仮面ライダーシンフォギア   作:tubaki7

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第二話 命の価値、奇跡の対価

 どうしても納得のいかないものは、とことん突き詰める。そして自分が納得できる結果になるまでとまることはしない。これは、一つの物に集中している時の親友の様子を少女、小日向未来が立花響を評価した結果だ。しかし親友を物差しで測るようなことは無粋なため、彼女自身そういったことは嫌っているものの抱いた印象、と言うには少し言葉が違う気がしてのことだ。

 

 今、響は悩んでいる。どうかしたのかと聞いてみれば、返ってきた返答はかなり意外なものであった。

 

「男の子と話すときの話題って、どうすればいいんだろう?」

 

 絶句した。あの、響に。あの、男の子のおの字もその気がなかった彼女の口から、男子との会話はどうすればいいかと聞かれたのだ。これには長い付き合いの未来も、そして入学して以来仲良くなった友人三人も含めて開いた口が塞がらなかった。

 

「・・・えっと、ビッキー大丈夫?」

 

 ショートヘアの、五人の中でも比較的慎重の高い安藤創世(くりよ)がなんとかその衝撃から思考を持ち直しこのビックバンにも似た爆弾を放り込んだ響に問う。・・・いや、むしろ心配といった方がいいだろうか。

 

「む、私はいつだって元気100倍だよ?」

「その元気が今日はおかしいんです。特に、今は」

 

 そう言ってため息をついて脳内整理をつけた肩まである内巻きの髪をした、どこか気品のある少女、寺島詩織が言う。おかしいと言われ首を傾げる響だが、本人にしてみればいたって普段通りなのでこの異常に気付くはずもなく。

 

「まさか響の口から男子との接し方を相談されるとは・・・ハッ、もしかしてアニメみたいな展開で登校中にパンくわえて、曲がり角曲がったらドーン!とか?」

 

 ありえる、なんて結論をありえない角度で出してきたのはツインテールの板場弓美だ。そんな非現実的なと思いつつも響のことだ、やりかねないというのが未来を除いた三人の見解である。が、いつも未来が一緒なのだ。それはないという結論に至るものの、それでも響が男子と接触する機会などそれこそ稀にしかない。教師は男の子というキーワードなので論外。そして彼女らが通うこの私立リディアン音楽院高等科は女子高なのでまず学園内のことではない、そのような観点から考えられることは、ただ一つ。

 

「もしや、ビッキーがナンパされた・・・!?」

「嘘!?もしかして、それで昨日あんなに遅かったの?」

 

 ジト目、というよりは半分睨んでいるようにも見える。そんな未来の視線にさらされたのが効いたのか、どこか上の空だった響は弁解をする。

 

「いやいや、私がナンパなんてありえないってば。ただ、昨日は、その・・・ノイズに追いかけられまして」

「ちょ、それ大丈夫なの!?」

「大丈夫大丈夫。だけど、逃げ回ってたらいつの間にかしらないところにいて・・・それで、たまたま通りかかった人に道を聞いたら親切に案内してくれたんだ。で、仲良くなったんでメアドを交換して―――」

「キャーッ、ちょっとちょっと、なにそのラブコメみたいな展開!?やっぱアニメみたいなことって現実にあるものなんだ!」

「いえ、それは違うかと」

 

 冷静にツッコミを入れる詩織は凄いと思う。と、創世は内心感心する。この子のテンションは偶に処理しきれないことがあるからこんな風にサラッとできる人材は彼女にとっては貴重なのだ。

 

  それはそれとして。

 

「でもなんか意外。響がそんなに悩むなんて」

「うんうん。ビッキーって当たって砕けろ精神だと思ってた」

「うーん、肯定していいような、ダメなような・・・?」

「ま、まぁ、響にもようやく春が来たってことでいいじゃない」

 

 そういうものだろうか、と首を傾げて苦笑する詩織。

 

「で、で!その男の子ってどうなの?かっこいいの?かわいいの?」

「ん~・・・どっちかっていうと、不良?」

「響、ちょっと話があります」

「え、え?」

 

 困惑する響を余所にグイグイと腕を引いていく未来。あぁ、これは長いなと思うも誰一人彼女を宥めようとするものはおらず、三人揃って合掌し心の中でエールを送る。

 

 強く生きろ、と。

 

 

 

 

 ♬

 

 

 

 

 お好み焼屋〝ふらわー〟。商店街の中にある学生だけでなく、仕事帰りのサラリーマンの憩いの場でもあるこのお店は味良しサービス良しの良店である。

 

