希望と絶望を司る   作:虹好き

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ストックもう少し溜め込んでおけば良かったかかもしれません。

では、お楽しみください。


幕を開けるは非日常

 あれからさらに3年の月日が経ち、イッセーは高校2年生となった。

 

 歩き慣れてきた通学路を進む。

 

 そもそも、学校自体高校が初であり、正直、行く必要性を感じなかったが、岡部と静雄、ジョーカーから言われたため仕方がなく通うことにした。

 

 ちなみに、切彦、キンジ、夕乃も同じく駒王学園に通っており、夕乃のみ1歳年上のため最高学年である。夕乃は見た目からして大和撫子と言われ、駒王学園の3大お姉さまの1人となっている程絶大な人気を誇っていた。

 

 切彦は恥ずかしがり屋且つ大人しい雰囲気で、制服の上から季節外れのマフラーを巻くという独特の雰囲気から、2年生のマスコットキャラとして、男子女子共に人気がある。

 

 キンジも暗そうな雰囲気こそあるものの、顔は整っていてクールな様子から、女子からはなかなか好印象を持たれ、休み時間によく告白されている現場を目撃したりするが、キンジ自身が女子が苦手なため、日を空けてイッセーが労っていることもしばしばあった。

 

 しかし、一部の女子の前で失敗したことがあり、遠山一族特有の一面を見せてしまったことから、キンジに惚れる者は後を絶たないようだ。

 

 そして、イッセーも女子からはよく告白を受ける。無論、全て丁寧に断っているが。キンジにも言えることだが、2人は恋愛云々よりも、接したことのある異性が極端に少ないため、非常に鈍感なのだ。

 

 しかも、基本的にイッセーとキンジは、松田と元浜という、駒王学園の変態2人組と悪友であり、その2人と切彦を含んだ5人で行動することがほとんど。その輪の中に踏み込もうとする人間はなかなかいない。

 

 ついでに、イッセーとキンジ、切彦は戸籍上、全員が違う家系だが、家が施設なだけに、通学路は同じ。その施設に居候という形で住んでいる、駒王学園3大お姉さまの1人の夕乃も同じ通学路。いつも4人で登下校をする輪に入れる人間は1人もいない。

 

 簡単に言えば、4人は高嶺の花であって、憧れても手が出せない存在となっているのだ。そんなこと、4人にはどうでもいいことだが。

 

 なんだかんだで高校生活を満喫しているイッセーたち。だが、この3年間は良いことだらけでもなかった。

 

 施設で飼っていた大事な家族であるシロとクロがいなくなったのだ。飼ってから1年ほどたった時、先にクロが施設から風のようにいなくなり、それに続くようにシロもいなくなった。

 

 フリードにも会わせたかったが、フリードが帰って来る直前の出来事で、みんなが悲しだ。特に、切彦の悲しそうな表情は今でもイッセーの中に残っている。余りに悲しすぎてーーー夜、泣きながらイッセーの布団の中にまで侵入してくるほど混乱したのだ。

 

 岡部を含む、というよりも、実質切彦以外のみんなはこうなると大体予想していた。切彦自身、気付いていたのかもしれないが、あの2匹は明らかに普通の猫ではなかった。

 

 それに、死んだわけではない。生きていれば、また出会えるような感覚がしたため、施設ではまだクロとシロの食器などが大切に仕舞われている。

 

(あれから2年経ったのか……時間って早く感じるモンだな)

 

 何処までも青い空を見ながら、キンジたちと通学路を進んで行く。学園まではまだ距離があるため、イッセーはもう少しこの3年間を振り返ることにした。

 

 修行は一応、及第点というところまで辿り着いた。まだまだ鍛錬は欠かしていないが、『赤龍帝の籠手』もだいぶ使えるようになり、ドライグからは、このまま行けば、そう遠くないうちに"禁手化"が可能と太鼓判を押されている。

 

 イッセーの強さをドライグに聞いてみたところ、そこら辺の敵では太刀打ち出来ない程度には強いらしい。

 

 また、フリードは、1度帰って来たときにはぐれ神父になったと報告を受け、教会側から狙われる存在になったらしいが、今はフリーで傭兵として仕事しているとのこと。

 

