希望と絶望を司る   作:虹好き

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どうも虹好きです。

2日連続投稿成功。

超勢いで書きました。

ちょっとよく読まなきゃ分からない描写あるかもしれません。


舞台は整った

 駒王町に存在する幾つものビルの上。夜風が心地良く、街の灯りで美しい夜景が一望出来る。

 

 レッドキャップは、活気溢れる街中を眺めていた。

 

 ……何も知らない一般人が、時折、羨ましく感じる。

 

 街中に向けた視線を少し動かせば、敵の住処である施設が見えた。

 

 こんな街中に、アレだけ存在感を醸し出しておけば、嫌でも目に入るものだ。

 

 少々堂々としすぎているのではないだろうか、とレッドキャップは思いもしたが、すぐに理由らしい理由は見つけられた。

 

「それだけ、自分達の腕に自信があるということか」

 

 敵に本拠地が丸見えとは、相手の攻撃を誘発する、つまり、挑発にも等しい行動である。普通、命を狙われる側が、こんな目立つ場所で陣を張ることは無い。もっと、思考を駆使して敵から身を隠すことが必要となる。

 

 ……そして何より、逃げ場が無い。

 

 要するに、施設の者達が追い詰められた場合、あの施設が最後の砦となる。敵は、自ら背水の陣を敷いているのだ。見え見えの本拠地に追い詰められた時、仕留められるのは時間の問題となるだろう。

 

 ……隠れ家一つくらいはさすがに用意しているとは思うが、本当にあそこのみだとすると、施設は、敵に休み無く攻撃されることを良しとし、尚且つそれに打ち勝つだけの備えをしているということになる。

 

 もう、あの施設だけで一つの国として機能しているようなものだ。

 

 その思考を、レッドキャップはハナで嗤う。

 

「そんなところに君はいるのか、ユウちゃん(・・・・・)

 

 親しそうに、愛おしそうに、その名を呟く。

 

 レッドキャップは、視線を輝き続ける街中に戻した。

 

 先の独り言を聴いた者は、誰一人としていない。

 

 

 

 ○

 

 

 

「それで?バルパーとやらの計画について、何か新しい情報は得たのか?」

「それが、聖剣を1本盗られでしまった以外、進展的なことは無いそうなのよ」

 

 施設のリビングにて、向かい合うリアスと岡部。

 

 その中央に置かれているのは焼き立てのクッキー。それを対局面からつまみつつ、今日の出来事を語り合っていた。

 

「あなたの方は何か分かった?」

「分かるも何も、砕けた聖剣を集めてすることと言えば、その聖剣の再生だと俺なら考えるが?」

「やっぱり、そうなのよね。既に4本の聖剣が敵の手中に落ちてしまったとすると、残りは3本。その内の1本はゼノヴィアが持っている『破壊の聖剣』。きっと、次に奴等はそれを狙ってくる」

 

 2階から何か重いものが落ちる音がした。かなりの重量らしく、一瞬、施設全体が揺れる程のものだ。

 

 岡部は上を見上げ、すぐにリアスへと視線を戻す。

 

「今のはイッセーとキンジ、どちらだと思う?」

「イッセーね」

「理由は?」

「夕乃直属の弟子だからかしら」

「それだ」

 

 2階では今、悪い子へのお仕置きが行われている(女子は除く)。執行者は夕乃のため、お仕置きではなく、処刑に等しい可能性が高いが。

 

 今も、「私がどれだけ心配したと思ってるんですかぁ!!」と半泣きの夕乃の叫びが下まで響いていた。

 

「物で叩くというよりは、イッセーを頭からダイレクトに床に叩きつけている音っぽいな」

「あなた、それをよく真顔で言えるわね……」

「アーシアも相当溜まっていたようだからな。夕乃に関してはもう言葉には表せれない程心配していたぞ」

 

 その言葉を聞き、明日、イッセーとキンジが死体で現れないようリアスは祈った。

 

「話を戻すが」

 

 岡部は脱線もそこそこに、口を動かす。

 

「7本の聖剣について、君はどこまで知っている?」

「どこまでって言われると……先の大戦で聖剣の原型が砕かれ、7本に別れたっていうのと、砕かれてなお、その1本1本が強力な武器であるということぐらいかしらね」

「ふむ……では、もっと具体的にいくとするか。君は、聖剣が何本から合成を可能とすると思う?」

 

 岡部の問いに、リアスは一瞬戸惑った。

 

 まさか、と。

 

 岡部が言わんとしていることがリアスの背に悪寒を走らせる。

 

