ラブライブ!—Story to make together—   作:TokyoのDio

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#32 交差する2人

 

 「——————うそ、だろ……?」

 

 俺達は驚きのあまり言葉を失った。

 東條先輩から語られた矢澤先輩の過去は、俺達の想像をはるかに超えるほど辛いものだった。

 

 「全部本当の事やで」

 「あの先輩にそんな過去があったのですか……」

 「辛い…わね……」

 

 顔を顰めながら西木野は言った。

 

 「……違う。辛いなんてもんじゃねぇよ」

 「え……?」

 

 そう。辛いなんて言葉には収まらないくらいの深い傷。

 俺は先輩の痛みが分かる。

 

 俺が味わった“あの時”と同じ痛み。

 

 孤独。

 

 それがどれだけ痛いか、俺はよく知っていた。

 

 なのに……俺はあの時……

 

 

『分かってねぇのはあんたじゃねぇか!!』

 

 

 俺は、矢澤先輩にそう言ってしまった。

 

 

 「クソッ……!!何も分かってねぇのは俺の方じゃねぇか……!」

 

 

 ドンッ!!

 

 俺は行先のない怒りを壁にぶつけた。

 隣ではμ'sのメンバーが俺の事を心配そうに見つめている。

 

 「しょうがないよ。にこっちはこの事を誰にも言ってないから」

 「それでも……!」

 「でもね?柊くん。別ににこっちは今の今までずっと独りだった訳じゃないんや」

 「え……?」

 「自分で言うのも変かもしれないけど、にこっちがああなっちゃってからウチがなるべく側にいるようにしたん。本人がどう思ってるかは分からないんだけどね?……そして、暫くして君達がスクールアイドルを始めた」

 「じゃあ、矢澤先輩が俺達の事を嫌うのはそれが理由ってわけか……」

 

 多分、嫉妬みたいなものだろう。

 自分が出来なかった事を同じ学校の奴らが成し遂げてしまった。きっと矢澤先輩は悔しい思いをしてたのかもしれない。

 

 「……確かに嫉妬みたいなものかもしれないね。でも、にこっちは別に君達が嫌いなわけじゃないんよ?」

 「え……?」

 

 この場にいた全員が東條先輩の言った言葉に疑問を持った。

 確かに先輩には先輩の事情があったとはいえ、俺の後ろにいるμ's(こいつら)は『活動を辞めろ』と言われたんだ。どう考えても矢澤先輩は俺達の事を嫌っているとしか思えなかった。

 

 「確かに、にこっちは凄く悔しがってたんよ。それでね?どうにかして君達の悪い所を探そうとしてた。君達、にこっちに何か言われたんとちゃう?」

 「まぁ……」

 

 東條先輩の言う通り、練習場所の神社、そしてアイドル研究部の部室の中で『活動を辞めろ』と言われた。

 

 「やっぱり……。でも、にこっちはいい意味でも悪い意味でもアイドルが大好きだから……君達の事も嫌いになれなかったんとちゃうかな?君達なら分かると思うけど?」

 「……!」

 

 そうだ。部室でもう一つ言われた事があるじゃないか。

 

『まだ皆動きがバラバラね。あと、全体的に笑顔が少ないわ。自分達の歌と踊りで精一杯って感じね。』

 

 俺達の事を嫌っていたのならこんなアドバイスともとれる事を俺達に言うか……?考え過ぎなのかもしれない。けど、これなら全てに納得がいく。

 

 そして、矢澤先輩が俺達を避ける理由は———

 

 

 「過去と同じ思いをしたくないから……俺達を遠ざけるような事を言った、と……」

 「分かったみたいやね」

 

 

 やっぱり……俺は何も分かっていなかったみたいだ。

 

 

 

 俺は真実を知った。

 

 それと同時に、これから“どう動くべきか”も分かっていた。

 

 

 「ふふっ!じゃあ、最初に言った条件を頼むね?

 

 

 

 にこっちを…助けてあげて」

 

 

 

 答えは————もう決まっている。

 

 

 

 「当たり前だ……!」

 

 

 俺は一言そう言ってアイドル研究部へと向かう。

 すると、後ろからワイシャツの袖を掴まれた。後ろを向くと俺の袖を掴んでいるのは高坂だった。

 

 「せかちゃん待って!穂乃果達も……!」

 

 高坂達は連れていけ、と目で訴えかけていた。

 けど、俺は高坂の手を優しく解く。

 

 「悪ぃな。今回は俺に任せてくれ。……知ってるんだ。矢澤先輩に良く似ている人を。だから、どうすればいいかよく分かってる」

 「せかちゃん……」

 

 心配そうに俺を見つめる高坂、そんな高坂の頭を、くしゃくしゃと乱暴に撫でる。

 

 「心配すんなって。しくじったりはしないから。お前らは練習でもしてろ。そこに矢澤先輩を連れて行くから。絶対に……!」

 

 そう言って俺はアイドル研究部へと向かう。

 

 

 

 矢澤先輩を救うために。

 

 

 

 

 

 □■□■□■

 

 

 

 薄暗い静かなアイドル研究部の部室。

 私はまだここにいた。

 思い出される過去の辛い記憶。そして、ついさっきまでここにいた彼らの言葉が私の心を締め付ける。

 

『分かってねぇのはあんたじゃねぇか!!』

 

 

 ……違う。分かってる。全部知ってる。見てきたんだもの。彼女達の努力も、その努力が並外れたものだと言う事も。

 

 見てきた。分かっていた。

 

 

 だからこそ……辛かった。

 

 

 何で…何で私じゃダメだったのよ……

 μ's(あの子達)が相当な努力をしてきたのは知ってる。けど、私だって…それに負けないくらいの事をしてきたの……!!

