仮面ライダーシンフォギア   作:tubaki7

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第十二話 少女たちの青春

「変身ッ!」

 

 少年がそう叫べば、腰に巻かれたベルトから青いラインが全身を走り、光り輝き姿を変える。駆けながら握る刃を構え、すれ違いざまに一閃。炭素となって消えた災悪を確認するような事はせず、目の前に群がる異形に向かって力を振るう。そんな様子を、バイクのタンデムシートにまたがりながらただ眺めていた。つい数日前までは命のやり取りをしていた相手に守られているというのは、何とも不思議な感覚だ。

 

『次はコレを試すか』

 

 大方の殲滅を終えると。左の腰から下げているホルダーから青い掌サイズのディスクを手に取る。形からして、一昔前のMDディスクのような外見をしたそれは、クリスも見覚えがあった。自分の時に使っていたのは、たしか橙色だった筈。ベルトのバックルを展開し、ディスクを差し込んで閉じる。

 

【ユニゾン。天羽々斬ッ!】

 

 和テイストの音楽と共に装甲が変化する。ラインは一層深い青へと変わり、風鳴翼のシンフォギアである〝天羽々斬〟のようにすらりとした外見へと変わった。脚部から射出された柄を右手で握り、元々持っていた剣とで二刀を構える。踏み込んで、突っ込んできた一体を右で切り払えば、もう一本で斬撃を飛ばす。三日月形に跳んでいった青い軌跡はノイズを炭素化させ、続く刃の軌道が残りを切り刻んでいく。天下無双、まさにそんな言葉が浮かんでくる程にその立ち回りは圧倒的だった。やがて全てのノイズを片付けると、元の姿へと戻りこちらに戻ってくる。

 

「アタシが出ればもっと早いだろ」

 

 ムッとした顔で奏太を迎えるクリス。ここの所、ノイズとの遭遇戦は全て奏太一人でカタを付けている。その為彼女があの日以来シンフォギアを纏う事はなかった。

 

「アンタがギアを使えば、その反応があっちに伝わって色々ややこしいことになるだろ」

 

 渡されたヘルメットを被りながらそう返す。

 

「だったらなんで・・・」

 

 追い出さないんだよ。そう言いかけたところで感じた頭部への衝撃。コツンと小突かれたことで少しよろめく。

 

「ンだよ」

「アンタにもしもの事があったら小日向に泣かれるからな。そうなればアイツも笑わなくなる。それが嫌なだけだ」

「・・・そこは嘘でもあたしの為とか言うところなんじゃないのか?」

 

 言ってしまったと気づいた所で、クリスにはその事実を覆す術などない。かといって表面に出すのはプライドが許すまいとあくまで冷静を装い相手の反応を待つ。出てしまった言葉には流れ的に考えれば間違えてない筈だと、自分の中に辛うじてある世間様のジョーシキという奴を摘まみだす。こういう時、男は決まって女にそういうもんだと誰かが言っていた。

 

 さあ、どうだ。そうやって反応を待っていると、目の前の少年はきょとんとした顔でこちらを見ていた。言われたことが意外だったのだろう。これはこれでちょっと仕返しをしてやった感じがして内心でしてやったりと笑みを浮かべた。

 

「もしかして、そう言ってほしかったのか?」

「なわけねーだろ。こういう流れになったら、男はそう言うもんじゃねえのかよ」

「そんなお決まりのセリフ言っても寒いだけだろ。それに、アンタがどうするかはアンタ自身が決めることだしな。行きたきゃ行けばいいし、ここに居たきゃいればいい。強制はしない」

 

 からかうような笑みで相手を横目で見た後、そう答える奏太に少し納得のいかないような顔でムッとなるクリス。言った通り、別段そんなことを言ってほしいという事ではないが、本人も気づかないうちにそこは心の中で期待していた節があったのかこのような言葉を口にしてしまう。本心では、寂しいと思っているのだろうか。それはもはや、クリス本人でもわからない事である。

 

「・・・ま、まあ。飯はうめえからしばらくは居てやるよ」

「なんでそう上からなんだよ・・・」

 

 素直じゃない。そう溜息をつきつつ、奏太は愛車をもう一度走らせた。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

「ハァ・・・」

 

 壮大な溜息と共に机の上に付す。普段ならそんな彼女を仕方のない子だといった母のような顔で眺める相方がいるのだが、あいにくとその少女は今日登校していない。寮生活で、同室の響でさえも理由を聞いたら病欠と苦笑いで曖昧に返すだけ。二人の普段の仲の良さを知っているクラスメートからすれば、それが如何に普通じゃないかを知ることができる。

 

 とどのつまり、夫婦喧嘩勃発。犬も食わないとは言うものの、心配なことは心配だ。だからこそ、弓美ら三人は響の周りに集まった。

 

「どうしたのさビッキー。浮かない顔してさ」

「今朝からずっとですわよ?」

「もうおとなしく喧嘩しました~って言えばいいじゃん」

「そーだけどぉ・・・そう言っちゃうと、つくづく現実を打ち付けられてる気がして嫌なんだよぉ」

 

 覇気がない。いつもの響の姿からは想像もつかないほどに今の彼女にはあの鬱陶しいまでの明るさが失われている。それほどまでに未来との間で溝が生じてしまったという事だろう。どうにかできないものか・・・そう考える三人。ややあって、創世が何か思いついたかのように手を叩く。

 

