仮面ライダーシンフォギア   作:tubaki7

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第九話 重なる鼓動

 けたたましく鳴り響くサイレンと、それに呼応するかのように聞こえてくる悲鳴。ノイズ発生を知らせるそれらの音は、奏太の耳にもしっかりと届いていた。いち早くその存在を察知し、現場へと急行する。アクセルを噴かし、フロントカウルからサイレンを鳴らす。緊急車両として扱われている為、目の前の信号が赤であろうと全速力で通過していく。幾つもの交差点を疾走し、ノイズの群れが見えたところでベルトを出現させてディスクを手に取ったその時。聴こえてきた音に、奏太はブレーキをかけて止まる。直後、頭上を無数の青い光の刃が通過してノイズに突き刺さった。炭素分解されその存在を崩壊させるノイズ。

 

「風鳴!」

 

 ギアを纏った翼が上空から降下してきて、ノイズを射抜いたのだ。仕事の打ち合わせから二課の所有する専用ヘリに乗りやって来たらしい。

 

「ここは私に任せて、貴方は立花の方に行って。あの子の方にネフシュタンの鎧がいる」

「・・・へぇ」

 

 含みのある返事に、翼は訝しげに見返す。

 

「何よ」

「いンや、素直になったなと思ってさ。じゃあここは頼んだぜ、()

 

アクセルを操作して、その場でターンして響のもとへと向かう。翼が去りゆく奏太の方に意識を向けた時には、もうその背が小さくなっているのをチラリと目にして不意に、笑みが零れた。そうか、少しは私も変われたのかという実感と名前を呼ばれたことへの嬉しさに、胸が熱くなる。今ならば、負ける気がしない。この有象無象の災悪を薙ぎ払い、一筋の煌きと化す己を刃と顕す身である彼女の心中で、負ける気がしないという時は如何なる闇も、その淵に落すことさえ叶わない。

 

 故に、防人は。

 

「さて、聞いての通りこの場は私が抑えることとなった。・・・我が刃、そう易々と手折れると思わない事だ」

 

 愛刀を構え、戦場を駆けた。

 

 

 

 

  ♪

 

 

 

 

 眼下に広がる森林、木々が邪魔して目視することはできないが、それでもあの中に親友がいることはわかる。動けない自分を庇い、自ら秘密を明かしてしまった彼女の、黙っていたことへの罪悪感と知られてしまった時の絶望が入り混じった横顔が、今も焼き付いている。隠事をしていたことへの苛立ちと、助けてもらったことへの感謝と。それでも、前者が勝ってしまう自分への嫌悪。全てが、小日向未来の躰を縛っていた。その場から動くことができず、ただ聴こえてくる轟音と時折見える光を感じることだけだった。

 

「小日向ッ!」

 

 そんな彼女の耳に轟音以外の音が届く。エンジン音が近づいてくるのと共に、その姿は大きくハッキリと見えるうになっていた。ボディの天井部分がベコンとへこんだ車を観て何かを察したのか、彼は小さく溜息をつく。バイクを近くに停車させ、降りて未来に駆け寄る。腰が抜けた状態で、ガードレールを支えに身を乗り出す形でこちらを見て居た。奏太がヘルメットを脱ぎ、額から汗を流しながら未来の安否を確認する。

 

「ケガは無いか?」

「う、うん。・・・ねえ奏太君、響は・・・響が・・・!」

 

 何を言いたいのかは、言わなくても解る。ただ、言葉が纏まらないからなのか、はたまた混乱しているからなのか。聴こえてくる〝音〟からは、彼女の混乱だけが伝わってきた。

 

「・・・見た、のか」

 

 その問いに未来はゆっくりと頷く。「そうか」と一言零せば、その事から全てを察した未来の顔がまた影を強める。自ら秘密をカミングアウトした奏太とは違い、響は二課からの強い要望でシンフォギア装者であることを秘密にしてきた。情報漏洩を防ぐ為とはいえ、彼女の性格上かなりのストレスだったのかもしれない。それと同じように、未来もまたショックだったんだろう。

 

  じゃあ、私達の間で隠し事はナシにしよう。

 

 いつだっただろうか、そんな約束したのを今でも覚えているし今までずっと守ってきたこと。それがこんな形で崩れるとは、誰が予想できようか。

 

「おっちゃん、民間人を一人保護した。・・・響の親友なんだ、助けてやってほしい」

《わかった。今緒川をそちらに向かわせている》

 

 救助が向かっていることと、それが誰なのかを聴いた後の奏太の思考に迷いはなく。ここで待っているよう未来に伝えると、響がたたかっているであろう場所に向かおうと立ち上がる。しかしそんな彼の手を、まだ躰の震えが止まらない未来が今にも泣きそうな表情で見上げていた。まるで、行かないでと言わんばかりに。

 

「・・・大丈夫だ。直ぐに救助が来る」

 

