劣等と蔑まれた少年の人間讃歌   作:鎌鼬

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第7話

 

 

「ーーーうん、じゃあ必要な書類はこれで全部ですね」

「ありがとうございました」

 

 

生徒指導室の中で真輝と麻耶はテーブルに向かい合うように座っていた。生徒指導室と言ったがこれは真輝が何か問題を起こしたからではない、彼が使うことになるISの手続きに基づく書類を書くためだ。

 

 

世界に三人しかいない男性操縦者ということもあり彼らには実験用のデータ収集も兼ねた自己防衛用のISが支給されることになっている。一夏は倉持研究所から、蓮夜は実家である如月グループから、そして特に目立った繋がりを持たない真輝はIS学園にある訓練機を専用機として受け取ることになっていた。これによりIS学園の保有するISが一機減ってしまうことになるのだが意外なことにアメリカ、ロシア、ドイツの3国からIS学園にISコアの支給があった。表立ったコアの取引はアラスカ条約によって禁止されているためにあくまでも貸しているだけという事になっているがほとんど譲渡に近い状態である。これに日本の官僚たちは何か考えがあるのか、それともその事を伝える電話口で電話相手である首脳が何故か泣いていたことから100%の善意なのか頭を悩ませている。

 

 

実は専用機について女性権利団体や一部の官僚が『モルモットは織斑一夏と如月蓮夜の二人だけで残る一人は研究所送りにすればいい』などと発言していたが良識のある総理を始めとした官僚たちによって粛清され、女性権利団体は勢いを削がれ、一部の官僚らは社会的に抹殺されていたりする。

 

 

と、裏事情のある話が入ってしまったがこれで真輝にも一応専用機が支給されたことになる。ただしスペックは初期設定のままで真輝専用に調節しなければならないが。

 

 

「っと、早速動かしてみたいんですけど練習場所とかあいてますか?」

「そう言うと思って第二アリーナを貸し切ってあります」

「そこまでは私が案内しよう」

 

 

そこにタイミングを見計らったかのように千冬が現れる。さして断る理由もないので真輝は千冬に案内を頼んだ。麻耶は付いて行きたそうにしていたが書類の提出があるらしく泣く泣く断念する事になる。

 

 

「そう言えば、ISでのルールって教えてもらっても良いですか?後試合の順番とかも」

「あぁ、ISでも戦闘にはこの学園で用いられているルールを採用する」

 

 

そのルールの内容とは、

1、試合はどちらかのISのシールドエネルギーがゼロになるまで、または操縦者の意識が無くなるまで続行される。降参は認められる。

2、訓練機のシールドエネルギーの上限は600、専用機のシールドエネルギーは400。これは訓練機と専用機との性能の差を無くすために用いる。

3、戦闘指定区域から出たものはその時点で敗北となる。

 

 

簡単にまとめればこんなところだ。今回真輝のISは訓練機だったが真輝に譲渡された段階で専用機として扱われるのでシールドエネルギーは400である。

 

 

「あと試合の順番についてだが……これは一番に聞きに来た者に任せる事にしている。だから橘、お前が決めて良いぞ」

「これは総当たり戦ですよね?だったらオルコットさんとは最初に戦わせてください。他の順番は任せます」

「ーーーほぅ」

 

 

Padに試合のルールを書き込みながら歩いている真輝に千冬は興味深そうにそう呟いた。今回の試合で最も実力のあるのは間違いなく代表候補生のセシリアだ。普通ならば後回しにするだろうに真輝は迷わずに最初に戦う事を選んだ。

 

 

「何故オルコットと?」

「代表候補生だから、万全の状態で全力で戦いたいんですよ。先に織斑や蓮夜と戦って疲れた状態で戦うだなんて失礼じゃないですか」

 

 

当たり前の事を言っているかのように言っている真輝に千冬は思わず笑いを漏らしてしまった。普通の生徒なら代表候補生と戦う事になったら実力差から諦めたり投げやりになったりする。それなのにほとんど操縦経験の無い真輝は勝つつもりでいるからだ。

 

 

「あぁ、やはりお前は馬鹿だな」

「いつも言われていますよ」

「いいや、そう言う意味では無くいい意味での馬鹿だという事だ」

 

 

違いが理解出来ないで真輝は首を傾げていた。千冬はその姿を見てきっとこいつは強くなると確信した。

 

 

