ラブライブ!—Story to make together— 作:TokyoのDio
時は少し遡る。
場所は上がりの屋上。そこでμ'sのメンバー達は練習を始めていた。
一見、いつも通りの光景。だが、今この場にいるはずの柊世界がいない。
それもそのはず。彼は矢澤にこの所へと行ってしまったのだ。
『お前らは練習でもしてろ。そこに矢澤先輩を連れて行くから。絶対に……!』
そう言い残して。
本来なら、μ'sのメンバー全員で行くべきだったのかもしれない。少なくとも穂乃果はそう思っていた。しかし、それは世界によって止められてしまう。
そして、世界は言った。矢澤先輩に似ている人物を知っている、と。その時の世界は何か悲しい事を思い出すかの様な顔をしていた。
彼が何故そんな顔をしていたのかは穂乃果には分からない。勿論、残りのメンバーも誰1人分かっていなかった。
だが、穂乃果は確信していた。『せかちゃんなら必ず矢澤先輩をμ'sの一員として連れてきてくれる』と。
理由があった訳では無い。ただ、穂乃果自身が“そう思った”から。
恐らく、他のメンバーも穂乃果と同じ事を思ったのだろう。世界ににこを任せる事を反対する事はなかった。
皆、世界の事を信頼していたから。
「でも、いきなり練習してろって言われても何すればいいのか分からないよ……」
「確に……穂乃果の言う通りですね……」
だが、彼女達は自分達がこれから何をすればいいのか迷っていた。
無理もない。元々、今日は休みになる予定だったのだから。けど、だからといって手を抜いた練習をするわけにもいかない。
世界がにこをここへ連れて来ることが出来たとしても、穂乃果達がここで生温い練習をしていたら彼女がμ'sに入る気をなくしてしまう可能性だってあるんだ。
「……ん?花陽ちゃん?何かいい案でも思いついた?」
すると、穂乃果は何処か悩んでいる表情をした花陽に気づく。
「あ、そういうわけじゃなくて……“アイドルは見ている人を笑顔にさせるためのもの”って言うのがちょっと気になってて……」
「あぁ、さっき矢澤先輩が言ってたやつ?」
「はい…。それって、結構簡単そうに見えるけど、実はとても難しい事だと思うんです……」
確に花陽の言う通りだった。
笑顔、というものには色々と種類がある。その中で彼女達は自分達の歌と踊りで観客を笑顔にしなくてはいけない。それがどれだけ難しい事か。μ'sのメンバー達は分かってない。だからこそ花陽は考えるべきだと思っていた。
「確に……改めて考えてみるととても大変な事ですね……」
「う〜ん……あ、そうだ!面白い服を着てライブしてみるとか!」
「穂乃果は喋らないでください」
「酷いっ?!」
屋上にいる全員が穂乃果の言った事にため息をつく。正直、分からなくても仕方の無い事だった。
良くも悪くも彼女達μ'sは全てを全力でやって来た。自分達の事に精一杯だったから。
だけど、そこに答えがあるという事を彼女達はまだ気付いていない。
「うぅ〜ん……ことりちゃんと海未ちゃんはどんな時、笑顔になれる?」
穂乃果は一番身近な2人に尋ねた。
きっと2人ならいい答えをくれるはず。そんな考えを持っていた穂乃果だが———
「いきなりですね……」
「うぅん難しいよぉ……」
いきなり難題を投げかけられた2人は困り果てていた。
2人は必死に頭を回転させる。だが、2人は気付く。意外とすぐそばに答えはあるんじゃないか、と。
「私は……何かを一生懸命に頑張っている人を見ていると自然と笑顔になれますね」
海未は質問を投げかけてきた幼馴染みを思い浮かべながら言う。
ずっと前からそうだった。誰よりも一生懸命で自分達を引っ張ってくれる。そんな穂乃果を見ているだけで不思議と笑顔と元気が貰えた。
「あ!私も海未ちゃんと同じかな!」
それはことりも同じ。ずっと一緒にいたからこそ出せる2人なりの“答え”だった。
きっと他のメンバー同じなのかもしれない。穂乃果には人を惹きつける様な“何か”があった。カリスマ性とでも言おうか。それが昔からの穂乃果の魅力でもあった。
「何かを一生懸命に頑張る、かぁ……」
しかし、当の本人は全くその事を自覚していない。
まぁ、それも穂乃果の魅力の一つなのでしょうね。と海未は心の中で呟いた。
「何かを……一生懸命に、頑張る……」
一方、穂乃果は海未とことりから貰った助言にどこか引っかかりを感じていた。
(何かを一生懸命に頑張るって……あんまり今までの私達と変わっていないような……
あ……!)
