あぁ、俺はお前たちが羨ましいよ。
俺は劣等だ、普通ならば数度繰り返せばできる事を何十、何百と繰り返さなければ出来るようになれない。
劣等だと、愚図だと蔑まれ罵倒され唾を吐かれた事など数え切れない程にある。
俺はそれを認めよう。
俺はきっとこの世界にいるどの人間よりも劣っている。
俺にあるのは無駄に頑丈なだけのこの身体。
きっと不要な物など何一つ無いのだとどこかの物語の主人公が叫ぼうとも、俺は木偶の坊だと不要な物としてカウントされる。
だけど、俺はそれでも諦めない。
この世界のどの人間よりも劣っていようとも、俺は立ち上がり、前に進む事を決して諦めやしない。
だとしても、膝を折ることがあるのだろう。
心を砕かれることがあるのだろう。
逃げ出すことがあるのだろう。
困難を前に挫折するのは人間として当たり前なことなのだから。
そうだとしても、俺は必ず立ち上がり、心を直し、立ち向かおう。
それが世界の誰よりも劣る俺が誓ったことだから。
諦めなければ、いつかきっと夢は叶うと叫ばれたのだから。
だから俺は諦めない。
俺でも、きっと何かを果たせるのだと信じているのだからーーー
そしてこのISには重大な欠点が一つだけある。それは女性しかISを起動させることができないということだ。篠ノ之束もこの原因については理解出来ていないと気まぐれに現れた時に近くにいたマスコミにコメントしている。そのせいで世界にはISを使うことができるのは女性だけ、つまり女性は男性よりも偉いのだという女尊男卑の風潮が広まっている。
そしてこのある種歪んでいるとしか思えない世界に衝撃的なニュースが飛び込んできた。
それは、女性しか操縦することができないはぶのISを操縦することが出来る男性が現れたというニュース。ISを起動させたのは織斑一夏、ISを用いた大会であるモンドグロッソで初代ブリュンヒルデに輝いた織斑千冬の実弟だった。
その報せを聞いた世界は他にもISを動かせる男性がいるのでは無いのかと世界中の男性を対象にISの適性検査を実施した。そうして世界中の男性を対象とした適性検査はほとんどが徒労で終わることが多かったがそれでも織斑一夏以外にもISを動かせる男性が他に二人もいることを発見することができた。
一人は如月蓮夜という少年、日本でも有数の大企業として知られる如月グループの御曹司。
そしてもう一人は橘真輝とちう少年、母は専業主婦で父が警察官ということを除けばごくありふれた普通の少年だ。
しかしこの物語の主役はブリュンヒルデを姉に持つ織斑一夏でも、大企業の御曹司である如月蓮夜でもない。
この物語の主役は普通ーーー否、自他共に認められてしまう劣等である橘真輝。誰よりも劣っていると自覚しながら腐ることを良しとせず、泥水を啜り、血反吐を吐きながら夢にへと向かっていく人間歌劇。
劣っているからこそ始めから優れている者たちよりも強い輝きを魅せる人間讃歌。
だからこそ、切に願う。
数々の困難を前に膝を折り、心を砕き、逃げてしまいながらも立ち上がり前へと進んでいく彼の姿に共感して欲しいと。
さぁーーー人間讃歌を歌い上げよう。
四月。春が訪れ、いろいろな物事の節目として扱われるこの時期に織斑一夏は精神をすり減らしていた。何故なら自分の周りにいるのは女生徒だけ、男生徒はいることにはいるのだが一夏とは遠く離れた席にいる。
「織ーーくんーーー織斑君!!」
「っ!?は、はい!!」
緑の髪をした一般的にはロリ巨乳というとあるジャンルの人間たちを刺激するような容姿をした女性ーーー山田麻耶は一夏の名前を呼ぶ。現在の時間のホームルームを利用して自己紹介をしており、一夏の番になったようだ。涙目になっている麻耶を落ち着かせて一夏は教壇に立つ。
そうして向けられるのは好奇心を孕んだ目線。何故ならここは女性しか動かせないはずのISを学ぶための空間であり、本来ならいるはずのない男性である織斑一夏という存在に興味を持っているのだから。
「お、織斑一夏です……」
多くの目線に圧倒されながらも一夏は自分の名前を語る。そしてーーー
「ーーー以上です!!」
そこで打ち切った。他にも何かを語るだろうと期待していたからか名前だけ手間自己紹介を済ませようとしている一夏にほとんどの女生徒が思わずずっこけてしまう。
「何をしているか、馬鹿者が」
言い切ったと満足している一夏の頭に背後から一撃が与えられる。痛みを堪えながら誰が自分を殴ったのか確認するために振り返るとそこには黒いスーツに身を包んだ鋭い目付きの女性ーーー織斑一夏の実姉でありブリュンヒルデの栄誉に輝いた織斑千冬の姿があった。
突然の有名人の登場に教室にいた女生徒のほとんどが黄色い悲鳴をあげる。その際に千冬はIS学園での自分の役割を告げるものの女生徒たちには届いていないようで頭を抱えることになる。
時間が無いことを理由に一夏を席に座らせて、男生徒の一人である如月蓮夜に自己紹介をさせる。蓮夜は少し芝居くさいセリフを口にしていたもののそれは自己紹介の手本とも言えるものであり、千冬は自己紹介とはこうだ馬鹿者がと一夏に喝を入れた。
そして再び黄色い悲鳴が上がることになる。何故なら蓮夜は一夏に勝るとも劣らない程のイケメンであったから。ブリュンヒルデの実弟と如月グループの御曹司というビッグネームを持つ二人はクラスから歓迎される。
「ーーーっと、そうだ、忘れるところだったな。おい、入れ」
「ーーーはい」
何かを思い出したように千冬は教室の扉に向かって声をかけると返事が返ってきて扉が開く。入ってきたのは黒髪の平凡な顔付きをした少年。ブサイクという訳ではないのだがイケメンである一夏と蓮夜を前にしたらどうしても劣って見えてしまうので女生徒たちは前の二人の時のような反応を見せなかった。
「 はじめまして、橘真輝といいます。世界で行われた適性検査で発見された男性操縦者の一人です。ISについて何も知らない身ではありますが皆さんに負けない様に努力したいと思っています」
黒髪の少年ーーー橘真輝はそんな女生徒たちの視線や他にもいたのかと驚く一夏の反応や値踏みするような目付きの蓮夜に気がつきながら淡々と自己紹介をした。言葉は最低限ではあるものの、名前だけで終わらせた一夏の自己紹介よりは数段マシだと言えるだろう。
「そしてーーー」
最後に真輝は自分の目標を口にする。
「ーーー俺の目標は世界最強と言われている初代ブリュンヒルデの織斑千冬を倒すことです」
その言葉を皮切りに橘真輝の物語は始まることになる。