希望と絶望を司る   作:虹好き

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どうも虹好きです。

原作と見比べ、サービスシーンが少ないことに気が付いたと同時に、早すぎる展開に我ながら驚かされています。

オリジナル展開しすぎですぜ。


深夜の戦い

 ーー少年は、3人の強さに見惚れた。

 

 ーーその背は、少年の世界を塗り替えていった。

 

「So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. 」

 

 ーーそして、少年は誓った。

 

 

 

 ○

 

 

 

 結菜は、コカビエルから発せられる重圧に、身体が無意識に震えを見せているのに気づいた。

 

 恐怖しているのだ。堕天使の最古参であり、幹部の1人であるコカビエルに。

 

 そして、同時に溢れ出るのは、絶え間無い憎しみであった。

 

 バルパー・ガリレイ。

 

 恐らく、彼は覚えていないだろう。結菜が彼の、いや、彼等の実験モルモットの1人だったなど。

 

 グランドの中心部、バルパーの近くで展開されている術式では、合成の最終段階に入っているのであろう、聖剣エクスカリバーがある。

 

 ……同志たちの、仇……あれさえなければ、みんなは……!

 

 創造した一振りの魔剣を力一杯握り締める。

 

 いざ、聖剣へと駆け出そうとした時、術式から溢れる光の量が飛躍的に増した。

 

 合成された聖剣が、完成したのだ。

 

 

 

 ○

 

 

 

 フリードは、狂喜乱舞しそうなバルパーを横目で見つつ、溜め息を吐いていた。

 

「成功だ!4本のエクスカリバーを一纏めに合成できた!秘めたる力も今までの比ではないレベルだ!」

 

 ……んなたかが4本ごときで大袈裟な……

 

 口には決して出さない。

 

 一応、雇い主だからだ。仲間割れ、ダメ、絶対。

 

「フリード、お前ならば使いこなせるだろう。この聖剣を使えば、あそこの木っ端悪魔など一撃だ」

「へ〜そうつぁすごいでござんすねぇ〜」

 

 適当に相槌を打ちつつ合成された聖剣を手に取り、感触を確かめる。

 

 確かに、1本の時よりは輝きはマシなものとなり、頑丈さも上がったようだ。威力も単純計算なら4倍程度にはなっているのだろう。

 

 しかし、

 

 ……所詮はこの程度、とんだポンコツでさぁ……。こんなの使うくらいなら普通の光剣でいいんですけど。

 

 勿論口には出さない。裏切り、ダメ、絶対。

 

「ん〜じゃまっ、早速、こいつの試し切りと行きますかぁ。ねぇ?お嬢さん方」

 

 聖剣を一振りし、結菜とゼノヴィアに向かってゆっくりと歩を進めていく。

 

 そのフリードの姿を見て、コカビエルは見物に徹することにしたようだ。

 

 ……まぁ、俺っちも色々とストレス溜まりに溜まりまくってっから、そのはけ口になってもらいますかぁ。

 

 視線の先には、創造した魔剣を強く握りしめ、フリードの持つ聖剣を睥睨する結菜がいる。

 

 ……何やら因縁があるらしいですしおすし?このガラクタでも、そこそこ楽しめんだろ。

 

 フリードはニヤけた口をそのままに、おもむろに一歩を踏み込み、一直線に行った。

 

 

 

 ○

 

 

 

「おお……!」

 

 ニヤけた表情を隠しもせず、一直線に突っ込んでくるフリードに、結菜は正々堂々打ち合うため、己も全力の前進を行った。

 

 後方でゼノヴィアが何か叫んでいたが、無視した。

 

 激突の瞬間、互いに剣を振り抜く姿勢をつくる。

 

 結菜は抜き身の抜刀を意識した。

 

 対するフリードは、聖剣を肩で寝かせ、大上段からの振り抜く姿勢だ。

 

 片手で構えているが、両手持ちで繰り出された時、結菜は打ち勝つ自信がなかった。

 

 ……だが片手なら、身体を大きく捻ることで、旋回力が魔剣に加わり、聖剣を弾ける!

 

 フリードは結菜の希望に応えたかのように、片手で叩きつけるように聖剣を振ってきた。

 

 結菜はここぞとばかりに、抜き身抜刀の姿勢のまま力を溜める。

 

 ……ボクの魔剣が上か、伝説の聖剣が上か、勝負!