「ふわ~・・・」

 

 そんな良店で、欠伸をする少年が一人。髪は褐色、目は青。それなりに整った顔立ちではあるが、纏う雰囲気がそれを全て台無しにしているという残念な少年だ。

 

「あらソウ君、寝不足かい?」

「あ・・・ごめんおばちゃん。昨日ちょっと野暮用で」

 

 そう言って欠伸と眠気をかみ殺す。仕事する気あるのかと昼食中の常連客に茶化される。うっさいと憎まれ口を叩き叩かれながらもきっちり仕事をこなす辺り根は真面目な子だなと店主である金上花子は微笑ましく思い、気づかれないよう笑みを浮かべた。

 

「―――でね、その時先生が・・・」

「いらっしゃいませー・・・」

 

 いつもの調子で来店した客にお決まりの文句を声高らかに告げる。が、それを最後まで言い切ることなく、彼―――工藤奏太の声は徐々にデクレッシェンドしていった。

 

「あーッ!」

「・・・五名様、こちらの席にどーぞ」

 

 急にそっけない態度になった奏太に「あれ?」と首を傾げる。今まで同年代の子に遭遇してもここまで露骨な反応はしなかった。

 

「ここだったんだ、アルバイト先」

「・・・まあな」

 

 どうやら、原因はいつも人の三倍は食べる彼女にあるらしい。どうしたものかと軽く溜息をつく。

 

「学校はどこに通ってるの?」

「行ってない。通えるだけの金もないし」

「あー・・・」

 

 いきなりとんでもない地雷を踏みぬいた。響にとっては何気ない質問のつもりだったが蓋を開けてみたらとんでもないものだった。

 

「・・・ご注文は?」

「あ、は、はい。えっと、じゃぁ・・・」

 

 注文を取るなり、奏太はキッチンへとはけていく。それでようやく荷が降りたのか、一同は溜息をついた。

 

「・・・ねえ、今日流星群なんだよね?」

 

 空気に耐えかねた弓美が話題を振る。それに食いついた未来がうつむきかけた顔を上げた。

 

「う、うん。今日の夜で、寮もこの日だけは就寝時間も伸びてるから、響と一緒に見ようって話してたんだ。ね、響?」

「うん・・・」

 

 未来の言葉に相槌をうつ響。いつもならハイテンションな彼女だが、今に限ってはその笑顔がない。どうにも盛り上がらない雰囲気の中、次に切ってでたのは創世だ。

 

「そういえばさ、これ見た?」

 

 鞄の中からタブレットを取り出して操作する。こちらに見せてきたのは、某大型ネット掲示板の記事だった。

 

「謎のヒーローまたしても現る。闇夜に浮かぶ、白い光と赤い目」

「ノイズに対抗する唯一の希望・・・仮面ライダー?」

「何々仮面ライダー!?まさしくアニメ!」

「いやあれ特撮番組じゃありませんでした?」

 

 そんな会話で盛り上がる。ふと、その記事の中に自分のことが一切書かれていないことに響は気が付いた。あれだけ派手に暴れた揚句、目撃者がおり、ましてやこの写真を見る限り昨日のもの。こんな写真が撮られているのなら自分――――シンフォギアことも撮られているはずだ。それなのに、映り込んですらいないところを見ると昨夜の二課指令である風鳴弦十郎の言っていたことは本当だったんだと実感する。

 

 シンフォギアのことは国家機密。改めて、自分がとんでもない力を身に着けてしまったのだと実感する。

 

「ねえねえ、仮面ライダーってさ、変身ヒーローじゃん?ってことは変身してる人がいるってことだよね」

「そうだね。誰なんだろ?」

「きっと、屈強な肉体をした殿方ですよ」

「いや、案外普通な人かもよ?」

「響は、どう思う?」

「んー・・・」

 

 さて、困ったことになった。何せその話題の中心人物は今キッチンで注文の品を準備している奏太なのだから。ここでヘタなことは言えない。あたりさわりのないことを言えばなんとかしのげるだろう。

 

「えっと、多分だけど・・・・不器用な人、かな?」

「何?それ」

「あはは、私もよくわかんないんだけど、なんかそんな感じするんだ。乙女の勘ってやつ?」

 

 「何それ」と笑いあう。ここでようやく空気が和んだところに奏太が品を持ってきた。

 

「はいよ。いつもは焼いてやれっけど、今はこんなだから自分で頼むわ」

「ねえ、貴方はどう思う?これ」

 

 そう言って弓美は奏太に仮面ライダーの記事を見せる。それにあわわとなる響だが、奏太は少し考える素振りを見せたあと、口を開いた。

 

