「ーーー」
ここはアリーナに設置されたビット内。その中で真輝はベンチに座って目を閉じていた。そこで思い返されるのはクラス代表を決定するための試合が決められてから一週間の記憶。
一日目は立ち上がり、歩行するだけで終わった。
二日目は歩行をして、走行するだけで終わった。
三日目は走行し、飛行をしようとして失敗した。
四日目も飛行に失敗した。
そして今日までは千冬が相手となって延々と模擬戦を行っていた。
そう、ここで気付けるかもしれないが真輝はISでの飛行が出来ないのだ。ISの目玉ともいえる飛行が出来ないのは大きなハンデとなるだろうが出来ないのなら出来ないなりの戦い方をするだけだと真輝は決めていた。
それよりも昨日まで行っていた千冬との模擬戦の方が収穫があった。突然アリーナ内にIS用のブレードをかついでジャージ姿で現れて『橘、戦闘訓練をするぞ』と言ってきた時には驚いたが直ぐに獰猛な笑みを浮かべて真輝は千冬に向かっていった。生身の世界最強と初心者の操縦するISという異色の戦いではあったが結果は当然というべきなのか……真輝の惨敗だった。手も足も出なかったとはあの事だろう。なんとか目で捉えられるような速度でブレードを人体の急所に迷う事なく打ち込み、全力で振るった一撃を容易く受け止められる。多くの黒星と共に世界最強と今の自分との差を知れたのは大きな収穫だった。
「ーーー橘君!!時間です!!」
「ーーーあぁ」
ビットの扉が開き、麻耶が試合の開始する時間になったと伝えてくれる。それに真輝はタメ口で話すがこれは興奮しているからだと麻耶も気にせずにいた。そして真輝は自身の首に巻かれたチョーカーに指を当てる。これが真輝の専用機である打鉄の待機状態、形状としてはアクセサリーが基本らしく真輝の打鉄もそれになぞらえてなのかチョーカーになっている。
「いくぞ、『不屈』」
名前が呼ばれた事によりISが展開される。打鉄と名付けられていたISは様変わりをしていた。まずは全体のカラーリングが銀から黒に変えられている。そして肩に付けられている盾は訓練機で装備されている物よりも一回り大きくなって、数も二つから四つに増えて背中にも付けられている。さらに背中にあるブースターも大きな物に変えられている。
第二次世代打鉄改造式IS『不屈』、それが真輝の専用機の正式名称であり、虚の協力の元で作られたISだった。
不屈を装着した真輝はスムーズな動作でビットに設置されているカタパルトの上に移動する。それは一週間前までまともに歩く事も出来なかった者の操縦だとは思えなかった。
そして唐突にかかるGと共に真輝はアリーナ内に射出される。本来ならばここで飛行に移るのだろうが真輝は飛ぶ事が出来ない。なので自然落下してアリーナの地面に着地する事になる。その真輝の姿を見て上がるのはーーー罵倒と嘲りの声。中にはこれまでの真輝の頑張りを見ていた生徒から声援があるが上がっている大半の声は前者の物だった。
だがそれらの声は真輝の耳には届かない。何故なら真輝の戦うべき相手は決まっているのだから。
「ーーー来ましたのね」
真輝が飛び出してきたビットとは反対のビットから青いISーーー第三世代IS『ブルーティアーズ』に乗ったセシリアが現れる。セシリアはアリーナ内に飛行して上空を陣取り、真輝は地面からセシリアを見上げる形で対峙する事になる。
「逃げ出すと思ったか?」
「いいえ、貴方の事ですから逃げ出さずに来ると思っておりました」
一週間前の問答でセシリアは真輝が本気で世界最強である織斑千冬を倒そうとしているのだと理解した。であるのなら国家代表には届かぬものの代表候補生である自分と戦える機会を逃すはずが無いと。そしてその予想は当たった。真輝は己が積むことが出来る研鑽を極限まで積み重ねて代表候補生であるセシリアの前に立つ。
「ですが……飛行までは出来なかった様ですね」
「全く恥ずかしい限りだ、本当だったら同じ目線で語り合いたかったが俺ではそこまで至らなかった。もし気を悪くしたのならば謝ろう」
「いいえ結構ですーーーですが、この試合は一方的な試合になると覚悟なさい」
セシリアの手にライフル型のレーザー銃である『スターライトmarkII』が展開され、真輝に向けられる。
「ーーー『ベルセルグ』」
それに呼応する様に真輝は武装の名を呼んでそれを展開した。それは剣と呼ぶにはあまりにも無骨すぎる大剣だった。刀身は5m程で一般的なブレードに比べれば長く、そして分厚すぎる。第一印象としては剣よりも鉄板のイメージの方が強いだろう。