 

 そして、振り抜いた。

 

「それは悪手ですわぁ!」

 

 フリードの声が響く。刀身がぶつかり合った。

 

 手応えは感じなかった。

 

 その代わり、目に映ったのはーーーぶつかった瞬間、一瞬の拮抗すらみせずに粉砕される己の魔剣。

 

 同時に、結菜に迫る聖剣。

 

 敗北したのだ。完膚なきまでに。

 

 動きを止めている時間は無い。

 

『魔剣創造』で次なる魔剣を生み出そうとするが、聖剣に敗北した諦観か、刃がせまる焦燥感か、創造力が働かず、力が霧散してしまう。

 

 眼前のフリードは嗤っている。愚かな私を。

 

 それが、たまらなく悔しく、また、それが結菜の集中力を阻害してしまっていた。

 

 しかし、

 

「このバカ者ォ!」

 

 結菜と聖剣の間に割り込む者がいた。

 

 教会にしては身体にピッチリとしすぎている、言うなればエロいコスチュームの聖剣使い、ゼノヴィアだった。

 

 

 

 ○

 

 

 

 ……重い……!

 

 それが、フリードの聖剣を防いだゼノヴィアの感想だった。圧倒的な破壊力故の防御力を誇る『破壊の聖剣』で防御しておきながら、グレモリーの『騎士』と共に数メートルは後ろに押された。

 

「あ、ありがとう」

「全く、突っ込みすぎだ。君は新たな魔剣をつくっていろ、なるべく丈夫なやつだ。それまでは、私が時間を稼ぐ」

 

 一方的に告げ、フリードに向かって走り出す。

 

「また正面から来るん?もっと頭捻ってこうぜ頭を!」

 

 笑みで聖剣を構えるフリードに、『破壊の聖剣』の力を存分に引き出し、大上段から叩きつけた。

 

 輝く刀身をゼノヴィアの力で振り下ろせば、それだけで地面が割れる威力を持つ。

 

 ……これを受ければ貴様とて無傷では済むまい……!

 

 しかし、フリードはあろうことか、これを片手で防御した。

 

 轟音。そう、轟音だ。鉄のぶつかるような音ではなかった。

 

 フリードを中心とした力の力場は、グランド前面に亀裂を生み、中心部は陥没までしている。

 

 その中で、フリードだけは無傷だった。

 

 飄々とした顔には、先ほどと変わらない笑みを浮かべて。

 

 ……この男……!

 

 思考を続けている暇はなかった。

 

「んじゃ次は、俺っちの番っしょ?」

 

 防御した剣を振り抜き、それを返す形で斬撃を放ってきた。

 

 すぐに聖剣を構え直し、それに合わせて防御を行う。

 

 彼の身長程もありそうな大振りの聖剣を、苦もなく片手で自在に操り、正道とは離れた太刀筋を見せる斬撃だった。

 

 斜め下からの掬い上げのような斬撃、反応が遅れないように聖剣の腹に手をあて、両手で踏みとどまらなければ、次の一撃で死んでいただろう。

 

 フリードは止まらず、振り上げた聖剣をバツ印を描くように振り切った。

 

 1度目は踏み止まり、2度目で敢えて後方に吹き飛ばされるように下がった。

 

「これほどとは、な」

 

 両手が痺れている。

 

 ……舐めていたつもりはないが、これはキツい。イリナを置いてきて正解だったな。

 

 たった数合打ち合っただけで握力のほとんどが無くなった。

 

 こんな相手に、武器の無くなったイリナは太刀打ちできない。

 

 故に、ゼノヴィアはイリナに本土への帰国を勧めた。

 

 ……生きて欲しいという願望なのかもしれんが……間違ってはいなかった。

 

 聖剣を再び構える。

 

 死にたがり屋というわけでは無い。ただ、死ぬかもしれないだけだ。

 

 フリードが来る。

 

 気合いの篭った咆哮と共に、迎え撃った。

 

 

 

 ○

 

 

 

 フリードはコカビエルの動きに気を配りながらゼノヴィアと打ち合っていた。

 

 今は観戦して楽しんでいるようだ。バルパーも同じく、フリードの聖剣を眺めながら目を輝かせている。キモい。

 

 先ほどは、我ながら力の込めた斬撃を放ったために、ゼノヴィアの振るう剣は、その重みを失くしている。

 

 それでもなお、裂帛の気合いを溢れさせながら振るわれる剣は、フリードに僅かな感心を抱かせた。

 

 ……奥の手を出さないだけのことはある、か。

 

 顔目掛けて放たれた突きを、眼前に聖剣を構え、刀身同士を滑らせるようにして己の左側に弾く。

 

 ゼノヴィアの体勢が崩れたのを見計らい、その場で素早く回転する。

 

 剣を戻してから切るより、剣ごと身体を回転させた方が早く、旋回力が加わって威力の高い斬撃を放てるのだ。

 

「早く構えないと死んじゃいますですよ?」

 

 ふざけた口調で忠告しつつ、回転斬りを見舞った。

 

 しかし、次のゼノヴィアの行動にフリードは思考を停止させてしまう。

 

 ……武器を、捨てるだと!?

