劣等と蔑まれた少年の人間讃歌   作:鎌鼬

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第9話

 

 

二人にとっての本当の戦いが始まってから五分、試合の流れはセシリアにあった。前を向いたまま緩やかな曲線を描きながらの後退。代表候補生なのに逃げの一手か?と思うだろうが相手は努力のみで頂点に挑もうとしている真輝、セシリア自身これが最善手であると確信していた。

 

 

スコープを除く事無く狙いを付けて放ったレーザーは2発、狙いは頭部と移動を阻害するための脚部。真輝は肩に付けていた盾を左手に握り、頭に当たるレーザーのみを防ぎ脚部に当たるレーザーを回避動作を一切見せずに受け止める。動きが鈍った様に見えたのは一瞬だけ、直ぐにその脚で地面を蹴って逃げるセシリアの後を追う。

 

 

始まってから真輝はひたすらに人体の急所を狙ったレーザーのみを防いでそれ以外の攻撃を受け続けていた。観客席からは嘲笑染みた声が聞こえているがこれこそが真輝が選んだ戦い方だった。相手はセシリア・オルコット、自分よりも遥かに格上の代表候補生、だというのに保身に走る様な戦い方をしたとしても叶うわけが無い。それに真輝は前に進むことしか知らない。セシリアの行動の予想など一切しないで最短距離を全力で進むだけ。急所に当たる攻撃のみを防ぐのはシールドエネルギーの消費を抑えるためだけ。ほとんど捨て身としか思えない戦法で、真輝は戦う。

 

 

そして試合の流れをつかんでいる様なセシリアであったがそれは大きな間違いだった。何時も使い慣れているスターライトmarkIIでは無くて予備として収納していたスターライトmarkIでは威力も連射機能も冷却機能も大きく劣る。そして爆発的な加速を見せる真輝から距離を保たなければならない。あのベルセルグの一撃を受けた事でブルーティアーズのシールドエネルギーは40も削れている。直撃を避けたとはいえどこの威力、真輝の接近を全力で嫌っても仕方が無いだろう。いつもとは違う銃で、真輝の接近を阻害する様に狙いを付けて撃ち、真輝に追い詰められない様に退避ルートを瞬時に選んで逃げる。それらの事をほぼノータイムで考えて行動することはセシリアの脳に大きな負荷をかけていた。

 

 

空に逃げろという観客の声が聞こえるがセシリアがそれをすることは無いだろう。確かに空に逃げ、真輝の跳躍が届かぬ距離から狙撃を繰り返せば苦労する事無く倒せるだろう。それをセシリアは嫌った。そんな誰でも出来る様な方法では無く、代表候補生としてのセシリア・オルコットとしての実力を見せつけなければならないと貴族のプライドが叫ぶのだ。そして何より……セシリア自身が、真輝と同じ視線で戦いたいと望んでいるから。織斑千冬を倒すと言ったこの男と同じ目線で戦い、下したいと操縦者としてのセシリア・オルコットが叫んでいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーー良いねぇ)」

 

 

心臓と右腕に放たれたレーザーを盾で防ぎながら真輝は心の中で呟いた。

 

 

試合の始まった時のセシリアは慢心と油断でその輝きを曇らせていた。そのセシリアが今、慢心と油断を捨て去って発揮できる実力を十全に出して自分に立ち向かってくれている。

 

 

脚と頭に放たれたレーザー、頭に当たる物だけを盾で防ぎ脚に当たるレーザーはそのまま受け止める。不屈の脚部の動きが僅かに鈍る。脚部を狙われ続けたせいでダメージが蓄積している様だ。それを脚力で強引にねじ伏せて地面を踏みしめる。

 

 

敵意を持って同じ視線で戦っているセシリアの姿を見て真輝はセシリアが自分の事を認めていると嬉しくなった。

 

 

幼少期の真輝は劣っていると蔑まれて育った。頭に負った怪我が原因で記憶力が低下し、集中し過ぎるアスペルガー症候群のせいで気味悪がられる。

 

 

劣っていると言われ続けてきた真輝は自分が何よりも劣っていると信じて育ってきた。劣っていると見下されて見られた結果、真輝は自分が誰にも認められていないのではと考える様になった。

 

 

だから真輝は研鑽を努力をする。そうすれば自分の事を認めてくれると信じたから。

 

 

そうして今、セシリアが自分の事を敵だと認めてくれている。

 

 

「(あぁーーー勝ちたいねぇ……!!)」

 

 

視界の端に映るシールドエネルギーの残量はすでに200を切っている。それでも真輝は勝つ為に逃げるセシリアを追い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーーなんて人なのでしょう)」

 

 

 

脚部をレーザーで撃ち抜かれても脚を止めない真輝の姿を見てセシリアは素直に感嘆した。

 

 

