 前回の話し合いの場での赤龍帝から感じたプレッシャー。それは相当なもので、悪魔には抜群の相性を誇る聖剣を所持していながら、その気迫にいとも容易く呑まれたのだ。

 

 ゼノヴィア自身、己の力量については重々理解しており、今回の任務の難しさ、生き残れる可能性程度は考えれる脳を持っている。

 

 ……まだ切り札を出していないとはいえ、今代の赤龍帝はなかなか強者(つわもの)らしい。

 

 それも、本気を出したゼノヴィアとイリナを圧倒できるであろう程の。

 

 そして、ゼノヴィアが警戒しているのは赤龍帝だけではなかった。気怠げな表情を隠そうともしない、パッと見暗そうな印象を与える男。

 

 何故かは分からないが、信仰心を一切感じない雰囲気を持っておきながら、この男からは、微かだが神性を含んだオーラを感じるのだ。

 

 しかも、この男は悪魔ではない。と言うよりも、その実ただの人間なのだ。赤龍帝と何らかの繋がりがあるようだが、ゼノヴィア達と同じ、人間でありながら特別な祝福を受けているようにも見えない。

 

 ……明らかに生身の人間だ。それなのにあれだけの圧力を我々にかけていただと?

 

 ゼノヴィアは最後のイレギュラーに目を向ける。パフェにガッつく猫のような悪魔の少女の隣で、注文したコーヒーをひたすら付属のティースプーンで掻き混ぜている大人しそうな少女だ。

 

 一緒に頼んだフレンチトーストには手を付けず、時折隣の少女に目を向けてはコーヒーを掻き混ぜることだけに集中しているように見える。

 

 一見無害そうな存在だが、それ故のイレギュラーであった。

 

 神性を感じる男と同じく人間であることもそうだが、驚くほど何も感じない(・・・・・・)のだ。

 

 ……日本の諺には、"能ある鷹は爪を隠す"というものがあるらしいが、コレに該当するのがこいつか?

 

 つくづく、魔女アーシアに突っかからなくて良かったとゼノヴィアは思う。

 

 任務の前に五体満足でいられなかった可能性があるからだ。

 

 ……だが逆に、これだけの戦力があるならば、堕天使幹部であるコカビエルを打倒することも不可能ではない。

 

 ゼノヴィアは、滲み出たような期待が胸を支配していく感覚を感じた。

 

 それに内心驚き、表情には出さないものの自嘲の笑みを心に浮かべた。

 

 ……命を賭けた任務のはずだったんだが、どうも、私は覚悟が足りなかったようだ。今更死にたくないなんてな。隣に座るイリナに失礼じゃないか。

 

 クリスチャンだからと言って、己の全てを主に捧げたいとは思えない。いや、思いたくない。

 

 ゼノヴィアには一つだけ夢があった。

 

 死ぬ前に叶えたい夢ではあるが、今のままでは絶対に叶えることはできない夢。

 

 それは、何にも縛られることなく、自由に生きることだった。

 

 ゼノヴィアが違和感を感じたのは、イッセーの表情が凍りついたのを見てからだった。

 

 

 

 ○

 

 

 

「計画は順調なのか?」

「ああ。このままいけば、新たな戦争の火種としては申し分ない出来となるだろう。相変わらず、あの2人は空回りを続けているが、聖剣すら回収できれば、いつでも次の段階へと進めるさ」

 

 人気の無い森の奥底で、10の翼を持つ堕天使と神父の声が響く。【神の子を見張る者】の幹部であるコカビエルと、【虐殺の神父】のバルパー・ガリレイだ。

 

「ふむ、漸くか。待つのは好きじゃないが、今回手を出す場所が場所だからな。慎重にことを運ばなければ、俺たちは一瞬で殺されるだろう」

「君ほどの実力者が警戒するほどの猛者がこの町に居るのかね?所詮、魔王の妹程度だろう?」

 

 バルパーの言葉を鼻で笑うコカビエル。

 