「その顔は、考えたくは無い最悪のケース、と言ったところか」

「……冗談だと、言って欲しかったわ」

「真剣な話に、冗談を混ぜることは、俺はあまりしないな」

 

 岡部の淡々とした態度に、リアスは軽く溜息を吐いた。

 

 自身の紅髪を指先で弄びながら、

 

「つまり、相手は私たちとの戦闘のために、聖剣を幾つか合成してくる可能性があるんでしょ?」

「それそのものが狙いかもしれんがな」

「1本でも十分脅威になるというのに……それに、何かと能力も増えそう。はあ……憂鬱だわ」

 

 また2階から音が響いた。今度は鈍い打撃音だ。

 

 2人は上を見上げ、また話に戻る。

 

「しかし、聖剣の合成には、多大な魔力を消費するはず。それも、伝説の聖剣ともなれば、周囲の被害も甚大なものとなるだろうな」

「具体的には?」

「本数にもよるが……この街を丸々一つ消すくらいにはなるんじゃないか?」

 

 リアスの顔から血の気が失せる。

 

「岡部とかは協力してくれないの?」

「俺たちも出来ればそうしてやりたいが、なかなか面倒な立ち位置でな。動ける面子は、揃いも揃って留守ときた。お手上げだ」

「そう言われると、お兄様のこともあるから何とも言えないじゃない。敵は強大になりつつあるし……どうしようかしら」

 

 リアスはクッキーを1枚摘もうとし、全て無くなっていることに気付いた。

 

「ちょっと岡部?あなた食べ過ぎじゃ無いかしら?」

「いや待て、冤罪だ。俺はそんなに食ってないぞ」

「じゃあいったい誰がーーー」

 

 リアスは顔を右に向け、動きを止めた。

 

 そこには、頬いっぱいにクッキーを溜め込み、幸せそうに咀嚼する切彦がいた。

 

 いつの間に、とリアスが思っている間に、切彦はクッキーの咀嚼を終え、胃に流し込んでしまう。

 

 リアスと岡部の視線に気づいていないのだろう。

 

 両頬に手を当て、幸福を全身で表すほど無防備な切彦はレアだ。

 

 たっぷり15秒ほど、幸せを堪能した切彦は、そこでようやく2人の視線に気づき、急速な赤面を見せた。

 

「……あ、あの」

「どうした?」

「何かしら?」

「……ご、ゴメンなさいです」

 

 恥ずかしそうにうつむく彼女。

 

 岡部は気にするなと手を振るが、甘いものが好きなリアスにここで逃がすような甘さは無い。

 

「切彦、今度の部室でのオヤツは抜きよ」

「……っ!?」

 

 切彦の顔が絶望に染まり、あたふたとリアスに詰め寄るが、リアスはソッポを向き、我関せずを貫き始めた。

 

 岡部はその様子を見つつ、一言。

 

「リアスもだいぶウチに染まってきたな」

 

 

 

 ○

 

 

 

 街灯の無い道。人通りが皆無で、風の鳴く音しかしない。

 

 住宅街のはずだが、そこに人の気配はせず、廃墟が建ち並ぶ、ゴーストタウンのような雰囲気を出している。

 

 そこの電柱の横に、その異形はいた。

 

 エンダーマンだ。

 

 赤いコーンは被っていない。

 

 ここには仲間がいないから。

 

 今、己がするべきことは、計画の邪魔をする輩の排除。

 

 ミリも動かず、銅像というよりは幽霊のように、その場から動かない長身の異形。

 

 ただただ気配を探っていた。

 

 普通じゃない(・・・・・・)気配を。

 

 特に、最近感じたあの2人。

 

 龍と悪魔、そして鬼といった、複数の気配を発する男と、いち早く己に斬り込んできた"ギロチン"。

 

 その気配は、奴等の根城から動いていない。

 

 出来るならば、ああいった輩と血を交わしたいものだ。

 

 ケタケタと、人の声では無い声で嗤う。

 

 いつか、必ず、全力の殺り合いたい。いや、決めた。殺る。

 

 エンダーマンは1人静かに嗤い続けた。

 

 ケタケタ、ケタケタと。

 

 

 

 ○

 

 

 

 どれくらい嗤っていたのだろうか。

 

 エンダーマンは、奇妙な気配に気づいた。

 

 今までの誰とも違う、明らかに違う気配。

 

 ゆっくりとだが、こちらに向かってきている。

 

 操り人形のように首を動かし、その姿を見ようとする。

 

