劣等と蔑まれた少年の人間讃歌   作:鎌鼬

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第5話

 

 

まだ朝日も登っていない早朝の4時半、真輝の朝はここから始まる。同居人の虚を起こさない様にイヤフォンをつけて睡眠し、イヤフォンを通して鳴り響くPadの目覚まし音で目を覚ます。目を覚ましてから三十秒ほどボゥッと過ごし一気に覚醒、物音を立てない様にベッドから出るとクローゼットの中からジャージを取り出して寝巻きから着替える。そして部屋から出て行く。

 

 

向かった先は学園の正面玄関。陽の光も無く街灯で照らされている道を真輝は軽い準備運動をした後に全力で走り出した。息が切れる限界まで走り、走るのを止めながらも足を止めずに見様見真似のシャドーボクシングを行う。自分は他人よりも劣っているだから全力で努力をして他人に勝つという心情の元でスポーツトレーナーが見たら反対する様な運動を行っている。それを何度も何度も繰り返し、時刻が6時になったところで最後の全力疾走を行う。それまでは息が切れるところまで走ったら止めていたが最後のは息が切れ、足が前に出なくなるまで行われる。走れた距離は600m、徐々に距離が伸びていることを確認してクールダウンを行う。

 

 

誰かが真に戦うべきは自分だと言っていたがそれは真輝にとっては当てはまらない。真輝にとっての戦うべき相手はどこまで行っても他者であるから。なので自分の記録が伸びたとしても真輝は喜ばない。真輝が喜ぶ時は他者に勝った時なのだから。

 

 

真輝が部屋に戻るとーーーPadの中に部屋までのルートを入れておいたーーー同居人の虚が浴室から出て来た。目を覚ましてまず先に身支度を整えたらしくすでにIS学園の制服姿になっている。

 

 

「おはようございます」

「おはようございます……こんな時間からどこに出ていたのですか?」

「走り込みに、浴室空いたなら使っても良いですか?汗流したいんで」

 

 

確かに真輝は全力疾走を繰り返したせいで四月にかく量ではない汗を流している。それに気がつくと虚は使っていないバスタオルを手渡した。

 

 

「春とはいえまだ寒いんですから風邪をひかないように気を付けてくださいね」

「風邪なんてひいた事ないんで、自分馬鹿なんで」

 

 

そう昨日と同じ様に自虐ネタを言いながら真輝は浴室に入った。自分を蔑む様な言い方を変えたいとは思っているがきっと変える事は出来ないのだろうと虚は考えて少し悲しくなった。あれが彼の生き方で、良くも悪くも今の彼を作っているものだからそれを否定するという事は橘真輝という人間そのものを否定することと同じだからだ。たかだか十七年しか生きていない虚では彼の考えを変える事は出来ないだろう。

 

 

そう考えると、また少し悲しくなった。

 

 

浴室から出た真輝がまず行った事は机に座り、ノートを開く事だった。そして一心不乱にノートに書き込んだり教科書や参考書を見比べたりしている。虚は予め真輝がアスペルガー症候群で異常なまでの集中を発揮することを知っていたがここまでのものだとは思わなかった。そして真輝が使っている教科書と参考書は適性検査後に渡されてまだ半月程しか経っていない筈なのに三年生が使っている物よりも痛んでいて、さらにはマーカーが引かれていたり書き込みがあったりした。これを見れば真輝がどれだけ勉強をしていたかが分かる。しかしそれは真輝が過去に受けた怪我が原因の記憶力の低下のせいで実を結ばない。いや、確かに身につくのだろうが形になるまでには他者よりも何十倍も努力をしなければならない。

 

 

「(世界って……不公平ですね)」

 

 

そんな真輝の姿を見て憐れんでしまった虚を責められるものはいないだろう。そして虚はこの思いを口にするつもりはなかった。こうした人間にへと向ける『頑張ったな』や憐れむ様な言葉はその人間にとって侮辱に等しいと知っているから。

 

 

そして時間が経って7時、流石にここら辺で朝食を摂らなければ授業に遅れてしまうので虚は真輝の肩を揺することで真輝を正気に戻す。ハッとして周りを見渡し、時計を見て現時刻を知った真輝は虚に礼を言ってカバンを手に取る。そして虚と一緒に部屋を出て食堂に向かう。IS学園の食堂は三年生寮から少し離れた場所にあるので食べ終わってから部屋に戻るよりもそのまま教室に向かった方が早いのだ。

 

 

食堂の入り口で友人と食べると言う虚と別れて真輝は券売機に向かいA定食とB定食の券を購入した。ちなみにA定食は焼き魚がメインの、B定食は煮魚がメインの定食だった。定食を二つ持ちながら空いている席がないか辺りをキョロキョロを見渡す。するとある机から真輝に向かって手を振っている存在があった。もしかして自分かと思いその席に向かうとそこにいたのは蓮夜と本音、そして見覚えのある女生徒二人だった。