「・・・そうだな。こんな風にできたら、そりゃかっこいいだろうな」

「うんうん」

 

 満足そうに頷く弓美。アニメなどのサブカルチャーが大好きな彼女だ。共感できるのが嬉しいのだろう。

 

「でも」

 

 しかし、奏太はそれに否と答える。

 

「当の本人は、そんなこと微塵も思ってないだろうぜ」

「それは、なんでですか?」

「戦うってことはさ、自分の命を危険にさらすってことだろ?多分、仮面の下じゃ必死だろうぜ。怖いってな」

 

 まるで、皮肉のような。それでいて嘲笑うかのような感想にむっとなる弓美。

 

「わかってないなぁ、ヒーローっていうのはいついかなる時も不屈の精神で戦うんだよ」

「ヒーローだって人間なんだ。そんな幻想抱いたところで現実はそう簡単じゃない」

 

 一触触発――――とまではいかないまでも、気まずい雰囲気に戻ってしまったことに変わりはない。どうにかしてこの空気を変えなければと思考する四人のところに、助け船が。

 

「コラ、そういうネガティブなことばかり言ってると益々難しい顔になっちゃうわよ?」

 

 後頭部の衝撃に顔を顰めて手でさする。盆の縁で叩かれたようで地味に痛い。

 

「おばちゃん」

「お店が落ち着いてきたからね。さて、ソウ君。きみにはやるべきことがあるだろ?」

 

 そう言って皿洗いをするよう促す。奏太は渋々それに了解し、奥へとはけていった。

 

「ごめんね。あの子根はいい子なんだけど、どーも色々否定的で」

「いえ、私の方こそちょっと熱くなっちゃいましたし・・・」

 

 いま思えば久しぶりだったかもしれないと笑い、弓美は器の中の具をかき混ぜる。

 

「ねえおばちゃん。奏太君は、いつからここで働いてるの?」

「そうだねぇ・・・もう一年経つか経たないかじゃないかしら。初めて逢った時は、彼のご両親のお葬式だったわ」

「え・・・?」

「・・・小さい頃にね。ノイズに家族を、ね」

「そう、だったんだ」

「それ以来、親戚の家を転々としてきたらしいんだけどどうも上手くいってなかったらしくて。それで私のところに来たってわけ」

 

 そんな経緯が、と響は振り返る。不機嫌そうに洗い物をする横顔は、どこか寂し気に見えた。

 

 

 

 

 

 ♬

 

 

 

 

「んじゃ、おばちゃん。俺上がるね」

「はいよ。気を付けて帰りな」

「うん。じゃ」

 

 店を出る頃には、もうすでに夕日が沈みかけていた。早く帰って、寝よう。明日は休みだし気晴らしに何かするのもいいかもしれないと考えながら、なけなしの貯金を切り崩して買ったバイクにまたがる。年齢制限ギリギリ、おまけに貯金もギリギリで買った為愛着もあるこの相棒でたまには遠出をしてみようとヘルメットをかぶり、キーを回す。エンジンを起動させ、ギアを入れてアクセルをひねる。ゆっくりとしたスピードから徐々に上げていき、やがて大通りにでる。春先で少し冷たい風が仕事でかいた汗を冷やすのが心地よい。しばらく走った後、赤信号で停車する。ふと、何気なくバックミラーを見ると、何やら見覚えのある影が見えた。

 

「・・・彼奴」

 

 何やら相当な剣幕で走っている。しかも、あの姿で。よくよく考えてみれば周囲に人の気配というものがないことに気が付く。まさか、避難指示を見逃してた?

 

「奏太君!」

 

 目が合った。声をかけられた。逃げよう。そんな方程式が瞬時に出来上がる脳内ですぐさまその場から去ろうとするも、そこにノイズが現れて道を塞ぐ。またこの展開かとタイヤを空転させ、踵を返すように車体を真後ろに向ける。

 

「ハァッ!」

 

 そして、背後では響の歌が聞こえる。しかし振り返ることなく、奏太は走り出した。今は逃げる、それでけを考えて。

 

  が、何か違和感を感じてチラリと後方を見る。

 

「って、なんでお前乗ってんだよ!?戦えっての!」

「巻き込んでゴメン、でも手伝って!」

「なんで俺が―――」

「約束があるの。とっても大事な、未来との約束。それを守りたいから、お願い。今回だけでいい。これっきりでもう、関わらないようにするからッ!」

「・・・ダァァッ、やりゃぁいいんだろやりゃぁ!」

 