 

 フリードの身に、初めて動揺が走った。

 

 剣士を相手にする場合、同じ剣を用いて、ようやく五分の戦いに持ち込むことができる。

 

 その五分の戦いを自ら捨てる。それはつまり、フリードにしてみれば、侮辱行為にも等しい。

 

 剣道三倍段という言葉がある。素手の人間が、剣を持つ相手に勝つには、その3倍の実力が伴っていなければならない、というものだ。

 

 フリードとゼノヴィアには、剣同士の戦いでも壁が存在した。フリードが負ける可能性など、無いに等しい。

 

 しかし、ゼノヴィアは剣を捨てた。ただでさえ実力で劣っていながら、自らを更に窮地に陥れたのだ。

 

 故に、フリードは一瞬、脳裏が沸騰したような感覚を得る。

 

 …………ブチっちゃったじゃねぇですかー。だが、実は解ってんだぜ?

 

 回転斬りが決まり、ゼノヴィアの聖剣ーー『破壊の聖剣』が真横に弾き飛ばされた。

 

 その時、

 

「ゼノヴィア!」

「待っていたぞ!」

 

 フリードの視線の先、ゼノヴィアの後方から結菜の声が響く。

 

 それと同時に、何かが風をきる音を奏でながら、一振りの魔剣が投げ渡されていた。

 

 思わず、フリードは笑みを引っ込めた。

 

 ゼノヴィアが大上段の構える手に、吸い込まれるように結菜が創造した魔剣が掴まれる。

 

「喰らえ!」

 

 流れるような動作で、袈裟斬りがきた。

 

 フリードは聖剣を持つ手に力を込める。

 

 ……ダメですなぁ、時間が圧倒的に足りないでございますよ?

 

 ならば、と左手を懐に潜らせ、光剣の柄を握り、バックステップのために両脚に力を込める。

 

 フリードが出した光剣にゼノヴィアは顔を一瞬顰めるが、気にせず魔剣を振り下ろした。

 

 見事に、ゼノヴィアの一太刀はフリードの光剣を破壊した。

 

 だが、同時にフリードは剣同士のぶつかり合いで、一瞬だけ魔剣の勢いが止まった瞬間を見計らい、魔剣の射程距離から離脱していた。

 

 口元には先ほどまでと同じ笑みが戻っている

 

「甘いぞ、フリード」

 

 ゼノヴィアが笑みとともに紡ぐ、その言葉を聞くまでは。

 

 そして気づいた。

 

 ゼノヴィアの背後、丁度、フリードの視界では見えない位置からの接近を行っていた結菜が、ゼノヴィアを追い越し、悪魔の脚力をもってフリードの眼前に急接近していることに。

 

「マジかよ」

 

 

 

 ○

 

 

 

 結菜は、まだ聖剣を戻しきれていないフリードに肉薄する寸前だった。

 

 両手に創造した魔剣は、ゼノヴィアが稼いでくれた時間を使い、精密な構築をした魔剣だ。

 

 さしものフリードも、この奇襲には虚をつかれたらしい。じゃなければ、先ほどのガチトーンは説明つかない。

 

 ……このまま右腕を斬り落とせば、フリードは武器を失う。その時が狙い目だ……!