そうして貸し切りになっている第二アリーナにたどり着く。その中央には真輝に譲渡される事になっている訓練機ーーー第二次世代IS『打鉄』が鎮座していた。

 

 

「本当に打鉄で良かったのか?凡庸性で言えばリヴァイヴの方がいいぞ」

「あっちは銃の方がメインじゃないですか、今まで銃なんて使った事ないのにそれをメインにしても使いこなせるまでが長い。あとメイドインジャパンは信頼できますから」

 

 

最後の一言が余計だったが大まかに言えばそれが真輝が打鉄を選んだ理由だ。試合まで時間の無い中でできない事を出来るようになるとは思えない、なのでできる事が出来る機体を選んだというわけだ。打鉄はリヴァイヴに比べると装甲が分厚く防御力が高い。それでも専用機に比べれば劣るのだが真輝にとってはそれだけでも有難かった。

 

 

「それでは最適化処理(フィッティング)を始める。とは言っても背中を預ける様にして乗っていれば自動で行われるから気を負う必要は無い」

「ーーーはい」

 

 

返事まで少し間があったがそれはISに乗る事からの緊張では無い。今の真輝の顔を見れば誰だって彼が喜んでいる事に気づくだろう。真輝の顔は試合に参加させられた時と同じ獰猛な笑みが浮かんでいるのだから。

 

 

真輝が打鉄に乗ると問題無く起動し、機体からチキチキと何かが切り替わる様な音が聞こえる。これこそが機体が真輝に合わせて変わろうとしている音でこの音が止んだ時には正真正銘打鉄が真輝の専用機になることを表している。機材に支えられて10分、ついに音が止んだ。

 

 

「ふむ……問題無い様だな。これで最適化処理(フィッティング)は終了だ。アリーナは一日貸切にしてあるから好きに動かしてみるといい」

「ーーー」

 

 

返事が無いがそれは真輝が打鉄を操縦する事に集中しているからだと千冬は理解していた。未だに獰猛な笑みであるもののどこか真剣さが感じられる顔つきで真輝は一歩目を踏み出しーーー二歩目を踏み出す事なくうつ伏せに倒れた。実は真輝はISを操縦した事が無い。一夏や蓮夜は試験の名目でISを操縦していたのだが真輝は試験免除の代わりにひたすらにデータ取りをさせられていたからだ。

 

 

「(それに……橘の適性も関係しているだろうな)」

 

 

千冬がファイルを開くとそこには真輝のプロフィールがあった。身長体重血液型などの項目の一番最後にはIS適性の項目があり、簡潔にDとだけ書かれている。

 

 

IS適性は下からD、C、B、A、Sとなっており、Dは動かせなくも無いがISの行使が非常に困難になるレベルだと知られている。代表候補生や国家代表たちの適性が軒並みAやBであることから適性の高さがそのまま操縦者の才能だと一般的には思われている。ちなみにSは千冬だけしか確認されていない最高ランクの適性である。

 

 

「ーーークッ」

 

 

起き上がろうとしても起き上がれないで再び倒れる真輝からそんな声が溢れた。普通ならその声は悔しさを込めた物なのだろう。しかし千冬はその声には堪えられない喜びが込められている様に感じられた。実際、起き上がろうとして倒れることを繰り返している真輝の顔は先程までと変わらぬ獰猛な笑みだった。

 

 

「クククッ……!!」

「楽しそうだな、橘。立つことも出来ないで惨めだとは思わんのか?」

「あぁ確かに惨めだとも、悔しいとも、屈辱だとも。操縦者ならば当たり前に出来ていることが俺には出来ないでいるのだからな」

 

 

真輝の口から敬語が取れているが千冬はそれを指摘しない。なぜなら今語られているのはまごう事無き真輝の本音なのだから。

 

 

「だからこそーーーこの苦境を乗り越える。足を引っ張る事にお熱な連中を唖然とさせてやる。劣っている俺でも同じことが出来るのだという事実をあいつらに叩きつけてやる。そうすれば俺は今よりも成長出来ると信じているのだからな」

 

 

立ち上がろうと打鉄の腕を使うものの上手く操縦出来ないで再び倒れる。何度も何度も失敗を繰り返しながら成功しようと努力をする真輝の姿は見るに堪えない物であったがどこか心が惹かれる物であった。

 

 

「(本当に私に勝とうとしているのなら登り詰めてみろ、橘。その時まで世界最強の座は誰にも譲らんさ)」

 

