仮面ライダーシンフォギア   作:tubaki7

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第五話 前へ進むために、もう一度

「ん~・・・彼奴も中々頑固だよなあ。アンタもそう思わないか?」

 

 眠っている中、そんな声に問いかけられて目を覚ます。ラフな格好からは活発的な印象を受け、髪型と後頭部で手を組んでいる体勢からはさらにフランクな少女だなと思う。

 

「まあ、そうだな」

 

 とりあえずそう返事を返す。すると彼女は困ったものだと溜息をつき、バツが悪そうに組んでいた腕を解いて右手で頭をかいた。そもそもよく考えれば彼奴がああなった元々の原因はアンタでは?とツッコみを入れてやろうかと思ったが、それも野暮だと開きかけた口を閉じる。

 

 だが。

 

「カ~っ、それを言われちゃぁ流石になんも言えねーな」

 

 言葉にしてないのに、考えていることが見抜かれた。自身と同じ特異体質なんだろうかと警戒心を抱くも、彼女はそれすらもお見通しのようで二カッと笑う。この笑顔がなんとも腹立たしい。

 

「そうトゲトゲしなさんな。・・・ここは、言ってみりゃアンタの心の中。つまりは夢の中ってわけさ。だから別に喋んなくても考えてることが大体わかるんだ」

 

 そういうものなのかと心の中で呟く。そこで、ようやく気が付いた。

 

「ちょっと待て、ってことは俺もしかして死んだってことか!?」

「いや、死んでない。重症ではあるけどな。だからあたしとこうして会話ができる」

 

 ふわりと浮かんで普段よりも目線を高くする位置に彼女は滞空する。何かをタッチする仕草をすると、ここが所謂臨死体験をしている人間の観ている世界だとするなら、今モニターのようなものに映っているのは現実の世界だろうか。そこには、何かの施設の中、ベッドに横たわる自分の姿が。躰には無数の傷と、繋がれた線。傍らには心電図と沢山の機械、そして人。

 

「翼の絶唱を諸に受けたアンタはそのダメージで心肺停止と外傷を負ってすぐにこの二課管轄の医療施設に担ぎ込まれた。で、今は手術を終えて眠ってるってわけ。意識はかなり深いところに沈んでるみたいで、それが原因で、そのベルトが反応したってわけさ」

 

 説明しながら巻かれているベルトを指さす。にわかに信じがたいが、コレが絡んでいると言われるだけで信用できてしまうほど、もう毒されていた。次はその影響で女になる、なんて言われても信じてしまう自信がある。

 

  いや、なんだその自信。一人で漫才をやるくらいには、バカになっているらしい。

 

「ハハっ、面白いなアンタ。翼にもこれくらいのボキャブラリーがあってもいいと思うんだけどなぁ」

「・・・想像したらなんだかこれじゃない感がスゲーんだけど」

「言えてる。そんなの見たくない」

 

 いや言ったのそっちだろ。そう表情を変えるとまた笑う。よく笑う子だな、なんて思っているとそれを読んだようで「そうか?」と首を傾げた。

 

「お、今かわいいって思ってくれたのか?何だか嬉しいな」

「勝手に人の心ン中読むな。・・・って、ここがそもそも俺の心の中ってならそれも無理な話か。・・・あれ?」

 

 軽く混乱してると、画面が切り替わる。今度は廊下、休憩スペースのような場所で一人椅子に座り俯く見慣れた背中が映る。いつもは無駄に元気でうるさいぐらいの彼女が、今は目に見えて元気がない。昨夜のことは彼女にも精神的ダメージは相当なものだったのだろう。

 

「・・・伝えたいこと、一杯あんのにな。こうして考えていることが伝わればどんなにいいか」

 

そっと画面に触れてから拳を握る。そんな仕草だけで、彼女がどれだけやるせない想いでいるかを理解できる。もっと、もっと・・・。そんな感情の波が奏太に流れ込む。悲しさと悔しさ、後悔の念・・・。

 

 でも。それじゃダメだと、奏太は思考を処理するために俯いていた顔を上げる。

 

「伝わった・・・と、思う。ただ、それを受け入れたくないだけなんだ。受け入れたら、アンタの事が薄れてしまう気がしたから。アンタが死んだことを、自覚しちまうから。だから、強くなろうとすることで否定し続けてきた。そうすることで、目の前の現実から逃げてきたんだ。・・・俺と、同じように」

 

 受け入れるのが怖くて、逃げ出したあの日。両親の墓の前で泣くことも、向き合うことすらできずただ立ち尽くしていた自分。それからたくさんの悲しみと出逢い・・・最後には、自分からも逃げ出した。全ては、楽になりたかったから。傷つく事が、恐くて嫌だったから。

 

  でも。それでも。この小さな背中は今、それらと向き合おうとしている。自分の中に抱えた小さな傷(・・・・・・・・・・・・)から目を背けながらも、それでも彼女は向き合おうとしている。辛いのに。苦しいのに。それでも、たった一つの勇気を糧にして。笑顔で、前を見ようと踏ん張っている。

 

 あの時もそうだ。怯えて逃げようとする自分の手を取り、笑顔をくれた。酷い事を言ったのに、それでも変わらない笑顔を向けてくれた。そんなあの子に、自分は何ができるだろう?