 

 多少力技でも構わない。背後のバルパーが何やら叫んでいるが、構う必要もない。

 

「ったく、結菜ちゃんはもう少し、相手の出方を観察した方が良いと思う次第でござんすね」

 

 その声は、眼前のフリードから放たれた。

 

 妙に落ち着き払った、余裕の笑みを戻した顔。

 

 急激に、結菜の背に悪寒が走った。

 

 だが、勢いは止められない。

 

 フリードは再び左手で懐を探り、

 

「俺っち、こいつも使ってたっしょ?」

 

 こちらに構えるそれは、光銃。

 

「コンビネーションは良かったけども、まだ甘々っすわ」

 

 最後の一歩を踏み込んだ結菜に、それは放たれた。

 

 二箇所から、銃声がした。

 

 

 

 ○

 

 

 

 ソーナ・シトリーは、学園全体を結界で覆っていた。

 

 眷属総動員で、である。

 

 コカビエルの力は凄まじいの一言に尽きる。彼が本気になった場合、この街そのものが焦土となる可能性が高いのだ。

 

 故に、愛する街を守るため、ソーナは全力で結界の維持に務めていた。

 

 ……あの子達、大丈夫かしら。

 

 思うのは、数分前に結界の中に入ったリアスの『騎士』と教会の使いの1人。

 

 何やらいがみ合うような雰囲気であったが、少しでも戦力が来たことは素直に喜ばしいことだった。

 

 しかし、コカビエルを相手にたった2人では、正直死にに行くようなものだ。

 

 ソーナは勿論止めた。

 

 しかし、『中で好き勝手させておいたら、どのタイミングでその力を振るうか分からない。私たちが先に行って時間を稼ぐよ。何、すぐにリアス・グレモリーとその眷属も追いついてくるさ』と、教会の使いに言い切られ、強引に中に入られてしまった。

 

 張っている結界は強固なもので、外から中の様子を覗くことはできない、かつ、街を混乱させないために、防音など、五感を刺激するものは全て封じてある。

 

 それ故に、中の状況が分からない。

 

 ……リアス、早く来て……。

 

 自らが加勢できないことを不甲斐なく思い、心の中で友の名を呼ぶ。

 

「会長、顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」

 

 結界に集中しながらも、ソーナを心配して声をかけてきたのは匙だ。

 

 何故かは分からないが、ソーナのことに関して、匙は過剰なまでに敏感な反応を見せる。

 

 今のように、ソーナの感情の変化に対し、いの一番に気づくのだ。

 

 ……恐らく、私が恥をかかないように、気を配ってくれているのですね。

 

 心の中で感謝しつつ、しかし、言葉には出さない。

 

「大丈夫よ。あなたは結界に集中してね。これが、最終防衛線なのだから」

「ええ、分かっていますよ。あいつら、負けてなければ良いんですけど、ね」

 

 匙が結界の奥底を睨み付けるように視線を鋭くする。

 

 悔しいのだろう。こんなことでしか力になれない自分が。

 

 その気持ちは、ソーナとしても同じものだった。

 

 空を見上げれば、星の見える夜空。街並みは静かな深夜の時間帯だ。

 

 平和な世界を演じているようでいて、実はいつ爆発するか分からない爆弾が存在している。

 

 それを除去する為に奔走するが、解除そのものではなく、解除に失敗した場合のための防衛線を引くことしかできない。

 

 心は全く落ち着かない。

 

 不安は徐々に大きさを増していく。

 

 だから、その不安を拭うために、強がりを口にした。

 

「負けないわ。よく言うでしょ?正義は必ず勝つって」

 

 嘘だ。そんな言葉はまやかしでしかない。

 

 だが、安心させたい、または安心したいがために言った。

 

「……俺たち悪魔ですけどね」

「それもそうね。でも、今回、私たちは正義の味方、でしょ?」

「そっすね、そうですよね。悪いことはいつか暴かれますから、期待しましょうか」

 

 匙はきっと、ソーナのために話を合わせてくれているんだろう。そう思ってしまう。

 

 ……嫌な主ね、私は。

 

 ふと、後方から誰かが猛スピードで向かってくるのが分かった。

 

 ソーナは結界の維持を両手から片手に変え、半身の状態で後ろに振り返る。

 

 人数は2人だ。どちらも知っている。

 

 悪魔ではない超人、とリアスからは聞かされていた2人だった。

 

 切島切彦と遠山キンジ。

 

 多少キンジが遅れる形で向かってきているが、明らかに人間ではありえない速度で走っていた。

 

 ……この2人が来たということは、リアスがもう直ぐ来る。

 

 そこで、意識を思考に持って行ってしまったのが悪かった。

 

「おいコラ馬鹿キンジ!」

「……ん?」

 

 切彦の静止の声が聞こえる。

 

 その声で、キンジが目の前にまで迫っていることに気づいたソーナ。

 

 キンジも気づき、急ブレーキをかけようと、踏みとどまる形で両脚に力を入れているのがみえた。

 

 それがまた悪かった。

 