 置き手紙を残し、旅に出たのには驚いたが、どうせヒョッコリ帰ってくるだろうと、施設全員が心配せずに気長に帰りを待っている。

 

 一応、置き手紙にはこう書いてあった

 

『ヘイ兄弟(ブラザー)!!ちょっくらフリーの傭兵でもして荒稼ぎしてくるZE☆少ししたら金沢山持って帰ってくるから楽しみに待ってな!!』

 

(今どこにいるのか分からないが、年を重ねるごとに金の亡者になっていくなフリードの奴……)

 

「イッセーさん、そろそろ着きますよ?ボーッとするのはそろそろ終わりです」

「あ、すいません夕乃さん」

 

 夕乃に指摘され、現実に意識を戻すと、もう駒王学園の門の前まで来ていた。

 

 今日も今日とていつもと変わらず、周りからは黄色い歓声が聞こえる。

 

『3大お姉さまの1人、崩月夕乃様よ!!』

『クールなキンジ君もいるわ!!』

『イッセー君やっぱりカッコいい!!』

『切彦ちゃーん!!今日も愛くるしさマジLOVE1000パァァァァセントォォォォォ!!!!』

 

「キンジ」

「分かってる。……最後の奴だけは俺が消しておく」

「2人ともお兄ちゃんですね」

 

 上品に笑う夕乃の前で、果てしなく黒い感情を晒け出す義兄弟。熱血ラブコールを贈られた当の本人である切彦は、ただ照れるだけで何も心に響いていないが。

 

 玄関で夕乃と別れ、キンジと切彦とともに教室へと向かう。何の偶然かは不明だが、イッセーとキンジと切彦は同じクラスだった。

 

 イッセーが教室の扉を開けると、まず視界に入ってきたのはーーー強固に固められた拳が2つ。悪友であるはずの松田と元浜からの右と左のストレートだった。

 

「イッセェェェェェェェェェッ!!!!!」

「キンジィィィィィィィィィィッ!!!!!」

 

 イッセーはその場でしゃがむ。その後ろにいたキンジがカバンを床に素早く置き、2人の拳を受け止め、ガッチリホールド。イッセーは反動によってロクに防御もできず、ガラ空きになった松田と元浜の腹部を狙い、ジャンプする時の反動で勢いをつけた掌底を両手で放つ。

 

「「グハァァァァァァァッ!!!」」

 

 物凄く手加減をしたが、それでも教室の入り口から橋まで吹っ飛ばした。

 

 イッセーは何事もなかったかのように、キンジは汚れを落とすように手を叩きながら、床に置いたカバンを回収した。

 

「「おはよう」」

「お、おはよう、ございます」

 

 遅れたように切彦も挨拶する。ほぼ毎日のことなので、クラスのみんなは変態2人には眼もくれず、普通にイッセーたちに挨拶をしていた。

 

 イッセーとキンジは自分の席にカバンを置くと、伸びている松田と元浜の2人の頰を叩きながら起こす。

 

「んおっ!?今日も負けたのか……俺たちは」

「……そのようだな」

 

 まるで悟ったかのようにやりきった感満載の悪友2人に、イッセーとキンジは溜め息をつきながら、

 

「学習能力無いな」

「お前ら、あれは戦いのたの字もしてないからな?」

 

 呆れたようにそう呟いた。

 

 

 〜〜〜

 

 

 放課後、校門の前で夕乃のことをキンジと切彦と待っていると、長い黒髪の少女がイッセーの前まで歩いてきた。

 

(こんな子いたっけ……それに、この感じ……)

 

 キンジは自然な動きで制服の左胸ポケットに右腕を入れる。キンジは制服の下に防弾装備をしており、制服の中には愛用の銃とナイフが隠されているのだ。

 

 切彦は自分のカバンの中に手を入れている。

 

 2人とも気付いているようだ。特に、キンジの反応の良さは、静雄と"万屋"で汚れ仕事を経験しているためでもあり、今目の前にいる少女のような皮を被った人外を数多仕留めてきたからでもあった。

 

