「暖かい物どうぞ」
「……暖かい物どうもです」
ひとまず黒髪の女生徒に服を着てもらう様に説得した真輝はお茶を淹れて服を着た彼女に渡していた。現在二人は部屋に備え付けられているベッドの上に向かい合う様にして腰を下ろしている。
「落ち着きましたか?」
「えぇ……お見苦しいところをお見せしました」
彼女の顔はあの時のことを思い出してしまっているのかまだ赤い。正直にいって彼女の裸エプロン姿は真輝にとって眼福だったがそのことを言って彼女の傷口をほじくり返すのは止めた方がいいと判断して口にしなかった。その光景を忘れるかどうかは……彼の記憶力次第である。
「ひとまず自己紹介しますか。俺は橘真輝、なぜかISを動かせたこの学校の授業についていけてない劣等生です」
「私は布仏虚、三年で生徒会会計、あとは整備科に所属しています」
「……布仏?」
何か引っかかることがあったのか真輝はカバンからPadを取り出して何やら画面を操作している。そして目当ての物が見つかったのかPadの画面を虚に見せた。
「もしかして布仏本音のお姉さんですか?」
「えぇ、本音は私の妹ですよ」
Padの画面には本音の顔写真と名前が映し出されていた。虚は真輝に断りを入れてからPadを操作する。するとそこには一年一組全員の顔写真と名前が記載されていた。
「これは?」
「人の顔と名前覚えるの苦手なんで織斑先生に頼んで顔写真と名前だけ入れてもらったんですよ。まぁ、それでもほとんど覚えられていませんがね」
理由は分かる。だがそれに付け加えられた自虐ネタに反応しずらかった。虚は事前に彼は過去の怪我が原因で記憶力が低いことは知っていたがまさか堂々と自虐ネタにされるとは思ってなかった。
「そうだ、一つ聞きたかったんですが、どうして俺と同室になろうだなんて思ったんですか?男性操縦者にアプローチかけるなら織斑一夏や蓮夜の方が優秀だろうに」
それは真輝が疑問に思っていたことだった。真輝は自分が他者よりも劣っていることを自覚している。だから虚が自分と同じ部屋になることを許可したことが疑問だった。考えられる可能性があるとするならそれは世界で三人しかいない男性操縦者へのアプローチ。しかしそれをするにしても自分よりも遥かに優秀な二人にした方が良いと真輝は思っている。その質問に正気に戻った虚は咳払いを一つして真剣な表情になる。
「私が貴方と同室になったのは貴方の護衛をするためです。織斑君にはISの開発者の妹の篠ノ之箒さんと、如月君には学園の生徒会長の更識楯無会長が同室になっています。なので私が貴方の護衛を務めるために同室になりました」
「ふぅん……その生徒会長さんは強いんですか?」
「我が校の生徒会長は他の学校とは違っていまして全生徒中で最強の生徒が務めることになっています。わかりやすく言えば学園最強ですね」
「それって織斑先生よりも強いってことですか?」
「……訂正します、生徒最強です」
ですよねーと真輝は虚の言葉に笑いながら返した。それに真輝はこの質問の答えをわかっていながら聞いたのだ。自分の目指している目標である
「それにしてもやっぱり俺の優先順位は低いと思って間違いないですね」
「どうしてそう思ったのですか?」
「織斑には織斑先生がいますし蓮夜には生徒最強の生徒会長さんが付いている。護衛についてくれるっていう時点で貴女は只者じゃないことはわかっていますがどうしても弱いんですよ。だからそう思ったんですけど違いますかね?」
「……橘君の想像の通りです」
自分の立場を冷静に弁えている真輝の姿を見て虚は正直に言うことにした。なにせ真輝の立場は三人の中で一番弱いのだ。一人は世界最強の弟で一人は大企業の御曹司、だが彼は一般家庭の出身。千冬と虚の主人である更識楯無は反発したものの政府の考えを覆すことは出来なかった。
「よく平気そうでいられますね」
「まぁショックと言えばショックですけと俺の優先順位が低いのは何時もの事ですし。最悪護衛とかそんなの無しでいる事も考えてましたから」
「いや、流石にそれは無いですよ」
少し話して分かったことだがどうも橘真輝という少年は自分のことを下に見すぎる気概がある。しかもそれをごく当たり前のことの様にだ。歪んでいると虚は真輝のことを評価した。
「じゃ、これから護衛よろしくお願いします。あ、守らなくても文句とか言いませんから」
「……どうして貴方は自分のことをそんな風に言うのですか?」
そんな言い方を続ける真輝に虚はつい口にしてしまう。自分のことをぞんざいに扱っている彼を見て我慢ならなくなったからだ。真輝はどうしてそんなことを言ったのかわからないと言う顔になる。
「だって、俺は物覚えの悪い上に集中し過ぎると他のことに目がいかなくなる気持ち悪い奴ですよ?そんな俺が他の一人よりも劣っているだなんて当たり前のことじゃないですか」
その言葉を聞いて虚は理解してしまった。彼は自分のことを劣っていると捉え、他の人間は自分よりも優れていると信じていることを。だから自分と他人を比べて自分よりも優れている他人を妬むのではなく、劣っている自分が悪いのだと考えていると分かってしまった。もし彼がごく一般的な考えを持っていたなら前者の考えに至って腐っていただろう、むしろそちらの方が人間らしい考えだと言える。だけど彼は後者の考えに至った、劣っている自分が悪くて他人には一切非は無いのだと。その考えを正しいと考えている真輝の姿が彼の根幹であり、同時に歪みでもあると虚は理解してしまった。
「ん?もうこんな時間か」
時計を見た真輝は部屋に送られていたダンボールを開けてジャージを取り出すと浴槽に向かう。そして出てきたときには黒いジャージに着替えていた。
「じゃ、俺は少し体動かして来ますんで」
「え?これからですか?今日は入学式とかあったのだから休んでは?」
「いやいや、覚えられなかったとは言っても勉強してたんで身体が鈍ってるんですよ。むしろ今日動かさないと」
そう言って真輝は部屋から出て行った。かと思ったらすぐに戻ってきて扉から顔を覗かせてきた。
「どうしました?忘れ物ですか?」
「一つだけ言い忘れてました……帰ったらもう一度裸エプロンしてください」
真顔でそんなことを言ってきた真輝に虚は顔を赤くして枕を投げつけることしか出来なかった。
そしてその数時間後、部屋の場所を覚えていなかった真輝が千冬に連れられて三年生寮を歩く姿が目撃されることになる。
というわけで真輝君は黒髪メガネお姉さん属性の美人さんの布仏虚さんに決定しました〜(嫉妬)
護衛事情については仕方ないと思えなくも無いですが世知辛いですね。だけど有事の際に誰を優先して守るかも決めなければならないワケでして。そう言った裏事情で真輝君の護衛は虚さんになりました。
そして真輝君の歪み、『自分は誰よりも劣っている』。それが彼の根幹に当たります。Fateの衛宮士郎の『自分を犠牲にしても誰かを助けなければならない』と同じ歪みです。これによって真輝君は努力馬鹿になりました。まぁ、その努力が報われるとは言ってませんけど。
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