セシリアにとって男というのは女に媚び諂う存在だった。何故ならセシリアの父がセシリアの母の顔色を見ているのを幼少期から見続けていたのだから。そんな姿を見続けていたのだから男は弱く、女に媚び諂う存在だと思っても仕方が無いことだろう。

 

 

物心ついた時にセシリアは母にどうして父のような男と一緒にいるのかを聞いたことがあった。それに母は困った様に笑って貴女も大人になったら分かる日が来ると頭を撫でながら言った。その後しばらくして二人は旅行先で列車事故に巻き込まれて帰らぬ人になった。そしてセシリアは家を守る為に広まりつつあったISに目をつけてイギリスの代表候補生の地位を気付いた。その関係で社会に関わる様になったが母の言ったことを理解できる様日は来なかった。

 

 

だが、こうして真輝と戦っている最中に、母の言ったことの答えがわかった様な気がした。母はきっと、父の曲げないところを好いたのだと。父は確かに母の顔色を伺っていたが母が間違った事を言ったら腰が低い物言いだったがしっかりとそれは間違っていると指摘していた。それが原因で言い争いに発展することが何度かあったが最終的には母が折れて間違っていることを認めるのがお決まりの形だったと覚えている。

 

 

セシリアの父の様に、真輝は自分の芯を貫いて曲げていない。世界最大である織斑千冬を倒すと公言して、それを成し遂げる為に研鑽と努力を惜しんでいない。彼からすれば踏み台でしかない自分にも手を抜くこと無く全力で立ち向かってくれている。

 

 

「(スターライトmarkIIが壊れていない状態で貴女と戦いたかったですわ……)」

 

 

今更それを悔いたところで時は戻らない。あれは慢心していた自分が悪かったのだと意識を切り替える。地面を這うように移動しているのは慢心していた自分への戒め、空中という退路を断つことで慢心と油断を捨てるための背水の陣……いや、それは言い訳で真輝と同じ目線で戦いたいと思っているからなのだろう。

 

 

父と同じで、決して曲げない信念を持つ男と。

 

 

「(あぁーーー勝ちたいですわ……!!)」

 

 

いつしかセシリアも真輝のような獰猛な笑みを浮かべながら、この男に勝ちたいと心の底から望むようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合が動く。先手を取ったのは真輝だった。シールドエネルギーが150になったところでこのままではいけないと感じたのかベルセルグをセシリアに向かって全力で投擲した。

 

 

真輝の桁外れの膂力を持って投げられたベルセルグは空気を裂きながら一直線にセシリアに向かっていく。この行動に気を取られたセシリアは脚を止めてしまうものの、ベルセルグを回避することには成功した。

 

 

「オォォォォォーーー!!!」

「しまーーー!!」

 

 

そしてセシリアに真輝が追い付いた。投擲したものでは無く予備として収納されていたであろうベルセルグを新たに展開してセシリアの懐に潜り込み斬り上げの一閃を放つ。

 

 

回避出来ないと判断したセシリアはーーー引くのではなく、前進することを選んだ。ベルセルグの先端部分では無く根本の部分なら威力が多少は低いだろうとの判断からだ。ブルーティアーズの装甲がベルセルグとぶつかり絶対防御が発動、シールドエネルギーが80削られてセシリアは上空へと持ち上げられた。

 

 

「行きなさいーーー!!」

 

 

しかしそれはセシリアの計算の内だった。ブルーティアーズの腰のスカートのような部分から4機のビットが飛び出す。これこそがセシリアの切り札の『ブルーティアーズ』。セシリアの指示に従ってレーザーを射出する兵器だった。

 

 

それを見た真輝は即座にその場から飛び退こうとするが不自然に体制を崩した。セシリアが今まで狙っていた脚部、そこから煙が上がっている。レーザーによるダメージが蓄積しているのを無理矢理行使していたツケがここに来て現れたのだ。

 

 

アクシデントーーーいや、セシリアが引き起こした必然によって真輝は逃げることが出来ずビットから射出されるレーザーをノーガードで受ける事になる。更にセシリアはビットを操りながらスターライトmarkIによる狙撃も加えて放った。今までのセシリアならばビットか狙撃かどちらかしか行うことが出来なかったが真輝との戦いで成長したのか両方を同時に行うことが出来るようになっていた。

 

 

レーザーの集中放火を受けて砂煙が上がり真輝の姿が見えなくなる。ビットを機体に戻しながらもセシリアはスターライトmarkIの銃口を砂煙から離さない。

 

 

「まだーーーまだ、終わらないのでしょう……!!」

「無論だぁ……!!」

 

 

セシリアの呟きに応えるように爆発音が聞こえ、砂煙を吹き飛ばしながら真輝がセシリアに向かって飛行していた。

 

 