(こいつ……堕天使か。イッセーに接触するってことは、イッセーの中に眠る神器が目的と考えるのが1番シンプル且つ正答率が高い)

 

 しかし、今の時間帯は下校時間。ここで問題を起こすには、人の眼がありすぎる。しかも、この堕天使の力は精々中級がいいところだ。

 

 イッセーも警戒していることがバレないよう、自然体を装っている。

 

 やがて、黒髪の少女は恥ずかしそうに話し始めた。

 

「兵藤一誠君、私は天野夕麻って言います。その、私ずっとあなたに、あ、憧れてきたんです!お願いします、私と付き合ってくだ「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」、て、え?」

 

 告白の言葉が終わる前に断られた少女、天野夕麻。何がどうなったのか分からないのか、軽く思考停止を起こしているようだ。

 

 キンジと切彦も夕麻の反応を見て、警戒を解く。

 

 キンジは軽く息を吐いて夕乃が来ていないか玄関の方を見てーーー固まった。

 

 そして、そのままゆっくりと首を動かしてイッセーに顔を向ける。見れば、切彦も顔を青くしているではないか。2人のタダならぬ様子に、イッセーは訝しげに玄関の方を見てーーー動けなくなった。

 

 玄関の入り口にて、こちらを見つめる3大お姉さまの1人、崩月夕乃がいた。物凄い笑顔で。だが、瞳は笑っていないのだろう。それは、夕乃から滲み出るオーラが語っている。そこで、突然夕乃の姿が消えた。

 

 と、イッセー、キンジ、切彦はそう思った。どう移動したのかは不明だが、夕乃はイッセーの目の前にいたのだ。

 

(……イッセー、南無三)

 

 その表情は笑顔。途轍もなく美しい笑顔。……瞳は一切笑っていない笑顔。

 

「……イッセーさん、さっきの女の子、誰ですか?」

 

 暗い笑顔から放たれるは普段よりも随分と低く、ドスの聞いた声。

 

(……これは、死ぬかもしれない)

 

 イッセーは必死に言い訳を考えるが、徐々に近づいてくる夕乃の瞳孔が開いた眼力に勝てず、

 

「こ、告白サレテマシタ……」

「告、白ゥ?」

 

 いつの間にか、キンジは切彦を連れて避難しており、逃げ場が無い。夕麻すらいなくなっている。

 

「告白……告白ですか……それで、返事は?」

「も、勿論断りました……」

 

 下手な事を言えば、確実に殺される。蛇に睨まれたカエルとは、まさにこのことだろうと、イッセーは軽い現実逃避気味に考えていた。

 

 こうなってしまった夕乃を止められる存在は、静雄ぐらいだろう。

 

 夕乃は昔からイッセーにゾッコンであり、何度もアプローチをかけているのだが、肝心の本人は天性の鈍感さで全て回避。しかし、それでもめげない夕乃は、イッセーに取り付く女子に対して強い敵対心を見せ、切彦以外の女子が近づくことを極限まで嫌うのだ。

 

 先ほどのように、知らない女子と話したりしていると、精神力の弱い人間なら視線で殺せるのでは?というほどの殺意を放つ、俗に言うヤンデレ状態になるのだ。

 

「まさか、邪な感情を持っていたりはしませんよね?イッセーさん?」

「め、滅相もございません」

 

 天野夕麻を名乗る堕天使も、夕乃の迫力に気圧され、この場を離脱している。

 

(こうなれば仕方ない……これ以上ことを大きくしたくないし)

 

「夕乃さん、今度の休日、どこかに出掛けませんか?」

 

 場の雰囲気が一転し、夕乃の表情もこれまた一転、僅かに染めた頰に手を当て、

 

「急にお誘いなんて……全く、イッセーさんは仕方ありませんね」

 

 瞬時に夕乃の機嫌が治った。イッセーの大切な休日を1日削って。同一人物とは思えないほどテンションの差が激しい夕乃から少し遠ざかったところでは、キンジがイッセーに向かって親指をグッと立てている。

 

 もう苦笑いしかできない。

 

