真輝が教室に着いた時にはホームルーム開始まで10分も空いていた。その時間を使おうかとカバンの中からノートと教科書と参考書を開きーーー
「失礼、ちょっとよろしくて?」
開こうとする直前で声をかけられた。顔を上げればそこにいるのはブロンドヘヤーにロールをかけたお嬢様という言葉が似合いそうな女生徒。彼女の顔に見覚えがあるのでクラスメートだろうと考えるのだが真輝の記憶力では名前までは出てこなかった。
「えっと……貴女は?」
「私はセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生を務めておりますの」
「代表候補生?それは凄いですね」
セシリアが名乗った代表候補生という言葉に真輝は素直に感心の声をあげた。代表候補生、それは名前の通りIS大会に国家の代表として出場する選手の候補生。分かりにくければオリンピック出場選手の候補生と同じだと考えてもらえればいい。つまり彼女は真輝と変わらない歳でそれだけの地位にいる事になる。
「俺はーーー」
「マキ・タチバナさんですわよね?昨日の自己紹介で存じております」
「はぁ……それで、俺に何か?アプローチかけるなら他の男子にした方が有意義ですよ?」
「貴女は……昨日仰ったことは本気ですの?」
真輝が昨日言ったこと……それは世界最強と言われている織斑千冬を倒すと宣言したことだろう。セシリアも操縦者なら千冬に何かしらの念を持っているかもしれないと考えた真輝はセシリアの目をまっすぐに見て答えた。
「えぇ本気ですよ、俺は織斑千冬を倒すことを目標にしています」
「……そう、ですの……ありがとうございますわ」
何かを考えるような顔付きになりセシリアは自分の席へと帰って行った。最悪殴られる覚悟もしていたがそんな事はなく穏便に済ませられたことに安堵しながら勉強を始めようとペンを手にするーーー
「諸君、おはよう。それではホームルームを始める」
ーーーが、それは千冬と麻耶が教室に入って来たために叶わなかった。流石にホームルームの時間まで勉強に充てるつもりは真輝に無かったらしく、大人しくノートを閉じることになった。
それから時間が経過して現在は二限目の千冬が担当している授業。実はこの授業が始まる前にセシリアと一夏の間でトラブルが発生していたのだが集中して勉強していた真輝は気づかなかった。
「ーーーっと、ああそうだ、済まないが授業を一時中断する。今度行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならないのでな」
黒板へ板書する手を止めて千冬は唐突にそんなことを言い出した。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員家への出 席…………まぁ、委員長だ。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると、一年間変更はないからそのつもりでな」
最後に自薦他薦は問わないと言い加えると女生徒たちが我先にと言わんばかりの勢いで挙手を始めた。
「はい!!織斑君を推薦します!!」
「私もです!!」
「私は如月君を!!」
「右に同じ!!」
彼女たちの口から出るのは自薦ではなく他薦、それも男性操縦者である一夏と蓮夜の名前ばかりだった。これに千冬は思わず頭を抱えたくなる。彼女たちはただ男性操縦者である彼らが珍しいからという理由だけで二人のことを他薦しているのだ。男性操縦者たちは操縦経験がまったくないということに目を逸らしてだ。それでも許可した手前却下することは出来ない。
「……なら候補は織斑と如月だな」
「はぁ!?俺!?」
話を聞いていなかったのか一夏は大げさな反応を見せる。知らぬ間に勧められていたことに反論をしようとするのだがそれは蓮夜が挙手したことで遮られた。
「先生、出来れば辞退したいですけど良いですかね?」
「ほぅ、何故だ?」
「俺は操縦者じゃなくて技術者志望なんで、操縦者よりも整備とかに時間充てたいんですよ」
意外にもまともな理由に千冬は内心舌を捲く。一年生の時期ではどうしても進路が定まっておらずあやふやな生徒が多いのだが蓮夜は既に自分の進路を決めているのだなら。ふざけた理由なら却下していたのだがと少し残念がったことは内緒だ。
「だがそれだけでは少し弱いな」
