ーー悪に堕ちた者がみな、必ずしも初めから悪とは限らないのだ。
廃墟と化した教会の中、半壊した神の像に腰掛け、教会の扉を見つめるフリード。周りには誰もいない。みんな地下で、アーシアの神器を取り出す大規模術式を行っているからだ。
レイナーレから任された最後の仕事は、この儀式を中断させないこと。いわば、侵入者の排除だ。
意外なところで律儀なフリードは、払われた対価分の仕事はする。
(ま、ギリギリまでは待ってやるかぁ)
正直、侵入者なんているのか、と思ったりしたが、儀式直前のアーシアと話した時に、
「迎えが来るんです」
と、彼女は華のような笑顔を浮かべて言ってきた。どんな奴が来るかは分からないが、こんな犯行予告をする相手だ。そこそこ楽しませてはくれるだろう。
しかし、フリードは嫌な予感がしてならない。
(なぁんか、あいつらが来そうな気がすんだよなぁ。俺っちの勘だけど……)
ーーーそこで、教会の外から、複数の気配を感じた。
いきなり現れた気配。転移でもしてきたのだろう。
個々から放たれる力は強いが、この教会に集まってきたはぐれ神父たちの人数に比べると少しばかり物足りない程度。主に、フリードがこちら側にいるせいだが。フリードがいなければ、この人数で十分制圧できるだろう。
しかし、その中の3人の力、どうも懐かしい感じがしてならない。1名は悪魔の力も感じる。
そして、突如、教会の外から鈍い打撃音が聞こえたかと思うと、扉がフリードに向かってかなりの速度で迫ってきていた。
神父服の中から柄のみの剣を出し、スイッチを入れる。すると、柄から光の刀身が現れーーーそれを下から上へと一閃した。
対悪魔仕様の光剣であり、フリードはこれの他に、二丁の銀銃を神父服の下に装備している。
対悪魔仕様とはいえ、その切れ味はなかなかのもので、飛んできた教会の扉は、切れた箇所からフリードを避けるように左右へと開いていき、そのまま後方に飛んで行った。
たった今、扉を殴り飛ばした主犯であろう、拳を振り切った白い髪が特徴の少女の後ろから、複数人の影が見える。
やがて、月の光に照らされた侵入者に対し、フリードはとりあえず一言。
「うわぁお……マジかよ」
〜〜〜
イッセーたちは、リアスが用意した転移陣で教会の入り口の前に転移した。
教会の中から、大人数の魔力が練られているのが分かる。相当時間が無いかもしれない。
小猫が扉の前に立ち、拳を振りかぶる。
小猫で本当に大丈夫か?とイッセーとキンジ、切彦は思ったが、リアスが大丈夫と言ったので、こんな小柄で華奢な身体のどこにそんな力があるのか見ていると、
「……戦闘開始の合図は派手にいきます……えい」
気の抜けた掛け声とともに放たれた拳は、決して優しいものではなく、鈍い打撃音を響かせたかと思うと、扉がかなりの速度で吹っ飛んでいった。
あまりの強さに呆気に取られそうになったが、扉が飛んで行った方向ーーー半壊した神の像に腰掛ける神父が、綺麗な太刀筋の一閃で扉を真っ二つにしたため、そちらに注意を向ける。
月の光が神父の後ろから入り、逆光となっているせいで姿がよく見えない。
すると、神父の方から声が上がった。
「うわぁお…マジかよ」
その声は、やけに懐かしく、忘れようの無いものだ。逆光が弱まり、ハッキリと見えた神父はーーーイッセーたちの家族である、はぐれ神父のフリード・セルゼンであった。
そんな関係とは露知らず、リアスたちグレモリー眷属は、戦闘態勢を取り、
「あなたはーーーはぐれ神父のフリード・セルゼンね。その類稀なる戦闘のセンスから最年少天才エクソシストとして名を上げたと聞いているわ。でも、教会に逆らい追放され、はぐれの身。まさか、この町にいるとは思わなかったけれど、堕天使に加担するなら容赦はしないわ」
リアスが紅い魔力を全身から溢れさせながらフリードに向けて言い放つ。
しかし、フリードは構えすら取らず、ましてやリアスたちには眼もくれずに、イッセーたちの方を凝視していた。イッセーたちもフリードを凝視している。
それを、余裕と受け取ったのか、苛立ったリアスは紅い、滅びの魔力をフリードへと放った。