真輝が飛行出来ないというのは嘘ではない。なのでこれは飛行ではない。不屈に付けられていたブースター、それを無理矢理に吹かして自身を飛ばしているだけに過ぎない。ブースターにかかる負荷が大きすぎるために乱発出来ないお粗末なそれを真輝はここで出してきた。

 

 

これをセシリアは頭痛が酷い頭の中でなんとなく予想していた。きっと彼は自分の予想出来ないことをやらかしてくるのだと、セシリアは信じていた。だからこそ、ここで隠し札を切る。

 

 

ブルーティアーズのスカートのような装甲が捲れ、そこからミサイルが現れる。『ブルーティアーズ』は6つのビットからなる兵器である。レーザーを放つ4つとミサイル型である2つ。それをセシリアは真輝を倒すために出し惜しみせずに使い切る事を決めたのだった。

 

 

向かってくる真輝に向かってミサイルを放つ。普通なら旋回して避けられるのだろうが真輝は飛行など出来ない。だからーーー真輝は真正面からミサイルにぶつかる事になる。

 

 

真輝とミサイルが衝突して爆発する。流石にあそこまで削った状態でミサイルの直撃を受ければシールドエネルギーは尽きるだろうとセシリアは考えた。

 

 

それは、セシリアが捨てたはずの油断だった。

 

 

「ーーー諦めなければ、夢は叶うと叫ばれたのだ」

「っ!?まだ!?」

「なら……諦められるはずがないだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

爆発によって立ち込めていた黒煙から真輝が飛び出した。ミサイルの直撃を受けたはずなのに何故とセシリアは驚愕するがその疑問は不屈の肩に付けられていた盾の数が減っていたのに気付いたことで氷解することになる。

 

 

「(まさかーーー直前で防いだというの!?)」

 

 

それは真輝が諦めなかったから引き起こせた必然だったといえる。ミサイルが迫る中で真輝はアスペルガー症候群による極度の集中状態に入った。それは一流アスリートが稀に入るゾーンというすべてが遅く感じられる状態になるのと同じ効果をもたらした。その結果、真輝は盾でミサイルの直撃を防ぐことに成功したのだ。

 

 

「ォォォォォォォォォォォォ!!!!」

「ぐうっ!?」

 

 

驚愕によって動きを止める事になったセシリアの隙を真輝は逃さない。再びブースターを吹かせてセシリアに体当たりをした。乱発出来ないというのに短時間に二度も使ったためかブースターからは黒煙が上がっている。それでも真輝はブースターを止めない。真輝はセシリアを逃さないように抱きつき、そして全速力でアリーナの壁にぶつかった。全速力でぶつかったためにセシリアは壁にめり込むことになる。

 

 

ISならば数秒でそこから出ることが出来るだろう。それでも数秒は動きが止まる。その数秒こそ、真輝がセシリアに勝つ為に求めていた瞬間だった。

 

 

「『覇国』ぅ!!」

 

 

真輝の右腕に不屈に取り付けられていた物とは別の盾が展開される。このタイミングで何故盾をという疑問は盾がパージしてその中から現れた物を見せつけられた瞬間に解けた。

 

 

盾の中から現れたのは巨大な杭、ISの武装の中で最大級の威力を持つパイルバンカーだった。

 

 

「あぁ……俺も男だ……最後くらい格好の良い言葉を言わせて貰うぞ……」

 

 

パイルバンカーの切っ先がセシリアの胸元に突き付けられる。セシリアは自身の敗北を悟りながらも目を反らすことをしなかった。

 

 

自分を下した益荒男の顔を見つめるために。

 

 

「シテやったぜ……っ!!」

 

 

パイルバンカーの内部に仕込まれてた火薬が爆発、巨大な杭が飛び出してセシリアに突き刺さる。その爆発に耐えるだけの体力が真輝には残っていなかったのか真輝は吹き飛ばされることになる。

 

 

地面を転がりながらも真輝は身体を起こしてセシリアのいた方向を見る。まだ真輝の勝ちが決まった訳ではないのだから。爆発に耐えきれず外れたのか右腕が力無く垂れ下がっているが真輝は気にしなかった。

 

 

パイルバンカーを放った衝撃で上がった埃ーーーそれが晴れた時にはまだブルーティアーズは展開されていた。だがセシリアが力無く地面に落ちると同時に収納される。

 

 

不屈のシールドエネルギーの残量は僅かに5……それでも残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルーティアーズ、エネルギーエンプティ。勝者ーーー橘真輝」

 

 

真輝の勝ちを報せる放送がアリーナ中に響き渡る。勝ったことを飲み込めた真輝は左腕を突き上げーーー意識を失った。

 

 

 






真輝君武装紹介

覇国……男のロマンであるパイルバンカー。作中で登場する盾殺しよりも威力重視であるが重視しすぎて使用者もダメージを負うという修羅道ウェポン。

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