 相手に瞳を見られれば、無条件に『移り変わる視界』が発動してしまうため、相手に気づかれる前に相手の顔を覚える必要があった。

 

 ーーーその男は、赤い外套を見に纏っていた。

 

 ーーーその男は、東洋人にしては顔が浅黒く、脱色した髪を持っていた。

 

 ーーーその男は、まるで、エンダーマンの能力を知っているかのように、上半身ではなく、下半身の足下に視線を置いていた。

 

 そして、消えた。

 

「随分と私を観察していたようだが、何か収穫はあったかね?」

 

 首には黒い刀身があてられている。

 

 一瞬の出来事だった。距離は、相当あった。数百メートルはあるはずだった。

 

 そんな場所から、気配遮断の能力を持つエンダーマンに目を付け、敢えて観察する猶予を与え、タイミングを見計らって背後を取ってきた。

 

 しかも、あの距離をエンダーマンに悟られずして詰め、背後を取り、首筋に剣を突きつける。

 

 人間技ではない。そして、瞬時にエンダーマンは悟った。悟ってしまった。

 

 この男は、今までの相手で一番強い、と。

 

「全く、あのバカ弟子は。この件が片付いたら鍛え直さなくてはな」

 

 何やら独り言を呟いている。一切の油断も許さずに。

 

 ミリ単位、もしくはナノ単位で動いても首を刎ねられるだろう。

 

「しかし、帰ってきて早々に【エンダーマン】に出会うとは思いもしなかったよ。しかも、コカビエルの奴もいるじゃないか。そしてバカ弟子に加え、あの男も。あんなガラクタに執着しているバルパーの奴も笑い者ではあるが……まぁいい、まずは君からだ。

 私は【正義の味方】をしている者なのだが……正義の味方というのは目の前の悪を見逃して置けないものでね、君に選択肢を与えよう、【エンダーマン】ーーーいや、エンダー・イェーガー」

 

 エンダーマンは戦慄した。本名まで知られているとは思いもしなかったのだ。

 

 そもそも、エンダーマンは会話が出来ない。そのため、自身の名前すら言えず、また、言う必要も無かった。

 

 それ故に、背後の赤い外套の情報力に恐れを抱く。

 

 恐らく、この世界で5人いないだろうエンダーマンの本名を知る1人なのだから。

 

 無意識に恐れを抱くエンダーマンに、赤の外套が言葉をかけてきた。

 

「選択肢は2つだ。このまま大人しく首を落とされるか、このまま大人しく冥界へ旅立つか」

 

 どちらも死ねと同じだろうに。

 

「この2つがお気に召さないかね?ならば、強制的にこの剣を一閃するしかなくなるんだが」

 

 エンダーマンは覚悟を決めた。

 

 この男は明らかに格上。今は逃げに徹するべきだと。

 

 男が剣に力を込めようとするのが分かる。

 

 タイミングは逃せない。

 

 エンダーマンは、自身が出せる全力でその男に振り向いた。

 

「勇気と無謀は違うぞ、エンダー・イェーガー」

 

 首の剣を横に引かれる。

 

 間に合わない、そう思った刹那、エンダーマンに視界が突如として変わった。

 

 

 

 ○

 

 

 

「やってくれたな」

「まぁ、そう言うな。ウチの大切な駒の一つなんだからな」

 

 赤の外套はエンダーマンの瞳を見ていない。命を刈り取るため、剣を振るうことにのみ集中していたからだ。

 

 その剣は、エンダーマンの首の皮を薄く斬り裂き、残りは空を切った。

 

「英霊並の目の持ち主かと驚いたものだが、君なら納得出来る」

「光栄だ。現役英雄殿」

 

 今、赤の外套の目の前にいるのは、1人の殺し屋だった。

 

「その英雄というのはやめてほしいな。私は新たな肉体を得た人間にすぎない」

「ただの人間なら、エンダーマンをあそこまで圧倒することなどできまい。それに、あなただからこそ、この俺がエンダーマンとバトンタッチしてきた理由だ」

「なるほど、こちらの素性は把握済みか」

「勿論」

 

 エンダーマンを逃した直後に気配を露わにした殺し屋。その姿は、赤い外套にとって、懐かしさを感じさせるものであった。

 

「ここまで、大きくなっていたとはな。人の成長は早いものだ」

「そのセリフ、凄くジジ臭いぞ」

「ぬかせ」

 

 正義の味方と殺し屋は、自然と構えをとった。

 

 

 

 ○

 

 

 