そして試合開始を告げるブザーが鳴り響く。
まず始めに攻撃したのはセシリア。スターライトに付けられているスコープを除く事なく真輝の頭部に銃口を向けてためらう事なく引き金を引いた。そしてレーザーが飛び出す。セシリアの脳内での予想は真輝はこのレーザーに当たるか盾を使い防ぐ物だと考えていた。
しかし、その予想はレーザーが誰もいない地面に着弾した事で外れる事になる。
「っ!?いない!?」
さっきまでそこにいたはずの真輝の姿をセシリアは見失った。すかさずISのハイパーセンサーで周囲を伺う。そして真輝の反応があったのはーーーセシリアの頭上だった。
「なっ!?上から!?」
「ーーーォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!」
すでに真輝は回避不能な距離まで接近している。よってセシリアに与えられた選択肢はノーガードで受けるかスターライトで受け止めるかの二つ。セシリアは迷う事なく後者を選択した。
ベルセルグとスターライトがぶつかる。
「(お、もたーーー)」
ベルセルグーーーそれは剣としては欠陥品と言える剣だった。まず頑丈さを求め過ぎた為に切る事を目的としている剣にあるまじき切れ味の悪さ、どちらかと言えば鈍器である。そしてその重量、パワーアシストのあるISでも持ち上げるのが困難な程に重たい。なので欠陥品として扱われていたがーーー真輝は迷う事なく武装としてその欠陥品を選んだ。
直撃こそはしなかったもののスターライトは砕け、セシリアは叩きつけられる様に地面に墜落する。そしてほとんど反射でその場から飛び退く。飛び退いて数瞬後に真輝が落ちてきてベルセルグが振り下ろされた。超重量のベルセルグが叩きつけられた事で地面にクレーターが出来た。もしスターライトを盾にしなかったら、もし反射的にあそこから飛び退かなければ、そんなもしもを考えると鳥肌が止まらなかった。
「あれは……ベルセルグ!?あんなものを扱えるんですか!?」
主審用に設置されているビットで麻耶は真輝がベルセルグを使っている姿を見て驚いていた。彼女が知っている中でまともにベルセルグを振れたのは千冬だけだったからだ。
「それに最初の回避は一体どうやって……織斑先生は分かりますか?」
「ふむ……山田先生は橘のプロフィールには目を通したか?そうすればその二つの疑問には察しが付くと思うのだが?」
「あぅ……ここのところ忙しくてまともに見れてないんです……」
「そうか……それはご苦労だ。なら説明してやろう」
IS学園ブラック説が仄かに流れたところで初撃の一連の流れに付いて千冬が解説を始める。
「まず始めの移動だが簡単な話だ。橘はその場から全力で跳躍した、それだけだ」
「跳躍って……ジャンプですか!?それだけでオルコットさんよりも高く跳んだんですか!?」
「あぁ、橘は子供の頃に頭に傷を負って記憶力が落ちたことは知っているな?その怪我が原因で他にもあいつの身体に異常が現れた。それは脳のリミッターが外れた事だ。人間の身体は本来ならば普段の何倍もの力を出す事が出来るがそれに身体が追い付いていかない為に脳がリミッターをかけている。橘にはそれが無いから常人以上の身体能力を使える訳だ。それこそISを装着した状態で30mは飛び上がれる程のな」
「ほぇ〜……じゃあベルセルグを使えのも?」
「それも同じ理由だ。だが、色々と苦労をしたらしい。リミッターが外れた状態だからか橘は脱臼や骨折、それに筋肉断裂などの怪我が多かったと聞く。普通なら治癒するまで待つのだが治癒が追いつかない程の怪我をしたとか。そんな中橘の身体は常人とは違う治療の仕方を始めたと資料にある。脱臼は癖を通り越してより強靭に、骨はただ治るのでは無く骨折しにくいように堅く、筋肉は変わらぬ太さでありながらより密度を高めた。その結果が今の橘だ」
まるで小説の中の話のようだと千冬は考える。壊れる事を繰り返すことでより強靭になる身体、そして強くなる身体にさらに限度を超えた鍛錬で負荷を与え続けることでより強靭になる。
「あいつは間違いなく身体能力だけならば人類でトップクラスに入る程に高い。しかもまだ成長途中と来た物だ……どこまで伸びるのか興味が尽きんよ」
「……先輩、楽しそうですね」
「あぁ、まさか挑まれることがこんなに楽しみだとは思いもしなかった」