そこでようやく我に返ったフリードは、銀銃を取り出し、連射してリアスの一撃を防ぐ。
結菜もそれに続き、
「行くよ、『魔剣創造』!!」
「あらあら、悪い子にはお仕置きですわ」
結菜の神器である『魔剣創造』で創り出した魔剣を握り、フリードに突撃し、朱乃もそれに続いて雷をフリードに放った。
「ちょっち気が早くないかねぇ!!」
振り抜かれる魔剣に、フリードは神像から飛び退くことで回避し、迫り来る雷は瓦礫とかした椅子を蹴り飛ばすことで相殺。
「まぁ待てって!ちょいと戦闘前の会話しようぜか、い、わ」
「あなたと話すことなんてないわ」
即答で応じるリアス。対しフリードは、「俺にはあんだよ!」と、子供のように地団駄を踏み、イッセーたちに向き直った。
「よぉ、久し振りじゃねぇか、
「あぁ、帰って来てたなら一回くらい顔出せよな」
随分と親しそうに話し始めるイッセーとフリードに、リアスたちはまたもや驚愕し、
「イッセー?あなた、フリードと知り合いなの?」
その問いに答えたのはキンジだった。
「まぁ、家族ですしね」
「あらあら」
フリードの姿を確認してから、一切攻撃していない小猫も、何故か納得したような表情をしている。朱乃も珍しいそうな顔をしていた。
まさか敵の本陣に家族がいるとはーーー可能性はあると思っていたイッセーたち。今度は切彦が、
「お前、傭兵として堕天使に雇われたのか?」
「そうそう!いやぁ、これでも結構気前良んだよ地下にいる堕天使ちゃん!だから俺っちも契約金分の働きをすんのは当たり前っしょ?」
つまり、
「障害として、オレらの前に立ってるってことでいいんだよな?」
切彦の好戦的な発言。フリードは侵入者の排除をレイナーレから命令されているがーーーアーシアの命は、今も徐々にその輝きを失っているのだ。
故に、フリードは笑い、
「そういうこと、と。だがしかぁし、いくら俺っちでも、この数相手は流石にキビーッしょ?だから、誰か1人くらいなら足止めできるが、他は下行っていいぜぇ。ほら、ここが地下への入り口」
そう言って地下の入り口を親指で示す。イッセーたちはその言葉の真意を一瞬で理解し、
「部長、行きましょう」
「え?本当に良いの?」
「大丈夫です」
そう言って、フリードの横を通り、地下の階段を駆けていく。横を通りすぎる時、
「絶対助けろよ、
その言葉に、イッセーはしっかりと頷いて地下へ急いだ。
フリードの前に残ったのはーーー切彦。苦笑いを浮かべ、
「やっぱり切彦ちゃんが残ったかー」
「あの中でお前とまともに戦えんのはオレとキンジとイッセーだけだ。友達救いに行くのに、救うって言った本人が行かねぇのはオカシイだろ。ついでに、
「それには同感だわ」
フリードは右手に光剣、左手に銀銃。対する切彦はカッター。
「最近雑魚しか相手してなかったからさぁ、俺っちってばフラストレーションドバドバ溜め込んでんだよ。だから、しばらく付き合ってもらうぜ?」
「あぁ。俺もつまらねぇ"殺し"には飽き飽きしてたところだ。It's show timeーーー行くぜ」
教会内にて、2人の強者がぶつかり合った。
〜〜〜
上の階から戦闘音が響き、イッセーたちは階段を下りきった。目の前には、奥へと続く一本道。大規模な魔力はこの先から感じられる。急ごうとするイッセーを、リアスが呼び止めた。
「イッセー、あなたに一つ言い忘れていたことがあるから伝えるわ。大事なことだからよく聞きなさい」
真剣味を帯びたリアスの声音に、イッセーは緊張感を覚える。
「『プロモーション』のことは覚えているわね?悪魔の駒を与えられたあなたは、ゲームでなくても、私が"許可"した場所での『プロモーション』を可能とするのよ」
それはつまり、ただの『兵士』が特殊能力を持つ他の駒への昇格が可能となるわけで、戦況を大きく揺るがすものだった。
「だからイッセー、"許可"するわ。全力で行きなさい」
「はい、『プロモーション、女王』!!」
その瞬間、イッセーの身体の奥から力が溢れ出てきた。その力は、リアスたちが眼を見張るほど濃密で強力なものだ。時間が惜しいため、奥へと急ぐ。