 安心させるよう優しい声で努めて言い聞かせる。だが未来は首を横に振った。

 

「響は必ず俺が守る。それからは・・・自分で決めろ。どうするか、どうしたいか」

 

 未来から目線を外し、濛々と立ち上る煙を見上げる。また一つ、衝撃と共に爆音が鳴った。それを見ながら、言葉のみを未来に向ける。

 

「どう、したいか・・・」

 

 繰り返された言葉を聴き、奏太は手を放し、今度は振り返りその手を座り込む少女の頭にそっと乗せた。

 

「約束だ。どんな事があっても、響は必ず連れてくる。だからお前は、待っていてくれ」

 

 それだけ言い残し、奏太はバイクに跨りヘルメットを被る。エンジンを起動させ、車体をドリフトターンさせてガードレールの方へと頭を向ける。その場で数回、アクセルを吹かす。後輪が高速で空転し、ギアをチェンジしてブレーキを放す。直後、車体はグン、と前へ走り出しガードレールを飛び越えた。重力に従って落下する最中、ベルトを瞬間装着し変身の為のディスクをバックルに装填。

 

「変身ッ!」

 

 その声と共にバックル上部のつまみを左にスライドさせ、奏太の躰に青いラインが走る。眩い光に包まれ、次の瞬間には彼は異形へと変身を完了した。

 そして、変化はそれだけではない。彼の新しいマシンもその姿を変える。ライトグレーだった部分は純白へと変わり、モニターには【CHANGE】の文字が。普通であれば、絶対にただじゃすまないであろう高さから落下したにも関わらず、車体は無傷。それどころか、より力を増したかのようにその姿は雄々しく、美しくすら見える。アクセルの唸り。枷を放てば、騎馬が雄叫びをあげるが如く前輪がグインと上がり、地面に着く。それと同時に、彼は風となった。離れたところで戦う、今は友と呼べるほどに距離感の近くなった少女のもとへと駆ける。一筋の白き風となった少年は、道なき道を進んでいく。近づくにつれて大きくなる〝音〟に若干の焦りを覚えつつ車体を右に左に操作し、時に朽ち、倒れている巨木を飛び越えてを何度か繰り返して、奏太はたどり着く。今にも衝突しそうになっていた響と〝ネフシュタン〟の少女―――雪音クリス。二人の間に割って入り、ターンして停車した。

 

「ソウ君!」

「へッ!獲物の方から舞い込んでくるなら好都合ってもんだ」

『・・・ったく、派手にドンパチやりやがる。トバッチリ喰らう人間がいるってのも考えて欲しいんだがな』

 

 溜息と悪態をついてマシンから降りる。その際スタンドを降ろしその場に立たせ、響の方へと歩み寄る。

 

「ソウ君、私・・・」

 

 声色が、少し沈んでいる。それだけで彼女が何を言いたいのかを理解した奏太は、クリスから目線を外さずに言葉のみを向ける響の頭にそっと手を置いた。

 

『解ってる。だから終わったら、話すんだ。オッサンとかは・・・まあ、俺がなんとか言いくるめる』

 

 それぐらいしかできないからな、と締めくくり、構える。

 

「最後のお別れは終わったか?噂の仮面ライダーさん」

『その名前、割と気に入ってんだ。アンタみたいな綺麗な声に名前呼んでもらえるんなら、嬉しい限りだぜ』

 

 煽るような口調。仮面で見えないが、実際は中でニヤリと笑っている。表情が変わらない言葉程説得力はない、だからこそ表情まで変える。相手に伝わるように。奏太の狙い通り、クリスはそれに乗ってきた。

 

「なっ、なななな、何言ってんだテメェは!?戦場で色づいてんじゃねェッ!」

『色・・・そんなにカラフルか俺?』

「白と青だけど・・・」

「そーいうことじゃねェ!だああああッ!埒があかねェ!こうなったら、まとめて閻魔様に謁見だッ!」

 

 鞭を操作し、フォニックゲインを集め光球を作る。それを二人に向けて投げた。威力は高いが、幸いな事に動きは遅いしモーションも大きい。何度か交戦しているだけに響と奏太がそれを見切れない道理はなかった。左右それぞれの方向に跳んで躱し、奏太が着地と同時に踏み込んで拳を突き出す。クリスはそれをガードして受け止め、流し、バランスを崩したところへ後ろ蹴り。よろめく奏太に変わり、今度は響が。

 

「しゃらくせェ!」

 

 鞭を盾に使い、響の攻撃を防御。しかしそれにより響に意識が逸れた事がいけなかった。奏太の蹴りがクリスの背中を直撃する。吹っ飛ぶクリス。近くの木に激突し、地面に倒れた。それを見て響が「うわぁ・・・」と声を零す。

 