楽しそうな顔を隠そうともしない千冬の姿は過去に後輩であった麻耶も稀にしか見た事の無い程にレアな表情だったりする。
そんな中、真輝が口を開いた事で試合が再び動き出す事になる。
「どうした?セシリア・オルコット。まだ銃が壊れただけだろうが?」
ベルセルグの威力の高さに唖然としているセシリアに追撃を仕掛ける事無く真輝は口を開いた。この試合は勝とうが負けようがどちらにしても真輝の糧となりプラスの結果になる。負けるつもりは無い、勝ちたいという気持ちでここにいる。だがそれは唖然としているセシリアにでは無い。
「まだご自慢の兵器が一つ壊れた程度だろうが。その程度で負けを認める程代表候補生ってのは弱いのか?」
ピクリと、セシリアが反応する。ベルセルグに向けられていた目が真輝に向けられる。怯えが浮かんでいた目からは敵意が溢れている。
そのセシリアの姿を見た真輝の顔には獰猛な笑みが浮かぶ。そう、真輝が戦い、勝ちたいのは代表候補生であるセシリアなのだ。傲慢も油断も無く、全身全霊で代表候補生としての実力を十全に発揮するセシリア・オルコットとの戦いを望んでいる。
「あぁ、そうだそれだよ。傲慢も油断も、そんな物はすべてかなぐり捨てて貪欲に勝ちを求める。そんな奴との戦いを俺は望んでいる。今に満足するのは良い、だが決して腐ってくれるなよ。お前たちは俺よりも優秀なのだろう?ならば研鑽を積み重ねてくれよ。才能と研鑽で己を磨く事を忘れてくれるな。そんなお前たちだからこそ、俺は乗り越えて成長したいと望んでいるのだから」
それは真輝の本心だった。
自分以外の人間は自分より優秀なのだ。
それなのに腐るとはなんという事なのだ。
腐ってくれるな、己を高めてくれ。
そんなお前たちを、俺は乗り越えていきたいと願っている。
身勝手過ぎる願いだと思うのだろうが真輝はそうであって欲しいと願い望んでいる。しかしそれは大抵の人間には狂っていると笑われる願いなのだろう。それでも真輝はその願いを、望みを捨てない。いつかこの願いに共感して、望みを叶えてくれる人間が現れると信じているから。
そしてその人間は、今真輝の目の前にいる。
「マキ・タチバナ、どうか謝罪をさせてください」
立ち上がったセシリアは真輝に向かって頭を下げた。その姿を見た観客たちはざわつき始める。女尊男卑主義者の生徒に至っては罵倒しだす程だった。代表候補生は生徒たちにとって憧れの一つであると言える。その代表候補生が頭を下げるとなれば混乱もするだろう。
「私は心のどこかで貴方のことを織斑一夏と同じ自らの立場を弁えていない男なのだと一括りにしていました。この場でお詫びを申し上げます」
「許しが欲しければ態度で示せ、行動で表せ。俺が何を望んでいるのかなど今の貴様なら理解出来るのだろう?」
「えぇーーー」
頭を上げたセシリアの手に破壊されたスターライトと似たデザインの銃が握られる。これは『スターライトmarkII』の試作品として作られた『スターライトmarkI』。威力、冷却機能、連射機能、すべてにおいてmarkIIよりも劣るが予備として収納されていたのだ。
それを見た真輝は笑みを更に深めてベルセルグを握り直す。目の前に立つのは、自分が乗り越えるべき試練なのだと再認識しながら。
「さぁーーー」
「いざ尋常にーーー」
「勝負ーーー!!!!!!」
「勝負しようかぁーーー!!!!!!」
そして二人にとって本当の戦いが開始された。
真輝君武装紹介
ベルセルグ……ガンジョー、重たい、切れないという剣のカテゴリーには悪い意味で入らない修羅道ウェポン。使い方としては鈍器としてぶん殴るしかない。現在のところ使用できるのは真輝君と千冬の二人だけ確認されている。IS学園の武器庫に死蔵されていた物を使っている。
真輝君の秘密公開されましたね。要するにデュラララ!!の平和島静雄です。それプラス鍛錬しまくった結果、普通に世界トップクラスの身体能力になってます。だけど身体能力能力の高さ=武力的な強さにはならないと真輝君は考えてます。実際力が強いからといって素人はプロの格闘家には勝てないですからね。
そしてセシリア覚醒。傲慢も油断も慢心も捨てた代表候補生として真輝君の前に立ちます。スターライトmarkIIが壊れたけどスターライトmarkIがあるから!!(震え声)
スターライトmarkIはこの小説オリジナルです。markIIとあるからその前もあるんじゃ無いかと考えて試作品として出しました。性能はもちろんmarkIIの方が上です。
感想、評価をお待ちしています。