イッセーがそのまま扉を蹴り開け、奥の部屋へと入るとーーーそこには大量の神父、堕天使がいた。その中心には堕天使レイナーレに幹部クラスの堕天使が3人いて、アーシアは磔にされていた。
大規模術式の途中だったのだろうが、扉を蹴り飛ばして侵入してきたイッセーたちに、そこにいた全員の眼が向けられた。勿論、アーシアもイッセーたちに気づき、元気の無い顔を上げた。そのアーシアに、イッセーは笑顔で、
「アーシア、約束通り迎えに来たよ」
「イッセー、さん……それに、キンジさんも……」
「あぁ、約束は破らない主義でな」
リアスたちはすでに戦闘体勢をとっている。周りの神父たちもそれぞれ光剣や銀銃を取り出し、一触即発の雰囲気だ。
その中、イッセーはレイナーレと紺色のコートを着た堕天使ーーードーナシークに気付いた。
「あいつは……天野夕麻とかいう女の子の皮を被ってた奴か」
「やはり、俺たちの読みは当たっていたようだな」
キンジがイッセーの隣で堕天使たちを睨みつける。そこに、結菜と小猫が、魔剣とオープンフィンガーグローブを着けた拳を構え、神父たちに突撃した。
「個人的に神父は嫌いなんだ。だから、こっちは任せて!イッセー君にキンジ君!」
「……ちゃんと救ってあげてください」
リアスと朱乃は、紅い滅びの魔力と雷を放出しながら、
「お二人共行ってくださいまし。私と部長で格の違いを見せつけてあげますわ」
「堕天使の雑兵は私たちが受け持つわ。だから、行きなさい!」
堕天使へと放出した力を放っていった。中心部へと広がる道をイッセーとキンジは走り抜け、
「ドライグ、頼む」
『久しぶりに呼ばれたぞ、相棒』
『Boost!!』
倍加を始める。目の前には堕天使の幹部3人にアーシアのもとにはレイナーレがこちらを睨みつけていた。
「自己紹介をしていなかったな。私は堕天使ドーナシーク。まさか、また相見えるとは思いもしなかった」
「今から殺す奴に名乗っても仕方がないとは思うけど、ここまで乗り込んできた勇気を讃えて名乗ってあげるわ。あたしは堕天使ミッテルトよ」
「堕天使カラワーナだ」
堕天使特有の黒い翼を出し、手には光の槍を持つ3人に、キンジは右手に愛銃、左手には、緋色に輝くバタフライナイフを握ってイッセーに呟く。
「行ってこいイッセー」
その言葉に、イッセーは厳しい視線を寄越し、
「良いのかキンジ?
「この程度なら2割出さなくても勝てるさ。心配しすぎなんだよ。ーーー今は1秒でも時間が惜しい。アーシアの様子を見れば分かるだろ?
イッセーはアーシアに眼を向けた。大規模術式は発動されてしまっているようで、アーシアから緑色の光が溢れ出ており、アーシアは衰弱してしまっている。堕天使に対しての苛立ちが募るイッセーは、キンジに頷いて堕天使3人を通りすぎた。
行かせるものかとイッセーに光の槍を放とうとする堕天使に、キンジの愛銃が火を噴いた。
放たれた弾丸は3発。それらは寸分の狂いもなく堕天使たちの手首を貫き、光の槍を落とさせた。苦悶の表情を浮かべる堕天使たちに対し、先ほどとは全く違う雰囲気を纏うキンジは静かに、しかしながら内側では激しく燃え滾る怒りを露わにしていた。
「アーシアのあの表情を見て
乱暴になった口調に、人間技とはとてもいえない銃技を扱うキンジに、3人は等しく脅威を感じ、目の前の少年を潰すべき敵と認識した。
後ろで激しさを増す戦いには眼もくれず、堕天使レイナーレのもとに辿り着いたイッセー。レイナーレはイッセーに厳しい眼を向け、
「……あいつ、手を抜いたわね……雇われの身のくせに……ッ!!」
フリードに対しての怒りを露わにしていた。イッセーはそんなレイナーレをひと睨みし、
「……天野夕麻を名乗っていた堕天使、今すぐこの術式を止めて、アーシアを解放しろ」
その言葉にレイナーレは激怒した。
「そう言われて、はい分かりましたと大人しく解放すると思う?舐めてるんじゃないわよッ!!どれだけの覚悟でこの計画を進め、ここまで来たと思ってるの!?」
レイナーレは両手に光の槍を出現させ、宙に浮かぶ。その瞳には激しい怒り、焦り、そして哀しみがあった。
「全てを失った私にこの力は必要なのよッ!!少しでも私"たち"を罵った"あいつ"に復讐するためにも!!」