「大人げない・・・」

『何言ってんだ。こっちは命のやり取りしてんだ、相手が美少女だろうがアイドルだろうが俺は顔面をおもっくそぶん殴るぞ』

「酷い、この人酷い」

 

 やいのやいのとやり取りをする二人を、朦朧とする意識を繋ぎ留めながらクリスは立ち上がり睨む。この期に及んでも、まだ此奴らは戦いの空気というものをぶち壊すのか。イライラする。段々と、クリスの苛立ちが沸点の限界を迎えていた。それを表すかのようにギリッと歯ぎしりをするのが見えた。

 

「コイツ・・・ちょせェ!」

 

 鞭を振るう。今度は先ほどの速さとは比にならないほどの速度で宙を駆ける。今一度左右に別れて跳んで躱すが・・・・それが判断ミスだったと、直ぐ思いしることになる。

 

「かかったな!」

 

 急に軌道が変わり、その脅威は響へと向かう。狙いは、オンサセイバーのような特殊武装のない響。最初から彼方がメインだったらしい。にやりと、相手の口角が上がる。このまま易々とやらせるわけにはいかない。

 

『ンなくそがァ!』

 

 先に地面に着いた右足に力を入れ、バネの用量で無理矢理響の方へと跳ぶ。半ば強引な形になってしまった為一瞬痛みが走るが、そんなことはどうでもいい。目の前を走る鞭、それを力任せに両手で握れば、蛇腹のよう連なった形状の刃に掌を斬られる。なんとか止める事には成功したものの、激痛にマスクの下で顔を歪める。

 

「なんて無茶しやがる!?」

 

 奏太の咄嗟の行動に驚愕するクリス。それが隙を生んでしまい、掴んだまま鞭ごと引き寄せられそのまま木に叩きつけられる。しかし、痛みによりさほど強くは引っ張れなかったのか。さっきのように肺から空気が押し出されるなんてことはなく、すぐさま立ち上がることができた。

 膝をつき、痛みを和らげるかのように声をだす奏太。そんな彼に、響が駆け寄る。

 

「ソウ君!」

『大丈夫だ・・・ッ』

 

 痛々しい光景に、響の顔から若干の血の気が引いた。表情を暗くし、自分を責めているかのようにも取れる彼女の顔に、溜息を吐きつつデコピンを一発お見舞いしてやる。加減はした。バチン、と乾いた音がした後、再び立ち上がる。

 

『誰もおまえのせいなんて思っちゃいねーっつの。無茶やったんだ。その結果がコレで、おまえが無事ならそれでいい。コイツと話、まだ済んでないんだろ?』

 

 あくまでも、自分のやりたい事を理解した上で手を貸してくれる奏太の言動に、響の顔にまた元の明るさが戻ってきた。そう。自分は戦いに来たわけではない。彼女が抱える、その胸の内を知りたいが為の行動。その為の言葉。

 

 その為の、自分のアームドギア。その意味。理解している。やりたい事を全力でできるよう、サポートしてくれる人がいる。少しの心の傷は、今はまだ胸の奥にしまって。この不器用な優しい温かさに、鼓動が高鳴る。気持ちが昂る。やれる。この人と一緒なら、なんだってできる。そう響を奮い立たせる。

 

  そして、その鼓動はやがて・・・・繋がる。

 

 二課司令室、そこに新たなアラートが鳴った。警報ではない。これは・・・・アウフバッヘン波形を検出した時のものだ。響の胸元にあるコンバーターとベルトの左側に下げられた三枚の内、一枚のディスクが黄色に輝いている。これが櫻井了子の用意した、奏太の―――仮面ライダーの、新たな力。だが彼の持つベルトは聖遺物ではないし、了子の渡したディスクもまた同じ。アウフバッヘン波形が出る筈もない。

 しかし、現にこうして出ているのは何故か。そこで弦十郎は彼女の言っていた言葉を思い出す。

 

 ―――奏太君の持つ不思議な力。それがきっと、このアイテムを役立ててくれる。

 

 工藤奏太の持つ、常人には無い力。他人の心を〝音〟という概念として、見聞きする事ができる。それが仮に、フォニックゲインに作用するものだとしたら・・・・。

 

  他人と繋がる力。それがもたらす物。

 

『なんだかよくわかんねーけど、とりあえずやってみるぜ!』

 

 ディスクをホルダーから引き抜き、バックルを開く。変身するために使用したディスクと入れ替えれば、待機音が流れる。

 

【モジュレーション!】

 

 変身する時と同じように、今度はバックル上部のつまみを反対側にスライドさせ、バックルが閉じる。

 

【ユニゾン!ガングニール!】

 

 音声が流れると同時に躰を走る青いラインが黄色く変化し、見た目も響のギアに近くなる。が、足の装甲は白く、マフラーのようなものが巻かれている。複眼は赤に変わり、新たな変身が完了したかのように発光した。

 

『行くぞ響。これが、俺とおまえの力だ』

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