仮面ライダーシンフォギア   作:tubaki7

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第十話 絆の代償

 繰り出した拳が対象を捉える。一見して愛くるしい外見からは想像もつかないほどの殺傷力を秘めている異形ではあるが、それもこの姿の前では意味を成さない。矢のように飛んでくるそれらを蹴りと拳による打撃で打ち砕いていく。

 

  歌が、聴こえる。彼女の鼓動の高揚が伝わってくる。熱い。だが悪い気はしない。ばら撒かれたノイズを炭素に変えながら、奏太は内に漲る力を確かめるように拳を握る。

 

『力が溢れてくる・・・・負ける気がしねェ!』

 

 その一方で響もまた、奏太と同じ感覚を抱きながら戦っていた。弦十郎との修行で体得した戦闘スタイル。体術による直接的な打撃と、フォニックゲインをさながら気の波動のようにして打ち出す、〝八卦〟。これらを駆使し、いまだ粗削りながらも完全聖遺物である〝ネフシュタンの鎧〟相手に互角の戦いをみせていた。

 

「躰が、心が、ビックリするほど軽い・・・・!」

 

 驚きつつも、こみあげる温かさに響はその身と心を委ねる。あの〝デュランダル〟を起動させた時とは、真逆の感覚。あえて言葉で表現するならこれは・・・・そう。

 

「こんなにも温かいんだ。人の作る温もりは・・・・」

 

 ふと、少し離れた場所で、自分と似た姿で戦う奏太に目を向ける。その視線が、重なった気がした。仮面でその奥の表情まではわからないが、此方を見た時、確かにそんな感じがして響は微笑む。

 

「よそ見・・・してんじゃねェ!」

 

 クリスが咆える。怒号と共に打ち出された光弾はそれまでの物とは比べものにならない程に大きい。

 

「そんなに楽しいかよ・・・・力があるってことが、強いってことがそんなにッ!」

「ちがっ、私は―――」

「違わないだろッ!・・・・そんなモノ、みんなあたしが・・・ぶっ壊してやるッ!」

 

 迫りくる攻撃。規模からして、躱しきれるようなものじゃない。かと言って、防御の上からでも確実に持って行かれるであろうそれは速度は緩めでも、充分すぎる脅威だ。

 

 だが、それでも響の内にこみ上げる温度に変化はない。

 

 肩に添えられた手。視線を上げれば、隣には彼の姿が。やれると、言ってくれている。そんな気がして、響は強く頷いてガントレットのシリンダーを引き上げる。奏太もまた、ベルトのスイッチを押した。

 

【フィナーレ!】

 

 響が右腕を、奏太が左腕をそれぞれ構える。心に響く歌に乗せ、二人は構えたそれを力の限り振りぬいた。着弾。眩く光が迸ったかと思えば、一瞬にして消え、四散する。

 

「そんな・・・・こんな、こと・・・!」

『今だッ』

 

 狼狽えるクリス。大きな隙が生まれた事を好機に、奏太が踏み出す。後少し・・・・その拳が届く刹那、彼女はほぼ無意識の内に口を動かしていた。聴こえてきたのは―――悲しき声。その音が、奏太を踏みとどまらせる。そのまま行けば届いたはずの拳は、彼女の胸の前で寸止めされる形で制止してしまっていた。直後、鎧が弾け飛び、彼女の〝音〟が変化する。そしてそれは、二課の司令室にも届いていた。

 

「・・・鎧を起動させるほどの強いフォニックゲイン。あの時から引っかかってはいたが・・・・やはりそうか」

 

 ―――魔弓〝イチイバル〟。

 

「・・・・わせたな」

『・・・?』

「このあたしに、歌を歌わせたなッ!?」

 

 俯いていた顔をあげれば、そこに在ったのは涙で濡れた頬と、薄赤く染まった目元。

 

『おまえ・・・・泣いてるのか・・・・?』

「ッ!・・・・見たな・・・・あたしの恥部を・・・・ッ!」

『ハア!?』

 