「それならさ、きっとふらわーに居ると思うよ」

「ふらわーにですか?」

「うん。ヒナ、なんだか最近頻繁に出入りしてるみたいだし」

 

 未来が頻繁にふらわーに居る。その言葉で響は少しの引っかかりを覚えて付した体勢から少し顔をあげる。またあの感触・・・胸のあたりがキュンと締め付けられるかのような感覚だ。よくわからないモヤモヤとしたものを抱えつつ、それでも響は未来の、最後に見た彼女の哀しそうな顔を思い浮かべる。話がしたい。今度こそちゃんと、自分の事を言おう。きっと沢山怒られるかもしれない・・・それでも、そんな事よりも、このまま未来とすれ違ったままなんて嫌だと。何よりも、大切な親友を想う心が彼女を突き動かす。

 

 時計を見れば、すでに今日の課程は終業時刻を過ぎていた。

 

「みんなありがとう!私、未来と話してくるッ」

 

 鞄を肩にかけ、一目散に教室を飛び出して行く響を見送りながらもホッと肩を下ろす三人。

 

「まったく、世話が焼けるわねあの夫婦も」

「ええ。それにしても創世さん、どうして未来さんがふらわーにいるとわかったんです?」

 

 それもそうだと弓美も詩織同様、創世を見る。

 

「え?乙女の勘・・・かな。あとは、ヒナってば最近ビッキーの話よりちょっと奏太君の話が多かったから、もしかしたらと思って」

「何々?そのラブコメアニメみたいな展開!」

「三角関係ですか・・・これはもう少し長くなりそうですね」

 

 なんでそんな楽しそうなんだ。クスクスと笑う詩織にそう言おうとしたが、何やら触れてはいけない気がして言葉をのむ二人だった。

 

 

 

  ◇

 

 

 

 気まずい。ただひたすらに、気まずい。鉄板の上には焦げる一歩手前のお好み焼き。その対面に座り、ただ虚ろに注文だけして鉄板を見つめている。会話はなく、イヤに店内BGMだけが響く。

 

「・・・焦げるぞ」

 

 しびれを切らし最初に口を開いたのは奏太の方だった。ふぇ、と間の抜けた声にならない声を出して鉄板を見れば、少し焦げた匂いのし始めたお好み焼きが。それに慌てて皿に取り分ける様子をみて、奏太は頭を抱えた。

 

「まだ喧嘩してんのか?」

「・・・うん」

 

 再びシュン、となってしまう未来。そんな様子を奥の方からおにぎりを片手に見つめるクリス。自分にもこうなってしまった一旦があるにはあるが、そこに首を突っ込むとさらにややこしい事になるので彼女なりに空気を読んで右手のおにぎりを頬張った。

 

「・・・・俺には、友達なんて呼べるような人間はいない。だから、誰かと仲直りしたいなんて事は考えた事もない」

 

 未来が攫ったお好み焼きの跡を鉄板を綺麗にしながら続ける。

 

「ただ、一つだけわかるのは、伝えられる相手がいる内は言えることがあるなら言っといた方がいいぞ」

 

 奏太の言葉を受け、未来は響の笑顔を思い浮かべる。確かに彼女は未来に対して隠し事をした。互いに秘密は無し、隠し事は絶対にしないという約束を破った。だがそれは自分も同じだ。彼女に言っていない事がある。なのにどうだ、響は未来を守るために嘘をつき続けた。危険に巻き込むことをしたくなくて、ただ日常にいてほしくて。なのに・・・嘘をついたというその一点にのみ憤激し、こうして顔を合わせるのさえためらっている。

 

 ・・・・バカだな、私。

 

 皿に乗っているお好み焼きを食べる。焦げてて、ちょっと苦い。それでもソースとマヨネーズが緩和してくれているから、ある程度無視して食べられる。ただひたすらに、自分とあの子の好きな味を黙々と食べ続ける。それを見て何かを感じ取った奏太は、溜息を一つついてウーロン茶をそっとコップに注いで傍らに置いた。直後、コップを手に取り最後の一口を液体と共に流し込む。口に中をすっきりさせて、一息。

 

「次は二人で来いよ。アンタ一人だと、つい作りすぎちまうからな」

「私、こう見えて結構食べれるよ?」

「おいおい、まさか一人であと9枚も注文するってのか?」

「それは響と二人で来た時にする。・・・ありがとう奏太君」

 

 吹っ切れたような笑顔でそう言う未来に、そっけなく返す奏太。

 

「今度ジュースの一本でも奢ってもらおうか」

「あははは・・・それはさせてもらうね。えっと・・・クリスも」

「なんであたしまで?」

「クリスと会って、色々考えたの。響の事とか、今起きてることの事とか。その切っ掛けになったから。だから、かな」

 

 わけがわかんねぇ。そう言うように首を傾げるクリスに笑みで返し、財布から代金を出して奏太に渡す。

 

「ごちそうさま」

「おそまつさま」

 

 入ってきた時とは逆に軽い足取りで店を出て行く未来。

 

「ソウ君も成長したねぇ。あの子、見違えたような笑顔だったよ」

「身長は多分伸びてると思うよ。んじゃ、俺休憩入るから。あとはクリスよろしく」

「おう!・・・・って、ハァ!?」

「働かざるもの食うべからずって言うだろ。後は頼んだ」

 

 エプロンをクリスに渡して店の裏から出て行く奏太。曇っていた空には、少しの晴れ間が覗いていた。

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