 両脚で踏みとどまるとはすなわち、姿勢を低くして重心のブレをなるべく無くした状態へと持って行き、衝撃を下へ流すことだが、目の前で気づいてからその姿勢をとったところで、衝突は免れない。

 

 なおかつ、姿勢を低くするということは、いくらキンジの身長でもソーナの身長以下になることを意味している。

 

 今の目測だと、だいたい胸の辺りに位置していた。

 

 だが、速度の減速には成功したらしく、このままいけば、ソーナごと結界に当たって潰れることは無い。

 

 多少強くぶつかるだろうが、悪魔の力があれば踏みとどまることは可能だ。

 

 要するに、何を言いたいかというと、キンジはソーナの胸に頭を埋める形で抱きつく(ように見える)図が完成した。

 

 それを真横で見ていた匙元士郎は、焦燥にかられた表情で一言。

 

「か、会長オオオオオォォォォォッ!!!!」

 

 

 

 ○

 

 

 

 キンジは、己の中の危険信号が、大音量でキンジに訴えかけているのを感じた。

 

 原因は分かる。

 

 明らかに俺のせいだ、と。

 

 考え事をしながら走っていたのだ。目の前が見えなくなるくらい、思考にのめり込むとは正直、思いもしなかった。

 

 その油断故に、今、顔全体に感じる柔らかい弾力と、優しく鼻腔をくすぐる甘い香りは、キンジの身体に深く浸透していた。

 

 しかも、反射的に相手の背に片手を添え、倒れないように抑えてしまってさえいる。

 

 ……こいつは危険だ、やらかした。

 

 キンジは女が苦手だ。女嫌いと言われる程。可愛い娘から、艶美で妖艶な女人まで、女性そのものに苦手意識を抱いている。

 

 それは何故か?

 

 キンジの性癖があっち系?それは違う。

 

 キンジはしっかりとした男の子だ。

 

 しっかり女の子が好きな男の子である。

 

 だが、これでは矛盾を生んでしまう。

 

 ならば、何故苦手なのか。

 

 それは、遠山の家系が関係していた。

 

 昔から生粋の【正義の味方】として世に蔓延る悪を退治するため、跳梁跋扈していた家系なのだが、遠山家は、ある特殊な体質を持ち、その体質が、正義の味方としての力を底上げしていた。

 

 その力の発動条件は、複数存在するが、統一された1つの条件は、女性(・・)だった。

 

 そして、キンジは根暗な見た目から、女性に対して相当初心である。

 

 それ故か、キンジは昔、暴発気味に能力が作用したり、それに気づいた女子に、彼女たちだけの独善的な【正義の味方】をやらされたりと、この能力を忌避する程度には苦労を強いられてきたのだ。

 

 匙が何かを叫んでいるが、キンジの耳に入ることは無い。

 

 それどころではないからだ。

 

 しかし、キンジにとって、これは好機でもあった。

 

 これから対峙する相手は、堕天使の幹部であるコカビエル。

 

 そんな敵に、出し惜しみをしている場合では無い。

 

 故に、キンジは覚悟を決めた。

 

 ……すいません、生徒会長さん……。

 

 昂ぶっていた血流が一定の水準を超えたかのように、急激に静かになった。

 

 思考は冴え渡り、キンジの身から出る覇気は、いつもの彼を忘れさせるほど大きく、それでいて静かなものだった。

 

【正義の味方】になるためのスイッチの一つは、性的興奮(・・・・)

 

『HSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)』とキンジは呼んでいる、遠山家の家系に代々受け継がれる一つの特殊な体質は、思考力・判断力・反射神経などを、通常の30倍程度に引き上げるものだった。

 

 

 

 ○

 

 

 

 ソーナは、キンジの雰囲気が変わったことに気がついた。

 

 心臓は、破裂しそうな勢いで鼓動を続けている。

 

 事故だとは分かりつつも、ソーナは男性と一切そういう行為を行ったことが無い、生粋の生娘だからだ。

 

 きっと、顔は誰にも見られたくないくらいに赤面していることだろう。

 

 煙が出そうなくらい熱い。

 

 ……お、おおお落ち着くのよ私。これは、そう、事故!だからノーカウント!何がノーカウントなのかしら……。

 

 思考がグチャグチャだ。

 

 隣で匙が何か叫んでいるが、耳に全く入らない。

 

 正面では、切彦が呆れた目線を向けている。

 

 そこで、背を支える手に、少しだけ力が加えられた。

 

