ソードアートオンライン~空間と剣技の支配者~   作:刃零

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お久しぶりです、投稿遅れてすみません。
第6話です。


第一層攻略会議

 俺たちが広場についた時にはもうすでに相当な数のプレイヤーが集まっていた。

 とはいっても他のゲームならこんな記念すべき最初の攻略ならもっと大勢が集まっているだろう。

 《ソードアート・オンライン》はデスゲームなのだ。

 命が惜しければ自分から望んで第一線を行こうとは思わないだろう。

 俺だってキリトと出会わなければはじまりの街から動かなかったかもしれない。

 俺みたいなのが何人いるのかいないのかは知る由もないのだが。

 ならば、そうでもないのにここに集まったやつらは生粋のゲーマーなのだろう。

 誰かが自分の前を行く。

 自分はそこに置いてきぼり。

 そんなのが嫌なやつら。

 それは戦うには十分すぎる理由。

 ならば、俺は━━━━━。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 人数がそう多くないお陰でキリトを見つけるのにそう時間はかからなかった。

 

「おーい、キリトー」

 

「やっと来たか、ロンド。遅かったな」

 

 そう言いつつもその目線は俺ではなく後ろの二人に向いていた。

 別にいやらしい目ではないと思う。

 いや、でも・・・無いよな!な?

 まあいい、まずは紹介を・・・

 

「まさかとは思うけどキリトってあのキリト?」

 

「えっ?アリア知り合いなの?」

 

 ビックリして声裏返ったわ、恥ずかしいなぁ全く。

 それは別としてなぜアリアがキリトのことを?

 

「ロンド!今アリアって言ったか?」

 

「言ったけど、何だよ二人して」

 

 俺は疑問を直接ぶつけた。

 すると、キリトが俺の腕を引っ張って耳打ちしてきた。

 

「βテストの時によく一緒にパーティ組んだり、フロアボス戦ではラストアタックボーナスの取り合いしたんだよ」

 

「はぁっ!?」

 

 今度は大声を出してしまった。

 広場の人たちの視線が痛い。

 いやいや、そんなことは今は問題じゃない。

 この二人がβテストで知り合いだった上、フロアボス戦でラストアタックの取り合いするほどの実力者ということだ。

 そのうえ、アリアにはユニークスキルまで。

 まさか、この二人がこんなに強いとは・・・。

 まあ、二人が知り合いなら話は早い。

 一緒にパーティ組むのも問題ないだろう。

 

「じゃあ、一緒にパーティ組んでも良いよな?」

 

「まあ、アリアが仲間になるならこれ以上頼もしいことはないな。よろしく頼むよ」

 

「ええ、まさかこうした形で同じパーティになるとは思わなかったけど。認めていただいて光栄よ、キリト」

 

「茶化すなよ」

 

 なんか、この二人の会話引っ掛かる。

 仲間になるなら、とか、こうした形、とか。

 

「ねえ、ロンド」

 

「ん?何だユウキ」

 

「何か変じゃない?」

 

「うん、俺もそう考えてたとこ」

 

「だよね~、じゃあちょっと聞いてみるよ!」

 

 どうやら同じ感覚をユウキも抱いたようで、ユウキはたまに災厄を呼ぶ行動力でアリアとキリトに問いかけた。

 

「ねえねえ二人とも!とっても仲良さそうだよね!でも仲間になるならとかこうした形ってどういうこと?」

 

「ああ、俺とアリアがパーティを組んでたのはお互い競いあう為だったんだよ」

 

「男女二人なら大体のクエストに挑戦できたから都合も良かったのよ」

 

「じゃあ、もしかして仲よくなかった?」

 

 思わず俺は疑問をそのまま口に出してしまった。

 これはまずかったか?