「やっぱりっすか?まぁやる気がないってことは知っといてください」
「まぁ良いだろう。で、織斑は?言っておくがやりたくないとか言うふざけた理由ならば当然却下するぞ」
「うぐっ!!」
先に言われて図星だったのか一夏は呻き声を上げて黙ってしまう。何か他に手は無いかと目だけを動かして見つけたのはーーーノートに板書さらた文を書き写している真輝の姿だった。
織斑一夏は真輝に嫉妬している。彼の唯一の肉親である千冬に目をかけられている真輝に嫉妬している。出来ることなら出したくは無かったが流されるままに代表をするよりはマシだと腹をくくる。
「だったら俺はーーー」
「ーーー納得いきませんわ!!」
そこでセシリアが我慢の限界だと言わんばかりに机を叩きながら立ち上がった。クラスの代表を決めるという重要なことなのにクラスメートたちはただ有名という理由で操縦者経験が全く無い一夏と蓮夜を推薦しているのだから代表候補生であるセシリアは堪えられなくなったのだ。それに加えて授業前に行った一夏との会話がセシリアの怒りを掻き立てていた。参考書を捨て、代表候補生という今の時代ならば当たり前な言葉を知らず、入学前の試験で行われる試験官との戦闘で相手の操縦ミスで終わったのいうのに勝ったという始末。常人ならば笑って流せたかもしれないが代表候補生という自分の地位にプライドを持っているセシリアにとって流せるものでは無かったのだ。
そしてセシリアの怒りはヒートアップして一夏から日本への罵倒に、それが琴線に触れたのか言い返した一夏との決闘まで発展した。どうしてそうなったのかと千冬は頭を抱えたくなるがそれ以外にこの場を治める方法が無いのも事実。だがそんな中一つ妙案を思い付いた。手を叩いて鳴らして集中し過ぎている真輝以外の全員の注目を集める。真輝は麻耶が肩を揺することで正気に戻らせた。
「では一週間後の放課後にアリーナを使って織斑、オルコット、如月、橘による決闘を行う」
「織斑先生!!どうして橘もしれっと参加しているんですか!?」
千冬に疑問の声を上げたのは蓮夜、それは純粋に真輝の身を案じてのものだったが教室内の女生徒の大半からはなんでこいつがという目が向けられている。
「まぁ落ち着け。橘を加えたのは現時点での操縦者としてのレベルの確認と経験を積ませる為だ。橘に関してはどの様な結果であれ代表になることは無い」
そう言うと蓮夜は渋々といった具合で席に座る。突然決闘騒ぎに加えられさせられてどんな反応を見せるのだろうかと千冬は真輝の顔を見る。
真輝の顔にあったのは驚きでも絶望でもないーーーまるで目の前に欲しかった物が降って現れたかの様な獰猛な笑みだった。その顔を見てやはりなと千冬は頷く。
真輝は千冬を倒すと宣言していた。そして自身が劣っていると言い張っている。それならばいきなり挑む様な真似をせず段階を踏んで自分の元まで来るだろうと考えていたのだ。
例えどんな結果になろうともこの戦いは真輝の糧になるだろう。
「(本当に私に勝つつもりならば、このくらい乗り越えてみせろ)」
始め決めていた時よりも真輝に肩入れし過ぎている自分に笑いを溢しながら授業を再開する。
結局授業が終わるまで真輝の顔から獰猛な笑みが離れることは無かった。
真輝君……修羅道見習い。趣味は研鑽、困難を乗り越えること。劣っているからと自ら進んで修羅道をスキップするツワモノ。千冬によって困難を与えられてニッコリです。
千冬……修羅道クイーン。剣一本で世界最強の座にまで上り詰めるというまさしく修羅道の女王様。現在の楽しみは真輝君が頑張って自分の元まで来た時のことを考えること。
ワンサマ……だぁいすきな千冬が真輝君にご執心なのにイラつきを感じているシスコン(無自覚)これから修羅道の住人になるのかは未定。
蓮夜……修羅ってる道をスキップして修羅道クイーンの元に向かっている見習いを見て2828することが楽しみ。そんな彼は修羅道ウォッチャーに違いない(確信)
セシリア……貴族としての誇りを持ったお嬢様。真輝君との会話で本気で千冬を倒すつもりなのだと確信している。自身も努力して代表候補生の地位についたのに男性操縦者としての最低限の努力も見せないワンサマに激おこぷんぷん丸。
自分紹介は完璧だな……!!(恍惚)
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