悲痛な叫びに聞こえた。レイナーレの叫びには、並々ならぬ覚悟があり、説得力があった。どれだけ酷い目にあってきたのかは分からない。レイナーレ自身、そこまで教える気はない。だが、イッセーの怒りが揺らぐことはなかった。
「深くは追求しない。お前たちの事情なんて分からない。だが、お前の復讐とやらのために、アーシアの命を奪うのは間違っている。俺たちにとって、アーシアはもう掛け替えのない存在なんだ。だから……お前を倒すよ」
『Boost!!』
今ので7回目の倍加。背後で戦うキンジはすでに戦闘終了目前だ。
「行くぞ、ドライグ」
『Explosion!!』
ただでさえ『女王』に昇格し、強化されたイッセーの力が大幅に増加する。イッセーの身に纏うオーラに、レイナーレは一筋の汗を流し、
「アアアアアアアアアァァァァァッ!!!!」
両手の光の槍を全力で投擲した。迫り来る、悪魔にとって脅威となる二槍に、イッセーはーーー地面を強く踏みしめ、正面から飛び込んだ。弾丸のように迫るイッセーと二槍。
接触する寸前に、イッセーは身体を力の限り捻り、二槍の間にあいた、僅かな隙間を通る。光を間近に感じているせいか、身体が熱せられたように熱いが、それもほんの一瞬の出来事。凶器の間を無事に通り抜けたイッセーは、拳を握りしめ、レイナーレへと距離を縮める。
「なッ……!!!」
己の全身全霊を込めた、全力の一撃に真正面から来るばかりではなく、ギリギリで避けてみせたイッセーに、レイナーレは驚きと同時に、顔を焦燥で染めた。
しかし、それもすぐに諦観へと変わった。レイナーレは、この男に決して勝てないと思ってしまった。
(……また、私は敗者となるのね)
怒りも忘れ、敗北を悟ったレイナーレに、イッセーは手加減無用の拳を振りかぶる。
「喰らえ、堕天使」
ーーー音は余り響かなかった。しかしその一撃は、確実に堕天使レイナーレの腹部を穿った。
「カ……ハッ……」
瞬時に拳を抜き、地面に着地するイッセー。
堕天使レイナーレは力無く、重力によって地面へと落ち、レイナーレの腹部からは大量の血が流れ出た。
それと同時に、魔力を供給する存在が消えたからか、発動していた大規模術式も動きを止め、アーシアから溢れていた光が、アーシアの中に戻っていく。
イッセーはすぐにアーシアを磔台から下ろし、アーシアの状態を見るが、酷く衰弱し、呼吸も荒くなってしまっている。しかし、アーシアは笑顔を浮かべていた。
イッセーは一先ず安堵し、微笑む。
「ごめん、少し遅れたみたいだ」
「……いいえ、こうして約束通り迎えに来てくださいましたから。それに、来ると分かっていたので、自然と苦痛にも耐えることができました」
顔色は良くないが、精一杯の笑顔で応えるアーシア。そこへ、戦闘を終えたキンジがイッセーのもとに来た。雰囲気が元のキンジに戻っており、その背後では、今まさに消える寸前といった様子の堕天使の3人組の姿。
無事に勝ったようだ。
それぞれ戦闘を終えたリアスたちが集まって来て、アーシアの周りに集まる。
「部長、どうです?彼女は助かりますか?」
イッセーの問いに、リアスは『悪魔の駒』の一つである『僧侶』の駒を取り出して応えた。
「今の状態だと難しいわ。だけど、ここで悪魔に転生させるなら話は別よ。私としても、この子をここで終わらせたいとは思わないわ。けれど、決めるのはその子よ」
そう言って、リアスはアーシアに話しかける。
「アーシア・アルジェント。私の眷属、悪魔として2度目の生を生きるか、それが嫌ならここでその生を終えるか、あなた自身で決めなさい。あなたの人生、私は悪魔だけど、あなたの人生を私の判断のみで左右したりしないわ」
イッセーたちはただ黙ってアーシアの答えを待つ。だが、その答えは最初から決まっていた。
「……お願いです。私を悪魔にしてください」
「分かったわ。1人でよく頑張ったわね」
リアスは慈愛の眼差しでアーシアを見つめ、その頬を撫でる。イッセーはアーシアのことをリアスに任せ、少し離れた場所で倒れているレイナーレの場所へと向かった。みんなは敢えて何も言わずに行かせる。
腹部を貫かれたレイナーレは、瀕死の状態で天井を見上げており、もう助からないことは眼に見えていた。