 すっかり天野夕麻の存在を忘れた夕乃に急かされ、イッセーたちの慌ただしい1日は終わりを遂げる。

 

 帰ろうと学園へ背を向けようとした時、旧校舎の窓からイッセーを見つめる、紅い髪を持つ美少女と目が合った。駒王学園3大お姉さまの1人、リアス・グレモリーその人である。

 

 旧校舎といえば、リアスが部長を務めるオカルト研究部があり、そこにはこの学園でイッセーたちと大差ない人気を誇る人たちが集まっているのだが……

 

(部員全員が悪魔なんだよな……)

 

 駒王学園で人気を誇る人間は、大抵が悪魔なのだ。オカルト研究部のみならず、生徒会全ての生徒が悪魔でもあり、この学校を納めているのは悪魔を統べる魔王なのでは?と、割と本気でイッセーは考えている。

 

 その悪魔であるリアスが、何故イッセーを見ていたかは不明だが、イッセーは気付かぬ振りをして帰路に着いた。

 

 

 〜〜〜

 

 

 駒王町に唯一存在する教会の中。教会とは言っても、既に廃墟で、ボロ屋敷と言っても過言ではないほど中は汚れ、神々しさ皆無の神の像は、半ばヒビが入って今にも崩れ落ちそうだ。

 

 辛うじで原型を保っている椅子の一つに座るフリード・セルゼンは、教会内で暴れる今回の雇い主、堕天使レイナーレに眼を向ける。

 

 件の彼女は、イッセーから受けた屈辱、夕乃から受けた圧に恥ずかしながら恐怖してしまった自分に苛立ちを覚えーーー簡単に言えば、癇癪を起こし、子供のように物あたっていた。

 

 側から一生懸命レイナーレを止めようしている部下たちが不憫でしょうがない。

 

「あぁもうなんなのよ彼奴は!!せめて全部言ってから断りなさいよぉぉぉっ!!」

「れ、レイナーレ様!!これ以上は教会が保ちません!!」

「知ったことじゃないわそんなこと!!キィィィ腹立つわね!!」

 

 レイナーレが今日何をしていたのか、フリードには知る由もないが、とりあえず……

 

(うわぁ……すんごくガキ臭いんだなぁ、あの堕天使)

 

 一応そこそこの金で雇われているため、文句を言うつもりはないが、折角地元にいるのだから、せめて施設に帰りたいものだ。こんな小汚い場所で寝たくないのが1番の理由でもある。

 

 しかし、そろそろ止めなければ、本当にこの教会が崩壊しかけない。重たい腰を上げ、

 

「部下の言う通り、そろそろ止めないと、ここ崩れちゃいますぜレイナーレサマー」

 

 非常に面倒臭そうに言い放った。余りにもやる気の無い声音に、怒り狂っていたレイナーレは、その矛先をフリードに向ける。

 

「あんたには関係無いでしょ!?雇われた分際で主に楯突く気!?」

「いやいや、楯突くも何も、ちょっと壁とか見ればこの教会の脆さとか一目瞭然だと思いますぜ?ついで、レイナーレサマーも一応中級堕天使なんだから自分の力考えろってことっすわぁ」

 

 気怠そうにしながらも、壁のヒビなどを指差し、懇切丁寧に説明したつもりのフリード。側から見れば、煽っているようにしか見えない。レイナーレも額に青筋を浮かべ、部下がビクビクしているがーーーフリードに敵わないことが分かるのか、何とか怒りを抑える。

 

「そ、そうね……確かに少し大人げなかったわ。明日にはアーシアも来るというのに。それはそうと、そろそろあなたも私のことを少しは主らしく扱ってくれないかしらね?何よレイナーレサマーって。ふざけているでしょう?」

「俺っちはこれが普通だぜ?貰った分の働きはしっかりするからそんなお難くなんなって。ちゃんとサマつけて呼んでんだからどうでもいいでしょーがー」

 

 この男、わざと煽っているのだろうか?いいや、これがフリードにとっての"普通"なのだ。こんなんでも、たった1人でレイナーレたちを全滅させられるであろう実力を持っているのだ。下手に刺激し、反感を買うのは得策ではない。レイナーレも、これ以上相手してもただ長引くだけと理解したのか、溜め息をつきながら、