 

その真輝の姿を見て千冬は真輝が自分の前に挑戦者として立つその日まで世界最強の座を誰にも開け渡さないことを誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

「おかえりっ!?だ、大丈夫ですか!?」

 

 

アリーナの閉館まで操縦続けた真輝が部屋に戻ると虚が真輝の姿を見て驚きの声を上げた。それはそうだろう、真輝の顔や手と言った露出している場所には無数の傷が付いているのだから。実際寮の廊下で真輝とすれ違った三年生は驚きの声を上げている。

 

 

「大丈夫ですよ?ただISの操縦練習をしていただけですから」

「そういう事じゃ無くて……あぁもう!!こっちに来てください!!」

 

 

外れた返事をする真輝に業を煮やしながら虚は真輝の手を取ってベッドの上に座らせる。そして常備してある救急箱から脱脂綿とアルコールを取り出して傷の手当を始めた。

 

 

「……本気で代表候補生との試合に勝つつもりなんですね」

「もう知ってるんですか?噂回るの早いですね」

「茶化さないで答えてください」

「勝てるだなんて思って無いですよ。なにせオルコットは代表候補生の座に上り詰める程の実力者ですから。でも負けるとも思ってません。オルコットが積み重ねた努力よりも俺の方が努力していると信じてますから。だからこそ、俺はオルコットに勝ちたいんです。人間は努力をすれば才能の壁なんて超えられると証明したいんですよ」

 

 

アルコール独特の臭いに顔を顰めながら真輝はそう言った。真輝は無能であることを理解している、だけどそれが理由で才能のある奴らにほ絶対に勝てないのだと認めたくないのだ。ゆえに真輝は異常なまでの努力を積み重ねる。そうして培ってきた研鑽で、才能を凌駕出来ると信じているから。

 

 

「……はぁ、馬鹿な人ですね」

 

 

人によっては夢物語だと、屏風に書いた餅だと笑われる様な理由を聞いて虚は呆れを込めた笑みを浮かべた。叶わないことは無いのだろうがそれを実行に移そうだなんて考える人間はいないだろう。何故なら、いくら努力したところで天賦の才の前では無意味だから。だけど真輝は本気でその夢を実現させようと努力しているのだ。

 

 

そして……どこまでも不器用で真っ直ぐに進み続ける真輝の夢が現実になるのを見たいと思ってしまった。

 

 

「打鉄の調整の方はどうなっていますか?」

「……そう言えばそっちもありましたね。どうするか……一週間で出来るとは思えない……初期のままでするか?」

「止めなさい。自分にあった調整をしないと機体と操縦者との間にズレが生まれます。それはコンマ一秒で勝敗を分ける試合では致命傷になりますよ」

「だとしても出来ないわけですから……山田先生に頼むか?」

「一つ提案があります。貴方の打鉄の調整、私にやらせてもらえませんか?」

 

 

虚の提案に今度は真輝が驚く番だった。言っている事の内容は理解できる。だけど何故その提案をしたのか、その理由が分からなかったからだ。

 

 

「どうしてですか?」

「……貴方の夢が現実になるのを見たかったからです」

 

 

真輝は真っ直ぐに虚を見つめる。それに虚も目を逸らさないで見つめ返す。そして数十秒経ったところで真輝が頭を下げた。虚が嘘をついている様に見えなかったからだ。

 

 

「先輩、打鉄の調整よろしくお願いします」

「任せてください。必ず貴方にあった調整をしてみせます」

 

 

意図せず敵を増やしてしまった学園内で、真輝にとって心強い味方が増えた瞬間だった。

 

 

 





虚……修羅道サポーター。真輝君の姿を見て、真輝の夢を聞いて、それを実現するところを見てみたいと修羅道をスキップして進む真輝君のサポーターに回ることを決めた。

真輝君の夢は簡単に言えば『才能を努力で凌駕したい』ですね。才能を伸ばして誇っている天才を無能である自分が努力で上回ってみせる……それを目標にして修羅道をスキップしてます。修羅道クイーンこと千冬を倒すと言ったのもこれが理由だったりします。

まぁモンドグロッソ上位の操縦者たちは才能+努力で登ってきてます。真輝君もそれは理解していますがそれでもそれ以上の努力をして勝ってやろうと頑張っています。その内修羅道をレーシングカーで飛ばして走ってそう(小波感)

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