 なのに…何で……

 

 悔しかった。

 

 活動の邪魔もした。

 酷い事も言った。

 

 分かってるわ。それが醜い嫉妬だっていう事ぐらい。

 

 「カッコ悪いわね。私……」

 

 本当は自分が何をしたくて何をするべきなのかは分かっているの。希に何回も言われた。μ's(あの子達)と一緒にやれって。

 

 そんなの分かってる。それが一番の方法だって。

 やりたい……やりたいわよ私だって。

 

 けど、無理なのよ。

 

 

 

 μ's(あの子達)が嫌いだから?

 

 

 違う。

 

 

 怖いの

 

 

 

 また、あの時と同じ思いをするのが。

 

 

 だから、自分からあの子達を遠ざけた。自分を守るために。

 

 あの時と同じ思いをしないために。

 

 ……後悔はしてないわ。大丈夫。きっと上手くやっていける。

 今日も、明日も、これからずっと先も……

 

 

 私は、独り。

 

 

 「大丈夫よ……」

 

 

 大丈夫じゃない

 

 

 「1人でもやっていけるわ!」

 

 

 怖い……!

 

 

 「……大丈夫よ……きっと……」

 

 

 

 

 嫌だ……!!

 

 

 

 心が悲鳴をあげる。

 けど、助けに来てくれる人なんて誰もいない。

 

 

 私は

 

 

 独りだから。

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 

 その時部室のドアを誰かが叩いた。

 

 

 

 「……誰?」

 

 私はドアの向こうにいる誰かにそう尋ねる。けど、答えはない。

 

 ガチャリ

 

 不意にドアが開いた。

 

 

 ————そこにいたのは

 

 

 

 「うっわ…暗っ!何でこんな所にいんだよ……目に悪ぃぞ?」

 

 

 なんで、なんであんたがここに来るのよ……!!

 

 

 「何の用よ……

 

 

 

 柊……!!!」

 

 

 

 「何の用って……うぅん…そうだなぁ…………。まぁカッコよく言うとすれば……

 

 

 

 

 矢澤先輩。俺はあんたを救いに来たんだ」

 

 

 

 そう言った彼は笑っていた。

 

 

 どういう意味……?救う?私を……?

 何を言ってるのよ……。私の事を何も知らないくせに……!!!

 

 ふつふつと怒りが沸き上がってくるのが分かった。けど、その怒りを何とか堪える。ここで怒った所で何かが変わるわけではないから。

 

 「はっ……笑わせないで。にこを救う?今にこに助けなんか必要じゃないんだけど?それともなに?にこの召し使いにでもなってくれるわけ?」

 

 彼が私の事を思って動いてくれたのは分かっている。だからこそ私は毒を吐いた。これ以上、私に近づいて来ないように。

 

 けど、それでも彼は笑っていた。

 

 「ははっ……。東條先輩の言う通りだ。あんたホントに素直じゃねぇんだな。いや、強がってんのか?でも、バレバレだぜ?」

 「……!何でそこで希の名前が出てくるわけ?それに意味が分からないわ」

 「ついさっき話してきたんだ。東條先輩言ってたぜ?『にこっちは素直じゃないから』って。まさかここまでとは思わなかったけど……」

 「希ぃ…またベラベラと……!って言うか余計なお世話よ。別に必要ないわ。帰って……!」

 

 そろそろ抑えるのにも限界が来ていた。爆発する前に帰って貰わないと。

 

 だけど、彼は続ける。

 

 「必要ないならそんな顔しないだろ。あんた、スゲー悲しい顔してんだぜ?」

 「……!!!」

 

 ……やめてよ。

 

 もう、いい加減にして……!!!

 

 「その顔、『助けて!』って言ってるようなもんだろ」

 

 

 私の怒りが爆発した。

 

 

 「(うるさ)い!!!」

 「……!」

 

 彼を怒鳴りつける。

 もう、収まらなかった。

 

 「何なのよ!意味が分からないわ!!!私を救う?ふざけないで!!!私の事、何も知らないくせに!!!」

 

 

 「———知ってるよ」

 「……え?」

 「知ってる。全部聴いたよ。東條先輩から。あんたがスクールアイドルをやっていた事。そして……あんたの仲間だった奴らの事も!」

 

 

 そっか……希、全部こいつに話したのね。

 ホントにおせっかいなんだから。

 

 きっと、希は私をμ'sの一員にさせるために彼に頼んだんだ。

 

 けど……私は曲がらない。

 もう、辛い思いはしたくないから。

 

 「……だから何よ。私の過去を知ったからなんだって言うわけ?同情してるの?だったらもうやめて!!そんな同情なんていらない!!もう、沢山なのよ……!あんな思い二度としたくないの!!!」

 「……違ぇよ」

 「何が違うのよ!!私がどんな思いをしたのか知りもしないのに!!!何が分かるっていうのよ!!!」

 

 真っ黒な言葉達を吐き出す。何も知らない彼が私の心の中に土足で踏み入ろうとするのがどうしても許せなかった。

 

 何も……分かってない。誰にもこの苦しみは分かるはずなんてない……!!

 

 

だからもう私に関わらないで……!!

 

 

 「……分かるさ。あんたと俺はよく似てるから」

 「————え?」

 

 

 私と柊が似てる……?

 それは……一体……

 

 

 「……どういう意味よ」

 「うぅん……これは誰にも話してねぇんだけど……まぁ、いいか」

 

 彼は少し悩むような素振りを見せた後、天井を見つめる。

 そして、口を開いた。

 

 

 

 「俺さ、あんたと一緒なんだよ。

 

 

 

 

 俺も……ずっと独りだった」

 

 

 

 そして、私は彼の過去を知る事となる。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

もう少しばかり続きますのでお付き合いください!
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ではまた次回、よろしくお願いします!
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