 ソーナの背を支えていた右手が、撫でるように後頭部に添えられ、左手は腰へ添えられる。

 

 普段なら、その時点で押し返していたが、今は状況が状況なため、成されるがままにされてしまうソーナ。

 

 匙以外の眷属もソーナたちに気づき、毒突く者や黄色い声を上げる者など、反応は様々だ。

 

 そして、結界の手が離れない程度の力で腰を少し持ち上げられた。

 

 ソーナは気が動転していることにして、身体の自由をキンジに任せている。

 

 少し腰を持たれたせいで、ソーナの脚は力の関係を崩され、キンジの両腕に体重のほとんどを預けるように、身体を斜めに傾かせた。

 

 キンジの顔が胸から離され、ソーナを上から見つめる形になる。

 

 月の光によって、彼の顔には陰がさしていたが、暗くても分かる表情は、いつもの彼を忘れさせるほど凛々しく、それでいて、優しさを伴っていた。

 

「大丈夫ですか、美しい子猫様。大変失礼な態度、お許しいただけると嬉しいのですが」

 

 その声は、ソーナの胸に直に響いた。

 

「え、ええ、大丈夫です」

 

 なるべくキンジの顔を見ないように反らしながら、無愛想に答える。

 

 しかし、隠せてはいないだろう。

 

 顔は赤面し、満更、嫌でもなかったから。

 

 案の定、キンジは優しく微笑み、ソーナを解放する。

 

「キンジィ!テメェこの野郎、コカビエルの前に貴様をブチ殺してくれるわぁっ!!」

 

 しかし、両手はしっかりと結界を維持するために離さない匙に、キンジはニヒルな笑みを浮かべ、

 

「安心するんだ匙、俺は、美しい花を愛ではするが、穢す気は無いんでね」

「キィンジィィィィィィィッ!!!!」

「ったく、成ったならさっさと行くぞキンジ」

「そうだね、行こうか」

 

 キンジの後ろで、まだ赤面していたソーナは、そこで我に返った。

 

「そうだ、リアスは?」

「我等が主様はもう直ぐ到着しますよ。魔王への打診もしてあります、到着は1時間後らしいですが」

「そう、あなたたちは入るのね?」

「当たり前だろ」

 

 キンジは愛用の拳銃を抜き、切彦は出刃包丁を右手にぶら下げている。

 

 ソーナは一瞬だけ瞑目し、頷いた。

 

「先に結菜さんと教会の方が入っています。2人を、頼みますね」

「やっぱり、か。勿論、任せてください」

「んじゃ、行くぜ」

 

 ソーナは結界の一部を開ける。

 

 キンジと切彦は、そこから中へと駆けて行った。

 

 その背を見送りつつ、隣で血の涙を流す眷属に問う。

 

「匙?さっきからどうしたの?」

「だってぇ!会長が、会長が、あんな男にいィィィィィ!」

 

 思わず、吹いてしまった。

 

 どうやら自分は、随分と眷属に親しまれているらしい。

 

 左手を、匙の頭に伸ばす。

 

 結構ギリギリではあったが、頭に乗せることができた。

 

 不思議そうにこちらを見る匙。

 

 その顔に微笑みかけ、ソーナは告げた。

 

「大丈夫よ匙。私は、ソーナ・シトリーは、どこにも行かないから」

 

 

 

 ○

 

 

 

 キンジは、底上げされた感覚を頼りに、切彦と共に全力で戦闘音の激しいグランドへと駆けていた。

 

 グランドには大きなクレーターが出来ており、その中でフリードとゼノヴィアが打ち合っている。

 

 奥ではコカビエルらしき堕天使とデブ神父がいるが、今は無視だ。

 

 結菜が動き出した。

 

 それを見ただけで、次の局面を脳内に想像したキンジは、愛用のベレッタの射程範囲まで全力ダッシュした。

 

 ……ここだ……!

 

 フリードの様子を見る。

 

 ゼノヴィアとバトンタッチしたように結菜が攻めていた。

 

 しかし、それは悪手だ。

 

 フリードは懐から光銃を出し、結菜に狙いを定めている。

 

 だから、キンジは、確実にゲームオーバーの場面を覆すための一手を放った。

 

 銃口から射出された銃弾は、空気を貫きながら、戦場へと駆けていく。




誤字脱字等の御指摘、どうぞよろしくお願いいたします。

御感想、お待ちしています。

分からないことがありましたら、気軽にご質問ください。

では、次回でお会いしましょう。
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