 

「恐いから、辛いから、失いたくないから。そんな当たり前のことを言い訳にして、ずっと目を背けてきた・・・!」

 

 ―――ああ、そうか。

 

「逃げて逃げて、逃げまくって・・・でもッ」

 

  そうだった。

 

「たとえ逃げても、そっちの方がもっと辛い」

 

  あの時、気づいたんだ。

 

「だから・・・俺は・・・」

 

  大事なものは、ずっとそこにあったんだって。

 

 

 

 

 ♬

 

 

 

 

 何かが収縮して、伸びる。そんな印象を受ける音と、規則正しく鳴る電子音。浮上する意識を自覚しつつ、目を少し開けてみる。ぼやけた視界にまず入ってきたのは、強烈な光。そして次に嗅覚。薬品特有の鼻につく臭いだ。最後は大人たちの声。それには驚愕が混じり、慌ただしく動いているのが足音でわかった。

 

 扉がスライドする。まだぼやける意識の中、慌ただしい足音の中に混ざって聴こえてくる比較的軽い足音。そして、まるで遠くから全力疾走でもしてきたかのような息遣い。まだぼやける視界の中、光を遮り影を落とす。癖毛で、のぞき込む顔にはいつものあの暑苦しいまでの元気さはない。目じりに涙を浮かべ、儚げな笑顔で泣いている。笑いながら泣くとは、なんとも器用なことをする子だと笑うと、それが原因だったのか。堪えていたものが一気に溢れでたようで此方に縋るようにして顔をうずめてくる。正直若干痛いものの、今はその痛みを甘んじて受け入れた。

 

  閑話休題

 

「二週間!?」

 

 意識が戻り、検査をしてどこにも異常がないことをはっきりさせてからようやく面会を許されたので、今は事の経緯を翼のマネージャーである緒川と響から聞かされている。ちなみに目を覚ましたとの報告を聞き飛んできた緒川が医師からの報告を聞いて驚愕していたが、いったいなんだったのだろうか。そんなことを頭の片隅で考えていたときに言われた、二週間という言葉。それはすなわち、奏太が眠っていた期間を意味していた。ちなみに翼は奏太と比べ比較的軽傷であった為、現在は大事を取って検査を含めた入院中とのことらしい。

 

「もうホントに目が覚めないかと思ってヒヤヒヤしたよ」

「響さん、学校終わってからだけじゃなくて、休日も返上でずっと看病しに来てくれてましたよね」

「ちょッ、それは言わないでって・・・あ、あはは~」

 

 少し頬を赤らめて誤魔化すように笑う響。何をそんなに焦る必要があるのだろうか。

 

「・・・ありがとう」

「ふぇ・・・って、奏太君が、お礼を言った・・・!?」

「おう、ぶっ飛ばすぞコラ」

 

 そんなくだらない漫才をするくらいには回復している。さきほど来た医師によれば「異常な回復力」らしい。というか、絶唱というのはそんなにヤバいものなのだろうか?アレを口ずさみ始めてから感じとれた感覚では、たしかにヤバいとは思ったが。

 

「絶唱とは、ギアの出力を全開放して放つ、いわば捨て身の技なんです。装者にかかる負荷を度外視して、使用した後は・・・」

「・・・死んじゃうか、もう普通の生活さえままならなくなるほどの大けがを負うかのどっちかだって、了子さんが」

「そんな危ないもんを、彼奴は・・・」

「でもッ、翼さん言ってたよ?すまなかったって」

 

 そういうのは自分の口から言いに来い、と返す。そもそも不器用すぎるんだよあの頭でっかちはとぼやくと何故か緒川が微笑ましい目でみてきた。

 

「ごめんなさい。でも、ホント翼さんと似てるなって思って」

「そーか?」

「ええ。そうやって、遠巻きにでしか伝えたいことを伝えられないところとかそっくりです」

 

 そう言って再び笑う緒川。なぜだろう、この男には隠し事はできない気がすると奏太はムスッとなる。

 

「・・・って、なんでお前た不機嫌そうな顔すんだよ」

「え、私そんな顔してた?」

「ああ。こう、ぷくっと」

「あはっ、それじゃまるでフグ・・・って、誰がフグなのさ!?」

「いや誰も言ってねーから」

 

 他愛のない時間。こんな感覚はいつぶりだろうかと記憶の中を探る。多分、幼いころ以来。それこそ、ノイズなんてものとは無縁だと思っていた子供の頃以来だろう。

 

 ふと、響を見る。笑っている。その笑顔があまりにもまぶしくて、温かくて。ずっと見ていても飽きないほどに、その笑顔は魅力的だった。ただ、一つを除いては。

 

「・・・立花」

「なに?」

 

 言いかけて口を開くが、どう言い表していいのかわからずに口どもる。こういう時、あの夢の中で言っていたことを思い出した。

 

  ―――思っていることが伝われば、どんなにいいか。

 

 ・・・いいや、これは逃げだな。そうかぶりをふって見つめ返す。

 

「メアド、間違えて消しちまったみたいでさ。もう一回教えてもらえるか?」

「うん!えっとね・・・あ、私がやってあげるっ」

 

 まずは、ここから初めてみようと思う。些細なことだけど、それがいつか、大きな一歩になると信じて。

 

  夢の中で出逢った、よく似た少女が見せた、去り際の笑顔に。そう誓いながら、奏太は病室から見える青空を見上げた。

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