 

「分かったわよ。あなたには明日、"アーシア・アルジェント"を迎えに行ってもらうわ」

「ヘイヘーイ承りましたぁ。ところでレイナーレサマーは何でそんなに激おこプンプンなのでごぜぇますか?」

 

 舐めた態度だ。怒りを抑え、あくまで淡々と、

 

「あなたには関係ないわ。任された仕事を全うして頂戴」

 

 その言葉に、フリードは特に異論もなく、

 

「アイアイサー」

 

 それっきり、言葉を発さず、座っていた椅子に座り直した。

 

(何とか計画に支障をきたさないようにしなきゃ……最悪、あの赤龍帝は諦めて、儀式だけでも成功させなきゃ)

 

 己の欲に思考を働かせるレイナーレを、フリードは興味無さそうに横目で一瞥した。

 

 〜〜〜

 

 

 翌日、イッセーは学校帰りに買い物の用事があった為、夕乃たちとは別の道から帰っていた。

 

 買い物の最中に、何やら怪しげなチラシを貰ってしまったが、貰ったものは仕方がないのでポケットに突っ込んでおく。

 

 目当ての買い物を済ませ、レジ袋を持ちいざ帰ろうという時に、こんな街中ではやたらと目立つ格好の少女ーーー金髪のシスターが困っているのを見かけた。

 

(フランス語……道を訪ねてるのか。そりゃあ今の日本でフランス語を聞き取れる奴なんてほとんどいないわな)

 

『ほう、相棒は話せるのか』

 

 頭の中に、ドライグの声が直接響いた。今のは中から直接声をかけてきたのだろう。ドライグとは、心の中でも会話できるため、暇な時などはよく他愛も無い世間話などするぐらいだ。

 

(まぁ、"万屋"の手伝いで少しばかり、な)

 

 シスターの少女に近づき、声をかけるイッセー。突然同じ言語で話しかけられたことに驚いたのか、

 

「はぅ!?わ、私の言葉が分かるのですか?」

 

 独特な雰囲気を持つ少女だが、悪い子ではない。それが、イッセーが少女に感じた第一印象だった。

 

 同時に、

 

(不思議な力を感じる……これは、神器?)

 

『相棒は力に敏感に反応するな。そういう特殊な環境で育ったのだから仕方ないのだろうが』

 

 施設育ちのため、そういう溢れ出る力に対し、イッセーたちは非常に敏感に反応できるようになっていた。天野夕麻を一瞬で堕天使と判断できたのもそのお陰だ。

 

「えぇ。少しだけだけどね。何か困っているように見えたものだからつい」

「はい、実は、この町の教会に行きたいのですが、場所が分からなくて。迎えの者を送るとも聞いたのですが、いつまで経っても来ないものですから、道を聞いて自力で行こうと思ったのです。ですけど……」

「まぁ、外国語が通じる人がいない、と」

「そういうわけですぅ」

 

 短く嘆息するシスターに、イッセーは笑みを浮かべ、

 

「教会の場所なら分かるよ。案内してあげる」

「本当ですか!?あぁ、この出会いも主の導きあってのもの。主よ、感謝します」

 

 手を組み、天に祈りを捧げるシスターを見て、イッセーはフリードの事を思い出した。

 

(あいつ……はぐれ神父になったんだよな……フリードもこうやって祈りを捧げてたのか?似合わなすぎる)

 

 祈りが終わったのか、笑顔で近づいてくるシスター。

 

「お名前を教えていただけませんか?」

「あぁ、そういえば自己紹介してなかったね。俺は兵藤一誠。気軽にイッセーと呼んでくれ」

「イッセーさんですね!私はアーシア・アルジェントと申します!」

「よろしく、アーシア」

「はい!よろしくお願いしますね、イッセーさん!」

 

 見た目通り、良い子そうだ、と思わず頬を緩めてしまうイッセー。

 

「早速案内しよう。行こうか」

「はい!」

 

 案内中に分かったことだが、アーシアは純白なぐらい純粋なシスターだった。ここまで良心のみでできた人間がいるのかと。世界は意外と広いことをイッセーは知った。

 