 やけくそになりながらも再び方向転換。先ほど仕留め損ねたノイズが逃げたと、響がそのルートを指示する。そして、二人はノイズを追って郊外へ。

 

「見えたッ!」

「そら、よッ!」

 

 加速した状態からの急停止、所謂ジャックナイフと言われるテクニックで車体を急停止し、後輪が浮く。その反動を使い、響はノイズを蹴り抜いた。

 

「ハァ・・・これでいいんだな?」

「うん。ありがとう」

「・・・ん」

 

 そう言って、自分の後ろを指さす。

 

「急いでんだろ?ンな恰好で出歩くわけにもいかねーだろ」

「送って、くれるの?」

「今回だけだ」

 

 あの時、不器用と言ったのはどうやら間違いじゃないかもしれない。そう思いながら歩み寄ると。

 

「後ろッ!」

 

 響のすぐ後ろ、その異変に気が付いた奏太が声を上げる。まだ、ノイズが残っていた。そのことに気が付くのが遅れた響。攻撃をモロにくらってしまうかと思われた、まさにその時。突如放たれた斬撃がノイズを真っ二つに切り裂き、灰へと変えた。そこには、自身のギアを纏った風鳴翼の姿があった。

 

「戦場で気を抜いてはダメ。油断してはいけないと教えたはずよ」

「す、すみません・・・」

 

 こう見ると、つくづくテレビと印象が違う。二人の会話の様子をぼんやりと眺める奏太だが、何やら翼の様子がおかしくなったことに気が付く。具体的に言うと、響が言った、「奏さんの代わりになる」という言葉を聞いた時からだ。

 

 徐々に、彼女の中で何かが乱れ、歪んでいく。それを感じて奏太は車体から降りてヘルメットを取った。

 

「・・・?」

「一緒に、戦う・・・?」

「はいッ!」

「・・・そうね。なら、貴女と私。一緒に戦いましょうか(・・・・・・・・・・)・・・?」

 

 そう言って突如切りかかる翼。これには響も奏太も驚愕の色を隠せない。

 

「そんな、私そんなつもりじゃ・・・ッ!」

 

 そう、たしかに響にそんなつもりは微塵もない。だが、彼女の心中を察するにおそらくは先ほど言った言葉。「奏の代わり」というのが、翼の逆鱗に触れたのかもしれない。そう考える奏太には、それに至るだけの根拠があった。

 

「貴女が奏の代わり?ふざけないでッ!!」

 

 怒鳴りながら、剣を振るう。それを困惑しながらも必死にさばいてく響。普通なら、割って入って止めるべきだろう。自分には、それをできるだけの力がある。だが、そうもできないほどに、奏太は翼の心が理解できた。

 

  誰かの代わりなど、できない。できはしない。失った命は、代用などできないのだから。

 

「ちょ、翼さん・・・ッ!」

 

 やがて翼の気迫に圧された響が尻もちをついて倒れる。そして、翼は空中高く飛躍。そして、巨大な剣と共に降りてくる。

 

「もういい・・・もういいだろォ!!」

 

 走り出す。そして、戦う為の鎧を身にまとう。忌み嫌う、力を。

 

〘モジュレーション!〙

「変身!」

〘レッツプレイ、カノン!〙

 

 響の前に立ち、振ってきたそれに向かって剣を振りぬく。刃同士が接触した瞬間、ポーンという音がなり、翼の剣がまるで粘土細工で作られているかのようにボロボロと崩れて消えた。そして膝をつく奏太。肩で息をしている辺り、相当の負荷がかかっていたらしい。安否の為に声をかけようとする響だが、怒鳴り声を上げた奏太に委縮してしまう。

 

『アンタの気持ちは、わかる・・・けどな、それで命を奪っていい理由にはならねぇんだよッ!』

「なに・・・?」

『今のが当たってたら、コイツ、死んでたかもしれねぇ。そんなモンを人に向けて撃つことが、あんたのいう防人の使命だってのか?』

 

 そこで、ようやく冷静さを取り戻した翼。やりきれない、やるせない気持ちで握った拳が小刻みに震える。

 

「翼ッ!」

 

 後方で数台のエンジン音がして止まる。弦十郎が事の騒ぎを重く見て出てきたのだ。

 

「翼。おまえ・・・」

「わかってます。・・・・わかって、いますとも・・・ッ」

 

 そう言って、誰と目を合わせることもなく翼は緒川の運転してきた車に乗り込む。複雑な気持ちを抱く響を、降り出した雨が打ち付けた。

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