穂乃果の中でカチリと足りないピースがはまった。
「そうだよ!それでいいんだよ!」
「「「「「えっ?」」」」」
「何かを変える必要なんてないんだよ!μ'sは今まで通り全部全力で!それでいいんじゃないかな?」
それが、穂乃果の出した答え。
「ちょ、ちょっと待って!でも、アイドル研究部のあの先輩は何もかもダメだって言ってたじゃない!」
穂乃果の出した答えに疑問を持つ真姫。
それも当然。穂乃果の言っている事はそれはもうメチャクチャだった。あの矢澤先輩に直接“全然だめ”と言われたのにも関わらず穂乃果は今まで通りでやろうとしている。
真姫にとって穂乃果は相変わらず訳の分からない先輩だった。
「だからね?今までより、もっともっと、も〜っと全力で頑張るんだよ!!」
「はぁ……?」
今度は精神論を出してくる穂乃果。これには真姫も呆れる事しかできなかった。
けど、それと同時に高坂先輩らしいわね。と納得してしまっている自分もいた。
「全く……ま、結局は
真姫は答える。
「最終的には精神論ですか……穂乃果らしいと言ったらそうなのですが……。まぁ、真姫の言う通りですね。一度乗った船です。私は穂乃果に付いていきますよ」
「海未ちゃん……!」
それに続いて海未が。
「ふふふ♪勿論ことりも一緒だよっ」
そしてことりが
「凛も賛成にゃ!」
次に凛が
「私も…皆さんと一緒に頑張りますっ!」
最後に花陽が。
皆の出した答えは同じだった。
「みんな……っ!ありがとう!!よし!じゃあ練習を始めよっ!!!」
「「「「「うん!(えぇ!)」」」」」
後は、世界の帰りを待つのみ—————
□■□■□■
「————何よ、それ……」
私は言葉を失った。
目の前にいる
『あんたと俺はよく似てるから』
柊はそう言っていた。それを聞い時、私はすぐに否定したわ。私と同じ辛さを知っているわけなかったから。
それで柊から話を聴いてみるとやっぱり私と柊は似てなんていなかった。
柊は……
私よりよっぽど辛い経験をしてる。
「だから言ったろ?あんたと俺は似てるって」
……嘘だ。
柊は私よりも黒い物を抱えている。
それはあんた自身が一番分かっているはずなのに……
「どこが似てるのよ……全然違うわ!あんたのほうが————!」
「いや、同じさ。あんたも俺も“独り”だった。そうだろ?」
柊は優しく微笑みかけるようにそう言った。
だけど、その笑顔が、私の事を苦しめる。
おかしいじゃない……そんなに辛い思いをしてきたはずなのに、何で……
「何で笑っていられるのよ!!」
分からない。笑顔の意味が。
柊自身辛くないはずがないのに。
何で柊はそんなに笑顔でいられるの……?
「え?うぅん、そうだなぁ……」
柊は一瞬、きょとんとした顔をした後、ポリポリと頭を搔きながら恥ずかしそうに答えた。
「俺と同じ思いをしたあんたを助けられるって思ったら嬉しくってさ」
「え……?」
嬉しい?私を助けるのが……?