 さらに、アーシアの神器の正体も分かった。公園に差し掛かった時、転んで膝を擦り剥いた少年をアーシアが見つけると、その少年のもとまで走っていき、怪我した箇所に両手を翳した。すると、両手から優しげな光が傷口を照らし、あっという間に傷を完治させたのだ。『聖母の微笑』というらしい。

 

 ポカンとしていたイッセーに、アーシアは少し胸を張り、可愛いドヤ顔をしてきたりと、なかなか茶目っ気もあるようだ。

 

「あれがこの町唯一の教会だよ」

「あそこですね!!」

 

 そうこうしているうちに、教会が見える所まで来た。今はもう使われていない教会に何の用かは分からないが、シスターの事情があるのだろう。まだ少し距離があるとはいえ、もう迷うことは無いだろうが、案内役を買って出た以上、途中でやめる気は無い。

 

 案内再開しようとしてーーーしかし、イッセーは足を止めた。いや、止めざるを得なかった。

 

「アーシア、ここまで来たならもう迷うことはないだろう?そろそろ暗くなるかもしれないから、急いで教会に行くといい」

「イッセーさんはここまでしか来れないのですか?」

 

 恐らく、アーシアはまだ気付いていない。ーーー少しでも速く、この場からアーシアを遠ざける為に、イッセーは笑顔で、

 

「あぁ、本当に悪いんだけど、俺の家は門限にうるさくてね。そろそろ戻らないと間に合わないんだ」

「そ、そうだったんですか!すいません付き合わせてしまって……」

「言ってなかった俺にも非があるさ。ほら、暗い中女の子1人っていうのも危ないから、急いで行くんだ」

 

 その言葉にアーシアは頷き、

 

「はい!イッセーさん本当にありがとうございました!!また会いましょう!!」

「あぁ。またね」

 

 駆け足で教会の方へと向かっていく。イッセーはその背中に手を振り続け、曲がり角を曲がったのを見送ってから、後ろへと振り返った。

 

 そこに居たのは、黒い外套に身を包み、オールバックの髪にサングラスをかけた外人の男性だった。アーシアを逃したのは、この男が尋常じゃない殺気をイッセーに向けてきたからだ。それも、イッセーのみを狙って。

 

 イッセーが向かい合って、初めて分かったことだが、この男は危険だ。放たれる殺気は酷く冷めており、職人が手がけた銘刀を幾つも喉元に添えられている感覚。何よりも、この男から滲み出るオーラに、身体が過剰なまでの拒否反応を起こしているのだ。幸い、今ここに人はいない。

 

(こいつは一体……何でかは分からないけど、物凄く、怖い)

 

 イッセー感じているのは、正しく恐怖だった。それも、【本能的な恐怖】。まるで、目の前の存在とイッセーは、相性が最悪の関係のような。

 

 そして、その予想は、激しく的を得ていた。

 

 イッセーの中に響く、これまでにないほど焦ったドライグの声。

 

『相棒!こいつは危険すぎる!!ドラゴンにとって最悪の敵であり、この上無く邪悪な存在。"最強の龍殺し"邪龍サマエルを宿している!!」

「……ッ!?」

 

 本能的な恐怖の理由が分かり、この場での選択が逃げの一択になったのは良いが、肝心の逃げ場が全くと言っていいほど無い。

 

 目の前の男に隙が見当たらず、下手に動けないのだ。

 

 イッセーが動けずにいると、突然、目の前の男が喋り出した。

 

「良い警戒心だ。殺すのが惜しいくらいに」

 

 外人とは思えないほど綺麗に発音される日本語。イッセーは警戒を解かず、鋭い目つきのまま、

 

「随分と物騒なご挨拶だな。初対面でいきなり殺すは無いと思うんだけど?」

「もう私の中にいる邪龍の事は聞いているだろう?兵藤一誠、貴様の中にいる、赤き龍から」

 

 イッセーは左腕に『赤龍帝の籠手』を出現させ、構えをとる。

 

『貴様、一体何者だ?どこで俺の存在を感知した?』

 

