「……」
夕暮れ時の保健室、そこでは虚が椅子に座り眠っている真輝のことを見つめていた。真輝との関係はただの護衛の対象というだけだったのだが彼が常識を超える様な努力をして世界最強の千冬を越えようとしているのを見て心のどこかで惹かれたのだ。でなければ何のメリットも無いのにISの調整を手伝いたいと申し出るはずが無い。
その感情が恋なのか初恋も体験したことの無い彼女には分からないことだが、それでも傷付いて眠っている真輝の姿を見て心が落ち着かないもの事実である。
「ふーん、可愛い寝顔じゃない」
「〜〜っ!?」
虚と真輝しかいないはずの保健室で第三者の声が聞こえる。真輝を気遣って叫び声を上げなかった虚は凄いのだろう。虚が振り返るとそこには自分の主人でIS学園の生徒会長である楯無がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「お、お嬢様……」
「学校じゃ会長でしょ?それにしても……」
楯無がニヤニヤとした顔のまま視線を虚に移した。その顔を見て虚は過去の経験から楯無が良くないことを考えていると分かってしまった。
「ようやく虚ちゃんにも春が来たのね!!」
一言を言い切った瞬間に楯無の頬を何かが掠める。恐る恐る何が飛んで来たのかを確認すると壁にシャーペンが刺さっていた。
「会長、保健室では静かにですよ?」
「アッハイ……」
微笑みかけるようなもののはずなのに寒気すら感じられる笑みを向けられて楯無はそう言うしかなかった。主人と従者なのに立場が逆転しているようにも感じられるが二人にとってこの程度のことは日常茶飯事なので気にも留めていない。
「で、真輝君の具合はどうなの?」
「聞いた話では時期に目が覚めるとの事です。体力を使い果たしたことと長時間極度の集中をして脳に負担がかかったことが原因なので休んでいれば起きるだろうと」
「……蓮夜君とは違った意味で異質よね」
楯無の言葉を虚は否定することが出来なかった。蓮夜が有り余る才能で生きているのだとすれば真輝は身を削るような努力で生きている。どちらも普通の人間からすれば異質なあり方だと言うしかないだろう。
「うん、予定を早めた方が良いわね。真輝君の身体が回復次第に私が彼にIS操縦を教えるわ」
「よろしくお願いします。誰かが手を貸さないとこのまま壊れてしまいそうで……」
悲しそうな顔をする虚を見て楯無は珍しい物を見たと素直に思った。子供の頃から付き合いのある彼女がたった一週間程しか接していない真輝にここまで心を開いているからだ。これは本当に春が来ているのかと邪推しながらも楯無は敢えて口にはしかなった。ふざけたような態度をとる彼女でも空気を読む事は出来るから。それでも顔がニヤついているので台無しであるのだが。
「それじゃ、私はお仕事でもしてきましょうかね」
「……後で様子を見に行った時に最低でも会長の判が必要な書類が終わっていなければ布仏流お仕置き術メドレー」
「やばい……!!」
溜め込んだ書類の多さを思い出しながら早く終わらせなければと楯無は無音ではあるものの全力で保健室から出て行った。日頃何かと理由を付けて放置していた楯無が悪いのだが。
「……」
「あ、真輝君」
楯無が出て行ってから数分後に真輝が目を覚ます。虚が真輝の事を名前で呼んでいるがそれは虚が妹である本音と混ざるので名前で良いと言ったのに真輝がだったら自分も名前で良いと返したからである。
真輝は寝起きで意識がはっきりとしていないのか周りをキョロキョロと見渡して虚の姿を視界に納める。そこでようやく意識が完全に覚醒したようだ。
「あ〜……虚先輩?」
「もう、無茶をし過ぎですよ。気絶する前の事を覚えていますか?」
「オルコットに勝ったところまでは。そう言えばもう夕方ですけど試合の方はどうなりましたか?」
「試合、ですか。それならーーー」
虚の説明によると試合はすでに終わっているらしい。最終的な結果は
真輝……1勝2敗
蓮夜……2勝1敗
セシリア……2勝1敗
一夏……1勝2敗
真輝はセシリアに勝った1勝があるが蓮夜、一夏戦は気絶していたので棄権扱いとなり負けになっている。蓮夜は一夏には勝ったもののセシリア戦は棄権をしたようだ。
そして最後のセシリア対一夏の試合、そこでセシリアは一週間前に自分のした発言を撤回して頭を下げた。日本を侮辱した相手が突然謝罪してきたのに毒気を抜かれる一夏だがセシリアはそんな一夏を気にも留めずにある宣言をした。