ますます分からなくなってくる。
そもそも助けなんて頼んだわけでもないのに。
「さっき言っただろ?あんたと同じって。だから分かるんだよ。あんたの痛みが。だからこそあんたを助けたいんだ。あんたは
俺とは、違ぇだろ?」
「……っ!」
そうだ。柊は失ってしまった。とても大切なモノを。
一度失ったら、二度と戻ってこないモノを。
だけど……それは私も同じ。
「何も失っちゃいない……?あんた希の話し、ちゃんと聴いてたわけ?」
「聴いてたさ!だから今こうやって———」
「だったら、なんで“何も失ってない”なんて言えるわけ?
私だって
もう何も残っちゃいないのよ!!!」
そう。私だって失った。もう二度と取り戻せないモノを。だからもう戻れないの。
輝こうとしてたあの頃には。
「ねぇ、もういいでしょ?さっさと帰って」
「嫌だ」
「……ッ!!!!まだ何かあるわけ?!いい加減しつこいわよ!!!」
「ああ。まだまだあんたに言いたい事がいっぱいあるんだ」
まだ続けるつもりなの?これ以上やっても私は変わらないっていうのに……!
「なぁ、矢澤先輩。言ったよな?あんたは“まだ”失っちゃいないって」
「……言ったわね。でもそれは間違えてる。この部室を見て分かるでしょ?これが現実。もう失っちゃってるのよ……!」
「……じゃあ、
アイドルへの情熱も一緒に失っちまったっつうのかよ!」
……!!
そんなことない
私は失ってなんかいなかった。アイドルが大好きだったから。失う事なんてできなかったの。
「そんなわけないじゃない……!」
“アイドル”っていうものは、私にとって切っても切れない大切なモノだから。
「だったら逃げるんじゃねぇよ!!逃げたらこの現状は変わんねぇ!!何も変わる事なんてねぇんだぞ!!!!」
「っ—————!?!!?」
———違う。
逃げてなんかいない。私は自分を守ってるだけよ……!!それは、決して逃げなんかじゃ————
だけど、柊の言ったその言葉は私の胸に深く突き刺さった。
「逃げちゃだめだ……矢澤先輩!立ち向かえ!自分自身の夢のために!!!」
柊は私に手を差しのべる。
その時、私は思ったの。
『あぁ、この手を取ればまた戻れるんだ』
って。
理由なんてない。けど、そう思った。
「ありがとう。柊」
「……!先輩!」
だから私は——————
「でも、その手を取る事は出来ないわ」
「—————え?」
私は彼の手を取らなかった。
また“戻って”しまうから。
同じ思いをしたくないから。
「先輩っ!なんで……?!」
「……怖いのよ。またあの時に戻ってしまうのが……。また失ってしまうのが……。だから、私はこのまま一人でいいのよ。あんた達にも酷い事しちゃったしね。…………けど、安心して。アイドル研究部はあんた達に譲るわ。煮るなり焼くなり好きに使いなさい」
一通り喋り終えてふぅ、と息をつく。
多分、これはもう二度と来ることのない最高のチャンス。だけど、私はそれを断った。
だから、多分もう私はスクールアイドルをやる事はない。
もう、区切りをつけなくちゃ……。
「鍵、机の上に置いてあるから。…………出来ればあんた達とはもっと早く出会いたかったわ。……じゃあね」
私はドアに手をかける。
これで、すべて終わり。また、一人の生活に戻るの。
でも、最後に柊と話せて、手を差しのべられて……少しだけ、嬉しかったかな。
外に出てしまえばアイドルとしての矢澤にこは消えてしまう。けど、これが私の決めた答えだから……。
覚悟を決めてドアノブを回す。
もう、思い残す事は何も…………
その瞬間
「矢澤先輩ッ!!!!」
私の後ろにいる柊が私の名前を叫んだ。
「……なに?」
私は首だけを柊の方へと向ける。
「あんた……本当にそれでいいのかよ……。あんたの中でそれが最善の答えなのか……?」
「……ええ。これが私の答えよ。」
「じゃあ、なんで、なんで……!!!