 

 

「おはよ、空いてるからここに座れば?」

「おはようございます、じゃあ座らせてもらいますね」

 

 

六人掛けの席に四人で座っていたのでまだスペースがある。そのスペースに真輝はA定食とB定食を置いて座る。

 

 

「マッキーおはよ〜」

「おはようございます」

「えっと、橘君、それ全部食べるの?」

「そうですよ。しっかり食べてしっかり動く、それが信条なんですよ」

「健康的だなぁ……俺なんて低血圧で食べる気しねぇ」

「まさに男の子って感じだね」

「私なんて食パン一切れで大丈夫なのに」

 

 

そう言った女生徒の目の前に置かれているのはトースト一切れとサラダと紅茶、それだけで足りるのかと聞きたくなるが女子には女子の食生活事情があるのだろうと言わない事にする。

 

 

 

「私は〜お腹すいたら〜お菓子食べるから〜」

「いやいや、のほほんさんは何か違うから」

「のほほんさん?……あぁあだ名ですか」

「そだよ〜良かったらマッキーも呼んでね〜」

「ブフォッ!?」

「ま、マッキー……!!」

「ダメよ私……!!笑っちゃダメよ……!!」

 

 

本音の言ったマッキーがツボに嵌ったのか蓮夜はコーヒーを噴き出し、女生徒たちも口元を押さえて笑いを堪えている。真輝は何が面白いのだろうと疑問に思ったが彼らの中では面白かったのだろうと決めつけて定食に手をつける事にした。

 

 

あまり自分から話すタイプの人間じゃない真輝は相槌を打つ程度だったが久しぶりに誰かと一緒に食事が出来たという事でどこか心の中が暖かくなる様に感じられた。ただでさえ美味な定食がさらに美味に感じられる。

 

 

そんな食事に水を差す存在があった。

 

 

『ねぇ……アレが噂の身の程知らずの男子?』

『えぇ……千冬様を倒すだなんてほざいてた奴よ』

 

 

明らかに嘲りを感じられ、さらに隠すつもりのない音量での会話。そしてその会話を皮切りにドンドンと広まっていく。

 

 

『男なら男らしく私たち女に媚び諂ってればいいのに……』

『如月君と同じテーブルに座るだなんてな……』

『織斑君ならまだしもあんなフツメンじゃあねぇ……』

『それに彼って授業の内容全く理解できてないらしいよ』

『しかも知ってる?彼ってなんたら症候群っていう病気らしいわよ』

『嘘!?私たちに感染るじゃない!?』

『隔離すればいいのに……』

 

 

ほとんどが事実であったがそれは誹謗中傷の類だった。しかもそれが事実であるだけに余計にタチが悪い。本音と女生徒二人はそんな話を本人の目の前でする生徒たちに苛立ちを感じるが蓮夜と本人である真輝は無視していた。

 

 

「ねぇ橘君、あれだけ言われて悔しくないの?」

「ご馳走様……悔しいかと聞かれても事実ですからね。でもーーー」

 

 

そう言って真輝は空になったお盆を手に持ってテーブルから立ち上がった。

 

 

「自分を磨く事を怠って他人を陥れることに熱を入れている奴らに負けるつもりはありません」

 

 

食堂にいる全員に聞こえる音量でハッキリと言ってのけた。堂々とした言い方に話をしていた女生徒たちは唖然とした表情になる。そしてお盆を返却して真輝が食堂から出て行ってから火の着いたように騒ぎ出した。

 

 

「如月君も何も言わなかったけど……なんとも思わなかったの?」

「思うことはあったさ、だけどその本人が気にしていないんだから言う必要は無いだろう。それに」

「それに?」

 

 

ーーーあぁいう手合いは、逆境すら追い風と捉えて進むからな

 

 

蓮夜の言葉を三人は理解できずに疑問符を浮かべる事しか出来なかった。そんな三人を司会に捉えながら蓮夜は楽しそうにコーヒーを啜る。

 

 

もしかするとありえるかもしれない未来を思い描きながら。

 

 

 






風邪引いて暇だからって3話投稿って……


ちらりと出た真輝君の授業風景。彼の修行スタイルはひたすらに自分を追い込む事。それが力になると信じているからひたすらに追い込む。もし許されるのなら死ぬ寸前までやりたいという生粋の求道者。

朝食場面で出てきたのほほんさん+αの二人は原作でワンサマ&モッピーと食べていた方々、蓮夜が先に誘ったのでそっちに行きました。

そしてアンチ場面である誹謗中傷、彼女たちの憧れである織斑千冬に立ち向かうような発言をした真輝君絶対許早苗の心でいます。しかし真輝君ガンスルー、そして無意識で煽り返すという高等テクニックを披露。それを見て蓮夜君はニッコリ、遅れてやってきたワンサマは何かあったの?状態ですわ。

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