レイナーレの血で染まった床を踏み、レイナーレを見下ろすイッセー。レイナーレは徐々に光を失い始めた瞳でイッセーを見つめ、
「……笑いに、きたの、かしら?」
「違う。君がさっき叫んでたことが気になってね」
「……あなたには、関係、ないでしょ。でも、もう叶わない、ことだし。……先に、逝っちゃったけど、ね……私の、もとに、いた、他の堕天使、たちは、みんな、堕天使に、なってから、酷い、迫害を、受けてたのよ」
途切れ途切れだが、話し始めるレイナーレ。イッセーは黙って聞く。
「何とか、力を、上げて、中級まで、はなれた、けど……コカビエル、ていう、堕天使のせいで、私たちの、迫害が、なくなる、ことはな、かった。毎日のように、弄ばれ、暴力を、受ける、私たち、このまま、奴隷のように、嬲られて、死ぬのか、と思ったら、せめて、少し、でも力をつけ、て……復讐、してやろう、と思って、この計、画を、練ったの」
ゆっくりと顔をアーシアへと向けるレイナーレ。かなりの数の堕天使がいたと思ったが、その全員の想いを、レイナーレが1人で憎き相手にぶつけようとしたようだ。それだけ、部下たちはレイナーレのことを慕っていたのだろう。
本来の彼女は優しいのかもしれない。今、アーシアを見つめるレイナーレは、心の底から悪いことをしたと反省しているようにイッセーは思えた。
「結局、計画は、失敗。私たちは、全滅。ふふ、復讐なんて、考えるから、こうなるの、かしらね」
「一つ、聞かせて欲しい。学園で俺に接してきたのは、計画遂行の上で、俺の存在が危険だからか?」
「……それも、あったわ。でも、もう一つ。……一目惚れ、したの、かもね。あなたに、告白を、言い終える前に、断られた時、物凄く、哀しいって、感じる、私が、いたのよ。ふふっ……女に、何てことを、言わせるの、かしら……」
か弱く、しかし恋する乙女のように微笑むレイナーレ。イッセーは血で汚れることも無視して床に膝をついた。
「天野夕麻。俺は人間の時の君の名前しか知らない。本当の名前を教えてくれないかな」
「堕天使、レイナーレ」
「レイナーレ……コカビエルだったな。お前の復讐を潰えさせた贖罪というつもりはない。でも、君みたいな子をここまで貶めたそいつを、俺が君の代わりに倒そう」
レイナーレの瞳が大きく開かれた。そして、イッセーに向かって弱々しく手を伸ばす。
「こんな、ことを、託して、いいの?私、アーシアを、利用して、殺そうと、したのよ?」
イッセーはその手を優しく握りしめ、
「それは確かに許されることじゃない。だが、その発端を作ったのはコカビエルだ。だから、俺が決着をつける。だから、安心して眠るといいレイナーレちゃん」
その言葉に、レイナーレは涙を流し、
「ふふっ……お腹を、貫かれた、相手に、情を、かけられる、なんて……でも、ありがとう、イッセー君。やっぱり、この気持ちは、嘘じゃなかった、みたい。私たちの、想い、託すわ、ね」
「あぁ、見ていてくれ」
レイナーレは、まるで眠るように眼を閉じた。手から力が抜けるのを感じる。しかし、その顔は、堕天使のものとは思えない、美しい少女そのものだった。
涙のあとをふき、手を胸の前で合わせ、イッセーは立ち上がる。その場で黙祷し、振り返ると、悪魔に転生したアーシアが立ち上がり、イッセーの方を見ていた。キンジはバツの悪そうな顔をしてレイナーレを見ている。リアスたちも微妙な表情でレイナーレを見つめていた。
やがて、レイナーレの姿は光となって消えた。安らかに眠る少女が光に包まれる光景は、堕天使ではなく、天使を想像させた。
イッセーはレイナーレの想いを胸に秘め、アーシアに笑顔を向ける。戦いは終わったのだ。今は、それだけでいい。アーシアの笑顔をまた見られるのだから。
「帰ろう、アーシア」
歩きながらイッセーが言う。アーシアの顔に、笑顔が生まれた。そうだ、やはり、彼女にはこの表情が似合う。
「はい!」
華のような笑顔が。
ストックが…もう残り少ない…
想像を凝らして読んでいただけると幸いです。
誤字脱字等のご指摘、どうぞよろしくお願いします。
感想もお待ちしています。