泣いてるんだよ……!!!」
「え……?」
柊に言われて初めて気付く。
私の頬には涙が伝っていた。
「あ、れ……?何でかしら……」
自分でも泣いている理由が分からなかった。
そして、涙は止まらない。それどころか次々に溢れてくる。
「やっぱり……辛いんじゃねぇか。本当はあんただって分かってんだろ?」
視界が揺らぐ。嗚咽が漏れる。言葉なんて出やしなかった。
「前を見ろ。俺達だって東條先輩だって、あんたの仲間なんだ。言ったろ?あんたは何も失っちゃいないって。後は一歩踏み出すだけなんだ!!」
……そうだ。私は一人なんかじゃなかった。支えてくれる希がいた。柊達が手を差しのべてくれた。そして、
再び柊は手を差し出す。
「さぁ、俺らとやろう!もう一度!!」
私は手を伸ばす。
もう一度輝きを目指すために—————
けど、私の心はそれを許さなかった。
『もうにこちゃんには付いていけない』
……!!!!
一番思い出したくなかった記憶が蘇る。
私は伸ばしかけた手を止めた。
「柊……。やっぱり無理みたい。怖いのよ……!どうすればいいのか頭では分かってるのに……!!また皆いなくなっちゃったらどうしようって思ってる私がいるの……!!!」
泣きながら柊に私の思いを伝える。
けど、柊は差し伸べた手を戻さなかった。
「俺を信じろ!矢澤先輩!!」
そして、柊は私に叫んだ。
「確かに理由とか、理屈なんてもんはねぇよ。けど!!信じてくれ!!あんたが辛い思いをしているなら皆でそれを分かち合えばいい!!もしも他の奴らがあんたから離れてしまいそうなら俺がつなぎとめてやる!!だから!!
俺を信じろ!!!」
柊から伝えられた事はあまりにもメチャクチャな内容で……。でも、彼は言った。
つなぎとめてくれる。と。
あと一年もない高校人生、こいつに賭けてもいいかもしれない。
もしかしたら……ううん、絶対こいつは連れて行ってくれる。
最高の
私は柊の手を取る。
彼の手はとても温かかった。
「よろしくな、矢澤先輩」
「えぇ。よろしくね。柊。
……ま、このにこにーを泣かせたんだからしっかりと責任をとることね」
「えっ……!俺のせいなのか……」
さっきまで私を説得していた柊がオロオロとしている姿をみると笑いがこみ上げてくる。
そんな私の事を柊はじっと見つめていた。
「……何よ」
「え?いや、やっぱあんたは泣き顔の方より笑ってる方がずっといいよ」
そう言って柊は私に笑顔を見せた。
「っ〜〜!!!あ、当たり前でしょ!!!にこにーなんだから!!」
「……?なんだそれ」
その時の彼の笑顔はキラキラしていて、私の耳が熱くなったのはここだけの話。
「さ、あいつらが屋上で待ってる!早く行くぞ!!」
「えぇ!!」
そして、私は屋上へと向かった。
“μ'sの”矢澤にことして。
いかがでしたでしょうか?
やっと……やっとです。遂ににこ加入回が終わりました……!
長かった……本当に長かった……!!ですが、にこ推しの人間として、ここまでしっかりと書けてとても嬉しいです!
はぁ……無事ににこちゃんが救われて良かった。本当に良かった!
やっと気楽に日常回が書けます(笑)
さて、今回はこれぐらいで終わりにしたいと思います!
お気に入り登録、感想、評価、ドシドシ募集していますので是非是非お気軽にしていただければ、と思います!
それではまた次回!ありがとうございました!
にこちゃん!これからもよろしくね!