 そう思いながらも二人の返事を待ったが二人の返事は案外険悪なものではなかった。

 

「仲は悪くなかったぞ。むしろ良かったと思ってるぞ俺は」

 

「ええ、私も善き好敵手と思っていたし、自分を高めてくれる仲間だと考えていたわよ」

 

 ふう、危うく墓穴を掘るとこだった。

 これからはちゃんと考えてから話そうと思った俺だったのである。

 それは別として何があったかは知らないがフェンサーの纏う雰囲気も柔らかくなっている。

 キリトってもしかすると結構な女たらし・・・いや、人たらしなのかもしれない。

 女の人で苦労しないことを切に願う。

 と、そうこうしているうちに噴水の方から手をたたく音が聞こえると共によく通る声が広場に響き渡った。

 

「はーい!それじゃ、少し遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます!」

 

 声の主は全身に金属防具を纏った片手剣使いだった。

 しかし、装備の重さを感じさせないほど軽やかに噴水の縁に飛び乗るとは相当なステータスの持ち主のようだ。

 

 そうして振り向いた片手剣使いを見て、広場に集まった面々の一部がざわついた。

 気持ちは解る。

 なんせ、黒とか茶色じゃない髪色なんてそういない。

 俺もここに来てからは黒とか茶色しか見てない。

 あ、そういえば俺も金髪だった。

 

「今日は、オレの呼び掛けに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど改めて自己紹介しとくな!オレは《ディアベル》、気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

 なんか、変わった自己紹介だな。

 普通、職業の存在しないゲームで自分を《ナイト》とか言わないだろ。

 でも、案外親しみやすそうな奴で良かったなとも思う。

 やっぱりこういう殺伐としたゲームにはああいう盛り上げ役がいた方がいいんだろう。

 何故かキリトとアリアは難しそうな顔をしているけど。

 

「今日、オレたちのパーティが第一層のボス部屋へと続く階段を発見した」

 

 流石というか意外というか。

 俺たちが今日いたのが18階か19階に上がった辺りだったからそこまでマッピングが進んでいるとは知る機会もなかったのだ。

 

「ここまで一ヶ月もかかったけど・・・それでも俺たちははじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが今ここにいるオレたちの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

 広場に響く割れんばかりの喝采。

 今までバラバラで攻略を続けてきたプレイヤーたちをまとめるほどのカリスマとなれば相当絶大なのだろう。

 そんな時、低い声が流れた。

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

 喝采は止み、前方の人垣が二つに割れる。

 そこに立っていたのは小柄ではあるがガッチリとした体格の男だった。

 男はディアベルとは反対のダミ声で話を続ける。

 

「わいは《キバオウ》ってもんや。こんなかに何人か、今までに死んでった二千人にワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや。奴らが何もかんも独り占めしたから一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!」

 

 関西弁の男がそう発した途端に約四十人の聴衆はぴたりと押し黙った。

 おそらく、キバオウの言わんとしていることを全員が理解したのだろう。

 もしここで自分が何かを言えばきっとその《奴ら》の仲間にされてしまうと。

 だが、俺はその《奴ら》に救われてここまで来れたのだ。

 あの言い様には不快感を隠せないが、今ここで俺が何かを言おうとしたなら一緒にいるキリト達にまで迷惑をかけてしまう。

 俺は口をついて出ようとする言葉をぐっと飲み込み話を聞くことにした。

 

「奴らとは誰のことだい?」

 

 ディアベルは今までで最も真剣な顔になってキバオウに問う。

 

「決まっとるやろ。ベータ上がりどもはこんクソゲームが始まったその日に右も左も分からんビギナーを見捨ててダッシュではじまりの街から消えよった。奴らはウマイ狩場やクエストを独り占めしてジブンらだけ強うなって、その後も知らんぷりや。こん中にもちょっとはおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して攻略の仲間にいれてもらお思うとる奴らが。そいつらにはここで土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを軒並み吐き出してもらわな、パーティメンバーとして命は預けられんし預かれんと、そう言うとるんや!」

 

 ベータ上がりがビギナーを見捨てた?

 ウマイ狩場やクエストを独り占めした?

 そして自分だけ強くなっただと?

 そんなのはこいつの勝手な妄想だ!

 虚言を弄するなら他所でやれ!