 バルパーは焦っていた。ここにきて、イレギュラーな事態が起こってしまったからだ。

 

「【正義の味方】ときたか。レッドキャップがいなければ、今頃エンダーマンは土に還っていたところらしいな」

「ああ。コカビエル、数日中にしようかと考えていたが、奴が帰ってきてしまった以上、こちらは圧倒的な不利。決行は今日にすべきだ」

「それが最善か。良かろう」

 

 コカビエルとバルパーはすぐに行動を開始した。

 

 その背を見送りつつ、口元をヒクつかせている1人の男ーーフリード。

 

 先の話のせいで、急激に身体中が震え始める。

 

「あーらら、これ、俺っち大丈夫でござんすかねぇ?お師匠さん、帰ってきちゃった?」

 

 その隣ではコーンを被って沈黙しているエンダーマン。肩が微妙に落ちているように見えるのは、目の錯覚だろう。

 

「あー、そろそろ潮時かもしれなぜぃ。ま、給料分は働いていきましょうかね」

 

 変なところで律儀なのはいつも通り。フリードはバルパーとコカビエルを追いかけ始めた。

 

 

 

 ○

 

 

 

 駒王学園のグランドに着いたコカビエルとバルパー。フリードは少し遅れて登場してきた。

 

 着いた直後に、バルパーは聖剣の合成を試みる。必要な魔力をバルパーに与えつつ、コカビエルは周囲を警戒していた。

 

 ……ここに来て奴等が動いてくるとはな。戦争の火種さえ作れればいい。それさえ終われば離脱だな。

 

 バルパーが術式を展開し、魔力の反応が高まってきた。近いうちに近辺に住んでいるであろう悪魔達が出張ってくることだろう。

 

 ……悪魔はいい。問題は、施設の奴等だ。奴等を止めるには、流石の俺とて全力を出さねばなるまい。

 

 横目でフリードを見る。

 

 本気を見たことは無いが、フリードの実力は折り紙つきだと彼は評価していた。

 

 最悪、聖剣が合成されれば、こちらの戦力は爆発的に上がる。ならば、フリードでも複数人を相手することも容易いはずだ、とコカビエルは考えていた。

 

「フリード、聖剣が完成した時、貴様で奴等をーーーグレモリーの悪魔を根絶やしにできるか?」

 

 そにため、フリードの次の言葉にコカビエルは驚愕を隠せなかった。

 

「いや、無理っす」

 

 割とガチなトーンで言われたのは、ハッキリとした諦観の言葉。

 

「……何故だ?」

 

 コカビエルは感情を抑え、冷静さを無くさないように聞き返した。

 

「そういえば、旦那は自分の目で見たこと無いんでしたっけねぇ。あれですぜ?今のグレモリーは旦那でもキビーかもしれないなんつって」

 

 おちゃらけた雰囲気ではある。だが、フリードの言葉には力があった。

 

 ……この俺でも厳しい、だと?

 

 何ということだ。そんな、そんな、

 

「そんなにここには強者が集まっているのか」

「そっす。施設だけ警戒していたら足下すくわれちゃうでゲスよ」

 

 フリードの言葉にクツクツと笑うことで応える。

 

 どうやら、とんだ魔窟に足を踏み入れてしまったようだ、と。

 

「コカビエル、あとは術式が完全に完成するだけだーーー何をそんなに笑っている?」

 

 こちらに振り向きつつ、怪訝な表情をするバルパーに言われ、コカビエルは己の口に手をあてた。

 

 どうも、好戦的な笑みを浮かべていたらしい。

 

「いや、何でも無いんだバルパー。ただ、楽しみなだけなのだから」

「ふむ、そうか?」

 

 そう言ってバルパーは聖剣を合成するための術式に目を向け直した。

 

 ああ、楽しみだ。戦争を起こすことで、血湧き肉躍る強者との出会いを求めていたつもりであったが、こんな道半ばでその願いが実現しようとは。

 

 コカビエルを見つめるフリードには気付かず、コカビエルはその表情を獰猛な笑みに染めていく。

 

 さぁ、本当の意味で、準備は整った。戦争のための戦い(戦争)を始めようではないか。

 

 

 

 ○

 

 

 

 エンダーマンは、コカビエル達を追わず、1人、山の中に残っていた。

 

 今すべき行動を思案していたのだ。

 

 レッドキャップがエンダーマンを強引にワープさせることで、先の戦線を離脱することはできたが、肝心のレッドキャップは1人で戦っているということになる。

 

 殺し屋に仲間意識は殆ど存在しない。

 