それは次のモンドグロッソまでに国家代表となってブリュンヒルデになると言うもの。
突然の宣言に会場は騒めき立つ事になる。そんな中でセシリア対一夏の試合は開始された。
結果はセシリアの圧勝。
虚から試合のすべてを聞いた真輝は悔しそうに顔を歪めていた。
「気絶さえしてなければ参加できたのに……!!」
「戦闘狂ですか……例え気絶していなくても不屈のダメージはCの一歩手前でした。自己修復でどうにかなるレベルでしたけど恐らく登場禁止を言われていたと思いますよ」
そう言って虚は真輝の衣服の上に乗せられている待機状態になっている不屈を見た。セシリアの攻撃と覇国、そして真輝の無茶苦茶な操縦によるダメージは大きい。自己修復機能で修復されるレベルの損傷ではあるものの今後の事を考えれば不屈の操縦を禁止されるのは当然であった。
「そうだとしても戦ってみたいと思うじゃないですか。蓮夜の変わった武装とか気になりますし、それに織斑ですよ。織斑先生の弟なんですからきっと伸びますよ。今はまだ操縦の経験が無いみたいですから弱いかもしれないですけど。それでも俺よりは弱いって事は無いと思いますよ」
そうに違い無いと真輝は当たり前の事を語るかの様に言ってのけた。その表情はそう遠く無い未来のことを考えているのか楽しげである。
そんな真輝の様子を見た虚は諦めたように笑った。
真輝はきっと、これから変わる事無く今日の様な生き方をするだろう。傷だらけになり、ボロボロになりながら、困難の先にある物を掴み取ろうと努力する。それは彼自身が決めた生き方なのだから誰がなんと言おうと変わる事は無い。
だったら、そんな彼の事を支えよう。傷だらけになりボロボロになりながら進む彼の事を自分が支えてあげよう。
ベッドの上で楽しそうに獰猛な笑みを浮かべている真輝の事を見ながら、虚はそう誓った。
「ま、今日は大人しく休む事にしますよ。部屋に戻りましょう」
「もう動けるんですか?」
「頑丈な身体だけが取り柄なもので。前に骨折した時なんか二週間で治りましたし」
「それはなんかおかしく無いですか!?」
改めて真輝の身体が人間離れした進化をしていることに驚愕しながら虚は真輝の荷物を纏めて手に持つ。その時に真輝が持てると言ったのだが虚は一応でも真輝が怪我人であることを理由にガンとして譲らなかった。
そして真輝と虚が寮に向かっている最中で、セシリアと出会った。勝者である真輝と敗者であるセシリアが出会ったことで両者は立ち止まる。そしてセシリアは決意をした顔で歩き出す。そして真輝とすれ違う時に耳元で囁いた。
「今日は私の負けですわ。ですが……次は勝ちますわ」
試合の結果を見ればセシリアが敗者だと言うのにまるで自分こそが勝者であると言いたげな風格でセシリアは立ち去っていった。それを見届けて、真輝は呟く。
「次も勝つさ。だから足を止めてくれるなよ、セシリア・オルコット。お前たちは俺よりも優れているのだから」
セシリアの言葉に獰猛な笑みを浮かべている真輝の顔を見て、虚は呆れた様な笑みを浮かべることしか出来なかった。
とある場所に、それはあった。
考えるのは、自分の主人と共に初めて行った戦い。
自分は主人の動きについていく事が出来なかった。
諦めずに進み続ける主人の足を引っ張ってしまい、本来ならかからぬ負担をかけてしまった。
ならば、この経験を糧に進化しよう。
主人が傷付かぬ様に、堅牢になろう。
主人の動きについていける様に、反応を速くしよう。
自分にはそれが出来る機能がある。
そうであれと、母から与えられた機能がある。
ゆえに、進化しよう。
諦めずに逆境の中を歩き、不可能を可能にしようとしている主人の力になろう。
そう誓うとそれはゆっくりと進化を始めた。
速報、セッシー修羅道入り決定。これには修羅道ボーイのマッキーもニッコリですわ。
そして虚さんは本格的に真輝君の支えになることを決意。フラグなんだけどそれを回収出来るかどうかは真輝君次第なんだよな……下手すればそのままの関係で終わるってこともありえますし。
さらにどこかでひっそりと修羅道参加者が。一体何処の誰なんだ……(すっとぼけ)
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