 言葉通りの意味で受け取った奏太は仮面の中で赤面する。そしてそれが隙となり、クリスは手にしたハンドガンの銃口を腹部に突きつけ、引き金を引く。オートで放たれる弾丸の威力は普通の銃とは比較にならないほど大きい為、変身していても怯むことはある。それが一発ではなく数発なのだから、後退してよろめき地に膝をつく。駆け寄る響。硝煙の立ちのぼる銃口、それと同じように奏太の方からも腹部から煙があがっている。ボディに当たり火花を散らした為だ。ダメージを負った腹部を左手で押さえながらも、右の拳は構を解かない。庇うかのように寄り添う響は視線をクリスへと向けた。赤く腫らした目。涙を流しながら引いた引鉄は、彼女の心象を映すかのようにカタカタと震える。

 

「ソウ君・・・・サイテー・・・」

『お前までそんな目で見るな!というか、負傷した人間にかける第一声がそれかよッ』

 

 抗議の声をあげるも痛みで「うっ・・・」となってしまう。

 

「奏太、立花!」

 

 そこへ遅れて漸く翼が到着する。これで、戦力差は三対一。苦虫を噛みしめたような顔で此方を睨むクリス。流石に分が悪いと思い撤退しようとした、その時。周囲に散らばっていた、先ほどまでクリスが纏っていた〝ネフシュタンの鎧〟が突如光の粒子となって宙に舞い始めた。その粒子が、今度はまるで座れるが如く一か所に集まって行く。その先には、大きな黒い帽子と、帽子と同じく黒いドレスを着た薄い金髪の女性の手のひらへと吸い込まれていった。何が起こっているのかと困惑していると、クリスが声をあげる。

 

「フィーネ!」

 

 フィーネ・・・・それが黒幕らしい。

 

「クリス・・・貴女はもうちょっとやれる子だと思ってたけど、期待外れもいいとこね」

 

 フィーネと呼ばれた女の一言で、クリスがワナワナと震えだす。彼女の一言が心の傷を抉ったのだろうか、その震えはまさに〝恐怖〟からくるものだった。クリスの心象風景に触れた奏太には、フィーネから言われた言葉がどれだけ彼女に対してダメージになっているのかがわかる。一言二言言葉を交わしているが、その内容が頭に入ってこない。何故かクリスに撃たれた辺りから、どうも視界がぶれる。大したダメージは入っていない筈だが、段々と躰の疲労が増している気がする。

 

「フィーネッ!」

 

 クリスの悲痛な叫びでハッとなる。どうやらフィーネは逃げたらしい。ただし、クリスを捨てて。

 

「クリスちゃん・・・・ッ、ソウ君!?」

 

 突如変身が解け、その場にうつ伏せで倒れる奏太。額には汗が浮かんでおり、着ている服もびっしょりと濡れている。普通じゃない、この異変に慌てふためく響。翼も駆け寄り、容体を確かめる。

 

「熱が高い・・・司令!」

 

 ギアに内蔵されている通信機で二課の本部へと連絡を取る翼。その隙をつき、クリスはその場から消えるように立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 携帯のバイブレーションが作動し、ポケットの中で震える。内容は、つい最近交流を持った女の子の友人であり戦友。三日前に疲労熱で

 

倒れた後に病院に運び込まれ、目を覚ました時には困ったように乾いた笑みを浮かべていた。

 

  未来と、喧嘩しまして。

 

 わかっていた事ではある。やはりこじれたと頭を抱えたが、事態は予想していたよりも深刻らしい。今こうして、カウンターに座り目に見えて落ち込んでいる顔でジッと鉄板の上のお好み焼を見つめている。

 

「・・・・食べないと焦げるぞ」

「え・・・あっ、ああ!」

 

 慌てて食べだす未来。奏太から言われるまで完全に上の空で、自分が注文したものさえ気づいていなかったようだ。

 

「気持ちはわかる。嘘ほど、残酷なものはないからな。けど、それが本気の嘘なら・・・・少しは、許してやってもいいんじゃないのか」

「・・・・わかってます。でも・・・私は・・・・」

 

 その続きは、言葉にされることはなかった。ガラッと開いたドア。外は雨で客も未来しかいない店内に、思わぬ来客が訪れる。銀髪の癖毛をツインテールで縛り、濃い紅色のワンピースを着た少女。敵として戦い、傷ついた彼女。

 

「雪音、クリス・・・!」

「・・・おま、え・・・・」

 

 奏太の驚愕を最後に、クリスはその場に倒れた。

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