 だが、貸された借りは返さなければ、スッキリしない。

 

 要するに、静かに佇んでいるように見えて、エンダーマンは癇癪を起こしているのだ。

 

 感情の起伏が乏しくも、一応は生物。

 

 エンダーマン自身が気づいていないかもしれないが、彼は自身の落ち度に苛立ちを示していた。

 

 ……コロ、ス……。

 

 出てきた言葉はエンダーマンを行動に移すには十分すぎるものだった。

 

 

 

 ○

 

 

 

 その反応にいち早く気づいたのは、岡部だった。次いで切彦とリアスも同じ方向に視線を送る。

 

「リアス、気付いているな?」

「ええ。まさか、今日の内に仕掛けてくるなんて」

 

 2階から転がり落ちるようにイッセーとキンジが下りてきた。

 

 ボロボロな格好で。

 

「岡部さん、この反応は」

「お前達が想定しているもので正解だ」

 

 夕乃とアーシアもリビングに集まってきた。

 

「反応は私たちの学校のグランドですね」

「だ、大丈夫なんですか?」

 

 落ち着きを持つ夕乃と慌てふためくアーシア。

 

 とても、先程イッセーとキンジをボコボコにしていた同一人物とは思えない。

 

「シトリー眷属が既に向かっているらしいわ。結界を張っているみたいね」

「戦うのは強制的に俺たちなのな」

「お兄様に援軍を頼んでみるからちょっと待ってて」

 

 キンジは銃の確認を素早く済ませており、切彦は岡部から出刃包丁を受け取っていた。

 

「イッセー」

 

 岡部に呼ばれ、イッセーは素直に反応する。

 

「はい」

「今回、お前は前線には出るな。援護に回れ」

「分かりました」

 

 その言葉の意味は理解できている。

 

 逆に、戦えと言われても足手まといになるだけだ。

 

「それと、夕乃」

「どうしました?」

「お前は残れ」

「理由をお聞きしても?」

「すまんが、理由はいずれ分かるとしか言えん。ただ、今回だけは絶対に行かないでくれ」

「……分かりました」

 

 納得はしていないだろうが、夕乃は岡部に頷いた。

 

「連絡はとれたけど、援軍は1時間後になると予測されるらしいわ。キンジ、切彦、あなたたち2人は先に向かってもらってもいいかしら?」

「結菜が突っ走る可能性があるから、ですか?」

「ええ」

「そういうことなら、行くぞキンジ」

「了解だ」

 

 

 

 ○

 

 

 

 岡部は、キンジと切彦が出て行ったのを見送り終えたあと、赤き同士の気配を探っていた。

 

 ……やはり、あいつとの戦いになっているようだな。

 

 夕乃を引き止めた理由としては、単純に、夕乃に合わせたく無い人物がいるからだった。

 

 ……イッセーたちが来る前まで、この施設自体が出来る前までは、ここの仲間だったものだが……時間とは時に残酷なものだ。

 

 このような運命を見せられるとは、と、岡部は自嘲気味に笑う。

 

 リアスたちに感づかれないように、静かに。

 

 ヤケクソとばかりに、テーブルの上のドクターペッパーの口を開き、中身を一気に煽る。

 

 心地いい炭酸で少しだけスッキリした気分になった。

 

 まぁ、なるようになるだろう、と。

 

 

 

 ○

 

 

 

 先に仕掛けたのは、レッドキャップの方だった。

 

 赤の外套の懐に踏み込むように、大きな一歩で加速を図る。

 

 踏み抜いた地面が、一瞬だけ蜃気楼のように歪みを造り、次には蜘蛛の巣状の亀裂を生みつつ陥没した。

 

 そこから得た推進力を、全身のバネで更なる加速に持っていく。

 

 一度の踏み込みで、二度の加速を試みた。

 

 たった一歩。されど、その一歩で音速に届くか否かの速度を得たレッドキャップは、赤い外套の心臓を貫き、一撃で勝負を決めるべく、右手で貫手を放った。

 

 誰もが赤の外套の死を思う、完璧な動作からの一撃。

 

 しかし、赤の外套は、左足を引いた半身で危なげなく躱す準備を終えていた。

 

 その上、姿勢を低くし、右手と左手を交差させている。

 

 反撃の準備まで完了させているのだ。

 

 ……ここから貫手の軌道を曲げることは不可能。ならば……!