 寝言は寝て言え!という話だ。

 こいつは自分の勝手な想像で元ベータテスターが一人も死んでいないかのように吹聴しているのだ。

 俺はキリトからアルゴの調査の結果を聞いた。

 内容は元ベータテスターの死亡率。

 募集枠は1000、だが、テスト末期のログイン状況を見るにその全員がこぞって正式サービスに移行したわけではない、とキリトは推測し実質は700から800人程度だろうと予想した。

 そしてアルゴの推計した元ベータテスターの死亡者数はおよそ300人。

 その数字が正しいと仮定したなら現在までで命を落とした2000人のうち新規参加者は1700人となる。

 つまり、新規参加者の死亡率は約18パーセントなのに対して元ベータテスターの死亡率は40パーセント近くまでに昇る。

 つまり知識と経験が即、安全を生む訳ではない。

 実際元ベータテスターのキリトとそれについていってた俺は一度死にかけている。

 まあ、俺が足を引っ張ってたんだろうけど。

 だが、それを言いたくても言えない。

 今ここで何か言えば俺はともかくキリトやアリア達まで・・・いや、これは言い訳だ。

 結局俺は恩人への冤罪を除くより己の保身に走っているのだ。

 ましてやその恩人を理由に。

 自分が情けなくなる。

 

「発言、いいか」

 

 俺がそうしてぐずぐずしている間に張りのあるバリトンが夕暮れの広場に響き渡る。

 人垣の左端辺りから進み出るシルエット・・・ってあれ?でかすぎないか?

 身長は190程はあるだろう。

 アバターのガタイはステータスには影響しないらしいがあんなのにぶつかりでもしたら俺多分軽く吹っ飛ぶよな。

 風貌は頭をスキンヘッドに肌はチョコレート色。その思いきったカスタマイズは彫りの深い顔立ちにとても似合っている。

 とてもじゃないが俺と同じ日本人・・・とはいっても俺とてハーフではあるがまあ、やはり出身国が違うのだろう。

 そして筋骨隆々な巨漢は広場のプレイヤー達に軽く頭を下げ、見ているこっちが可哀想になるほどの身長差のあるキバオウに向き直った。

 

「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたはつまり元ベータテスターがビギナーの面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償をしろ、ということだな?」

 

「そ・・・そうや」

 

 一瞬巨漢━━━エギルに気圧され片足を引きかけたキバオウだったが、すぐに前傾姿勢を取り戻し、爛々と光る小さな眼でエギルを睨み付け、叫んだ。

 

「あいつらが見捨てへんかったら、死なんで良かった2000人や!しかもただの2000ちゃうで、ほとんど全部が他のMMOじゃトップ張るようなベテランやってんぞ!アホテスター連中がちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今ごろは二層やら三層やら突破できとったに違いないんや!!」

 

 アホはお前だ!

 そのうち300はお前の言うアホテスター連中だよ!

 はあ、心のなかでしか叫べない自分に嫌気が差す。

 

「あんたはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」

 

 エギルは再びバリトンで応じると、はち切れんばかりの筋肉を覆うレザーアーマーの腰に着けた大きなポーチから羊皮紙を綴じた簡易な本アイテムを取り出す。

 その表紙には丸い耳と左右三本ずつのヒゲの《鼠マーク》。

 そう、情報はあったのだ。

 しかもそれは道具屋で無料で配布されていた━━━とある一人を除いては。

 

「このガイドブック、あんただって貰っただろう。ホルンカやメダイの道具やで無料配布してるんだからな」

 

「・・・む、無料配布だと?」

 

 あーあ、気づいてしまったようだ。

 そう、キリトは元ベータテスターではあるが記憶を補完するために“買って”いたのだ。

 それも500コルというなかなか立派な値段で。

 俺はいつもキリトにアルゴがそれを売りに来たあとでアルゴからこっそりタダで貰っていた。

 アルゴは「キー坊には内緒だゾ」と言って毎回渡してくれていたのでキリトには大恩あれど聞かれるまでは黙っていることにしていたのだ。

 そして、事ここに至るまで、ついぞその事について聞かれることはなかったので時効だろう、ごめん!キリト!