 構えすらとらない男に、ドライグが直接問いかけると、

 

「ふむ、聞いたところでどの道死ぬが、まぁいい。私の名はアルバート・ウェスカー。分かっているとは思うが、邪龍サマエルを身に宿した存在だよ。さて、最強の龍殺しであるサマエルは、龍の気配に途轍もなく敏感でな、貴様の存在を感知できた理由は簡単だ」

 

 一息、

 

「地球上、どの場所にいようと、サマエルは全ての龍の存在を感知出来るだけ。そう、邪龍の力は世界全土に影響している」

 

 その言葉に、イッセーとドライグは驚愕した。同時に、絶望した。

 

 遠回しに、イッセーの逃げ場は無いと言われたのだ。そして、ウェスカーの放つ闘気は、今のイッセーを遥かに凌駕している。

 

 俗に言う、絶対絶命の状況だった。

 

「さて、話は終了にしよう。冥土の土産程度にはなったかね?今の自分の状況がよく分かっただろう?」

 

 もはや戦闘は免れない。イッセーは舌打ち混じりに倍加を始めた。

 

『Boost!!』

 

『相棒、分かっていると思うが、今の相棒ではッ!!』

 

(分かってるさ!こいつは強すぎる。何とか隙を作り、逃げるしかないッ!!)

 

 ウェスカーは未だにその場から動かない。倍加は10秒毎に1回ずつ行われるため、イッセーは時間をかければかけるほど強くなる。

 

 しかし、そんなことをウェスカーがさせるはずがなかった。

 

 その動きは、ノーモーションから突然起きた。勢いよく着火するような音がしたと思いきや、ウェスカーは一瞬でイッセーの真横まで移動し、手刀を放っていたのだ。

 

「ーーーこのッ!!」

 

 首を手刀の方向に思いっきり捻りスレスレで回避する。イッセーはその過程でわざとバランス崩し、サマーソルト気味の回し蹴りをウェスカーの側頭部を狙って放った。

 

 生身で触れるのも危険と判断し、靴ならばどうだという発想からの決死の一撃だった。しかも、ウェスカーも手刀を放った直後。ならばどんな身体能力があろうと、この一撃はかわせない。

 

 しかし、先程聞こえた着火の音が間近で聞こえたと思うと、ウェスカーはさっきとは全く違う体勢になっており、まだサマーソルトの動きの最中にいるイッセーの鳩尾に右手が添えられていた。

 

(嘘、だろ?コンマ何秒の戦いが出来るんだよこいつは……ッ!!)

 

 そこから放たれる抉るような掌底に、イッセーはなす術無く数十メートル吹き飛ばされた。しかも、掌底を放つ瞬間に、ウェスカーの袖の中からーー恐らく邪龍サマエルの一部であるドス黒い鎖のような触手に腹を貫かれてしまった。

 

 何回も転がり、仰向けに倒れると、盛大に吐血する。

 

「ガハッ……ハァ……ハァ……」

 

『グッ……相棒、気をしっかり持て!!』

 

 貫かれたところから、全身にかけ、灼けるような、死ぬ方が楽に感じるほどの激痛に襲われ、声も出せずに、荒い呼吸を続けるイッセー。

 

 サマエルの毒は、精神世界にも影響しているようで、ドライグも苦しげに呻いていた。

 

 余りの痛みで勝手に痙攣する身体。薄れる意識の中、近づいてきたウェスカーは、イッセーの様子を見るなり、もう長くないと判断したのか、着火音とともにその場から消える。

 

(クソ……悪魔かよ、あいつ……いや、悪魔っていったら……駒王学園にいる、リアス先輩とか、か……って、最後に何考えてんだか……死にたく、ないなぁ……まだ、何も守れてない、のに)

 

『おい、相棒!返事をしろ!相棒!!』

 

 ドライグが必死に叫ぶが、イッセーの耳は、何も聞こえなくなっていた。

 

 ブラックアウトする視界の中、最後に映ったものは、紅い長髪だった。




少々急ぎ足すぎましたかね?
修正の可能性があります。
誤字脱字等のご指摘、どうぞよろしくお願いします。

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