 

 レッドキャップは素早く貫手を決めた際の脚の位置が、足の位置が左脚で、踏み込むように突くことを理解した。

 

 だから、貫手に急激なブレーキをかけ、戻しやすくする。

 

同調、開始(トレース・オン)

 

 貫手が決まる直前に、赤の外套はそう口にした。

 

 その直後に、彼の両腕には黒と白の双極を表すような双剣が握られおり、決まった同時に、交差した腕を開放した。

 

 ……ここが勝負だ……!

 

 レッドキャップは、決まった状態で動作を終了させず、そのまま右脚を腿上げの要領で上に振り上げた。それと同時に貫手をしてすぐに戻した右腕を含め、両腕を使って肘から振り下ろし、迫り来ていた刃をサンドイッチのように挟み込む。

 

 鉄を叩くような音が響き、赤の外套の刃が抜けなくなった。

 

 

 

 ○

 

 

 

 赤い外套はレッドキャップの防御に少なからず感心を抱いた。

 

 ……考えたな。

 

 しかし、

 

 ……それだけで終わるようでは、まだ甘い。

 

 再び、動きが止まった右手の剣に力を込める。

 

 そのまま力任せに振り抜いた。

 

「くっ……!?」

「仮にも英霊となった身だ。一応、そこそこの力はあるものでね」

 

 不安定なバランスのせいで、耐えることが出来なかったレッドキャップは、赤の外套の膂力のみで数十メートル離れた場所まで吹き飛ばされた。

 

 その一瞬を逃すような素人はここにはいない。

 

 武器を剣から弓に切り替えた赤の外套は、瞬時に50を超える矢を放つ。

 

 ほぼ同時に放たれたように横一線でレッドキャップに迫る矢の軍勢。

 

 そこでレッドキャップがとった行動は、すぐ真横にあった速度制限の標識を引き抜き、棒術のように下から振り上げることだった。

 

 ……直にあたれば一瞬で粉々だろうが、矢の下面を掬うように、人1人分入るスペースを矢の群勢の中に、綺麗につくったというわけか。

 

 早撃ちではなく、何段階かに分けた方が良かったな、と赤の外套は考えつつ、次の矢を番えた。

 

 無論、今の失敗は次に生かそう。

 

 

 

 ○

 

 

 

 レッドキャップは防戦を余儀無くされていた。

 

 ……やはりこの男、強すぎる。

 

 全距離に置いてその真価を発揮するオールラウンダーとはまさにこのことだ。

 

 これでいてまだ本気を出していないのだろう。

 

 手に持つ標識は既に原型を保っておらず、あと2、3本矢を弾けば砕け去ってしまうような儚さだ。

 

 ……卑しく、ちまちまと矢で俺を疲弊させる寸法か。

 

 あれから何本の矢を弾いたかは記憶に無い。

 

 ……500を過ぎてから数えていなかったからな。

 

 肩で息をしながら相手の出方を見る。

 

 赤の外套も、5本の矢を番えた状態でこちらを見据えていた。

 

 身体中に矢が掠ったために、全身が切り傷だらけ。どれだけ時間が経ったのかすら朧げだ。

 

 ……結局、俺が攻撃出来たのは初手の貫手のみか。上には上がいるものだな。

 

 だいぶ呼吸は落ち着いた。

 

 それを見計らったかのように、赤の外套は矢を放ってきた。

 

 

 

 ○

 

 

 

 バルパーの術式は、ほぼ完成していた。

 

「コカビエル、聖剣の合成が成功するよ」

「それは良かったな。それに、丁度いいタイミングで実験相手が来たぞ」

 

 コカビエルの視線の先、グレモリーの【騎士】である女と、教会の使いがいた。

 

 この学園全体が、シトリーの結界で覆われていることは既に気付いている。

 

 もう少しで、今夜の主役が揃うことだろう。

 

 コカビエルを睨んでいた教会の使いが口を開いた。

 

「コカビエル、それにバルパー・ガリレイ。我が聖剣の錆となる準備は出来ているか?」

「あのー、俺っちも一応いるから無視は勘弁やめてくんろ?」

「と、その他一名を追加しようか」

「その他!?その他って言ったよこの子!?嘘だと言ってよハニー!俺っちが名前すら呼んでもらえないなんて……」

 

 隣でフリードが項垂れているが、無視する。

 

「出来るものならやってみろ、小娘。出来なければ、死、あるのみだ」

 

 目の前の2人が自分の獲物を構えた。

 

 舞台は、整ったのだ。




誤字脱字等のご指摘、どうぞよろしくお願いいたします。

感想もお待ちしてます。

また、次回でお会いしましょう。
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