 

「私も貰った・・・」

 

 キリトの隣で沈黙を守っていたレイピア使いがキリトの言葉に答えるかのように囁いた。

 

「タダで?」

 

 そうキリトが訊ねるとこくりと頷き、

 

「道具屋さんに委託してたけど、値段が0コルだったから、みんな貰ってたわ。すごく役に立った」

 

「ど・・・どうなってんだ・・・」

 

「キリト、ごめん。俺も貰ってた・・・」

 

「な、ロンドまで・・・?」

 

「事情はまた説明するからっ」

 

 そうしているとキバオウが刺々しい声でエギルに答えた。

 

「貰たで。それがなんや」

 

 エギルは攻略本をポーチに戻すと、腕組みして言った。

 

「このガイドは、オレが新しい村や町に着くと必ず道具屋においてあった。情報が早すぎる、とは思わなかったか」

 

「せやから、早かったら何やって聞いとるんや!」

 

「こいつに載ってるモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは元ベータテスターたち以外にはあり得ないってことだ」

 

 広場のプレイヤーたちが一斉にざわめいた。

 キバオウはぐっと口を閉じ、ディアベルはなるほどとばかりに頷く。

 

「いいか、情報はあったんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その理由は、彼らがベテランのMMOプレイヤーだったからだとオレは考えている。このSAOを他のタイトルと同じ物差しで計り、引くべきポイントを間違えた。だが、今はその責任を追及してる場合じゃないだろ。オレたち自身がそうなるかどうか、それがこの会議で左右されるとオレは思っているんだがな」

 

 エギルという男の態度は極めて堂々としており、論旨も至極真っ当だ。

 だからキバオウも噛みつく隙を見つけられないようだ。

 もしこれがエギルではなく例えば俺ならキバオウは「そんなことを言うお前こそ元ベータテスターなんやろう」とかなんとか言って反撃してきたに違いない。

 しかし、今は憎々しげにその巨漢を睨めつけるのみだ。

 ディアベルは無言で対峙する二人の後ろでもう一度頷いた。

 

「キバオウさん、君の言うことも理解はできるよ。オレだって右も左も解らないフィールドを何度も死にそうになりながらここまで辿り着いたわけだからさ。でも、エギルさんの言うとおり、今は前を見るべき時じゃないかな?元ベータテスターだって・・・いや、元テスターだからこそ、その浅緑はボス攻略に必要なものなんだ。彼らを排除して、結果攻略が失敗したらそれこそ、何の意味もないじゃないか」

 

 さすが、これだけの人数をまとめあげただけあって、実に爽やかな弁舌だった。

 

「みんな、それぞれ思うところはあるだろうけど、今はこの第一層を突破するために力を合わせてほしい。どうしても元テスターとは一緒に戦えない、って人は残念だけど抜けてくれて構わないよ。ボス戦ではチームワークが大事だからさ」

 

 ぐるりと広場を見回したナイトは最後にキバオウを真顔でじっと見つめた。

 サボテン頭はしばらくその視線を受け止めていたが、ふんと盛大に鼻を鳴らすと押し殺すような声で言った。

 

「ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、キッチリ白黒つけさしてもらうで」

 

 振り向き、集団の前列に引っ込むと、エギルもまた、これ以上言うことはないとばかりにもといた場所へ下がった。

 結局詳細なボス戦略が練られることはなかったがそれも仕方のないことだろう。

 誰もボスの武器どころか顔すら見たこともないのだから。

 キリトやアリアなら知ってはいるだろうがここで言ってしまえばこの雰囲気が壊れてしまうだろう。

 しかも、今まで黙っていたことまで責められてしまうだろう。

 そうなってしまってはもう誰も手を付けられなくなる。

 それに元ベータテスター達の知識はあくまでもベータテスト時の情報なのだ。

 ベータテスト時の情報を鵜呑みにし、作戦を立て突入したが、ボスの外見も武器も攻撃パターンもまるで違いましたとなってしまってはどうしようもない。

 一応宿に帰ってキリトに参考までに聞くにしても結局確信を得るにはボス部屋に赴き、ボスを湧出(ポップ)させてみるしかないのだ。

 会議は最終的にディアベルのこの上なく前向きなかけ声と、それに応える参加者の盛大な雄叫びで締め括られた。

 俺とユウキはそれに応じたが、キリトは手を突き上げるだけ、アリアとキリトの隣にいるレイピア使いは叫ぶどころか手を上げることもしなかった。

「解散」の声が響く前にレイピア使いは音もなく身を翻し去り際に何かを呟いたが、その声は俺に届くことはなかった。

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