「分かっていないな。少しは聖剣以外にも興味を示せバルパー。いくらお前でもこの名は知っているはずだぞ。"平和島の静雄"の名を」

「……確かに、その名は私も聞いたことがある。だが、私が聞いた話では、ただの眉唾ものだったが?存在すらも怪しいとされているのだろう?」

「奴は現役の英雄さ。かの大戦を経験したこの俺が言うのだ」

「君の言葉を疑う気はないが……そいつは"レッドキャップ"にフリード、そして君が束になっても敵わない程の力を持つと?」

 

 いまいち納得のいかないバルパー。理由は単純。己の目で見定めていないからだ。

 

 どのようなものも、聞くのと見るのとでは異なる。百聞は一見に如かずとはまさにこのこと。

 

 そのバルパーの内心を汲み取り、だからこそ敢えて応えるコカビエル。

 

「そうだ」

「……分かった。ならば、これからは迅速に行動しよう」

「ああ。エクスカリバーを完成させ、戦争の火種を作り次第、撤退を図らねばなるまい。……余興は終いだ、これからは俺も動こう。最悪、この辺一帯全てを破壊する必要すら出てくるかもしれん」

「それはまた急かすな。まぁ、こちらは任せておけ、既に手は打ってある。フリードに"レッドキャップ"、そして、奴がいれば、邪魔者は全て皆殺しさ」

「流石だな。ーーならば、世に混沌を与えに行こうではないか」

 

 コカビエルは、その瞳を獰猛に歪め、バルパーを残してその場から飛び立った。

 

「待っていろ、サーゼクス。貴様の喉笛を噛みちぎる種は出来つつある」

 

 

 

 ○

 

 

 

 結菜はイッセーからの連絡を確認し、みんなが待つファミレスへと向かっていた。

 

 早歩きで進む町中、脳裏によぎるはエクスカリバーに対する憎悪の感情。

 

 思い出されるバルパーの狂気染みた実験の日々。

 

 時の流れが最も遅く感じられた苦痛の中、同じ境遇の仲間と共に、希望を捨てずに唄った聖歌。

 

 しかし、最後は『処分』された仲間たち。そのみんなのお蔭で今を生きる自分。

 

 苦しむ声を背後に聞きながら、振り向かずに逃げ延びた卑怯な己。

 

 無情な世界は、結菜にかつて無い程の絶望を与え、生への執着心を消してしまった。

 

 ……そう、ボクは憎しみを動力源として今日まで生きてきた。

 

 リアスという、深い慈悲を持った主人の元での生活というものは、結菜の心に確かな光を宿していた。

 

 しかし、それでも、過去の出来事を無かったことになどできない。

 

 このチャンスを逃せば、次はいつになるか分からないのだ。

 

 この命一つで仲間の無念を晴らせるのならば、喜んでこの命を差し出そうではないか。

 

「みんな、もう少しだけ待ってて」

 

 目の前にはイッセー達のいるファミレスのドア。

 

 一度呼吸を整え、結菜はドアの奥へと脚を踏み込もうとした時、一瞬だが違和感を感じた気がした。

 

 そして、結菜が周囲を警戒すると、その違和感は確実なものとなった。

 

 ……人が、いない?

 

 そう、人がいない。ここは町中のファミレス店のある通りだ。近くには多くの建物が立ち並び、時刻は日中を指している。人が少ないという点のみだったらまだ違和感程度で済むが、人、いや、"一般人"の存在がこの世界から消えたのだ。

 

 ……違う、これは、ボクが世界から離されたのか。まるで世界がそのまま鏡写しのように、広範囲に渡って結界が張られてる……!

 

 結菜が諸悪の根源を見出そうと、"一般人"とは程遠い気配を複数持つ場所に視線を移すのと、ファミレスの中から爆炎が立ち昇るのは、ほぼ同時のことだった。




誤字脱字等のご指摘、どうぞよろしくお願いいたします。

また次回、お会いしましょう。
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